関連審決 | 審判1999-6850 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成17行ケ10673審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成12行ケ474審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成13行ケ49審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成13行ケ53審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成13行ケ50審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
関連ワード | 識別力 / 包装 / 役務の提供 / 識別機能 / 指定商品 / 指定役務 / 記述的商標(3条1項3号) / 普通に用いられる方法 / 3条2項 / 商標の同一性 / 立体商標 / 平面商標 / 立体的形状 / 中用件(33条) / 外観(外観類似) / 警告 / 差止 / 継続 / |
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元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
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事件 |
平成
13年
(行ケ)
446号
審決取消請求事件
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原告 サルヴァトーレフェラガモ イタリア エス. ピー.エー. 訴訟代理人弁護士 宮川 美津子 同 中村勝彦 訴訟代理人弁理士 稲葉良幸 同 内田 佐江子 訴訟復代理人弁護士 佐藤 真太郎 被告 特許庁長官及川耕三 指定代理人 涌井幸一 同 大橋良三 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/07/18 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が平成11年審判第6850号事件につき平成13年5月28日にした審決を取り消す。 (2) 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,平成9年4月9日,別紙審決書写し〔別掲〕記載の商標について,立体商標登録出願(平成9年商標登録願第104041号,以下「本願商標」という。)をした。指定商品は,第14類「貴金属,貴金属製食器類,貴金属製のくるみ割り器・こしょう入れ・砂糖入れ・塩振出し容器・卵立て・ナプキンホルダー・ナプキンリング・盆及びようじ入れ・貴金属製の花瓶・水盤・針箱・宝石箱・ろうそく消し及びろうそく立て・貴金属製のがま口・靴飾り・コンパクト及び財布,貴金属製喫煙用具,身飾品,宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品,時計,記念カップ,記念たて,キーホルダー」,第18類「皮革,かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ,かばん金具,がま口口金,傘,ステッキ,つえ,つえ金具,つえの柄,乗馬用具,愛玩動物用被服類」及び第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」である。 原告は,平成11年1月25日(送達日)に拒絶査定を受けた。 原告は,平成11年4月26日,上記拒絶査定に対する不服の審判を請求した。 特許庁は,これを平成11年審判第6850号事件として審理し,その結果,平成13年5月28日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年6月13日に,その謄本を原告に送達した。 2 審決の理由 審決は,別紙審決書の写しのとおり,本願商標が,その指定商品との関係では,金具又は飾りの形状の一形態を表示したものと認識されるにすぎず,本願商標は自他商品の識別標識としての機能を有さず,また,本願商標と同一と認め得る形状の金具等のみによって,需要者に強い印象・記憶を与え,かつ,需要者が何人かの業務に係る商品等であることを認識することができるに至っているとも認められないから,商標法3条1項3号に該当し,同条2項には該当しない,と認定判断した。 |
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原告主張の審決取消事由の要点
1 取消事由1(立体商標制度の一般的理解の誤り) (1) 審決は,「商品の機能又は美感に関わる形状は,多少特異なものであっても,未だ,商品等の形状を普通に用いられる方法で表示するものの域を出ないと解するのが相当である。」(審決書2頁25行〜28行),「商品等の機能又は美感とは関係のない特異な形状である場合はともかくとして,商品等の形状と認識されるものからなる立体的形状をもって構成される商標については,使用をされた結果,当該形状に係る商標が単に出所を表示するのみならず,需要者間において当該形状をもって同種の商品等と明らかに識別されていると認識することができるに至っている場合を除き,商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として,商標法3条1項3号に該当し,商標登録を受けることができないものと解すべきである。」(同頁33行〜3頁3行)との規範を定立している。 (2) しかし,審決は,立体的形状における,機能的形態の登録可能性の問題と,意匠的形態の登録可能性の問題とを区別していない。 機能的形態については,その機能を果たすためには,原則的に同様の形状にならざるを得ず,何人もこれを使用する必要があることから,一私人に独占を認めるのは相当でなく,多少特殊なものであっても,いまだ商標法3条1項3号に規定する,商品等(指定商品若しくはその容器又は指定役務の提供の用に供する物,以下「商品等」という。)の形状を「普通に用いられる方法で表示する」ものの域を出ないとする見解には,一理ある。これに対し,商品の意匠的形態においては,他に選択可能なデザインは多数存在するのであるから,独占の弊害を考慮する必要性は乏しい。 したがって,商品等の形状を「普通に用いられる方法で表示する」商標とは,商品の機能に基づいて合理的に構成すれば,通常はその形態に帰着せざるを得ないような形態を意味するものと考えるべきであって,そうでない商品等の意匠的形態については,広く商標登録を認めていくべきである。 (3) 被告は,平成7年12月13日工業所有権審議会「商標法等の改正に関する答申」(以下「本件答申」という。)や被告自身の運用基準を掲げる。しかし,審議会や特許庁が法令の解釈権限を有しているわけではない。 仮に,本件答申の立場を前提とするとしても,この答申においても,機能的形態と意匠的形態とを区別し,前者については,「機能的・不可避的な立体的形状からなる商標については,・・・使用により識別力が生じるに至った場合においてもなお不登録とするよう規定することが適当である。」(乙第1号証2枚目31行〜3枚目19行)とする一方,後者については「・・・指定商品やその容器の形状そのものである場合には不登録とするとの運用を厳しくする・・・」(乙第1号証3枚目20行〜22行)など,前者の登録可能性をより厳格に解すべきであるとしている。 米国の判例等においても,原則的に,機能的形態の登録は不可としつつも,意匠的形態の登録は可能であるとされている。 (4) 立体商標でない商標であっても,特に図形商標などでは,美感を重視する側面が強いものである。立体商標についてだけ,意匠的機能があるからという理由で,出所識別機能を限定的に解釈する必要はない。 平面的な商標であっても,理論的には意匠法の保護対象となり得るものであるから,商品の形状が意匠法の保護対象であることをもって,商標法の保護において平面的商標と立体的商標を区別することは不当である。 2 取消事由2(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り) (1) 本願商標は,商品の機能とは関係のない単なる意匠的形態であるから,商標法3条1項3号には該当しない。 (2) 仮に,立体商標についての審決の一般的理解が正しいとして,それを前提とするとしても,本願商標は,他の業者の製品と比較して,それ自体で自他商品識別機能を果たし得るような特異な形状をしている。 本願商標と似た形状の金具等を用いた製品が,市場に出回っていたということはない。 (3) 本願商標の形状は,指定商品そのものの形状として用いられ得るだけでなく,指定商品の一部分として,ワンポイントマーク的にも使用し得るものである。 現に,原告商品のうち,靴やかばん等に関しては,商品の一部分において,出所を示すシンボルマークのように使用されている。 すなわち,本願商標は,仮に被告の審査基準によるとしても,かばん等の指定商品との関係において,指定商品やその容器の形状そのものではないから,当該指定商品の形状を表示したものではないことになる。 以上のとおりであるから,本願商標は,商標法3条1項3号に該当しない。 3 取消事由3(商標法3条2項該当性の判断の誤り) (1) 本願商標と原告が使用している商標の同一性の要否 審決は,「出願に係る商標が商品の一部の立体的形状のみからなるものであるのに対し,実使用に係る商標が該立体的形状と文字,図形等の平面標章の場合には,両商標の構成は同一でないことから,出願に係る商標については,原則として使用により識別力を有するに至った商標と認めることができない。」(審決書4頁12行〜16行)としている。 しかし,そもそも,出願に係る商標が使用により自他商品の識別力を得たか否かを判断するに当たって,判断の根拠とする使用を,当該出願商標と同一の商標の使用に限定する理論的根拠はない。類似の商標であっても,使用された結果,当該商標自体が自他商品の識別力を獲得することも十分に想定できる。 (2) 原告による本願商標の使用 原告は,本願商標と同一の商標を,継続的かつ独占的に商品に使用してきている。 ア 原告は,昭和44年ころから,本願商標をかばん類等に使用している。 本願商標は,「ガンチーニ」の愛称を持つ商標である。原告は,日本においても,昭和47年ころから,本願商標を使用した各種かばん類等を継続的に販売し,昭和60年代以降,日本を含む世界各国で,本願商標を使用した「ガンチーニ ハンドバック」を販売している。また,本願商標を用いた貴金属(甲第5号証,第46号証,第54号証,第58号証,第64号証,第67号証,第71号証,第74号証,第76号証,第78号証,第79号証等),かばん類(甲第8号証,第13号証,第14号証,第18号証ないし第20号証,第22号証,第25号証,第27号証,第29号証,第31号証等),肩掛け部分の金具(甲第4号証,第71号証,第74号証)等も販売している。 本願商標と同一の形状をしている金具の近辺に,「ferragamo」の文字が使用されている商品もあるものの,その大きさは,当該金具に比して極めて小さく目立たないものである。需要者は,当該金具の形状そのものから商品の出所を推認する可能性が高い。 イ 原告は,莫大な宣伝広告費を投じて,宣伝広告を行ってきた。 原告の費やした宣伝広告費は,平成6年は2億0350万円,平成7年は2億5253万0919円,平成8年は3億6459万3095円,平成10年は5億5490万7000円,平成11年は6億9861万3000円,平成12年は7億2619万5000円である。本願商標を付した商品についての宣伝広告費は,そのうちの相当高い割合を占めている。 原告の商品の日本における売上高は,平成11年は128億9027万8000円,平成12年は128億5397万7000円であり,本願商標を付した商品の販売額はそのうちの相当高い割合を占めている。 (甲第3号証ないし第81号証) 以上のような宣伝広告,販売実績に加え,本願商標は独特の形状を有し,原告により独占的に使用されてきたことから,本願商標は,需要者に強い印象・記憶を与え,自他商品の識別力を備えるに至っている。 (3) 雑誌等による紹介 多数の雑誌において,本願商標と同一形状の「ガンチーニ」は,原告の「定番」,「トレードマーク」,「シンボル」等と紹介されており,自他商品の識別力を獲得していることが明らかである。 (甲第9号証,第10号証,第39号証,第55号証,第60号証,第61号証,第66号証,第69号証,第73号証,第75号証,第79号証) 被告は,「ガンチーニ」と称される金具等には,本願商標と同一のものもあるものの,異なるものも数種類あることを挙げて,識別されているのは,本願商標によってではなく,「ガンチーニ」と称される文字によってであると主張する。 確かに,「ガンチーニ」と称される金具には,本願商標の形状そのものではなく,それと同一の形状のものを2個対称になるようつなぎ合わせた形状も含まれる。しかし,それらは,いずれも,本願商標と同一の形状をその構成要素としており,いずれの形状においても,自他商品識別機能を有している。 (4) 原告による識別力確保のための対応 原告は,本願商標と酷似した商標を付した違法商品を発見した場合,警告書等を送付して当該違法商品の販売等を中止させるなど,本願商標の自他商品の識別力を維持するための努力をしてきた。 ア 原告は,株式会社ワシントン靴店(以下「ワシントン靴店」という。)が,本願商標に酷似した商標を付した商品を販売していたことを発見し,平成8年10月23日に警告書(甲第83号証の1及び2)を送付し,平成9年2月14日,当該商品の製造・販売禁止等を内容とする商標使用等差止仮処分の申立てを行った(甲第84号証)。 ワシントン靴店が,既に当該商品の製造・販売等を行っていないということであったため,原告は上記仮処分申立てを取り下げた。 イ 原告は,平成10年3月ころ,株式会社プレミック(以下「プレミック」という。)が,本願商標に酷似した商標を付した商品を販売している事実を発見し,同社に対し,平成10年4月2日,当該商品の広告・販売を中止すること等を求める警告書(甲第85号証の1及び2)を送付した。 その後,原告は,株式会社やました(以下「やました」という。)が,当該商品を製造し,プレミックに販売している事実を発見し,やましたに対し,当該商品の製造・販売の中止を求める警告書(甲第86号証の1及び2)を送付し,プレミックに対しても再度警告書(甲第87号証の1及び2)を送付した。 その後,プレミックは当該商品の広告・販売を中止し,やましたも原告の権利を侵害していたことを認めて,平成12年1月3日,今後当該商品を製造・販売しないことを内容とする和解契約を原告と締結した。 ウ 原告は,株式会社三宝(以下「三宝」という。)が,本願商標に酷似した商標を付した商品を販売していたことを発見し,平成13年3月28日に警告書(甲第89号証の1及び2)を送付し,同年4月24日に再度警告書(甲第90号証の1及び2)を送付した。 その結果,三宝は,原告の権利を侵害した事実を認め,今後は当該商品を製造・販売しないこと等を内容とする和解契約(甲第91号証)を原告と締結した。 |
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被告の反論の要点
審決の認定判断は正当であり,審決に原告主張の誤りはない。 1 立体商標制度の成立 立体商標保護を求める声が現実にあること,不正競争防止法においても,商品の形状について保護を認めている裁判例が多くあること,国際的にも立体的な商標を保護する趨勢にあることから,我が国においても,立体的商標が商標制度により保護されることとなり,平成8年法律第68号により,立体的形状若しくは立体的形状と文字,図形,記号等の結合又はこれらと色彩との結合された商標であって,商品又は役務について使用するものを登録する,立体商標制度が導入された。 この立体商標制度は,指定商品若しくはその容器又は指定役務の提供の用に供する物の形状(すなわち,「商品等の形状」)も含む立体的形状であって,商品又は役務について使用するものを登録する制度であり,平面商標と同様,自他商品・役務の識別機能を通して獲得される,商標を使用する者の業務上の信用を保護するためのものである。 この立体商標制度においては,@商標法により保護すべき立体商標は,商品若しくは商品の包装又は役務の提供の用に供する物の形状も含む立体的形状とし(商標法2条),A立体商標の登録要件について,需要者が指定商品若しくはその容器又は指定役務の提供の用に供する物の形状そのものの範囲を出ないと認識する形状のみからなる立体商標は登録対象としないことにし(同法3条1項3号),B立体商標の不登録の理由として,機能的・不可避的な立体的形状からなる商標については,使用による識別力を生ずるに至った場合においても,登録しないこととし(同法4条1項18号),C意匠権との抵触関係については,従来どおりとし,特許権,実用新案権との抵触関係についての調整規定を設けることとする(特許法72条,実用新案法17条,商標法29条,33条の2及び3),とされた。 2 取消事由1(立体商標制度の一般的理解の誤り)について (1) 前記のとおり,立体商標制度は,平面商標と同様,自他商品・役務の識別機能を獲得した商標を使用する者の,業務上の信用を保護するためのものである。 したがって,立体商標が保護されるためには,自他商品の識別標識としての機能を有していることが必要である。 そうである以上,商標法3条1項3号の,商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標は,需要者が指定商品等の形状そのものの範囲を出ないと認識する形状のみからなる商標を含むものというべきである。すなわち,指定商品との関係で,同種の商品が採用し得る立体的な形状に特徴的な変更,装飾等が施されたものであっても,全体として指定商品等の形状を表示したと認識するにとどまる限り,識別力を有しないというべきである。 現実に使用されていないような形状であっても,需要者がその商品又は役務の取引業界において採用し得る範囲での変更,装飾等と認識するにとどまる場合には,その立体商標の全体を観察しても指定商品等の形状の範囲を出ないものとみられるから,原則として識別性を有しない。 このような解釈がなされるのは,商品等の形状が,本来,その商品等の持つ機能を効果的に発揮させたり,その商品等の持つ美感を高めたりする目的で選択されるもので,本来的(第一義的)には,商品・役務の出所を表示し,自他商品等を識別する標識として採択されるものではないと,需要者により一般的に認識されるため,同種の商品等のものとして採用し得る範囲での変更・装飾は,機能・美感のためと把握され,その出所とは結び付けられないからである。 以上のとおりであるから,商品等の形状は,商品等の機能又は美感とは関係のない特異な形状である場合,あるいは,そのように特異な者でない形状については,使用により二次的に自他商品等の識別力を有するに至った場合に,初めて登録要件を満たすものである。また,仮に使用等によって識別力を具備したとしても,機能的・不可避的な立体的形状の場合は,公益的な要請から登録は認められない(商標法4条1項18号)。 (2) 原告は,立体的形状における機能的形態と意匠的形態とを区別し,後者は,前者に比べ,広く商標登録を認めていくべきであると主張する。 しかし,前記のとおり,商品若しくは商品の包装,役務の提供の用に供する物又は商品を構成する部品等商品の一部の形状は,本来商品それ自体の機能を効果的に発揮させたり,美感を高めたりなどの目的のために選択されるものであって,第一義的に商品・役務の出所を表示し,自他商品等を識別する標識として採択されるものではないから,基本的に識別標章たり得ないものである。したがって,商品等の形状は,それが商品等の形状と認識される限りにおいては,機能的形態であるか意匠的形態であるかにかかわらず,自他商品の識別機能を有しない。ただし,例外的にその使用により二次的に自他商品の識別力を獲得することがあり,その場合,登録要件を満たすことがあるのである。 本件答申は,仮に使用等によって識別力を具備したとしても,機能的・不可避的な立体的形状の場合は,公益的な要請から登録は認められないとして,使用等によって識別力を具備したものについては,機能的形態と意匠的形態とで扱いを異にすべきものとしている。しかし,識別力の獲得に基づく登録の可否において,機能的形態と,意匠的な形態とを区別し,前者をより厳格に解すべきであるとはしていない。 米国と日本の商標保護に関する法制は細部においておのずと異なるものであり,本願商標の登録の適否が,米国の判例等をもって,判断されるものではない。 (3) 原告は,立体商標でない商標であっても,特に図形商標などでは,美感を重視する側面が強いから,立体商標に意匠的機能があるからといって,平面的商標と比較して,出所識別機能を限定的に解する必要はない,と主張する。 しかし,前記のとおり,商品等の形状は,本来それ自体の持つ機能又は美感をよりよく発揮させるために選択されるものであり,本来的ないし直接的には意匠法など他の知的財産制度で保護されるべきものであり,それを,当初から自他商品を識別する標識として採用される平面的な商標と同視することはできない。 識別力の有無の観察は,問題となっている商標が,その指定商品に使用された場合に,需要者がどのように認識するか,という観点に立ってなされるべきものであり,このことは,平面的な商標であれ,立体的商標であれ,差異はない。審決もこの点で両者を区別してはいない。 3 取消事由2(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)について (1) 原告は,本願商標は,商品の機能と関係のない単なる意匠的形態であるから,商標法3条1項3号に該当しないと主張する。 しかし,本願商標は,仮に商品の機能と関係のない意匠的形態であるとしても,後記のとおり,それ自体で自他商品の識別標識としての機能を果たし得るような特異な形状はしていない。 (2) 本願商標の特異性 ア 本願商標は,「靴飾り,かばん金具等」の商品の一部分の立体的形状と認められるものである。その形状は,ギリシャ文字の「Ω(オメガ)」の,やや広く開けた開口部をその両端外側に短く伸びた直方体と同一幅の直方体で閉じて円環状としたものであって,何ら特徴のない比較的簡単な形状より成るといい得るものである。その指定商品との関係,例えば,「かばんの留め金」における「留める,つまむ,起こす,押す。」等の動作に対応する機能性や商品の一部分としての装飾性との関係において,前記の円環状の形状とすることは,通常予想される選択の範囲を出ないものである。したがって,本願商標は,それ自体で自他商品の識別標識としての機能を果たし得るような特異な形状をしているものとはいえない。 イ 原告は,本願商標を構成する立体的形状と同様の形状を付属金具や飾りとするものは市場に出回っていないから,本願商標が,自他商品の識別力を有するような,特異な形状であると解することに何ら妨げはない,と主張する。 しかし,審決時には,原告以外の者が製造・販売する「靴,かばん」等であって,本願商標を構成する立体的形状と同様の形状を有する金具飾りを,「靴,かばん」等の一部に採用するものが市場に出回っていた,と推認することができる(甲第3号証,乙第4号証)。 ウ 本願商標に係る形状や装飾等が施された商品と同一のものが市場に実際に存在しなくても,また,相対的には外観上特徴的な形状から成るものと認められるとしても,その商品の取引業界において,需要者によって,その種の変更,装飾等が採用され得るものと認められれば,自他商品の識別機能を有していないものというべきである。本願商標は,前記のとおり,指定商品,例えばかばんの留め具における「留める,つまむ,起こす,押す。」等の動作に対応する機能性や,商品の一部分としての装飾性において,通常予想される選択の範囲を脱した予測し難い特異な形状とはいい難く,需要者をして,金具や飾りの一形態として認識させるものである。 したがって,本願商標に接した需要者は,これを指定商品の形状の範囲を出ないものと認識するというのが相当であり,本願商標の形状それ自体が自他商品の識別標識としての機能を有しているとはいえない。 (3) 原告は,靴やかばん等に関しては,本願商標は,商品の一部にワンポイントマーク的に用いられるものであり,意匠的機能より,出所識別的機能が強く発揮されている,と主張する。しかし,被告が例として挙げるような,ポロシャツの胸部に付される標章が,その使用態様によっては,装飾的,意匠的なものを超えて,商標として自他商品の識別力を備えることがあるとしても,本願商標をそのようにとらえなければならないとする事情はうかがえない。 (4) 原告は,被告の運用基準が問題にしている立体商標と本願商標は本質的に異なり,審決は,問題となる商標が,商品の全体的形状に関するものであるか否かの差異を看過している点において,不当である,と主張する。 しかし,審決は,商品の全体に係る形状か,あるいは機能的又は装飾的な部分としての形状かを看過して判断しているわけではない。審決は,本願商標が,かばん類等の金具等に使用されても,需要者は,単に商品の形状の一形態を表示したものと認識するにすぎない,あるいは,商品付属物の多種多様なデザイン,形状の一形態を表示したものと認識するにすぎない,としているのである。 指定商品の相当多くの部品や付属品が,「ワンポイントマーク的に使用し得るもの」といえなくもないものであり,これらがすべて自他商品の識別力を有するというわけではない。 商品の一部に用いられている形態・デザイン等が,商標になるか否かを,指定商品の取引実情を離れて議論することはできない。 4 取消事由3(商標法3条2項の該当性の判断の誤り)について (1) 原告は,出願に係る商標が使用により自他識別力を取得したか否かを判断するに当たっては,当該商標と同一の商標の使用状況だけではなく,類似の商標の使用状況も考慮に入れるべきである,本願商標と同一のものに限っても,広く使用されている,「Ferragamo」の文字が使用されていても,その文字の大きさは,金具に比して極めて小さく,目立たないから,需要者は,当該金具の形状そのものから原告商品の出所を推認する可能性が高い,と主張する。 (2) 商標法3条2項は,本来的に自他商品の識別力のない商標が特定の商品等に使用された結果,自他商品の識別力を有するに至った場合に適用する規定である。同法3条1項3号に該当する商標は何人も使用を欲する表示であり,一私人に独占させることは妥当ではないから,同商標に商標法3条2項を適用する場合は,厳格に解釈し適用しなければならない。そうである以上,商標法3条2項の適用に当たっては,使用により自他商品の識別力を備えた商標と出願に係る商標とは,原則として同一であって,かつ,指定商品も同一でなければならないというべきである。 以上のとおり,商品等の形状のみからなる立体商標が,使用により識別力を有するに至っていると判断されるのは,実際に流通している商品に商標として使用されている文字,図形等の標章を離れて,その商品等の形状部分のみが,使用による識別力を有するに至っている場合である。 (3) 原告が,その商品に使用している金具等のうち,本願商標と同一の形状といい得るものは,婦人用バッグの留め金具が主なものであって,その他の,例えば靴の甲に付された飾り金具や,バッグの手紐と本体をつなぐ係止金具等については,2個の「Ω(オメガ)」状の形状の金具を開口部で対称するように合わせ,その開口部を角丸の直方体で閉じるように複合した眼鏡状の一体的な形状のものであり,本願商標と同一のものではない。 (4) 本願商標と同一といい得る,婦人用バッグの留め金具部分には,これと対をなす「かぶせふた」の金具に,筆記体風の「Ferragamo」の文字が刻印されており,また,婦人用バッグの広告記事にも,筆記体風の「Salvatore Ferragamo」,「FERRAGAMO」及び「フェラガモ」等の文字が併記されている(甲第3号証ないし甲第79号証)。 仮に,需要者が,本願商標にかかる金具の形状によって購買意欲を起こすことはあるとしても,これに比して文字が小さいからといって,需要者がそこに付された文字商標に着目せず,本願商標の形状のみをとらえて商品の出所を認識するとはいえない。「Ferragamo」,「Salvatore Ferragamo」,「FERRAGAMO」及び「フェラガモ」の文字が「婦人用バック」等の需要者に広く認識されている商標であるとすると,需要者は,当該文字商標に着目して,当該商品の出所を認識するものである。 原告商品における自他商品の識別は,上記の文字商標によりなされており,需要者が,婦人用バッグの部品の一部にすぎない留め金具に注意を払い,その形状のみを見て出所を認識し,購入するとは認められない。 (5) 原告が,本願商標を使用していることの立証をしているのは,本願商標の指定商品すべてについてではなく,その一部についてにすぎず,他の部分については,立証していない。 (6) 原告の商品が,日本において昭和47年ころから販売され,その一部に本願商標と同一といい得る形状の金具等が使用され,また,その販売高や広告宣伝費が原告主張のとおりであったとしても,その販売高や広告宣伝費は商品の一部である金具そのものではなく,「婦人用バッグ,婦人靴」等の商品に関するものであるから,これから直ちに,本願商標が自他商品の識別力を有するに至っているものと認めることはできない。 (7) 原告は,本願商標が自他商品の識別力を既に獲得していることは,雑誌等における記載内容からも明らかである,本願商標と同一の「ガンチーニ」のみによって,需要者に強い印象,記憶を与え,かつ,需要者が原告の商品であることを容易に認識できるに至っている,と主張する。 しかし,「ガンチーニ」と称される金具等には,本願商標と同一のものもあるものの,異なる形状のものもあり,「ガンチーニ」によって特定されるものが,本願商標の形状に限定されるとはいえない。むしろ,これらの金具等は,「ガンチーニ」の文字によって識別されているものである。 (8) 原告は,本願商標の自他商品識別機能を維持するため,適切な対応を積極的に行っていると主張する。 しかし,原告主張のような警告書の送付や和解の事実が認められるとしても,これらは,原告を含む特定の当事者の認識を示すにすぎず,本願商標が自他商品の識別力を獲得していることの証左となるものではない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(立体商標制度の一般的理解の誤り)について (1) 立体商標制度は,商品若しくは商品の包装,役務の提供の用に供する物の立体的形状であって,自己の業務に係る商品又は役務について使用をするものを商標として登録して保護しようとするものであり,商標の持つ自他商品・役務の識別機能を通して,業務上の信用の保護を図るためのものである(商標法2条,3条)。 商品の立体的形状は,本来,その機能を効果的に発揮させる,あるいは優れた美感を看者に与える,との目的で選択されるものであって,商品の出所を表示し,自他商品を識別する標識として選択されるものではなく,これに接する需要者も,そのように理解し,商品の出所を表示するために選択されたものであるとは理解しないのが一般であるというべきであるから,商品等の機能又は美感とは関係のない特異な形状である場合を除き,基本的に自他商品の識別標識とはならないと解すべきである。 このことを前提にすると,立体商標における,商標法3条1項3号の商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標とは,それに接した需要者が指定商品等の形状そのものの範囲を出ないと認識する商標をいうものと解すべきである。なぜなら,前記のとおり,商品等の立体的形状は,第一に商品の機能・美感のために採用されるものであり,これに接する需要者もそのように理解するものであるから,その商品の機能・美感と関係のある非特異な形状であって,需要者が指定商品の形状そのものの範囲を出ないと認識するものは,需要者によって,商品の出所を表示するために選択されたものであると理解されることがないのが一般であるからである。 (2) 原告は,立体的形状における機能的形態と意匠的形態とを区別し,後者においては広く商標登録を認めていくべきであると主張する。 しかし,機能的形態であっても,当該商品等の機能を確保するために不可欠なものを別にすれば(商標法4条1項18号参照),商品等のどの機能を重視するか,機能をどの程度高めるかで,種々の形態が考えられ,その中での選択の余地は十分あるから,原告のいう選択可能性の点で,意匠的形態との間に,商標として認めるか否かの扱いを異にするのを正当化するほどの相違がある,と認めることはできない。機能的形態は,その実現すべき機能の種類,程度から,意匠的な形態より選択できる幅がより狭いということがあるとしても,それは結局機能的な形態はその機能を離れて特異な形態が取りづらいということに帰着するから,結局この特異性に着目すれば足りるものである。 そもそも,立体商標を含め商標を保護する根拠は,それが有する自他商品の識別標識としての機能にある。機能的形態はこの機能を獲得しにくく,意匠的形態は獲得しやすい,という関係があるとは,認めることができない。 現行法も,立体商標の登録要件について,商品等の機能を確保するために不可欠なものを除き(商標法4条1項18号),これを機能的形態か意匠的形態かで区別していない。 (3) 原告は,商標法の保護において平面的商標と立体商標を区別することは不当であると主張する。 しかし,前記のとおり,商品等の立体的形状は,その機能・美感の発揮を第一の目的として選択されることが通常であるから,出所を表示することを第一の目的として選択され,これに接する需要者もそのように理解するのが一般である,平面商標と同一視することはできない。このような立体的形状が第一義的に果たす機能・美感については,制度上,本来,それぞれ特許法・実用新案法,意匠法で一定期間に限り保護が与えられ,その後は何人も自由に使用することが認められるべきものとされているのであるから,商標登録して,これに半永久的な保護を与えるには,慎重でなければならないのは当然だからである。 2 取消事由2(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)について (1) 本願商標の形状 本願商標は,ギリシャ文字の「Ω(オメガ)」のやや広く開けた開口部を,その両端外側に短く伸びた直方体と同一幅の直方体で閉じて円環状としたものであって,極めて簡単な形状であり,一定の美感を有するとはいえ,格別特異なものであるとは認められない。 (2) 本願商標は,かばん等の留め具として使用されるときは,「Ω」の形状の下端の直方体部分が,かばんの胴体部分そのものないしそれに接着している金具に取り付けられ,円環部分は,上端部分が丸みを帯びていることにより,蓋部分に取り付けられている金具の長方形状の中空部分を円滑に通過でき,さらに,直方体部分の長手部分を軸として回動することにより,円環部分を下に倒して,かばんの蓋部分を胴体部に容易に固定することができる。 かばんの取手をかばん本体に取り付ける部品として使用する場合,直方体部分に,かばん本体の取付け用の金具ないし皮を,円環部分の上部に革製の取手を取り付けることができる。 バングル(腕輪)として用いる場合,直方体部分にベルトを取り付け,そのベルトの反対側にフック状の部品を取り付け,このフックを円環部分に引っかけて腕輪とすることができる。 このように,本願商標の形状は,留め具等としての機能に密接に関係している。また,これをネックレスの部品として用いる場合,円環状となっていることは,その部品としての機能を考えた場合,ごく当たり前の形状である。 (甲第3号証,第19号証,第24号証,第29号証等) (3) 上記のとおり,本願商標は,形状としては極めて簡単であること,また,指定商品等に用いられた場合に果たす機能や,発揮する美感を考慮すると,その形状は,機能や美感と関係のない特異な形状ではないと認めることができる。 (4) 原告は,本願商標は,ワンポイントマーク的に用いられるもので,かばんや靴等については,指定商品やその容器の形状そのものではない,と主張する。 本願商標が,かばんや靴の形状そのものではないことは明らかである。 しかし,本願商標は,かばんや靴の一部品(留め具,飾り)として用いられた場合,需要者にとって,その使用形態に従い,正にその留め具や飾りとして認識されるものであり,また,前記のとおり,それ自体特異な形状ではないから,結局単にかばんや靴の一部分として認識されるものと認められる。そして,審決は,貴金属製のかばん金具,同靴飾りとして用いられた場合,単に商品の形状の一形態を表示したものと認識するにすぎないと認定判断しており,それに誤りはない。 原告は,衣服等の他の商品の一部として本願商標が用いられた場合を挙げているが,審決はそれを理由として商標法3条1項3号の該当性を判断しているものではないから,主張自体失当である。 (5) 以上から,本願商標を,商標法3条1項3号に該当するとした審決の認定判断に誤りがあるとは認められない。 3 取消事由3(商標法3条2項の該当性の判断の誤り)について (1) 原告は,本願商標と同一でなく,これに類似するにすぎない商標であっても,それが使用された結果,自他商品の識別力を獲得した場合,商標法3条2項の登録要件を満たす,と主張する。 前記のとおり,立体商標が保護されるのは,自他商品の識別力を獲得したことにその根拠があるから,類似の商標の使用によりそれが自他商品の識別力を獲得し,ひいては当該商標も自他商品の識別力を獲得する,ということは十分考えられる。ただし,その場合でも,実際に使用された商標と,当該商標との関係が具体的に吟味されなければならないのは当然である。両者の形状や使用態様等の具体的な検討をせずにする議論には,実益はない。 (2) 原告は,本願商標そのもの,あるいはそれを一部分として用いたアクセサリー,かばん,靴等を販売しており,それらの商品総体の宣伝広告費,販売高は相当多額であって,原告の商品はいわゆる高級ブランドとして著名である。 しかし,原告の販売した商品中には,本願商標のうち「Ω」の直方体部分,あるいは円環部分にかぶせる金具に,「Ferragamo」の文字が刻印されているものがあり,また,靴等では,商品自体に「FERRAGAMO」等の文字が表示されているものもある。さらに,雑誌の記事等でも,原告の商品は,「Salvatore Ferragamo」,「FERRAGAMO」及び「フェラガモ」等の名称が付されて紹介されている。 (甲第3号証ないし第81号証) (3) これらの事実に,本願商標が極めて簡単なものであることを併せ考慮すると,需要者が,本願商標と同一ないしこれと類似した金具・飾り等のみに着目して,原告製品を識別すると認めることはできない。 原告は,上記の金具に刻印された文字は小さく,注意を引かないものであると主張する。しかし,原告製品は,そのデザイン,素材の良さ,造りの丁寧さ等から,高級ブランドとして高い人気を誇っており,需要者はその細部にまで注意を払って製品を選択するものと推認され,上記刻印された文字も,隠されて表示されているものではないから,それが多少小さいからといって注意を引かないとは認められない。 (4) 原告は,本願商標と同一ないし類似する形状を「ガンチーニ」(イタリア語で留め具(フック)を意味する。)と称しており,それがある程度知られていることは認められる(甲第3号証,第6号証,第69号証等)。 しかし,前記甲号証の雑誌記事は,あくまで「フェラガモ」の「ガンチーニ」として紹介されていると認められ,本願商標の形状それ自体が,自他商品の識別力を獲得しているとは認められない。 また,「ガンチーニ」と称されているものの中には,2個の「Ω(オメガ)」状の形状の金具を開口部で対称するように合わせ,その開口部を角丸の直方体で閉じるように複合した眼鏡状の一体的な形状のものや,これを多数組み合わせてチェーン状としたものもあり,これらは一体となって,本願商標とはまた異なった美感・印象を与えていると認めることができる。さらには,皮革状に型押ししたものも,「ガンチーニ」と称されている(甲第70号証,第79号証)。 「ガンチーニ」の名称が著名であるとしても,これにより本願商標が当然に想起されるものとは認められない。 (5) 原告が,本願商標と同一ないし類似する形状の金具や飾りを付した商品を宣伝し,その販売額が相当多額であることは認められる。しかし,本願商標は,その機能・美感と無関係な特異な形状ではなく,指定商品等の形状そのものの範囲から出る形状とは認められないこと,「ferragamo」等の文字とともに用いられることが多いことからは,上記宣伝・販売の事実をもってしても,本願商標が自他商品の識別力を獲得したとは認められない。 また,本願商標の使用差し止めについて,原告が積極的な行為をし,和解等によりこれと同一ないし類似する商品の販売等をやめさせた事実があるとしても,これは基本的に特定当事者間の合意の問題であり,これを,本願商標が自他商品の識別力を獲得したとの事実を認める資料として重視することはできない。 (6) その他,本件全証拠を検討しても,本願商標が自他商品の識別力を獲得したとの事実を認めることはできない。 (7) 以上のとおりであるから,本願商標が,使用により自他商品の識別力を獲得したことはなく,商標法3条2項の登録要件を満たさないと認定判断した審決に誤りがあるとすることはできない。 4 結論 以上によれば,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく,その他,審決には,これを取り消すべき瑕疵は見当たらない。そこで,原告の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担,上告及び上告受理の申立てのための付加期間について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,96条2項を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山下和明 |
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裁判官 | 設樂隆一 |
裁判官 | 高瀬順久 |