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関連ワード 包装 /  出所表示機能 /  周知性 /  通常使用権 /  専用使用権 /  国内 /  警告 /  差止 / 
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事件 平成 13年 (ネ) 23号 損害賠償等請求控訴事件

控訴人(第1審原告) 株式会社コスモビューティー
控訴人(第1審原告) 株式会社モクケン
控訴人ら訴訟代理人弁護士 村林隆一
同 井上裕史
補佐人弁理士 山田 威一郎
被控訴人(第1審被告) 株式会社ジェー・ピー・シー
訴訟代理人弁護士 渡邊敏
訴訟復代理人弁護士 楠元和貴
裁判所 大阪高等裁判所
判決言渡日 2002/07/10
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は,控訴人らの負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨等
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人株式会社コスモビューティーに対し,200万2040円及びこれに対する平成9年5月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被控訴人は,控訴人株式会社モクケンに対し,94万4000円及びこれに対する平成9年5月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被控訴人は,日本経済新聞全国版朝刊及び通販新聞に原判決添付別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告を同目録記載の条件でそれぞれ1回掲載せよ。
5 仮執行宣言
事案の概要
原判決11頁4行目「三 争点」の次に改行の上,「1 被控訴人が控訴人らに対して行った本件警告及び広告掲載の法的根拠」を加えて,以下の項目番号を順次繰り下げ,同8行目「仮に、1が認められる場合」を「仮に、2が認められる場合」と改めるほかは,原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」(3頁7行目から11頁9行目)のとおりであるから,これを引用する。
争点に関する当事者の主張
次のとおり,原判決を付加,訂正し,当審における主張を追加するほかは,原判決「事実及び理由」の「第三 争点に関する当事者の主張」(11頁末行から33頁9行目まで)のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決の付加,訂正 (1) 11頁末行「争点1」を「争点2」と,30頁2行目「争点2」を「争点3」と,31頁10行目「争点3」を「争点4」と各改める。
(2) 12頁3行目「出口商品」の次に「檢驗局」を加える。
(3) 29頁1行目「乙八七」を「乙八七の1、2」と,33頁1行目「四万八〇〇〇円」を「三万六〇〇〇円」と,「48,000」を「36,000」と,同2行目「一四万四〇〇〇円」を「一〇万八〇〇〇円」と,「144,000」を「108,000」と各改める。
2 当審における主張の追加 (1) 争点1(被控訴人が控訴人らに対して行った本件警告及び広告掲載の法的根拠)について 【控訴人らの主張】 ア 被控訴人が控訴人らに対して控訴人らが輸入販売していた「迷奇」が偽造品であるというためには,その法的根拠が必要である。しかし,当時,被控訴人は,北京亜美との間で独占的販売契約を締結していたというにすぎない。およそ,独占的販売契約とは,被控訴人と商標権者との債権的な契約であり,商標権者が被控訴人以外の者に本件商標を使用した商品を販売することが独占的販売契約に違反するとしても,それは被控訴人と商標権者との契約違反が存在するだけであって,そのことによって,被控訴人が商標権者以外の者に,それが侵害品であるとか,偽造品であるといえるものではない。
イ また,被控訴人が控訴人らに対し,独自の立場で商品等表示の使用差止めを請求する法律上の根拠は全くない。すなわち,不正競争防止法3条1項に基づく差止請求権が認められるためには,周知表示が差止請求権者自身の商品等を表示するものとして周知であることが必要であるところ,被控訴人は,甲1が作成されるわずか3か月前の平成8年6月21日に北京亜美との間で独占的販売契約を締結したにすぎず,それ以前は,控訴人らを含む多数の会社が北京亜美の製造販売する商品「迷奇」を我が国に輸入し販売していたことにかんがみると,「迷奇」との表示が,甲1の作成された平成8年9月24日の段階で,被控訴人の商品等表示として需要者に広く認識されていたとは考えられない。また,被控訴人は,北京亜美が中国において製造販売する商品を我が国に輸入し販売していたにすぎない者であり,「迷奇」との表示について新たな出所表示機能を付加したり,自己のために新たな信用を創造したという事実もない。すなわち,被控訴人は,同法3条1項に基づく差止請求権を自らの立場で行使する権利を有していたとはいえない。
ウ 被控訴人は,「迷奇」の商標に関する独占的通常使用権の行使として,控訴人らに対する警告等を行った旨主張するが,独占的通常使用権は,現行商標法上規定された権利ではなく,ただ単に通常使用権契約において,商標権者に対し,受忍と協力を求めることができる対人的権利にすぎない。したがって,独占的通常使用権者は,商標権者に対して,その違反をもって損害賠償請求権を行使することはできるが,第三者である控訴人らに対してかかる権利は発生しない。
また,独占的通常使用権は,商標権の使用権である以上,北京亜美が我が国において「迷奇」の商標権を取得した日(平成8年11月29日)以前に取得することはあり得ない。また,北京亜美が商標権を有していない段階で,被控訴人が北京亜美と独占販売権契約を締結したからといって,第三者である控訴人らに対してかかる警告等をする正当な権利が発生するものではない。すなわち,差止請求権がないのに,虚偽の商品であるという警告等をすることは許されない。したがって,被控訴人が同年6月21日に独占的通常使用権を取得したとの被控訴人の主張は失当である。
仮に被控訴人が上記の権利を取得したとしても,債権者代位権を行使するためには,被控訴人が北京亜美に債権を有していて,その債権の行使が自己の債権を保全するため必要な場合に限られている。ところが,被控訴人の主張する独占的通常使用権とは,単に被控訴人が北京亜美に対して,本件商標を独占的に使用せしめることを要求する債権的な権利にすぎないのであり,決して物権的な権利ではない。したがって,被控訴人がその使用権を保全するために第三者である控訴人らに対して,かかる行為を要求する権利はない。また,被控訴人が代位権を行使できるとしても,北京亜美の控訴人らに対して行使する権利は商標権でなければならないのであり,不正競争防止法上の権利を代位行使することはできない。さらに,債権者代位権の行使は,債権者自ら権利行使しない場合に限り許されるのであって,商標権者である北京亜美が自らの商標権を行使している以上,被控訴人が北京亜美の権利を代位行使し得る根拠は存在しない。
【被控訴人の主張】 ア 被控訴人は,北京亜美と平成8年6月21日に独占的な販売契約を締結したが,その契約の第1項に,北京亜美は,被控訴人の日本市場における迷奇商品の独占販売権を許諾し,被控訴人は唯一の正規販売店となったものである。また,被控訴人は,北京亜美の有する商標権を北京亜美に代わって行使できると規定している。この規定は,被控訴人の本件商標権に対する独占的通常使用権を前提とした規定である。したがって,北京亜美が本件商標を付した偽造品の妨害排除請求権を有する以上,被控訴人は,上記契約第1項に基づき,北京亜美の控訴人らに対する妨害排除請求権を代位行使できる立場にある。
イ 北京亜美の「迷奇」という商標は,化粧品において,当時から日本国内で第5位にランクされる有名商標であり,被控訴人が甲1により控訴人らに対し使用差止めの警告を発したときは,不正競争防止法2条1項の需要者間に広く認識されていた商標であった。
ウ 甲1,3ないし6の各警告書等作成当時,被控訴人は,いわゆる未登録商標の独占的通常使用権者であったから,控訴人らに対し,差止請求ができないとしても,損害賠償請求ができることは明らかである。
(2) 争点2(営業妨害行為)について 【控訴人らの主張】 外箱裏側の点在模様や容器の底部の「迷奇」の刻印が,経験則上,製造業者が偽造防止のため施す措置であると推認することは,一般論として,日本のような先進国においては首肯できる。
しかしながら,北京亜美は,未だ発展途上にある中国の企業であり,これら内容器及び外箱を外注により入手しており,かつ,外注先の業者も変遷している。それに伴い,内容器や外箱については,微妙な変化・異同があるのであり,北京亜美自身がこのような不統一等を認めている。
また,控訴人らが,わざわざ偽造品等を取り扱う理由も必要性もないから,控訴人らの取り扱っている「迷奇」はすべて真正品である。
【被控訴人の主張】 点在模様は,被控訴人側で中国に要望して制作させたものである。また,刻印も偽造防止のためのものである。北京亜美は不統一な容器や包装の存在について否定している。
(3) 争点3(被控訴人の故意,過失)について 【控訴人らの主張】 被控訴人が本件商標権について専用使用権の設定登録を受けたのは,平成9年(1997年)5月12日であるが,被控訴人が指摘する控訴人らの商品販売行為は,別紙侵害品目録「証拠品入手日先」欄記載のとおり,いずれも上記登録前の行為であり,被控訴人が専用使用権を取得する以前の行為である。したがって,本件商標権について,専用使用権を取得する以前に,通告書を発送し,広告をする被控訴人の行為こそが違法であり,被控訴人に過失がないとはいえない。けだし,被控訴人に専用使用権がないことは被控訴人自身も知っていることであり,また,独占的販売契約のみによって,第三者に侵害呼ばわりすることができないことも明らかであるから,被控訴人は過失責任を免れない。
【被控訴人の主張】 乙38,40の記載から,控訴人ら側の商品が偽造品として判断されても仕方がない状況があり,かかる状況は,被控訴人の無過失を基礎づけるものである。
当裁判所の判断
1 争点1(被控訴人が控訴人らに対して行った本件警告及び広告掲載の法的根拠)について 被控訴人は,引用に係る原判決「事実及び理由」中の第二の一3(以下「同3」などと記載する。)のとおり,平成8年6月21日,北京亜美との間で,北京亜美が被控訴人に対し,日本市場における「迷奇」の独占販売権を許諾し,被控訴人が唯一の正規販売代理店となること,被控訴人は北京亜美の有する商標権を北京亜美に代わって行使できることなどを内容とする本件独占販売契約を締結した。
そして,同4のとおり,北京亜美は,平成8年11月29日,我が国において「迷奇」の商標登録をし,本件商標権を専有するに至ったから,本件警告及び広告掲載のうち,同日より後に行われたもの,すなわち,同5(二)ないし(五)の通告等に関しては,被控訴人が,本件独占販売契約に基づき,本件商標権の侵害行為に対する対抗策として,北京亜美の本件商標権による差止請求権を代位行使したものであるといえる。
また,本件警告及び広告掲載のうち,北京亜美の我が国における本件商標登録よりも前である平成8年9月24日に行われた同5(一)の通知に関しても,同1,2の事実によると,当時,北京亜美が製造販売する化粧品「迷奇」の表示は,既に我が国の国内において需要者の間に広く認識され,周知性を取得していたものと認められる。したがって,北京亜美は,これと同一の「迷奇」の商品表示を使用した商品を販売する者に対し,不正競争防止法3条1項に基づく差止請求権を行使することができるから,被控訴人は,本件独占販売契約に基づき,北京亜美が有する上記差止請求権を北京亜美に代わって行使することができるというべきである。
けだし,本件独占販売契約における前記条項(第1項)は,北京亜美が我が国における本件商標登録を行う以前でも,かかる不正競争防止法上の権利を被控訴人が北京亜美に代わって行使することを容認する趣旨を含むものと解される(前記契約条項の内容からすると,被控訴人が北京亜美を代理することを容認する趣旨も含まれると解される。)からである。
なお,同5(一)の通知中,控訴人コスモの広告の背景写真が被控訴人のものと同一であることを指摘する部分は,被控訴人の広告の背景写真(乙49の1・2,被控訴人代表者及び弁論の全趣旨によると,株式会社世界文化フォトの有するオリジナル写真「桂林山水奇峰群」の一つに被控訴人が色調調整を行った二次的著作物と認められる。)に関し,被控訴人自身が有する著作権(二次的著作物の複製権)の侵害を指摘するものといえる。
控訴人らは,本争点に関し,被控訴人が本件警告及び広告掲載を行う正当な法的根拠を有しない旨るる主張するが,いずれも採用することはできない。
2 争点2,3に関する当裁判所の判断は,以下のとおり,付加,訂正するほかは,原判決「事実及び理由」中の第四の一,二(33頁末行から75頁10行目まで)のとおりであるから,これを引用する。ただし,33頁末行の「争点1」を「争点2」と,70頁4行目の「争点2」を「争点3」と各改める。
(1) 争点2について ア 原判決の訂正 (ア) 41頁10行目「甲二九、三〇、」の次に「六二、」を加える。
(イ) 43頁3行目及び50頁7行目の各「平成七年及び八年」をいずれも「平成八年及び九年」と各改める。
(ウ) 53頁8行目「検験機構に認定されている」を削除する。
イ 当審における控訴人らの主張に対する判断 (ア) 控訴人らは,外箱裏側の点在模様や容器の底部の「迷奇」の刻印が,製造業者が偽造防止のため施す措置であるとの推認は,未だ発展途上にある中国の企業である北京亜美については成り立たない旨主張する。
しかし,証拠(甲61〜63,検甲1の1〜5,2の1〜5,3の1・2・5・6)及び弁論の全趣旨によると,控訴人らが北京友誼商店及び上海友誼商店で購入した「迷奇」にも,容器底面に「迷奇」の刻印があり,また,外箱の裏側に本件商標の点在模様が存在すること,すなわち,北京亜美が中国国内向けに販売した「迷奇」にも,上記刻印や点在模様が施されていることが認められ,かかる事実は,北京亜美が偽造防止のため上記刻印や点在模様を施していることを推認させるものであるから,控訴人らの前記主張を採用することはできない。
なお,控訴人らが1998年(平成10年)8月2日に上海友誼商店で購入(甲56,58,63)した「迷奇」(検甲3の3・4)については,上記刻印や点在模様がなく,また,外箱に印刷された牡丹の花やメダルの色等が,控訴人らが一緒に購入した「迷奇」(検甲3の1・2)やそれらを入れた大箱(検甲3の6)のものと明らかに異なることから,偽造品が真正な商品と共に販売された可能性が高いが,このことは上記刻印や点在模様が偽造防止のために施されているものであるとの認定・判断に影響を与えるものではない。
(イ) また,控訴人らは,外注先の業者の変遷に伴い,「迷奇」の内容器や外箱については微妙な変化・異同があるから,真正品か偽造品かの判断基準とはなり得ない旨主張するが,原告商品1ないし3と真正商品である被告商品との相違が単なる容器製造業者による品質のばらつきの範囲にとどまるものでないことは,引用に係る原判決「事実及び理由」第四の一1(一)ないし(三)及び(四)の(1),(2)(34頁1行目から46頁7行目まで)のとおりであり,控訴人らの上記主張を採用することはできない。
(ウ) さらに,控訴人らは,控訴人らがわざわざ偽造品等を取り扱う理由も必要性もないから,控訴人らの取り扱っている「迷奇」はすべて真正品である旨強調するが,引用に係る原判決「事実及び理由」第四の一の判断は,控訴人らが意図的に「迷奇」の偽造品を輸入販売したとするものではなく,控訴人ら指摘の点は本争点に関する当裁判所の認定判断(原判決引用に係るもの)を左右するものでないから,控訴人らの上記主張を採用することはできない。
(2) 争点3について(当審における控訴人らの主張に対する判断) 控訴人らは,控訴人らが本件各原告商品を販売した時期及び被控訴人が本件警告及び広告掲載を行った時期が,いずれも,被控訴人が北京亜美から本件商標権の専用使用権設定登録を受ける前のことであり,被控訴人に専用使用権がないことは被控訴人自身も知っていることであるから,被控訴人に過失がないとはいえないなどと主張する。
しかし,被控訴人が行った本件警告及び広告掲載が,いずれも北京亜美との本件独占販売契約に基づき,北京亜美の有する本件商標権又は不正競争防止法上の差止請求権を代位行使したものであることは,前記1のとおりである。したがって,本件警告及び広告掲載は,被控訴人の正当な権利行使といえるものであり,当時被控訴人が北京亜美から本件商標権の専用使用権の設定登録を受けていなかったことは,本件警告及び広告掲載に関する被控訴人の過失の存否に影響するものではないから,控訴人らの上記主張を採用することはできない。
(3) その他,原審及び当審における当事者提出の各準備書面記載の主張に照らし,原審で提出,援用された全証拠を改めて精査しても,引用に係る原判決を含め,当審の認定,判断を覆すほどのものはない。
結論
以上の次第で,その余の点について判断するまでもなく,控訴人らの請求はいずれも理由がなく,これを棄却した原判決は正当であって,本件控訴は理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
(平成14年3月6日口頭弁論終結)
裁判長裁判官 竹原俊一
裁判官 小野洋一
裁判官 西井和徒