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関連審決 不服2000-20666
関連ワード 識別力 /  役務の提供 /  指定役務 /  4条1項11号 /  類似性(類否判断) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  非類似 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 6号 審決取消請求事件
原告 愛知県中小企業共済協同組合
訴訟代理人弁理士 石田喜樹
同 斉藤純子
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 保坂金彦
同 大橋良三
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/06/20
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が不服2000-20666号事件について平成13年11月27日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成11年7月9日,「ゆとリッチ共済」の文字を標準文字で横書きして成る商標(以下「本願商標」という。)について,指定役務を第36類「生命保険契約の締結の媒介,生命保険の引受,損害保険契約の締結の代理,損害保険に係わる損害の査定,損害保険の引受,保険料率の算出」として,商標登録出願(以下「本件出願」という。)をしたが,平成12年10月27日,拒絶の査定を受けたので,これに対する不服の審判を請求した。特許庁は,これを不服2000-20666号事件として審理し,その結果,平成13年11月27日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本を,同年12月20日,原告に送達した。
2 審決の理由 審決は,別紙審決書の写しのとおり,本願商標は,登録第3039104号の商標(平成4年9月28日に登録出願され,平成7年4月28日に設定登録されたもので,「ゆうとりっち」の文字を横書きして成り,指定役務を第36類「生命保険の引受け」とする。以下「引用商標」という。)と,称呼において類似し,その指定役務も同一又は類似であると認められるから,商標法4条1項11号に該当する,と認定判断した。
原告主張の審決取消事由の要点
審決は,本願商標と引用商標とが称呼において類似していると誤って認定判断したものであり,この誤りが結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。
1 本願商標と引用商標の称呼の類否について (1) 全体的な対比 本願商標は,「ゆとリッチ共済」の文字に相応して「ユトリッチキョウサイ」との称呼のみを生ずるのに対し,引用商標は,「ゆうとりっち」の文字に相応して「ユウトリッチ」との称呼のみを生ずる。本願商標は,10音構成,引用商標は6音構成であり,両商標は,語頭音「ユ」の後ろの「ウ」の音の有無,及び語尾の「キョウサイ」の音の有無において相違している。両商標は,それぞれ,一連に称呼するときは,全体の語韻・語調を明らかに異にし,称呼上明確に聴別し得るものである。両商標は,称呼において類似しない。
(2) 本願商標から生じる称呼について 審決は,本願商標中の「共済」の文字について,「一定の団体の構成員間の相互扶助制度の一つ。構成員は一定額の金銭(掛金)を積み立て,災害その他の一定事由に基づく出費があった場合に,これについて一定の給付を団体が行う制度」(有斐閣「法律用語辞典」)の意味を有するものとして一般に親しまれているものであり,共済事業を表すものとして,「〇〇共済」のように使用されているものである。」(審決書1頁下から4行〜2頁2行)とし,「そうすると,本願商標「ゆとリッチ共済」をその指定役務について使用した場合,これに接する取引者,需要者は,構成中の「共済」の文字部分が前記に述べた一定団体が行う相互扶助制度,すなわち,役務の質(内容)の表示であり,自他役務の識別標識としての機能を有する部分は「ゆとリッチ」にあるものと認識し把握するというのが相当である。してみれば,本願商標は,「ゆとリッチ」の文字部分に相応して「ユトリッチ」のみの称呼をも生ずるものである。」(審決書2頁3行〜9行)と認定した。
しかしながら,審決のこの認定は誤りである。「共済」の2文字の意味するところは,一般的には,「共同して助けあうこと」(「広辞苑」,甲第9号証)又は「力を合わせて助け合うこと」(「岩波 国語辞典」,甲第10号証)であって,「共済制度」や「共済事業」そのものを直接意味するものではない。仮に,「共済」の意味するところが「共済制度」や「共済事業」であったとしても,本願商標の指定役務は,「生命保険契約の締結の媒介,生命保険の引受」等であって,「共済制度」や「共済事業」そのものではないから,「共済」との語は,役務の質(内容)の表示とはいえない。むしろ,「共済」の語の前に位置する「ゆとリッチ」の文字が,「ゆとり(ある人生)」,「リッチ(な人生)」を間接的・暗示的に示唆していること,本願商標の指定役務が「生命保険契約の締結の媒介,生命保険の引受」等にかかわるものであることに鑑みると,「力を合わせて助け合うこと」の意味合いを有する「共済」の文字と「ゆとリッチ」の文字とは結び付きが極めて強いものということでき,たとい,「共済」の文字が共済事業を表すものとして使用されているとしても,本願商標の構成は,「ゆとリッチ共済」の全体をもって一体不可分の構成と認識し把握されるのである。
本願商標のこのような一体不可分性は,「都民共済」,「教職員共済」,「ザ・ス-パ-共済」等の商標,すなわち「都民」,「教職員」,「ス-パ-」等の,役務の提供を受ける人や場所を表わし,一般的には自他役務の識別標識としての機能を有しないと考えられている文字と,「共済」の文字とが結合された商標が,多数登録されていることからも裏付けられている。
したがって,「自他役務の識別標識としての機能を有する部分は「ゆとリッチ」にあるものと認識し把握するというのが相当である。してみれば,本願商標は,「ゆとリッチ」の文字部分に相応して「ユトリッチ」のみの称呼をも生ずるものである。」(審決書2頁6行〜9行)との審決の認定は,明らかに誤りである。
(3) 本願商標の「ユトリッチ」と引用商標の「ユウトリッチ」との対比について 審決は,「本願商標から生ずる「ユトリッチ」と引用商標から生ずる「ユウトリッチ」の称呼を比較すると,両者は中間部において「ウ」の音の有無に差異を有するほか,他の全ての音を同じくするものである。」(審決書2頁13行〜15行)とし,「そして,差異音「ウ」(u)は,前音「ユ」の母音(u)を同じくして二重母音を構成する関係上,「ユ」の母音に吸収され易いことから,両称呼を一連に称呼するときは,全体の語調・語感が近似したものとなり,互いに相紛れるおそれがあるものと判断するのが相当である。」(2頁16行〜19行)と結論付けている。
しかし,審決のこの判断は,誤りである。
両商標とも,「ユ」又は「ユウ」に「トリッチ」という音が連なり,「リ」の音が促音「ッ」の前音であることから自ずと強く発音されやすく,また,「リッチ」の3音が,我国において成人であればだれでも理解できる英単語の「RICH」と同音であり,この「RICH」の単語は「リッチ」と「リ」にアクセントがあることから,必然的に前記「リ」の音は一層強く発音される。そして,本願商標の語頭音の「ユ」及び第2音の「ト」はいずれも比較的微弱な音として発音される。したがって,本願商標の「ユトリッチ」を一連に称呼した場合,「ユト」は軽快に,さらっとした調子で発音され,「リッチ」は「リ」にアクセントをつけて少し強く発音され,全体では中間部にアクセントがくる語調であって,さわやかな語感を生ずる。
これに対し,引用商標の「ユウトリッチ」における「ユウト」の部分は,「雄図」(壮大な計画),「遊と」(遊び&),「勇人」(人名)の発音と同様,「ユウ」にアクセントをつけて発音される。特に,語頭音であり強音である「ユ」に続く「ウ」の音は,前音「ユ」中の母音(u)と同一であり二重母音を構成してはいるものの,「ユ」に続き,「ウ」と明確な1音として聴取され,語頭音である「ユ」の音を一層強調することになって,猛々しい語感,ガッツポ-ズを決めた情景を感得させる。また,第3音の「ト」は,強音である「ユウ」と「リ」との間に挟まれ,ほとんど聴き取れないほどの微弱音である。したがって,引用商標を一連に発音すると,語頭音の「ユ」,第2音の「ウ」に第1のアクセントが,中間部の「リ」に第2のアクセントがあるものの,全体としては語頭の2音「ユウ」を強く,しかも第2音の「ウ」の方が高い調子となるように抑揚をつけてよどみなく称呼されるのである。
このように,両商標は,「ユ」と「ユウ」の強音「ウ」の有無において著しく相違し,しかも,これらは称呼における識別上重要な要素を占める語頭に位置するものであるから,聴感が著しく異なるのである。また,両者をそれぞれ一連に称呼するときは,アクセントの位置,全体の抑揚においても著しい相違がある。両者が称呼において相紛れるおそれは,ないものといわざるを得ない。
本願商標はその称呼の一部分において「ゆとり」及び「RICH」という特定の観念を生じさせる。これに接する取引者・需要者は,このことによっても,これと上記各観念を生じさせない引用商標とは明確に聴別できるのである。
2 結論 以上のとおり,本願商標と引用商標とは,称呼において非類似であるから,これを類似であるとした審決の判断は誤りである。
被告の反論の要点
1 本願商標と引用商標の称呼の類否について (1) 本願商標から生じる称呼について (ア) 本願商標中の「共済」の語が,一般的な意味として,「共同して助けあうこと」や「力を合わせて助け合うこと」の意味を有することは,原告の主張するとおりである。
しかし,「共済」の語は,他方で「一定の団体の構成員間の相互扶助制度の一つ。構成員は一定額の金銭(掛金)を積み立て,災害その他の一定事由に基づく出費があった場合に,これについて一定の給付を団体が行う制度」(法律用語辞典,有斐閣257頁。乙第1号証)を意味する語でもある。すなわち,「共済の」語は,共済制度,共済事業を示す語としても認識され,このような語としても一般に広く使用されており,たとえば,生命共済,火災共済,自動車共済などの共済事業は,民間の生命保険,火災保険,自動車保険などと実質的に差異がないといわれている(「現代の生命保険」第2版,東京大学出版会19〜20頁。乙第2号証)。実際に,「共済」を「生命保険」と位置付けている報道記事もみられる(朝日新聞,東京朝刊,1996年3月30日。乙第3号証)。「共済」の文字が共済制度又は共済事業を示すものとして,他の文字と結合されて「中小企業倒産防止共済」,「小規模企業共済」,「JA共済」等のように,実際に使用されている例も多い(乙第4号証の1ないし6)。
このような事実からすれば,本願商標の指定役務である「生命保険の引受」等と「共済」とは,密接な関連を有するものということができるのであり,そうである以上,このような指定役務の取引者・需要者は,ごく自然に,「共済」の文字を上記法律用語辞典にいう相互扶助制度の意味を有する語として理解し認識するというべきである。
(イ) 商標は,商品又は役務の標識として機能するものであるから,商標の類否判断に際し,商標の称呼を認定するに当たっては,その指定役務の取引者・需要者を基準とすべきであり,商標からどのような称呼が生じるかは,商標に接する取引者・需要者が通常どのように商標を認識し称呼するかによって決めるべきである。
上記実情からすれば,本願商標をその指定役務について使用した場合には,これに接する取引者・需要者は,その構成中の「共済」の文字部分を,共済事業ないしはそれに関連した役務を意味するものと,つまり,単に役務の質(内容)を表示したものと認識するにとどまり,したがって,「共済」の文字部分は,自他役務の識別標識としての機能を果たし得ないものというべきである。「共済」の文字部分がこのようなものであるとすると,簡易迅速を尊ぶ取引の場にあっては,本願商標は,「共済」の文字部分を捨象して「ゆとリッチ」の文字部分でとらえられ,これより生ずる「ユトリッチ」の称呼をもって取引に資される場合も,決して少なくないというべきである。
このように,本願商標は,「ユトリッチ」の称呼をも生ずるものである。
(ウ) 原告は,「共済」の前に位置する「ゆとリッチ」の文字が「ゆとり(ある人生)」「リッチ(な人生)」を間接的・暗示的に示唆していること及び本願商標の指定役務に鑑みると,「共済」の文字と「ゆとリッチ」の文字とは結び付きが極めて強いということができるから,本願商標は全体をもって一体不可分の構成と認識し把握すべきである,と主張し,「都民共済」,「教職員共済」,「ザ・スーパー共済」等の例を挙げている。
しかしながら,上記「ゆとリッチ」の文字は,既に述べたように,何ら意味を有しない造語であって,特定の既成観念を連想,想起させるものではない。
まして,常に「共済」の文字と一体のものとして認識し把握されるというようなものではなく,むしろ,これとの間には弱い結びつきしか持っていないものである。
一方,原告が挙げる「都民共済」,「教職員共済」,「ザ・スーパー共済」等にあっては,原告も主張するように,「都民」,「教職員」,「スーパー」の文字はそれぞれ既成語であって特定の意味を有するものであり,「共済」の文字との結びつきが強く,全体が一体のものとして認識し把握されるものである。つまり,「共済」の文字と他の文字との結び付きの度合いは,商標全体の構成態様によって異なり得るのみならず,「共済」の文字の前に位置する文字が既成の観念を有しない場合と有する場合とでも違ってくるのである。原告の挙げる登録例に係る商標と本願商標とは,事案を異にするのであって,当該登録例に該当する事項を本件にそのまま当てはめることはできないのである。
(2) 本願商標の「ユトリッチ」と引用商標の「ユウトリッチ」との対比について 本願商標から生ずる「ユトリッチ」の称呼については,「リッチ」が親しまれた英単語の「rich」に通じ,この部分が強く印象に残り,しかも,「リ」が促音を伴って強く発音されることから,全体として「リッチ」にアクセントがあるものである。同様に,引用商標から生じる「ユウトリッチ」の称呼も,後半部の「リッチ」が強く印象に残り,この部分にアクセントがあるというべきである。
「雄図」,「遊と」,「勇人」といった語はそれほど親しまれた語ではないから,引用商標の「ユウト」の部分からこれらの語を連想,想起するようなことはなく,「ユウト」は平坦に発音されるにすぎない。しかも,「ユウト」における「ウ」の音は,前音「ユ」の母音(u)を同じくして二重母音を構成する関係上,「ユ」の母音に吸収され易く,弱く響くものである。そうすると,本願商標の「ユトリッチ」と引用商標の「ユウトリッチ」とを全体としてみた場合,両者における第2音目の「ウ」の音の有無は微差というべきであって,それぞれを一連に称呼したときは,全体の語調・語感が近似したものとなり,相紛らわしいものである。
したがって,本願商標と引用商標とは,その称呼において相紛らわしい類似の商標というべきである。
2 結論 以上のとおり,本願商標は,「ユトリッチ」の称呼をも生じ,「ユウトリッチ」の称呼を生ずる引用商標とは称呼において類似する商標であるから,両商標が称呼において類似するとした審決の認定判断には,何ら誤りはない。
当裁判所の判断
1 本願商標と引用商標の称呼の類否について (1) 本願商標から生じる称呼について 審決は,「本願商標は,「ゆとリッチ」の文字部分に相応して「ユトリッチ」のみの称呼をも生ずるものである。」(審決書2頁8行〜9行)と認定した。
本願商標の「ゆとリッチ共済」のうち,「共済」の語は,もともとは「共同して助けあうこと。」,「力を合わせて助け合うこと。」という意味を有する語である(甲第9,第10号証)。しかし,「共済」の語は,「一定の団体の構成員間の相互扶助制度の一つ。構成員は一定額の金銭(掛金)を積み立て,災害その他の一定事由に基づく出費があった場合に,これについて一定の給付を団体が行う制度。」との意味をも有する語であり(法律用語辞典,有斐閣257頁。乙第1号証),「現代の生命保険」(第2版,東京大学出版会19〜20頁)と題する文献においても,「共済は,・・・組合員およびその家族の疾病,傷害,死亡,退職などに際して,あるいは組合員の財産が火災,災害などで損害を受けたときに,一定の給付を行う相互扶助制度である。・・・全国共済農業協同組合連合会(JA全共連)・・・などは組織規模が巨大であるので,それらの行っている生命共済,火災共済,自動車共済などの共済事業は民間の生命保険,火災保険,自動車保険などと実質的に差異がない」(乙第2号証)と説明されていることからも分かるように,現代社会においては,生命共済,傷害共済,火災共済,自動車共済などとして,「保険」と実質的に同じ意味ないし機能を有する語としても広く使用されているものである(乙第3号証,第4号証の1ないし6)。
したがって,本願商標の指定役務である「生命保険契約の締結の媒介,生命保険の引受,損害保険契約の締結の代理,損害保険に係わる損害の査定,損害保険の引受,保険料率の算出」において,「ゆとリッチ共済」との語を使用した場合には,これに接する取引者・需要者は,一般に「共済」の語を,一定の団体が行う相互扶助制度,すなわち保険の引受け等の役務の質(内容)を表示する語として,これを認識し,把握するものであると認められる。
これに対し,本願商標の「ゆとリッチ共済」中の「ゆとリッチ」の語は,「ゆとり」と「リッチ」を連想させる造語であるから,これを本願商標の上記指定役務に使用した場合には,「共済」の語とは異なり,それ自体,自他識別力のある標章として,取引者・需要者に認識されるものと認められる。
そうすると,本願商標を上記指定役務に使用した場合には,その取引者・需要者は,本願商標を「ゆとリッチ共済」と認識するとともに,その「ゆとリッチ」の部分のみに注目してこれを認識することもすると認められ,そのため,本願商標については,「ユトリッチキョウサイ」という10文字の長い称呼のみならず,これを短縮した,「ユトリッチ」との短い称呼称呼されることも,少なからずあるものと認められる。
原告は,本願商標の指定役務は,「生命保険契約の締結の媒介,生命保険の引受」等であって,「共済制度」や「共済事業」そのものではないから,「共済」の語は,役務の質(内容)の表示とはいえない,と主張し,また,「ゆとリッチ」の文字が,「ゆとり(ある人生)」,「リッチ(な人生)」を間接的・暗示的に示唆していること,本願商標の指定役務が「生命保険契約の締結の媒介,生命保険の引受」等に関わるものであることに鑑みると,「力を合わせて助け合うこと」の意味合いを有する「共済」の文字と「ゆとリッチ」の文字とは結び付きが極めて強いものということができ,本願商標の構成は,「ゆとリッチ共済」の全体をもって一体不可分の構成と認識され,把握される,と主張する。しかし,「共済」の語は,本願商標の役務の質(内容)を表示するものであること,「共済」の文字と「ゆとリッチ」の文字とは結び付きが極めて強いものであるということができないことは,上記認定のとおりであり,原告の主張は,上に説示したところに照らし,いずれも採用することができないことが明らかである。
原告は,本願商標の一体不可分性は,「都民共済」,「教職員共済」,「ザ・ス-パ-共済」等の商標,すなわち「都民」,「教職員」,「ス-パ-」等の,役務の提供を受ける人や場所を表わし,一般的には自他役務の識別標識としての機能を有しないと考えられている文字と,「共済」の文字とが結合された商標が多数登録されていることからも裏付けられている,と主張する。しかし,これらの商標は,それぞれ個別に出願されて審査され,登録されたものであるから,それぞれの個別の事情が明確ではない本件において,それらの登録の意味を論ずることは適当でない。また,本願商標とこれらの商標とは,「共済」の語と結びつく文字が異なっており,そもそもその構成を異にするものである。いずれにせよ,本件において,これらの登録商標について議論をする必要がないことは,事柄の性質上当然のことというべきである。
(2) 本願商標の「ユトリッチ」と引用商標の「ユウトリッチ」との対比について 審決は,「本願商標から生ずる「ユトリッチ」と引用商標から生ずる「ユウトリッチ」の称呼を比較すると,両者は中間部において「ウ」の音の有無に差異を有するほか,他の全ての音を同じくするものである。そして,差異音「ウ」(u)は,前音「ユ」の母音(u)を同じくして二重母音を構成する関係上,「ユ」の母音に吸収され易いことから,両称呼を一連に称呼するときは,全体の語調・語感が近似したものとなり,互いに相紛れるおそれがあるものと判断するのが相当である。」(審決書2頁13行〜19行)と判断した。
本願商標から生じる「ユトリッチ」との称呼と引用商標から生じる「ユウトリッチ」の称呼とを比較すると,両者は,審決が認定するとおり,引用商標の第2音の「ウ」の音の有無の点を除いて,他の音を同じくするものである。そして,唯一の相違点である引用商標の第2音の「ウ」についてみても,第1音の「ユ」の音と母音(u)を同じくするものであるため,「ユ」の音に連続して「ウ」と発音することになり,「ユウ」が「ユ」の1音である,あるいは,「ユー」の音である,と理解されることが生じやすいことから,引用商標の称呼が本願商標の称呼とその語調が類似し,取引者・需要者にとって,その聴別が困難なものとなり,混同が生じやすいものであることは明らかというべきである。
原告は,両商標は,「ユ」と「ユウ」の強音「ウ」の有無において著しく相違し,これらは称呼における識別上重要な要素を占める語頭に位置するものであるから,聴感が著しく異なる,また,両者をそれぞれ一連に称呼するときは,アクセントの位置,全体の抑揚においても著しい相違があり,称呼において相紛れるおそれはない,などと主張する。しかし,これは,原告独自の主張といわざるを得ず,その主張に理由がないことは,上記に説示したところから明らかである。
原告は,本願商標は,その称呼の一部分において,「ゆとり」及び「RICH」という特定の観念を生じさせるものであるから,これに接する取引者・需要者は,それら両方の観念を生じさせない引用商標とは明確に聴別できるものである,と主張する。しかし,本願商標の「ゆとリッチ」から,「ゆとり」,「リッチ」との語が想起され,各語が持つ意味をイメージすることが可能であるとしても,「ゆとリッチ」は一種の造語であることからすれば,その観念を明確には認識することができない者,あるいは,上記のような観念が生じることを漠然とながら認識する程度の者も多いことが推認されるのである。そうである以上,本願商標から生じ得る上記の観念が,上に認定した両商標の称呼類似性を否定し得るほど明確なものと認めることはできない。原告の主張は理由がない。
2 結論 以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由には理由がなく,その他,審決には,これを取り消すべき瑕疵は見当たらない。そこで,原告の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 高瀬順久