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関連審決 審判1990-4145
関連ワード 使用事実 /  指定商品 /  3条2項 /  不使用 /  通常使用権 /  中用件(33条) /  専用使用権 /  国内 /  不使用取消審判 /  正当な理由 /  継続 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 413号 審決取消請求事件
原告A
訴訟代理人弁護士 阿部正義
同 山口達視
被告 日清製粉株式会社
訴訟代理人弁護士 丹羽一彦
同 田中克幸
同 北谷典香
同 吉田 ゆう子
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/06/19
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成2年審判第4145号事件について平成12年9月5日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、別紙目録記載のとおりの構成からなり、指定商品を平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令別表の区分による第31類「調味料、香辛料、食用油脂、乳製品」とする商標登録第1482034号商標(昭和52年8月8日出願、昭和56年9月30日権利者をBとして設定登録、平成6年9月26日権利譲渡に伴い本訴原告に移転登録、以下「本件商標」という。)の商標権者である。
被告は、平成2年3月15日、本件商標につき、不使用による登録取消しの審判を請求し、その予告登録は、同年4月25日(以下「予告登録日」という。)にされた。
特許庁は、同請求を平成2年審判第4145号事件として審理し、平成9年3月24日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「前審決」という。)をしたが、当庁平成9年(行ケ)第127号審決取消請求事件(以下「前訴」という。)の判決(平成10年3月31日判決言渡し、以下「前判決」という。)により前審決が取り消され、前判決に対する上告及び上告受理の申立てに対する最高裁判所の上告棄却決定及び上告不受理決定により、前判決が確定したので、特許庁は、同審判請求につき更に審理した上、平成12年9月5日、「登録第1482034号商標の登録は取り消す。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年9月29日、原告に送達された。
2 本件審決の理由 本件審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、被請求人(注、当初はB、その後上記権利譲渡に伴い本訴原告)が前判決後の審判手続において新たな証拠方法として提出したB作成の宣誓供述書(審判乙第34号証)、C作成の宣誓供述書(同第35号証)、D作成の宣誓供述書(同第36号証)、株式会社総合リサーチ作成の調査報告書(同第37号証)、各証明書(同第38、第39号証)、平成元年8月31日付け領収書写し(同第40号証)及び各請求書写し(同第41号証の1、2)は、いずれも、予告登録日前3年以内に本件商標の通常使用権者であると主張する新世界興業株式会社(以下「新世界興業」という。)がその指定商品について本件商標を使用していたとの事実を認めるに足りる証拠として採用することはできず、他に上記期間内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその指定商品についての本件商標の使用をしていることを認めるに足りる証拠はないから、本件商標の商標登録は、商標法50条1項の規定により取り消すべきものであるとした。
原告主張の審決取消事由
1 本件審決は、予告登録日前3年以内に東京都新宿区において本件商標の通常使用権者である新世界興業が指定商品に本件商標を使用していたことを原告が証明したにもかかわらず、同事実を認定しなかったものであるから、違法として取り消されるべきである。
2 取消事由(本件商標の使用の事実の誤認) (1) 本件商標の通常使用権者である新世界興業は、昭和60年ころから継続して予告登録日前3年以内に、東京都新宿区<以下略>「壁の穴チボリ店」(以下「壁の穴チボリ店」という。)等の店内で、@本件商標を付したシール(甲第3号証の1〜4)を貼付したプラスチック製容器にサラダドレッシング、ホワイトソース、トマトソース等を詰めた持ち帰り商品を展示、販売し、A本件商標を付した「新宿壁の穴店頭販売商品」と題する定価表(甲第5号証)を展示、頒布し、B本件商標を付した「新宿壁の穴グループご案内 新宿壁の穴オリジナル商品ご案内」(甲第6号証)と題する案内書を頒布し、C昭和63年10月ころ、東京都新宿区<以下略>「壁の穴西新宿店」(以下「壁の穴西新宿店」という。)の店内で、本件商標を付した「お持帰りメニュー」と題する定価表(甲第18号証)を展示していた。
(2) 被告は、本件審決が前判決の拘束力に従ってされたものであるから、これを違法とすることはできない旨主張する。
しかし、被告が引用する最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁は、再度の審決取消訴訟においては、確定した前訴訟の判決が判断の基礎とした引用例と同一の引用例から別個の結論を導くことは許されず、また、再度の審決取消訴訟において、引用例が追加された場合に、追加された引用例等のみから別個の判断が導き出されると主張する場合、あるいは前訴訟で検討された引用例とあいまって初めて別個の判断が導き出されると主張する場合以外には前訴訟と異なる判断を行うことは許されないとするものである。この判例の趣旨に照らせば、本件において、原告が、登録商標の使用の事実の立証のため、前判決における証拠とは全く別個の証拠を提出する場合及び新たな証拠を提出し、新たな証拠と前判決における証拠とあいまって初めて原告の主張を裏付ける事実の立証がされる場合には、前判決の拘束力は及ばず、これと異なった判断が許されるというべきである。そして、原告は、本件訴訟において、甲第4号証(D作成の陳述書)、甲第8号証(B作成の日記)、甲第11号証(E作成の陳述書)、甲第12号証(新世界興業作成の広告写し)及び甲第17号証(F作成の陳述書)を新たな証拠として提出し、本件審決の認定判断の誤りを主張するものである。
被告の反論
1 本件審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
2 取消事由(本件商標の使用の事実の誤認)について (1) 前審決の審判手続において被請求人Bが提出した回答書(乙第1号証)によれば、同人は、甲第3号証のシール(同回答書添付資料8の1)及び甲第5号証の定価表(同添付資料6の1)は平成元年9月10日作成と主張し、甲第6号証の案内書(同添付資料3の1)は昭和63年12月ころ作成と主張していたにもかかわらず、本件訴訟において、原告は、これらはいずれも平成元年初めころから使用されていたと主張するものであり、また、甲第18号証の定価表は、前審決の審判手続及び前訴において証拠として提出されていたものであるが、G作成の宣誓供述書(乙第2号証)には、同人が新世界興業に勤務している間上記定価表は見たことがない旨述べられており、これらの証拠はいずれも採用することができない。
(2) 前判決において、甲第3号証のシール、甲第5号証の定価表、甲第6号証の案内書及び甲第18号証の定価表は、いずれも採用し得ず、本件商標を使用していることを証明したとはいえないとされたものである。そして、本件審決は、前判決の内容に従った認定判断を経て、予告登録日前3年以内に日本国内において新世界興業がその指定商品についての本件商標の使用をしていることを認めるに足りる証拠はなく、本件商標の商標登録は、商標法50条1項の規定により取り消すべきものであるとしたものであって、前判決の拘束力に従ってされたものであるから、
これを違法とすることはできない。最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁は、再度の審判又は審決取消訴訟において特定の引用例を単に補強するにすぎないたぐいの他の引用例を追加して無効主張がされたとしても、
特定の引用例からの容易推考性に関する審決取消判決の拘束力を免れることはできない旨を判示している。したがって、本件において、前判決において本件商標の使用をしていることを証明しているとはいえないと判断された証拠を単に補強するだけの証拠が再度の審決取消訴訟で提出されても、前判決の拘束力を免れることはできないというべきである。そして、甲第4、第8号証は甲第5、第6号証を、甲第11、第17号証は甲第3号証をそれぞれ補強するにすぎないたぐいの証拠である。
当裁判所の判断
1 取消事由(本件商標の使用の事実の誤認)について (1) 前判決(乙第4号証)及びこれに添付された前審決の理由部分によれば、
前審決及び前判決の認定判断は、以下のとおりであることが認められる。
ア 前審決(乙第4号証添付)は、請求人(注、本訴被告)が、被請求人(注、当初はB、その後本訴原告)は本件商標を正当な理由がなく予告登録日前3年以内に使用しておらず、また、本件商標には専用使用権者又は登録された通常使用権者は存在しないと主張したのに対し、「被請求人が提出した各証拠を総合勘案すれば、前商標権者(注、B)の通常使用権者と認められる新世界興業の経営するレストラン『壁の穴西新宿店』、『チボリ京王モール店』(注、壁の穴チボリ店をいうものと解される。)において、お持ち帰り商品として、取消請求にかかる指定商品中の『ホワイトソース、ドレッシング』等に本件商標と同一性を有する『壁の穴』商標を付して、予告登録日前3年以内に使用していたものと認められる。したがって、本件商標の登録は、商標法第50条の規定により、その登録を取り消すことはできない。」(20頁1行目〜12行目)として、審判請求を不成立とした。
イ 前判決(乙第4号証)は、前訴原告(注、株式会社壁の穴、前審決の審判における参加人)が、前審決の本件商標の不使用事実の誤認(取消事由1)及び新世界興業が通常使用権者ではない事実の誤認(取消事由2)を主張し、これに対し前訴被告(注、本訴原告)が、予告登録日前3年以内に、本件商標の通常使用権者である新世界興業が、その経営する飲食店「壁の穴」(注、壁の穴チボリ店及び壁の穴西新宿店をいうものと解される。以下、同じ。)で、本件商標を付したその指定商品に係る商品を販売又は販売のため展示し、本件商標を付した上記商品の定価表及び案内書を頒布又は展示していたと主張して提出した乙号各証について、以下のとおり認定判断した。
なお、乙第1、第2、第4号証によれば、原告が上記第3の2、(1)で本件商標の使用の事実を主張する、本訴甲第3号証の1〜4のシールを貼付した容器詰め持ち帰り商品は前訴乙第10号証(写真)に撮影された容器詰め持ち帰り商品と同一であり、本訴甲第5号証(定価表)は前訴乙第22号証と同一であり、本訴甲第6号証(案内書)は前訴乙第20号証と同一であり、本訴甲第18号証(定価表)は前訴乙第6号証と同一であることが認められ、また、その他の証拠についても後記括弧内に付記した対応関係にあることが認められる。
(ア) 前訴乙第20号証(案内書、本訴甲第6号証)及び同乙第22号証(商品案内、本訴甲第5号証)には、新世界興業が経営する「壁の穴」で、ホワイトソース、ドレッシングを店頭販売している旨の記載があり、同乙第17号証の2(資料説明)には、同乙第20号証(案内書)は1988年(昭和63年)12月20日付けの同乙第19号証(納品書)によって、同乙第22号証(定価表)は平成元年9月10日付けの同乙第23号証(納品書、本訴乙第1号証中の資料6の2)によって納品された旨の記載があり、同乙第24号証の2(納品書)には、1988年(昭和63年)9月20日付けでお持ち帰りメニューチラシ、パッケージ用シール等が納品された旨の記載があるが、上記各納品書は、いずれもコクヨ株式会社製の「コクヨ ウ-221N」の用紙が使用されているところ、調査嘱託の結果によれば、上記「コクヨ ウ-221N」の用紙は平成元年5月から販売が開始されたことが認められ、上記事実によれば、同乙第19号証(納品書)及び同乙第24号証の2(納品書)は、いずれも日付を遡らせて記載されたものであることが認められ、同乙第23号証(納品書)は、「No.3」であって、同乙第19号証(「No.2」の納品書)及び同乙第24号証の2(「No.1」の納品書)と一連のものと認められるから、同乙第19号証(納品書)及び同乙第24号証の2(納品書)が日付を遡らせている事実に照らし、同乙第23号証(納品書)の日付も信用できず、また、同乙第32号証(B作成の陳述書)によれば、新世界興業が「壁の穴」を開店したのは昭和52年であることが認められるところ、同乙第19号証(納品書)及び同乙第23号証(納品書)によって納品されたとされる同乙第20号証(案内書)及び同乙第22号証(定価表)には、いずれも「創業15年 元祖壁の穴」の記載があるから、これらが昭和63年ないし平成元年に作成、使用されるのは不自然で、同乙第19、第20、第22、第23号証、第24号証の2は、その作成時期に疑問があり、新世界興業が本件審判請求の登録前3年以内に本件商標と同一性を有する商標を使用していた証拠とすることはできない。
(イ) 前訴乙第6号証(定価表、本訴甲第18号証)には、「元祖壁の穴」、「サラダドレッシング」等の記載があるが、作成時期の記載がなく、また、
同乙第5号証(メニュー、本訴乙第5号証)と比較して、紙質、文字が大きく異なるものであって、同様に作成、使用されたものとは思われず、本件審判請求の登録前に使用されていたものと認めることはできない。
(ウ) 前訴乙第7号証(写真、本訴乙第2号証添付)には、「壁の穴」内にホワイトソース、サラダドレッシング等を販売している旨のはり紙が撮影され、同乙第10号証(写真、本訴乙第2号証添付)には、ホワイトソース、ドレッシングなどの容器が撮影されているが、上記写真は、いずれも写真自体に撮影年月日を特定できる表示は認められず、上記はり紙及び容器を撮影する目的で撮影されたものとうかがわれることから、本件審判と関係なく撮影されたものとしては不自然であって、本件審判請求の登録前に撮影されたものとは認め難い。
(エ) 前訴乙第26号証(新世界興業作成の領収書控え、本訴乙第1号証中の資料9)は、Hに対する「壁の穴ドレッシング」及び「壁の穴ホワイトソース」販売の領収書控えであるが、控えであるのに販売品の内容が詳細に記載された上、
新世界興業の社印及び扱者印が押捺されており、かつ、前後の領収書も全く提出されていないのであって、本件審判請求の登録前に作成されたものと認めることはできない。
(オ) 前訴乙第17号証の2(資料説明書)には、同乙第25号証(シール、本訴乙第1号証中の資料8の1)が平成元年9月10日に同乙第23号証(納品書、本訴乙第1号証中の資料6の2)によって納品された旨の記載があるが、同乙第23号証(納品書)が平成元年9月10日に作成されたとは認められないことは上記のとおりであり、他に同乙第25号証のシールが本件審判請求の登録前に作成されたものと認めるに足りる証拠はない。
(カ) 前訴乙第30号証(G作成の商品開発報告書)には、新世界興業が壁の穴西新宿店において、ホワイトソース、ドレッシング等を店頭販売している旨の記載があるが、作成年月日の記載もなく、その文面も店頭販売の事実を証する目的で書かれたようにうかがわれ、本件審判請求以前に書かれたものとしては不自然であって、新世界興業が本件審判請求の登録前3年以内に本件商標を使用していた事実を認める証拠とすることはできない。
(キ) 前訴乙第31号証(株式会社三喜作成の証明書)には、持ち帰り用ソース容器のポリ袋及び持ち帰り用ソース類その他のポリ袋について、昭和60年ころから平成4年にかけてデザインや表示を変えたポリ袋として度々納品した旨の記載があるが、上記ポリ袋自体から納品がそのいずれの時期であったか特定できず、
その記載が事実であるとは信用し難い。
(ク) 前訴乙第21号証(写真、本訴乙第1号証中の資料4)に撮影されたソースは、その容器の状況等に照らし、店頭販売用のものと認めることはできない。
(ケ) 新世界興業の経営するレストラン壁の穴西新宿店、壁の穴チボリ店がスパゲティ専門店であったことは争いがないが、スパゲティ専門のレストランであることから、ホワイトソース、ドレッシングを持ち帰り商品として店頭販売していたと推認することはできず、この点に関する前訴乙第31号証(株式会社三喜作成の証明書)の記載も信用できないし、他にこれを認めるに足る証拠はない。
そして、上記の認定判断に基づき、「新世界興業が本件審判請求の登録前3年以内に本件商標と同一性を有する『壁の穴』商標を使用していた事実を認めるに足りる証拠はない。したがって、これが認められるとした審決は、事実を誤認したものであって、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、
審決は違法であって取消しを免れない。」(乙第4号証20頁4行目〜9行目)として、前審決を取り消した。
(2) 本件審決は、被請求人(注、本訴原告)が、予告登録日前3年以内に、新世界興業が、本件商標を付したその指定商品に係る商品を販売又は販売のため展示し、本件商標を付した上記商品の定価表及び案内書を頒布又は展示していたと主張して、前判決後の審判手続において新たな証拠方法として提出した審判乙第34〜第40号証、第41号証の1、2について、以下のとおり認定判断した。
(ア) 審判乙第34号証(B作成の宣誓供述書)には、昭和63年以前から、
「壁の穴」商標を使用してテイクアウト商品のホワイトソースやドレッシングを販売していた旨の記載があるが、その記載内容からは、使用に係る商標の具体的な使用状況(商標の構成態様、テイクアウトとしての商品への使用形態等)が明らかでなく、同証拠によっては、使用に係る商標が本件商標と社会通念上同一といえるものであって、かつ、これをテイクアウト商品であるホワイトソース及びドレッシングに使用していたと直ちに認めることはできない。
(イ) 審判乙第35号証(C作成の宣誓供述書)には、「壁の穴」商標が掲載された商品案内(前訴乙第20号証、本訴甲第6号証)やメニューチラシ(前訴乙第22号証、本訴甲第5号証)等を新世界興業に納品したのは、その納品書に記載した日付のころに間違いない旨の記載があるが、前判決が判示しているように、上記の商品案内やメニューチラシには、いずれも「創業15年 元祖壁の穴」の記載があり、新世界興業が「壁の穴」店舗を開店したのは昭和52年であることからすると、依然として、これらの納品書が昭和63年ないし平成元年に作成、使用されるのは不自然といわざるを得ない。
(ウ) 審判乙第36号証(D作成の宣誓供述書)には、昭和63年当時、前訴乙第25号証(シール、本訴乙第1号証中の資料8の1)を使用して、「壁の穴ホワイトソース」、「壁の穴ドレッシング」を販売した旨の記載があるが、同宣誓供述書は、新世界興業の社員の作成に係るものと認められること、前判決において、
上記シールが平成元年9月10日に前訴乙第23号証(納品書、本訴乙第1号証中の資料6の2)によって納品された旨の記載があるものの、この納品書がその日に作成されたとは認められないとしていることにかんがみると、同宣誓供述書をもって、本件商標と社会通念上同一といえる「壁の穴」商標が、本件審判請求の登録前3年以内に使用されていたことを客観的に証明しているとは認め難い。
(エ) 審判乙第37号証(株式会社総合リサーチ作成の調査報告書)は、前判決後に作成され、前訴甲第7号証(G作成の宣誓供述書)の作成者であるGの過去の経歴や現状、素行を調査内容とするものであるが、同調査報告書によっては上記前訴甲第7号証が信用性に欠けるものであると認めるに足りる証拠とすることはできない。
(オ) 審判乙第38、第39号証(いずれも証明書)は、いずれも同じ文面からなる画一的な証明内容について、被請求人側の営業上の関係者が署名、捺印したと認められるものであって、その事実関係(意味内容)を正確に理解した上で作成したものであるのかについて疑問が残るばかりでなく、その証明書に添付された写真の掲載商品に貼られたシールは、前訴乙第25号証のシールと同じシールと認められるものであって、このシールに関する前判決の認定をも踏まえると、これらの証明書をもって、本件商標と社会通念上同一といえる「壁の穴」商標が、予告登録日前3年以内に使用されていたことを客観的に証明しているとは認め難い。
(カ) 審判乙第40号証(領収書写し)は、当然その前後の番号に係る他の領収書も存在していたものと認められるところ、それらの領収書の提出はないから、
証明資料としての客観性の点で十分なものとはいえず、その発見の経緯も不自然であり、また、その作成時期に疑問があり直ちに信用することができない。
(キ) 審判乙第41号証の1、2(請求書写し)は、上記乙第40号証の内訳を示す株式会社広放から新世界興業にあてた請求書の写しであるが、上記(カ)と同様の理由等により採用できない。
そして、上記の認定判断に基づき、予告登録日前3年以内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその指定商品についての本件商標の使用をしていることを認めるに足りる証拠はないとして、本件商標の商標登録を取り消した。
(3) ところで、不使用による商標登録取消審判及びその審決に対する取消訴訟において、商標権者が登録商標の使用の事実を証明したか否かが争われ、審決取消訴訟の判決が、その点について審決とは逆の判断を示して審決を取り消した後、再度の審判手続において、特許庁が当該取消訴訟の拘束力に従って、その点につき当該取消判決と同様の判断をし、それに基づいて再度の審決をした場合においては、
その再度の審決に対する再度の審決取消訴訟において、上記拘束力に従った再度の審決の判断が誤りであると主張立証することは、許されないものと解すべきである。すなわち、不使用による商標登録取消審判についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確定したときは、審判官は、商標法63条2項において準用する特許法181条2項の規定に従い、当該審判事件について更に審理を行い、審決をすることとなるが、審決取消訴訟は行政事件訴訟法の適用を受けるから、再度の審理ないし審決には、同法33条1項の規定により、同取消判決の拘束力が及ぶ。
そして、この拘束力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから、審判官は取消判決の上記認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。したがって、再度の審判手続において、審判官は、当事者が取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断につきこれを誤りであるとして従前と同様の主張を繰り返すこと、あるいは同主張を裏付けるための新たな立証をすることを許すべきでなく、審判官が取消判決の拘束力に従ってした審決は、その限りにおいて適法であり、再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることができないのは当然である。このように、再度の審決取消訴訟においては、審判官が当該取消判決のよって来る理由を含めて拘束力を受けるものである以上、その拘束力に従ってされた再度の審決に対し関係当事者がこれを違法として非難することは、確定した取消判決の判断自体を違法として非難することにほかならず、再度の審決の違法(取消)事由たり得ない(最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁参照)。そして、商標登録の不使用取消審判の請求が成り立たないとする審決の取消訴訟において、商標権者が主張する、「使用」の構成要件を定める商標法2条3項各号に該当する具体的な使用の事実が認められないとの理由により、審決の認定判断が誤りであるとして取消判決がされ、これが確定した場合には、再度の審判手続に当該判決の拘束力が及ぶ結果、審判官は同一の使用の事実を認定することは許されないのであり、したがって、再度の審決取消訴訟において、
取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決の認定判断を誤りである(同一の使用の事実が認められる)として、これを裏付けるための新たな立証をし、更には裁判所がこれを採用して、取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決を違法とすることが許されないことは明らかである。
(4) 本件において、前示(1)、イの前判決の認定判断に照らせば、前判決の拘束力は、前審決を取り消す旨の結論(主文)が導き出されるのに必要な商標法2条3項各号該当の具体的な使用の事実についての認定判断、すなわち、前訴被告(注、
本訴原告)が主張する、予告登録日前3年以内に新世界興業が壁の穴チボリ店及び壁の穴西新宿店において前訴乙第10号証(写真)に撮影された容器詰め持ち帰り商品を展示、販売し、同乙第22号証の定価表を展示、頒布し、同乙第20号証の案内書を頒布し、同乙第6号証の定価表を展示していた事実はいずれも認められないとの認定判断について生ずるものというべきである。したがって、再度の審判手続において、審判官は、前判決が上記のとおり認定判断した同一の使用の事実につき、その使用の事実が認められるとの前判決とは別異の認定判断をすることは、取消判決の拘束力により許されないのであるから、本件審決が取消判決の拘束力に従ってされた限りにおいては、再度の審決取消訴訟である本件訴訟においてこれを違法とすることはできない。
そして、前示(2)のとおり、被請求人(注、本訴原告)が再度の審判手続において新たな証拠方法として提出した審判乙第34〜第40号証、第41号証の1、2について、いずれも採用することができず、予告登録日前3年以内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその指定商品についての本件商標の使用をしていたことを認めることができないとした本件審決の認定判断は、上記前判決の拘束力に従ったものであることが明らかであり、本件審決の認定判断中、前判決の拘束力の及ぶ部分、すなわち、予告登録日前3年以内に新世界興業が壁の穴チボリ店及び壁の穴西新宿店において前訴乙第10号証(写真)に撮影された容器詰め持ち帰り商品を展示、販売し、同乙第22号証の定価表を展示、頒布し、同乙第20号証の案内書を頒布し、同乙第6号証の定価表を展示していた事実はいずれも認められないとの部分は、再度の審決取消訴訟である本件訴訟において、これを違法とすることはできず、原告が、本件審決のその認定判断が誤りであることを主張立証することは許されないものといわざるを得ない。
そうすると、本件訴訟において原告の主張する本件審決の取消事由は、上記第3の2(1)のとおりであって、前示(1)イのとおり、@の本件商標を付したシール(本訴甲第3号証の1〜4)を貼付した容器に詰めた持ち帰り商品は上記前訴乙第10号証(写真)に撮影された容器詰め持ち帰り商品と同一であり、Aの定価表(本訴甲第5号証)は上記前訴乙第22号証の定価表と同一であり、Bの案内書(本訴甲第6号証)は上記前訴乙第20号証の案内書と同一であり、Cの定価表(本訴甲第18号証)は上記前訴乙第6号証の定価表と同一であると認められるから、原告が取消事由として主張するところは、前判決の拘束力に従った本件審決の上記認定判断が誤りであると主張することに帰着するものである。
原告は、本件訴訟において、原告が、登録商標の使用の事実の立証のため、前判決における証拠とは全く別個の証拠を提出する場合及び新たな証拠を提出し、新たな証拠と前判決における証拠とあいまって初めて原告の主張を裏付ける事実の立証がされる場合には、前判決の拘束力は及ばず、これと異なった判断が許されるというべきであると主張し、本件訴訟において提出した甲第4号証(D作成の陳述書)、甲第8号証(B作成の日記)、甲第11号証(E作成の陳述書)、甲第12号証(新世界興業作成の広告写し)及び甲第17号証(F作成の陳述書)が上記の新たな証拠に該当すると主張する。しかし、これらの各証拠は、いずれも、その立証趣旨及び記載内容に照らし、上記甲第3号証の1〜4のシール、甲第5号証の定価表、甲第6号証の案内書及び甲第18号証の定価表による予告登録日前3年以内の各使用の事実を立証しようとするものにすぎないものと認められるから、これらの立証も、結局、前判決の拘束力に従った本件審決の上記認定判断が誤りであることを立証することに帰着するものである。したがって、本件訴訟における原告の上記主張立証は、前判決の拘束力が及ぶ事項につき、再度の審決取消訴訟においてこれを蒸し返すものにほかならず、そもそも本件審決の取消事由とはなり得ないものであるから、いずれもそれ自体失当というべきである。
2 以上のとおりであるから、原告主張の本件審決取消事由は理由がなく、他に本件審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 岡本岳
裁判官 宮坂昌利