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事件 平成 14年 (行ケ) 108号 審決取消請求事件
原告オメガエスアー
訴訟代理人弁理士 山川政樹、黒川弘朗、紺野正幸、西山修、山川茂樹
被告X
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/06/18
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が無効2000−35496号事件について平成13年10月23日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
主文第1項同旨の判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯被告が商標権者である登録第4313719号商標(本件商標)は、平成10年10月6日に登録出願され、次に示すとおりの構成よりなり、第14類「貴金属製喫煙用具,身飾品,時計」を指定商品として、同11年9月10日に設定登録された。原告は、平成12年9月13日、本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとともに商標法第4条第1項第15号に該当するので無効であると主張して、本件商標登録を無効とすべき審判を請求したが、平成13年10月23日「本件審判の請求は、成り立たない」との審決があり、その謄本は平成13年11月2日原告に送達された。
本件商標2 審決の理由の要点( ) 原告(請求人)の引用する登録商標 1原告は、以下の3件の登録商標を引用しており、いずれも現に有効に存続している。
(a)昭和25年12月7日に登録出願され、次に示すとおりの構成よりなり、第21類「時計並にその各部及び附属品」を指定商品として、同27年3月7日に設定登録された登録第409366号商標(引用商標1)引用商標1() 、 、 「 、 b 昭和33年2月10日に登録出願され 次に示すとおりの構成よりなり 第21類 懐中時計腕時計、掛時計、置時計、振子時計、時計用鎖、時計機械及び側その他時計並びにその各部及び附属品」を指定商品として、同34年1月31日に設定登録された登録第532721号商標(引用商標2)引用商標2(c)平成1年1月26日に登録出願され、次に示すとおりの構成よりなり、第23類「時計,その他本類に属する商品」を指定商品として、同4年9月30日に設定登録された登録第2456616号商標(引用商標3)引用商標3( ) 原告の主張2原告は、審判請求の理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として審判甲第1号証ないし同第15号証を提出した。
( )-1 商標法第4条第1項第11号について 2本件商標は、要部とはならない四角輪郭を除外して観察すると、頂点を左側に向けた円弧状の部分と右側の開口部の両端から上下に伸びた短い直線からなる図形といえるものである。
一方、引用商標の図形部分は、いずれもギリシャ文字アルファベット「Ω」からなるものであり、
頂点を真上に向けた円弧状の部分とその開口部の両端から水平に伸びた短い直線からなる図形である。
両商標には、90度回転した点において差異があるが、その余については、その表現態様に若干の差異があるとしても、いずれも 「円弧状の部分とその開口部の両端から伸びた短い直線からなる図 、
形」であるから、その構成の軌を一にする類似の商標であるといわなければならない。
商標登録出願という手続においては、書面をもって行うため、当然天地が生ずる。しかし、商標が実際の取引の場で使用される場合には「天地」はないのである。例えば、本件商標が「腕時計」に使用された場合、それが文字盤のように天地のある部分に表示された場合には方向の特定が可能かもしれないが、時計の裏面や時計バンドの留め金等に刻印された場合には、いずれの方向から看取されるかは、もはや特定できないというべきである。また、喫煙用具や身飾品などは商品そのものに天地がない場合が多いから、取引の実際をかんがみるとき、商標はあらゆる方向から看取されることを想定するべきである。
また 「貴金属製喫煙用具,身飾品,時計」などでは、商標を商品に刻印することがしばしば行わ 、
れる。刻印は小さく、彫りが浅いため、極めて判読しにくいものが多い。そのような場合に、円弧の角度や開口部から伸びる足のような部分の細かいニュアンスは十分には表現されず、大まかな構成の類似性が大きく影響すると考えられる。
したがって、指定商品の取引の実際もあわせかんがみるとき、本件商標は引用商標の各図形と、外観上疑いなく紛らわしいものである。
両商標は称呼観念において類似するところはない。
そして、本件商標と引用商標の指定商品は 「時計」という同一の商品を指定しているばかりでな 、
く、その他の商品についても、商品の性格、販売経路等を共通にするものであるから互いに類似する商品であるといわなければならない。
( )-2 商標法第4条第1項第15号について 2「Ω 「OMEGA」の商標は、日本国内においても極めて周知著名であることは、提出の審判甲 」、
号証から明らかである。また、原告の製品の中には宝飾性の高い時計があり、高価な時計であるとともに、芸術作品として、装身具・宝石として高い評価を得ているものであり、本件商標の指定商品中の「貴金属製喫煙用具,身飾品」とは、共に宝飾品の概念に属し、同一の店舗・売り場又は隣接・直近の売り場で展示し、取引されるものであるから、非常に関連性の深いものであることは疑義のないところである。
したがって、本件商標が「貴金属製喫煙用具,身飾品,時計」に使用された場合には、その商品が、。 原告の業務に係る商品であると誤認され 出所混同を招来するおそれが極めて高いというべきであるよって、本件商標は、第4条第1項第11号及び同第15号証の規定に該当するものであるから、
その商標登録は無効とされるべきである。
( )-3 答弁に対する弁駁 2本事件は、審判甲第12号証及び同第13号証の異議事件の再現ともいうべきものであり、当事者及び関係商標も同一であるから、判断の一貫性と継続性をいうのであれば、本件登録が無効とされることこそが国の「一貫性と継続性」を全うすることである。
( ) 被告(被請求人)の主張 3原告は、本件審判請求において数々の理由を主張しているが、これらは過去の本件商標に対する異議申立事件(平成11年異議第91711号)での主張を繰り返すものにすぎない。これは審判手続の乱用である。
被告は、本件商標を使用して既に商品化をしており、もし特許庁の判断が猫の目のように変わるのであれば、被告は国民として安心して商標権の使用ができない。そもそも国(特許庁)の判断は「一貫性と継続性」によって行われるべきものである。
( ) 商標法第4条第1項第11号該当性に関する審決の判断 4本件商標は、前記1のとおりの構成からなるところ、細線で表された四角輪郭内に肉太の円と縦の直線をその右端において接合させ、接合中央部分においてわずかな切れ目を入れた構成からなるものである。そして、輪郭部分と内部の図形とは極めて近接した位置関係にあることから、全体として、
一体的なものとして認識されるものである。
他方、前記のとおり、引用商標1は、ギリシャ文字アルファベットの最終文字である「Ω」と「OMEGA」の文字からなるものであり、引用商標2は、ギリシャ文字アルファベットの最終文字である「Ω」と「オメガ」の文字からなるものであり、引用商標3は、ギリシャ文字アルファベットの最終文字である「Ω」の文字からなるものである。
してみれば、本件商標と引用各商標とは、前者が図形商標として認識されるのに対して、後者がギリシャ文字の中でも我が国において比較的親しまれている「Ω(オメガ 」の文字商標として認識さ )れるものであって、商標の構成において顕著な差異を有するものであるから、これを時と所を異にして離隔的に観察するも、外観において相紛れるおそれはないものといわなければならない。
この点について、原告は、引用各商標の「Ω」の文字を図形として捉え、本件商標と引用各商標とは、いずれも、円弧状の部分とその開口部の両端から伸びた短い直線からなる図形であるから、その構成の軌を一にする類似の商標である旨主張している。
しかしながら、引用各商標は、これを図形としてみたとしても、円弧状の部分とその下部に開いた開口部の両端から横に伸びた短い足のごとき直線からなるものであり(引用商標1の図形部分は、開口部の両端のやや下から直線が伸びている 、円弧状の下部の開口部がかなり広く開いているところ )に特徴を認めることができる。
そうとすれば、原告が主張するように、本件商標を90度回転させて、かつ、輪郭内の図形部分のみを引用各商標と比較しても、本件商標は、上述のとおり、接合部分にわずかな切れ目を入れた円と直線の組合せからなるものであるのに対して、引用各商標は、広く開いた開口部の両端から短く伸び、、 た足のごとき直線を有する円弧状の図形であり その描出方法に著しい差異を有するものであるから比較的簡単な構成からなる両者にあっては、上記の差異は視覚上明らかに認識し得るものといわなければならない。
さらに、この点について、原告は、この種商品にあっては、商標が刻印されることが多く、刻印は小さく、彫りが浅いため、極めて判読しにくいものである旨主張している。
しかしながら、原告が主張するような事情があるとしても、引用各商標が「オメガ」の称呼観念を喪失してしまうような、単なる円と直線のごとくに刻印されるものとは到底考えられず、現に、審() 、 判甲第6号証及び同第7号証 原告のカタログ に掲載されている時計の原寸大程度のものをみても刻印されている商標は、明瞭に「Ω」であることを判読し得るものである。これに対して、本件商標は、原告が主張するような事情の下にあっては、円と直線の接合部分の切れ目は極めて微細なものであることから、この微細な切れ目は、ほとんど判読し難い程度のものとなり、正に、円と直線からなる図形として認識されるものというべきである。
そうとすれば、原告の主張するところをすべて勘案しても、本件商標と引用各商標とは、商標全体から受ける視覚的印象を全く異にするものであるから、外観において十分区別し得る非類似の商標といわなければならない。
また、本件商標は、原告も認めているように、特定の称呼観念を生じないものであるから 「オ、
メガ(ギリシャ文字アルファベットの最終文字としてのオメガ 」の称呼観念を生ずる引用各商標 )とは、称呼観念においても明かな差異を有するものである。
したがって、本件商標と引用各商標とは、外観称呼及び観念のいずれの点においても類似するところのない非類似の商標である。
( ) 商標法第4条第1項第15号該当性に関する審決の判断 5引用各商標が原告の業務に係る商品「時計」を表示する商標として、我が国における取引者・需要、。 者の間においても著名なものであることは 各審判甲号証を徴するまでもなく認め得るところであるしかしながら、本件商標と引用各商標とは、上記( )のとおり、互いに区別することができる明ら 4かに別異の商標と認められるものであるから、被告が、本件商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者・需要者をして、引用各商標を連想又は想起させるものとは認められず、その商品が原告又は同人と何らかの関係のある者の業務に係るものであるかのごとく、その商品の出所について混同を生じさせるおそれはないものといわなければならない。
( ) 審決の結論6したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同第15号に違反して登録されたものでないから、商標法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきでない。
原告主張の審決取消事由
1 審決に対する認否( ) 審決の理由の要点( )の最初の段落における「円と縦の直線をその右端にお 14いて接合させ、接合中央部分においてわずかな切れ目を入れた構成からなるものである 」の部分について争う。円と縦の直線といっているが、円とはあくまでも全 。
体がつながった状態である。わずかとはいえ切れているのは円弧である。薄い色ならともかく濃い黒色でほぼ全体が目立つように形成されているところに、それとは対極にある色である白色で切り目を入れると、その切れ目が極めて目立ち、その図形が小さくともその切れ目は明確に区別できる。したがって、本件商標は円弧と、
その開口部の両端から延びた短い直線とによって構成されているというべきである。その結果、ギリシャ文字Ωの形状に似た図形になっている。真に円と直線の組み合わせの図形とするならあえてその直線と円の交わった箇所に切れ目を入れる必要はない。あえてここに切れ目を入れたのは世界的に著名な原告のマーク「Ω」に類似させようと意図したものと考えるべきであろう。また、本件商標は上記した特徴的なΩに類似した図形の周囲を四角の枠で囲ってあるが、これはその内側の図形の特徴に比べて極めてありふれた形状であって、それ自体特徴がなく、自他商品の識別の役を果たさない。枠の内側に配置された図形が、特に本件商標のように特徴的であれば、その枠内の図形と類似したものがあれば、そのような枠があるか否か、。、 によって 全体の類否に影響を及ぼす可能性はないというべきである したがって以下の検討においても、本件商標と引用商標の類否を判断するに当たっては必要な箇所以外ではこの枠について言及しない。
( ) 審決の理由の要点( )の第3段落について争う。審決では、本件商標が図形 24商標であり、引用商標が文字商標であって、商標の構成において顕著な差異を有する、と結論づけているがこれは明らかな間違いである。審決によると図形商標と文字商標は類似することがないという論理であるが、図形商標と文字商標とを比較した場合であっても、その外観が似ているのは似ていると、似ていないのは似ていな、。、 いというべきであって 審決の論理は明らかな間違いである 類似するかどうかは図形であるか文字であるかによって判断すべきではなく、両者の外観・形状によって判断すべきである。本件商標は四角の枠を取り払ってみると、円弧とその開口両端から延びる短い直線とによって構成されており、引用商標の特徴と同じであり、
その外観は引用商標に極似している。上記のように、外観を比較すると、両者は類似しているのであるから、同じ段落のその後の「これを時と・・・・いわなければならない 」も間違いであるのはいうまでもない。 。
( ) 審決の説示「円弧状の・・・認めることができる」について争う。引用商 3標の特徴は円弧とその開口両端から互いに逆方向に短い直線が延びている形状が特徴なのであって、その開口が広く開いている点に特徴はない。引用商標の図形の部分は、開口が広いか狭いかはどうでもよく、要するにΩの外観を有する形状であると認識できさえすればよいのである。
( ) 審決の次の段落も争う。本件商標と引用商標の特徴が上記の通り審決の認 4識と異なるためである。本件商標と引用各商標とを図形的に比べてみれば分かるように特に大きな差異は見られない。また、この段落では「その描出方法に著しい差異を有する」と認定している。しかし、その「描出方法」がいかなる意味を持つか不明である。仮に「描出方法」が図形のなりたちを意味しているとすれば、本件商標と引用商標は双方とも目立つように円弧がありその円弧の開口部の両端からそれぞれ短い直線が互いに反対側に延びているのはだれが見ても明らかであり、描出方法に著しい差異など存在しない。また、仮にある二つの商標がそれらの描出方法に違いがあっても、外観上似ていればその二つの商標は当然類似というべきであり、
描出方法の違いによって全く別の図形になったとするならば、図形の形が違うといえばよいのである。描出方法の違いなどいう必要はないといわざるを得ない。
( ) 同じ段落のその後に「比較的簡単な構成からなる両者にあっては、上記の 5差異は視覚上明らかに認識し得るものといわなければならない 」とあるが、これ。
も明らかな間違いである。比較的簡単な構成であるのは確かである。しかし、双方の特徴は全体的に大きな円弧とその開口端の両側からそれぞれ反対側に延びている短い直線であり、図形が簡単でありその特徴が共通しているのでだれでもが似ていると直観できるものである。
( ) 次の次の段落「しかしながら・・・というべきである 」も争う。この段 6 。
落で「原告が主張するような事情の下にあっては、円と直線の接合部分の切れ目は極めて微細なものであることから、この微細な切れ目は、ほとんど判読しがたい程度のものとなり、正に、円と直線とからなる図形として認識されるものというべきである 」という判断は完全な間違いである。前述したように、明瞭な太い黒線で 。
、。 ほぼ円形に描きそこに直線状の切れ目を入れると その切れ目が目立つものである特に構成が簡単であればあるほど切れ目も重要になる。もちろん、虫眼鏡で見なければならないほど小さくすれば分からなくなるが、商標の使用目的から見て、そのような使用方法は現実的でない。そもそもその切れ目を目立たなくするならば切れ目を入れなければよいのである。あえて切れ目を入れようとするのはそれを目立たせるためであるのはいうまでもなく、したがって、使用方法としても、それを目立つ方法で使用するものであるのは当然である。せっかく入れた切れ目を目立たなくすることはあり得ないからである。商標はいうまでもなく自他商品を識別するために商品に付すのであるから、小さくするにしても、存在する切れ目があることが認識できる程度にとどめるはずであり、商標の一体性が失われるような使用の仕方をするはずがないから、商標の一体性が失われるまで小さくして論じるのは無意味である それにもかかわらず 審決では本件商標に存在する切れ目をほぼ無視して 円 。、 「と直線とからなる図形として認識される」と認定しているのは、本件商標を誤認したものといわざるを得ない。
( ) 次の段落も争う。上記したように、本件商標が切れ目を有する事実を無視 7して「商標全体から受ける視覚的印象を全く異にする」という判断がそもそも間違いであり、当然、その後の「外観において十分区別し得る非類似の商標といわなければならない 」というのも誤りである。 。
( ) 最後の段落も争う。本件商標と引用各商標とは、それぞれ円形に近い大き 8な円弧とその開口端の両側からそれぞれ反対側に延びている短い直線とからなり、
互いに共通した外観上の特徴を有している。したがって、互いに類似している。
( ) 審決の理由の要点( )の判断も争う。この他人の業務に係る商品と混同を生 95じさせないという審決の判断の根拠は、審決を見れば明らかなように、理由の要点( )で本件商標と引用各商標とが別異の商標と認められるものであると誤って結論 4づけたためである。確かに全く別の商標であれば、商品の誤認を生じるおそれはない。しかし、上述したように、本件商標は世界的に著名なオメガ社のマークに似させたもので、現に似ているのであるから、この審決の判断は当然間違っているといわざるを得ない。
2 本件商標と引用各商標との類否( ) 自他商品の識別にほとんど寄与せず、商標の類否の差異にはほとんど考慮 1されない、細い細線による四角の枠を除いた、自他商品の識別の根拠となる本件商標の特徴部分は、肉太の明瞭な黒い線でほぼ円形の一部を切り欠き開口を設けて円弧とし、その円弧の開口の両端それぞれから互いに反対側に短い直線を延ばした形状である。その短い直線の長さもほぼその円弧部の外側までである。一方、引用商。、 、 , 標の中心的・特徴的形状はΩである しかし 細かく見ると 引用例1と引用例23とではマークの形状が異なっている。基本的にはギリシャ文字Ωをデザイン化したもので、いずれも明瞭な黒線によって円弧を描き、その円弧の両開口端から引用例2,3は互いに反対側に短い直線が直接延びた形状とし、引用例1の場合は開口の両端に平行に延びるわずかな短い直線の先端から互いに反対側に短い直線が延びた形状としている。印刷された「Ω」の文字からも理解されるように、本来ギリシャ文字「Ω」は円弧と短い直線との間に円弧と直線とを連結する縦の棒がある形状。, 。 、 である 引用商標2 3にはその縦の棒がない このような細かな差異があってもその図形を見ると需要者はオメガ社のマークであると認識する。需要者にとってはそのような細かな差異はそれほど重要なことではなく、全体的に見て文字Ωのように見えさえすれば、オメガ社のマークと判断するものである。本来、商標の類否の判断は、本来、審決も指摘しているように、基本的に離隔的に判断すべきであるので、特に図形商標の場合、その図形の細かな差異まで検討せず、全体的に見た印象が似たようなものかどうか判断すべきである。切れ目の間隔が広いの狭いのと細かな差異をあげつらって比較すべきではない。そのような細かな差があるというだけで商標が類似していないと判断していては、多数の同じような商標が別々に登録されることなり、商標が商標としての役を果たさなくなる。
( ) 商標を比較する場合、単純に両者の形状を比較するだけでなく、一方が著 2名であれば、その事実をも考慮すべきであるのは商標類否判断の基本である。本件の場合、単純に比較しても直感的に類似していることが理解されるが、なによりもまず、引用商標が世界的に著名であることを前提として論じるべきである。本件商標の場合も指定商品には時計が含まれている。この分野でΩのマークはだれでもが知っており、一種あこがれの念さえ懐く人も多い。そして、一般的な商標の類否判断おいても同じであるが、特にそれらの指定商品の需要者はマークの細かな特徴を細部にわたって検討するようなことはなく、さらに、引用商標の使用を見ても引用商標1と引用商標2,3とが異なるように、商品に付けられているマークもいつも細部にわたって全く同じであるとは限らないため、彼らは円弧とその両開口端から延びる短い直線とからなる図形・マークを時計に見つければ、その切れ目の大小にかかわらず、オメガ社の商品であると直感的に誤認するのは明らかである。基本的に類似商標を登録させないのは出所の混同を生じさせないようにするためである。
したがって、本件商標は引用各商標に類似している。
( ) このように、オメガ社のマーク「Ω」の図形は極めて顕著であり、その特 3徴が円弧と短い直線である。したがって、同様に円弧と短い直線とからなる本件商標の図形を需要者が時計と共に見た場合、一見してΩの図形と類似すると認識するのは、その図形の際立った特徴と顕著性から明らかである。むしろ、時計と共に本件商標を見て、Ωの図形と無関係と認識する方が極めてまれであろう。
( ) 先にも述べたが、単に円と直線の図形とするなら、あえて両者の結合部に 4Ωに見えるような切れ目を入れる必要はないのである。あえてこの切り目を入れたのはΩに似せるため以外の何ものでもない。おそらくどの国でも本件商標のような商標はその登録を拒否されるであろう。現に我が国においても、過去に被告は本件商標を2度出願したが、いずれも拒絶されている(商願商58-9461号、商願商61-58462号 。にもかかわらず、今回は登録し、異議申し立てに対して )、、 、 も 今回の無効審判請求に対しても 被告がほとんど反論らしい反論をしないのになぜか登録を維持させている。世界の趨勢に反しているといわざるを得ない。
( ) 以上のように、本件商標の図形は明らかに引用商標のオメガ社のマークで 5ある「Ω」の外観と酷似しており、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものとして登録を無効とされるべきである。
3 商標法第4条第1項第15号について上記のように、本件商標は原告の所有する上記引用商標に類似し、またオメガ社のマークは極めて著名であるので、本件商標を時計以外の身装品、貴金属製喫煙用具に使用した場合であっても、本件商標のΩへの類似性から需要者はそれらの商品をΩのマークが付いた商品と誤認するのは明らかである。よって、本件商標は他人の業務に係る商品と混同を生じるおそれがある商標に該当し、その登録は無効とされるべきである。
本訴における被告の対応
被告は、適式の呼出しを受けたにもかかわらず、本件口頭弁論期日に出頭せず、
答弁書その他の主張書面も提出しなかった。当裁判所は、第1回口頭弁論期日において弁論を終結し、本判決の言渡期日の呼出しもしたが、被告からは何の応答もなかった。
当裁判所の判断
1 前記第2の1のとおりの構成からなる本件商標は、細線で表された四角輪郭内に肉太の円と縦の直線をその右端において接合させ、接合中央部分においてわずかな切れ目を入れた構成からなるものであることは、審決認定のとおりである。他方、引用商標1は、ギリシャ文字「Ω」と「OMEGA」の文字からなるものであり、引用商標2は、ギリシャ文字「Ω」と「オメガ」の文字からなるものであり、
引用商標3は、ギリシャ文字「Ω」の文字からなるものである。この点も審決認定のとおりである。
商標が実際の取引の場で使用される場合、特に本件商標が指定商品の一種である腕時計に使用された場合に「天地」がなく、いずれの方向から商標が看取されるかについて特定されない場合があることは、原告が審判請求の理由で主張しているとおりであり、当裁判所もこの点を取引の実情として自明のものと認める。この点に従い、引用各商標との対比においては、本件商標を時計回りに90度回転させた態様のものとして、以下判断する。
2 本件商標中、細線で表された四角輪郭は囲いにすぎず、肉太の線で構成される部分に比して印象が薄いので、本件商標における識別力はほとんどないものと認めるべきである。したがって、本件商標で特徴的に認識されるのは、太線で描かれた、円弧とその開口部の両端から延びる短い直線の部分にあるものと認められる。
他方、引用各商標を構成する図形ないしギリシャア文字としての「Ω (引用商」標1〜3 、文字としての「オメガ (引用商標2 、文字としての「 (引 )」) 」 OMEGA用商標1)が、いずれも時計の商標を構成するものとして世界的に極めて著名なものであることは、当裁判所に顕著な事実である。そして、ギリシャ文字「Ω」の特徴的な部分は、下部に開口部を有する円弧部分と、その両端から延びる短い直線の部分にあると認識するのが、我が国の一般人の印象であると十分に推認されるのであり、この点は、本件商標における上記特徴的に認識される部分も共通して有しているところである。本件商標の円弧の開口部分は、審決が認定するように、わずかな切れ目であると評価することもできるが、他方、円弧及び直線を構成する線が太線であることとの対比からすれば、上記開口部分は切れ目を構成しているとの印象から離れることはできないのであり、開口部分の幅の広狭をもって、本件商標と「Ω」の文字との間で上記のように共通して特徴的に認識される部分に比して、これを凌駕するほどの差異であると認めることはできない。
3 開口部から延びる直線部分についてみるに、審決は 「引用各商標は、広く 、
開いた開口部の両端から短く伸びた足のごとき直線を有する円弧状の図形」であると評価しているが、原告が審判で主張した点、すなわち 「 貴金属製喫煙用具, 、「身飾品,時計」などでは、商標を商品に刻印することがしばしば行われる。刻印は小さく、彫りが浅いため、極めて判読しにくいものが多い。そのような場合に、円弧の角度や開口部から伸びる足のような部分の細かいニュアンスは十分には表現されず、大まかな構成の類似性が大きく影響すると考えられる 」との取引の実情は。
十分に肯認することができ、足のごとき直線か(引用各商標の「Ω」の部分 、単)なる直線か(本件商標)の差異は、本件商標の指定商品取引の実情において、特徴的な差となるものではないと認めることができる。この点に関し、審決は 「本、
件商標は、原告が主張するような事情の下にあっては、円と直線の接合部分の切れ目は極めて微細なものであることから、この微細な切れ目は、ほとんど判読し難い程度のものとなり、正に、円と直線からなる図形として認識されるものというべきである 」と説示するが 「微細な切れ目がほとんど判読し難い程度のものとなり」 。、
との部分を支持することができないのは前記のとおりであり(したがって、本件商標は「正に、円と直線からなる図形として認識される」との審決の認定部分も誤りである 、上記取引の実情の下において、本件商標は、開口部を有しそこから両 。)端に延びる直線を有する点において「Ω」の文字の特徴的な部分で共通するもの 、
であるといわなければならない。
4 以上説示したところによれば、本件商標と引用各商標とは、本件商標の指定,。、 商品の取引の実情からみれば 外観において共通するものというべきである また本件商標のこの特徴的な部分からは 「オメガ」の称呼が生じ 「Ω」が世界的に 、、
、、「」 極めて著名な時計の商標であることからすると本件商標からは オメガの時計との観念も生じ得るものと認めることができる。この観念は、引用各商標においても生じるものであることはいうまでもない。よって、本件商標と引用各商標とは、
称呼観念においても共通するものである。
5 以上のとおりであり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものとして、商標法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきものである。これに反して本件審判請求を成り立たないものとした審決は、誤りである。
結論
よって、主文のとおり判決する。
(平成14年4月25日口頭弁論終結)
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 田中昌利