関連審決 | 審判1999-35329 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成19行ケ10113審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成21行ケ10038審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成19行ケ10391審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成18行ケ10525審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成20行ケ10142商標登録取消決定取消請求事件 | 判例 | 商標 |
関連ワード | 識別力 / 取引対象 / 指定商品 / 指定役務 / 著名な略称 / 周知商標 / 周知性 / 公序良俗(4条1項7号) / 4条1項8号 / 4条1項10号 / 著名商標 / 類似性(類否判断) / 外観(外観類似) / 称呼(称呼類似) / 観念(観念類似) / 出所の混同 / 他人の名称 / 無効審判 / 外国 / 継続 / 商号 / 同業者 / 卑猥(卑わい) / 差別的 / |
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事件 |
平成
13年
(行ケ)
430号
審決取消請求事件
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原告 インター・シティ株式会社 訴訟代理人弁理士 伊藤哲夫 被告 興和不動産株式会社 訴訟代理人弁理士 瀬戸昭夫 同 成合清 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/06/11 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成11年審判第35329号事件について平成13年8月20日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨。 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,「SHINAGAWA INTER CITY」及び「品川インターシテイ」の文字を二段に横書きして成り,商標法施行令1条別表の商品及び役務の区分第36類の「プリペイドカードの発行,クレジットカード利用者に代ってする支払代金の精算,預金の受入れ(債券の発行により代える場合を含む。)及び定期積金の受入れ,資金の貸付け及び手形の割引,内国為替取引,債務の保証及び手形の引受け,有価証券の貸付け,金銭債権の取得及び譲渡,有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり,両替,金融先物取引の受託,金銭・有価証券・金銭債権・動産・土地若しくはその定著物又は地上権若しくは土地の賃借権の信託の引受け,債券の募集の受託,外国為替取引,信用状に関する業務,有価証券の売買,有価証券指数等先物取引,有価証券オプション取引及び外国市場証券先物取引,有価証券の売買・有価証券指数等先物取引・有価証券オプション取引及び外国市場証券先物取引の媒介・取次ぎ又は代理,有価証券市場における有価証券の売買取引・有価証券指数等先物取引及び有価証券オプション取引の委託の媒介・取次ぎ又は代理,外国有価証券市場における有価証券の売買取引及び外国市場証券先物取引の委託の媒介・取次ぎ又は代理,有価証券の引受け,有価証券の売出し,有価証券の募集又は売出しの取扱い,株式市況に関する情報の提供,生命保険契約の締結の媒介,生命保険の引受け,損害保険契約の締結の代理,損害保険に係る損害の査定,損害保険の引受け,保険料率の算出,建物の管理,建物の貸借の代理又は媒介,建物の貸与,建物の売買,建物の売買の代理又は媒介,建物又は土地の鑑定評価,土地の管理,土地の貸借の代理又は媒介,土地の貸与,土地の売買,土地の売買の代理又は媒介,建物又は土地の情報の提供,骨董品の評価,美術品の評価,宝玉の評価,当せん金付証票の発売,企業の信用に関する調査,慈善のための募金」を指定役務とする商標(平成7年6月29日登録出願。平成9年12月26日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。 原告は,「インター・シティ株式会社」の商号で不動産業を営んできている者である。 原告は,本件商標の登録を無効とすることについて審判を請求した。特許庁は,この請求を平成11年審判第35329号事件として審理し,その結果,平成13年8月20日に,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月30日,その謄本を原告に送達した。 2 審決の理由の要点 別紙審決書の理由の写し記載のとおりである。要するに,@「INTER・CITY」,「INTER CITY」,「インター・シティ株式会社」,「インターシティ」,「インター・シティ」の各商標(以下,これらの商標を「引用商標」と総称する。)は,本件商標の登録出願前から我が国又は外国において広く認識された商標であると認めることはできないから,本件商標は,商標法4条1項10号,15号,19号のいずれにも該当しない,A本件商標は,原告の名称である「インター・シティ株式会社」を含むものでもなく,また,原告の略称である「インター・シティ」及び「インターシティ」を,著名であると認めることはできないことからして,原告の著名な略称を含むものであるとすることもできないので,商標法4条1項8号に該当しない,B(ア)本件商標は,その構成自体がきょう激,卑わい,差別的若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形によって成る商標,商標の構成自体はそうでないものの,指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し,又は社会の一般道徳観念に反するような商標,他の法律によってその使用が禁止されている商標の,いずれにも当たらないこと,(イ)引用商標が本件商標の登録前に取引者・需要者間に広く認識されているとはいえないこと,本件商標と引用商標とは外観,称呼,観念のいずれの点よりみても類似しない商標であることから,他人の使用商標を盗用したものであると認めることはできないこと,などからすると,本件商標は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」と認めることはできないというべきであり,商標法4条1項7号に該当しない,として,原告主張の無効事由をすべて排斥したものである(ただし,審決が原告が引用した商標として「インターシティ株式会社」を挙げていないことに,原告は不服を述べている。)。 |
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原告の主張の要点
審決の理由中,「1 引用商標の特定について」(審決書22頁14行〜31行)のうち,「INTER・CITY」,「INTER CITY」,「インター・シティ株式会社」,「インターシティ」,「インター・シティ」を引用商標としたことは認め,「インターシティ株式会社」を引用商標から除外したことは争う。「2 引用商標の周知・著名性について」(22頁32行〜38行)及び「3 本願商標と引用商標との類否について」(23頁1行〜21行)は争う。「4 本件商標の商標法第4条第1項第10号,同第15号及び同第19号の該当の可否について」(23頁22行〜28行)のうち,同項10号,15号に該当しないとの判断は争う。「5 本件商標の商標法第4条第1項第8号該当の可否について」(23頁29行〜24頁1行),「6 本件商標の商標法第4条第1項第7号該当の可否について」(24頁2行〜15行)は争う。 審決は,引用商標の特定を誤り(取消事由1),本件商標についての認定を誤った結果,本件商標と引用商標との類否判断を誤り(取消事由2),引用商標の周知・著名性の認定を誤った結果,本件商標の商標法4条1項10号,15号該当性の判断を誤り(取消事由3),本件商標と引用商標との類否判断及び引用商標の周知・著名性の認定について理由を付さず(取消事由4),本件商標の商標法4条1項8号該当性の判断を誤り(取消事由5),本件商標の商標法4条1項7号該当性の判断を誤った(取消事由6)。審決の犯したこれらの誤りは,それぞれ結論に影響することが明らかであるから,審決は,違法なものとして取り消されるべきである。 1 取消事由1(引用商標の特定の誤り) 審決は,「インターシティ株式会社」を引用商標に入れていない。 しかし,甲第75ないし第118号証,第123,第126,第127号証の記載及び商取引の経験則によれば,文字間の「・」を省略して理解,使用することは一般的であると認められること,に照らすならば,「インターシティ株式会社」も引用商標に含めるべきである。審決には,この点において既に誤りがある。 2 取消事由2(本件商標の認定の誤りによる類否判断の誤り) 審決は,本件商標は,「『SHINAGAWA INTER CITY』及び『品川インターシテイ』の文字を二段に書してなるものであるところ,それぞれ外観上まとまりよく一体的に構成され,しかも,全体をもって呼称してもよどみなく一連に『シナガワインターシティ』と称呼できるものである。そして,たとえ,『SHINAGAWA』,『品川』の文字が著名な地名を表すものであるとしても,本件商標の指定役務においては,むしろ構成全体をもって一体不可分のものと認識し把握されるとみるのが自然である。」と認定した(審決書23頁2行〜9行)。 しかし,本件商標が使用されている主な場所は,品川駅(甲第125号証),同駅東口に位置する隣接した開発地(東京都港区<以下略>)及びその近辺の道路の看板やコンコースの掲示板(甲第11ないし第13号証,第124号証)である。本件商標を目視した取引者・需要者は,だれでも「品川」という著名な場所を認識し,地名である品川に存在する「INTERCITY」及び「インターシティ」であると分離して認識することは,経験則に照らし明らかである。地名のように当該場所を認識させるに十分なほどに著名な名称が結合した商標が不動産取引のような指定役務につき用いられた場合においては,一般に,その著名な名称は,単なる役務の所在地を表示するものとして認識されるにとどまり(例えば,「○○産」,「○○特産」,「○○直送」など),商標全体がその著名な名称を含めて一体不可分の語として認識されることはない,というべきである。 本件商標中の「品川」,「SHINAGAWA」の文字は,現実の使用の際には,他の部分から分離されたり,小さくされたり,色分けされたり,削除されたりして使用される。このことは,@「SHINAGAWA」の文字を小さく,「INTERCITY」の文字を大きく表現している使用例があること(甲第8,第11ないし第13号証),A「SHINAGAWA」の文字と,「INTERCITY」の文字とが色分けされて表現されている例があること,B被告について,「インターシティ」の文字が独立して記載された新聞記事(甲第7,第9号証)や案内板等(甲第10,第125号証)があること,から明らかである。 以上のとおりであるから,本件商標全体を一体不可分な語とし,これを前提に,本件商標と引用商標とは類似しないとした審決の認定判断は,誤りである。 3 取消事由3(引用商標の周知・著名性の認定の誤り) 審決は,原告が,東京都港区<以下略>において,昭和61年から現在に至るまで継続的に不動産業を営んできたことを認めたものの,「提出された書証によっては,引用商標が本件商標の登録出願時において取引者,需要者間に広く認識されているものとは言い難い」(審決書22頁36行〜38行)と認定したが,誤りというべきである。 (1) 引用商標の使用開始時期,原告の業務内容(以上は,審決の上記認定のとおりである。),引用商標の使用方法,使用態様,使用期間(甲第26号証参照),引用商標を記したものの頒布の量(多数の広告ちらし等<甲第14〜第20号証,第28〜第123号証,第129〜131号証>,営業案内書<甲第22号証>,あいさつ状<甲第23号証>,年賀状<甲第24号証。昭和61年末に約500人に投函>,及び封筒<甲第25号証>等),引用商標を記したものの頒布範囲(甲第33,第38〜第41号証),原告の同業者の作成に係る証明書(甲第27号証)などを総合するならば,引用商標は,原告の不動産業務に係る役務を表示するものとして,本件商標の出願時である平成7年以前から,登録査定時である平成9年を経て,今日に至るまで,東京都,神奈川県,埼玉県,千葉県,茨城県等の首都圏の取引者・需要者間において広く認識され,自他の不動産業を識別する力を備えた周知の商標である,と認めることができる。 (2) 原告は首都圏の物件を不動産業務の取引対象としており,引用商標を記載した上記各広告ちらしに記載された物件は,東京都港区のほか,神奈川県横浜市(甲第33号証),東京都品川区(甲第38号証),神奈川県横須賀市(甲第39号証),神奈川県三浦市(甲第40号証),東京都江東区(甲第41号証)などの首都圏の物件である。 上記広告ちらしを印刷したアットホーム株式会社は,首都圏に展開する不動産情報の最大手で,原被告を含め多数の不動産業者の会員を有し,当該会員に多数の不動産の物件情報を発信している。引用商標が記載された不動産情報が掲載された週間住宅情報(甲第75ないし第118号証,第130,第131号証参照)は,株式会社リクルートから発行され,東京都,神奈川県,埼玉県,千葉県,茨城県等の首都圏の広範囲にわたり,頒布されている。その他,営業報告書,あいさつ状,年賀状及び封筒なども首都圏において多数頒布されている。 (3) 一般に,周知商標に当たるといえるためには,全国的に知られている必要はなく,いわゆる一定の地域で取引者・需要者に広く認識されていれば足りる,と解するべきである。 一般的に,サービス業は,地域密着型のものが多く,不動産業も,その業務上,一部の大手不動産を除き,特定の地域に根ざした業種である。商標における周知性を判断する際には,その指定役務との関連性をも考慮すべきであり,不動産業のような,特定の地域に根ざしたサービス業の場合には,当該商標が,全国的に知られていることは必要でなく,首都圏で認識されていれば十分であるというべきである。 引用商標は,上記のとおり,首都圏において,取引者・需要者に広く知られているのであるから,周知商標に当たる,とすべきである。 4 取消事由4(判断に理由を付さなかった誤り) 審決は,引用商標の周知・著名性に関する原告の主張,立証に対し,それらを否定する何らの根拠も示さないまま,結論だけを述べている。また,本件商標と引用商標との外観及び観念における類似性についても,これを否定する理由を述べないまま,結論だけを述べている。これは,審決は,結論及び理由を文書をもって記載しなければならないと規定している,商標法56条が準用する特許法157条2項4号に明白に違反するものというべきである。 5 取消事由5(商標法4条1項8号該当性の判断の誤り) 原告の名称である「インター・シティ株式会社」は,本件商標の出願以前から商号登記されている商号である(甲第3号証)。 「インターシティ」,「INTERCITY」も,原告の名称であると解するべきである。したがって,本件商標は,他人の名称を含む商標であり,かつ,その他人の承諾を得ていないものであるから,商標法4条1項8号に該当するというべきである。 「インターシティ」,「INTERCITY」が,原告の名称ではなく略称であるとしても,これらが原告の役務を表示するものとしてよく知られていることは,前記3で述べたとおりであるから,本件商標は,他人の著名な略称を含む商標として,商標法4条1項8号に該当するというべきである。 6 取消事由6(商標法4条1項7号該当性の判断の誤り) (1) 引用商標が,「インターシティ」,「INTERCITY」という独創的な商標であることからすれば,本件商標と引用商標との一致が偶然の一致であるなどということはあり得ない。 原告と被告とは,同一地域(甲第133号証)の同一業者であって,共に同じ不動産情報会社(甲第129号証)の会員であること(甲第5号証),同一物件の契約の仲介をしたことがあること(甲第6,第136号証),被告は,原告に係る多数の不動産情報を得ていること(甲第14〜第43号証)などを総合すると,被告は,原告の使用する引用商標を盗用したものと推認することができる。 このように,本件商標は,原告の使用する商標を盗用して採用されたものである上,同商標を同一地域での同一業務に使用する原告の業務上の信用を害し,商品流通,社会の秩序を侵害するものであるから,公序良俗に違反するものとして,商標法4条1項7号に該当するものというべきである。 (2) 被告は,被告以下数社が,株式会社共同広告社にネーミング作成を依頼した結果,本件商標の内容が決定された,と主張する。しかし,上記主張の根拠とされた証拠(乙第19号証の1〜6,第21〜第29号証)は,被告の主張を裏付けるに足りるものではないものというべきである。 |
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被告の反論の要点
審決の認定判断は正当であり,審決に,取消事由となるべき瑕疵はない。 1 取消事由1(引用商標の特定の誤り)について 審決は,原告の主張及び提出に係る証拠により引用商標を特定したものである。文字間の「・」を省略した「インターシティ株式会社」は,原告の名称の正しい表示ではなく,その使用の事実を裏付ける証拠もない。 審決が「インターシティ株式会社」を引用商標から除いたことに誤りはない。 2 取消事由2(本件商標の認定の誤りによる類否判断の誤り)について 審決が,本件商標は,構成全体が一体不可分のものと認識され把握されるとみるのが自然であるとし,この判断を前提に,本件商標と引用商標とは,その称呼,外観,観念において類似しないとしたことに,誤りはない。 仮に,上記の点で審決に何らかの意味で誤りがあるとしても,そもそも,本件商標の登録が商標法4条1項10号,15号に違反してなされたとの判断は,引用商標が本件登録出願のときに原告の業務に係る役務を表示するものとして取引者・需要者間に広く認識されるに至っていた商標であることが認められて初めて許されるものであるのに,引用商標がそのように認められる商標ではないことは,後記のとおりであるから,本件商標の登録は,同商標と引用商標との類否について検討するまでもなく,上記各号に該当するものでないというべきである。 3 取消事由3(引用商標の周知・著名性の認定の誤り)について 原告は,引用商標が,取引者・需要者の間に広く認識されていたと主張する。しかし,原告が,その主張を立証するために提出した証拠(甲第14〜第20号証,甲第22〜第123号証)によっては,原告主張の周知性を認めるには足りないというべきである。 「インター・シティ株式会社」の商標については,上記各証拠によって認められる程度の頒布回数,数量等をもってしては,同商標が,原告役務について,原告を表示するものとして取引者・需要者間において広く認識されていたものと認めるには足りないというべきである。 「インターシティ」,「インター・シティ」の商標については,甲第27号証の証明書のような,一同業者の証明のみによっては,同商標が,原告役務について,原告を表示するものとして取引者・需要者間において広く認識されていたものと認めるには足りないというべきである。 「INTERCITY」,「INTER・CITY」の商標については,@「INTER・CITY」が表示された甲第22号証の営業案内書及び「INTER CITY」が表示された甲第25号証の封筒は,本件商標登録出願前に頒布されたものであるものの,そこに記載された電話番号の局番表示が3桁であることからして,局番が4桁となった1991年(平成3年)以降も継続して広く頒布されていたものとは到底考えられないこと,A「INTER CITY」が表示された年賀状は,1987年に500名に送付されたものにすぎないことに照らし,「INTERCITY」,「INTER・CITY」の商標が,原告役務について,原告を表示するものとして取引者・需要者間において広く認識されていたものと認めるには足りないというべきである。 以上のとおり,引用商標が,いずれも,本件商標の登録出願時において,原告役務について原告を表示するものとして取引者・需要者間に広く認識されていたものということができないとした,審決の認定に誤りはない。 4 取消事由4(判断に理由を付さなかった誤り)について 商標が取引者・需要者の間に広く認識されているか否かの判断は,実際に使用されている商標並びに役務,使用期間,使用地域,営業の規模,広告宣伝の方法,回数などを証拠に基づき総合勘案してなされるべきものであることは自明である。審決が「提出された書証によっては,引用商標が本件商標の登録出願時において取引者,需要者間に広く認識されているものとは言い難い」としたのは,提出された書証に基づきこれらの諸点から総合勘案して判断した結果であることが明らかであるから,審決に理由が記載されていない,とすることはできないというべきである。 原告は,審決が,本願商標と引用商標との類否について,両商標は,外観,観念において相紛れるおそれはない,としたことについて,結論を示したのみで,理由を示していない,とも主張する。しかし,審決は,「前記の構成よりみて」と説示している。これは,それよりの前の部分で,本件商標が「SHINAGAWA INTERCITY」,「品川インターシティ」の文字を二段に書して成るものであるのに対し,引用商標は,「INTER・CITY」,「INTERCITY」,「インター・シティ株式会社」,「インターシティ」及び「インター・シティ」であると認定したことを踏まえて,@外観については,本件商標とこれら引用商標とは,文字,文字数,文字構成を異にするため,その外観において相紛れるおそれのないものであるとし,A観念については,その構成全体をもって一体不可分のものと認識,把握されるものとみるのが自然であるとされた本件商標は,「品川インターシティ」の観念を生ずるものであるから,「INTERCITY」,「インター・シティ株式会社」,「インターシティ」などの文字から成る引用商標と観念上相紛れるおそれのないものであることも明らかであるとした上,これらの点をも勘案,判断した趣旨で,「前記の構成よりみて・・・」としたものであるということができる。したがって,審決に理由が記載されていない,とすることはできないというべきである。 5 取消事由5(商標法4条1項8号該当性の判断の誤り)について 本件商標の登録が商標法4条1項8号に該当するものであるか否かの判断においては,本件商標がその登録出願時に原告の名称若しくは原告の著名な略称を含んでいたか,含んでいた場合は原告の承諾を得ていたかによって判断がなされるべきである。株式会社の商号において,株式会社の文字を除いた部分は,同号の「他人の名称の略称」に当たり,同号の「他人の名称」とは,株式会社の文字を含めた商号全体を指すものと解するのが相当である(最高裁昭和57年11月12日判決・昭和57年(行ツ)15号)。 本件商標は,原告の名称である「インター・シティ株式会社」を含むものではなく,また,「インター・シティ」若しくは「インターシティ」は,原告の略称ということはできるものの,本件商標の登録出願時において,原告の略称として「著名な」ものであったと認めることができないことは,前記のとおりである。したがって,本件商標は商標法4条1項8号に該当しないとした審決の判断に誤りはない。 6 取消事由6(商標法4条1項7号該当性の判断の誤り)について (1) 原告は,原告が,「インターシティ」及び「INTERCITY」という商標を使用していることを前提に,これらは,独創的な商標であるから,本件商標と,これらとの一致が偶然の一致であることはあり得ないと主張する。 しかし,原告が「インターシティ」,「インター・シティ」,「INTERCITY」,「INTER・CITY」を商標として使用したことは,何ら証明されていない。このため,本件商標の採択に当たっての後記作業の期間においても,本件商標の登録出願時においても,被告には,原告が原告役務について「インターシティ」,「INTERCITY」の商標そのものを使用しているという認識は,全くなかったのである。 原告が提出する不動産売買契約書(甲第6号証)の契約締結年月日は,本件商標の登録出願の平成7年6月29日より後の同年12月6日である。また,同契約書そのものには,原告が「インターシティ」,「INTERCITY」の商標を使用していることを認め得る記載はない。同契約書には,「INTER CITY」の表示がある原告代表者の名刺が添付されているものの,この名刺の郵便番号は,平成10年から導入された7桁郵便番号となっているから,同契約締結当時のものではないことが明らかである。したがって,これらの証拠は,本件商標の登録出願時において,原告がその役務について「インターシティ」,「INTERCITY」の商標を使用しているという認識があったことの根拠とはならないというべきである。 そもそも,「INTERCITY」は,本来,「(大)都市を結ぶ(急行など)」の意義を有する英語(乙第12号証)であり,「インターシティ」は,これらの音を仮名で表示したものである。これらが,原告の独創に係るものであるなどということは,あり得ないことである。 (2) 本件商標の採択に当たっては,共同事業者である被告,住友生命保険相互会社及び株式会社大林組がネーミング制作の担当として株式会社共同広告社を起用し,同社のネーミング案について,上記共同事業者に株式会社日本設計を加え,全5社において,その作業が行われた結果として,本件商標が決定されたものである(その経過につき乙第19号証の1ないし6)。このような本件商標の商標登録出願に至るまでの経過をも考慮するならば,本件商標の採択に盗用と非難されるべきところはないことが,明らかである。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(引用商標の特定の誤り)について 原告は,審決には,「インターシティ株式会社」を引用商標として認定しなかった誤りがある,と主張する。 商標登録に係る無効審判請求事件において,引用商標とは,無効審判請求人が登録商標の無効事由を根拠付けるものとして主張した商標のことである。審決書(甲第1号証)には,請求人が引用する商標は,「インター・シティ」,「インターシティ」,「INTER CITY」,「INTER・CITY」及び「インター・シティ株式会社」であること(審決書2頁24行〜30行参照),このうち,「INTER CITY」,「INTER・CITY」及び「インター・シティ株式会社」については,その使用を裏付ける証拠があること,「インター・シティ」及び「インターシティ」については,その使用を裏付ける証拠は存在しないものの,請求人である原告が引用商標として主張するので,これらも引用商標とすることにしたこと,が記載されているにとどまり,請求人である原告が,「インターシティ株式会社」を引用商標として主張したとの記載はない。原告が審判において「インターシティ株式会社」を引用商標として主張したことは,本件全証拠によっても,認めることができない。 以上のとおりであるから,審決が「インターシティ株式会社」を引用商標として挙げなかったことを誤りであるとすることはできない。 もっとも,「インターシティ株式会社」は,本件における類似性,周知・著名性の判断において,審決が引用商標の一つとして認定した「インター・シティ株式会社」と実質的に同一であり,「インター・シティ株式会社」と「インターシティ株式会社」とを事実上同視してかまわないことは,明らかというべきである(「インターシティ株式会社」と「インター・シティ株式会社」との相違に着目して検討することを必要とする事情は認められない。)。したがって,審決が,「インターシティ株式会社」が原告の挙げる引用商標に含まれていないことを理由に,これを検討の対象から外したとすれば,それは誤りということになる。しかし,審決が,「インターシティ株式会社」について,原告が引用商標として挙げていないことのゆえに検討の対象から外したことを認めさせる資料は,本件全証拠を検討しても見いだすことができない。 原告の主張は採用することができず,取消事由1は,理由がない。 2 取消事由2(本件商標について認定の誤りによる類否判断の誤り)について (1) 原告は,本件商標は,その構成全体をもって一体不可分のものとして認識されることはないから,審決が,本件商標全体が一体不可分な語であることを前提に,本件商標と引用商標とは類似しない,と判断したのは誤りである,と主張する。 (2) 本件商標及び引用商標は,共に,「インターシティ」と読まれる文字部分を含むものである点において,共通点を有することは,明らかである。 しかしながら,当裁判所は,本件商標と引用商標との間には,商標法4条1項10号にいう「類似」の関係があるとはいえないとするのが相当であると解する。 本件商標及び引用商標中の「インターシティ」の語源である「INTERCITY」は,「(大)都市間をつなぐ」を意味する英語であること,この語を構成する「INTER」及び「CITY」は,それぞれ,「間,中,相互に」,「都市,都会,地区」を意味する英語であって,いずれも,我が国において一般的によく知られた語であることは,当裁判所に顕著である。この顕著な事実によれば,「INTERCITY」,「インターシティ」の語は,上記の意味を有する語,あるいは,(大)都市間をつなぐ何らかのもの,さらには,「CITY」の語に着目して,一定の都市,地区を指す語として,取引者・需要者に認識,理解される可能性が高いということができる。 このような一般的な語を用いた原告の名称(インター・シティ株式会社)を,独創性があるものと認めることはできない。 引用商標中の「インター・シティ」及びこれと同視できる「インターシティ」等の語も,指定役務との関係で,その程度はともかく,自他識別性が認められる語であることは否定できない。しかし,「インターシティ」等の語は,本来,上記のとおり,一般の取引者・需要者において,「(大)都市間をつなぐ」という一般的な意味を有する英語に由来する独創性に乏しいものと認識される,自他識別力の弱い語であるというべきであり,それゆえに, 他の語と結合して用いられた場合には,それまでに,原告による宣伝広告など,何らかの事情によって,地名など他の語が付されても,その他の語とは分離され得る特定の出所を示す程度にまでよく知られるに至っているのでない限り,取引者・需要者が,他の語と結合した「インターシティ」等の語を,特定の出所を表示する語として認識することはほとんどないというべきである。 ところが,「インターシティ」等の引用商標が,原告による宣伝広告など何らかの事情によって上記のようによく知られるに至っていると認めることができないことは,後記3で説示するとおりである。このように,「インターシティ」等の語は,他の語と結合することによって,容易に原告の商標としての識別力を失うことになる可能性が大きく,その自他識別力は弱いものといわざるを得ない。 このような,本来,自他識別力の弱い,「インターシティ」,「INTERCITY」の語は,著名な地名を意味する「品川」及び「SHINAGAWA」の文字と結び付いた場合には,上記の意味でよく知られるに至っているのでない限り,取引者・需要者に,「品川にある,あるいは品川に本拠を置くインター・シティ」を連想させるものであり,「インターシティ」等の文字自体が,「品川」等と分離されて,特定人の商標であると認識されることは,ほどんどないものというべきである。そうすると,本件商標は,「シナガワインターシティ」との称呼を生じるものであるとみるべきことになるのである。 このように,「インターシティ」の語は,他の語と結合することによって,容易に自他識別力を失う可能性が大きく,その自他識別力は弱いものといわざるを得ないから,「品川」以外の他の地名や一般形容詞を付加することによって,別個の観念が発生したものとして容易に別個の商標権が成立することが認められやすいというべきである。 このような性質を有する語を自己の商標の全部又は一部として選択した者は,その語が他の者の商標の一部として上記のように使用されることを,甘受しなければならないものというべきである。 (3) 以上のとおりであるから,審決が,本件商標全体が一体不可分な語として認識,把握されるものであることを前提に,本件商標と引用商標とは類似しないとしたことに,結論としては誤りはない。取消事由2は,理由がない。 3 取消事由3(引用商標の周知性についての認定の誤り)について (1) 原告は,引用商標は,本件商標の出願当時である平成7年以前から,登録査定時(平成9年)を経て今日に至るまで,原告の不動産業務に係る役務を表示するものとして,取引者・需要者の間に広く知られた周知の商標であるとし,これを前提として,本件商標は商標法4条1項10号,15号に該当する,と主張する。 商標法4条1項10号,15号による周知商標の保護は,登録主義をとる我が国の商標法の下で,例外的に,未登録商標であっても,それが周知である場合には,既登録商標と同様に,これとの間で出所の混同のおそれを生じさせる商標の登録出願を排除することを認めようとするものである。しかも,商標登録出願が排除されると,出願人は,当該出願商標を,我が国のいずこにおいても,登録商標としては使用することができなくなる,という意味において,排除の効力は全国に及ぶものである。これらのことに鑑みると,周知であるといえるためには,特別の事情が認められない限り,全国的にかなり知られているか,全国的でなくとも,数県にまたがる程度の相当に広い範囲で多数の取引者・需要者に知られていることが必要であると解すべきである。 (2) 原告は,引用商標の使用期間,引用商標を記したものの頒布の量,その頒布範囲,原告の同業者の作成に係る証明書などを総合すれば,引用商標は,本件商標の出願当時(平成7年)から登録査定時(平成9年)を経て現在に至るまで,東京都,神奈川県,埼玉県,千葉県,茨城県等の首都圏において周知である,と認めることができると主張する。 しかしながら,上記首都圏における人口は約4000万人に上ること,首都圏においては,多数の業者によって膨大な不動産情報が発信されていること(例えば,後記エのとおり,株式会社リクルートが発行する週刊の住宅情報誌に1回に掲載される不動産関係の情報は,全体で2万5000件を超え,賃貸物件情報だけでも1万3000件を超え,そこに登場する関係業者も多数に上っている。)は,当裁判所に顕著である。これらのことを前提にして考えた場合,引用商標が首都圏において取引者・需要者の間に広く知られているという状態が生まれるためには,原則として,引用商標につき,取引者・需要者に知らせるための活動が,平均的な不動産業者が一般に行う程度を大きく超えて行われることが必要であり,そうでない限り,たとい,長年使用してきたとしても,上記状態は生まれることはないというべきである。ところが,原告の主張するところを前提にしても,引用商標につき上記のような活動がなされたものということはできず,本件全証拠によっても,このような活動がなされたことを認めることはできない。引用商標につきこのような活動がなくても上記状態が生まれ得ると考えさせるものは,本件全証拠を検討しても見いだすことができない。 念のために,引用商標の使用開始時期,原告の業務内容等,引用商標の周知性の獲得に関連するものとして,証拠上,どのような事実が認められるかについて検討する。 ア 引用商標の使用開始時期,原告の業務内容 甲第3,第126号証及び弁論の全趣旨によれば,原告は,東京都港区<以下略>において,昭和61年から現在に至るまで継続して,「インター・シティ株式会社」の商号で,この名を用いて,不動産業を営んできたことが認められる。 イ 広告ちらしの頒布 @ 甲第14ないし第19号証,第28ないし第43号証及び弁論の全趣旨によれば,原告は,その不動産業務として取り扱う不動産物件につき,「インター・シティ株式会社」を表示した広告のちらしを,昭和63年から平成7年までの間に作成・頒布したこと(上記各証拠により明らかな広告ちらしの作成回数は,昭和63年3回,平成元年1回,平成4年9回,平成5年1回,平成6年3回,平成7年3回である。),同広告に掲載された不動産物件の所在地は,東京都港区,同品川区,同江東区,神奈川県横浜市,同横須賀市,同三浦市であること,同広告ちらしは,首都圏において頒布されたこと,が認められる。 A 甲第44ないし第74号証及び弁論の全趣旨によれば,原告は,昭和62年から平成7年までの間に,@で述べたものを含む広告ちらしの作成・印刷を依頼したこと,証拠上明らかな依頼件数は,昭和62年は月1件ないし10数件で,1件当たりの作成枚数は,約2500ないし5000部,昭和63年以降は,月1件ないし3件で,1件当たりの作成枚数は,約2500部ないし5000部であること,原告は,上記作成に係る広告ちらしを首都圏において頒布したこと,が認められる。 B @,Aで認定した事実を総合すると,原告は,昭和62年から平成7年までの間,毎月,その業務に係る不動産物件の広告ちらしを作成し,首都圏において頒布していたこと,作成・頒布の数量は,昭和62年は月1件から10数件,昭和63年以降は,月1件から3件で,1件当たりの枚数は,約2500部から5000部であったこと,これらのちらしには「インター・シティ株式会社」の表示がなされていたこと,を推認することができる。 ウ 新聞の折り込みちらしの頒布 甲第20号証,第119ないし第123号証及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成4年11月に,「インター・シティ株式会社」と表示された,東京都港区<以下略>所在のマンションの広告の新聞折り込みちらし(甲第20号証)3万枚を株式会社東都工芸に印刷を依頼して作成し,これを東京都港区<以下略>所在の朝日新聞十番専売所に依頼して,新聞に折り込み,頒布したことが認められる。 エ 週間住宅情報への広告の掲載 甲第75ないし第118号証,第130,第131号証によれば,原告は,1987年(昭和62年)4月ないし11月までの間,株式会社リクルートが発行する「週間住宅情報 首都圏番 沿線別賃貸情報」に,原告が業務上取り扱う不動産の情報を掲載したこと,1回の掲載件数は少ない月で2件,多い月で23件であったこと,同掲載情報には,原告の名称として「インター・シティ」と表示されていたこと,同誌に掲載される不動産関係の情報は,1回当たり全体で2万5000件を超え,賃貸物件情報だけでも1万3000件を超え,関係業者も多数に上ること,が認められる。 オ 営業案内書,あいさつ状,年賀状,封筒 @ 甲第22号証及び弁論の全趣旨によれば,原告は,昭和61年に,「インター・シティ株式会社」,「INTER・CITY」の表示のある営業案内書を作成したことが認められる A 甲第23号証によれば,原告代表者は,昭和61年7月に,「インター・シティ株式会社」と表示して,原告を設立した旨のあいさつ状を作成し,関係者に送付したことが認められる。 B 甲第24号証及び弁論の全趣旨によれば,原告は,1987年(昭和62年)に,「INTER CITY」と表示した年賀状を作成し,これを約500名に送付したことが認められる。 C 甲第25号証によれば,原告は,「INTER CITY」,「インター・シティ株式会社」と表示した封筒を作成し,使用していたことが認められる。 カ 電話帳(タウンページ)への掲載 甲第126,第127号証によれば,1987年(昭和62年)10月1日付け(東京23区版),1992年11月5日付け(港区,品川区,目黒区,大田区(中央区,渋谷区)版)で,それぞれNTTから発行された職業別電話帳(タウンページ)には,港区における不動産取引業者欄に原告名として「インター・シティ(株)」,「インターシテイ」と記載されていることが認められる。 原告は,引用商標を記したものの頒布の量やその頒布範囲によれば,引用商標は,首都圏において周知であると認めることができる,と主張する。しかしながら,イのように1件につき多いときで約5000枚の広告ちらしを,月に,おおむね1件ないし3件頒布した程度では,昭和62年に月に10件以上の物件の広告をした月があったことを考慮に入れたとしても,前記当裁判所に顕著な事実の下では,広告ちらし頒布の事実を,引用商標が首都圏において周知性を獲得したと認めるための資料として重視することはできない。 原告は,昭和62年に「インター・シティ株式会社」の表示をした広告ビラ3万枚を新聞の折込広告として配布した,と主張する。しかしながら,上記ウで認定したとおり,上記折込広告は,東京都港区<以下略>所在の朝日新聞十番専売所を通じて頒布したものであって,その頒布区域は自ずから限られていることが明らかであるから,上記ちらしの頒布の事実を,「インター・シティ株式会社」の表示が,首都圏等広い範囲において周知性を獲得したと認めるための資料として重視することはできない。 原告は,首都圏で発行される週刊住宅情報誌に「インター・シティ」の表示の下に不動産情報を掲載した,と主張する。しかしながら,上記エで述べたとおり,同情報誌には,1回に総数で2万5000件を超える情報が多数の業者からの情報として掲載されており,その中で原告の掲載した広告は,多いときでも20数件にすぎない。この程度の掲載件数を,同広告に記載された「インター・シティ」の表示が周知性を獲得したと認めるための資料として重視することはできない。甲第75ないし第118号証には,「インターシティ株式会社」の表示がなされている。しかし,これらは,いずれも株式会社リクルートの原告に対する請求書にすぎないから,引用商標が周知性を獲得したと認めるための資料として重視することはできない。 原告は,@「インター・シティ株式会社」,「INTER・CITY」の表示のある営業案内書を作成したこと,A昭和61年7月に,「インター・シティ株式会社」と表示して,原告を設立した旨のあいさつ状を作成,送付したこと,B1987年(昭和62年)に,「INTER CITY」と表示した年賀状を作成し,これを約500名に送付したこと,C「INTER CITY」,「インター・シティ株式会社」と表示した封筒を作成し,使用していたこと,を,上記各引用商標が周知性を獲得したと認めるべき根拠の一つとして主張する。しかしながら,営業案内書及び封筒については,いずれも,その頒布数をはじめとする頒布態様は,証拠上明らかでない。また,あいさつ状や年賀状に名称を記載したことについては,上記オで認定した程度のあいさつ状や年賀状の送付を,そこに記載された名称が周知となったと認めるための資料として重視することはできない。 原告は,職業別電話帳(タウンページ)の,港区における不動産取引業者欄に原告名として「インター・シティ(株)」の表示があることを引用商標が周知性を獲得したと認めるべき根拠の一つとして主張する。しかし,上記記載は,多数の電話加入者が記載されている中の1名としての記載にすぎないから,この記載をもって,「インター・シティ(株)」の表示が周知となったと認めるための資料として重視することはできない。 甲第27号証の「証明書」と題する書面中には,「インター・シティ株式会社」,「インターシティ」の名称が特定の地域で周知性を獲得している旨の記載がある。しかしながら,同記載は,首都圏などの広い地域で,引用商標が周知性を獲得していることを認めるに足りるものではない。原告は,一般的に,サービス業は,地域密着型のものが多く,不動産業も,その業務上,一部の大手不動産を除き,特定の地域に根ざした業種であることを,周知性の有無の判断にあたり考慮すべきである,と主張する。原告の上記主張の趣旨が不動産業においては,周知性が認められるための地域的範囲は限定された特定の地域で足りる,というのであれば,それは,周知の未登録商標に,既登録商標と同様に,出所の混同を生じさせる商標の登録出願を排除するという強い効力を認めた趣旨に反することになるというべきであるから,採用することができない。 前記のとおり,引用商標の「インター・シティ」等の語は,一般的な英語に由来する語であるがゆえに,多数の者に用いられやすい語であり,他の語と結合することによって,容易に自他識別力を失う可能性が大きく,その自他識別力は極めて弱いというべきであることに照らすと,引用商標が周知性を獲得したというためには,相当強固な証拠により立証されることが必要であるというべきであり,上記各証拠から,引用商標が,周知性を獲得したと認めることは,困難である。 以上のとおりであるから,原告提出の上記各証拠によっては,引用商標が周知性を獲得していると認めることはできない。 (3) 以上のとおり,引用商標の周知性が認められない以上,本件商標が,商標法4条1項10号,15号に該当しないとした審決に誤りはない,というべきである。 取消事由3は理由がない。 4 取消事由4(判断に理由を付さなかった誤り)について 原告は,審決が@引用商標の周知,著名性を否定した判断,A本件商標と引用商標との外観及び観念における類似性を否定した判断につき,理由を記載していない,と主張する。 しかしながら,@については,審決書22頁33行ないし38行において,「上記1のように特定した引用商標について,その周知・著名性を検討するに,請求人の提出に係る甲各号証により,請求人である「インター・シティ株式会社」が「東京都港区<以下略>」において,昭和61年から現在に至るまで,継続的に不動産業を営んできたことは認められるが,提出された書証によっては,引用商標が本件商標の登録出願時において取引者,需要者間に広く認識されているものとは言い難いものである。」として,原告の提出した証拠によっては,引用商標の周知・著名性を認めることはできないとの理由が記載されている。 また,Aについては,審決書23頁2行ないし21行に「本願商標は,前記1で述べたとおり,「SHINAGAWA INTER CITY」及び「品川インターシテイ」の文字を二段に書してなるものであるところ,それぞれ外観上まとまりよく一体的に構成され,しかも,全体をもって称呼してもよどみなく一連に「シナガワインターシティ」と称呼できるものである。そして,たとえ,「SHINAGAWA」,「品川」の文字が著名な地名を表すものであるとしても,本件商標の指定役務においては,むしろ構成全体をもって一体不可分のものと認識し把握されるとみるのが自然である。また,その構成中の「INTER CITY」,「インターシテイ」の文字部分が,他に周知・著名商標が存在するなど,それのみで独立して認識されるとみるべき特段の事情は見いだせない。そうとすれば,本件商標は,その構成文字に相応して「シナガワインターシティ」の称呼のみを生ずるものである。一方,引用商標は,それぞれ「インターシティ」あるいは「インターシティカブシキガイシャ」の称呼が生ずるものである。そして,本願商標から生ずる称呼と引用商標から生ずる称呼とは,音構成の差等により区別できるものである。また,両商標は,前記の構成よりみて外観,観念において相紛れるおそれはない。そうとすると,本願商標と引用商標とは,外観,称呼,観念のいずれの点よりみても,類似しない商標といわざるを得ない。」として,本願商標の構成が一体不可分なものと認識し把握されるものであるととらえた上で,このような構成からみると,本願商標と引用商標とは外観,観念において相紛れるおそれはない,との理由が記載されている。 審決の理由は,結論を導くために必要な判断を示すものでなければならないことは当然であるものの,これをどの程度まで詳しく説示するかについては,ある程度,審判合議体の裁量に委ねられているというべきである。本件の審決の上記説示は,特に上記Aについて,委曲を尽くしていないところがあるとはいえ,上記裁量を逸脱したものとはいえず,理由が記載されていないとも,記載されていないのと同視できるともいえないことは,その説示自体から明らかである。原告の主張は採用することができない。 取消事由4は,理由がない。 5 取消事由5(商標法4条1項8号該当性の判断の誤り)について 原告は,「インターシティ」,「INTERCITY」も原告の名称であると解すべきである,と主張する。しかしながら,原告は株式会社であり,株式会社については,その商号が商標法4条1項8号にいう「他人の名称」に該当し,株式会社の商号から株式会社の文字を除いた部分は,同号にいう「他人の名称の略称」に該当するものと解すべきである(最判昭和57年11月12日・民集36巻11号2233頁参照)から,本件においては,商標法4条1項8号の「他人の名称」に該当するのは,原告の商号である「インター・シティ株式会社」であり,そこから株式会社の名称を除いた「インター・シティ」又は「インターシティ」,「INTERCITY」は,「他人の名称の略称」に該当するにすぎない。 本件商標が原告の名称である「インター・シティ株式会社」を含むものでないことは,明らかである。また,原告の略称である「インター・シティ」,「インターシティ」及び「INTERCITY」が著名であると認めることができないことは,引用商標の周知性について前に述べたところから明らかである。本件商標を,商標法4条1項8号に該当するものとすることはできない。 取消事由5は,理由がない。 6 取消事由6(商標法4条1項7号該当性の判断の誤り)について 原告は,被告が,引用商標を盗用して本件商標を登録したものであるから,商標法4条1項7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当する,と主張する。 甲第4号証の1,第5,第6,第129,第133,第136号証によれば,原告と被告とは同一地域である東京都港区で長年営業を行ってきた同一業者であって,同じ不動産情報会社の会員であることが認められ,これにより,被告は,本件商標の登録出願時において,「インター・シティ株式会社」が原告の名称であることを十分知っていたと認めることができる。 しかしながら,本件商標中の「インターシティ」,「INTERCITY」の語は,前記のとおり,一般的な英語に由来する語であるがゆえに,多数の者に用いられやすい語であるということができることに照らすと,被告が,上記語を採用したのは,原告による使用の事実と関係してのことではなく,上記一般的な語としての側面に着目してのことであった可能性が高いものというべきである。 本件商標に用いられた「インターシティ」,「INTERCITY」の語は,他の語と結合することによって,容易に自他識別力を失う可能性が大きく,その自他識別力は弱いものといわざるを得ないから,「品川」以外の他の地名や一般形容詞を付加することによって,別個の観念が発生したものとして容易に別個の商標権が成立することが認められやすいというべきであり,原・被告を含め,このような性質を有する語を自己の商標として選択した者は,その語が他の者の商標の一部として上記のように使用されることを,甘受しなければならないものというべきであることは,既に説示したとおりである。 以上のとおりであるから,たとい被告が本件商標出願時に原告の名称を十分知っていたとしても,被告が「インターシティ」,「INTERCITY」の語を含む本件商標を採用し,登録したことが,「原告の名称を盗用したもの」として,商標法4条1項7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当する,とすることはできないというべきである。本件商標がこれに該当することについては,他にも,これを認めさせるだけの主張も,証拠もない。 7 以上のとおり,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく,その他,審決には,これを取り消すべき瑕疵は見当たらない。 |
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結論
以上によれば,原告の本訴請求は理由がないことが明らかである。そこで,これを棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山下和明 |
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裁判官 | 設樂隆一 |
裁判官 | 阿部正幸 |