関連審決 | 取消2000-30526 |
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関連ワード | 指定商品 / 不使用 / 国内 / 更新登録 / |
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事件 |
平成
13年
(行ケ)
550号
審決取消請求事件
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原告A 訴訟代理人弁理士 橋本公男 被告 林恒株式会社 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/05/31 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
特許庁が取消2000−30526号事件について平成13年10月23日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求の趣旨
主文と同旨 |
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原告の主張
1 特許庁における手続の経緯 被告は、「HOPE」の欧文字を書してなり、指定商品を商標法施行令別表(平成3年政令第299号による改正前のもの)の区分による第9類「金属加工機械器具、鉱山機械器具、土木機械器具、荷役機械器具、化学機械器具、食料または飲料加工機械器具、製材・木工または合板機械器具、暖冷房装置および冷凍機械器具、 商業またはサービス業用機械器具、保安用機械器具、潜水用機械器具、調律機、遊園地用機械器具、芝刈機、電動式扉自動開閉装置、マーキング用孔開型板(刷込マーク板)、し尿処理そう、汚水浄化そう、塵芥焼却炉、工業用水そう、液体貯蔵そう、ガス貯蔵そう、液化ガス貯蔵そう、機械要素(緩衝器、ばね、管継ぎ手、パッキングおよびガスケツトを除く。)」とする登録第1820825号商標(昭和56年10月15日登録出願、昭和60年11月29日設定登録、平成8年5月30日更新登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。 原告は、平成12年5月10日、被告を被請求人として、本件商標につき、 その指定商品中「保安用ヘルメット及びこれに類似する商品」について不使用による登録取消しの審判を請求し、その予告登録は、同年6月6日(以下「予告登録日」という。)にされた。 特許庁は、同請求を取消2000-30526号事件として審理した結果、 平成13年10月23日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、 その謄本は、同年11月2日、原告に送達された。 2 審決の理由 審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、本件商標が、予告登録日前3年以内に、日本国内において、被告によって、その指定商品中請求に係る「保安用ヘルメット」について使用をされていたと認められるから、本件商標の登録は、商標法50条1項の規定により取り消されるべきではないとした。 3 原告主張の審決取消事由 審決は、本件商標が、予告登録日前3年以内に、被告によって、その指定商品中「保安用ヘルメット」について使用をされていたとの誤った認定をした(取消事由)結果、本件商標の登録が商標法50条1項の規定により取り消されるべきではないとの誤った判断をしたものであるから、違法として取り消されるべきである。 (1) 本件写真の証明力 審判において被告から提出された「登録商標の使用説明書」(甲第2号証の1、以下「本件使用説明書」という。)の添付写真(甲第2号証の2、以下「本件写真」という。)は、予告登録日の後に作成されたものであるから、予告登録日前3年以内における本件商標の使用の事実を証明するものではない。審決は、「商品に付された商標、商品記号等の事実と取引書類である売上伝票に記載された商標、商品名及び同記号等の事実を総合して、商標が使用されたか否かを証明し、そして認定されるものであって、単に商品写真により、商標の使用をもって証明、認定されるものでない」(審決謄本9頁31行目〜34行目)とするが、本件使用証明書に添付された売上伝票(甲第2号証の3、以下「本件売上伝票」という。)自体、証明力が認められないことは下記のとおりであるから、その記載を勘案して本件写真に証明力を認めることは誤りである。また、本件写真によれば、本件ヘルメットの外側面に付された本件商標の大きさが、ヘルメットの外形寸法と対比して小さくなく、着用者の所属企業名等の表示に邪魔になり、不自然であるのみならず、 保護帽の外側面の見やすい部位に保護帽の商標を付すこと自体、保護帽業界の慣習に反する。 (2) 本件売上伝票の証明力 本件売上伝票が写しであり証拠としての証明力が認められないとする原告の審判における主張に対して、被告は、何ら主張立証をしなかった。審決は、本件売上伝票の原本を取り調べることなく、写しである本件売上伝票の記載内容のみからそれを真正に成立した原本の写しと認定しているが、被告は、一般利器工具、特に工具の卸売を行う専門商社であって、工具と保護帽とは扱う業界を異にするから、被告が保護帽の卸売ないし小売を行うとは考えにくく、本件売上伝票は、予告登録日以降に、本件審判に使用する目的で、現実の取引に基づかずに日付をさかのぼらせて作成された疑いが非常に高い。審決が、写しである本件売上伝票の記載内容のみからそれを真正に成立した原本の写しと認定したことは、誤りである。 また、本件売上伝票は、「商品名」の欄において1行に記載されている「HOPE」「S-1」の文字と「印」「ヘルメット」「黄」の文字の字体及び大きさが明らかに異なっており、この点でも不自然である。 さらに、売上伝票の用紙には、納品書、その控え、請求書、物品受領書等が一緒につづられていることが一般的であるから、現実に取引がされたのであれば、売上伝票に加えて納品書の控え等が提出可能であるのに、それがされなかったことは、現実の取引がなかったことを推認させる。本件売上伝票は、被告がいつでも作成可能であるから、これに対応する物品受領書等の提出がない限り、作成時期の証明はできない。 加えて、本件売上伝票は、検印が欠落している。従来の商標審査実務では、検印のないものは商標の使用の事実を証明する証拠としての取引書類とは認められていなかった。本件売上伝票の「部課担当者」欄の「240」との表示は、だれを表示するのか不明であり、検印の代りとすることはできない。 (3) 本件写真に写されたヘルメット(以下「本件ヘルメット」という。)の保安用ヘルメット該当性及び本件カタログの証明力 あるヘルメットが保安用といえるためには、労働安全衛生法42条に基づく昭和50年労働省告示第66号所定の保護帽の規格を備えていなければならない。この規格によれば、保護帽は、帽体(着用者の頭部を覆う部品)のほか、着装体のハンモック等から構成されるところ、本件写真からは、帽体以外の構成部品等は全く確認できない。また、検定に合格した保護帽には、見やすい箇所に製造者名、製造年月、用途等を表示しなければならないが、本件写真では、そのような記載がされたラベルの存在も確認し得ない。さらに、被告が審判で提出した商品カタログ(審判乙第1号証の1〜8、本訴甲第3号証の1〜8、以下「本件カタログ」という。)は、被告の取扱いに係る商品についてのものではなく、そこに記載されている保護帽に本件商標が付されているわけでもない。審決は、本件カタログには、本件ヘルメットと「ほぼ同様の形のヘルメットも規格品として紹介され、作業用の安全のためのヘルメットの名称として、『SAFETY HELMET』、『保護帽』『作業用ヘルメット』等の用語が使用されている。・・・当該ヘルメットは、色彩、形状、機能性、及び作業用ヘルメットの呼称の業界実情からみて、本願指定商品に含まれる保安用ヘルメットとみるのが相当である」(審決謄本8頁19行目〜36行目)とするが、誤りである。本件カタログは、被告による本件商標の使用の事実を示す証拠としての価値を有しない。 |
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被告は、適式の呼出しを受けながら本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書そ
の他の準備書面も提出しない。 |
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当裁判所の判断
1 被告は、適式の呼出しを受けながら本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しないから、原告の主張1(特許庁における手続の経緯)及び2(審決の理由)を明らかに争わないものと認め、これを自白したものとみなす。 2 取消事由(本件商標の使用の事実の誤認)について (1) 本件使用説明書(甲第2号証の1)には、被告が本件商標を「埼玉県越谷市(以下略)」において「保安用ヘルメット」に使用しているとの記載があり、その使用の事実を示す書類として、本件写真(同証の2)及び本件売上伝票(同証の3)が添付されている。本件写真には、本件商標の付された本件ヘルメット及び箱が写っており、その箱には、「SAFETY HELMET」「Hayashi-Tsune」「林恒株式会社」「S-1」及び本件商標と図形を一体的に組み合わせた標章が付されている。本件売上伝票には、御得意先「門脇機工」、商品名「HOPE印 ヘルメット S-1 黄」、日付「11年12月17日」の記載がある。これらの証拠による限り、被告が、予告登録日前3年以内である平成11年12月17日、指定商品中「保安用ヘルメット」について、本件商標を付したものを門脇機工に販売した事実が、一応推認されるかのように見える。 (2) しかしながら、他方、証拠を子細に吟味すれば、以下の諸点を指摘することができる。 ア 本件写真及び本件カタログの証明力 審決には、請求人である原告の主張として、「被請求人(注、被告)は、・・・写真(注、本件写真)の撮影年月日・・・平成12年10月2日・・・と答弁している。・・・添付写真の撮影年月日が平成12年10月2日であるとの被請求人の答弁は、その自白として請求人の有利に援用する」(審決謄本5頁18行目〜31行目)と摘示され、「当審の判断」においても、「上記写真(注、本件写真)は、平成12年10月2日に・・・撮影されたことは当事者間に争いがない」(同8頁15行目〜17行目)と説示されている。そうすると、本件写真は、 予告登録日の後である平成12年10月2日に撮影されたものであって、それ自体、予告登録日前3年以内における本件商標の使用の事実を証明するものではない。 また、審決は、本件写真に写された本件ヘルメットは、「色彩、形状、 機能性、及び作業用ヘルメットの呼称の業界実情からみて、本願指定商品に含まれる保安用ヘルメットとみるのが相当である」(同8頁34行目〜36行目)と認定し、本件カタログに、本件ヘルメットとほぼ同様の形のものが規格品として紹介され、作業用ヘルメット等の用語が使用されていることから、上記業界の実情を認定するとともに、本件カタログそれ自体を、被告による本件商標の使用の事実の認定根拠の一つとして挙示している(同9頁15行目〜17行目)。 しかしながら、本件カタログ(甲第3号証の1〜8)は、製造元を東洋物産工業株式会社、発売元を株式会社トーヨーセフティーとするヘルメットの商品カタログであって、本件商標が付された商品の記載はなく、それ自体が被告による上記使用の事実を証明するものではない。また、審決の認定する本件ヘルメットの形状等に本件カタログの記載を参酌しても、本件ヘルメットが本件商標の指定商品中「保安用ヘルメット」に当たると直ちに断定することも困難である。 イ 本件売上伝票の証明力 審決は、本件写真の撮影時期について上記のとおり認定しながら、「商品に付された商標、商品記号等の事実と取引書類である売上伝票に記載された商標、商品名及び同記号等の事実を総合して、商標が使用されたか否かを証明し、そして認定されるものであって、単に商品写真により、商標の使用をもって証明、認定されるものでない」(審決謄本9頁31行目〜34行目)として予告登録日前3年以内の使用の事実を認定するので、その当否について判断する。 審決は、「この『売上伝票』(注、本件売上伝票)は写しであるがその記載内容からみて会社の経理上の売上伝票として不自然なところもなく、文書としての成立に疑問はない」(同9頁10行目〜12行目)と判断するが、本件売上伝票の原本が真実存在するならば、被告がこれを審判において提出することは容易であったはずであるのに、被告は、審判の審理終結までその原本を提出せず、かつ、 被告がこれを提出することのできない事情は、何らうかがわれない。そうすると、 このことだけをもってしても、本件売上伝票の原本が存在し、かつ、真正に成立したことには、多大な疑問の余地があるといわざるを得ない上、被告と門脇機工間の上記取引が現実に行われたとすれば、当該取引に係る納品書の控え、請求書等の関係書類も被告において所持しているはずであるが、これらの文書も、審判において何ら提出されていない。また、被告が上記取引に係る書類を紛失したなどの事情により、関係書類の原本を提出することができないとすれば、他の取引に係る書類を提出することは可能なはずであり、取引が上記のもの1回だけであるとすれば、それ自体極めて不自然である。 さらに、本件売上伝票には、商品名「HOPE印 ヘルメット S-1 黄」と記載されているが、本件写真に写っている箱には、本件商標は付されておらず、代りに、本件商標と図形を一体的に組み合わせた標章で本件商標と同一性を有しないものが付されており、この標章も「HOPE印」と略称されることが十分にあり得るから、本件売上伝票に記載された取引が現実に行われたとしても、そこにおける「HOPE印」との記載から、直ちに取引されたヘルメットに本件商標が付されていたと認めることもできない。 加えて、原告作成の陳述書(甲第4号証)には、本件売上伝票に門脇機工の住所地と記載されている場所には、普通の民家はあるが事務所のような建物は確認できなかったこと、仮に、門脇機工が事務所を持たない個人経営の小企業であるとすると、被告の門脇機工に対するヘルメットの販売は、卸しではなく小売ということになるが、原告が被告本社を訪れて尋ねたところ、被告従業員から、被告は小売をしていないと言われたことが記載されている。そうすると、被告が門脇機工に対し、本件売上伝票に記載されたとおりにヘルメットを販売したという事実は、 上記陳述書の内容に照らしても疑問であるといわざるを得ない。 (3) このように、上記(2)の証拠関係を考え併せると、上記(1)の各証拠から、 指定商品中「保安用ヘルメット」について、被告による予告登録前3年以内の本件商標の使用の事実を推認することはできず、他に、その的確な証拠はないばかりか、上記使用の事実は、本件訴訟において、商標権者である被告が主張立証すべき事実であるところ、被告は、3回にわたり適式の呼出しを受けながら、本件口頭弁論期日に出頭せず、全く主張立証をしないから、このような被告の応訴態度を弁論の全趣旨として参酌すれば、上記使用の事実が本訴において立証されているとは到底いい難い。そうすると、審決の「被請求人(注、被告)は、本件審判請求の登録前3年以内に日本国内において本件商標を、請求に係る商品中『保安用ヘルメット』に使用していた」(審決謄本9頁15行目〜17行目)とする認定は、誤りというべきである。 3 したがって、原告主張の審決取消事由は理由があり、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、審決は取消しを免れない。 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 岡本岳 |
裁判官 | 長沢幸男 |