関連審決 | 異議2000-90851 |
---|
関連ワード | 識別力 / 指定商品 / 指定役務 / 慣用商標(3条1項2号) / 周知性 / 混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) / 4条1項15号 / 著名商標 / 観念(観念類似) / 出所の混同 / 差止 / 防護標章 / 継続 / 商号 / |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|
事件 |
平成
13年
(行ケ)
494号
商標登録取消決定取消請求事件
|
---|---|
原告 金盃酒造株式会社 訴訟代理人弁護士 吉武賢次 同 宮嶋学 同 弁理士 新井悟 訴訟復代理人弁理士 小泉勝義 被告 特許庁長官及川耕造 指定代理人 大島護 同 宮川久成 被告補助参加人 菊正宗酒造株式会社 訴訟代理人弁護士 上谷佳宏 同 弁理士 江藤聡明 |
|
裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/05/29 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
---|---|
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が異議2000-90851号事件について平成13年9月17日にした決定を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
|
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、別添決定謄本写し別掲のとおりの構成からなり、指定商品を商標法施行令別表の区分による第33類「清酒」を指定商品とする商標登録第4382255号商標(平成11年5月19日登録出願、平成12年5月12日設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者である。 被告補助参加人(以下単に「補助参加人」という。)は、平成12年8月14日、上記商標登録につき商標登録異議の申立てをした。 特許庁は、同商標登録異議事件を異議2000-90851号事件として審理した上、平成13年9月17日、「登録第4382255号商標の商標登録を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は同年10月9日原告に送達された。 2 本件決定の理由 本件決定は、別添決定謄本写し記載のとおり、本件商標の構成中の「菊正宗」の文字は、異議申立人(補助参加人)の業務に係る商品を表示するものとして、本件商標の出願前に取引者、需要者の間に広く認識されていたものであり、本件商標をその指定商品について使用した場合、これに接する取引者、需要者は、その構成中の「菊正宗」の文字部分に強く印象付けられ、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるから、本件商標は、商標法4条1項15号に該当するものであり、その登録は、同法43条の3第2項の規定により取り消されるべきものとした。 |
|
原告主張の本件決定取消事由
本件決定は、補助参加人に係る「菊正宗」商標の著名性の認定を誤る(取消事由1)とともに、本件商標をその指定商品に使用した場合の商品の出所混同のおそれについての判断を誤った(取消事由2)ものであるから、違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(「菊正宗」商標の著名性の認定の誤り) (1) 本件決定は、「本件商標の構成中『菊正宗』の文字は、申立人(注、補助参加人)の業務に係る商品を表示するものとして、本件商標の出願前に、既に取引者、需要者の間に広く認識されているものということができる」(決定謄本5頁16行目〜18行目)と認定するが、誤りである。 (2) すなわち、本件決定は、上記認定の根拠として、昭和60年7月6日株式会社講談社発行の「日本の名酒事典【清酒・焼酎】」(本件乙第1号証の1)、平成2年4月26日同社発行の「日本の名酒事典【清酒】」(本件乙第1号証の2)、平成10年4月10日同社発行の「日本の名酒事典【清酒・焼酎】」(本件乙第1号証の3)、平成3年5月15日株式会社サンケイ新聞データシステム・マーケティング事業部発行の「[’91SAKE]世界の酒日本の酒」(本件乙第2号証)及びホームページ「http://www.aanoya.com/ iinoya/sakekank/sakesyuk.htm」の平成10年度全国清酒出荷量(本件乙第3号証)を挙げるが、上記の雑誌に「菊正宗」商標やその由来が掲載されているからといって、数多くの掲載商標のすべてが周知、著名であるとはいえない。かえって、 上記乙第2号証には、「金盃」銘柄の商品も掲載されており、「金盃」についても、取引者、需要者に広く認識されていたというべきである。なお、原告は、明治23年の創業以来、「金盃」の商標を用いた清酒を主力商品として製造販売し、四季醸造を他に先駆けて導入するなどして業界で高い評価を得るに至り、その生産量も、2000以上ある酒造メーカーのうち、昭和45年以降、20位台を保っており、また、宣伝広告活動も活発に行っており、「金盃」は全国的に有名な銘柄となっている。 次に、本件決定が「菊正宗」の著名性の根拠とした前掲乙第3号証の平成10年度全国清酒出荷量については、広く公表されている会社の清酒出荷量だけを集計したものであるから、客観性を欠くというべきであるし、出荷量が多ければ著名であるとするのも短絡的である。 2 取消事由2(商品の出所混同のおそれの判断の誤り) (1) 本件決定は、「本件商標は・・・その構成中、顕著に表された『金盃菊正宗』の文字も独立して要部となり得るものである。そして、その『金盃菊正宗』の文字の構成中、『金盃』の文字部分は、金製の盃を意味するものであり、『金盃』の文字と『菊正宗』の文字との間に密接な関連があることを認めるに足りる証左も存しない」(決定謄本4頁20行目〜25行目)とした上、「本件商標は、これをその指定商品について使用した場合・・・これに接する取引者、需要者は、その構成中の『菊正宗』の文字部分に強く印象付けられ、恰も、該商品が申立人(注、補助参加人)あるいは同申立人と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものといわなければならない」(同5頁22行目〜26行目)と判断するが、誤りである。 (2) まず、本件決定の上記認定判断は、本件商標の要部認定を誤っている。すなわち、今日のように情報媒体が多様化し、情報量が飛躍的に増大した社会においては、図形部分の情報伝達力が、文字の持つ情報伝達力と比肩するに足りる大きさを有するに至っているところ、本件商標においては、金色の盃及び菊の各図形並びに「正宗」の文字が、もっとも視覚的に印象に残る中央部分に顕著に描かれているから、本件商標に接した取引者、需要者の注意を惹くのが、この図形部分及び「正宗」の文字部分であることは明らかである。本件決定が、このような強い印象を与える図形部分及び「正宗」の文字部分を本件商標の要部と認定することなく、「金盃菊正宗」の文字部分のみを要部として、商品の出所混同のおそれを判断したことは誤りというべきである。 (3) また、本件商標の構成中の「金盃菊正宗」の文字部分に着目したとしても、そのうちの「菊正宗」のみを分離して観察することは誤りである。すなわち、 本件商標の構成中の「金盃菊正宗」の文字部分は、同書、同大、同間隔に軽重の差異なくまとまりよく表示されているものであって、殊更に「菊正宗」の文字部分のみを分離抽出して観察することは不自然である。また、平安時代、陰暦9月9日の重陽の節句に宮中で催された菊花の宴においては、盃に菊の花を浮かべて飲むのが慣わしになっており、「盃」と「菊」は、指定商品である清酒を介して密接な関連を有するものである。さらに、清酒のラベルにおいて、中央に「正宗」の文字を配し、その背景として描かれている図形、例えば、桜、笹、白菊等とを組み合わせて、「桜正宗」、「笹正宗」、「白菊正宗」等の名称を付している例が多いため、 本件商標に接した取引者、需要者も、これらと同様、自然に「金盃菊正宗」の名称を理解し、認識すると考えられる。 加えて、原告は、「金盃菊」との文字を書してなる商標登録第4259445号商標(以下「『金盃菊』商標」という。)の商標権者であるところ、原告は、これを実際に使用した商品を販売しているから、本件商標を付した商品は、 「金盃菊」商標を付した商品の姉妹品として理解されると考えられ、本件商標に接した取引者、需要者において、その構成中の「金盃菊」を一つのまとまりとして見ることは明らかである。そして、本件商標の構成中の「正宗」が清酒に慣用され、 自他商品識別力の弱い部分であることを考えても、「金盃菊正宗」から「正宗」を除いた「金盃菊」が要部となるというべきである。 (4) さらに、原告は、本件商標を付した商品を平成9年10月23日に発売して以来、多数の新聞広告を出したり、試飲会に出品しているほか、平成12年4月25日株式会社ヒューマガジン発行の「赤い気炎-造り酒屋の女社長奮闘記」(甲第50号証)に「金盃菊正宗」の由来を記述するなどしており、本件商標が原告の製造販売に係るものとして取引者、需要者に広く認識されているというべきである。しかも、これらの広告等において、殊更に「菊正宗」の部分を強調するような記載はなく、実際、「菊正宗」との出所の混同に係るクレーム等も一切ない。 このような実情からしても、商品の出所混同のおそれは生じないというべきである。 |
|
被告及び補助参加人の反論
本件決定の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。 1 取消事由1(「菊正宗」商標の著名性の認定の誤り)について 補助参加人は、万治2年(1659年)12月に創業されて以来、約340年の歴史を誇る我が国清酒業界のトップメーカーの一つであり、「菊正宗」の商標は明治18年から使用され、多くの関連商標が登録され、特に、商標登録第1964970号商標(乙第5、第6号証)は、著名なものとして防護標章登録がされている。また、補助参加人は、テレビ、新聞、雑誌等を通じて、長年にわたり「菊正宗」の宣伝広告を行っており(乙第7号証の1〜6、丙第6号証等)、「菊正宗」銘柄の清酒の製造量は、平成5酒造年度において全国第6位(2万5432キロリットル)であり、「金盃」の6.3倍に相当する。したがって、「金盃」が原告の業務に係るものとして需要者の間に知られているとしても、「菊正宗」とは、著名度に格段の差があるというべきである。 2 取消事由2(商品の出所混同のおそれの判断の誤り)について (1) 原告は、本件商標に接した取引者、需要者の注意を惹くのは、金色の盃及び菊の各図形部分並びに「正宗」の文字部分である旨主張するが、「正宗」の文字部分は慣用商標であって識別力を有しないし、上記図形部分は「正宗」の文字に一部が覆われた状態で描かれているものであり、また、特定の観念を生じさせるものとはいえないから、これらの部分が取引者、需要者の注意を惹くとはいえない。 (2) 原告は、本件商標の構成中の「金盃菊正宗」の部分について、「菊正宗」のみを分離して観察することは誤りである旨主張するが、「菊正宗」が補助参加人の商標として著名であることは前記のとおりであるから、「金盃菊正宗」の文字に接した取引者、需要者が「菊正宗」の部分に着目するのは当然であり、また、「金盃」の文字部分自体、「金製の盃」という観念を生ずるものであるから、「金盃菊正宗」を「金盃」と「菊正宗」とに分離して把握することは自然である。 (3) また、原告は、本件商標を付した商品は取引者、需要者に広く認識されており、本件商標を用いた広告等に関して、「菊正宗」との出所の混同に係るクレーム等もない旨主張するが、本件商標の付された商品を「菊正宗」に関連する商品であると誤解しているとうかがわれるチラシ等が現に存在する(丙第9〜第14号証)。 (4) 補助参加人は、原告による「金盃菊正宗」の使用の差止めを求める仮処分命令の申立てをし、平成10年3月26日にその旨の仮処分命令を得て、その保全異議事件においても、同仮処分命令は認可された。その間に原告が神戸地方裁判所に提起した本案訴訟においても、平成11年7月23日には差止め請求を認容する第1審判決が、平成12年8月6日には大阪高等裁判所の控訴棄却判決がそれぞれ言い渡され、この高裁判決は、平成13年1月23日の上告棄却判決をもって確定している。ところが、原告は、上記仮処分命令及び高裁判決が確定した後も、本件商標の使用を継続しており、本件商標の誤った登録の速やかな解消が求められている。 |
|
当裁判所の判断
1 取消事由1(「菊正宗」商標の著名性の認定の誤り)について (1) 本件決定は、複数の雑誌の紹介記事(乙第1号証の1〜3、乙第2号証)等の証拠に基づき、「本件商標の構成中『菊正宗』の文字は、申立人(注、補助参加人)の業務に係る商品を表示するものとして、本件商標の出願前に、既に取引者、需要者の間に広く認識されているものということができる」(決定謄本5頁16行目〜18行目)と認定するところ、原告は、雑誌等に「菊正宗」商標やその由来が掲載されているからといって、数多くの掲載商標のすべてが周知、著名であるとはいえない旨主張する。確かに、我が国で製造販売されている極めて多数の清酒の銘柄について、様々な雑誌等に繰り返しその紹介記事が掲載されていることは当裁判所に顕著であって、複数の雑誌に紹介記事があることをもって、直ちに、その周知、著名性を基礎付けることはできない。 しかし、「菊正宗」商標に関しては、前掲乙第1号証の1〜3、乙第2号証の各雑誌に紹介記事が掲載されているにとどまらず、その商標を使用した清酒の出荷量を見ても、株式会社日刊経済新聞社発行の「酒類食品産業の生産・販売シェア」58頁〜105頁(甲第23号証)において、集計の対象となっている昭和45年から昭和61年までの間、銘柄別出荷量の全国ランキングで6位から9位まで、シェアで2.0%から2.8%までを一貫して保持していることが認められるほか、前掲乙第3号証の「平成10年度全国清酒出荷量」においても、同年度の「菊正宗」銘柄の清酒の出荷量は3万7188キロリットルで、この出荷量は、 「月桂冠」、「白鶴」、「大関」、「松竹梅」、「日本盛」に次ぎ、「黄桜」、 「白鹿」、「剣菱」、「沢の鶴」、「菊水」等を上回るものとされていることが認められる。なお、原告は、上記乙第3号証は客観性を欠く資料である旨主張するが、その記載内容は、前掲甲第23号証や株式会社醸界タイムス社発行の「全国酒類製造名鑑」(乙第8号証の1、2)等の記載とも整合するものであって、客観性を欠くということはできない。さらに、補助参加人において、「菊正宗」商標又はその商標を付した商品について、朝日新聞、日本経済新聞や雑誌等に広告を掲載するなどして、活発な宣伝広告を続けていること(乙第7号証の1〜6)、補助参加人を商標権者とする、「菊正宗」の文字を縦書きに書してなる商標登録第1964970号商標(昭和62年6月16日設定登録)については、防護商標登録第1号〜第25号において多数の指定商品及び指定役務につき防護商標登録がされていること(乙第5、第6号証)が認められる。 以上の認定事実を総合すれば、「菊正宗」商標が、本件商標の登録出願日(平成11年5月19日)当時及び登録査定時(設定登録日である平成12年5月12日の少し前の時点)当時において、補助参加人の製造販売に係る清酒を表示するものとして、取引者、需要者の間に広く知られていた著名商標であることを優に認めることができる。 (2) 原告は、「金盃」の周知性について主張するところ、それ自体「菊正宗」商標の著名性の認定を左右するものとはいえないが、「金盃」と対比した場合の「菊正宗」商標の著名性の程度という観点から、以下検討する。 まず、「金盃」銘柄の清酒の出荷量を見るに、前掲甲第23号証の「酒類食品産業の生産・販売シェア」によれば、「金盃」銘柄の清酒の出荷量は、昭和45年から昭和55年までの間は、おおむね20位台後半、シェア0.4%程度であったが、その後、順位及びシェアを次第に落とし、昭和61年には、順位46位、 シェア0.3%となっていること、前掲乙第3号証の「平成10年度全国清酒出荷量」では、「金盃」は上位80銘柄に掲載されていないこと、前掲乙第8号証の1、2の「全国酒類製造名鑑」によれば、平成5酒造年度における「菊正宗」の製成数量は2万5432キロリットル、「金盃」は3987キロリットル、平成12酒造年度では、「菊正宗」が2万0285キロリットル、「金盃」が1610キロリットルとされていることが認められ、平成12酒造年度の製成数量において、 「菊正宗」と「金盃」とでは、12倍以上の開きがある。他方、平成3年5月株式会社サンケイ新聞データシステム・マーケティング事業部発行の前掲乙第2号証の「[’91SAKE]世界の酒日本の酒」に、「金盃 秘蔵酒 大吟醸」、「金盃 飛天の舞」、「金盃 灘のまほろば」及び「金盃 生酒」との銘柄が掲載されていること、昭和58年9月醸造産業新聞社発行の「酒類産業の30年(戦後発展の軌跡)」(甲第22号証)中の「酒類の主要新製品発売・主要輸入銘柄動向年表」に、昭和52年10月の「金盃・生酒」の発売等の記載があることが認められる。 上記の事実によれば、「金盃」が一定の周知性を有しているとしても、取引者、需要者におけるその認識の程度は、「菊正宗」の著名性の程度には到底及ばないというほかない。なお、原告は、「金盃」の周知性を立証する趣旨で、平成13年6月たる出版株式会社発行の「Monthly TARU」(甲第24号証)及び同年2月〜11月発行の「茨城新聞」(甲第25号証の1〜6)を提出するが、これらは本件商標の登録査定日以降の発行に係るものであるから、本件において参酌することは相当でないし、これを踏まえたとしても、上記の認定判断を左右するものともいえない。 (3) 以上によれば、本件商標の構成中「菊正宗」の文字と同じ文字構成からなる補助参加人の「菊正宗」商標が、本件商標の登録出願前に、既に著名性を獲得していた旨の本件決定の認定に誤りはなく、原告の取消事由1の主張は理由がない。 2 取消事由2(商品の出所混同のおそれの判断の誤り)について (1) 原告は、本件商標においては、金色の盃及び菊の各図形部分並びに「正宗」の文字部分が取引者、需要者の注意を惹く要部である旨主張するので、まず、 この点について検討する。 本件商標の構成は、別添決定謄本別掲のとおり、緑と黄(ないし薄黄緑)の市松模様を斜めに配してほぼ正方形の地模様とし、その中央に崩し字による「正宗」の文字が縦書きに太く顕著に大書され、その上部に黒く縁取られた薄黄緑色をもって「金盃菊正宗」の文字が横一列に書され、「正宗」の文字の右側に「清酒の正統復興」との明朝体文字が縦一列に書されるとともに、「正宗」の文字の背後に菊の図形が、更にその背後に盃の図形がそれぞれ描かれてなるものである。なお、 このほか、「金盃菊正宗」の文字の下部には「登録商標」の文字が、左下部には原告の本店所在地及び商号がそれぞれ小さく記載されているが、これらは全体の中でほとんど目立たないものである。 この構成を全体として見た場合、視覚的に最も目につくのは、中央に太く顕著に大書された「正宗」の文字部分であるが、「正宗」が清酒に用いられる慣用的な商標であることは明らかであるから、清酒に使用する商標の構成部分として自他商品の識別力を有するとはいえないものである。そして、「清酒の正統復興」との文字部分に関しても、全体の右端に位置して特徴のない明朝体文字を使用しているばかりでなく、正統派の清酒であること、伝統ある清酒のリバイバル商品であることを訴える記述的部分と解されるものであって、本件において、このような表示が自他商品の識別力を有するに至ったことを認めるに足りる証拠もない。次に、菊及び盃の図形部分に関しては、日本酒に使用する商標の構成部分としてはありふれたものである上、「正宗」の文字部分に一部が隠された形になっており、注意深く観察しない限り、菊及び盃であることを認識することができないものである。これに対し、「金盃菊正宗」の文字部分は、それ自体として、日本酒のいわゆる銘柄を示すものとして自然に理解することができるものである上、本件商標の中央上部に、上記のとおりの縁取り文字をもって比較的目立つ態様で書されているものであるから、以上のような本件商標の構成を全体として観察した場合、「金盃菊正宗」の文字部分を除いた部分は、金色の盃及び菊の各図形部分並びに「正宗」の文字部分を含め、本件商標の出所表示標識としての機能を担う部分ではなく、その要部たり得ないというべきである。 (2) 次に、原告は、本件商標の構成中の「金盃菊正宗」の文字部分に着目したとしても、そのうちの「菊正宗」のみを分離して観察することは誤りである旨主張する。確かに、本件商標の構成中の「金盃菊正宗」の文字部分が、同書、同大、同間隔にまとまりよく表示されていることは原告の指摘するとおりであるが、「菊正宗」商標が補助参加人の製造販売に係る清酒を表示するものとして著名性を有するものであって、しかも、原告に係る「金盃」の取引者、需要者における認識の程度が「菊正宗」商標の著名性の程度に到底及ばないことは前示のとおりであるから、 本件商標をその指定商品である清酒に使用した場合、これに接する取引者、需要者は、「菊正宗」の部分に強く印象付けられ、補助参加人に係る「菊正宗」商標を想起すると解するべきであり、このような観点に基づいて、本件商標の要部というべき「菊正宗」の部分に着目して商品の出所混同のおそれを検討した審決の判断過程に誤りはないというべきである。 この点に関して、原告は、重陽の節句の菊花の宴を引き合いに、「盃」と「菊」が清酒を介して密接な関連を有することを主張するが、そのような関連性が、清酒の取引者、需要者の一般的な認識として浸透していることを示す証拠はない。また、原告は、本件商標を付した商品は、「金盃菊」商標を付した商品の姉妹品として理解されるものであって、「金盃菊」を一つのまとまりとして見ることは明らかであるとも主張するが、「金盃菊」商標が「菊正宗」商標に比肩すべき著名性を有するものであれば格別、そのような立証のない本件において、著名な「菊正宗」商標の存在にもかかわらず、本件商標に接した取引者、需要者が、「金盃菊正宗」中の「金盃菊」を一つのまとまりとして認識すると解することはできない。 (3) さらに、原告は、本件商標自体の周知性を主張する。確かに、原告において、本件商標を大きく掲げた広告を平成9年10月23日付け朝日新聞(甲第26号証)に掲載したのを始めとして、その後も、本件商標の登録査定日までの間に、 産業経済新聞社発行のサンケイスポーツ(甲第27号証)、朝日新聞社発行の週刊朝日(甲第28、第31号証)及びアサヒグラフ(甲第29、第32号証)、株式会社国際企画発行の国際グラフ(甲第30号証)、旅行読売出版社発行の旅行読売(甲第33号証)に広告を掲載していることが認められる。しかし、上記の広告は、冒頭の朝日新聞掲載のものを除けば、多数の地酒等の広告が並ぶ中に比較的小さく掲載されている程度のものがほとんどであり、このような広告宣伝のみをもって、本件商標の周知性を基礎付けることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。なお、原告は、本件商標の周知性を立証する趣旨で甲第34〜第54号証を提出するが、これらはいずれも本件商標の登録査定日以降の発行に係るものであるから、本件において参酌することは相当でないし、これを踏まえたとしても、上記の認定判断を左右するものではない。 (4) なお、原告は、本件商標の使用について、殊更に「菊正宗」の部分を強調することはなく、実際、「菊正宗」との出所の混同に係るクレーム等もない旨主張するが、そのような事実は、商標法4条1項15号の規定する商品の出所混同のおそれを否定すべき事情として評価することはできない。念のため付言すれば、酒類小売店のチラシ等において、本件商標を付した商品の表示として、「金盃」と「菊正宗」との間に間隔を設けたり、「金盃」部分のみをやや小さい文字で表記している実例が複数認められ(丙第9〜第14号証)、これによれば、むしろ、取引者、 需要者の間で、現実の出所混同が生じていることがうかがわれる。その他、原告の主張するところは、以上の認定判断を左右するものではない。 (5) 以上の認定判断によれば、本件決定の「本件商標は、これをその指定商品について使用した場合・・・これに接する取引者、需要者は、その構成中の『菊正宗』の文字部分に強く印象付けられ、恰も、該商品が申立人(注、補助参加人)あるいは同申立人と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものといわなければならない」(決定謄本5頁22行目〜26行目)との判断に誤りはないというべきであり、原告の取消事由2の主張は理由がない。 3 以上のとおり、原告主張の本件決定取消事由は理由がなく、他に本件決定を取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
---|---|
裁判官 | 長沢幸男 |
裁判官 | 宮坂昌利 |