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関連審決 不服2000-1066
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18行ケ10279審決取消請求事件 判例 商標
平成18行ケ10280審決取消請求事件 判例 商標
平成13行ケ377審決取消請求事件 判例 商標
平成15行ケ499審決取消請求事件 判例 商標
平成19行ケ10383商標登録取消決定取消請求事件 判例 商標
関連ワード 識別力 /  識別機能 /  指定商品 /  4条1項11号 /  類似性(類否判断) /  結合商標 /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  取引の実情 /  非類似 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 478号 審決取消請求事件
原告 オーエムエスインベストメンツ,インコー ポレイテッド
訴訟代理人弁理士 村橋史雄
同 石田昌彦
同 遠藤祐吾
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 佐藤久美枝
同 大橋良三
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/04/18
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理の申立てについての付加期間を30日と定める。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が不服2000-1066号事件について平成13年6月18日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 スコッツ ミラクル グロ プロダクツ,インコーポレイテッドは,平成9年8月7日に,「MIRACLE-GRO」の欧文字(標準文字)を書して成る商標(以下「本願商標」という。)につき,商標法施行令1条別表の商品及び役務の区分第1類の「化学品,植物成長調整剤類,肥料」を指定商品として、登録出願をした。原告は,平成11年2月26日に,上記会社から,上記商標登録出願により生じた権利を譲り受け,同年5月28日,特許庁長官にその旨の届出をした。原告は,上記商標登録出願について,平成11年10月12日に拒絶査定を受けたので,平成12年1月27日に,これに対する不服の審判の請求をした。特許庁は,同請求を不服2000-1066号事件として審理し,その結果,平成13年6月18日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本を同月27日に原告に送達した。
2 審決の理由の要点 別紙審決書の理由の写し記載のとおりである。要するに,本願商標は,登録第428396号の商標(「MIRACLE」の欧文字を書して成り,商標法施行規則(大正10年農商務省令第36号)15条の商品類別第1類の「化学品,薬剤及医療補助品」を指定商品として,昭和28年7月21日に登録され,その後,指定商品中の「粉状,粒状,液状,泥状のプラスチツクス」について登録を取り消す旨の審決が昭和63年8月10日に確定し,その登録が同年10月27日になされたもの。以下「引用A商標」という。)及び登録854100号の商標(「ミラクル」の片仮名文字を書して成り,商標法施行規則(昭和35年通商産業省令第13号)の商品区分第1類の「化学品,薬剤,医療補助品(但し,のり及び接着剤を除く)」を指定商品として,昭和45年4月22日に設定登録されたもの。以下「引用B商標」といい,引用A商標と合わせて「引用各商標」という。)と,「ミラクル」の称呼を同じくし,これらと類似する商標であり,かつ,本願商標の指定商品は,引用各商標の指定商品と同一又は類似のものであるから,本願商標は,商標法4条1項11号に該当する,というものである。
原告の主張の要点
審決の理由のうち,「1 本願商標」及び「2 引用商標」は認める。「3 当審の判断」のうち,「本願商標は,「MIRACLE」と「GRO」の欧文字とをハイフンを介して,「MIRACLE-GRO」と書してなるものである」(審決書2頁13行〜14行)こと,「前半部の「MIRACLE」の文字は,一般に「不思議,奇跡,驚異」等の意味を有する英語として親しまれている」(同2頁20行〜21行)こと,「引用A商標は,「MIRACLE」の文字を,また,引用B商標は,「ミラクル」の文字を書してなるものであるから,これらよりはいずれも,「ミラクル」の称呼を生ずるものである」(同2頁27行〜29行)ことは認め,その余の認定判断は争う。
審決は,本願商標から生じる称呼の認定を誤り(取消事由1),この誤りもあずかって,本願商標と引用各商標との類否判断を誤った(取消事由2)。審決の犯したこれらの誤りは,結論に影響することが明らかであるから,審決は,違法なものとして取り消されるべきである。
1 取消事由1(本願商標から生じる称呼の認定の誤り) 審決は,本願商標の「構成中,前半部の「MIRACLE」の文字と,後半部の「GRO」の文字とは,視覚上分離して看取されるばかりでなく,観念上も,全体として特定の意味合いを有するものとはいい難く,かつ,これら両文字を常に一体のものとして,把握しなければならない格別の事情が存するとも認め得ないものである。」(審決書2頁13行〜18行),「その前半部の「MIRACLE]の文字は,一般に「不思議,奇跡,驚異」等を意味する英語として親しまれているところから,これに接する取引者・需要者が後半部の「GRO」の文字部分を省略し,「MIRACLE」の文字部分のみを捉えて,これを「ミラクル」とのみ略称して取引に資する場合も決して少なくないものと認められる。」(同2頁19行〜23行),「本願商標は,その構成中の「MIRACLE」の文字部分より,単に「ミラクル」の称呼をも生ずるものというのが相当である。」(同2頁24行〜25行)と認定判断した。しかし,この認定判断は,誤りである。
(1) 本願商標は,全体が標準文字で構成されているので,これを構成する各欧文字は,同一の書体,大きさ及び間隔により,視覚上まとまりよく一体的に把握されやすいということができる。
これらの欧文字は,連結記号であるハイフンにより結合されていることから,一層まとまりよくなり,不可分一体のものとして,本願商標に接する取引者・需要者に認識されることになる。ハイフンは,一語が2行にまたがるときのつなぎ,又は一語内の形態素の区切りとして用いられるものであるから,ハイフンにより連結された二つの部分は,本来的には一語をなすことを意味するものである。また,ハイフンは,合成度の浅い複合語の連結のために用いられる場合であっても,少なくとも,それらが複合語をなすことを示すものであるから,二語がハイフンなしで記載されたものに比べて一体感を生じさせるものである。したがって,ハイフンにより「MIRACLE」の文字と「GRO」の文字とを結合した本願商標は,取引者・需要者に一体的に認識されやすいものであるということができる。
本願商標から生じる称呼である「ミラクルグロー」は,冗長なものではなく,長音を含めても7音節のみで構成されるから,よどみなく一気一連に称呼することができる。
(2) 「MIRACLE」の文字は,審決も述べているように,一般に「不思議,奇跡,驚異」等を意味する英語として親しまれているものである。このような意味を有する語は,単独で用いられる場合はともかくとして,他の文字と結び付いて用いられる場合には,商品の品質,品位が「不思議なくらいに」,「奇跡的に」又は「驚異的に」優れていることを誇示するものとして,修飾語的又は接頭語的な語として認識され得るものである。
「MIRACLE」の語が,「不思議,奇跡,驚異」等の意味を有する英語の名詞であること,この語に由来する「ミラクル」の語が「奇跡」を意味する外来語として我が国において一般によく知られていることは,事実である。しかし,英語の「MIRACLE」及び外来語の「ミラクル」の語を含む複合語として,@「驚異的に効く薬」等を意味する「miracle drug」,A「奇跡を行う人」を意味する「miracle man」及び「ミラクルワーカー」,B「奇跡米(従来米より2-3倍も収穫の多い新開発の米)」を意味する「miracle rice」等が存在することからすれば,英語の「MIRACLE」及び外来語の「ミラクル」の語は,たとい本来は名詞であるとしても,これらの文字と他の文字が結合した場合には,「不思議なくらいに,奇跡的に,驚異的に」優れたものであることを示す修飾語的な意味合いを生じさせるものであるということができる。
現に,これらの語は,「薬剤」,「化粧品」等の分野において,商品の品質等を誇示するために用いられ,そのようなものとして取引者・需要者に理解,認識されている。
(3) 以上に述べた状況の下では,本願商標の構成において,「MIRACLE」の部分を,それのみで,独立して「ミラクル」の称呼を生じさせ得る程度に自他商品の識別力を有するものとした把握するのは誤りであるというべきである。
「MIRACLE」の部分は,このように自他商品を識別する能力が弱いため,簡易迅速を尊ぶ取引の実情において,本願商標を示すに当たり,省略されることはあっても,本願商標の略称として,「ミラクル」と呼ばれることは,あり得ないからである。
これに対し,「GRO」の文字部分は,「<生物などが>発育する,成長する;<草木が>生える,育つ,生長する」などの意味を有する英語の「grow」(甲第6号証)に由来する造語である。ここで,「GRO]の文字部分から生じる称呼「グロー」は英語の「grow」から生じる称呼「グロウ(grou)」と近似し,かつ,本願商標の指定商品は,草木の生長等に関連する商品である「化学品,植物生長調整剤類,肥料」であることから,本願商標に接する取引者・需要者は,「GRO]の文字部分が英語「grow」に由来するものであると認識し得るものである。そうすると,本願商標は,全体として「驚異の成長」といった意味合いを暗示させる造語として把握,認識されるものであるから,これに接する取引者・需要者は,その構成中の「MIRACLE」と「GRO」の文字部分を分離することなく,不可分一体のものとして把握,認識するものである。また,本願商標に接する取引者・需要者が,上記のような本願商標の由来を認識し得ない場合であっても,そのときは,「GRO]の文字部分は,何ら特定の観念を生じない造語として認識,把握されるから,同じく,自他商品の識別標識としての機能を十分に果たすことになる。
要するに,本願商標中の「MIRACLE」の部分は,商品の品質,品位を誇示する修飾語的又は接頭語的な語として認識される自他商品の識別機能を果たし難い部分であるから,取引者・需要者は,本願商標を「驚異的に,奇跡的に優れたグロー(GRO)」のように,造語の「GRO」に品質,品位の優位性を誇示する語が結合された商標であると把握,認識するか,又は,何ら特定の観念の生じない不可分一体の造語より成る商標と把握,認識するかするものというべきである。
本願商標を構成する「MIRACLE」と「GRO」の各部分は,本願商標に接する取引者・需要者により,分離されることなく,不可分一体のものとして認識,把握されるものであり,仮に,分離されることがあるとしても,省略されるのは「MIRACLE」の文字部分であって,「GRO」の文字が省略されることはない。
(4) 以上のとおり,本願商標から生じる称呼は,商標全体より生じる「ミラクルグロー」のみであり,仮に,「ミラクルグロー」以外に生じるものがあるとしても,それは,「グロー」のみである。したがって,本願商標は「ミラクル」の称呼をも生ずるとして,これを前提に,本願商標が引用各商標と類似するとした審決は,誤りである。 (5) 被告は,ハイフンを介して結合された商標について商標の類否が争われた事件の判決である,「SOFT-JOYS」と「JOYS」に関する判決(東京高等裁判所,平成2年(行ケ)第16号)及び「EX-TECH」と「TECH」に関する判決(東京高等裁判所,平成11年(行ケ)第421号)を,自己の主張を支えるものとして挙げている。
しかしながら,前者は,商標を構成する「SOFT」の文字が指定商品の品質等を表示する記述的部分に過ぎず,自他商品の識別標識としての機能を発揮しない部分であることから,「SOFT」と「JOYS」とが分離された事案であり,後者は,商標を構成する「EX」の文字部分は,アルファベット文字2文字から構成される極めて簡単でかつありふれたものであり,この文字部分では自他商品の識別標識として機能しないものであることから,「EX」と「TECH」とを分離して商標の類否判断がなされた事案であると解される。したがって,これらは,本件とは事案を異にするものというべきである。
2 取消事由2(本願商標と引用各商標との類否判断の誤り) (1) 本願商標より生じる称呼「ミラクルグロー」と,引用各商標から生ずる称呼「ミラクル」とを比較すると,その音数,音構成及び音感の差により,取引者・需要者において明確に区別し得るものであるから,本願商標と引用各商標とは,称呼上,相紛れるおそれのない非類似の商標である。
(2) 特許庁は,本願商標と同一の「MIRACLE-GRO」の文字を左横書にして成り,本願商標に係る指定商品の一部と同一の「肥料」(旧第2類)を指定商品とする原告の登録商標(平成元年2月8日出願,平成5年5月31日設定登録。甲第7号証)が存在するにもかかわらず,平成2年10月16日に登録出願された「ミラクル」の文字を左横書にして成り,「肥料」(旧2類)を指定商品とする商標について,平成10年1月16日に登録を認め(甲第8号証),同商標につき,上記「MIRACLE-GRO」の登録商標の存在等を理由とする異議申立てを,両商標は,その外観,称呼及び観念のいずれからしても類似しない商標であること等を根拠に,理由がないとしている(異議決定書においては,「MIRACLE-GRO」は,その構成全体をもって一体不可分の一連の商標と判断するのが相当である,と述べている。甲第10号証)。このように,特許庁が,本願商標と同一構成で,指定商品を一部同じくする「MIRACLE-GRO」の商標について,「MIRACLE」の文字と「GRO」の文字とを不可分一体のものと認定し,「MIRACLE-GRO」と「ミラクル」とが非類似の商標であると判断する一方で,本願商標について,「MIRACLE」の文字と「GRO」の文字とは分離され得ると認定し,「MIRACLE-GRO」と「MIRACLE」及び「ミラクル」とが類似する商標であると判断することは,誤りである。
また,本願商標の指定商品中の「化学品,植物成長調整剤類」と同一又は類似する商品に関して,「MIRACLE」の欧文字又は「ミラクル」の片仮名文字を商標の構成に含む商標である「ミラクルタブレ/MIRACLETABLE」(商標登録第2309112号。甲第11号証の1,2),「ミラクルフルーツ/MIRACLE FRUITS」(商標登録第2704286号。甲第12号証の1,2),「Miraclepas」(商標登録第2713963号。甲第13号証の1,2),「ミラクルタイム/Miracle Time」(商標登録2714438号。甲第14号証の1,2),「ミラクルバーディー/MIRACLEBARDAY」(商標登録2724071号。甲第15号証の1,2),「MIRACLEGREEN/ミラクルグリーン」(商標登録3334575号。甲第16号証の1,2),「MIRACLE SPICE」(商標登録4307418号。甲第17号証の1,2)及び「ミラクルガード/MIRACLEGUARD」(商標登録第4352673号。甲第18号証の1,2)が,引用各商標と併存して登録されている。以上の登録が複数認められていることからみても,「MIRACLE」の文字が他の文字と結び付いた場合には,「MIRACLE」の部分のみが商標の要部となることはあり得ないものというべきである。
以上によれば,本願商標と引用各商標とは,類似するものではないというべきであり,両商標が類似するとした審決は,違法であって,取消しを免れない。
被告の反論の要点
審決の認定判断は正当であり,審決に,取消事由となるべき瑕疵はない。
1 取消事由1(本願商標から生じる称呼の認定の誤り)について (1) 原告は,本願商標は,標準文字により構成されるものであるから,視覚上,まとまりよく一体的に把握されるものである,と主張する。しかし,標準文字制度は,登録を求める対象としての商標が文字のみにより構成されている場合において,出願人が特別の態様について権利要求をしないときは,出願人の意思表示に基づき,商標登録を受けようとする商標を願書に記載するだけで,特許庁長官があらかじめ定めた一定の文字書体(標準文字)によるものをその商標の表示態様として公表し登録する制度であって,特許庁の事務処理の効率化及び手続負担の軽減を図るためのものにすぎない。商標がその構成において一体不可分のものであるか否かは,標準文字より成るものであるか否かによって左右されるような性質の事柄ではない。
(2) 原告は,本願商標は,「MIRACLE」と「GRO」という二つの構成部分が連結記号であるハイフンにより結合されて成ることから,一層まとまりがよくなり,不可分一体のものとして認識されることになる,と主張する。
しかし,二語を結合した商標において,当該二語をハイフンで結合することが,商標全体の一体性を強調する,ということはあり得ない。ハイフンで左右に分離された二語は,ハイフンで左右に分離されているというそのことだけで,視覚上,どちらか一方の語が着目されやすいものとなる。もともと,ハイフンは,言語表記の補助符号として使用され,英文などで,合成度の浅い複合語の連結,一語が行末までに収まりきれず二行にまたがるときのつなぎ,または一語内の形態素の区切りを明確にするのに用いられるものであって,二語の一体性を強調するためにのみ用いられるものではない。これらの事情によれば,本願商標は,視覚上,ハイフンの前後で「MIRACLE」と「GRO」とに,分離して,看取されるものである,ということができる。
本願商標の前半部の「MIRACLE」の文字は,「不思議,奇跡」等を意味する英語として我が国において親しまれている語であり,これに由来する「ミラクル」の語は,「奇跡」を意味する外来語として一般によく知られている。他方,本願商標の後半部の「GRO」の文字は,特定の語義を有しない造語と理解されるものであり,本願商標の指定商品との関係からすれば,むしろ,商品の記号,符号を表したと理解される場合も決して少なくないものである。したがって,本願商標を構成する上記両語は,視覚上,分離して看取されるだけでなく,その観念上の結びつきも極めて弱いものということができる。そうすると,本願商標に接する取引者・需要者は,語頭に位置し,目に付きやすくよく知られた語である「MIRACLE」の文字部分に着目し,これを記憶して商品の取引に当たる場合が少なくない,というべきである。
以上のとおり,本願商標は,「MIRACLE」の文字部分に相応して,「ミラクル」の称呼及び「奇跡」の観念をも生ずるものである。
(3) 原告は,全体より生じる称呼である「ミラクルグロー」は,よどみなく一気一連に称呼し得るものである,と主張する。
しかし,本願商標を全体として称呼した場合の「ミラクルグロー」の称呼は,長音を含め7音であり,極めて冗長というほどものではないものの,冗長であり,簡易迅速を旨とする商取引の実際においては,親しみやすく,かつ,簡潔な「ミラクル」の称呼をもって商品の取引に当たることになる,というべきである。
裁判例は,ハイフンを解した結合商標である「SOFT-JOYS」について,「本願商標は,前半の『SOFT』と後半の『JOYS』がハイフンを介して左右に分離・配置された外観を呈しており,それ故にまた,これを称呼するときは『ソフトジョイス』と一連に称呼されるよりも,むしろ,『ソフト』と『ジョイス』に区切られて称呼されることの方が一般的であると解される。」(東京高等裁判所,平成2年(行ケ)第16号判決,平成2年9月6日言渡し)とし,「EX-TECH」の構成から成る商標について,「本願商標である『EX-TECH』は,『EX』と『TECH』という二つの欧文字の構成部分をハイフンで結合しているものであり,『EX』と『TECH』との間には,明確にハイフンが存在するのであるから,視覚上,本願商標がハイフンの前後で『EX』と『TECH』に分離して看取されることは,構成自体で明らかというべきである。」(東京高等裁判所,平成11年(行ケ)第421号判決,平成12年6月13日言渡し)と判示している。
(4) 原告は,「MIRACLE」の語は,他の文字と結び付いて用いられる場合には,商品の品質,品位が「不思議なくらいに」,「奇跡的に」又は「驚異的に」優れていることを誇示するものとして修飾語的又は接頭語的な語として認識され得るものであるとし,本願商標中の「MIRACLE」の部分は,独立して「ミラクル」の称呼を生じさせ得る程度に自他商品の識別力を有するものとして把握するのは誤りである,「MIRACLE」の部分は,簡易迅速を尊ぶ取引の実情の下において,本願商標を示すに当たり省略されることはあっても,本願商標の称呼として「ミラクル」と呼ばれることはあり得ないからである,と主張する。
しかし,「MIRACLE」の語は,「不思議,奇跡,驚異」等の意味を有する英語の名詞であって,他の語を修飾する形容詞ではなく,原告のいう「不思議なくらいに,奇跡的に,驚異的に」の意味を有するものではない。まして,商品の品質,品位が優れていることを誇示する語として認識されているものではない。
仮に,「MIRACLE」の語が他の語と結び付いた形で用いられたとしても,そのことから,「MIRACLE」の語自体が商品の品質,品位が優れていることを誇示する語として認識されることになるわけのものではない。「MIRACLE」の語が,本願商標の指定商品の品質等を表示する語として実際に使用されている事実もない。上記の意味を有する英単語「MIRACLE」は,我が国において多くの者に熟知されているばかりでなく,前記のとおり,この語に由来する「ミラクル」の語は,「奇跡」を意味する外来語として一般に知られているものである。
以上によれば,本願商標の構成中の「MIRACLE」の部分は,それ自体で自他商品の識別力を十分に有するものであり,本願商標は,簡易迅速を尊ぶ取引の実情の下では,この部分から生ずる「ミラクル」の称呼のみによって取引に資されることも,少なくないというべきである。
原告は,「miracle drug」,「miracle man」等の用例を挙げて,英語の「MIRACLE」及び外来語の「ミラクル」の語は,本来は名詞であるとしても,これらの文字と他の文字が結合した場合には,「不思議なくらいに,奇跡的に,驚異的に」優れたものであることを示す修飾語的な意味合いを生じさせ,「薬剤」の分野において商品の品質等を誇示するために用いられている,などとして,本願商標の「MIRACLE」の文字は,商品の品質を誇示する意味合いで用いられているものと理解,認識しやすいものであるから,自他商品の識別力が弱いものであると解すべきであると主張する。
しかし,原告が挙げる「miracle drug」,「miracle man」,「ミラクルワーカー」及び「miracle rice」の語は,いずれも,既成の観念を有する一連の語として知られているものであって(甲第19,第20号証参照),これらの用例から,直ちに,「MIRACLE」の語は,形容詞的に用いられるということはできない。甲第19号証中の「miracle fruit」の語や,甲第20号証中の「ミラクルシーン」,「ミラクルフルーツ」の語は,既に「奇跡」の観念からは,遠く離れた意味を有する語とされている。甲第21号証中には,既成語としての「miracle drug」の片仮名表記の「ミラクルドラッグ」の記載が見られるのみであり,この記載から,「MIRACLE」の語が商品の作用効果を誇示する意味合いで使用されているものとは到底いうことができず,一般に「MIRACLE」の語が「薬剤」の分野において商品の品質を誇示するために用いられているということもできない。甲第22号証中には,「奇跡○○○」の表示が見られるものの,「MIRACLE」の文字はどこにも見いだすことはできないから,同号証は,「MIRACLE」の語が商品の品質等を誇示するために用いられていることの証拠にはなり得ない。そもそも,本願商標は,「化粧品・医薬部外品」とは直接関係しない,「化学品,植物成長調整剤類,肥料」を指定商品とするものであるから,「化粧品・医薬部外品」の販売名の指針がそのまま本件に当てはまるものではない。
したがって,本願商標の前半部分の「MIRACLE」の文字部分は,商品の品質を誇示する意味合いで用いられているものと理解,認識されるようなことはなく,自他商品の識別標識としての機能を十分に果たし得るものである。
(5) 原告は,「GRO」の文字部分は英語の「grow」に由来する造語であるとして,本願商標は,全体として「驚異の成長」といった意味合いを暗示させる造語として把握,認識されるものであるから,不可分一体のものとして把握,認識される,と主張する。
また,原告は,本願商標に接する取引者・需要者が,本願商標の由来を認識し得ない場合には,「GRO」の文字部分は,何ら特定の観念を生じない造語として把握,認識されるから,本願商標は,「驚異的に,奇跡的に優れたグロー(GRO)」として,又は何ら特定の観念を生じない不可分一体の造語として,把握,認識される,と主張する。
しかし,「GRO」の文字が,英語の「grow」に由来する語として認識されているという事実はない。英和辞典によれば,「gro.」が「gross」の略語とされているほかには,「GRO」ないし「gro」が「grow」の略語ないしは「grow」に由来するものであることを示すものはない。「GRO」の文字を略語辞典等において見いだすこともできない。したがって,本願商標中の「GRO」の文字は,何らの特定の観念も生じさせるものではなく,単に,ローマ字の3文字を羅列したものとして認識され,「ジーアールオー」と称呼されるものというべきである。
2 取消事由2(本願商標と引用各商標との類否判断の誤り)について (1) 原告は,本願商標から生じ得る称呼は,「ミラクルグロー」であって,「ミラクル」の称呼は生ぜず,引用各商標から生じる称呼である「ミラクル」とは相紛れるおそれはないから,本願商標と引用各商標とは非類似の商標である,と主張する。
しかし,本願商標は,1で述べたとおり,「ミラクル」の称呼及び「奇跡」の観念をも生ずるものであるから,「ミラクル」の称呼及び「奇跡」の観念を生ずることが明らかな引用各商標とは,その称呼及び観念を共通にする類似の商標というべきである。原告の主張は,本願商標からは「ミラクル」の称呼が生じないことを前提とするものであり,前提において既に失当である。
(2) 「ミラクルアリントン」の商標と,「ミラクル」の商標との類否判断について,前者の商標からは,ミラクルアリントンの称呼が生ずるばかりでなく,熟知された英単語である「MIRACLE」を意味するものとしての,前半部分の「ミラクル」に着目して,全く何の意味(観念)も持たない後半部分の「アリントン」から分離して,「ミラクル」の称呼が生じ,「奇跡」の観念が生ずるとして,これと称呼及び観念が同じである「ミラクル」の商標と類似するとした裁判例(東京高等裁判所昭和55年(行ケ)138号,昭和56年5月28日言渡しの判決)がある。本願商標についても上記裁判例と同様に考えるべきである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本願商標から生じる称呼の認定の誤り)について (1) 本願商標は,「MIRACLE-GRO」の欧文字を横書して成り,第1類の「化学品,植物成長調整剤類,肥料」を指定商品とする商標であることは,当事者間に争いがない。同商標が,「MIRACLE」と「GRO」の文字をハイフンで結合した結合商標であることは,明らかである。
(2) 原告は,審決が本願商標から「ミラクル」の称呼が生じると認定判断したのは誤りであり,本願商標から生ずる称呼は,商標全体より生ずる「ミラクルグロー」のみである,仮に,「ミラクルグロー」以外に生じるものがあるとしても,それは,「グロー」のみである,と主張する。
しかしながら,本願商標を構成する「MIRACLE」と「GRO」との間には,明確にハイフンが存在するのであるから,視覚上,本願商標がハイフンの前後で「MIRACLE」と「GRO」とに分離して看取されることは,その構成自体から明らかである。このうち,前半部分の「MIRACLE」の文字は,「不思議,奇跡,驚異」等を意味する英語であり(甲第19号証参照),そのようなものとして,一般に親しまれている語であることは,当裁判所に顕著である。これに対し,後半部分の「GRO」の文字は,我が国で親しまれた成語を表していると認めることのできないものである。被告は,「GRO」は,「生物などが発育する,成長する。草木が生える,育つ,生長する」等の意味を有する英語の「grow」に由来する造語であり,本願商標に接した取引者・需要者は,「GRO」の文字が英語「grow」に由来することを認識し得る,と主張する。しかし,本願商標を創作した者の主観的意図はどうであれ,我が国において,「GRO」の語が,英語の「grow」に由来する語として一般に用いられていることを示す証拠はなく,本願商標の指定商品が草木の生長等に関連する商品である「化学品,植物生長調整剤類,肥料」であることを考慮に入れたとしても,本願商標に接した取引者・需要者にとって,仮に,「GRO」の文字を,「グロ」,「グロウ」「グロー」等と呼称することができたとしても,それが英語「grow」に由来することを認識,理解することは,一般には,困難であるというべきである。
以上によれば,本願商標に接した同商標の指定商品の一般的取引者・需要者は,本願商標中の「MIRACLE」の文字部分に着目し,この部分から生じる「ミラクル」の称呼によって,本願商標全体を呼称し,取引に当たることも相当程度生じることが,当然に予想されるものというべきである。
(3) 原告は,本願商標中の「MIRACLE」の文字は,本願商標の指定商品である肥料などが驚異的あるいは奇跡的に優れているという,商品の品質,品位の優位性を誇示する修飾語的又は接頭語的な語として認識されるものであり,自他商品の識別機能を果たし難い部分であるとして,これを根拠に,本願商標を構成する「MIRACLE」と「GRO」の文字部分は分離されることなく,本願商標に接する取引者・需要者において不可分一体のものとして認識,把握されるものであり,仮に分離されることがあるとしても,省略されるのは,「MIRACLE」の文字であって,「GRO」の文字が省略されることはないから,本願商標全体が「MIRACLE」の文字の呼称である「ミラクル」の称呼を生じることはない,と主張する。
しかしながら,「MIRACLE」の文字は,前記のとおり「不思議,奇跡,驚異」等を意味する英語として,我が国において親しまれているものであるものの,そのことから,直ちに,これが,商品の品質や効果を表したものとしてしか認識されない,ということはできないというべきである。
甲第19号証によれば,英和辞典(1997年発行)において「miracle drug」(驚異的に効く薬,(新発見の)特効薬),「miracle man」(奇蹟を行う人,できそうもないことをする人),「miracle rice」(奇跡米,在来種より2-3倍も収穫の多い新開発の米)の語が収録されていることが認められ,これによれば,英語において「miracle」の語が「驚異的な,奇跡的な」という修飾語的な意味合いで用いられることがあるということはできる。また,甲第20,第21号証によれば,我が国において,「ミラクルワーカー」が「奇蹟を行う人」を意味する語として,「ミラクルドラッグ」が「驚異的に効く薬」といった意味合いで使用されていることが認められ,「ミラクル」の語が,我が国においても,上記と同様に修飾語的な意味合いで用いられることがある,ということもできる。しかし,上記認定事実は,「MIRACLE」の語が一般の取引者・需要者の間で,商品の品質や効果を表したものとしてしか認識されない,と認めさせるに足りるものではない。
そして,本件全証拠を検討しても,他に,これを認めさせるだけの資料を見いだすことはできない。
原告の上記主張は,採用することができない。
(3) 以上述べたところによれば,本願商標は,「ミラクル」の称呼を生ずるとした審決の認定判断に誤りはない。取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(本願商標と引用各商標との類否判断の誤り)について (1) 引用各商標が,いずれも「ミラクル」の称呼を生ずることは,当事者間に争いがなく,本願商標は,引用各商標と,称呼を同じくするものであるという以外にない。
原告は,本願商標からは,「ミラクルグロー」の称呼のみが生じ,「ミラクル」の称呼が生じないことを前提に,審決の類否判断の誤りを主張する。しかしながら,本願商標が「ミラクル」の称呼をも生じることは1で説示したとおりである。原告の上記主張は,前提において既に失当である。
引用各商標は,いずれも,「ミラクル」の称呼を生ずることは,当事者間に争いがない。
そうすると,本願商標と引用各商標とは,「ミラクル」の称呼を同じくする類似の商標であるというべきであり,これと同旨の審決の類否判断に誤りはない。
(2) 原告は,別件における「MIRACLE」の文字を含む商標についての,特許庁の登録例や決定例を引用して,審決の類否の判断を論難する。
しかし,別件における登録例や決定例が,本件における類否判断を左右するものではないことは,事柄の性質上,当然である。
原告の上記主張は,採用することができない。
3 以上によれば,原告主張の審決取消事由は理由がなく,その他審決には,これを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
結論
以上のとおりであるから,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担,上告及び上告受理の付加期間について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,96条2項を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 阿部正幸
裁判官 宍戸充