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事件 平成 12年 (ワ) 21175号 商標権侵害差止等請求事件
原告 オーシャンパシフィック アパレル コーポレーション
原告 ニッキー株式会社
上記両名訴訟代理人弁護士 関根秀太
同 石村善哉
同 達野大輔
上記両名訴訟復代理人弁護士 山本英幸
被告 株式会社ラッキーコーポレーション
被告 NことR
上記両名訴訟代理人弁護士 北川鑑一
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2002/02/25
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告株式会社ラッキーコーポレーションは,別紙第1標章目録(一)ないし(九)及び別紙第2標章目録(一)ないし(七)記載の各標章を付したティーシャツを輸入し,販売し,販売のために展示してはならない。
2 被告株式会社ラッキーコーポレーション及び被告Rは,連帯して,原告オーシャン パシフィック アパレル コーポレーションに対し342万2016円,原告ニッキー株式会社に対し4209万9689円及びこれらに対する平成12年10月19日から各支払済みまで各年5分の割合による金員を各支払え。
3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用はこれを3分し,その2を被告らの,その余を原告らの負担とする。
5 この判決は,第1項及び第2項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1 主文第1項と同旨 2 被告株式会社ラッキーコーポレーション及び被告Rは,連帯して,原告オーシャン パシフィック アパレル コーポレーションに対し693万2000円,原告ニッキー株式会社に対し9728万1600円及びこれらに対する平成12年10月19日から各支払済みまで各年5分の割合による金員を各支払え。
3 被告株式会社ラッキーコーポレーション及び被告Rは,別紙謝罪広告目録記載の謝罪文を同目録記載の要領で同目録記載の新聞に掲載し,別紙連絡文目録記載の文書を同目録記載の業者に対し送付せよ。
事案の概要
本件は,原告らが,別紙第1標章目録(一)ないし(九)及び別紙第2標章目録(一)ないし(七)記載の各標章(以下「本件各標章」と総称する。)を付したティーシャツ(以下「本件商品」という。)を並行輸入し,販売した被告ラッキーコーポレーション(以下「被告ラッキー」という。)に対して,商標権侵害を理由として上記行為の差止めを,被告らに対して,損害賠償及び謝罪広告の掲載等を請求した事案である。
1 前提となる事実(証拠及び弁論の全趣旨で認定したものを除き,争いがない。) (1) 原告オーシャン パシフィック アパレル コーポレーション(以下「原告OP」という。)は,衣料品等の販売を業とする米国法人であり,原告ニッキー株式会社(以下「原告ニッキー」という。)は,洋品雑貨の製造及び販売等を業とする株式会社である。
被告ラッキーは,輸入日用品雑貨及び輸入洋品雑貨の販売等を業とする株式会社であり,被告R(以下「被告R」という。)は,被告ラッキーの代表取締役である。
(2) 原告OPは,以下の各商標権(以下「本件各商標権」と総称し,その登録商標を「本件各商標」と総称する。)を有する。
ア 登録番号 2276510号 出願年月日 昭和57年10月13日 登録年月日 平成2年10月31日 商品の区分 旧第17類 指定商品 被服(運動用特殊被服を除く),布製身回品(他の類に属するものを除く)及び寝具類(寝台を除く) 登録商標 別紙第1商標目録記載のとおり イ 登録番号 1679048号 出願年月日 昭和50年6月5日 登録年月日 昭和59年4月20日 商品の区分 旧第17類 指定商品 被服(運動用特殊被服を除く),布製身回品(他の類に属するものを除く)及び寝具類(寝台を除く) 登録商標 別紙第2商標目録記載のとおり (3) オーシャン・パシフィック・サンウェア・リミテッド(以下「サンウェア社」という。)は,本件各商標権を有していたが,平成4年8月28日,三菱商事株式会社(以下「三菱商事」という。)に対し,本件各商標について専用使用権を設定し,三菱商事は,同日,原告ニッキーに対し,本件各商標について独占的な使用許諾をした。その後,原告OPは,サンウェア社を買収して,本件各商標権を譲り受け,サンウェア社と三菱商事との契約におけるサンウェア社の地位を引き継いだ(甲1及び2の各1,甲15)。
(4) 被告ラッキーは,本件各標章を付したティーシャツ(本件商品)をフィリピンから輸入し,これを複数の小売販売会社又は卸業者に販売した。また,被告ラッキーは今後も本件商品を輸入,販売するおそれがある(弁論の全趣旨)。
本件各標章は本件各商標と同一又は類似のものである。
2 争点及び当事者の主張 (1) 被告ラッキーが本件商品を輸入,販売したことは,いわゆる真正商品の並行輸入として,実質的違法性が阻却されるか。
(被告らの主張) ア(ア) 被告ラッキーは,本件商品を,フィリピン所在のジャンズ・インターナショナル(以下「ジャンズ社」という。)から輸入した。ところで,ジャンズ社はフィリピン所在のザ・ネイチャー・クロージング・アンド・スポーツウェア・カンパニー・リミテッド(以下「ネイチャー・クロージング社」という。)から,ネイチャー・クロージング社はシンガポール所在のオリエント・パシフィック・サンウェア・ピーティーイー・リミテッド(以下「オリエント・パシフィック社」という。)から,さらにオリエント・パシフィック社は原告OPから,それぞれ本件各商標についての使用許諾を受けているから本件商品は真正商品である。
(イ) ネイチャー・クロージング社は,以下のとおり,オリエント・パシフィック社から本件各商標についての使用許諾(サブランセンス)を受けている。
すなわち,オリエント・パシフィック社の副社長であるPは,ネイチャー・クロージング社にあてて,書簡(甲3,以下「P書簡」という。)を送っている。
P書簡の第2文には,「We are in the process of appointing them as sub-licensee to handle the USA brand ‘Ocean Pacific’ or ‘Op’ in the Philippines territory.」(現在当社は,ネイチャー・クロージング社をサブライセンシーと指名すべく内部手続中である。)と記載されている。すなわち,オリエント・パシフィック社とネイチャー・クロージング社との間でライセンス契約についての合意はできたが,原告OPの内部ではまだ手続が完了していないとの趣旨が述べられている。同第3文には,「ネイチャー・クロージング社は平成10年12月1日より原告OPの商品を製造,販売等できるでしょう。」と記載されている。ところで,P書簡の作成日付は平成10年12月1日であるから,第3文は,「本日より製造,販売等できる」との趣旨である。したがって,P書簡によれば,ネイチャー・クロージング社が,本件各商標についての使用許諾(サブランセンス)を受けていることは明らかである。
なお,オリエント・パシフィック社は,平成11年6月19日に,ネイチャー・クロージング社に対して,本件各商標を使用した商品の製造,販売を中止するよう要求する書簡を送付しているが(甲5),P書簡を送付してから6か月もの間,本件各商標の使用の中止を求めていない。このことは,原告OP側がネイチャー・クロージング社が本件各商標を使用することを認めていたことを示唆している。
イ また,オリエント・パシフィック社が作成した「伝票」(丙2の1)及び運送機関が作成した「送り状」(丙2の2)の存在から,オリエント・パシフィック社がネイチャー・クロージング社に対し,カタログを2通送付したことが分かるが,同カタログは,原告OPから同社製品の製造及び販売を許可された者のみに送付されるのであるから,ネイチャー・クロージング社は,本件商品の製造,販売の許諾を得ていたというべきである。
また,フィリピンの弁護士が作成した書簡(丙3)において,ネイチャー・クロージング社が原告OP製品を取り扱える権利の存在が確認されている。
ウ オリエント・パシフィック社は原告OPのライセンシーであり,契約締結についての代理権を授与されたといえるから,オリエント・パシフィック社とネイチャー・クロージング社との間の上記契約には民法110条が適用される。したがって,オリエント・パシフィック社は,ネイチャー・クロージング社に対して上記サブライセンスを授与する権限がなかったことを善意無過失の第三者である被告ラッキーに主張し得ない。
(原告らの反論) ア 原告OP又は同原告から本件各商標についての使用許諾を受けているオリエント・パシフィック社は,ネイチャー・クロージング社又はジャンズ社に対して,本件各商標についての使用許諾(サブライセンス)を与えたことはない。本件商品はいわゆる真正商品には当たらない。
イ 被告らは,P書簡を根拠として,ネイチャー・クロージング社がオリエント・パシフィック社から本件各商標についての使用許諾を受けた旨主張する。
しかし,P書簡は商標の使用を許諾する契約書でもないし,商標権使用許諾についての契約の成立を推測させる書面でもない。すなわち,同書簡には,オリエント・パシフィック社はネイチャー・クロージング社と,本件各商標についてのサブライセンスの契約の交渉中であるということが記載されているにすぎない。
また,ネイチャー・クロージング社は,オリエント・パシフィック社に,P書簡が作成された6日後の平成10年12月7日付けで,契約成立に必要な原告OPの承認を得るようオリエント・パシフィック社に要求する旨の書簡(甲4)を送付していることからも,商標権の使用許諾が成立していないことは明らかである。P書簡を根拠とする被告らの主張は失当である。
ウ なお,P書簡が作成された経緯は次のとおりである。すなわち,オリエント・パシフィック社とネイチャー・クロージング社とは,同月1日ころ,原告OPの商標についてのサブライセンス契約締結に向けての交渉をしていたが,同契約締結のためには,商標権者である原告OPが同契約締結に同意することが条件となっていた。ところで,ネイチャー・クロージング社は,当時,ショッピングモールに出店を希望していたところ,同ショッピングモールへの出店についての競争が激しかったため,家主から出店の承諾を得ることは困難な状況であり,ネイチャー・クロージング社が原告OPの商標権の使用許諾を得ることが出店の承諾を得るのに効果的であると考えた。ところが,オリエント・パシフィック社との上記サブライセンス契約の締結のための原告OPの同意は未だ得られず,上記契約の締結には至っていなかったので,ネイチャー・クロージング社は,オリエント・パシフィック社に対して,上記ショッピングモールの家主に提示する目的で書類の作成を依頼し,オリエント・パシフィック社のPはこの依頼に応えて,P書簡を作成したのである。しかし,結局,原告OPからの上記承諾は得られず,上記サブライセンス契約は締結されなかった。
(2) 本件商品をいわゆる真正商品と誤認したことについて被告らに過失がないか。
(被告らの主張) 本件商品が真正商品ではないとしても,前記(1)で主張したとおりの内容のP書簡が存在しており,被告Rは,これを信頼して,ネイチャー・クロージング社が本件各商標の使用許諾を得ているものと認識していた。並行輸入に当たっては,このような書簡を信用して取引をすれば足りると解されており,ライセンス契約書などを確認することを求めるのは相当でない。
したがって,被告らが本件商品を真正商品と誤信したことに過失はない。
(原告らの反論) ア ブランド品の並行輸入において,P書簡のような書類が添付されている場合は,当該商品が偽造品である可能性が非常に高い。被告らがP書簡を持ち回り,本件商品が真正商品であると強調した行為は,かえって,被告Rが本件商品が真正商品ではないと認識していたことを推測させる。
イ P書簡を見れば,同書簡が署名者によって作成されたものであるかの点,オリエント・パシフィック社が原告OPから本件各商標の使用を許諾され,再許諾権を有しているのかの点,上記書簡の内容は本件各商標の使用を許諾するというものであるのかの点等について当然に疑問を抱くはずである。このような疑問を解消するためには,原告OPに対して,本件各商標の使用を許諾されているかを確認すべきであり,かつ,同確認作業は容易である。ところが,被告らは,上記の確認作業をしないばかりか,何らの調査もしておらず,これは,P書簡が将来の言い訳の材料として都合がよいと考えたからにすぎない。以上の経緯に照らすならば,被告らは,本件商品が真正商品ではないと認識していたことが明らかである。
ウ 原告OPは,本件商品を発見した後,本件商品を扱っているいくつかの店舗に警告書を発送した。これに対する被告Rの対応は,不自然であって,あらかじめ侵害の警告を受けることを予測し準備していたことが窺える。すなわち,商標権者から侵害品であるとの警告を受けた場合,通常,当該商品の真偽を確認するため,警告者との間において事実確認をする努力をするはずであるが,被告Rは,原告OPから警告を受けたことを知ると,オリエント・パシフィック社に確認をしたり,原告OPに連絡することをせずに,販売先に対しP書簡のコピーを送付し,本件商品が真正商品であると強調して回った。このような被告Rの行為からすると,被告Rは本件商品が真正商品であると確信していたのではなく,逆に,はじめから本件商品が真正商品ではないことを承知していたものというべきである。
エ 本件商品のうちの一部(甲12の写真番号117ないし130)は,一見して不自然なプリントがされているが,このような不自然なプリントが施されたティーシャツを正規のライセンシーが製造するはずはなく,上記商品が真正商品でないことは一見して明らかである。ところが,被告ラッキーは上記の商品を販売していたのであるから,被告Rは,本件商品が真正商品ではないということを十分認識していたと推測される。
オ 以上のとおり,被告Rは,本件商品が真正商品ではないと認識していたというべきであり,仮にこのような認識がなかったとしても,被告Rは,本件商品の輸入に際して調査を一切していなかったのであるから,本件商品を真正商品と誤認したことについて過失があるというべきである。
また,被告Rには,取締役としての職務を行うに付き悪意又は重過失があったというべきであるから,商法266条の3第1項の責任を負う。
(3) 損害額はいくらか。
(原告らの主張) 原告らの損害額は,以下の額と推定されるべきである(商標法38条2項)。
ア 輸入数量について (ア) 信用状によれば,被告ラッキーの総輸入数量は少なくとも65万7449着であり,そのうちジャンズ社からの輸入数量は52万4639着である。
ところで,ライセンサーは,ライセンシーに対して,他社ブランドの同種商品を扱うことを禁止するのが普通であり,一つの会社が複数の同種の企業から商品の製造に関するライセンスを受けることは通常あり得ない。したがって,被告ラッキーがジャンズ社から輸入した商品は原告OPの商標を付した商品のみであったと考えて差し支えない。仮に,原告OPの商標を付した商品以外の商品が混在してたとしても,その割合は非常に低いと考えられる。
(イ) 被告ラッキーが開示した伝票の記載から推測した本件商品の輸入数量は,以下のとおりである。
被告ラッキーは,本件訴訟の過程で,平成10年9月から平成12年8月までの日付のある伝票を開示し,原告らはこれを見分して,その結果を甲第74号証にまとめた。上記伝票の宛名は,「田原屋」,「ユウキ」,「エフ」,「坂善商事及びゼンモール」,「その他」と記載されている。
a 上記伝票によると,被告ラッキーは,本件商品を,株式会社田原屋に対しては1万9209着,株式会社ユウキに対しては2018着,株式会社エフに対しては5923着,坂善商事に対しては2178着販売したことになる。しかし,上記伝票は,1枚ごとが独立の用紙となっており,これらを紐で綴じているだけであるから,仮にその中の一部分に綴じ落としがあったとしても外見からこれを判断することはできず,上記各社への販売数が上記数量であると断定することはできない。
b 「その他」伝票(合計18冊)によると,被告ラッキーの本件商品の販売数量は3万6493着になる。
ところで,「その他」伝票については,平成10年9月から平成11年11月までの日付のある伝票はスタンプの押捺により,平成12年1月以降の日付のある伝票は印刷により,それぞれ通し番号が付されている。しかし,伝票に付された通し番号には欠番が数多く存在するところ,番号の欠落した伝票は,存在するにもかかわらず提出しなかったものと考えられ,これを基に計算すると,被告ラッキーの本件商品に関する伝票は本来なら60冊存在するものと推測される。
このように「その他」伝票は60冊存在するはずであるから,同伝票に基づく販売数量は12万1643着(3万6493着×60÷18≒12万1643着)となる。
c したがって,伝票の記載によれば,被告ラッキーは,本件商品を少なくとも15万0971着(1万9209着+2018着+5923着+2178着+12万1643着=15万0971着)販売したことになる(実際の販売数は,後記(ウ)で計算する。)。
(ウ) 被告ラッキーが原告らに開示した同社の帳簿の記載から計算される平成10年9月から平成12年8月までの総販売数量は35万6041着であり,この数量に上記開示されていない「その他」伝票に含まれていると推定される本件商品の数量8万5150着(12万1643着-3万6493着)を加えたとしても,44万1191着にしかならない。
上記販売数量は,前記信用状から計算される総輸入数量65万7449着と大きな隔たりがあるから,被告ラッキーが原告OPに開示した帳簿の他にも帳簿が存在するものと推測され,開示された帳簿は全体の約67.1パーセント(44万1191着÷65万7449着×100)にすぎないというべきである。
そして,本件商品の実際の販売数量に対する開示された伝票に記載されている数量の割合が,総輸入量に対する帳簿上の総販売数量の割合と同一であるとして,本件商品の実際の販売数量を推計すると,22万4972着(15万0971着÷0.67.1)となる。
(エ) なお,被告らは,インボイスを提示し,同インボイスに示された輸入数量が本件商品の輸入数量であると主張する。
しかし,上記インボイスには,ジャンズ社の名称が表示されているものの,その商品内容としては,単に「T-SHIRTS」と記載されているのみであって,上記インボイスのみでは,本件商品が輸入されたのが被告らの主張する期間であったか否かが全く不明であるから,上記インボイスは本件商品の輸入数量の証拠とはなり得ない。
(オ) 以上総合すると,被告ラッキーは本件商品を少なくとも20万着は輸入,販売したというべきである。
イ 輸入原価について (ア) 被告らは,被告ラッキーによる本件商品の輸入価格(FOB価格)は,1着当たり560円(4.87米ドル)又は455円(3.96米ドル)であると主張する。しかし,本件商品のようにフィリピンから輸入したプリントティーシャツが上記のように高価であることは不自然である。被告らの提出したインボイスには上記の価格の記載があるものも存在するが,上記インボイスが真に本件商品の輸入に係るものであるかの点,及び本件商品の輸入に上記インボイスのみが使用されたかの点については全く明らかにされていないので,上記インボイスを根拠として本件商品の輸入原価を求めることはできない。
そこで,本件商品の輸入原価は,被告らが平成10年9月から平成12年8月までの期間にジャンズ社からのティーシャツの輸入に使用した信用状の記載を基礎として算定すべきである。そうすると,ティーシャツの輸入数量は合計50万2789着,その価格の合計は162万8655米ドルとなり,1着当たりの単価は平均約3.24米ドルとなる。
(イ) そして,上記の3.24米ドルに輸入諸費用及び関税を加えた輸入原価は429円となる。
ウ 販売価格について 被告ラッキーから提出された伝票に基づき,本件商品の販売価格を計算すると,販売数量は合計6万5821着,販売総額は7863万784円であり,1着当たりの平均販売価格は約1195円となる。
エ 被告の得た利益について 前記のとおり,本件商品の販売価格は1195円,1着当たりの輸入原価は429円であるから,本件商品の1着当たりの粗利益は少なくとも766円である。
そして,商標法38条2項に基づく損害額の推定の場合には,侵害者から具体的な経費の主張,立証がない場合には,粗利益をもって損害額と認めるべきであるところ,本件においては被告らから経費に関する具体的な主張,立証が全くされていないのであるから,上記粗利益が原告らの損害額と推定されるべきである。
したがって,被告らの得た利益は1億5320万円(20万着×766円)となるので,原告らの損害額は同額と推定される。
なお,仮に,経費の控除をすべきとしても,被告ラッキーは従来から輸入衣料品の販売をしており,新規の設備投資や人件費の投入が不要であったこと,被告ラッキーは従業員数が数人の会社であり人件費が少なくて済むこと,宣伝広告等の費用が不要であることを考慮すれば,粗利益の65パーセントをもって純利益と認めるべきである。そうすると,被告らの得た純利益は,9948万円(1億5320万円×0.65)となる。
(被告らの主張) 争う。
甲第74号証の記載内容については認める。
被告ラッキーは,すべての伝票及び帳簿を原告らに開示した。
被告ラッキーの伝票には番号が表示されているが,番号順に伝票を使用しているわけではない。後に間違いが生じた場合に備えて番号を付しているだけであって,同一番号さえなければそれでよいのである。
なお,原告らは,一つの会社が複数の同種の企業から商品の製造に関するライセンスを同時に受けることはあり得ないと主張するが,フィリピンでは,1社が1ブランドのライセンシーということは極めて稀であり,逆に10ないし20のブランドを取り扱う会社が存在する。
(4) 謝罪広告等は必要か。
(原告らの主張) 被告らが本件商品が真正商品である旨を喧伝したことにより,市場において真正商品に対する不安,不信感が生じ,原告らの業務上の信用は著しく害された。
したがって,被告らは,信用回復に必要な措置として,謝罪広告を掲載し,かつ,上記喧伝行為を行った会社に対し誤りを通知する義務がある。
(被告らの主張) 争う。
当裁判所の判断
1 事実関係 前提となる事実,証拠(甲1及び2の各1及び2,3ないし6,7の1及び2,9,11の1ないし4,15,24ないし26,28)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
(1) 原告OPの本件各商標権の取得 本件各商標権は,サンウェア社が有していたが,同社は,平成4年8月28日,三菱商事に対し,本件各商標について専用使用権を設定し,三菱商事は,同日,原告ニッキーに対し,本件各商標について独占的な使用を許諾した。三菱商事と原告ニッキーとの間の上記契約では,原告ニッキーは本件各商標を付した衣類品の卸売価格の総額の2.4パーセント相当の金額を三菱商事に支払うことが約され,サンウェア社と三菱商事との間の上記契約では,三菱商事は原告ニッキーの上記卸売価格の総額の2パーセントの金額をサンウェア社に支払うことが約された。
その後,原告OPは,サンウェア社から本件各商標権を譲り受け,サンウェア社と三菱商事との契約におけるサンウェア社の地位を引き継いだ。
(2) ネイチャー・クロージング社のサブライセンス取得交渉の経緯 ア 平成10年ころ以降,本件商品を,被告ラッキーはジャンズ社から,ジャンズ社はネイチャー・クロージング社から,それぞれ輸入又は購入した。
ところで,ネイチャー・クロージング社とオリエント・パシフィック社とのサブライセンス契約交渉の経緯は以下のとおりである。
イ オリエント・パシフィック社は,原告OPから本件各商標について使用許諾を受けているが,平成10年ころ,ネイチャー・クロージング社との間で,同社に対して本件各商標の使用許諾(サブライセンス)についての交渉をしていた。オリエント・パシフィック社がネイチャー・クロージング社に対して本件各商標の使用を許諾するには,原告OPの承諾が必要であったため,オリエント・パシフィック社は原告OPから上記承諾を得ようとしたが,結局承諾は得られなかった。そのため,オリエント・パシフィック社とネイチャー・クロージング社との間の上記契約交渉も長期間に及んだが,契約は成立するに至らなかった。
ウ 当時,ネイチャー・クロージング社は,あるショッピングモールへの出店を図っていたが,その出店のためには,本件各商標の使用許諾を得ることが有利と考えていた。ネイチャー・クロージング社は,本件各商標の使用許諾についてオリエント・パシフィック社が原告OPの承諾を得る見通しがたたなかったにもかかわらず,オリエント・パシフィック社に対して,同社が近い将来にネイチャー・クロージング社に対して本件各商標の使用許諾をする予定である旨の文書の作成を要請した。これに対し,オリエント・パシフィック社のマーケティング担当上級副社長Pは,平成10年12月1日付けのP署名の書簡(P書簡)を作成して,これをネイチャー・クロージング社に交付した。同書簡には,「オリエント・パシフィック社は,フィリピンにて登記済みの会社であるネイチャー・クロージング社と意見の一致をみたことをお知らせ致します。オリエント・パシフィック社は,合衆国のブランドである‘Ocean Pacific’又は‘OP’をフィリピン国内で扱うサブライセンシーとしてネイチャー・クロージング社を指名する手続中です。ネイチャー・クロージング社は,平成10年12月1日から原告OPの商品を製造,販売することができるでしょう。」と記載されている。
エ ネイチャー・クロージング社は,依然として原告OPの承諾が得られないため,同月7日付けで,オリエント・パシフィック社に対して,契約の早期成立を促す書簡を送付した。これに対して,オリエント・パシフィック社は,平成11年6月9日付けで,本件各商標の使用許諾についての原告OPの承諾が未だに得られない旨の回答書を送付した。
オ ネイチャー・クロージング社は,許諾を受けずに,本件各商標を付した商品の製造,販売を開始したため,オリエント・パシフィック社から製造,販売の中止を求められたが,同年8月24日付けで,オリエント・パシフィック社に対して,P書簡を引用して,本件各商標を付した商品の製造,販売の中止を求めるオリエント・パシフィック社の措置に対して抗議をした。
これに対して,オリエント・パシフィック社は,同月26日付けで,ネイチャー・クロージング社に対し,本件各商標の使用許諾をするには原告OPの承諾が必要なこと,P書簡はショッピングモールの賃貸人との交渉に利用するために作成したものであり,これにより本件各商標の使用を許諾したものではないこと等を回答している。
さらに,オリエント・パシフィック社は,同年9月1日付けで,ネイチャー・クロージング社に対して,本件各商標の使用許諾についての原告OPの承諾は未だ得られておらず,オリエント・パシフィック社とネイチャー・クロージング社との間の本件各商標の使用許諾に関する契約は締結されていないこと,同契約が締結されないうちは,ネイチャー・クロージング社は本件各商標を使用できないことを重ねて警告した。
(3) 被告ラッキーの対応 ア 原告OPは,平成12年6月14日付けで,被告ラッキー及び被告ラッキーから本件商品を仕入れた小売店等に対して,本件商品を販売することは原告OPが有する本件各商標権を侵害するから,本件商品の仕入及び販売の中止を求める旨の警告書を送付した。
被告ラッキーは,原告OPに対して,同月19日付けで,本件商品はジャンズ社から輸入した真正商品であり,本件各商標権を侵害しないこと,本件商品の販売の中止をする必要はないと考えていることを記載した書面を送付し,同月22日付けで,P書簡の写しをファックスにより送付した。そして,被告ラッキーは,同月19日付けで,同被告が本件商品を販売した小売店である株式会社田原屋に対し,同月27日付けで,株式会社エフに対し,本件商品は真正商品であって,原告OPの商標権を侵害しないから,原告OPからの販売中止の要請に応じる必要はない旨の書面を各送付した。
イ 原告OPは,被告ラッキーに対して,同月30日付けで,P書簡には,原告OPがネイチャー・クロージング社に対して本件各商標の使用を許諾した旨の記載は一切ないこと,オリエント・パシフィック社とネイチャー・クロージング社との間で交渉されていた契約は締結に至らなかったこと,したがって,本件商品は真正商品ではないから,直ちに本件商品の販売を中止するよう求めることを内容とした書面を送付した。
これに対し,被告ラッキーは,同年7月7日付けで,同社が本件商品を販売した小売店であるゼンモール株式会社に対し,被告ラッキーは本件商品が真正商品であるかについてに十分な調査をした結果,本件商品が真正商品であることを確信しているから安心してほしい旨の書面を送付した。
2 商標権侵害の有無 前記1で認定した事実を基礎として,被告ラッキーが本件商品をジャンズ社から輸入,販売した行為が,いわゆる真正商品の並行輸入として,実質的違法性を欠くといえるかについて検討する。
登録商標と同一の商標を付した商品を輸入し,国内で販売する等の行為は,商標権侵害を構成する。しかし,当該商品が国外において,当該商標を適法に付された上で拡布されたものであって,かつ,国外で当該商標を適法に拡布した者と国内の商標権者とが同一人であるか又は同一人と同視し得るような特殊な関係があるときは,登録商標が有する出所表示機能及び品質保証機能を害しないことから,そのような特殊な関係にある当該商標を付した商品を輸入し,国内で販売する行為は,いわゆる真正商品の並行輸入,販売行為として,商標権の侵害行為としての実質的違法性を欠き,商標権侵害を構成しないというべきである。
前記1で認定したとおり,ジャンズ社は本件各商標の使用許諾を得ていなかったことは明らかであるから,本件商品が国内の商標権者である原告OP又は原告OPと同視し得るような特殊な関係にある者によって製造され,拡布された商品ということはできない。
なお,被告らは,オリエント・パシフィック社が原告OPのライセンシーであり,サブライセンス契約締結についての代理権を授与されたといえるから,オリエント・パシフィック社とネイチャー・クロージング社との間の本件各商標の使用許諾契約には民法110条が適用され,オリエント・パシフィック社は,ネイチャー・クロージング社に対して上記サブライセンスを授与する権限がなかったことを善意無過失の第三者である被告ラッキーに対抗できない旨主張する。しかし,オリエント・パシフィック社とネイチャー・クロージング社との間の上記契約は,そもそも,原告OPを代理してされた行為ではない(自ら当事者として締結交渉をしたものである。)から,この点の被告らの主張は,それ自体失当である。
以上のとおり,本件商品を輸入,販売した被告ラッキーの行為は,本件各商標権侵害を構成する。
3 被告らの損害賠償責任の有無 (1) 無過失を基礎付ける事実の有無 前記1で認定した事実を基礎として,被告ラッキーが本件商品を輸入し,販売するについて,過失がなかった否か(すなわち,商標法39条,特許法103条の推定を覆す事情が存在したか否か)について検討する。
被告らは,オリエント・パシフィック社がネイチャー・クロージング社に交付したP書簡には,オリエント・パシフィック社がネイチャー・クロージング社に対して本件各商標の使用を許諾した旨の記載があり,被告Rはこれを信用して本件商品を輸入,販売したのであるから,被告らに過失はない旨主張する。
しかし,被告らの主張は,以下のとおりの理由から採用できない。すなわち,P書簡には,「オリエント・パシフィック社は,合衆国のブランドである‘Ocean Pacific’又は‘OP’をフィリピン国内で扱うサブライセンシーとしてネイチャー・クロージング社を指名する手続中です。」(第2文)と記載されており,同記載を読めば,オリエント・パシフィック社とネイチャー・クロージング社との間の本件各商標の使用許諾についての契約が未だ成立していないことは十分認識できたといえる。
ところで,P書簡には,「ネイチャー・クロージング社は,平成10年12月1日から原告OPの商品を製造,販売することができるでしょう。」(第3文)との記載があり,平成10年12月1日付けの作成日と併せて読むと,上記の日にネイチャー・クロージング社に使用を許諾したとの誤解を与える可能性がないではない。
しかし,上記のように,同書簡は,その直前の文が「オリエント・パシフィック社はネイチャー・クロージング社をサブライセンシーとして指名する手続中である」と記載されている以上,その文面の不自然さや矛盾にに気付くはずである。そうすると,本件商品を輸入しようとする者は,同書簡の第3文に都合の良い記載を発見したとしても,オリエント・パシフィック社に問い合わせるなどして,同書簡が作成された経緯や契約内容を調査すべき義務があるというべきである。本件全証拠によっても,被告ラッキーは,このような調査義務を尽くした事実は認められず,そうすると被告ラッキーには,本件各商標権の侵害行為をしたことについて過失がないとする事情は存在しない。
(2) 被告らの責任 以上のとおり,被告ラッキーには,本件商品を輸入,販売するに当たり,本件商品がいわゆる真正商品であると誤認したことについて過失がないとする事情が存在しないことは明らかであるから,被告ラッキーは不法行為に基づいて損害賠償をすべき責任を負う。また,被告Rは,いわゆる真正商品であるとして本件商品を輸入,販売したことに重過失があるといえるから,商法266条の3に基づいて,損害賠償をすべき責任を負う。
4 損害額 (1) 事実認定 前提となる事実,証拠(甲30ないし74,84ないし86)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。
ア 各伝票の記載及び態様 被告らは,本件訴訟の過程で,本件商品の販売に際して被告ラッキーが作成した各伝票(納品書,納品伝票,返品書等)を原告らに開示し,原告らは,これらを分析して,甲第74号証としてまとめた(同証拠に記載されている事実については被告らも認めている。)。
同証拠によれば,上記各伝票の記載上は,被告ラッキーは,平成11年3月から平成12年7月までの間に,本件商品を合計6万5821着販売し,その売上高は合計7863万784円であった。
上記各伝票の宛名には,「田原屋」,「ユウキ」,「エフ」,「坂善商事及びゼンモール」,「その他」がある(これ以外に「売上」と題するファイルに綴じられたものがある。)。このうち「田原屋」,「ユウキ」,「エフ」,「坂善商事及びゼンモール」を宛名とするものは,それぞれ個々の取引ごとに個別に作成され,各伝票には,伝票番号,数量,単価,売上金額等が記載され,一定期間のものが紐で綴じられている。また,「その他」を宛名とするものは,1冊ごとに分かれた複写式のものであり,日付,伝票番号,商品名又は商品を表す記号,納入先,数量,単価及び売上金額等が記載されているが,弁論の全趣旨によれば,同伝票の伝票番号は連続しておらず,欠番の数が連続して存在する番号数よりも多いことが認められる。
イ 信用状の記載 被告ラッキーを開設依頼者とする平成10年7月16日ないし平成12年5月25日発行の信用状に記載された積出商品の合計数量は65万7449着である。
上記各信用状のうち,受益者をジャンズ社,商品をティーシャツとする平成10年11月25日ないし平成12年5月25日発行の信用状に記載された積出商品の合計数量は40万2459着,合計金額は127万6430.5米ドルである(なお,商品としてティーシャツとトレーナーの両者を記載している信用状は除外した。)。
ウ 帳簿の記載 被告らは,本件訴訟の過程で,原告らに,売上台帳を開示し,原告らは,同台帳写しを甲第84ないし86号証として提出している。同証拠の記載によれば,被告ラッキーは,平成10年9月から平成12年8月までの間に,衣類を合計35万6041着販売したとされる。
(2) 被告ラッキーの得た利益額 前記(1)で認定した事実を基礎として,被告ラッキーが本件商品を販売したことにより得た利益について検討する。
ア 売上総額について 被告ラッキーが本件商品の販売に際して作成した伝票のうち,原告らに開示された伝票の記載によれば,被告ラッキーの本件商品の販売数量は合計6万5821枚であり,その売上高は合計7863万784円である。
しかし,前記(1)で判示したように,上記各伝票のうち,「田原屋」,「ユウキ」,「エフ」及び「坂善商事及びゼンモール」を宛名とするものは,個々の取引ごとに個別に作成され,紐で綴じられ,開示されていないものがあったとしても外形上は見分けることができない。また,上記各伝票のうち,「その他」を宛名とするものは,1冊ごとに分かれた複写式のものであるが,その伝票番号は連続しておらず,欠番が多数存在する。したがって,被告ラッキーが開示した上記各伝票が,被告ラッキーが本件商品について作成した伝票のすべてであると断定することはできず,かえって,被告ラッキーが開示した以外にも本件商品の取引が存在することが推測される。
ところで,前記(1)で判示した信用状によれば,被告ラッキーは,平成10年7月ころから平成12年5月ころまでの間に,衣服を少なくとも65万7449着輸入していることが記載上確認される。他方,被告ラッキーが開示した帳簿類によれば,平成10年9月から平成12年8月までの間に,合計35万6041着が販売されたことが記載上確認される。上記帳簿の記載は,信用状の記載と対比すると,真実の取引を忠実に反映していないことは明らかである。そして,被告ラッキーが開示した帳簿類は,真実の取引全体のおおむね54パーセント(35万6041÷65万7449≒0.5415)にすぎないと解することができる(仮に,上記帳簿の記載が真実の売上を反映しているとすると,被告ラッキーは,上記の期間に17万着近い在庫を抱えたことになって不自然である。) 上記認定した事実及び被告らの態度を総合考慮すると,被告ラッキーが作成した本件商品に係る伝票は,同被告が本件訴訟の過程で開示した伝票の少なくとも1.5倍は存在するものと推測される。
したがって,被告ラッキーが販売した本件商品の数量は,合計9万8731着と推計される(6万5821×1.5=9万8731.5,なお,1着未満切り捨てにより算定した。) イ 販売価格 前記(1)で判示したように,被告ラッキーが開示した伝票によれば,被告ラッキーの本件商品の販売数量は合計6万5821着,売上高は合計7863万784円であったのであるから,本件商品の1着当たりの販売価格は1194円となる(7863万434÷6万5821≒1194.61,なお,1円未満切り捨てにより算定した。)。
ウ 輸入原価 (ア) ジャンズ社から被告ラッキーへ宛てたコマーシャルインボイス中には,ティーシャツの価格が4.87米ドル,3.96米ドル,3.69米ドルと記載されているものも存在する(甲75ないし83)。しかし,本件全証拠によっても,上記各インボイスに記載されたティーシャツが本件商品に該当すると認定することはできない。その他,本件証拠中,本件商品の輸入原価を示す証拠は存在しないので,結局,本件商品の輸入原価は,被告ラッキーがジャンズ社から輸入したティーシャツの輸入原価の平均値によって算定するのが合理的である。
そうすると,前記(1)で判示したように,被告ラッキーが平成10年11月ころから平成12年5月ころまでの間に,ジャンズ社から輸入したティーシャツ40万2459着の合計価格は127万6430.5米ドルであるから,本件商品の1着当たりの輸入価格は3.17米ドルとなる(127万6430.5÷40万2459≒3.1715,なお,0.01ドル未満切り捨てにより算定した。)。
(イ) 弁論の全趣旨によれば,被告ラッキーが本件商品を輸入した当時の為替レートは,平均で1ドル115円であること及び関税等の輸入費用の合計は,多くとも輸入商品の価格の3割であることが推認される。
(ウ) したがって,本件商品1着当たりの輸入原価及び輸入費用の合計額は,多くとも474円となる(127万6430.5÷40万2459×115×1.3≒474.15,なお,1円未満切り捨てにより算定した。)。
エ 粗利益 (ア) したがって,本件商品1着当たりの粗利益は720円となる(1194-474=720)。
(イ) 前記のとおり,被告ラッキーは本件商品を少なくとも9万8731着販売したのであるから,被告ラッキーが本件商品の販売によって得た粗利益は7108万6320円となる(9万8731×720=7108万6320円)。
利益額 弁論の全趣旨によれば,被告ラッキーは従業員が数人の小規模な会社であり,事業遂行に際し必要となる経費は少ないものと推測されるから,被告ラッキーの利益率は,少なくとも65パーセントはあるものと解する。
したがって,本件商品を販売することにより被告ラッキーが得た利益は4620万6108円となる(7108万6320×0.65=4620万6108)。
(3) 原告らの損害額 ア 原告ニッキーの損害額 前記1で認定したとおり,原告ニッキーは,本件各商標を使用した商品の卸売価格の2.4パーセントを三菱商事に支払わなければならないところ,弁論の全趣旨によれば,上記卸売価格は1着当たり1733円であると認められるから,原告ニッキーの損害額は,被告ラッキーが本件商品を販売したことにより得た純利益である4620万6108円から本件商品9万8731着分の原告ニッキーの上記卸売価格の2.4パーセントである410万6419円(1733×0.024×9万8731≒410万6419.7,なお,1円未満切り捨てにより算定した。)を控除する必要がある。したがって,原告ニッキーの損害額は,4209万9689円(4620万6108円-410万6419=4209万9689)となる。
イ 原告OPの損害額 前記1で認定したとおり,原告OPは,三菱商事から,本件各商標を使用した商品についての原告ニッキーの卸売価格の2パーセントを受領できるところ,前記アで判示したように,本件商品の卸売価格は1着当たり1733円であるから,原告OPの損害額は,被告ラッキーが販売した本件商品9万8731着分の原告ニッキーの上記卸売価格の2パーセントである342万2016円(1733×0.02×9万8731≒342万2016.4,1円未満切り捨てにより算定した。)となる。
(4) なお,被告らからの主張はないが,念のため,過失相殺の点について判断する。
前記1で認定したとおり,確かに,P書簡の作成日付は平成10年12月1日であるにもかかわらず,同書簡には「ネイチャー・クロージング社は,平成10年12月1日から原告OPの商品を製造,販売することができるでしょう。」と記載されており,同書簡は,上記記載部分だけを読むならば,ネイチャー・クロージング社が平成10年12月1日から本件各商標を使用できるとの誤解を与える可能性がなくはない。しかし,@P書簡には,上記文章の直前に,「オリエント・パシフィック社はネイチャー・クロージング社をサブライセンシーとして指名する手続中です。」と記載されており,本件各商標の使用許諾に関する契約は未だ成立していない旨が明記されているのであって,同書簡の全体を読んだ者に対して,オリエント・パシフィック社がネイチャー・クロージング社に本件各商標の使用許諾を与えた旨の誤解を生じさせることはないといえること,A仮に,P書簡を読んだ第三者が,上記のような誤解を受けたとしても,同書簡の記載内容は上記のように一見して不自然であるから,本件各商標を付された商品についての取引をするに当たっては,オリエント・パシフィック社に本件各商標の使用許諾の有無について確認するなどの調査をすべきであるところ,それにもかかわらず,被告ラッキーが何ら確認調査をすることなく,ネイチャー・クロージング社と取引をすることは著しく注意を欠いていると評価できること等の事実に照らすならば,オリエント・パシフィック社には,被告らが,本件商標権を侵害したことについて,何らの過失もないというべきである。本件の損害賠償額の算定に当たり,上記事情を斟酌するのは相当でない。
5 謝罪広告等の請求の当否 (1) 前記1記載のとおり,原告OPが本件商品を販売している小売店に対して販売中止の警告をしたにもかかわらず,被告ラッキーは,当該警告を無視して,何ら確認調査をすることなく,上記小売店に対して,本件商品はいわゆる真正商品である旨の書面を送付したことが認められ,これにより,原告らは,業務上の信用を害されたといえる。しかし,本件において,一切の事情を考慮すると,謝罪広告をしなければ,原告らの信用の回復が図れないと解するのは相当でない。したがって,謝罪広告を求める原告らの請求は理由がない。
(2) また,被告らの輸入,販売態様に照らし,本件各商標権に基づいて本件各商品の輸入等の差止めを求める原告OPの請求は理由がある(これに対して,独占的使用権に基づいて本件各商品の輸入等の差止めを求める原告ニッキーの請求は理由がない。)。
6 結語 よって,原告らの請求は,@原告OPについて,本件商品の輸入等の差止め並びに342万2016円及びこれらに対する所定の遅延損害金の支払を,A原告ニッキーについて4209万9689円及びこれらに対する所定の遅延損害金の支払を求める限度で,それぞれ理由がある。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 谷有恒
裁判官 佐野信