運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 審判1995-3632
関連ワード 商品商標 /  役務商標 /  取引対象 /  役務の提供 /  指定商品 /  公序良俗(4条1項7号) /  不正競争の目的 /  顧客吸引力(グッドウィル) /  観念(観念類似) /  信義則 /  更新登録 /  継続的に使用 /  継続 /  同業者 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 13年 (行ケ) 260号 審決取消請求事件
原告A
訴訟代理人弁護士 長瀬弘毅
同 弁理士 近藤豊
被告 レイデント工業株式会社
訴訟代理人弁護士 木村哲也
同 山上耕司
同 弁理士 山下賢二
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/02/14
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が平成7年審判第3632号事件について平成13年4月24日にした審決を取り消す。
前提となる事実(争いのない事実)
1 特許庁における手続の経緯 原告は、別紙1の「本件商標の構成」に記載のとおり、「レイデント」の片仮名文字を横書きしてなり、指定商品を旧第1類の「金属材料の表面黒化並びに防銹処理のための金属表面処理剤、その他の化学剤」(以下「本件指定商品」という。)とする登録第2043365号商標(昭和60年12月18日商標登録出願、昭和63年4月26日設定登録、平成10年2月3日更新登録、以下「本件商標」という。)の商標権者である。
被告は、平成7年2月27日、本件商標の登録無効の審判を請求し、特許庁は、
この請求を平成7年審判第3632号事件として審理した結果、平成13年4月24日に「登録第2043365号の登録を無効とする。」との審決をし、その謄本は同年5月10日に原告に送達された。
2 審決の理由 別紙2の審決書の写し(以下「審決書」という。)のとおり、
「被告(請求人、昭和39年12月設立)は、本件商標の出願(昭和60年12月18日)前から、「レイデント」の片仮名文字からなる標章(以下「引用標章」という。)を、自社の開発した黒色金属表面処理剤及びこの処理剤を用いる黒色防錆薄膜処理法という金属表面処理法(以下「黒色金属表面処理」という。)に継続的に使用しており、昭和50年6月20日に、指定商品の範囲及び表示が本件商標の指定商品と同一であり、かつ本件商標と書体を同じくする片仮名文字「レイデント」からなる商標について商標登録出願しており(昭和54年6月12日に出願公告、昭和55年5月9日出願無効処分)、既に一定の信用や顧客吸引力が引用標章に形成(化体)されていたところ、原告(被請求人)は、本件商標の出願前において、被告と一定の売買取引があった訴外有限会社B(以下「訴外会社」という。)の総務部長として被告と訴外会社との間の「レイデント基本契約」に関する書簡を被告宛に送付していた者であり、自らあるいは関係者を通じて、被告の使用に係る引用標章ないし被告の出願に係る商標及び指定商品等を知り、その上で原告名義をもって本件商標を出願したものと認められ、原告が、被告の開発した黒色金属表面処理剤を一部に含む又はこの処理剤を用いる黒色金属表面処理と密接な関係にあると認められる「金属材料の表面黒化並びに防銹処理のための金属表面処理剤、その他の化学剤」を指定商品として、引用標章と同じ片仮名文字からなる商標「レイデント」(先にした被告の出願に係る商標と同一といえるもの)を出願して商標登録を得たことは、引用標章に形成された信用や顧客吸引力を利用し、あるいは稀釈化させる等の不正競争の目的があったものといわざるを得ず、その行為は、信義則に反するとともに公正な商取引秩序を乱すおそれがあったものといわなければならず、本件商標は、商標法4条1項7号の規定に違反して登録されたものであるから、同法46条1項の規定により、その登録を無効にすべきものとする。」旨認定、判断した。
原告主張の審決の取消事由の要点
審決は、被告が審判において提出した証拠の内容を精査せず、引用標章について、商品「黒色金属表面処理剤」に継続的に使用されていたと誤って認定し、その結果、引用標章の使用状況について誤った判断をし(取消事由1)、また、審決は、被告が開発したとする「黒色金属表面処理剤」の商品を特定せず、商品の内容が不明のまま、「原告は、被告の開発した黒色金属表面処理剤を一部に含む又はこの処理剤を用いる黒色金属表面処理と密接な関係にあると認められる「金属材料の表面黒化並びに防銹処理のための金属表面処理剤、その他の化学剤」を指定商品とした」と認定し、この認定を前提として、原告には被告会社の商標に形成された信用や顧客吸引力を利用し、あるいは稀釈させる等の不正競争の目的があったものと誤って判断した(取消事由2)という違法があるから、取り消されるべきである。
1 取消事由1(引用標章の使用状況の判断の誤り) (1) 審決は、被告が本件商標の出願前から、引用標章「レイデント」を被告の開発した「黒色金属表面処理剤・・・」に使用してきたことを認定するために採用した証拠として、甲第2ないし第69号証(審判甲第1、第10、第39、第42ないし第47、第50ないし第55、第57ないし第96、第98、第104、第105、第131、第132、第134、第136ないし第138、第140、第141、第160、第161号証)を挙げている(審決書11頁25行ないし32行)。そして、審決は、「上記各証拠においては、引用標章を冠した「レイデント液」、「レイデント処理液」、「レイデント処理触媒液」等の表示が使用されているが、それらの表示中の「液」、「処理液」及び「処理触媒液」は、いずれも上記黒色金属表面処理剤を指すものと認められる。」(審決書11頁33行ないし36行)、と説示した上で、「引用標章は、本件商標の出願前から、請求人(被告)の開発した黒色金属表面処理剤・・・に継続的に使用され、本件商標の出願時には、既に一定の信用や顧客吸引力が引用標章に形成(化体)されていたものというべきである。」(審決書15頁27行ないし30行)と判断している。
(2) しかし、審決が掲記する上記の甲第2ないし第69号証を精査してみても、これらの証拠の中から被告が開発したとする商品に片仮名書きの引用標章「レイデント」を使用していたと推測することができるのは、せいぜい甲第5号証(黒色金属表面処理剤/レイデントハイブラック、昭和46年10月8日付けらしき日刊工業新聞)、甲第6号証(レイデント処理液、昭和50年10月16付け日刊工業新聞)、甲第58号証 (レイデント液、昭和48年10月15付け注文書)、甲第59号証(レイデント液、昭和52年3月23付け注文書)、甲第67号証(レイデントハイブラック、作成日付け不明の被告会社の封筒)、甲第68号証(レイデント処理液、昭和52年12月1付け契約書)、甲第69号証(レイデント処理液、昭和53年9月15付注文書)のみであり、さらに、「処理液」、
「処理溶液」の語が被告開発の商品を暗示するとしても、「処理液」、「処理溶液」の記載があるのは、甲第9号証(処理液、昭和60年1月30付日本工業技術新聞)、甲第10証(処理液、昭和60年3月20付日本工業技術新聞)、甲第63号証(処理溶液、昭和43年4月27付書面)にすぎない。
(3) この点に関し、被告は、原告が挙げた上記の各証拠だけでなく、乙第13ないし第24号証(審判甲第2ないし第8、第11、第48、第49、第130、第133号証)や乙第33、第34、第36、第38号証(審判甲第163、
第164、第166、第199号証)、乙第40ないし第44号証(審判甲第118、第119、第124、第125、第201号証)にも、被告商品の内容とこれに使用されていた引用標章「レイデント」の記載がある旨主張する。
しかし、被告が指摘する書証を精査しても、引用標章「レイデント」との関連で被告商品の記載があるのは、せいぜい乙第14、第33、第34、第36、第38、第43号証にすぎず、被告が指摘する乙第13、第15ないし第24、第40ないし第42、第44号証には、引用標章「レイデント」との関連で、被告商品が記載されている事実は、一切認めることはできない。
(4) 以上によれば、被告の引用標章が、本件商標の出願前から、少なくとも被告の開発した商品「黒色金属表面処理剤理剤」に継続的に使用され、本件商標の出願時には、既に一定の信用や顧客吸引力が被告会社の標章に形成(化体)されていたとは到底考え難く、審決の上記の認定、判断には誤りがあり、違法である。
(5) なお、審決が証拠採用した甲第5号証(審判甲第42号証)のうち、
被告の広告部分は、被告が本件訴訟において自白しているように、昭和46年10月8日付けの日刊工業新聞に掲載された広告ではなく、当然のことながら、真正に成立した証拠ではなく、被告の偽造ないし変造に基づくものであり、審判官を欺くものであって到底許されるものではない。
してみると、審決は、このような証拠をそのまま採用しているのであり、この点からも、審決は取り消されべきである。
2 取消事由2(被告商品の内容が不明のまま、本件指定商品について認定した誤り) (1) 一般に、めっき業において用いる薬品のほとんどは、毒物及び劇物取締法に規定の「毒物又は劇物」に該当するが、「毒物又は劇物」の取扱いについて、同法は、毒物劇物営業者に対して、容器及び被包に、毒物又は劇物の名称、毒物又は劇物の成分及びその含量等を表示することなどを義務付けているところ、甲第5号証に記載された被告の「黒色金属表面処理剤」が実際に存在する場合には、
同法にいう「毒物又は劇物」である蓋然性が極めて高い商品と考えられ、その場合には、被告は、毒物又は劇物の名称を商品(容器を含む。)に表示し、購入者に毒物又は劇物の名称を告知する義務があるにもかかわらず、被告は、顧客に対して、
このような告知をしていなかった。
(2) 商標法上の商品とは、少なくとも、一般市場で流通に供されることを目的として取引対象となる動産であって、大量生産が可能なものをいうと解されるところ、審決は、被告商品の内容及び販売形態(例えば、いかなる容器にどのような商標を付し定価をいくらとして販売しているのか)について全く確認や検討を加えることなく、被告が開発したとする「黒色金属表面処理剤」の商品が存在していると速断し、被告商品の内容が不明のまま、「原告は、請求人(被告)の開発した黒色金属表面処理剤を一部に含む又はこの処理剤を用いる黒色金属表面処理と密接な関係にあると認められる「金属材料の表面黒化並びに防銹処理のための金属表面処理剤、その他の化学剤」を指定商品とした」旨を認定したものであり(審決書15頁36行ないし16頁1行)、この認定を前提として、原告には被告の商標に形成された信用や顧客吸引力を利用し、あるいは稀釈させる等の不正競争の目的があったと判断したものであるから、違法である。
被告の反論の要点
原告が指摘する審決の認定、判断はいずれも正当であり、審決に原告主張の違法はない。
1 取消事由1(引用標章の使用状況の判断の誤り)に対して (1) 審決で被告が提出した証拠中には、原告が挙げる証拠だけでなく、乙第13ないし第24号証(審判甲第2ないし第8、第11、第48、第49、第130、第133号証)や乙第33、第34、第36、第38号証(審判甲第163、第164、第166、第199号証)、乙第40ないし第44号証(審判甲第118、第119、第124、第125、第201号証)にも、被告商品の内容及びこれに使用されていた引用標章「レイデント」の記載がある。
また、審決も採用した甲第17ないし第57号証にも、引用標章「レイデント」が記載されており、被告の取引先であった多数の企業から各種金属材料の黒色金属表面処理について、その文字標章「レイデント」の名指しによる依頼を受けていたことが明らかである。
さらに、被告から被告商品の黒色金属表面処理剤を買い求め、その使用上の技術的な指導と支援を受けていた訴外会社(B)も、乙第59ないし第61号証(審判甲第101ないし第103号証)や乙第68号証(審判甲112号証)、乙第72ないし第74号証(審判甲第168ないし第170号証)に記載されているとおり、引用標章「レイデント」を使用して、ユーザー獲得の広告宣伝に利用していたのである。また、上記乙第59ないし第61号証、第68号証、第72ないし第74号証の他にも、乙第36ないし第38号証(審判甲第166、第198、第199号証)から明らかなように、被告の同業者として、訴外会社の他にも、岐阜レイデント工業株式会社、株式会社鈴幸鍍金工業所も、被告から被告商品「黒色金属表面処理剤」を買い求めて、その黒色金属表面処理を行っていた事実が認められる。
(2) 本件商標の指定商品として記載された「金属材料の表面黒化並びに防銹処理のための金属表面処理剤」は、薬局において一般の消費者向けに市販されている薬品と異なり、金属表面処理業者以外には使用することがあり得ない高度な専門技術分野の特殊品(危険物)として、その役務(金属表面処理業)と不可分の関係にあり、そのための許可を受けた設備がなければ、商品の製造や役務の提供を行なえるものではない。
つまり、その商品(金属表面処理剤)と役務(金属表面処理業)とは、ユーザー層の範囲や用途、販売場所と提供場所などがことごとく一致し、商品の製造・販売と役務の提供とが必らず同一業者によって行われ、互いに類似する関係にあり、その意味から商標としての機能を商品と役務に切り離して考えることはできない。
したがって、審決が「上記「黒色金属表面処理剤(商品)」と「黒色金属表面処理(役務)」とは、その処理工程上密接不可分な関係にあるものといえる」(審決書12頁5行、6行)と認定したことに誤りはなく、審決が被告による引用標章の使用について、「上記各種取引書類や、上記1.(2)で示した広告宣伝や新聞記事等においては、例えば「レイデント処理」、「レイデント加工」、「レイデント処理(法)」、「レイデントメッキ」、「レイデントトソウ」、「レイデント・ハイブラック」、「レイデントLSL」にみられるように、「レイデント」に他の文字が付加されているものも少なくないが、一般的に、実際の商標使用の局面では、
或る商標に他の一定の文字(商品の一般名称、品質・材料・加工方法等の表示、他の商標等)を付加して使用されている実情があり、これに照らすと、上記使用例はいずれも前半の「レイデント」の文字部分を要部とする商標の使用というべきである」(審決書13頁28行ないし36行)として、引用標章が商品及び役務の商標として使用されていることを認定したことは、極めて正当である。
(3) 以上のとおり、被告が引用標章について、被告が開発した「黒色金属表面処理剤(商品)」と「黒色金属表面処理(役務)」のいずれにも使用したことを肯定した審決の認定に誤りはなく、原告の取消事由1は、失当である。
(4) なお、被告が審判手続において提出した甲第5号証(審判甲第42号証)は、日刊工業新聞の複写であるところ、そのうち、@見出しに「防せい力黒染法の十倍以上」と大書された記事の部分は、昭和46年10月8日付けの日刊工業新聞の21面(乙第84号証)から切り抜いたもの、A被告の広告の部分は、昭和46年12月29日付けの日刊工業新聞の19面(乙第85号証)から切り抜いたものであったが、被告がこれらを証拠として提出する際に、誤って、Aの部分も@と同一日付けの紙面であるかのように、一緒に貼り付けて複写したものであり、本件訴訟において改めて乙第84、第85号証と分けて提出する。
被告の上記Aの広告の部分が甲第5号証に日付けの複写がある昭和46年10月8日付けの日刊工業新聞に掲載されておらず、これと別な同年12月29日付けの乙第85号証の紙面に掲載されていたものであるとしても、これと同じ「黒色金属表面処理剤/レイデントハイブラック」という被告商品の記載内容は、乙第14号証や乙第43号証にも明確に記載、表示されている。
したがって、上記甲第5号証のうち、Aの被告の広告の部分のみが真正に成立していなかったとしても、これをもって、審決の認定、判断が変ることはない。
2 取消事由2(被告商品の内容が不明のまま、本件指定商品について認定した誤り)に対して (1) 原告は、被告商品である「黒色金属表面処理剤」の内容について不明である旨主張するが、被告と訴外会社とは、甲第58、第59号証(審判甲第104、第105号証)や乙第72ないし第77号証(審判甲第168ないし第173号証)から明らかなように、被告商品の売買取引を何回も行っていたのであり、原告自身も、審判答弁書(第3回、乙第5号証)において、乙第56号証(報告書)に基き「1回目の納品はレイデント工業が薬品をトラックで持参しBが用意した容器に移し替えることにより行った。」と説明している。
また、訴外会社は、乙第59ないし第61号証(審判甲第101ないし第103号証)や乙第73号証(審判甲第169号証)から明らかなように、被告商品のパンフレットと酷似したパンフレットを作成して、被告から買い求めた黒色金属表面処理剤を使用した黒色金属表面処理を実施する営業上、引用標章「レイデント」をユーザー獲得のための広告宣伝に使用し、その黒色金属表面処理剤の技術的効果(優れた防錆力)を強調していたのである。
(2) そして、原告は、昭和51年1月6日から昭和63年7月20日までの間、訴外会社に在職しており(乙第54、第55号証)、本件商標の出願日は昭和60年12月18日、登録日は昭和63年4月26日であるから、訴外会社に在職中の原告によって本件商標の登録が取得された結果になっている。
したがって、原告が被告商品の内容を知悉していないはずはなく、その知悉していないと解釈することこそ著しく不自然・不合理である。
まして、原告は、上記のとおり、被告商品の売買取引方法につき、「1回目の納品はレイデント工業が薬品をトラックで持参しBが用意した容器に移し替えることにより行った。」と説明しているのであるから、原告が、審決について、「被告商品の内容並びに売買形態(例えば、いかなる容器にどのような商標を付し定価をいくらとして販売しているのか)について全く確認ないし検討を加えることなく、被告が開発したとする黒色金属表面処理剤の存在を速断し、被告商品の内容が不明のまま」に、「原告は、被告の開発した黒色金属表面処理剤を一部に含む又はこの処理剤を用いる黒色金属表面処理と密接な関係にあると認められる「金属材料の表面黒化並びに防銹処理のための金属表面処理剤、その他の化学剤」を指定商品としたと認定したことは、違法である」旨主張することは、許されない。
(3) また、原告が本件商標の使用を企図した本件指定商品の「金属材料の表面黒化並びに防銹処理のための金属表面処理剤、その他の化学剤」は、被告が出願しつつも登録料の不納により出願無効となった商願昭50-81252号(商公昭54-19754号)の指定商品と全く同一であり(乙第58号証)、原告が使用する意志がある商品の内容を知らぬはずもない。
(4) 被告商品の内容については、被告が審判手続において提出した次の被告のパンフレットによって明らかとされている。
ア 被告の業務内容を示すパンフレット(乙第13号証、審判甲第2号証)には、「電化触媒法による黒色皮膜」、「レイデント法黒色皮膜処理はクローム酸をベースにした水溶液に無機質の化合物を組成し、この原液が電解過程において触媒としての機能を充分発揮し得るように調整し、確かめ、完全された電解液は超低温下でこれを管理し、加工せんとする被金属にそれぞれ定格の荷電をすすめると、その表皮はアマルガム状を呈して素地心に向って変性結合が深められてゆく。
皮膜は粘帳質から靱性を帯び黒色が次第にさえてくるのをみる。」、「高温と超低温に耐え得る」、「メッキによるものは400℃を限界としているが、レイデント処理品は+800℃〜-30℃間を繰り返えしても、色相に変化をみず、逆に表皮は硬くなり防食度を益々あげてくる」と記載されている。
イ 被告のパンフレットである乙第14、第15、第44号証(審判甲第3、第4、第201号証)に、「当処理は黒色の浸透性皮膜型分野に属する工法でありますから、順じて、その処理型式より生じる特性が遺憾なく仕上りの状態に表現されるものです。種々の特長につきましては下記の如くでありますが、レイデント皮膜は、一言で申せば、皮膜型にも係わらず、通常の表面処理概念を超越した防錆耐食能力を有していると明言出来ます。」と記載され、その用途と技術的な効果及び表面処理した金属材料の写真も示されている。
ウ 被告の「レイデント」と題したパンフレットである乙第40号証(審判甲第118号証)には、「黒色皮膜処理レイデントについて」、「約30年前東大航研において高速摺動部面の硬質鍍金処理に就き、これが基礎学的研究のための実験中、処理条件の移行によって隅々その皮膜面に黒色の斑点が現出することに注目し、その原因の追求に没頭、遂ひに全面均一にして強靱な黒色皮膜を構成する技術を開発した。即ちその特質としてあげられる主なるものは、従来有機化合物を触媒としての高温電鍍工法を定則としていた観念を改め、無機化合物を触媒として然かも低温中での電密操作如何によっては、非常に純度の高いクロームの析出のもとに真黒色の皮膜を構成する技術に成功した。」、「高度の防錆力と熱容量増大に利用する部面」、「バネ類で殊に錆を嫌うものはステンレス鋼を使用されていましたが、レイデント法は低温処理なので鋼質に変化を起さず、錆びないので高価なステンレスを使用する必要がありません。」と記載されている。
エ その他、被告の別のパンフレットである乙第41ないし第43号証(審判甲第119、第124、125号証)にも、被告の黒色金属表面処理について記載されている。
そして、このような被告商品の内容と技術的効果は、立石電機株式会社の技術情報資料(乙第20号証、審判甲第11号証)や総L信社から発行された書籍「表面技術総覧」(乙第22号証、審判甲第49号証)、日刊工業新聞(甲第5ないし第8号証、審判甲第42ないし第45号証)、日本工業技術新聞(甲第9、第10号証、審判甲第46、第47号証)などに紹介されたほか、被告自身としても、例えば日刊工業新聞(甲第5、第9、第11号証、審判甲第42、第46、第50号証)や月刊雑誌(甲第12ないし第15号証、審判甲第51ないし第54号証)などに、「超級防錆・高精度・抜群の耐久力・超薄膜黒色法、レイデント処理」と題して広告宣伝してきた。
被告商品の上記内容は、明らかに本件商標の指定商品である「金属材料の表面黒化並びに防銹処理のための金属表面処理剤」と対応しており、金属材料の表面黒化並びに防錆を目的とした金属表面処理剤であるといえる。
したがって、審決が「原告は、被告の開発した黒色金属表面処理剤を一部に含む又はこの処理剤を用いる黒色金属表面処理と密接な関係にあると認められる「金属材料の表面黒化並びに防銹処理のための金属表面処理剤、その他の化学剤」を指定商品として、引用標章と同じ片仮名文字からなる商標「レイデント」を出願して商標登録を得た」と認定したことも、極めて正当であって、被告商品は、本件商標の指定商品に係る「金属材料の表面黒化並びに防銹処理のための金属表面処理剤」との対応関係において、その内容が明確になっている。
(5) なお、被告商品の「黒色金属表面処理剤」とその使用による「黒色金属表面処理法(役務)」は、被告の独自に開発した新技術であって、低温(マイナス5℃〜マイナス20℃程度)の電解浴を用い、特殊な触媒による濃度調整や熟成などにノウハウを要する専門性があり、そのための特別な冷凍機(冷却機)も不可欠となるが、商標法上の「指定商品」としては、そのノウハウを含む新技術の内容までも明らかに記載することは要求されていない。
例えば、「ビール」を指定商品とする場合、その商品の組成や製造法などについて、発明やノウハウとなる新技術があったとしても、その新技術まで開示する必要はなく、単に「ビール」と記載しさえすれば、商標法上の指定商品として内容が特定されることになる。
これを本件についていえば、本件商標の指定商品である「金属材料の表面黒化並びに防銹処理のための金属表面処理剤」と対応する程度の内容を特定して認定することができれば、その内容の被告商品は、商標法上の商品として充分特定されているといえる。
その意味からも、審決は原告の主張するように、被告商品の内容が不明な状態のもとで、その被告商品と本件商標の本件指定商品とを密接な関係にあると速断しているものではない。
理 由1 本件商標の構成及び指定商品等 本件商標は、別紙1の「本件商標の構成」に記載のとおり、「レイデント」の片仮名文字を横書きしてなり、指定商品を旧第1類の「金属材料の表面黒化並びに防銹処理のための金属表面処理剤、その他の化学剤」として、原告によって昭和60年12月18日に出願されたものであることは争いがなく、乙第58号証及び弁論の全趣旨によれば、被告は、昭和50年6月20日に、指定商品の範囲及び表示が本件商標の指定商品と同一であり、かつ本件商標と書体を同じくする片仮名文字「レイデント」からなる商標について商標登録出願しており、昭和54年6月12日に出願公告されたが、昭和55年5月9日に登録料不納により出願無効処分となったことが認められる。
2 取消事由1(引用標章の使用状況の判断の誤り)について (1) 本件証拠(甲第2ないし第4、第6ないし第69号証、乙第5、第13ないし第15、第20、第22ないし第24、第27ないし第48、第56、第57、第59ないし第66、第69、第70、第72、第74ないし第77号証、第84、第85号証)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、大日表面工業研究所を組織変更し、冷電鍍工業株式会社がしていた業務を承継し、昭和39年12月17日に設立された株式会社であり、金属材料の表面をクローム酸等を触媒とする電解過程により黒色皮膜して、金属材料の表面を防錆(銹)する表面処理の工法について研究し、クローム酸をベースにした水溶液に無機質の化合物を組成し、この原液を電解過程における触媒としての機能を充分発揮し得るように調整し、その電解液を超低温下で管理して、被加工金属材料に定格の荷電をして、金属材料の表面を薄く皮膜し、真黒色化して、良好な防錆(防銹)力や耐久(耐食)力を得ることができる技術(黒色防錆薄膜処理法)を新たに開発し、この自社が開発した金属表面処理剤の商品の販売及びこの金属表面処理法の役務の提供を業とし、遅くとも昭和46年ころまでには、その商品である「黒色金属表面処理剤」及びその役務である「黒色金属表面処理法」の商標として「レイデント」の標章を創作し、使用を開始していたこと、被告は、前記1のとおり、昭和50年に本件商標と書体を同じくする「レイデント」からなる商標につき登録出願をしたことがあること、被告は、本件商標の出願時である昭和60年12月18日までの間に、近畿地方所在の企業のほか、東京、名古屋等所在の企業との間で取引しており、その取引や宣伝広告において、「レイデント」の文字標章を商品及び役務商標として使用するほか、商品商標として「レイデント液」、「レイデント処理液」、「レイデント・ハイブラック」等の標章、役務商標として「レイデント処理」、「レイデント処理法」、「レイデント加工」等の標章を継続して使用していたこと、このため、引用標章である被告の「レイデント」の標章は、本件商標の出願時までに、当業界及び取引者・需要者の間で、一定の信用及び顧客吸引力を備えるに至っていたことが認められる。
(2) 原告は、取消事由1として、引用標章「レイデント」が「黒色金属表面処理剤」の商品について継続して使用されていたとの審決の認定を争っているが、
被告が業として販売している黒色金属表面処理剤の商品についても、引用標章「レイデント」を継続して使用してきたことは、「レイデント」の語が「処理液(処理剤)」について使用されていることが明白に認められる甲第6、第58、第59、
第67ないし第69号証、乙第14、第22、第30、第33、第34、第36、
第43、第74、第85号証の各記載内容に照らして、明らかであって、この認定に反する証拠はない。
したがって、審決の上記の認定事実は正当であって、この認定が誤っているとの原告の主張は、採用することができず、審決の上記認定が誤りであることを前提とする取消事由1は、理由がない。
(3) なお、原告は、被告が審判手続において提出した甲第5号証(審判甲第42号証)について手続の違法を主張するが、甲第5号証、乙第84、第85号証及び弁論の全趣旨によると、甲第5号証は、株式会社日刊工業新聞社発行の「日刊工業新聞」の紙面を切り抜いたものの複写であるところ、そのうち、@見出しに「防せい力黒染法の十倍以上」と記載された記事の部分は、昭和46年10月8日付けの日刊工業新聞の21面(乙第84号証)から切り抜いたもの、A被告の広告の部分は、昭和46年12月29日付けの日刊工業新聞の19面(乙第85号証)から切り抜いたものを複写したものであり、被告がこれらを証拠として提出する際に、Aの部分を、@の部分及び@の部分の発行日付けの部分と、一緒に貼り付けた上で、複写したものであることが認められる。
してみると、甲第5号証の原本は、いずれも株式会社日刊工業新聞社発行の日刊工業新聞の記事及び広告であるから、被告がその作成者を誤り、又はこれを偽って提出したものではなく、甲第5号証の原本が真正に成立したものであることは明らかであり、また、甲第5号証の原本は、いずれも昭和46年に発行されたものであり、本件商標の出願時前に作成されたものであるから、その発行月日の相違によって、本件における証拠価値が異なるものではない。
以上によれば、審決が事実認定に当たり、甲第5号証を証拠として採用したことについて、何ら違法な点は認められず、原告の上記主張は、失当である。
3 取消事由2(被告商品の内容が不明のまま、本件指定商品について認定した誤り)について (1) 原告は、「審決は、被告商品の内容及び販売形態(例えば、いかなる容器にどのような商標を付し定価をいくらとして販売しているのか)について全く確認や検討を加えることなく、被告が開発したとする「黒色金属表面処理剤」の商品が存在していると速断した」旨主張している。
しかしながら、上記2の(1)及び(2)に判示したとおり、被告は、商品として「黒色金属表面処理剤」を開発して、業として販売していたことが認められ、審決がこの事実を認定したことは、正当であるということができる。
また、被告が引用標章「レイデント」を商品「黒色金属表面処理剤」に使用していたことを認定するに当たって、原告が主張するような被告商品の具体的内容や販売形態を認定する必要性は、本件において認めることができないから(被告商品の存在そのものを疑わしめるような証拠はない。)、審決がこれらについて具体的に認定していないことをとらえて、審決が「被告商品の内容が不明のまま」に判断を示したと評価することはできず、原告の上記主張は、失当である。
(2) さらに、上記2の(1)に判示したとおり、被告は、金属材料の表面を黒色皮膜して、金属材料の表面を防錆(銹)する表面処理の方法について研究し、
金属材料の表面を真黒色化して、良好な防錆(銹)力等を得ることができる技術を新たに開発し、「黒色金属表面処理剤」の商品の販売及び「黒色金属表面処理法」の役務の提供を業としており、この商品及び役務に「レイデント」の標章を使用していたことが認められ、また、前記1に判示したとおり、被告は、昭和50年6月20日に、指定商品を旧第1類の「金属材料の表面黒化並びに防銹処理のための金属表面処理剤、その他の化学剤」として「レイデント」の文字標章からなる商標の登録の出願をしていることが認められるところ、本件商標の指定商品は、被告の出願に係る上記商標の指定商品の範囲及び表示と同一のものであることが認められる。
(3) 以上によれば、被告の開発した「黒色金属表面処理剤」の商品は、「金属材料の表面黒化並びに防錆を目的とした金属表面処理剤」の商品範囲に属するものと認められ、本件商標の指定商品である旧第1類の「金属材料の表面黒化並びに防銹処理のための金属表面処理剤、その他の化学剤」の一部に当たるものであることは明らかであり、また、被告の「黒色金属表面処理剤」の商品と、これを使用した「黒色金属表面処理法」の役務とは、相互に密接な関係にあることを首肯し得るから(これに反する証拠はない。)、審決が、本件商標の指定商品について、「請求人(被告)の開発した黒色金属表面処理剤を一部に含む又はこの処理剤を用いる黒色金属表面処理と密接な関係にあると認められる「金属材料の表面黒化並びに防銹処理のための金属表面処理剤、その他の化学剤」」(審決書15頁36行ないし16頁1行)と認定したことに誤りはない。
したがって、審決の上記認定が誤りであることを前提とする原告の取消事由2の主張も、理由がない(なお、本件証拠を精査しても、審決の「原告には被告の引用標章に形成された信用や顧客吸引力を利用し、あるいは稀釈させる等の不正競争の目的があった」旨の判断に誤りがあるとは認められない。)。
4 結論 以上のとおり、原告主張の審決の取消事由はすべて理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 古城春実
裁判官 橋本英史