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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成11行ケ410審決取消請求事件 判例 商標
関連ワード 識別力 /  量産 /  使用事実 /  指定商品 /  普通名称(3条1項1号) /  記述的商標(3条1項3号) /  普通に用いられる方法 /  3条2項 /  周知商標 /  ただ乗り(フリーライド) /  希釈化(ダイリュージョン) /  外観(外観類似) /  外国 /  ハウスマーク /  商号 /  同業者 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 181号 商標登録取消決定取消請求事件
原告 株式会社さきぞう
訴訟代理人弁理士 安藤順一
同 戸川公二
同 弁護士 大瀬左門
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 上村勉
同 茂木静代
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/01/31
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が異議2000-90577号事件について平成13年3月13日にした決定を取り消す。
前提となる事実(争いのない事実)
1 特許庁における手続の経緯 原告は、別紙1の商標公報記載のとおり、「ちりめん洋服」の文字を横書きしてなり、指定商品を商品及び役務の区分第25類の「縮緬生地を用いた洋服」とする登録第4363624号商標(平成8年7月25日商標登録出願、平成12年2月25日設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者である。特許庁は、本件商標の上記出願に対して、平成11年1月18日に拒絶査定をしたが、原告の申立てによる不服審判請求事件(平成11年審判第3702号)の審理の結果、平成11年12月20日に、商標法3条2項の規定する要件を充たすものとして、拒絶査定を取り消し、本件商標を登録すべきとする審決(以下「前審決」という。)をしたために、上記商標登録に至ったものである。
上記商標登録に対して、平成12年5月26日に3名から、同月29日に11名から、それぞれ登録異議の申立てがされ(以下、それぞれ「申立て1」、「申立て2」ということがある。)、特許庁は、これらの申立てを異議2000-90577号事件として審理した結果、平成13年3月13日に「登録第4363624号商標の商標登録を取り消す。」との決定をし、その謄本は同年4月2日に原告に送達された。
2 決定の理由 別紙2の決定書の理由の写し(以下「決定書」という。)のとおり、本件商標を構成する「ちりめん洋服」の文字は、普通に用いられる方法の書体の文字を表してなるにすぎず、本件商標は、指定商品である「縮緬生地を用いた洋服」の品質を普通に用いられる方法で表示するにすぎない標章のみからなる商標であり、かつ、使用をされた結果需要者が本件商標権者の業務に係る商品であるであることを認識することができるものとなっていた商標とは判断し得ないから、商標法3条1項3号に違反して登録されたものである旨認定、判断した。
原告主張の決定の取消事由の要点
1 取消事由1(本件商標の自他商品識別力の判断の誤り) 商標の登録に関する一般的登録要件の存否の判断は、行政処分の本来的性格にかんがみ、一般の行政処分におけるのと同じく、特別の規定が存在しない限り、行政処分時、つまり査定時又は審決時を基準として判断すべきであるところ、本件商標の登録を認めた前審決は、本件商標の自他商品識別力を肯定しており、しかも、前審決がされた当時はもとより本件における決定時にも、他に本件商標と同じ「ちりめん洋服」商標を使用した商品が市場に存在していなかったのに、これらの事実を看過し、本件商標は自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものとして商標法3条1項3号に該当すると判断した決定は違法であり、取り消されるべきである。
(1) 本件商標の自他商品識別力 ア 確かに、本件商標は、縮緬生地という意味を含む「ちりめん」なる日本語と、西洋風の衣服を意味する「洋服」なる日本語とを一体不可分に横書きして「ちりめん洋服」と構成したものであるが、仮に、このように、日本語的に観察した場合に、本件商標が「ちりめん」の文字と「洋服」の文字を単純に結合したかのような外観を呈していても、以下に述べる事実からすると、このことをもって商標法3条1項3号規定の「商品の品質表示」に該当すると即断すべきではない。
イ 本件商標は、前半が楷書風の平仮名文字「ちりめん」なる大和言葉的部分と後半の明朝体漢字「洋服」なる洋風の格式を基調としたフォーマルな部分とが程良き調和を保って一体に融合して、日本の心と技と素材を洋装に活かさんとする原告代表者による「和魂洋才」のデザイン思想を「ちりめん洋服」の六文字に込めて表現した一種の造語商標である。
ウ 原告代表者は、昭和20年6月28日に京都市中京区木屋町に生まれ、
昭和42年に服地デザイン会社「四季ファブリックハウス」社に入社し、服飾デザイナーの道に入り、昭和47年に独立開業し、開業後、間もなく和装生地「縮緬」に着目し、縮緬生地の縮みを活かして洋装既製服を試作してみたところ、立体的な和風の縮みが洋服のシャンとした張りと微妙に調和して全く斬新な感覚の洋服ができあがったので、和魂洋才の思いを込めて、これを「ちりめん洋服」と命名し、量産化に踏み切ったのである。一方、原告代表者は、昭和52年11月12日に、「株式会社紗瑠美里」を設立し(平成3年10月1日に原告の現商号である「株式会社さきぞう」と変更)、原告代表者自らデザインした新製品の「ちりめん洋服」などの服飾品を展示販売するブティックを内外国に多数出店し、原告代表者のデザインによる商標「ちりめん洋服」に象徴される「縮緬生地を用いた洋服」の信用は同業者の間ではもとより服飾業者の間でも広く知られるに至っているのであって、「ちりめん洋服」と言えば、原告の「縮緬生地を用いた洋服」を想起するまでになっている。
こうして量産化された新商品「ちりめん洋服」は、嵩張らず、軽くてしわになり難く、しかも豪華でしなやかという縮緬生地のフレキシブルな素材特性が洋服のあらゆる分野に浸透してゆき、フォーマルからタウン、リゾートウェアーと幅広い用途に活用されるようになり、開発当時の昭和47年頃には市場性が「0」であったものが、平成8年には300億円程の規模までに拡張されたのである。
エ 原告は、本件商標の登録出願の審査の段階においては、甲第5ないし第57号証を提出し、さらに拒絶査定に対する審判の段階では、甲第58ないし第61号証を提出して、本件商標の自他商品識別力を主張立証したところ、前審決は、
「縮緬生地を用いた洋服がA氏によって創造され、平成7年9月頃より現在にいたるまで、本願商標と同一の商標が請求人によって洋服に盛んに使用された結果、現在では取引者、需要者間において著名であってこれが同人の業務にかかる商品であることを認識し得るに至っているものと認められる。したがって、本願商標は、商標法第3条第2項の規定する要件を満たしているものということができる。してみれば、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当しない。」と判断し、この審決を受けて本件商標は登録されたものである。
オ そして、前審決を基準時にすると、本件商標を「縮緬生地を用いた洋服」に使用している同業者及び服飾業者は存在していないのであるから、前審決の判断を覆す理由はなく、また、この点に関する決定の次の各認定はいずれも誤りであって、本件商標の商標登録は、取り消されるべきではない。
(ア) 決定は、「申立人2の提出に係る証拠によれば、商標権者以外の者が、「ちりめん洋服」商標を付した商品を販売したと認め得るのは、平成6年からである(申立て2甲第6号証)」(決定書12頁8行)と認定している。
しかしながら、甲第62号証(申立て2の符号甲第6号証)、同様の趣旨で異議申立人が提出した甲第63、第64号証は、いずれも異議申立人の「松居産業株式会社」が作成した伝票と思しき私文書であって、その成立の真正については全く証明されていない。しかも、異議申立人が提出した他の甲第65ないし第67号証の記載に徴しても、自己の発行した伝票に「ちりめん洋服」と記載しているのは不自然であって、取引商品を正確に特定することが求められる伝票の性質上、自社の商品名である「おしゃれ泥棒」と記入するのが常識である。
したがって、甲第62号証に自社の商品名として記載されている「ちりめん洋服」は、真実とは認め難いから、この点に関する上記の決定の認定は誤りである。
(イ) 決定は、「商標権者以外の4業者による「ちりめん洋服」の語の使用事実は、「ちりめん洋服」商標が特定の者の商標であるとの認識を阻却するに充分なものというべきである」(決定書13頁8行ないし10行)と認定する。
しかしながら、これらの他の「ちりめん洋服」の商標の使用は、原告代表者が長年にわたりデザイナーとしての全精力を傾注して築き上げた周知商標「ちりめん洋服」の信用にフリーライドして、縮緬生地を用いた洋服を売り込むための不正な競争行為である。
なお、原告は、これらのフリーライド行為が蔓延しては、せっかく蓄積した原告の周知商標「ちりめん洋服」に対する需要者の信頼が損なわれ、その自他商品識別力希釈化することになりかねないので、業界一般に根気強く注意を呼びかけたところ、商標「ちりめん洋服」の無断使用は止まり、「ちりめん洋服」という用語は消えて、「ちりめん婦人服」なる用語が使用されるようになるなど、前審決時はもとより決定時にも、原告以外に「ちりめん洋服」の商標を使用した商品は市場には存在しなくなった。
決定は、前審決が認定した事実を無視し、審決時において「ちりめん洋服」が一般的に使用されていた証明がされないまま、誤った判断に至ったものであり、この点において違法である。 カ 決定は、本件商標が「ちりめん洋服」の文字を普通の書体で表したものであって、しかも、「ちりめん洋服」と称することと「ちりめん婦人服」、「ちりめんドレス」、「ちりめんブラウス」、「ちりめん服」と称することとは、生地名の「ちりめん」に商品名ないしは商品のジャンル名を付した点において何ら異なるところはないと認定している(決定書12頁25行ないし30行)。
確かに、甲第72ないし第81号証には「ちりめん婦人服」、甲第90号証には「ちりめん婦人服」の他に「ちりめん服」、甲第91号証には「ちりめん服」、甲第92号証には「チリメンドレス」、「ちりめんドレス」という表示が用いられており、さらに原告自身も商標登録異議意見書(甲第3号証)において、「ちりめん婦人服」、「ちりめん服」、「ちりめんブラウス」、「ちりめんドレス」という表示が婦人服業界で用いられるようになった事実は認めている。
しかしながら、本件商標は、前記のとおり、構成的には、前半が楷書風の平仮名文字 「ちりめん」なる大和言葉的部分と後半の明朝体漢字「洋服」なる洋風の格式を基調としたフォーマルな部分とを程良く調和させつつ、一体に融合させたものであって、日本の心と技と素材を洋装に活かさんとする原告代表者の「和魂洋才」のデザイン思想を「ちりめん洋服」の六文字に込めて表現した一種の造語商標であって、本件商標「ちりめん洋服」は、単に普通の書体で表わしたという範囲を越えているうえに、服飾デザイナーとしての原告代表者が開発した縮緬生地を用いた量産品としての既製洋服に集中的に使用して、需要者・取引者の間に広く周知させてきたものである。そして、そのことは、前審決でも明確に認定されている。
このように、原告代表者は、パイオニア商品ともいうべき「縮緬生地を用いた洋服」に最もふさわしく、そして自己の開発信条にかなった商標として、「ちりめん洋服」を採択し、これを使用することにしたのであって、その他の「ちりめんドレス」、「ちりめん洋服」、「ちりめん服」あるいは「ちりめん婦人服」は、原告代表者の好みに合わなかったために採択しなかっただけのことである。そして、その一方、原告が採択せずに放置することにした「ちりめんドレス」「ちりめんブラウス」、「ちりめん服」あるいは「ちりめん婦人服」は、原告の開発した「縮緬生地を用いた洋服」が商品として市場を流通し社会に定着して行くに従って、「縮緬生地を用いた洋服」の品質表示として、あるいは普通名称となって、需要者の常識的用語となっていったことは、時代の推移からして当然のことである。
決定は、これらの事実を看過し、「ちりめん洋服」の一般的使用の証拠も示すこともなく、本件商標の自他商品識別力を否定したものであり、明らかに誤りである。
(2) 被告の主張に対する反論 ア 被告は、原告以外の業者で本件商標と同じ「ちりめん洋服」という文字を縮緬生地を用いた洋服に使用する業者がいなかったとしても、「ちりめん洋服」という文字が、取引者又は需要者によって、商品「縮緬生地を用いた洋服」の品質を示すものとして一般に認識されるものであるならば、それは、その商品の品質表示というべきであり、商標法3条1項3号に該当する旨主張している。
しかしながら、同号にいうところの「商品の品質表示」というものは、その前提として、市場に当該商品が実在していなければ成り立ち得ない概念である。
したがって、従前世に存在しなかった新製品を開発して商品化した者が当該新商品について特定の商標を採択して使用している場合には、当該同種商品一般が備える共通な品質を表示するものとして需要者間に常識化していない限り、その商標は商標法3条1項3号にいう品質表示に該当するものでないことは明白である。
すなわち、そのような商標に商標権を付与したとしても、既存の商品市場において自由な品質等表示として許されていた範囲をいささかも狭めることはなく、社会的財産から何ものかを奪うものではないから、独占に適するということである。まして、従来市場に存在しなかった新製品を開発した者が当該製品を新商品として市場に売り出すにあたって採択した商標は、他の追随的模倣者のフリーライドを防ぐためにも十分に保護せらるべきであり、それが新商品を市場に新たに提供するという知的創造の努力の成果の保護、つまりパイオニア的営業者の業務上の信用を保護することになり、商標法の目的にも適うのである。
本件では、前記のとおり、原告代表者が「縮緬生地を用いた洋服」を開発し、量産化に成功した当時においては、市場には当該製品はいまだ存在せず、商品として実在していなかった。それゆえ、需要者や取引者は、当然のことながら、縮緬生地を使用して縫製した既製洋服を知ることはなかった。このような状況において、原告代表者は、自らが開発した「縮緬生地を用いた洋服」を量産化して市販するに当たって、本件商標を採択した。そして、本件商標の構成は、前記のとおりの特徴のある造語商標であって、採択以来、原告が自社の商品独特のイメージをアピールするために長年にわたり専用してきたのであって、これを使用する業者は原告以外にはなく、前審決も、本件商標は、商標法3条1項3号に該当しないと判断し、本件商標権の成立を認めている。
したがって、被告の主張は、失当である。
イ 被告は、本件商標「ちりめん洋服」を構成する文字の書体がありふれた構成態様に該当する旨主張している。
仮に、そのようにみることができると仮定しても、上記のとおり、「縮緬生地を用いた洋服」は、原告代表者が開発した新製品であって、本件商標が採択される以前には商品として市場に実在しなかったのであるから、その品質を論ずる余地はなく、そして、当然のことながら、品質表示という行為も形式も存し得ないのである。
してみれば、本件商標「ちりめん洋服」を構成する文字の書体が、被告が主張するようにありふれた構成態様に該当するとしても、それが本件商標の自他商品識別力を否定する理由にはなり得ないのであり、そのことは、前審決も明確に是認している。
ウ 被告は、甲第62号証の売上伝票の商品の欄には「ちりめん洋服 CJ-110」と記載されており、商品を特定するための記号符号とみられる「CJ-110」の文字が併記されているから、格別不自然な記載がされているとはいえない旨主張している。
ところで、甲第62号証が売上伝票であるというためには当該伝票発行の基礎となった実際の商取引の存在を必要とする。原告が甲第62号証ないし第64号証に対して成立を否認したのは、その点が全く証明されていないからである。しかも、
決定は、前記のとおり、このように成立自体に疑いのある甲第62号証に基づいて、「商標権者以外の者が、「ちりめん洋服」商標を付した商品を販売したと認め得るのは、平成6年からである」と認定しているのであり、甲第62号証は、決定の結論に重大な影響を及ぼす文書であるのに、決定では、その成立の真否について全く審理が尽くされていない。
したがって、この点に関する被告の反論は、失当である。
エ 被告は、甲第69号証(乙第2号証、平成11年7月14日付けの日本繊維新聞の記事)中に、「ちりめん洋服」という語が使用されていることを指摘し、このことを理由として、前審決時に、取引者、需要者が「ちりめん洋服」を原告の商標として認識していたものとすることはできない旨主張している。
しかしながら、甲第69号証の記事における「染め呉服メーカー野田の「常務取締役・洋装事業部長」は、平成2年に、原告と商取引基本契約及びブランドライセンス契約を締結している株式会社日本きものセンターのクリエイティブ事業部長に就任し、平成4年2月には取締役に就任して原告からの「縮緬生地を用いた洋服」の仕入れ、商品の選定、販売戦略を実質的に決定する権限が与えられ、さらに平成9年2月には同社の常務取締役に就任した者であって、同社において長年にわたり「縮緬生地を用いた洋服」の企画、販売に携わり、商品企画、販売システム、得意先情報等の営業上の秘密を保持する地位にあったが、平成9年3月ころ、独断で「縮緬生地を用いた洋服」の類似商品を販売していたことが原告に発覚し、株式会社日本きものセンターから責任を追求されて、平成9年7月15日に同社を退職し、その際、今後縮緬生地を用いた洋服の製造販売等を取り扱わないこと等を言明して、異議申立人の野田株式会社に常務取締役として迎えられ、その後も、株式会社日本きものセンターに野田株式会社の社長と共に訪れ、縮緬生地を用いた洋服の取扱いは絶対に行わない旨を言明していた。
ところが、同人は、約を違えて株式会社日本きものセンターから社員の引き抜きをして縮緬生地を用いた洋服の製造販売を始めると共に、原告の商標「ちりめん洋服」の知名度にフリーライドすべく、商標「ちりめん洋服」の自他商品識別力を稀釈化させるために、野田株式会社において新聞などの広報活動を推進するような不正競争行為に及ぶに至ったのである。なお、甲第68、第69号証の各記事はもちろん、甲第65号証の紹介記事、甲第66号証の広告、甲第70、第71号証、第213号証の各広告も、原告の商標「ちりめん洋服」が具備している自他商品識別力を積極的に稀釈化させるための広報活動ということができる。
したがって、被告指摘の甲第69号証の存在をもって、前審決時、取引者、需要者が「ちりめん洋服」を原告の商標として認識していたものとすることはできない旨の被告の主張は、失当である。
オ 被告は、原告が原告の商品「縮緬生地を用いた洋服」を宣伝広告するに際して、「SAKIZO」、「さきぞう」、「さきぞうブランド」などを大きな文字で付加して表示しているから、これらの宣伝広告に接する需要者に「SAKIZO」印ないしは「さきぞう」印の「縮緬生地を用いた洋服」なる意を容易に看取させるから、商標「ちりめん洋服」は、商品の品質表示として認識される使用態様である旨主張している。
しかしながら、「さきぞう」という名称は、原告の略称として、服飾業界や取引者・需要者の間に広く知られており、また「SAKIZO」は、前記略称「さきぞう」英文字表記として同様に知れわたっている一方、原告は「さきぞう」、「SAKIZO」 を自社のハウスマーク(営業表示)として使用している。
そもそも、企業が自社商品の宣伝広告の際に自社のハウスマークを明示して、このハウスマークと共に当該商品を特定する商標を使用することは一般的な慣習であり、そのような宣伝広告をもって商品の品質表示として認識される使用態様に当たるとの被告の上記主張は、商品市場における商慣習から著しく掛け離れており、常識的でなく、失当である。
2 取消事由2(書証の成立の真正、証明力についての審理不尽) 決定は、「ちりめん生地を使用した洋服について商品の品質を普通に用いられる方法で表示するにすぎない標章のみからなる商標と認定した前記3の取消理由に誤りはない」と説示し、その引用に係る決定書の第3項には、「添付の各種書面、数多くの証明書によれば」と記載されている(決定書7頁8、9行)ことからも明らかなとおり、決定は、異議申立人らが提出した甲第62ないし第64号証、甲第93ないし第208号証を判断の基礎資料としており、そして、これらの文書については、原告が成立の真正を争っていたのに証人尋問などの証拠調べも行わず、文書成立の真否も確認せずに恣意的に証拠採用をして誤った判断に至ったものであるから、決定は違法であり、取り消されるべきである。
例えば、甲第93号証及び第141号証は、商標「ちりめん洋服」が商品の素材・原材料・品質の表示、あるいは縮緬製洋服を示す名称であることを証明するものとして、異議申立人である丹後織物工業組合が押捺した書面であるが、原告が異議意見書に添付した甲第56号証、第209号証に示すとおり、同組合は、これと全く反対の事実についても原告の求めに応じて証明しているのである。しかるに、本件異議申立の審理においては、甲第93号証及び第141号証等の書証の成立の真正及び証明力を原告が争っていたのに、これら相反する内容の何れが真実であるかを確かめもせず、一方的に甲第93号証及び第141号証を真実の証明として採用している。その他の上記書証に対しても、異議の審理において、原告がその成立の真正を争っていたのに、証人尋問などの証拠調べも行わず、文書成立の真否も確認するための適正な手続も採ることなく、本件商標に対して、商標法3条1項3号に該当するとの誤った認定を行ったのであるから、違法なものとして取り消されるべきである。
被告の反論の要点
1 取消事由1(本件商標の自他商品識別力の判断の誤り)に対して (1) 原告は、前審決を基準時とすると、本件商標を縮緬生地を用いた洋服に使用している同業者及び服飾業者は存在していないのであるから、本件商標の商標登録は取り消されるべきではなく、決定は、「ちりめん洋服」の一般的使用の証拠も示すこともなく、本件商標の自他商品識別力を否定している旨主張している。
しかしながら、前審決がされた当時、原告以外の業者で本件商標と同じ「ちりめん洋服」という文字を「縮緬生地を用いた洋服」に使用する業者が存在しなかったとしても、「ちりめん洋服」という文字が、取引者又は需要者によって、商品「縮緬生地を用いた洋服」の品質を示すものとして一般に認識されるものであるならば、それは、その商品の品質表示というべきであり、商標法3条1項3号に該当するものである。
したがって、決定が、本件商標について、取引者又は需要者によって商品「縮緬生地を用いた洋服」の品質を示すものとして一般に認識される理由及び本件商標は使用をされた結果需要者が原告の業務に係る商品であることを認識するに至っていたものとは判断し得ない理由を示して、商標法3条1項3号に該当し、その商標登録を取り消すべきとした判断に、原告主張の違法はない。
また、甲第69号証(乙第2号証、平成11年7月14日付けの日本繊維新聞の記事)には、「ちりめん洋服」という語が使用されているのであり、この記事の筆者自身が選択して「縮緬生地を用いた洋服」との意味で使用していることは明らかであるから、前審決がされた当時、取引者、需要者が「ちりめん洋服」を原告の商標として認識していたものとすることはできない。
(2) 原告は、甲第62号証(申し立て2の符号甲第6号証)に自社の商品名として記載されている「ちりめん洋服」は不自然な記載であって、取引商品を正確に特定することが求められる伝票の性質上、自社の商品名「おしゃれ泥棒」と記入するのが常識であり、真実とは認め難い旨主張している。
しかし、甲第62号証の売上伝票の商品名の欄には「ちりめん洋服 CJ-110」と記載されており、「ちりめん洋服」の文字以外に商品を特定するための記号符号とみられる「CJ-110」の文字が併記されているから、格別不自然な記載がされているものとはいえない。
(3) 原告は、本件商標「ちりめん洋服」は単に普通の書体で表したという範囲を越えている旨主張している。
しかし、本件商標を構成している「ちりめん洋服」の文字が普通に用いられる書体で表されていることはその構成態様から明らかといえるのであって、原告の上記主張は失当である。 (4) 原告自身の本件商標の使用態様をみても、原告は、その取扱いに係る「縮緬生地を用いた洋服」の宣伝広告に際して、「SAKIZOの「ちりめん洋服」」、「さきぞう ちりめん」、「「ちりめん」を使用しています。」、「「さきぞう」ブランド」などのような表現方法を用い、かつ、「SAKIZO」、「さきぞう」の文字を大きく表示しているところから、これらの宣伝広告に接する需要者をして、「SAKIZO(ないし「さきぞう」)」印の「縮緬生地を用いた洋服」なる意を容易に看取させるものであって、原告は、本件商標について、商品の品質表示として認識される使用態様をしているといえるものである(甲第20号証ないし甲第31号証)。
(5) 以上のとおり、本件商標は、商標法3条1項3号に該当し、同条2項の規定により商標登録を受けることができるものでなかったにもかかわらず、商標登録されたものであるから、その商標登録を取り消すとした決定の認定、判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。 2 取消事由2(書証の成立の真正、証明力についての審理不尽)について (1) 原告は、決定は、異議申立人らが提出した甲第62ないし第64号証、
甲第93ないし第208号証を判断の基礎資料としているが、これらの書証については、原告が成立の真正を争っていたのに、証人尋問などの証拠調べも行わず、文書成立の真否も確認せずに恣意的に証拠採用をして誤った判断に至った旨主張している。
しかし、決定書の11頁ないし13頁に示されている「5 当審の判断」には、
甲第62号証((申立て2甲第6号証))を除いた上記の甲号証は、明示されておらず、また、決定の結論を導くためにこれらの甲号証を用いていないことは、上記の「5 当審の判断」の内容全体からして明らかである。
原告は、決定書の第3項に「添付の各種書面、数多くの証明書によれば」と記載されていることを根拠に、決定は恣意的に証拠採用をした旨主張している。
しかし、この第3項は、「本件商標に対する取消理由の要旨」を認定した部分であり、そこに「添付の各種書面、数多くの証明書によれば」との記載があるとしても、決定の結論を導くために「添付の各種書面、数多くの証明書」を証拠として用いているとは限らないことは明らかであり、この点の原告の主張は当たらない。
(2) 決定が引用した上記甲第62号証は、原告以外の者が「ちりめん洋服」商標を付した商品を販売した時期が平成6年からであるとの認定をするために用いているが、甲第62号証が証拠採用することができず、この認定ができないとしても、決定の結論には影響がないものといえる。
したがって、この点は、決定を取り消すべき違法事由であるとはいえない。
(3) 以上のとおり、本件の異議の審理において、何ら違法な点は認められなず、原告の取消事由は理由がない。
理 由
取消事由1(本件商標の自他商品識別力の判断の誤り)について
1 商標法3条1項3号の該当性について (1) 本件商標が、別紙1の商標公報記載のとおり、「ちりめん洋服」の文字を横書きしてなり、指定商品を商品及び役務の区分第25類の「縮緬生地を用いた洋服」とするものであり、平成8年7月25日に、商標登録出願され、平成11年12月20日に、前審決により商標法3条2項の規定する要件を充たすものとして登録が認められて、平成12年2月25日に設定登録されたものであることは、争いがない。
(2) 本件商標の構成態様をみると、本件商標は、楷書により表した平仮名文字「ちりめん」と、明朝体により表した漢字「洋服」とを、同じ大きさにより一体的に結合し、横書きしてなるものであり、普通に用いられる書体により単純に各文字を表記したものであると認められる。
次に、本件商標を構成する文字の意義についてみると、前半の「ちりめん」の文字は、縮緬生地という意味を含む日本語であり、後半の「洋服」の文字は、西洋風の衣服を意味する日本語であり、いずれも我が国において日常的に使用される馴染みの深い用語であることは、当裁判所に顕著である。
以上の本件商標の構成態様、本件商標を構成する文字の意義に照らすと、本件商標がその指定商品である「縮緬生地を用いた洋服」に使用された場合には、これに接する取引者・需要者は、本件商標について、単に、商品である被服が「縮緬生地が用いられた」「洋服」であることを表記したものであって、商品の品質を普通に用いられる方法で表示するものにすぎないものと理解し、認識するのが通常であると認められるから、本件商標が商標法3条1項3号に該当することは明らかであるというべきであり、同条2項の規定する要件を具備しない限り、本件商標は、自他商品識別力を具備しない構成のものであるといわざるを得ない。
(3) 原告は、本件商標につき、日本の心と技と素材を洋装に活かさんとする原告代表者による「和魂洋才」のデザイン思想を「ちりめん洋服」の六文字に込めて表現した一種の造語商標である旨主張している。
しかしながら、原告代表者が本件商標を採用した理由が上記のとおりのものであるとしても、本件商標の客観的な構成態様及び構成文字の持つ意義自体は上記のとおりのものにとどまるものであるところ、商標法3条1項3号は、自己の業務に係る商品について使用する商標について、「その商品の・・・品質・・・を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」を登録除外要件として規定しており、その該当性の有無は、当該商標が指定商品に使用された場合に、当該商標の客観的な構成に照らして、これに接する取引者・需要者が通常どのように理解、認識するものであるかについて判断すべきであり、出願人の当該商標の採択の意図がどのようなものであるかという点は、上記判断において直ちに考慮すべきものということはできないから、原告の上記主張は採用することができない。
また、原告は、同号規定の「商品の品質表示」とは、その前提として、市場に当該商品が実在していなければ成り立ち得ない概念である旨主張している。
しかしながら、同号規定の要件の該当性の判断の基準時は、商標登録出願人が現実に当該商標を採択し、使用した時点ではないことはいうまでもなく、その基準時となる本件商標の登録査定時である平成11年12月20日(前審決)の時点において、市場に本件商標の指定商品である「縮緬生地を用いた洋服」が存在していたことは、弁論の全趣旨に照らし明らかである(後記2の(1)の認定事実参照)。
したがって、原告の上記主張は、その前提を欠くものであって、採用することができず、他に、本件商標が同号に該当するとの上記の判断を妨げるに足りる特段の事情ないし証拠はない。
(4) 以上によれば、本件商標について商標法3条1項3号に該当するとした決定の判断に誤りはないというべきである。
そこで、次に、本件商標について、同条2項が規定する「前項第3号・・・に該当する商標であっても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品・・・であることを認識することができるもの」との要件に該当するか否かについて判断する。
2 商標法3条2項の該当性について (1) 本件証拠(後記括弧内記載のもの)及び弁論の全趣旨によると、本件商標の指定商品である「縮緬生地を用いた洋服」の流通市場における状況、本件商標を構成する「ちりめん洋服」の語の使用状況等について、以下の各事実が認められる。
ア 我が国において、縮緬生地は、和服など和装用の生地として用いられていたが、昭和8年3月1日発行の「主婦之友」付録(甲第89号証)に掲載されるなど、洋装用の生地としても活用されることが紹介されて、洋服の生地としても使用されるようになり、昭和41年10月20日発行の「国民百科事典」5(甲第88号証)の「ちりめん 縮緬」の項にも、「絹のちぢみ織物。・・・洋服地のクレープデシンやジョーゼットクレープもちりめんの種類である。・・・用途は、・・・婦人洋服など」と登載されたり、昭和60年3月、同年8月、昭和61年4月、平成元年4月各発行の日本放送協会の放送用テキスト「NHK婦人百科」(甲第83ないし第86号証)に、縮緬生地を使用してワンピース、ロングベスト、アンサンブル、スカートなどの洋服を作ることを紹介する記事が掲載され、これが全国放送されるなどして、縮緬生地は、我が国の服飾界や服飾に興味のある国民の間で、和装用のみならず、洋装用の生地としても少なからず注目を集めるに至っており、洋服の製作に使用されていた。
イ 原告代表者は、縮緬生地を用いた洋服を「量産商品」(マスプロ商品)として商品化するこを企図して、昭和47年ころ、縮緬生地を用いた洋服の商品を開発し、販売を開始した。その後、原告代表者は、洋装に適した縮緬生地の開発に務める一方、昭和52年11月12日に、「株式会社紗瑠美里」を設立し(平成3年10月1日に原告の現商号である「株式会社さきぞう」と変更)、原告代表者がデザインした服飾品を展示販売するようになり、昭和60年代には、「縮緬生地を用いた洋服」は、服飾商品の流通市場の一角を占めることになった。(甲第3号証、第230号証) 原告による「縮緬生地を用いた洋服」商品についての「ちりめん洋服」の語の使用状況をみると、原告が原告の「縮緬生地を用いた洋服」商品について、宣伝、広告した事実の証拠として提出した平成7年から平成10年までの新聞、雑誌等の広告(甲第11、第12号証、第20ないし第31号証)には、「SAKIZO」の標章が大きく記載され、「京都から世界へ誇れるものは SAKIZOの「ちりめん洋服」です。」と記載されたり、「SAKIZO」の標章が大きく記載され、さらに、「京都から世界へほこれるもの、それは・・・SAKIZOの「ちりめん洋服」です。」、「「さきぞうちりめん」はすべてAの感性で・・・」、「「さきぞう ちりめん」は、十数年間も同じ「ちりめん」を改良しながら織り続け・・・」、「「ちりめん」は・・・京都西陣で日の本(目)を見て 丹後において織り継がれ その伝承と現代のパワーから生まれたモダンシルエット それが「SAKIZO」です。」などと記載されている。また、「SAKIZO BLACK」の標章が大きく記載され、「黒と白で創る「ちりめん洋服」の新たな世界」、「つねに「ちりめん洋服」の世界をリードするSAKIZO そのちりめんに対する深い理解とこだわりによって生み出されたのが、今回デビューする「SAKIZO BLACK」ブランドです。」などと記載されたり、
マークが付記された「SAKIZO」の標章が大きく記載され、「京都から世界へ-ちりめん洋服」、「さきぞう」ブランドの軌跡と夢未来」などと記載されている。平成11年以降の広告でも、「近代日本の夜明けはここから始まった そして今、「ちりめん洋服」の歴史が刻まれる」、「京都から日本全国へ-ちりめん洋服 SAKIZOブランドは・・・」と記載されたり(甲第1号証、第59号証)、
マークが付記されたデザイン化された「SZ」の文字からなる標章が大きく記載される(甲第59号証)などしており、「ちりめん洋服」の語は、単独では使用されず、いずれも宣伝文に組み込まれ、他の宣伝の文字と同じ大きさで記載されている。
また、前審決時の平成11年12月20日までに、原告の営業状況等を紹介した業界新聞紙等の記事では、原告の「縮緬生地を用いた洋服」商品について「ちりめん洋服」の語を使用しているが、例えば、「さきぞう」社の代表者の発言要旨を紹介した記事に「ちりめん洋服という世に存在していなかったジャンルを開拓し」、
「当初、我々が考えていたちりめん洋服市場とはどんどんかけ離れた方向へ走っていった」、「先発メーカーとして、また、この商品を世に送り出したものの責任・・・」(平成8年5月22日付け「繊研新聞」、甲第5号証)、「ちりめん洋服で快進撃を続ける「さきぞう」」(平成8年7月23日付け「繊研新聞」、甲第32号証)、「ちりめん洋服で独自の道を築いている(株)さきぞう・・・。「さきぞう」は、優れた服飾デザイナーであるA社長の名前が、そのまま社名とブランド名になっている・・・。「さきぞう」のA社長は、日本の伝承技術で織られた和服の素材を、ファッショナブルな洋服のデザインと融合させて、ちりめん洋服という新ジャンル(昨年度、三百億円市場に成長)を確立させることに成功した。・・・A社長が二十五年前に、ちりめん洋服を日本で初めて手掛けたころ」、
「「さきぞう」ブランドの業績が伸びた」(平成9年3月18日付け「中外日報」、甲第33号証)と記載されている。さらに、「広がるちりめん洋服の世界」、「拡大する市場に売り方を工夫」と題する原告代表者と、原告との間でライセンス契約を締結している日本きものセンターの代表者との対談記事中で、「ちりめん洋服」との語と「さきぞうちりめん」ないし「さきぞうジャパン」との語が使い分けて記載されており(平成9年6月17日付け「繊研新聞」、甲第6号証)、
「「ちりめん」という日本独特のマテリアルに絞り込んだ洋服作りで固有の物作りを展開している「さきぞう」。」、「新規参入も激しく、婦人服やきもの業界を巻き込んだ大きな動きがちりめん業界で続いています。その中で、ちりめん洋服創案者として・・・」、「さきぞうブランド」と記載され、原告の商品写真には「サキゾーブラック」、「サキゾージャパン」の標章が付される(平成9年12月12日付け「日本繊維新聞」、甲第38号証)などしており、原告の「縮緬生地を用いた洋服」商品について、自他商品の識別標識としての商標(ブランド名)としては、
「さきぞう(サキゾー)」、「サキゾーブラック」、「サキゾージャパン」などの標章が使用され、「ちりめん洋服」の語は、「縮緬生地を用いた洋服」を意味する用語や、新たに開発された「商品のジャンル名」として使用されている内容の記事が少なからず見受けられる(なお、「「ちりめん洋服」・・という京都発信のブランド商品」と記載している記事も見られるが(平成9年9月2日付け「中外日報」、甲第36号証)、同記事は、他方では、「優れたデザイナーでもある「さきぞう」のA社長は、日本の伝承技術で織られた和服の素材を、ファッショナブルなデザインと融合させて、ちりめん洋服という新ジャンルを確立させた。・・・ちりめん洋服の本家である「さきぞう」は・・」とも記載し、「ちりめん洋服」の語を商品のジャンル名として使用している。)。
ウ 一方、遅くとも昭和62年ころ以降には、原告以外の業者も量産の商品として「縮緬生地を用いた洋服」を製造、販売して、市場に流通させるようになり、「縮緬生地を用いた洋服」の商品について、遅くとも平成6年春以降、「ちりめん服」、「ちりめん婦人服」あるいは「ちりめんファッション」という語のほかに、「ちりめん洋服」との語が使用されることがあり(甲第3号証(原告の代理人作成の商標登録異議意見書))、これらの語は、いずれも「被服商品に縮緬生地が用いられていること」を意味する用語として用いられており、他方、該商品の製造、販売業者は、各社の「縮緬生地を用いた洋服」の商品のブランド名ないし自他商品の識別標識(商標)としては、デザイナーの名前に由来するものなど各社独自の標章を使用していた。その状況は、以下のとおりである。
(ア) 平成8年11月25日付け繊研新聞(甲第90号証)には、「呉服メーカー・卸が提案する婦人服ブランド」と題する表を掲載し、中心素材を「ちりめん」とする各社のブランド名、商品の特徴等を登載しているが、そのブランド名としては、原告に関して、「SAKIZO JAPAN」(「日本きものセンター」社)、「SAKIZO BLACK」(「ワタイク」社)との標章が記載されているほか、「マチュア」(「糸重」社)、「BUSHOAN(撫松庵)」・「夢追人」(「ウライ」社)、「市田ひろみ」(「カトウ」社)、「しょうざんちりめん」(「しょうざん」社)、「衣音(えね)」(「ツカモト社」)、「DECOPULSU(デコプラス)」(「中畑」社)、「おしゃれ泥棒」(「松居産業」社)、「華のれん」(「丸池」社)の標章が掲載されており、本文等に、「ちりめん服」の語が記載されている。
(イ) 平成8年12月12日付け「日本繊維新聞」(甲第65号証)には、「ちりめん洋服「おしゃれ泥棒」好調」との題で、松居産業株式会社の営業状況を紹介する記事を掲載して、同社が、ちりめん素材をベースにした洋服を「おしゃれ泥棒」のブランド名で商品展開し、安定した売れ行きを見せていること、ちりめん素材を用いた服づくりが最近呉服卸のルートで展開されており、「ちりめん洋服は、・・・幅広い層で、ロングランの人気を集めている。」ところ、「同社の場合は、ちりめん洋服の展開についてはすでに実績もあ(る)」旨が記載されている。
(ウ) 平成9年9月8日付け「日本繊維新聞」(甲第213号証)の広告欄には、株式会社カトウが、「市田ひろみ《ブランド》」と大きく記載した標章を、「市田ひろみ先生の「ちりめん洋服」」との文字を付した写真とともに掲載されている。
(エ) 平成11年7月6日付け「日本繊維新聞」(甲第68号証、乙第1号証)に掲載された野田株式会社の常務取締役・洋装事業部長のインタビュー記事では、同社が「TOMIブランドちりめん洋服(宮崎東海の服)」を数年前に立ち上げ、売れ行きはコンスタントな伸びを見せ、他のちりめん洋服とは一線を画した展開になっていること等が記載され、同月14日付けの同紙(甲第69号証、乙第2号証)には、同社が、「日本の布の洋服TOMIちりめんコレクション(宮崎東海の服)」の企画として、ブランド力の高い展開に踏み切り、業績は顕著な伸びを見せており、他のちりめん洋服とは一線を画した独自の手法をとっていること等が記載されている。なお、同社は、平成12年9月4日付け「繊研新聞」(甲第211号証)の広告欄において、「日本の布の洋服」との文字とともに、デザイン化した「Tomi Miyazki」の標章をマークを付して掲載し、「宮崎東海の日本の布の洋服」と記載している。また、平成11年9月前発行の華洛宇部全日空ホテル店の販売パンフレット(甲第71号証)には、販売商品として、「宮崎東海(みやざきとみ)「ちりめん世界」新作秋冬物ちりめん洋服・コート」と記載されている。
(オ) 平成11年8月31日付け繊研新聞(甲第66号証)には、新ミセス服の紹介記事として、「新ミセス服ブランド一覧」と題する表を掲載し、メーン素材を「ちりめん」とする各社のブランド名、ブランドコンセプト等を登載しているが、そのブランド名としては、「市田ひろみ」(「カトウ」社)、「しょうざん」(「しょうざん」社)、「Tomi・Miyazki」(「野田」社)、「HARUAKI」(「HARUAKI BY オリセン社」)、「おしゃれ泥棒」(「松居産業」社)、「NMナイスミディ」(「山清」社)の標章が掲載されており、「ちりめん洋服」、「ちりめん服」、「ちりめん婦人服」や「ちりめんファッション」といった語は、いずれのブランド名としても記載されておらず、本文中に、「ちりめんの洋服」、「ちりめんを素材とする婦人服」との語が記載されている。なお、同紙の広告欄には、松居産業株式会社が「新世紀のおしゃれを予感。ちりめん洋服の自信。」、「注目を集める「おしゃれ泥棒」のちりめん洋服。」との文字とともに、デザイン化した「おしゃれ泥棒」の標章がマーク付きで掲載されている。
(カ) 前審決後発行のものであるが、平成12年10月26日付け「日本繊維新聞」(甲第212号証)には、「ちりめんファッション」、「ジャパンオリジナルとして成長」との題で、「呉服ルートの新商材として一部の趣向品市場で人気を得てきたちりめんファッションが、日本独自のファッションとして着実に消費者層に広がり始めている。」として、「ちりめんファッションを手掛ける主力ブランド五社の動向を聞いた。」とした上で、「松居産業」について、ポリエステルちりめん素材を使った婦人服を「おしゃれ泥棒」のブランド名で好調に販売実績を伸ばしていること、「野田」社について、「トミ・ミヤザキ」ブランドが好成績で推移していることがそれぞれ記載され、原告に係る商品に関連して、「幅広くりちめん市場の活性化目指すサキゾーグループ3社」の小見出しの下に、「展開12年目を迎える「サキゾージャパン」を展開する日本きものセンター」、「ワタイクは、
展開4年目を迎えた「サキゾーブラック」を機軸に「サキゾーヴィヴィド」の二つのちりめんファッションブランドを展開」、「サキゾーグループで最も新しいラインとなる「サキゾー21」を昨秋からスタートした大松」などと紹介されている。
この記事において、各社のブランド名や自他商品の識別標識(商標)として、「ちりめんファッション」あるいは「ちりめん洋服」、「ちりめん服」、「ちりめん婦人服」との語は記載されていない。なお、同紙の広告欄には、松居産業株式会社が「「おしゃれ泥棒」から変わっていく、新・ちりめんファッション。」との文字とともに、デザイン化した「おしゃれ泥棒」の標章がマーク付きで掲載されている。
(キ) 以上のほか、業界紙において、「縮緬生地を用いた洋服」の商品について記載された記事において、「ちりめん服」(甲第91号証、第210号証)、「ちりめん婦人服」(甲第72、第73号証、第75ないし第81号証)という語が記載されているが、そのいずれも、「縮緬生地を用いた洋服」を意味する用語として使用されており、製造、販売業者のブランド名や自他商品の識別標識(商標)としては使用されていない。
なお、原告は、前審決時である平成11年12月20日を基準にすると、本件商標ないし「ちりめん洋服」の語を「縮緬生地を用いた洋服」について使用している同業者はいない旨主張しているが、服飾業界における「ちりめん洋服」の語の使用状況は、上記認定のとおりであって、原告以外の者が「ちりめん洋服」を自他商品識別標識としての商標に使用している事実は認められないものの、原告主張のように、前審決時において原告以外の者が「ちりめん洋服」の語を全く使用しなくなっていたという事実は、認めることはできない。
(2) 前記1の(2)に判示したとおり、本件商標「ちりめん洋服」の構成態様、本件商標を構成する文字の意義に照らすと、本件商標「ちりめん洋服」がその指定商品である「縮緬生地を用いた洋服」に使用された場合には、これに接する取引者・需要者は、本件商標について、単に、商品である被服が「縮緬生地が用いられた」「洋服」であることを表記したものであって、商品の品質を普通に用いられる方法で表示するものにすぎないものと理解し、認識することが通常であると認められるところ、上記2の(1)に認定のとおり、縮緬生地は、旧来から我が国の服飾界や服飾に興味のある国民の間で、和装用のみならず、洋装用の生地としても少なからず注目を集めるに至っており、洋服の製作にも使用されていたものであり、
前審決の平成11年12月20日の時点では、「縮緬生地を用いた洋服」が量産されて商品化されて流通市場が形成されており、その製造、販売業者は、それらの被服商品が「縮緬生地が使用された洋服」であることを指称する用語ないし「商品のジャンル名」として、「ちりめん洋服」の語を、「ちりめん服」、「ちりめん婦人服」や「ちりめんファッション」という語と同様に使用していたのであり、各業者の商品のブランド名ないし自他商品の識別標識(商標)としては、デザイナーの名前に由来するものなど各社独自の標章を使用していたこと、原告は、本件商標「ちりめん洋服」を指定商品である「縮緬生地を用いた洋服」に使用していたものの、
その現実の使用態様をみると、該商品の宣伝、広告において、原告は、該商品のブランド名ないし自他商品の識別標識(商標)としては、「SAKIZO」(さきぞう)、「SAKIZO BLACK」(サキゾーブラック)、「さきぞう」、「サキゾージャパン」などの標章を使用する一方、「ちりめん洋服」の語は単独では使用せず、いずれも宣伝文に組み込まれ、他の宣伝の文字と同じ大きさで記載していたのであり、原告の営業状況等を紹介した業界紙の記事においても、原告の「縮緬生地を用いた洋服」商品について、自他商品の識別標識としての商標(ブランド名)としては、「さきぞう(サキゾー)」などの標章が使用され、「ちりめん洋服」の語は、「縮緬生地を用いた洋服」を意味する用語や、「商品のジャンル名」として使用されている内容の記事が見受けられる状況にあったものと認められる。
以上判示の「縮緬生地を用いた洋服」の商品の業界における「ちりめん洋服」の語の使用状況、原告の本件商標「ちりめん洋服」の現実の使用態様等を総合すれば、原告が本件商標を平成11年12月20日(前審決時)までに使用した結果、
本件商標は需要者が原告の業務に係る商品であることを認識することができる自他商品の識別力を有するものとなっていたとは、到底認めることができないといわざるを得ない。
したがって、本件商標について、商標法3条2項に該当することを肯定することはできず、これと同旨の決定の判断に誤りはないものと認められる。
(3) 原告は、原告による本件商標の使用の結果、本件商標は、需要者が原告の業務に係る商品であることを認識することができるものとなったことを証する証拠として、甲第13ないし第19号証、第41号証ないし第57号証の「証明書」を提出している。
しかしながら、上記の各書証は、いずれも、印刷された文章を記載した原告作成に係る「証明願」の下部に、「上記のとおり相違ないことを証明する」と印刷された上で、証明者の記名押印がされるという方式及び内容のものであって、その内容についての証明力は必ずしも高いものとみることはできず、これと反対趣旨について証明する旨の記載がある甲第93ないし第206号証(これらの方式及び内容並びに弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める。)が存在することに照らしても、原告提出の上記の各書証は、原告の上記主張を証明するのに十分なものであるとすることはできない。
他に、本件商標について、商標法3条2項に該当することを首肯するに足りる証拠はない。
3 以上のとおり、原告の取消事由1は、理由がない。
取消事由2(書証の成立の真正、証明力についての審理不尽)について
1 原告は、決定は異議申立人らが提出した甲第62ないし第64号証、甲第93号証ないし甲第208を判断の基礎資料としているが、これらの書証については、原告が成立の真正を争っていたのに、証人尋問などの証拠調べも行わず、文書成立の真否も確認せずに恣意的に証拠採用をして誤った判断に至った旨主張している。
しかしながら、被告が指摘するとおり、決定書の11頁ないし13頁に示されている「5 当審の判断」の記載によれば、決定は、甲第62号証(申立て2の符号甲第6号証)を除いた上記の甲号証について、事実認定において採用する証拠として掲記していないことは明らかである。
この点につき、原告は、決定書の第3項(7頁)に「添付の各種書面、数多くの証明書によれば」と記載されていることを根拠に、決定は原告主張の上記の各書証を採用した旨主張している。
しかしながら、原告指摘の決定書の第3項は、「本件商標に対する取消理由の要旨」を認定した部分であり、決定は、「5 当審の判断」において、「前記3の取消理由は、妥当なものである」(決定書11頁10行)、「前記3の取消理由に誤りはない。」(決定書13頁14行、15行)と記載して、決定の結論を示したにすぎず、その理由中において、第3項に記載された「添付の各種書面、数多くの証明書」を証拠として採用しているものでないことは、その記載内容に照らして明らかであり、原告の上記主張は、その前提を欠き、失当である。
2 そこで、決定がその理由中において採用し、引用したものと認められる甲第62号証について、その成立の真正や証明力に関する審理について、違法な点が認められるか否か検討する。
一般に、特許庁や裁判所の審理手続で当事者から提出された私文書について、その成立の真正ないし証明力に関してどのように審理するかについては、当該書証の形式(外観)、記載内容、当該書証の成否ないし証明力に関する相手方の争い方の内容、当該書証に記載されている内容と符合する当事者間に争いのない事実又は客観的な証拠の有無等の諸般の状況を総合考慮して決定されるべきものであり、提出者によって作成者と主張される者に対する証人尋問の手続を必須とするものではない。
このことを甲第62号証についてみると、相手方である原告は、審判手続において異議申立人が提出した書証について、これらが積極的に偽造されたものであると主張するものではなく、「その成立性及び証明内容の信憑性に疑問がある証明書が数多く含まれている」旨包括的に主張していたにすぎず、甲第62号証(申立て2の符号甲第6号証)については、単に、「甲第6号証・・・には「ちりめん洋服」の語が使用されていますが、これらは後発メーカー松居産業株式会社(前出)の伝票です。」と主張し、その成立とその記載内容については認めた上で、後発メーカーが「ちりめん洋服」の語を使用していたとしても、「ちりめん洋服」の語が普通に使用されていたことを立証することができるとは考えられない旨主張していたこと(商標登録異議意見書、甲第3号証8頁、14ないし15頁、18頁)、甲第62号証の方式及び記載内容に照らして特に信用を措くことができない事情は見当たらないこと、更にいえば、原告自身、次のとおり、同号証の作成年である平成6年当時、他の業者が「ちりめん洋服」の語を使用していたことは認めているのであり、同号証の記載内容に符合した主張をしていることを総合すれば、決定が同号証の作成者とされる者について証人尋問等の審理をせずに、これを採用して事実認定に供したことについて、審理手続上の違法事由があるものということができないことは、明らかである。
なお、決定は、同号証について、原告以外の者が「ちりめん洋服」の語を使用した時期について平成6年からであるとの認定をするために用いているが(決定書12頁8行ないし10行)、平成6年春以降、一部業者が「ちりめん洋服」の語を原告の商品と同種の後発商品について使用したことは、原告自身、甲第3号証の「商標登録異議意見書」の5頁16行ないし22行において自認し、また、本件訴訟においても、決定書記載の「4 商標権者の意見」欄の同旨の記載(決定書8頁10行、11行)について、認めると陳述しているところである。
したがって、仮に、甲第62号証が採用することができないものであるとしても、甲第3号証及び弁論の全趣旨によって、原告以外の者が「ちりめん洋服」の語を使用した時期については、平成6年からであると認定することができるものであるから、甲第62号証の採用に関する点は、決定の上記の認定部分を誤りとすることには結びつかないものと認められ、この点からも、甲第62号証に関する審理に関して、決定を取り消すべき違法事由があるものとは認められない。
3 以上のとおり、本件の異議の審理手続において、原告指摘の違法事由は認められず、原告の取消事由2も、理由がない。
結論
以上の次第で、原告主張の決定の取消事由はすべて理由がなく、その他決定にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 橋本英史