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関連審決 審判1999-35787
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20行ケ10042審決取消請求事件 判例 商標
関連ワード 指定商品 /  周知商標 /  周知性 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  4条1項10号 /  4条1項11号 /  顧客吸引力(グッドウィル) /  類似性(類否判断) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  取引の実情 /  出所の混同 /  禁止権 /  無効審判 /  非類似 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 277号 審決取消請求事件
原告 ライオン株式会社
訴訟代理人弁理士 小谷武
同 木村吉宏
被告 藤沢薬品工業株式会社
訴訟代理人弁理士 田伏英治
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/01/30
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が平成11年審判第35787号事件について平成13年5月9日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は、「キシリデンタル」の文字を横書きしてなり、指定商品を商標法施行令別表による第3類「せっけん類、香料類、化粧品、歯磨き」とし、現に有効に存続している商標(登録第4210767号、平成9年7月9日登録出願、平成10年10月2日登録査定、同年11月13日設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者である。原告は、平成11年12月24日、本件商標登録の無効審判の請求をし、特許庁は、同請求を平成11年審判第35787号事件として審理した結果、平成13年5月9日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同月21日、原告に送達された。
2 審決の理由 審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、本件商標は、原告の引用する、
「XYLIDENT」及び「キシリデント」の文字を2段に横書きしてなり、指定商品を商標法施行令別表による第3類「せっけん類、香料類、化粧品、歯磨き」等とし、現に有効に存続している商標(登録第4199780号、平成9年6月24日登録出願、平成10年10月16日設定登録、以下「引用商標」という。)に類似するから、商標法4条1項11号に掲げる商標に該当するとの原告の主張に対し、(1) 両商標は、その末尾部分において「タル」と「ト」の音に明りょうな差異を有するから、全体として一連に称呼するとしても、相紛らわしくなく、互いに聴き誤るおそれがないものであり、(2) 外観においても非類似であり、(3) ともに特定の意味合いを生じさせないから観念上比較すべくもなく、(4) 引用商標が「キシリトール」配合の「歯磨き」を表示するものとして周知のものであっても、本件商標とは別異のものであり、本件商標をその指定商品について使用しても、引用商標を直ちに想起させるものではなく、商品出所の混同を生ずるおそれがあるということはできないから、両商標は非類似であって、本件商標が商標法4条1項11号の規定に違反して登録されたものということはできないとした。
原告主張の審決取消事由
審決は、本件商標が引用商標と非類似であると誤認し、さらに、本件商標をその指定商品について使用しても、商品出所の混同を生ずるおそれがない旨誤った判断をした結果、本件商標の商標法4条1項11号該当性の判断を誤った(取消事由)ものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 称呼上の類否 (1) 審決は、本件商標と引用商標との類否判断をするに当たって、本件商標より「キシリデンタル」の称呼が、引用商標より「キシリデント」の称呼が生ずる旨認定した上、「本件商標から生ずる『キシリデンタル』と引用商標から生ずる『キシリデント』の称呼を比較するに、両称呼は、その末尾部分において『タル』の音と『ト』の音に明瞭な差異を有するから、それぞれを全体として一連に称呼するとしても、相紛らわしくなく、互いに聴き誤るおそれがないもの」(審決謄本5頁22行目〜26行目)と判断した。
(2) しかしながら、本件商標及び引用商標における末尾の「タル」及び「ト」だけをとらえれば、それぞれの発音は異なり、両商標を聴き誤るおそれはないかもしれないが、両商標は、いずれも、末尾が目立つ態様ではなく、一連に称呼することを妨げるほど冗長でもないため、それぞれ、「キシリデンタル」及び「キシリデント」と称呼されるものである。両商標は、それぞれ、7音及び6音により構成され、語頭の5音が完全に一致しているから、語尾の差異のみで形式的に非類似との判断をすることはできない。
審決にいう「タル」及び「ト」の差異も、商標全体に与える影響は小さく、その差異を唯一の根拠として両商標が称呼非類似であるとするほどの大きな相違点ではない。この差異部分は、強く発音されるものではなく、商標の大部分を占める「キシリデン」に続くわずかな語尾の部分で、語源を同じくする派生語がとるような小さな変化である。例えば、英語の「オリエンタル」及び「オリエント」は、語源を同じくするところ、それぞれ別個の言葉として親しまれているため、類似しているとはいえないが、本件商標及び引用商標は、いずれも新しい造語であるため、それぞれが別個の言葉として親しまれているということはなく、一方の商標を初めて聴いた者は、商標の大部分を占める「キシリデン」の印象が強いため、他方と聴き誤るおそれが大きい。
また、上記差異部分がよくある語尾変化と解され、両商標を関連付けて認識されてしまう可能性も大きい。これまで「キシリデン・・・」のような言葉はなく、引用商標を初めて見た者は、これを商品の識別標識として強く記憶することとなり、後に本件商標を見ても、よくある語尾変化と解し、引用商標と関連付け、商品出所について混同を生じてしまう可能性が高くなる。
したがって、上記「タル」及び「ト」の差異は、造語商標である両商標にあっては、称呼非類似の根拠となるほど大きなものではなく、この差異をもって形式的に、両商標全体を一連に称呼して相紛らわしくないとか、聴き誤るおそれがないということはできない。
2 観念上の類否 (1) 審決は、「本件商標と引用商標とは、・・・ともに特定の意味合いを生じさせないものと認められるから、観念上比較すべくもない。」(審決謄本5頁27行目〜29行目)と判断した。
(2) 確かに、本件商標及び引用商標は、新たな造語であり、厳密には特定の意味合いを生ずるものではない。しかしながら、両商標は、虫歯を予防する効果を有する天然甘味料である「キシリトール」と、歯を認識させる英語の「dental」(デンタル)に通じる言葉とが組み合わさったものであり、「キシリトール」及び「歯」をイメージさせるものである。
両商標に共通する前半部分の「キシリ」は「キシリトール」から採用されたものであるが、「キシリトール」の略語として認識されていないので、造語と認識される。後半部分の「デンタル」及び「デント」は、「dental」及びこれから採用された語であり、また、「デント」は、歯磨きについての原告の周知商標とも一致している。「キシリトール」の略語として認識されていない「キシリ」と「dental」に通じるにすぎない「デンタル」又は「デント」とを結合させて商標を案出することは、決して容易ではない。「キシリ」を商標中に用いるとしても、
商標の後半部分等に用いることも可能であり、また、結合させる語も無数にある。
したがって、両商標は、二つの共通する語から創案された、一連一体のイメージを持つ造語商標として認識され、この点においてイメージが共通するため、厳密には特定の意味合いを有していなくとも、語尾がわずかな差異しか有しないことも相まって、全体として類似との印象をぬぐえないものとなっている。
本件商標及び引用商標は、その大部分を占める「キシリデン」の部分が共通し、上記の差異は、両商標が同じシリーズの商標として認識されてしまう程度のものでしかなく、イメージとして両商標が関連付けられて認識される可能性は高い。例えば、キャノンの「キャノ・・・」、松下の「パナ・・・」など、商標の前半部分を同じ核として、その後半部分に種々の言葉をつなげる方法がネーミングの手法としてよく用いられるが、これらは、同じ企業の製造販売に係る一連のシリーズ商品等であることを表す手法であり、同じ商品出所を表示するものである。その際、核となる前半部分は、会社名等には限られない。本件商標及び引用商標は、いずれも、珍しく目新しい言葉である「キシリデン」が商標の大半部分を占めるため、これに「ト」及び「タル」のようなわずか1、2文字をつなげても、取引者、
需要者は、同じシリーズ商品及び商品出所を表すかのようなイメージを受ける。
被告は、商標の前半部分を同じ核として、その後に種々の言葉をつなげるネーミング手法において、核として使用する語は、核となるシンボル性、顧客吸引力のある既存ブランドであることが前提となる旨主張するが、「キシリデント」は、本件商標の登録時において既に周知性を獲得していたから、被告のいう顧客吸引力のある既存ブランドとなっていた。
3 引用商標の周知性 (1) 審決は、「引用商標が『キシリトール』配合の『歯磨き』を表示するものとして取引者・需要者の間に広く認識されていることが認められるとしても、引用商標と本件商標とは、別異のものであるから、本件商標をその指定商品について使用しても、引用商標を直ちに想起させるものとは認められないものであり、請求人又は請求人と何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかの如く、その商品について出所の混同を生ずるおそれがあるものということはできない』(審決謄本5頁37行目〜6頁4行目)と判断した。
(2) しかしながら、引用商標は、本件商標の登録査定時(平成10年10月2日)には、既に歯磨きについて原告の商品を表示するものとして取引者、需要者間に周知であったのであり、引用商標の周知性を軽視した審決の上記判断は誤りである。
すなわち、キシリトールは、糖質の天然素材甘味料であり、虫歯を予防する効果のあることが知られており、平成9年4月、我が国において甘味料として正式に許可され、同年10月、原告が歯磨き業界初のキシリトール入り歯磨きの新製品「キシリデント」の販売を開始したところ、発売当初からの積極的な宣伝広告活動により、発売後わずかの期間で取引者、需要者間に広く知られるに至った。原告は、「キシリデント」について、平成9年7月から12月までの間に6億3100万円、平成10年に8億0300万円、平成11年に5億4700万円の広告宣伝費を支出している。こうした集中的な広告宣伝活動の結果、「キシリデント」の売上は飛躍的に上昇し、平成9年下期から平成11年1月までの間に合計593万9000個が販売されている。また、需要者の認知度という観点では、「キシリデント」のブランド名は、平成10年12月の調査で77.6%、平成11年6月の調査で78.0%、平成13年6月の調査で70.5%という高い認知度を示しているなど、引用商標が、遅くとも本件商標の査定時には、その周知性を獲得したことを裏付ける種々の事情がある。
商標の類否は、対比される両商標がその商品出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるかどうかによって決定されるべきであり、そのためには、当該商品の取引の実情を考慮すべきである。本件においては、商標の類似性に加え、引用商標が「歯磨き」につき周知であったという取引の実情が存在していたのであり、このような取引の実情を考慮すれば、本件商標は、引用商標に類似する商標というべきである。
被告の反論
審決の認定、判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
1 称呼上の類否について 本件商標から「キシリデンタル」の称呼が、引用商標から「キシリデント」の称呼が生ずるところ、両称呼は、その語尾部分において「タル」の音と「ト」の音に差異を有し、この差異音は、語尾に位置するけれども、それぞれ母音を異にするだけでなく、すべてが強音であり明りょうに発音されるものであること、差異音の前が聞き取りにくく弱い撥音「ン」であることから、その差異は明確に聴別し得るものであり、両商標を互いに聴き誤ることはない。
2 観念上の類否について 本件商標及び引用商標は、ともに新たな造語であり、特定の意味合いを生じさせないものであるから、観念上比較すべくもないとした審決の認定に誤りはない。原告は、両商標の前半部分が共通することを理由として、同一企業の製造販売に係る一連のシリーズ商品等であるイメージを与えると主張するが、失当である。
確かに、商標の前半部分を同じ核として、その後に種々の言葉をつなげるネーミング手法は存在するが、核となるシンボル性、顧客吸引力のある既存ブランドが存在し、その名声、イメージ等を活用するというマーケティング、営業戦略と一体になった手法である。単に商標の一部を共通にするからといって、シリーズ商品等であるとのイメージが持たれるものではない。
一般に、商標に関しては、社会情勢等を反映し、短期間に同じような発想に基づいた商標が案出、出願されることは頻繁にある。平成9年4月にキシリトールが正式に認可されて以降、キシリトール及び歯をイメージさせる名称は、原告以外の者にとっても容易に想到することができる。このような経緯を考慮せずに、両商標のイメージが共通し相紛れるおそれがあるとする原告の主張は、登録商標の有する禁止権の範囲を不当に広げ、当業者の商標選択の余地を不当に狭めるものである。
3 引用商標の周知性について 商標法4条1項10号、15号及び19号と異なり、同項11号に係る商標の類否判断においては、商標の周知性は参酌されるべきではない。また、仮に、引用商標が周知であるならば、「キシリデント」全体で一つのブランドが確立されていることとなり、「キシリデン」が核となることはないから、「キシリデント」を含まない本件商標が引用商標と混同を生ずるおそれはなく、「キシリデン・・・」が一連のシリーズ商品等として認識されることもない。
当裁判所の判断
1 取消事由(商標法4条1項11号該当性の判断の誤り)について (1) 称呼上の類否について 本件商標から「キシリデンタル」の称呼が、引用商標から「キシリデント」の称呼が生ずることは当事者間に争いがない。そうすると、両商標の称呼は、
「キシリデン」の部分を共通とし、「タル」及び「ト」の部分において異なるところ、両商標の音節数は、本件商標が7音、引用商標が6音であり、共通する「キシリデン」の部分の音節数が5音であるから、両商標は、7音及び6音中の5音を共通にし、両商標に共通する上記部分は、両商標中、いずれも語頭部分である。また、両商標は、いずれも、「デ」に最も強く発音される第1アクセントがあり、
「キ」に2番目に強く発音される第2アクセントがあって、いずれのアクセントも両商標の上記共通部分に存在する。これに対し、両商標の上記差異部分は、「タル」及び「ト」の部分であるが、これらは、いずれも「t」音で始まり、「タ」及び「ト」の音は比較的類似する音であって、本件商標の末尾の「ル」は、弱く発音される。
このように、両商標は、7音及び6音中の5音を共通とし、共通部分は、
両商標において、語頭部分であり、かつ、アクセントの存する部分であって、差異部分は、上記程度の小さいものでその印象は薄く、商標全体に与える影響は小さいところから、本件商標の称呼は、全体として、引用商標の称呼と相紛らわしく、互いに聴き誤るおそれがあり、両商標は、称呼において類似するというべきである。
被告は、両称呼の差異部分が母音を異にするだけでなく、すべてが強音であり明りょうに発音されるものであること、差異音の前が聴き取りにくく弱い撥音「ン」であることから、その差異は明確に聴別し得ると主張する。
しかしながら、上記差異部分は、7音及び6音中の2音及び1音というわずかな部分であり、母音を異にするけれども子音を共通とし類似する音で始まり、
語尾部分でありアクセントも存在しないことに照らすと、その差異を明確に聴別することは困難であり、両商標が称呼において類似するとの認定が左右されるものではない。
(2) 観念上の類否について 原告は、両商標が、虫歯の予防効果を有する天然甘味料である「キシリトール」と、歯を認識させる英語の「dental」に通じる言葉とが組み合わさったものであり、「キシリトール」及び「歯」をイメージさせるものであると主張する。
しかしながら、両商標の「キシリ」の部分は、「キシリトール」から採用されたという経緯があっても、一般に、取引者、需要者により「キシリトール」の略語として認識されていることを認めるに足りる証拠はないから、「キシリトール」の観念を生ずるものではない。そして、後半部分の「デンタル」及び「デント」が「dental」及びこれから採用された語であっても、「キシリ」の部分が特定の観念を生じない以上、本件商標及び引用商標は、いずれも、全体として特定の観念を生じない造語として認識されるものというほかはない。
また、原告は、「デント」が歯磨きについての原告の周知商標と一致するとか、「キシリ」を「デンタル」又は「デント」と結合させて商標を案出することが容易でないと主張する。しかしながら、仮に、「デント」の部分が原告の周知商標と一致するとしても、「キシリ」の部分が特定の観念を生じない引用商標は、全体として造語であり特定の観念を生じないことを否定することはできない。また、
「キシリ」を「デンタル」又は「デント」と結合させて商標を案出することが容易かどうかは、両商標から生ずる観念及びその類否とは関係がない。
さらに、原告は、本件商標及び引用商標の大部分を占める「キシリデン」の部分が共通し、両商標の差異は、両商標が同じシリーズ等の商標として認識されてしまう程度のものでしかなく、イメージとして両商標が関連付けられて認識される可能性が高いと主張する。
しかしながら、「キシリ」が「キシリトール」の略語として認識されておらず特定の観念を生じないことは上記のとおりであり、「デン」は「デンタル」の単なる一部であり特定の観念を生じないから、これらを連続したにすぎない「キシリデン」が特定の観念を生じないことは明らかである。原告は、キャノンの「キャノ・・・」、松下の「パナ・・・」などの例を主張するが、このような方法がネーミングの手法としてよく用いられるとしても、そのことから直ちに、「キャノ」、
「パナ」等が特定の観念を生ずるとか、同じ企業の製造販売に係る一連のシリーズ商品等を表すということはできず、このことは、「キシリデン」を共通にする本件商標及び引用商標についても異なるところはない。
したがって、本件商標及び引用商標は、いずれも特定の観念を生じないから、観念において類似するとはいえないが、その差異は、取引者、需要者に両商標の差異を特段印象付けるほどのものではない。
(3) 外観上の類否について 外観について見ると、本件商標は「キシリデンタル」を通常の書体で横書きしたもの、引用商標は「XYLIDENT」及びこれを片仮名表記した「キシリデント」をいずれも通常の書体で上下2段に横書きしたものであり、両商標とも、
図形部分や装飾の施された文字部分を有しない。そうすると、両商標は、外観において類似するとはいえないが、その差異は、取引者、需要者に両商標の差異を特段印象付けるほどのものではない。
(4) 引用商標の周知性について 証拠によれば、以下の事実を認定することができる。
キシリトールは、糖質の天然素材甘味剤であり、虫歯を予防する効果のあることが知られており、原告は、平成9年10月、歯磨き業界初のキシリトール入り歯磨きの新製品「キシリデント」の販売を開始した(甲第6〜第10号証)。原告は、「キシリデント」について、平成9年7月から12月までの間に6億3120万円(甲第16号証)、平成10年中に8億0330万円(甲第37号証)、平成11年中に5億4730万円(甲第38号証)の広告宣伝費を支出している。その中で、「キシリデント」の販売数は、平成9年下期に82万2000個、平成10年上期に256万1000個、同下期に220万9000個に及んでいる(甲第18号証)。また、需要者の認知度という観点では、「キシリデント」のブランド名は、平成10年12月の調査で77.6%(甲第19号証)、平成11年6月の調査で78.0%(甲第39号証)の助成想起知名率(ブランド名を提示した上で、その名前が知られている割合)を有していた。
したがって、これらの事実を総合するならば、引用商標の付された歯磨きである「キシリデント」について、平成9年10月の発売前後半年間に6億円を超える莫大な広告宣伝費が支出されるなどの積極的な広告宣伝がされ、このこと等により、発売から約3箇月間に82万個以上、翌平成10年中に500万個近い販売がされたのであって、引用商標は、発売後短期間のうちに、急速に取引者、需要者の間で広く知られるに至ったものであり、本件商標の登録査定時である平成10年10月2日当時、既に、本件商標の指定商品に含まれる「歯磨き」について、原告の商品を表示するものとして取引者、需要者間に周知であったことが認められる。
(5) 以上によれば、本件商標及び引用商標は、称呼において類似するものであり、外観及び観念は、類似するとはいえないが、その差異は、取引者、需要者に両商標の差異を特段印象付けるほどのものではないから、称呼類似性をしのぐものではなく、両商標の類似を妨げるような取引の実情もうかがわれないから、これらの事情を総合して全体的に観察すれば、両商標は互いに類似する商標であるといわざるを得ない。
また、引用商標は、本件商標の登録査定時において、既に、本件指定商品中「歯磨き」につき、原告の商品を表示するものとして、その取引者、需要者間に周知であり、このことは、「歯磨き」について、商品出所の混同のおそれを増幅させるという事情である上、他の指定商品についても、商品出所の混同のおそれを増幅させる可能性のある事情ということができるから、このような取引の実情を参酌するならば、両商標に係る商品出所の混同のおそれは、一層増幅させられるものである。
(6) 被告は、商標法4条1項11号に係る商標の類否判断においては、商標の周知性を参酌すべきでないと主張するが、商標の類否の判断において当該指定商品取引の実情を参酌すべきことは当然であって、引用商標の周知性も、このような取引の一事情に当たるから、これを参酌すべきものというべきである。
2 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由があるから、審決は取消しを免れない。
よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 石原直樹
裁判官 長沢幸男