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関連審決 審判1998-35669
関連ワード 独占的使用 /  指定商品 /  普通名称(3条1項1号) /  記述的商標(3条1項3号) /  普通に用いられる方法 /  品質誤認(4条1項16号) /  称呼(称呼類似) /  国内 /  無効審判 /  外国 /  継続 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 249号 審決取消請求事件
原告 株式会社エスエーシー
訴訟代理人弁護士 米川耕一
同 永島賢也
同 鈴木謙吾
同 櫻井滋規
同 保坂光彦
同 弁理士 田中二郎
訴訟復代理人弁護士 大泉健志
被告 インドネシアンインポーツインク
訴訟代理人弁護士 伊藤亮介
同 中西健太郎
同 辰野亜矢子
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/01/30
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が平成10年審判第35669号事件について平成13年4月20日にした審決のうち、登録第2701718号の指定商品中「かばん類、袋物」についての登録を無効とするとの部分を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文第1、2項と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、「SAC」の文字を横書きしてなり、指定商品を商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前のもの)別表による第21類「装身具、かばん類、袋物、その他本類に属する商品」とし、現に有効に存続している商標(登録第2701718号、昭和57年12月23日登録出願、平成6年12月22日設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者である。被告は、平成10年12月25日、本件商標登録の無効審判の請求をし、特許庁は、同請求を平成10年審判第35669号事件として審理した結果、平成13年4月20日、「登録第2701718号の指定商品中『かばん類,袋物』についての登録を無効とする。」との審決をし、その謄本は、同年5月9日、原告に送達された。
2 審決の理由 審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、本件商標は、本件商標の登録審決時(平成6年7月22日)前において、バッグを取り扱う業界においては、袋類の総称を指すものとして広く認識され、使用されているものというべきであり、そうすると、本件商標を、その指定商品中「かばん類及び袋物」に使用しても、これに接する取引者、需要者は、商品の品質を表示したものと理解するから、本件商標は、上記指定商品について、商標法3条1項3号に掲げる商標に該当し、同法46条に反して登録されたものであるから、無効とすべきものとした。
原告主張の審決取消事由
1 審決は、本件商標が、本件商標の登録審決時前において、バッグを取り扱う業界においては、袋類の総称を指すものとして広く認識され、使用されているものというべきであり、本件商標を、その指定商品中「かばん類及び袋物」に使用しても、これに接する取引者、需要者は、商品の品質を表示したものと理解するとの誤った認定(取消事由)に基づいて、本件商標が商標法3条1項3号の規定に違反して登録されたとの誤った判断に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
2 取消事由(品質表示であるとの認定の誤り) (1) 記述的商標(商標法3条1項3号) ア 審決は、「服装 1983 AUTUMN」(甲第15号証)の「ご存じですか? 服飾用語」の「サック(sac)(仏)」の項に「〈袋〉〈バッグ〉の総称で・・・即ち、
英語のハンドバッグを指す。」と記載されている事実などを認定した上、「本件商標の登録審決時(平成6年7月22日)前において、『sac』の語は、バッグを取り扱う業界においては、『ふくろ類の総称』を指すものとして広く認識され、使用されているものというべきである」(審決謄本9頁4行目〜7行目)と認定しているが、誤りである。審決の上記認定は、要するに、辞書や用語辞典の類に、「sac」がかばん類の総称であるとの記載がされているということであるが、言葉の意味を調べるための辞典類において、フランス語でかばん類の総称を意味すると記載されていることから直ちに、我が国の国内においてもこの語が記述的商標に当たるということはできない。
イ 「SPUR」(甲第26号証)、「マリ・クレール」(甲第27号証)等の雑誌には、「sac」の他に「かばん」、「バッグ」等の表示が付記されているが、このことは、広告の作成者においても、日本人読者が「sac」という語だけでは当然に「かばん」及び「バッグ」という意味を導くことが困難であると認識していたことを示しており、この点で、「バッグ」の語との隔たりは非常に大きい。
ウ 特許庁が「sac」の語が記述的商標に当たらないとの判断を一貫して有していることは、「sac」を含む商標が数多く登録されている(甲第30〜第35[枝番を含む]、第53号証)ことから明らかである。出願商標中に普通名称記述的商標が存在する場合には、指定商品を当該商品に限定しない限り、品質誤認商標として商標法4条1項16号に掲げる商標に当たり登録を受けることができない。審決認定のように、「sac」が我が国においてかばん類の総称を意味するものとして広く認識されているのであれば、これを含む商標は、指定商品をかばん類に限定しない限り、すべて拒絶されなければならないはずである。
エ 本件商標は、本件審決の理由と同様の理由により拒絶査定を受けながら、これに対する不服の審判における慎重な審理を経た結果登録されたものであり、本件訴訟における議論は、本件商標の登録までの手続において既に尽くされている。原告は、本件商標が登録されるべきであるとの特許庁の判断を受け、更に設備投資、販売拡張をした結果、本件商標の使用された商品は、登録当時と比べ販売額が倍増し、年商26億円程度のブランドに成長し、若い女性を始めとする多くの需要者に親しまれるに至っている。
(2) 普通名称(商標法3条1項1号) 審決は、本件商標登録の無効事由として、本件商標が商標法3条1項3号に掲げる品質表示に該当するとのみ判断しており、同項1号について判断していないから、本件訴訟の審理範囲も同項3号該当性の有無に限定され、同項1号に関する事項は、本件訴訟の審理の対象とはならない。このことは、最高裁昭和51年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁の趣旨から明らかである。
被告の反論
1 審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は理由がない。
2 取消事由(品質表示であるとの認定の誤り)について (1) 記述的商標(商標法3条1項3号) ア 本件商標は、フランス語で袋を意味することから、我が国においても、
一般に袋類の総称として理解されている(甲第3〜第10号証[枝番を含む]、第42、第43号証)。原告は、審決認定の根拠となった各文献が辞書や用語辞典であることを主張するが、これら文献は、「sac」の語が袋類の総称を意味するものとして普通に使用されていると認めるのに十分である。「服飾辞典」(甲第18号証)は、昭和36年に発行され、「田中千代 服飾辞典」(甲第17号証の1〜4)は、昭和44年の発行以来、継続して「sac」の語がフランス語で袋、バッグを意味すると記載し続けている。これらの辞典は、いずれもファッション業界において広く使用されてきたものであり、ファッション業界、かばん業界における認識を判断する際の重要な証拠となる。「服装 1983 AUTUMN」(甲第15号証)、「新ファッションビジネス基礎用語辞典」(甲第20号証)も同様である。また、「世界の一流ブランド エルメス大図鑑」(甲第24号証)においては、ハンドバッグの意味で「SAC」が使用され、紳士バッグにつき「SAC HOMME」、旅行かばんについて「SAC DE VOYAGE」がそれぞれ使用されている。また、「マリ・クレール」等の一般需要者である女性向けファッション雑誌において、かばん、バッグを紹介する記事又は一般需要者向けの雑誌及びカタログ等においても「SAC」が頻繁に使用されており(甲第23、第24、第27、第28、第36、第37、第41〜第43号証)、ファッション業界の関係者も、陳述書(乙第7号証)及び報告書(乙第8〜第10号証)において、このような状況を述べている。ファッション関連企業は、
外国企業、日本企業を問わず、かばん類を販売するに際し、「SAC」ないし「SACS」を使用している(乙第24〜第28[枝番を含む])。
イ 本件商標は、指定商品の品質を示すものとして、商標法3条1項3号に掲げる記述的商標に該当する。記述的商標が登録を受けることができないのは、これが取引に際し必要適切な表示としてなんぴともその使用を欲するものであるから、特定人による独占的使用を認めるのを公益上適当としないなどの理由によるものである。最高裁昭和54年4月10日第三小法廷判決・判例時報927号233頁等の判決は、この趣旨を判示しており、「ウロバッグ」の商標が指定商品である医療機械器具の分野において「尿に関する袋状の商品」を意味するものとして記述的商標に当たると判断した東京高裁平成6年10月20日判決もある。
ウ 「サック」は、袋、袋状の入れ物という、形状ないし品質を一般に記述する用語として我が国において用いられてきた。「コンドーム」、「シース」などの語も、「サック」という語を用いて説明がされているのは(乙第29〜第35号証)、「サック」が袋ないし袋状という形状ないし品質を意味する一般的な語であることの証左である。
エ 本件商標は、袋類の総称であり、かばん、ハンドバッグ等を意味するものとして普通に使用されている、フランス語の生活用語である。日本語においても、日本国語大辞典(甲第4号証)は、「サック」が袋、入れ物を意味する日本語であるとし、大言海(甲第5号証の1、2)は、昭和49年から「サック」を西洋製の袋を意味する日本語として一貫して記載しており、広辞苑(甲第6号証の1〜3)は、昭和44年から「サック」が袋を意味する日本語として一貫して記載している。これらの国語辞典は、いずれも我が国の国内において広く使用されている定評ある辞典であり、いずれも、本件商標の登録審決前に発行されたものである。加えて、外来語として日本語化された用語を説明する外来語辞典(甲第8、第9号証、第10号証の1、2)も、昭和42年以降「サック」を袋、袋状の入れ物を意味する外来語として記載している。以上のとおり、本件商標の称呼「サック」がかばん類、袋の総称を意味することは明らかである。
オ 本件商標の公益性に照らしても、本件商標の登録は無効とされるべきである。出願された商標が、商品の特性を表示するような語である場合には、その商標は、なんぴともその使用を欲するものであり、かつ、使用の必要性が高いため、
特定人の独占が許されるべきではない。本件商標は、フランス語でかばんを意味する基本的な普通名称であり、指定商品であるかばん又は袋物の品質を表す語であり、一私人による使用の独占は認められるべきではない。また、在日フランス大使館経済商務担当参事官(甲第49号証)及び在日フランス商工会議所専務理事(乙第11号証)が述べるように、我が国において、一企業が本件商標の登録を受けることによりその使用が独占されることは、ハンドバッグ等の取引を行うフランス企業が、広告宣伝等の業務において「SAC」の表示を使用することができないなど、その事業活動に厳格な制約が課されることとなり、日仏関係及び我が国市場の国際化に照らし是認し得ないものである。
カ 原告は、「sac」を含む商標が指定商品をかばん類に限定しないまま多く登録を受けていることを主張するが(甲第30〜第35号証)、このことは、特許庁が「sac」を記述的商標と認めていないことの根拠とはならない。原告の主張する上記事例における指定商品は、「かばん類,袋物」と類似しない「装身具」等であることから、品質誤認表示として商標法4条1項16号に該当するものではないからである。
キ 本件商標は、昭和59年2月17日、フランス語の普通名称であることを理由に拒絶理由が通知され(甲第44号証)、原告が意見書を提出したにもかかわらず(甲第46号証)、同年6月15日、拒絶査定がされ(甲第45号証)、これに対する不服の審判により登録を認める審決がされてようやく登録がされた(甲第47、第48号証)という経緯がある。
(2) 普通名称(商標法3条1項1号) 審決においては、商標法3条1項1号の条文は摘示されていないものの、
「4 当審の判断」において、「請求人(注、被告)は、本件商標が普通名称に該当する事実を証する証拠を何ら提出していないものであり」(審決謄本9頁12行目〜13行目)との説示があることから、一見、本件商標の普通名称該当性について判断しているとも思われる。被告は、この点にかんがみ、念のため、本件商標が商品の普通名称に該当することを主張するが、裁判所がこの点を本件訴訟の審理範囲外であると判断する場合には、事情として参酌されたい。
上記のとおり、「サック」が袋物、袋状の入れ物を意味する日本語であることは明らかであるが、「サック」は、商標法3条1項1号に掲げる普通名称の要件も充足している。我が国において、フランス製バッグ類の人気は高く、かばん業界の取引関係者らは、一般的にフランスのかばん類を輸入し、一般消費者を含めフランス製のかばん類を購入又は輸入している。我が国のかばん業界において、欧米からの輸入品のシェアは、昭和62年の24.1%から上昇して平成2年には39.7%となり、その中でも、フランス製のかばん類は、群を抜いて多く流通している(甲第11号証の1、2、第12号証の1〜28)。また、かばん類製造における世界の中心地はフランスであり、我が国のかばん類の取引者、需要者は、フランスに対する強い指向性を有し、フランスにおけるファッション業界の情報を逐一取り入れてきたのであって、フランス語の「SAC」がかばん類、袋類を意味する普通名称であることを認識し、これを使用して取引をしてきた。フランス語の「SAC」が我が国においてどのように認識されているかを判断するに当たっては、ファッション業界におけるフランス語の役割を考慮することが必要である。ファッション業界においては、相当程度フランス語が普及しており、取引者、需要者の語学知識としてフランス語も考慮すべきである。
当裁判所の判断
1 取消事由(品質表示であるとの認定の誤り)について (1) 証拠によれば、以下の事実が認められる。
ア 鈴木信太郎他著「スタンダード佛和辭典」第7版(1959年3月25日株式会社大修館書店発行、甲第3号証の1)、同増補改訂版第2版(1976年3月1日同社発行、同号証の2)及び同増補改訂版第9版(1984年4月1日同社発行、同号証の3)には、フランス語の「sac」が名詞であり、その意味が「袋」等であることが記載され、同「新スタンダード仏和辞典」(1987年5月1日同社発行、同号証の4)及び同第3版(1989年4月1日同社発行、同号証の5)には、上記の記載に加え、その意味として「バッグ」及び「かばん」が加えられている。
イ 日本大辞典刊行会編「日本國語大辞典第九巻」(昭和49年5月1日株式会社小学館発行、甲第4号証)には、「サック」の語が英語の「sack」に由来する名詞であり、その意味が「袋」等であることが記載され、大槻文彦著「新訂大言海」(昭和31年3月1日合資会社冨山房発行、甲第5号証の1)及び同「新編大言海」(昭和57年2月28日同社発行、同号証の2)には、「サック」の語が英語の「sack」に由来する名詞であり、その意味が「西洋製ノ袋」等であると記載されている。新村出編「広辞苑」第二版(昭和44年5月16日株式会社岩波書店発行、甲第6号証の1)、同第三版(昭和58年12月6日同社発行、同号証の2)及び同第四版(1994年9月20日同社発行、同号証の3)には、「サック」が外国語である「sack」に由来する語であり、その意味が「袋」等であると記載されている。吉沢典男他著「外来語の語源」(昭和54年6月30日株式会社角川書店発行、甲第8号証)及び同「図解外来語辞典」(昭和54年10月30日同社発行、甲第9号証)には、「サック」が外国語である「sack」に由来する語であり、
その意味が「袋物の総称」であると記載されている。荒川惣兵衛著「角川外来語辞典」(昭和42年9月30日株式会社角川書店発行、甲第10号証の1)及び同「角川第二版外来語辞典」(1977年1月30日株式会社角川書店発行、同号証の2)には、「サック」がフランス語の「sac」、英語の「sack」等に由来し、その意味が「袋」、「袋状の入れ物」等であると記載されている。
ウ 「服装 1983 AUTUMN」(昭和58年9月15日学校法人田中千代学園発行、甲第15号証)には、「サック (sac)(仏) 〈袋〉〈バッグ〉の総称で・・・英語のハンドバッグを指す」(24頁)と記載され、「服装 1988 SUMMER」(昭和63年6月15日同学園発行、甲第16号証)には、「サック(sac) ・・・身の廻りの必要なものを入れる〈バッグ〉〈袋〉を総称している。・・・英語では、バッグである〉(46頁)と記載されている。
オ 田中千代著「田中千代服飾事典」(1969年9月20日同文書院発行、甲第17号証の1)には、「サック」の語がフランス語の「sac」に由来し、その意味が「ふくろ類の総称」であると記載され、同「田中千代服飾事典(特製版)」(1973年6月15日同社発行、同号証の2)及び同「新・田中千代服飾事典」(1991年10月22日同社発行、同号証の4)にも、同一の記載がある。田中千代編「服飾事典」12版(1961年12月1日株式会社婦人画報社発行、甲第18号証)には、「サック」の語がフランス語の「sac」に由来し、の意味が「袋」及び「ハンドバッグ」であると記載されている。
カ 「かばん・ハンドバッグの商品知識」改訂版(昭和51年9月10日有限会社ぜんしん発行、甲第21号証)には、「サック」の語がフランス語の「sac」に由来し、その意味が「ハンドバッグ」であると記載されている。深井晃子他「フランス・モード基本用語」(1996年4月1日株式会社大修館書店発行、乙第6号証)には、「sac[サック]・・・バッグ,袋」と記載され、「sac」がフランス語の名詞であることも記載されている。「BAG WARE」36巻12号(株式会社商報社昭和61年12月5日発行、甲第22号証)には、「バッグウェア/ファッション業界関連用語解説B サック〔sack〕・おおい、さやなどで、種類によっては斯業界で作られるものもある。その形状(袋=サック)から、サックシルエット・・・などに転用されることもある〕」(44頁)と記載されている。
キ 「エルメス大図鑑」(昭和54年株式会社講談社発行、甲第24号証)には、エルメス社製のハンドバッグ及びショルダーバッグの写真を掲載した頁において、「ハンドバッグ」及び「ハンドバッグ/ショルダーバッグ」との記載と近接して「SAC」の記載がされている。
(2) 以上によれば、我が国では、標準的な仏和辞典において、「sac」の語は、長年、「袋」、「バッグ」、「かばん」等の意味を有するフランス語の普通名詞として記載されてきたこと、その発音を片仮名表記した「サック」の語は、標準的な外来語辞典において、長年、「袋」を意味する外来語であるとして記載されてきたこと、また、服飾関係の事典、雑誌類においては、長年、「サック」の語がフランス語の「sac」に由来する名詞であり、「袋」、「バッグ」、「かばん」等の総称であるとか、英語のハンドバッグと同義であると記載されてきた事実が認められる。
ところで、我が国において、英語は義務教育過程においてほとんどの学生が履修するのと異なり、フランス語は、一般には、通常人が発音し、又は意味を理解することのできる言語ということはできない。しかしながら、我が国においても、ファッション関連業界においては、需要者の多くがフランス製品の有する高級感等によりこれを嗜好し、フランス製品が多く流通することから、ファッションに関係するフランス語が頻繁に用いられることは公知の事実である。そうすると、我が国においても、ファッション関連業界において、ファッション関係の基本的フランス語は、発音され、かつ、その意味が理解されると認められる。
本件商標は、「sac」からなり、そのローマ字表記は単純なものである上、
上記のとおり、「サック」と発音される「sack」の英語がフランス語の「sac」と類似の意味を有することもあり、我が国において「サック」と発音されるのが通常と認められる。これに上記(1)(2)の事実を併せ考えると、「サック」は、指定商品中「かばん類,袋物」の属する業界の取引者、需要者がこれに接した場合、「袋」、
「バッグ」、「かばん」等の総称を意味する外来語であると理解すると認められ、
また、本件商標である「sac」は、上記取引者、需要者がこれに接した場合、「sac」のフランス語自体の意味により、又はその発音を片仮名表記した外来語の「サック」を想起することにより、「袋」、「バッグ」、「かばん」等の総称であると理解すると認めるのが相当である。
(3) そうすると、審決の「本件商標の登録審決時(平成6年7月22日)前において、『sac』の語は、バッグを取り扱う業界においては、『ふくろ類の総称』を指すものとして広く認識され、使用されているものというべきである」(審決謄本9頁4行目〜7行目)との認定それ自体には誤りはないが、審決は、上記認定に続け、「『SAC』の文字からなる本件商標を、その指定商品中『かばん類及び袋物』に使用しても、これに接する取引者、需要者は、商品の品質を表示したものと理解し」(同8行目〜10行目)と説示している。しかしながら、商標法3条1項1号に規定する「普通名称」は、商品についていえば、指定商品の属する特定の業界において当該商品の一般的名称であると認識されるに至っているもの、すなわち、指定商品を表す普通名詞を意味するのに対し、同項3号に規定するいわゆる記述的商標は、指定商品の産地、販売地、品質等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であり、指定商品の性状等を「記述」する標章であって、指定商品そのものの総称である普通名称とは異なるものである。
本件においては、「sac」及び「サック」は、上記のとおり、いずれも袋類の総称、すなわち、袋類を意味する普通名称として広く認識され、使用されているのであるから、これによれば、商標法3条1項1号には該当しても、本件商標が指定商品の性状を記述する用語として認識、使用されているということはできないから、同項3号該当性が認められるということはできない。これに反する審決の上記判断は誤りである。
さらに、審決は、「請求人(注、被告)は、本件商標が普通名称に該当する事実を証する証拠を何ら提出していない」(同12行目〜13行目)と説示する。しかしながら、本件商標が普通名称に該当することは上記のとおりであって、
その基礎となる事実の認定に供された上記(1)掲記の各証拠が審判手続において請求人(注、被告)から提出されていたことは、審決謄本及び審判請求理由補充書(乙第2、第3号証)の記載からも明らかであるから、審決におけるこの部分の認定判断も誤りであるといわざるを得ない。
なお、商標法3条1項3号に規定する商品の「品質」には、商品の品位、
等級、色彩等が含まれると解されるが、商品の形状については、一般に品質とは概念を異にする上、法文上も、同号において品質とは別個独立して規定されている以上、品質には含まれないと解される。審決は、本件商標が「ふくろ類の総称」を指すものというが、仮に、この趣旨を「袋状」をいうものと解するとしても、そうであれば、本件商標が同号の「形状」に該当することとなり、「品質」を表示するものということはできない。加えて、上記認定のとおり、本件商標の指定商品がファッション関連のものであり、「sac」というフランス語がファッション関係の基本的用語であって、フランス語が特に取引者、需要者に理解されるということができるのであるから、「sac」というフランス語が指定商品普通名称であることを離れ、
一般に「袋状」という形状を記述するものとして理解されるということはできない。証拠上も、「sac」及び「サック」の語は、すべて「袋」等の普通名詞として説明、使用されており、「袋状の」というような形容詞又は記述的な表現としては使用されていないのであって、本件商標を商品の形状を表示するものということはできない。なお、「BAG WARE」36巻12号(甲第22号証)には、英語の「sack」に由来する「サック」の語が「その形状(袋=サック)から、サックシルエット・・・などに転用されることもある」と記載されているが、合成語を造る際の手法という特殊なものであるから、この記載により直ちに、「sac」及び「サック」の語が「袋状」という形状を表示するものと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(4) 品質表示であるとの審決の判断に係る被告の主張について ア 被告は、本件商標が指定商品の品質を示すものとして商標法3条1項3号に掲げる記述的商標に該当すると主張する。そして、一般的に記述的商標が登録を受けることができない理由について被告が述べるところは特段異論のないところであるが、「サック」が、我が国において、「袋状」という形状ないし品質を一般に記述する用語として用いられてきたという主張については、上記のとおり、採用することができない。また、フランス語である「sac」の意味が一般に理解されていることは、これがファッション関係の基本的用語であるということを離れては考えられないのであるから、被告が主張する「コンドーム」、「シース」等の一般的でない用語に基づいて、「サック」が「袋状の」という形状ないし品質を意味する一般的な用語であると認めることはできない。
イ 被告は、本件商標の公益性に照らしても、本件商標の登録は無効とされるべきであると主張するが、本件商標が商標法3条1項1号又は3号に該当することを前提とするものであって、このような公益性に対する考慮は、商標法の上記規定等の該当性の判断においておのずと図られるものであるから、上記該当性の要件を離れ独立して取り上げる必要はない。
ウ 証拠(甲第44〜第48号証)によれば、被告主張のとおり、本件商標は、昭和59年2月17日、フランス語の普通名称であることを理由に拒絶理由が通知され、原告が意見書を提出したにもかかわらず、同年6月15日、拒絶査定がされ、これに対する不服の審判により登録を認める審決がされて登録がされた経緯のあることが認められる。しかしながら、本件審決は、本件商標が商標法3条1項3号に掲げる商標に当たるかどうかという、上記出願経過において判断されたのとは異なる争点について判断したものであって、その該当性の判断を誤りとすることは、本件商標の上記出願経過によって何ら妨げられるものではない。
(5) 普通名称であるとの被告の主張について ア 審決は、本件商標登録の無効事由として、本件商標が商標法3条1項3号に掲げる品質表示に該当するとのみ判断しており、同項1号について判断していないから、本件訴訟の審理範囲も同項3号該当性の有無に限定され、同項1号に関する事項は、本件訴訟の審理の対象とはならないというべきである(最高裁昭和51年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁参照)。
イ 被告は、審決においては商標法3条1項1号の条文は摘示されていないものの、「4 当審の判断」において「請求人(注、被告)は、本件商標が普通名称に該当する事実を証する証拠を何ら提出していないものであり」(審決謄本9頁12行目〜13行目)との説示があることから、一見、本件商標の普通名称該当性について判断しているとも思われると主張する。
しかしながら、審決は、「『SAC』の文字からなる本件商標を、その指定商品中『かばん類及び袋物』に使用しても、これに接する取引者、需要者は、商品の品質を表示したものと理解し、自他商品の識別標識としての機能を有するものとは認識し得ないものといわざるを得ない」(審決謄本9頁8行目〜11行目)と判断し、審決の結論部分において「本件商標は、商標法3条1項3号に違反して登録されたものであるから、同法第46条の規定により、その指定商品中『かばん類及び袋物』について、その登録を無効とすべきもの」(同21行目〜23行目)としており、商標法3条1項1号該当性について何ら判断していないことは明らかである。審決の「請求人は、本件商標が普通名称に該当する事実を証する証拠を何ら提出していないものであり」との上記説示部分は、その認定判断が誤りであることは上記(3)のとおりであるばかりでなく、これに続く「また、本件商標をその指定商品中『かばん類、袋物』以外の商品について使用しても、商品の品質について、誤認を生ぜしめる事情は有しないものと判断するのが相当である」との部分と一体の説示、すなわち、品質誤認表示として商標法4条1項16号に該当するかどうかの判断の一部である解するほかはない。
2 以上によれば、原告主張の審決取消事由は理由があるから、審決は取消しを免れない。
よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担並びに上告及び上告受理申立てのための付加期間の付与につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条96条2項を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 石原直樹
裁判官 長沢幸男