運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 審判1998-5369
関連ワード 独占的使用 /  識別力 /  指定商品 /  普通名称(3条1項1号) /  記述的商標(3条1項3号) /  普通に用いられる方法 /  補正 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 13年 (行ケ) 207号 審決取消請求事件
原告 有限会社コンフォート
訴訟代理人弁護士 佐藤雅巳
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 為谷博
同 米重洋和
同 宮川久成
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/12/26
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成10年審判第5369号事件について平成13年3月22日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、平成7年11月6日、「フラワーセラピー」の片仮名文字を横書きしてなる商標(以下「本願商標」という。)につき指定商品を商標法施行令別表による第31類「果実,野菜,種子類,木,草,芝,ドライフラワー,苗,苗木,花,牧草,盆栽,生花の花輪」として商標登録出願をし(商願平7-113903号)、平成9年12月17日付け手続補正書により、その指定商品を同類「フラワーセラピーに供する花」と補正したが、平成10年2月5日に拒絶査定を受けたので、同年4月8日、これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成10年審判第5369号事件として審理した上、平成13年3月22日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年4月9日、原告に送達された。
2 審決の理由 審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、本願商標は、その指定商品に使用するときは、単に商品の品質、用途を表示するにすぎないものといわざるを得ないから、本願商標が商標法3条1項3号に該当するとして、その出願を拒絶した原査定は妥当であって取り消すことができないとした。
原告主張の審決取消事由
1 審決は、本願商標につき、その指定商品に使用するときは、単に商品の品質、用途を表示するにすぎず、商標法3条1項3号に該当する旨誤って判断した(取消事由)ものであるから、違法として取り消されるべきである。
2 取消事由(商標法3条1項3号該当性判断の誤り) (1) 審決は、「本願商標は・・・『花を手段とする治療、療法』、具体的には『花の色、香り、形等で体や心の生理・心理的効果に好影響を与えるようにする治療、療法』の意味合いを容易に理解させるものということができる。してみれば、
本願商標は、これをその指定商品に使用しても、取引者・需要者は、『フラワーセラピーに使用する花』であることを表示したものとして把握するに止まり、自他商品を識別するための標識とは認識し得ない」(審決謄本2頁6行目〜16行目)として、本願商標は、その指定商品に使用するときは、単に商品の品質、用途を表示するにすぎない旨判断した。
(2) しかしながら、本願商標が指定商品の品質、用途を表示するにすぎないと判断するためには、本願商標の構成が指定商品につき当該品質、用途を表すものとして、すなわち、「フラワーセラピーに使用する花」を表すものとして実際に使用されている事実がなければならないが、そのような事実は存在しない。
仮に、本願商標が指定商品の品質、用途を表示するにすぎないと判断するために、本願商標が指定商品につき当該品質、用途を表すものとして実際に使用されていることは必要でないとしても、少なくとも、指定商品の取引者、需要者において、指定商品の取引の経験則上、本願商標が指定商品についての品質、用途を表すものと認識している事実がなければならないが、そのような事実は存在しない。
なお、審決は、1994年(平成6年)12月20日付け朝日新聞東京/神奈川版、1996年(平成8年)12月8日付け毎日新聞埼玉版、1999年(平成11年)3月4日付け毎日新聞奈良版及び2000年(平成12年)9月14日付け毎日新聞大阪夕刊の各新聞記事の記載に言及している(審決謄本2頁18行目〜32行目)が、これらの新聞記事の記載は、「フラワーセラピー」との名で呼ばれている療法に関するものであって、本願商標の指定商品そのものに関するものではない。また、これらの新聞記事のうち、平成11年3月4日付け毎日新聞奈良版及び平成12年9月14日付け毎日新聞大阪夕刊は、本件出願に対する拒絶査定後に発行された刊行物である。
さらに、本願商標の登録出願後である平成11年4月30日の出願に係り、指定商品を商標法施行令別表による第31類「花、木、草、ドライフラワー、
芝、苗、苗木、盆栽、種子類、生花の花輪、果実、野菜」として、「花療法」の漢字を書してなる商標(以下「別件商標」という。)につき、平成12年5月12日に設定登録がされている(甲第2号証)ところ、別件商標の構成に係る「花療法」の語の意義は、審決の認定に係る「フラワーセラピー」の語と同義であり、かつ、
「フラワーセラピー」よりも意味が明りょうである。したがって、別件商標が商標法3条1項3号に該当しないものとして設定登録された以上、本願商標が同号に該当しないことも明白である。
被告の反論
1 審決の認定及び判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は理由がない。
2 取消事由(商標法3条1項3号該当性判断の誤り)について (1) 本願商標が指定商品の品質、用途を表示するにすぎないと判断するために、指定商品の取引者、需要者において、指定商品の取引の経験則上、本願商標が指定商品についての品質、用途を表すものと認識している事実が必要であること、
審決が平成6年12月20日付け朝日新聞東京/神奈川版等の4件の新聞記事の記載に言及していること、これらの新聞記事のうち、平成11年3月4日付け毎日新聞奈良版及び平成12年9月14日付け毎日新聞大阪夕刊は、本件の拒絶査定後に発行された刊行物であること、別件商標につき原告主張の日に設定登録がされ、その構成に係る「花療法」の語の意義が「フラワーセラピー」の語と同義であることは認める。
(2) 原告は、本願商標が指定商品の品質、用途を表示するにすぎないと判断するためには、本願商標の構成が指定商品につき当該品質、用途を表すものとして実際に使用されている事実がなければならない旨主張するが、ある商標が、取引者、
需要者により指定商品の品質、用途等を表示したものとして認識される場合には、
当該商標は、商標法3条1項3号に該当すると解すべきであって、当該商標が商品の品質、用途等を表示するものとして現実に使用されていることは必ずしも必要ではない。
そして、本願商標を構成する「フラワーセラピー」の文字が「花を手段とする治療、療法」の意味合いを容易に理解させるものであることは、審決の認定判断(審決謄本2頁6行目〜13行目)のとおりであるところ、平成6年12月20日付け朝日新聞東京/神奈川版(乙第1号証)、平成8年12月8日付け毎日新聞埼玉版(乙第3号証)のほか、平成6年11月3日付け読売新聞東京朝刊(乙第2号証)、平成9年4月20日付け朝日新聞東京朝刊(乙第4号証)、平成10年12月ジャナークジャパン発行の商品リーフレット(乙第5号証の1)、同年5月20日株式会社ブティック社発行の「心と体を瘉す花療法フラワーセラピー」(乙第6号証)、平成13年1月1日株式会社集英社発行の「情報・知識imidas2001」1380頁(乙第7号証)の各記載によれば、「フラワーセラピー」の語が上記意味合いの普通名称としての性質を有するものと理解されており、かつ、フラワーセラピーに使用する花について、一般に、生花であって、乾燥に強いこと、枯れて散らない種類であること、軽く、取扱いが簡単なこと等の特質が必要とされることが認められる。
そうすると、本願商標は、これに接する取引者、需要者に、その指定商品である「フラワーセラピーに供する花」の品質、用途を示すものとして認識される表示態様の商標であるというべきである。
なお、原告は、審決が言及する平成6年12月20日付け朝日新聞東京/神奈川版等の4件の新聞記事の記載につき、「フラワーセラピー」との名で呼ばれている療法に関するものであって、本願商標の指定商品に関するものではない旨主張するが、例えば、上記朝日新聞東京/神奈川版(乙第1号証)には、フラワーセラピーに使用する花について一般に必要とされる特質が詳述されている等、本願商標の指定商品に関し言及しているものである。
また、本件出願に対する拒絶査定後であっても、審決前に発行された刊行物を審決において引用することに何らの問題もない。
さらに、別件商標について設定登録がされた事例は、本件と事案を異にするのみならず、およそ過去にされた登録例は、当該事案に係る具体的、個別的な判断が示されているのであって、これとは別個の具体的事案についての判断が過去の登録例の一部の判断に拘束されるいわれはないから、別件商標について設定登録がされたからといって、審決の判断が誤りであるということはできない。
当裁判所の判断
1 取消事由(商標法3条1項3号該当性判断の誤り)について (1) 原告は、本願商標が指定商品の品質、用途を表示するにすぎないと判断するためには、本願商標が指定商品につき当該品質、用途を表すものとして実際に使用されている事実がなければならないのに、そのような事実は存在しない旨主張する。
しかしながら、商標法3条1項3号が、指定商品の品質、用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標について、商標登録を受けることができない旨規定する趣旨は、そのような商標が商品の特性を表示記述する標章であって、取引に際し必要適切な表示としてなんぴともその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占的使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものであることによるものと解される(最高裁昭和54年4月10日第三小法廷判決・判例時報927号233頁参照)。そうすると、
同号は、指定商品の品質、用途を表すものとして取引者、需要者に認識される表示態様の商標につき、そのことのゆえに商標登録を受けることができないとしたものであって、同号を適用する時点において、当該表示態様が、商品の品質、用途を表すものとして現実に使用されていることは必ずしも必要でないものと解すべきである。
したがって、原告の上記主張は、その前提を欠くものであって、採用することができない。
(2) そして、本願商標の表示態様は、以下のとおり、指定商品である「フラワーセラピーに供する花」につき、その品質、用途を表すものとして取引者、需要者に認識されるものと認められる。
すなわち、本願商標が「フラワーセラピー」の片仮名文字を横書きしてなることは、当事者間に争いがないところ、代表的な国語辞書にも、「フラワー」(flower)につき「花」と、「セラピー」(therapy)につき「治療。療法。薬品や手術を用いないものをいう。」と掲記されている(株式会社岩波書店発行「広辞苑第五版」)とおり、「フラワー」、「セラピー」の各語は、それぞれ上記の意味を有する外来語としてなじみがあるといえるから、これらが結合した「フラワーセラピー」の語が「花を手段とする治療、療法」の意味合いを有することは、その語の構成自体によって容易に認識し得るものということができる。
これに加え、審決が引用する平成6年12月20日付け朝日新聞東京/神奈川版(乙第1号証)及び平成8年12月8日付け毎日新聞埼玉版(乙第3号証)に、それぞれ、「花を使って心のリハビリに役立て、潤いある生活につなげるという『フラワーセラピー(花療法)』」、「気分が不安定になったお年寄りには、花を摘んでもらう。花を摘む間の30分で、晴れ晴れとした顔に戻るという。香りが、心にいい影響与えるのだ・・・花療法のフラワーセラピー」との各記載があるほか、平成6年11月3日付け読売新聞東京朝刊(乙第2号証)に「花を使って心身のバランスを保ち、生活に潤いと活力をもたせようという『フラワーセラピー(花療法)』が、お年寄り向けのリハビリ教室などで広まっている」との、平成9年4月20日付け朝日新聞東京朝刊(乙第4号証)に「この花との出あいが、独自のフラワーセラピーを生み出した」との各記載があり、また、平成13年1月1日株式会社集英社発行の「情報・知識imidas2001」1380頁(乙第7号証)には、
「フラワーセラピー」につき「花で飾りなどを作る作業を通して、痴呆の高齢者などの治療に役立てる方法」との意味が掲記されているところ、これらの記載において、「フラワーセラピー」の語が「花を用いる(手段とする)治療、療法」という意味の普通名称として扱われていることは明らかである。このように、「フラワーセラピー」の語が、その語の構成自体によって「花を手段とする治療、療法」の意味合いを有するものと容易に認識し得ることに照らせば、上記構成よりなる本願商標が、指定商品である「フラワーセラピーに供する花」の用途を表示するものとして、その取引者、需要者に認識されることは明白であり、フラワーセラピーに花が不可欠であること、及びそれが一定の特質を備えた花であることを要することも、
たやすく理解されるところである。そして、前掲平成6年12月20日付け朝日新聞東京/神奈川版(乙第1号証)及び平成6年11月3日付け読売新聞東京朝刊(乙第2号証)に、フラワーセラピーに使用する花について、それぞれ「枯れて散らない種類を選ぶなど工夫している。生花なので、造花やドライフラワーと違い、
後からの水やりなど『しがい』もある。」、「お年寄りを対象にした教室では、普通の華道よりさらに『安全』『衛生的』で『軽く』『取り扱いが簡単』な素材が求められる。よく使われるのが、オーストラリアの砂漠地帯に自生する花を保存加工したプリザーブ・フラワー。乾燥に強く、半年間水なしで生花の状態を保てる」と記載されていることによれば、フラワーセラピーに使用する花は、乾燥に強く、枯れて散らない種類の生花であって、安全、衛生的で、軽く、取扱いが簡単であること等の特質を備えることを要することが認められ、かつ、このことは、その取引者、需要者にはよく知られているものと推認することができる。そうすると、「フラワーセラピー」の片仮名文字を書してなる本願商標は、指定商品である「フラワーセラピーに供する花」の上記のような特質をも表示するものとして、その取引者、需要者に認識されるものと認めることができる。
したがって、本願商標の表示態様は、指定商品である「フラワーセラピーに供する花」につき、その品質、用途を表すものとして取引者、需要者に認識されるものと認めるのが相当である。
原告は、審決が言及している平成6年12月20日付け朝日新聞東京/神奈川版等の4件の新聞記事の記載につき、「フラワーセラピー」との名で呼ばれている療法に関するものであって、本願商標の指定商品そのものに関するものではない旨主張するが、上記のとおり、フラワーセラピーに花が不可欠であること、及びそれが一定の特質を備えた花であることを要することは、たやすく理解されるところであるのみならず、平成6年12月20日付け朝日新聞東京/神奈川版(乙第1号証)及び平成6年11月3日付け読売新聞東京朝刊(乙第2号証)には、その花の特質についても具体的に記載されているものと認められるから、原告の上記主張は採用することができない。
また、上記4件の新聞記事のうち、平成11年3月4日付け毎日新聞奈良版及び平成12年9月14日付け毎日新聞大阪夕刊が本件出願の拒絶査定後に発行された刊行物であることは当事者間に争いがないが、商標登録出願に対する拒絶の査定を不服とする審判の請求がされた場合において、当該出願に係る商標が商標法3条1項3号に該当するかどうかの判断は、審決時を基準としてされるものであるから、本件において、審決が、審決時(平成13年3月22日)までに頒布された刊行物を、その判断の資料として用いることは、たとえ、それが拒絶査定の後の頒布に係るものであるとしても、格別違法とすることはできない。
(3) 別件商標につき原告主張の日に設定登録がされ、その構成に係る「花療法」の語の意義が「フラワーセラピー」の語と同義であることは当事者間に争いがなく、また、別件商標の設定登録に当たり、特許庁において、同商標が商標法3条1項3号に該当する商標ではないとの判断がされたことも明らかであるが、当該事案でそのような判断がされたからといって、当然に、本願商標に係る同号該当性が左右され得るものでないことは明らかであるから、別件商標が設定登録された以上、本願商標が同号に該当しないことも明白であるとする原告の主張は採用することができない。
(4) したがって、審決が、「本願商標は、これをその指定商品に使用しても、
取引者・需要者は、『フラワーセラピーに使用する花』であることを表示したものとして把握するに止まり、自他商品を識別するための標識とは認識し得ない」(審決謄本2頁14行目〜16行目)とし、「本願商標は、その指定商品に使用するときは、単に商品の品質、用途を表示するにすぎないものといわざるを得ない」(同頁33行目〜34行目)として、本願商標の商標法3条1項3号該当性を肯定したことに誤りはない。
2 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらないから、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 石原直樹
裁判官 宮坂昌利