運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連ワード 包装 /  出所表示機能 /  識別機能 /  周知性 /  類似性(類否判断) /  損害額 /  外観(外観類似) /  出所の混同 /  差止 /  信義則 /  使用許諾 /  存続期間 /  継続 /  商号 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 12年 (ネ) 6042号 商標権侵害差止等請求控訴事件
控訴人兼被控訴人(一審原告) 株式会社ツクダオリジナル (以下「一審原告」という。)
訴訟代理人弁護士 稲元富保
補佐人弁理士 橋本克彦
被控訴人兼控訴人(一審被告) 株式会社ラナ (以下「一審被告ラナ」という。)
被控訴人(一審被告) A(以下「一審被告A」という。)
両名訴訟代理人弁護士 山崎正俊
同補佐人弁理士 中村政美
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/12/19
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件各控訴をいずれも棄却する。
2 一審原告の当審で追加した予備的請求を棄却する。
3 一審原告の控訴に係る控訴費用(当審で追加した予備的請求に係る訴訟費用を含む。)は一審原告の、一審被告ラナの控訴に係る控訴費用は一審被告ラナの各負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 一審原告の控訴について (1) 一審原告 ア 原判決中一審原告敗訴部分を取り消す。
イ 一審被告ラナは、原判決別紙物件目録(二)〜(八)記載の商品形態を有する各商品を輸入し、販売し、引き渡し、販売若しくは引渡しのために展示してはならない。
ウ 一審被告ラナは、一審原告に対し、金570万円及びこれに対する平成9年6月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
エ 一審被告Aは、一審原告に対し、一審被告ラナと連帯して、金1140万円及びこれに対する平成9年6月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
オ 上記イ及びウと同旨(当審で追加した予備的請求) カ 訴訟費用は、第1、2審とも一審被告らの負担とする。
(2) 一審被告ら ア 一審原告の控訴を棄却する。
イ 控訴費用は一審原告の負担とする。
2 一審被告ラナの控訴について (1) 一審被告ラナ ア 原判決中一審被告ラナ敗訴部分(ただし、原判決主文第一項を除く。)を取り消す。
イ 一審原告の一審被告ラナに対する請求を棄却する。
ウ 訴訟費用は、第1、2審とも一審原告の負担とする。
(2) 一審原告 ア 一審被告ラナの控訴を棄却する。
イ 控訴費用は一審被告ラナの負担とする。
事案の概要
本件は、一審原告が、@一審被告ラナに対し、一審原告の製造販売に係る回転式立体組合せ玩具(原告商品)の形態は一審原告の商品であることを表示するものとして需要者の間に広く認識されているか、又は著名であるところ、一審被告ラナが原告商品と形態の類似する回転式立体組合せ玩具(被告商品)を輸入、販売する行為は、不正競争防止法2条1号1号又は2号に該当する不正競争行為であると主張して、その差止め及び損害賠償を求め(上記2号に基づく請求は当審で追加した予備的請求)、また、A一審被告ラナに対し、一審被告ラナが被告商品に付した標章(被告標章)は一審原告を商標権者とする登録商標と類似し、被告標章の使用は一審原告の商標権を侵害するものであると主張して、損害賠償を求め、さらに、
B一審被告ラナの代表者である一審被告Aに対し、上記不正競争行為及び商標権侵害に関し、一審被告Aはその職務を行うにつき悪意又は重過失があったとして、商法266条の3第1項に基づく損害賠償を求めた事案であり、Aの請求を認容した原判決に対し、一審原告と一審被告ラナの双方が控訴をしている(上記の括弧書きの用語は原判決の用例のとおりであり、本判決でもこの用例による。
)。なお、一審原告の一審被告ラナに対する商標権侵害を理由とする差止請求部分(原判決主文第一項関係)は、当審において、本件から分離後、訴訟上の和解が成立した。
本件の当事者間に争いのない事実、争点及び争点についての当事者の主張は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決の訂正 原判決7頁9行目の「(現在もイ号標章を使用しているかについては、争いがある。)」、8頁1行目の「、現在もイ号標章を使用しているか」、同頁4行目〜5行目の「、現在もロ号標章を使用しているか」、同頁8行目〜9行目の「、現在もハ号標章を使用しているか」、9頁1行目〜2行目の「(現在もニ号標章を使用しているかについては、争いがある。)」及び同頁5行目〜6行目の「、現在もホ号標章を使用しているか」とあるのを削り、27頁9行目の「次第の」を「次第に」に改める。
2 一審原告の主張 (1) 原告商品の形態の商品等表示性について ア 一審被告らは、原告商品の基本的構成態様のように、六面体であり、その各面が9ブロックに区分された形態にすることは、回転式立体組合せ玩具の必須の技術的機能に由来するものであるので、不正競争防止法によって保護される商品等表示に当たらない旨主張し、原判決も、「商品の形態が当該商品の機能ないし効果と必然的に結びつき、これを達成するために他の形態を採用できない場合には、
右形態は、不正競争防止法2条1項1号所定の『商品等表示』に該当するものではなく、これについては不正競争防止法による保護は及ばないと解すべきである。けだし、右のような機能ないし効果と必然的に結びつく形態は、本来、発明ないし考案として、特許法等の工業所有権法により一定の期間独占的地位を保障されることを通じて保護されるべきものであるところ、仮にこのような形態について不正競争防止法上の保護を与えるならば、本来、工業所有権法上の所定の期間の経過後は広く社会全体の公有財産に帰属するものとして万人が自由に利用できることになるはずの技術について、特定の者が独占的に支配することを認めることとなり、公共の利益に反するからである」(原判決47頁10行目〜48頁8行目)と判断する。
しかし、特許法等の工業所有権法は、技術的思想の創作等を保護し、もって産業の発展に寄与することを目的とするものであるのに対し、不正競争防止法は、事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とするものである。したがって、工業所有権法と不正競争防止法とは、その目的及び保護の対象を異にするのであって、商品の機能ないし効果と必然的に結びつく形態が、工業所有権法で保護されるべきであって不正競争防止法で保護されるべきでないと解する理由はない。
しかも、工業所有権は、いったん設定登録されれば、その後特許料等を納付するだけで法定の存続期間独占的に保護を享受することができるのに対し、不正競争防止法2条1項1号による保護を受けるためには、単に周知性を獲得するだけでなく、その周知性を維持しなければならないのであって、たゆまぬ不断の努力がなければその保護を失う。このような工業所有権法と不正競争防止法との保護の要件の相違を前提とすれば、不正競争防止法上の保護が半永久的に及ぶとしても、
工業所有権法が一定の存続期間を限定して保護していることと何ら反するものとはいえない。したがって、商品の形態が当該商品の機能ないし効果と必然的に結びつき、これを達成するために他の形態を採用できない場合であっても、その形態は不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当するというべきである。
イ 仮に、原判決のいうように「商品の形態が当該商品の機能ないし効果と必然的に結びつき、これを達成するために他の形態を採用できない場合には、右形態は、不正競争防止法2条1項1号所定の『商品等表示』に該当するものではない」と解したとしても、六面体であり、その各面が9ブロックに区分された形態は、原告商品の機能ないし効果と必然的に結びついたものとはいえず、また、不可避的に採用しなければならない形態でもない。
すなわち、原告商品は、各ブロックを適宜回転させて各面の配色をいったん崩した後再び同一色でそろえるなどして遊ぶパズル玩具、すなわち回転式立体組合せ玩具であるが、このような回転式立体組合せ玩具としては、原告商品のように、六面体であり、その各面が9ブロックに区分された形態のものだけなく、六面体であり、うち4面を6ブロック、残り2面を9ブロックに分割したもの(乙5)、六面体であり、各面を25ブロックに分割したもの(甲79、乙6)、六面体であり、各面を16ブロックに分割したもの(甲78、乙7)、球体であり、これを8ブロックに分割したもの(乙7)、球体であり、これを26ブロックに分割したもの(甲73、乙14)、さらには、三角錐(甲75)、人形(甲77)、幾何学形(甲81)、五角柱体(甲82)、四角柱体(甲83)の形状をしたもの等が存在する。このような回転式立体組合せ玩具として必要な機能ないし効果は、@組合せ式であること、A回転式であること、B立体的であること、C上記組合せが色合わせであることにとどまり、これらの機能ないし効果と、「六面体であること」及び「各面を9ブロックに分割すること」との形態とは必然的な結びつきがない。
ウ また、商品の形態は、その一部のみを抜き出して成り立つものではなく、全体として一つの有機的な結合の上に成立しているものであるから、「六面体であり、その各面が9ブロックに区分された」基本的構成態様のみでは商品等表示性を認められないとしても、これと具体的構成態様とが有機的に結びついた一つの商品全体の形態について商品等表示性を肯定した上で、被告商品の形態との類似性が判断されるべきである。
さらに、仮に、原告商品の具体的構成態様に係る形態のみに商品等表示性が認められるにすぎないとしても、原告商品と被告商品とは類似するというべきである。すなわち、原告商品と被告商品とは、いずれも各ブロックが黒い線(地肌部分)で仕切られており、各面を他の面と視覚的に区分可能な表示のされたシールが貼られている点で共通するほか、イ号、ロ号、ハ号及びヘ号商品については、大きさの点でも、ニ号商品については用いられている色の点でも共通する。他方、被告商品中には、各面のキャラクターないしロゴの有無(イ号、ロ号、ハ号及びヘ号商品)、用いられている色(ニ号商品を除く。)、大きさ(ニ号、ホ号及びト号商品)において原告商品と相違するものが含まれているが、これらの相違点に係る形態が出所表示機能を有するとはいえないから、原告商品と被告商品とは類似し、出所の混同を生ずるというべきである。
エ なお、原告商品は「ルービック・キューブ」の名称で、米国のセブンタウンズ社の管理の下、世界各国でその許諾先のみが販売を行っているのであり、その基本的構成態様に係る形態が我が国でのみ保護されないということとなれば、世界の潮流に反するものといわざるを得ない。
(2) 不正競争防止法2条1項2号の不正競争行為について 一審被告ラナの不正競争行為の根拠法条として、原審で主張した不正競争防止法2条1項1号に加え、同項2号を予備的に追加する。原告商品が昭和56年3月ころまでに一審原告の販売する商品として日本全国において広く認識されるに至ったことは原判決も認定するものであるところ、その認識の程度は著名といい得るものである。
(3) 被告商品の販売許諾について 一審原告が被告商品の販売を許諾したとの一審被告ラナの主張は、すべて否認する。そもそも一審原告の一営業社員にすぎないDに被告商品の販売許諾をする権限がないことは明らかであり、同人が販売許諾をした事実もない。
3 一審被告らの主張 (1) 原告商品の形態の商品等表示性について 原告商品の基本的構成態様は、六面体であり、その各面が9ブロックに区分された形態であるところ、この商品形態は、1面を9ブロックの正方形の集合とするためには不可避的に採用しなければならないものであるから、回転式立体組合せ玩具の必須の技術的機能に由来するものというべきである。そして、このような商品形態の独占を認めた場合、商品の形態そのものでなく、同一の機能及び効用を奏する商品そのものの独占を招来することになり、複数の商品が市場で競合することを前提としてその競争力の在り方を規定する不正競争防止法の趣旨に反する結果となるから、当該商品形態は商品等表示性を有しないというべきである(東京高裁平成6年3月23日判決・判例時報1507号156頁参照)。
次に、一審原告は、回転式立体組合せ玩具には様々な形態のものがある旨主張するが、そのような玩具は原告商品とは別個の構造を有する別個の種類の商品というべきであるから、一審原告の主張するような商品等表示性を根拠付けるものではない。なお、一審被告らは、原告商品との出所の混同を避けるべく、被告商品にキャラクターを付するなどの適切な措置を誠実に執っており、出所混同のおそれを解消している。
また、一審原告は、原告商品の具体的構成態様に係る形態のみに商品等表示性が認められるにすぎないとしても、原告商品の形態と被告商品の形態とは類似する旨主張するが、一般需要者にとって、原告商品の配色や大きさ、形状等に出所識別機能があるというべきであり、一審原告の主張するようなシール貼りの形態などが出所識別機能を果たすとは考えられない。
さらに、一審原告は、「ルービック・キューブ」商品の世界的な管理について主張するが、一審原告の提出した甲88〜96は、エルノー・ルービックないしセブンタウンズ社が同商品について著作権(版権)を有するとの内容のものにすぎず、本件とは関係がない。
(2) 被告商品の販売許諾について 一審被告ラナは、被告商品の販売を始めるに先立って、株式会社すかいらーく本社物販部バイヤー担当部長Cを通じて、一審原告営業部のDに対しウルトラマンのキャラクターが付された回転式立体組合せ玩具(乙27)の見本品を示すなどして、一審原告から被告商品の販売許諾を得たものであり、このことは、Cの陳述書(乙73)、一審被告ラナの担当者Bの陳述書(乙59〜61)及び録音テープ反訳書(乙65)から明らかである。なお、当時、一審被告らは本件商標権の存在を知らなかったので、上記の使用許諾も直接には本件登録商標の使用許諾を意図したものではなかったが、上記見本品には「ウルトラマン MAGIC CUBE」との標章が付されており、一審原告が当該見本品に係る商品の販売を承諾した以上、本件商標権に基づく損害賠償請求は禁反言の法理又は信義則に反するものとして許されないというべきである。
一審原告は、上記Dには当該販売許諾の権限がなかった旨主張するが、上記の承諾についての交渉過程では、当該販売許諾について権限を有するE常務取締役らとも協議を重ねていたのであるから、一審被告ラナは、一審原告による上記販売許諾が有効な権限に基づくものであるとの外形を信じ、かつ、これを信じたことについて過失もなかったというべきである。
当裁判所の判断
1 不正競争防止法2条1項1号に基づく差止請求及び損害賠償請求について (1) 前提となる事実 当事者間に争いのない事実(原判決5頁8行目〜18頁9行目)及び証拠(甲5、6、10〜22、36〜38、45、58、93、97(各枝番を含む。))並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。
ア 原告商品は、全体形状が1辺約5.6pの正六面体で、その各面は同大の9個(6面で計54個)の正方形のブロックに区分されており、したがって、見掛け上は、立方体形状のブロック体を、3行、3列、3段に組み合わせた形態となっている。この各ブロック体は、同一の面を構成する9個のブロック体単位で任意の方向に回転させることが可能に構成されている。各ブロック体の各面中、外面に露出している54(9個×6面)のブロック面は、9個ずつ6色(赤、青、黄、
白、緑、橙)に着色され、かつ、黒色に縁取られており、販売される際の基本状態では、各面が同一色にそろえられている。玩具としての主な遊び方は、ブロック体を適宜回転させて、いったん各面の配色を崩した後、再びブロック体を回転させて6面全部が同一色にそろうようにするパズル遊びであり、配色の組合せが30億通りを超えることから、数学的な解き方を発見する楽しみがあるとされている。
イ 原告商品は、もともとハンガリーのエルノー・ルービックの考案に係るものであったが、欧米で流行したのに続き、一審原告は、昭和55年7月下旬ころ、米国のアイデアルトーイ社との間の独占的販売契約に基づき、「ルービック・キューブ」との商品名で原告商品の販売を我が国において開始した。なお、独占的販売契約の相手方は、その後、英国のセブンタウンズ社に変更された。一審原告の販売に係る原告商品は、その発売開始と同時に大人から子供まで人気を集め、爆発的な売れ行きを示し、昭和56年3月ころまでに約180万個を販売したほか、新聞、雑誌等においても、その人気の高さ、パズルゲームとしての難しさと面白さ等を紹介した記事がたびたび掲載され、また、一審原告においても、原告商品及びその販売元としての一審原告の商号について積極的な宣伝広告を行った。
ウ 原告商品の発売以前には原告商品と同様の形態の商品は存在しなかったところ、原告商品が上記のような一大ブームとなる中で、その類似品が出回った時期もあるが、これに対しては、一審原告において、刑事告訴や販売禁止の仮処分申請を行うなどして対処してきたこともあり、原告商品と同様の形態を有する競合商品が継続的に市場で販売され、これが定着するということはなかった。その結果、
遅くとも昭和56年3月ころまでには、原告商品が上記アのような形態を備えるものであること、これが一審原告の販売に係るものであることは、需要者の間に広く認識されるに至った。
(2) 原告商品の形態の商品等表示性について ア 原告商品の形態 上記(1)アの事実によれば、原告商品は、全体形状が正六面体であり、その各面が9個のブロックに区分され、各面ごとに他の面と区別可能な外観を呈しているという形態(以下「本件商品形態」という。)を基本的構成態様とし、具体的構成態様として、当該六面体の各面には、黒色に縁取られた赤、青、黄、白、緑及び橙の配色がされている形態、正六面体の大きさが一辺約5.6pであるという形態を備えるものと認められる。なお、一審原告は、このほかに、シールの貼られた形態についても主張するが、彩色の手段としてシールを貼るか、直接材料面に塗装等を施すかといった点は、外観上の差異として認識することができないというべきであるから、彩色がされているという要素とは別に、シールが貼られているという点を商品等表示の要素として考慮することはできないというべきである。
そこで、原告商品の上記形態が、不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当するかについて、以下判断する。
イ 原告商品の形態の出所表示機能について 商品等表示とは「人の業務に係る・・・商品又は営業を表示するもの」(不正競争防止法2条1項1号括弧書き)であるから、ある表示が商品等表示に該当するためには、少なくとも、出所表示機能を有するものであることが必要であるところ、上記(1)の認定事実によれば、原告商品の形態については、同様の形態の商品がない中で発売された新規なものであった上、一時的に類似品が出回ったことがあるものの、市場には定着せず、他の同種商品もなかったのであるから、その形態は、特異ないし独特なものであって、一審原告により独占的に使用されるとともに、強力に宣伝広告された結果、遅くとも昭和56年3月ころまでには、上記アの認定に係る原告商品の形態は、需要者の間に、一審原告の販売に係ることを表示するものとして広く認識されるに至ったと認めるのが相当である。
ウ 商品の機能及び効用に由来する形態について 一審被告らは、原告商品の形態中の本件商品形態は、回転式立体組合せ玩具の必須の技術的機能に由来するものであるから商品等表示性を有しない旨主張するので、この点について検討する。
不正競争防止法2条1項1号は、周知な商品等表示の持つ出所表示機能を保護するため、実質的に競合する複数の商品の自由な競争関係の存在を前提に、
商品の出所について混同を生じさせる出所表示の使用等を禁ずるものと解される。
そうすると、同種の商品に共通してその特有の機能及び効用を発揮するために不可避的に採用せざるを得ない商品形態にまで商品等表示としての保護を与えた場合、
同号が商品等表示の例として掲げる「人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装」のように、商品そのものとは別の媒体に出所識別機能を委ねる場合とは異なり、同号が目的とする出所表示機能の保護を超えて、共通の機能及び効用を奏する同種の商品の市場への参入を阻害することとなってしまうが、このような事態は、実質的に競合する複数の商品の自由な競争の下における出所の混同の防止を図る同号の趣旨に反するものといわざるを得ない。したがって、同種の商品に共通してその特有の機能及び効用を発揮するために不可避的に採用せざるを得ない形態は、同号にいう「商品等表示」に該当しないと解すべきである。そして、このことは、同項3号において、「他人の商品と同種の商品が通常有する形態」のみならず、「同種の商品がない場合にあっては、当該他人の商品とその機能及び効用が同一又は類似の商品が通常有する形態」についても、これを同号の保護の対象から除外している趣旨とも整合するものである。
なお、一審原告は、工業所有権法と不正競争防止法とは、その目的、保護の対象及び保護の要件とが相違するとして、工業所有権法との調整の観点から上記と同旨の判断をした原判決を批判するが、工業所有権法との調整の要否いかんは上記の判断を左右するものではない。
エ 本件商品形態を採用することの不可避性について そこで、本件商品形態が、同種の商品に共通してその特有の機能及び効用を発揮するために不可避的に採用せざるを得ない形態といえるかどうかについて判断する。
原告商品が、立体的に組み合わされたブロック体を任意の方向に回転させ、各面を構成するブロックの色をそろえて遊ぶパズル玩具であることは前示のとおりである。そうすると、これと同種のパズル玩具に共通する機能及び効用に由来して、任意の方向にブロック体を回転させたときに、配色は変わっても全体形状は変化しない構造体とする必要があると解される上、パズル玩具として適切な難易度を維持し得る程度の組合せとすることも、現実の商品化の上では必須のことと解されるから、このような制約要素だけから考えても、不可避的に、本件商品形態以外の選択肢は、極めて限られたものとならざるを得ない。のみならず、上記のような制約の中で、本件商品形態を避けて他の商品形態を採用したとしても、ブロック体の形状、数、その組合せ等によって、具体的な解法、難易度、取り扱い易さ等はおのずと異なることとなり、パズル玩具としての楽しみ方も異なってしまうことは明らかというべきである。
例えば、全体形状を正六面体として、4行、4列、4段以上のブロック体の組合せにした場合には、一般の需要者にとっては難解にすぎるものとなってしまい(甲15〜17の商品名「ルービックリベンジ」及び「プロフェッサーキューブ」において、それぞれ「超難題」及び「最高難度」とされている記載を参照)、
三角錐形状のブロック体を組み合わせて全体形状を正四面体のものにした場合には、回転させることの可能なブロック体の単位が多様となり、常に9個のブロック体単位で回転させる原告商品とは明らかに異なる要素が加わることになるし(甲75の同「PYRAMIX」参照)、全体形状を球形のものにした場合には、面全体が連続したものとなるため、画然と区切られた各面の色合わせという興趣が損なわれることとなり、商品価値を維持するためには、単なる色合わせという以外の要素を付加せざるを得なくなってしまうことが推察される(甲73の同「ルービックワールド」は地球儀を模したものであり、甲74の同「ボールパズル」は彩色のされた円環状の構成が付加されていることを参照)。このほか、現に商品化されている回転式立体組合せ玩具としては、@全体形状が正六面体のものを斜めに分割して回転可能としたもの(甲75、商品名「スキューブ」)、A各面が立体的な星形に見える複雑な立体形状のもの(甲15、同「アレキサンダースター」)、B全体形状が五角柱形状のものを輪切り状に回転可能として、各面に現れる加減乗除式が正解となるようにするもの(甲18、同「頭の体操算数塾」)、Cキティ人形を縦横に分割して回転可能としたもの(甲77、同「キティのルービックキューブ」)、D展開すると一直線状になる三角錐の連続したブロック体を組み合わせたもの(甲16、同「マジックスネーク」)、E8個の立方体形状のブロック体を組み合わせて多様な立体形状を構成することができるようにしたもの(甲17、同「ポケットパズル」)等の多様な形態のものが存在する。しかしながら、上記D、Eについては、ブロック体を回転等させることにより、多様な形状に変化させて遊ぶものと認められるものであって、全体形状が変化することなく、各面の配色をそろえて遊ぶ原告商品とは全く別のジャンルのパズルといわざるを得ないし、その他の商品についても、パズル玩具としての主要な特徴が、分割及び回転の手法の意外性にあると考えられるもの(上記@)、全体形状の持つ意匠性にあると考えられるもの(上記A、C)、知育玩具としての性格にあると考えられるもの(上記B)等であると解されるものである。
以上の認定判断を総合すれば、本件商品形態は、同種の商品に共通する機能及び効用に由来する数少ない選択肢である上、本件商品形態を避けて他の商品形態を採用した場合、一般需要者にとって代替可能な商品として市場において原告商品とは競合し得ない商品となってしまい、そのようなものはもはや同種の商品ということはできない。そうすると、本件商品形態は、原告商品と同種の商品に共通してその機能及び効用を発揮するために不可避的に採用せざるを得ないものと解するのが相当であり、したがって、商品等表示に該当しないものというべきである。
もっとも、原告商品は、この形態に付け加えられた具体的構成態様に係る形態、すなわち、正六面体の各面に、黒色で縁取られた赤、青、黄、白、緑及び橙の配色がされている形態、正六面体の大きさが一辺約5.6pであるという形態を備えるものであることは前示のとおりである。そして、商品の形態は、その全体が不可分な有機的結合として成り立つものであり、原告商品の形態についても、前示のとおり、本件商品形態に加えて上記のような具体的構成態様に係る形態をも備えるものとして、出所表示機能を取得したものであることからすれば、全体としての原告商品の形態が「商品等表示」に該当するといわざるを得ないが、被告商品の形態との類否の判断に当たっては、それ単独では商品等表示性が認められない本件商品形態を除外した具体的構成態様を要部として検討する必要があるというべきである。
(3) 被告商品の形態との類否 ア 当事者間に争いのない被告商品の形態(原判決11頁9行目〜14頁9行目、同別紙物件目録(二)〜(八)参照)によれば、被告商品は、いずれも全体形状が正六面体であり、その各面が9個のブロックに区分され、各面ごとに他の面と区別可能な外観を呈しているから、本件商品形態においては、原告商品の形態と一致するが、この一致点に係る形態は、それ単独では商品等表示性の認められないものであって、これを除外して類否の検討をすべきことは上記のとおりである。したがって、以下、原告商品の形態中、本件商品形態に付け加えられた具体的構成態様に係る形態、すなわち、正六面体の各面に、黒色で縁取られた赤、青、黄、白、
緑及び橙の配色がされている形態、正六面体の大きさが一辺約5.6pであるという形態に着目して判断する。
イ まず、イ号、ロ号、ハ号及びヘ号商品については、正六面体の一辺が約5.6pという大きさにおいて原告商品と一致するが、イ号、ハ号及びへ号商品の各面にはウルトラマン関係のキャラクター(ウルトラマン、ウルトラマンティガ、
怪獣)の絵柄が、ロ号商品の各面にはマリンジャンボ及び図案化された海洋生物の絵柄並びに「ANA」のロゴが、それぞれ描かれているほか、各面の配色(絵柄の背景色)も原告商品のものとは異なる。そして、上記の図柄やロゴは、各面のほぼ全面にわたる大きさで、背景色に対して明りょうなコントラストを示す色使いをもって描かれているものであって、取引者、需要者において最も注意を惹かれる商品形態部分であるというべきである。他方、大きさの点については、原告商品及び被告商品の前示のような遊び方(使用態様)を考えた場合、両掌で当該商品の両側から容易に握持することのできる大きさとするのが自然であると考えられるから、正六面体の一辺が約5.6pという大きさに特異性は認められない。
そうすると、このような原告商品の備えない特徴的な形態が付け加えられたことにより、大きさにおける共通性を上回る印象の相違をもたらすこととなり、全体として、類似のものと受け取られるおそれは解消されていると解するのが相当である。
ウ 次に、ニ号商品については、各面に図柄等を描くことなく、黒色で縁取られた淡赤、青紫、黄、白、緑及び橙の各色で彩色した形態において原告商品のものとほぼ一致するが、ニ号商品の大きさは、正六面体の一辺が約3.0pであって、これが約5.6pの原告商品よりも顕著に小さい上、その一つの角部にキーホルダーが取り付けられている点でも原告商品と相違する。そして、上記の配色は、
6面のそれぞれに異なった彩色を施すことにより各面を容易に区別可能にしようとした場合、ごくありふれた選択に係る配色であるといわざるを得ず、また、黒色の縁取りも、彩色のコントラストを強調するという以外にそれ自体としてはほとんど目立たない形態というべきであるから、その配色に関して共通する形態が類否の判断に与える影響はさほどのものと評価することはできない。
そうすると、このような形態上の相違点は、図柄のない配色に係る共通点を上回る印象の相違をもたらし、全体として、類似のものと受け取られるおそれは解消されていると解するのが相当である。
エ また、ホ号及びト号商品は、正六面体の一辺が約3.0pである点及びキーホルダーが取り付けられている点ではニ号商品と同様である上、各面にはウルトラマン関連のキャラクターの絵柄が描かれている点ではイ号、ハ号及びへ号商品と同様であるから、上記イ、ウで検討した他の被告商品以上に類似性は否定されるというべきである。
(4) 以上のとおり、原告商品の形態のうち本件商品形態を除外した具体的構成態様に係る形態を要部として考えた場合に、これに対応する被告商品の形態はいずれも原告商品の具体的構成態様に係る形態と類似するものとはいえず、したがって、被控訴人らによる被告商品の輸入、販売行為は、原告商品との混同を生じさせる行為ということはできないから、一審原告の不正競争防止法2条1項1号に基づく差止請求及び損害賠償請求は、上記(1)ウ及び(2)イの周知性が現在も維持されているか否かの判断を含め、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
なお、一審原告は、「ルービック・キューブ」が世界的にセブンタウンズ社の管理下に置かれていることを主張するが、上記不正競争行為の該当性の判断に何ら消長を来すものではない。
2 不正競争防止法2条1項2号に基づく差止請求及び損害賠償請求(当審における予備的請求)について 本件において、不正競争防止法2条1項2号にいう「商品等表示」及び「類似」の要件を、同項1号の場合と別異に解釈すべき根拠はないから、上記1で述べたところと同一の理由により、一審原告の同項2号に基づく差止請求及び損害賠償請求も理由がない。
3 商標権の侵害及び商法266条の3第1項に基づく損害賠償請求について (1) 当裁判所も、一審原告の一審被告ラナに対する商標権の侵害に基づく損害賠償請求は理由があるが、一審被告Aに対する商法266条の3第1項に基づく損害賠償請求は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり当審における主張に対する判断を付加するほか、原判決「事実及び理由」欄の第三の三「争点3(本件商標権の侵害の成否)について」(ただし、59頁4行目〜8行目を除く。)、同四「争点4(原告による許諾等の有無)について」(ただし、60頁9行目〜末行を除く。)、同五「争点5(被告Aの責任)について」及び同六「争点6(損害額)について」のとおりであるから、これを引用する。
(2) 一審被告らの当審における主張について 一審被告らは、一審被告ラナは、一審原告営業部のDに対し見本品を示すなどして一審原告から被告商品の販売許諾を得ていたから、本件商標権に基づく損害賠償請求は禁反言の法理又は信義則に反するものとして許されない旨主張する。
しかし、当時、一審被告らが本件商標権の存在を知らず、したがって、本件登録商標の使用許諾を意図した交渉をしたものでないことは一審被告らの自認するところである。しかも、上記Dに対して見本品を示したとの点については、乙59(B作成の報告書)、乙73(C作成の陳述書)中には、これに沿う記載はあるものの、
当該見本品に被告標章が付されていたかどうかについては何も述べられておらず、
他に、被告標章を使用する予定であることが一審原告に示されたことを認めるに足りる証拠はない。そうすると、一審原告が現に見本品なるものを受領したかどうか、また、その販売を許諾したかどうかについて判断するまでもなく、上記の点は、本件商標権に基づく損害賠償請求を妨げるべき何らの根拠となり得るものではない。
4 結論 以上のとおり、一審原告の一審被告ラナに対する商標権侵害に基づく損害賠償請求は理由があり、一審被告ラナに対するその余の請求及び同Aに対する請求はいずれも理由がないというべきである。
よって、これと同旨の原判決は相当であって、本件各控訴はいずれも理由がないからこれを棄却し、一審原告の当審で追加した予備的請求も棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条1項本文、61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利