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関連審決 異議2000-90496
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成13行ケ516審決取消請求事件 判例 商標
平成13行ケ518審決取消請求事件 判例 商標
平成18行ケ10280審決取消請求事件 判例 商標
平成18行ケ10279審決取消請求事件 判例 商標
平成7行ケ93 判例 商標
関連ワード 識別力 /  出所表示機能 /  識別機能 /  指定商品 /  周知商標 /  周知性 /  4条1項19号 /  著名商標 /  不正目的(不正の目的) /  顧客吸引力(グッドウィル) /  ただ乗り(フリーライド) /  希釈化(ダイリュージョン) /  類似性(類否判断) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  出所の混同 /  国内 /  差止 /  共有 /  使用許諾 /  登録異議申立 /  外国 /  同業者 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 205号 商標登録取消決定取消請求事件
原告 株式会社ネオジャパン
訴訟代理人弁理士 柳田征史
同 佐久間剛
同 渋谷淑子
訴訟復代理人弁理士 中熊眞由美
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 宮下行雄
同 大橋良三
被告補助参加人 マイクロソフト コーポレーション
訴訟代理人弁護士 中村勝彦
訴訟代理人弁理士 稲葉良幸
同 内田佐江子
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/11/20
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が異議2000-90496号事件について平成13年3月30日にした決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,別紙決定書の写しの末尾の「本件商標」の欄に示された「iOffice2000」の文字と数字から成り,商品及び役務の区分第9類「電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク・磁気テープ,その他の電子応用機械器具」を指定商品とする商標(平成10年12月8日,商標登録出願,平成12年2月10日,商標登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。
平成12年5月11日,本件商標について登録異議申立てがなされ,特許庁は,同異議申立てを2000-90496号事件として審理した結果,平成13年3月30日に「登録第4360859号商標の商標登録を取り消す。」との決定をし,その謄本は,同年4月16日,原告に送達された。
2 決定の理由 決定は,別紙決定書の写しのとおり,本件商標は,小文字筆記体で表示された「i」の文字が付記的な文字として看取され,その構成中の「Office2000」の文字をもって取引に資される場合が少なからずあること,登録異議申立人(本訴の補助参加人。以下「マイクロソフト」という。) の「Office」シリーズのパソコン用ソフトウエアの商標(以下「Officeシリーズ商標」という。)は,マイクロソフトの商品を表示するものとして取引者・需要者の間において広く認識されていることを認定し,この認定を前提に,本件商標はOfficeシリーズ商標と類似すること,原告による本件商標の使用には不正の目的があることを認定し,これらの認定に基づき,本件商標は,商標4条1項19号に違反して登録されたものであるから,その登録を取り消すべきである,と判断した。
原告主張の決定取消事由の要点
決定は,マイクロソフトのOfficeシリーズ商標が日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標であると誤って認定・判断し(取消事由1),本件商標がOfficeシリーズ商標と類似していると誤って認定・判断し(取消事由2),原告が不正の目的をもって本件商標を使用していると誤って認定・判断したものであり(取消事由3),これらの誤りがそれぞれ結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(Officeシリーズ商標の周知性についての認定・判断の誤り) (1) 決定は,マイクロソフトがパソコン用ソフトウエアに使用しているOfficeシリーズ商標が,本件商標の出願時において,既にマイクロソフトの業務に係る商品を表示するものとして,取引者・需要者間において広く認識されていたものとみるのが相当である,と判断している。
しかし,「Office」とは,そもそも,仕事,事務所,会社などを意味する英語であり,日本では広く知られた英語である。そして,これに対する片仮名語である「オフィス」も,「仕事をする場所」を意味する日本語(外来語)として,古くから日本に定着しているものである。
オフィスで仕事に使用するのに適した,ワープロ用ソフトウエア,表計算用ソフトウエア,データベース用ソフトウエア,電子メール用ソフトウエア,スケジュール管理用ソフトウエア等の異なる用途のソフトウエアをセットにしたパソコン用ソフトウエアは,「オフィスソフト」として知られている。マイクロソフトのOfficeシリーズ商標は,正にこの「オフィスソフト」に使用されているのである(オフィスソフトとしては,Microsoft Officeのほかに,ロータスの「Super Office」,「Super Office 2000」や「一太郎 Office8」,「Justsystem Office9」などがある。)。したがって,オフィスソフトについて「Office」の表示を使用するときには,この表示は,商品の用途・機能等の品質を表すものとして認識理解されるにとどまり,これが自他商品識別機能を発揮することはあり得ない(例えば,テニスシューズについて,「テニス」との文字を使用しても,この文字が自他商品識別標識として機能することはないのと同様である。)。これに自他商品識別機能を与える文字あるいは図形が結合して初めて,自他商品識別機能を有する商標となり得るのである。
本件商標の指定商品と同一又は類似の関係にあると考えられる商品を指定して出願された商標であって,「Office」という文字をその構成に含む商標は,本件商標の登録出願時である平成10年12月8日において,少なくとも120件が登録又は出願され,少なくとも25種類のソフトウエアが11社によって既に発売されて市場に流通しており,本件商標の設定登録時には,少なくとも102件が既に商標登録され,少なくとも31種類のソフトウエアが11社から販売されて市場に流通していた。なお,マイクロソフトの「Office95」よりも早い時期から販売されていたソフトウエアとしては,富士通ビーエスジーの「MR Office Ver.1.0」(平成3年),NECの「StarOffice」及びジャストシステムの「OfficeManager2」が既にあった。また,オフィスソフトについては,前記の各商標のほかにも,富士通のTeamWARE Office,その他Image OFFICE,StarOffice等の製品がある。このように,オフィスソフトの取引者は,「Office」の文字をソフトウエアの機能,用途などを示す品質表示として認識しているのであり,自社のオフィスソフトの機能や内容を記述するための表示としてその製品名の一部に「Office」を取り入れているのである。複数の取引者が「Office」に他の文字を付加した商標を製品名として採択していたことは,取引者が「Office」自体には自他商品識別力がないと認識していたことを裏付け,ひいては,「Office」の文字は,商標としての識別力を備えていないこと,仮に備えているとしても,その識別力は格別に弱いことを意味する。
マイクロソフトがそのオフィスソフトに使用する正式名称は,「Microsoft Office」である。同社は,他社の同種の商品とともにOfficeシリーズ商標を使用するときは,これに「Microsoft」あるいは「MS」の文字を必ず付記して使用しており,他人がOfficeシリーズ商標を記事に掲記する場合も同様である。すなわち,Officeシリーズ商標に接した取引者・需要者は,「Office」によってではなく,これに付された「Microsoft」あるいは「MS」といった他の文字によって,初めて,マイクロソフトの商品であると認識することができるのであり,「Office」のみによってマイクロソフトの商品であると認識することはできないのである。
このように,マイクロソフトの業務に係る商品を表示するものとして,取引者・需要者間において広く認識されていた商標は,「Office」ではなく,「Microsoft Office97」や「MS Office98」,あるいは,「Microsoft Office」や「MS Office」等である。決定は,上記周知商標の構成文字中のOfficeシリーズ商標部分のみを取り出してこれを周知商標であると認定したのであり,その認定・判断は誤りである。
(2) 本来的に自他商品識別力がない文字等であっても,使用によって識別力を獲得することはあり得る。しかし,そのためには,特定の者によって相当期間かつ独占的に使用されることが不可欠であるというべきである。マイクロソフトがOfficeシリーズ商標の使用を開始した時期は,平成7年暮れである。前記のとおり,そのときには既に複数の取引者がソフトウエア業界で「Office」を製品名に使用していたから,マイクロソフトが同業界において独占的に「Office」という文字を含む商標を使用していた時期は存在しない。そのため,マイクロソフトは,自己の商品を他社の商品と識別させるために,「Microsoft」あるいは「MS」を,「Office」と一体化させて出所を表示してきたものである。このような経緯からすれば,Officeシリーズ商標が単独でマイクロソフトの商品の出所を識別する標識として,取引者・需要者の間で広く認識されていた,とみることができないことは明らかというべきである。
2 取消事由2(本件商標とOfficeシリーズ商標の類似性についての認定・判断の誤り) (1) 決定は,本件商標の「語頭に位置する「i」の文字は,他の構成文字「Office2000」とは明らかに相違する小文字筆記体により表示されているものであるから,該「i」の文字は付記的なものとして看取されるとみるのが相当であり,本件商標は構成中の「Office2000」の文字をもって取引に資される場合が少なからずあるものというべきである。」(決定書6頁37行〜7頁4行)と認定している。
しかし,本件商標の構成中,語頭に位置する「i」とこれに続く「O」は,同じ大きさ及び太さで表されており,また,語頭に位置する「i」と中程に位置する「i」とは,大きさは異なるものの,全く同じ字体であり,全体として統一されたデザインの下でまとまりのよい一体不可分の構成となっているのである。また,本件商標から生じる称呼「アイオフィス」は,5音からなり,比較的短いものであるから,これを一気一連に「アイオフィス」と発音するのを妨げる事情はなく,実際の取引社会においても,「アイオフィス」とのみ称されている。
本件商標の「i」の文字は,英語で,「私は」を意味する「I」と同じ文字であって,需要者に最も親しまれている英単語である。また,近年では,「i」の文字は,「e」の文字と同様に,インターネット等の情報通信技術を利用した商取引を示唆する意味合いで用いられることも少なくなく,本件商標は,全体として,「インターネット等の情報通信技術を利用した仮想現実空間における仕事場」といったイメージを需要者に喚起するものである。「i」と「Office」の結合は,観念的に不自然ではなく,上記イメージを想起させることによって,需要者に無理なく受容され記憶されるものである。そうである以上,本件商標における語頭の「i」の文字は,自他商品識別標識として重要な役割を果たしているということができるのであり,商品の品質を表す語である「Office」と一体不可分に結合することによって,一つの造語「iOffice」を構成し,本件商標に自他商品識別機能を生じさせているのである。
上述したところに,前記のとおり,@オフィスで仕事用に用いられるソフトウエアが「オフィスソフト」と呼ばれていること,A「Office」の文字は,ビジネス用のソフトウエアを意味する表示としてメーカー各社によって多用されており,本件商標の指定商品と同一又は類似の関係にある商品について,「Office」を構成文字に含む商標が多数出願ないし登録されていること,B「Office」は,他の語と一体的に結合して造語を作成する役割を果たしているにすぎず,自他商品識別標識としての機能を具有していないことを,さらに,Cローマ字を商品の型番や種別を表すための記号として使用する場合は,商標又は商標の主要部の後ろに表示するのが通常であり,商標の前に型番を表示する例は極めて稀であるため,本件商標の語頭の「i」は,型式等を表す付記的な符号ではあり得ないことをも加えて,考察すると,決定が,本件商標の語頭の「i」の文字を,付記的な表示と認定したのが,誤りであることは,明らかというべきである。
(2) 原告は,平成11年2月から,会社の職場での作業の生産性を向上させるための,電子メールやデータベース等を使って社内情報を共有し又は交換するためのソフトウエア(電子メール,電子会議システム,掲示板,共有データベース,スケジュール管理,文書管理,共有アドレス帳などの機能を有するグループウエア)に本件商標を使用し,これを販売している。本件商標は,原告により広告宣伝がなされる以外にも,日刊新聞や各種コンピュータ関連雑誌に相当数の紹介記事が掲載されたり,インターネットで提供されるコンピュータ関連製品に関するニュース記事にも度々取り上げられたりしており,遅くともその設定登録時までには,「アイオフィスニセン」又は「アイオフィス」という称呼で,取引者・需要者の間において相当程度認知されていたと推認されるものである。したがって,本件商標中の「Office」又は「Office2000」の部分のみが全体から分離して把握され,そこから独立の称呼又は観念が生まれ,これが独立の自他商品識別標識として認識されている,というような事情は存在しないということができる。
特に,本件商標の指定商品は,「電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク・磁気テープ,その他の電子応用機械器具」であるから,「Office」との部分は,指定商品との関係において,商品がオフィス用といった品質を表すものとして認識理解されるにとどまり,独立して商品の出所識別標識として機能することはない。したがって,本件商標の語頭の「i」の文字は,自他商品識別力を発揮する部分として重要な役割を担っているのであり,語頭の「i」の文字を省略した「Office」又は「Office」の部分のみが独立して取引に資されることはない。
このように,本件商標からは,「アイオフィス2000」という称呼が生じるのであり,本件商標から「i」のみが切り離されて,「Office」あるいは「Office2000」の文字のみが取引に資される場合はないと考えられる。したがって,本件商標から「i」のみを切り離し,「Office2000」の文字のみが独立して自他商品識別標識として機能すると認定し,この認定を前提に,本件商標とOfficeシリーズ商標とが類似するとした決定は,類似性の判断を誤るものである。
3 取消事由3(不正の目的の認定・判断の誤り) (1) 決定は,「商標権者は申立人使用商標が,本件商標の出願前より世界的に周知・著名であった事実を知りながら,申立人使用商標である「Office」と同一の文字をその商標中に含み,申立人使用商標と商標において類似する本件商標を出願したものであり,商標権者が本件商標を採択使用する行為には不正の目的があったものと推認せざるを得ない。」(決定書7頁24行〜28行)と認定判断している。
しかし,商標法4条1項19号において,不正の目的とは,「不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう」と規定されており,具体的には,外国では周知であるものの我が国では知られていない他人の商標と同一又は類似の商標を,その外国の権利者に高額で買い取らせる目的,その権利者の国内参入を阻止する,若しくはその権利者に代理店契約締結を強制する目的,あるいは,日本国内で全国的に知られている他人の商標と同一又は類似の商標について,出所表示機能希釈化させたり,その名声を毀損させたりする目的が,審査基準に例として挙げられている。しかし,原告による本件商標の使用は,明らかに,これらには該当しない。原告は,前記のとおり,原告自身が商品を開発し,販売する目的で,本件商標を出願し,使用しているものであり,そのために,マイクロソフトのOfficeシリーズ商標とは区別された状態で本件商標を使用しており,上記のような不正な目的は全く有していない。
本件商標が商標法4条1項19号の規定に該当するか否かは,本件商標の出願時を基準に判断しなければならない。マイクロソフトが「Microsoft Office2000」や「MS Office2000」を採択して使用しだしたのは,本件商標の登録出願時よりも後であり,本件商標の登録出願時には,上記各商標は,全く知られていなかった。本件商標の登録出願は,「Microsoft Office97」や「MS Office98」が周知商標であったとしても,「Microsoft Office2000」あるいは「MS Office2000」が次世代のオフィスソフトの商標として使用されることは,予測できないことであった。まして,同オフィスソフトの発売時期がいつになるかなどは,全く不明であった。
原告が本件商標を登録出願した平成10年(1998年)12月8日ころは,まもなく訪れる西暦2000年を迎える祝祭的な雰囲気が社会に高揚し,「2000年」や「New Millenium」にちなんだ記念商品や行事が競って企画された時期と重なる。実際に,このころは,「2000」を含む商標が相当数集中して出願されている。平成2年(1990年)から平成13年(2001年)までの12年間に出願された「2000」を構成文字に含む商標全体のうち,その約60%が平成10年(1998年)1月1日から平成12年(2000年)12月31日までの期間に出願されている。これを本件商標の指定商品と同一又は類似の関係にある商品であるコンピュータ・ソフトウエア,同ハードウエア,同周辺機器及びコンピュータによって制御される各種産業機器に関してみると,いわゆる2000年問題(コンピュータの誤作動問題)を克服していることを需要者に簡明に伝えるために,「2000」という表示を商標に使用する必要があったことから,「2000」を構成文字に含む商標のうち,約68%が前記期間に登録出願されている。
本件商標は,語頭の「i」の文字を,太く,筆記体で記し,「Office」の「O」の文字と一体性を持たせてデザインし,語尾に4桁の数字を付してなるものであり,マイクロソフトの「Microsoft Office97」あるいは「MS Office97」等とは明確に区別される商標であって,「i」と「Office」とは一体不可分であることから,「アイオフィス2000」とのみ称される商標であって,「Microsoft Office97」等を希釈化させるおそれもないのである。
(2) マイクロソフトのオフィスソフトである「Microsoft Office2000」は,本件商標の出願時から約6か月後の平成11年6月に米国で販売され,同年7月9日に日本で販売が開始されたものであり,本件商標の出願時には,市場には存在していない。実際に商品の販売が開始されていない名称について,数点の報道記事が存在することのみを根拠として,同業者であれば当然に知っていたと推定される程度に周知になっていたと認定することは困難である。このような状況の下で,原告が「Office」や「2000」という文字を使用したからといって,これらの文字には,自他識別力もなく,周知性や著名性もない以上,原告の使用に不正の目的がなかったことは明らかである。また,「Office」と「2000」は,いずれも取引者による自由な使用が認められるべきものであり,これらを特定人に独占させることが,公正な競業秩序と流通秩序の維持形成によって国民経済活動の発達を図ることを旨とする商標法の目的に反することは,明白である。
被告の反論の要点
決定の認定・判断は正当であり,決定に原告主張の違法はない。
1 取消事由1(Officeシリーズ商標の周知性についての認定・判断の誤り)について 「Office」は,「事務所,会社,仕事場」を意味する英語であり,この語が,原告の主張するように,仕事をするのに適したパソコン用ソフトウエアの用途や品質等を表示する語として認識されているという事実はない。この語は,実際の商品取引においては,マイクロソフトの「事務用アプリケーションソフトウエアパッケージ」であるMicrosoft Officeを称するものとして用いられているのである。
原告は,Officeシリーズ商標に接した取引者・需要者は,「Office」によってではなく,これに付記された「Microsoft」あるいは「MS」といった他の文字によって,初めて,マイクロソフトの商品であると認識することができるのであり,「Office」のみによってマイクロソフトの商品であると認識することはできない,と主張する。
しかし,「日経パソコン新語辞典 2001年版」や同99年版には,「Office97」の項にマイクロソフトのオフィスソフトである旨の説明があり,また,平成9年2月27日付け日経産業新聞でも,「マイクロソフト・・・統合ソフト最新版「オフィス97日本語版」・・・現行版の「オフィス95」は日本で最も売れているパソコン用アプリケーションソフト」等の記載があり,平成9年2月2日付けの毎日新聞(大阪朝刊)にも,「マイクロソフトは・・・ビジネスソフトを統合したソフト「オフィス」の最新版「97」を3月14日発売する」等の記載がある。さらに,平成10年9月7日付けの日経産業新聞には,「マイクロソフトは4日・・・統合ソフト「オフィス98マッキントッシュ版」を発売した」との記載がある。このように,Microsoftのような周知性の高い代表的出所表示部分を省略して,個別商標部分のみをもって称呼し,商品を識別していくことは,よくあることであり,マイクロソフトのソフトウエアにおいても,「Microsoft」という商標を使用することなく,「Office」や「Office97」等のみが使用されることは多いのである。
何よりも着目すべきことは,マイクロソフトの「Office」シリーズのソフトウエアは,全世界で非常に高額の売上げを達成し,高いシェア(市場占有率)を維持してきているという事実である。この事実の当然の結果として,取引者・需要者は,パソコンのソフトウエアに「Office」や「Office95」,「Office97」等の商標が使用されたときに,マイクロソフトの商品であると認識する状況が生まれていたのである。
このよう状況の下で,マイクロソフトは,近く「Office2000」を発売することを,平成10年6月に米国において公表しており,また,同年6月ないし7月には,マスコミにより日本においてもその旨が紹介されている。また,マイクロソフト株式会社(日本法人)は,平成10年11月11日に,Office2000の発表会を開催した。さらに,同年11月10日発行の日経パソコン新語辞典(99年版)にも,「Office2000」の項に「米マイクロソフトが99年発売を予定しているオフィスソフトの次期バージョン」との記載が既になされている。
このように,マイクロソフトの「Office」シリーズのパソコン用ソフトウエアは,バージョンアップ(優れたものへの改訂)とともに着実にユーザーを増やし,個人ユーザーから企業まであらゆる場面において使用されるビジネス用ソフトウエアの定番としての地位を築くまでに至っており,「オフィス」,「オフィス 95」,「オフィス 97」,「オフィス 98」,「Office」,「Office95」,「Office97」,「Office98」等の商標は,本件商標の出願時においては,マイクロソフトの業務に係る商品を表示するものとして,取引者・需要者の間において広く認識されるに至っていたのであり,「Office2000」という商標も,平成10年6月には公になり,マイクロソフトの人気商品である「Office」シリーズの最新商品として,発売のかなり前から注目を集め,遅くとも本件商標の出願より前には,マイクロソフトの業務に係る商品であることを示す商標として,著名なものとなっていたことが明らかである。
なお,原告は,Officeを含む商標は,本件商標の登録出願時には,120件が登録又は出願され,本件商標の設定登録時には,102件が設定登録されていた,と主張する。しかし,原告が指摘する商標は,いずれも構成文字中に「Office」を含むというだけで,そのほとんどが「Office」とは類似性が認められないような商標である点に留意すべきである。
2 取消事由2(本件商標とOfficeシリーズ商標の類似性についての認定・判断の誤り)について (1) マイクロソフトの「Office2000」の商標は,前記1のとおり,本件商標の出願前には,マイクロソフトがそのオフィスソフトに使用する商標として,取引者・需要者間において広く認識されるに至っていたものである。
本件商標は,「iOffice2000」である。その語頭の「i」と「Office」の文字は,書体が異なることから,視覚上一体的に看取されず,語頭の「i」の文字は,付記的なものとして看取されることになる。加えて,その11文字は,全体として熟語的意味合いを有するものではない。そして,語頭の「i」の文字を除いた「Office2000」の文字は,上述のとおり,マイクロソフトの商標として,取引者・需要者の間で広く認識されているものであるから,本件商標は,「Office2000」の文字を含む商標であることを容易に理解させるものである。
そうである以上,本件商標は,「Office2000」の文字部分をもって取引に資される場合が決して少なくないというべきであり,「オフィスニセン」の称呼をも生じるものとみるのが相当である。したがって,本件商標とマイクロソフトのOfficeシリーズ商標の一つである「Office2000」とは,称呼を共通にする類似の商標であるというべきである。
また,本件商標の語頭の「i」の文字を除いた部分は,マイクロソフトの著名な商標である「Office2000」と同一の綴り字からなるものであって,両者は,外観及び観念においても,互いに紛らわしいものである。
(2) 原告は,「i」の文字がインターネット等の情報通信技術を利用した商取引を示唆する意味合いで用いられることも少なくなく,本件商標は,全体として「インターネット等の情報通信技術を利用した仮想現実空間における仕事場」といったイメージを喚起するものであるから,「i」の文字と「Office」の文字とが一体不可分に結合し,一つの造語を構成する,旨主張する。しかし,「iモード」及び「imode」等の文字であれば,「インターネットを利用した情報提供等を受けられるサービス」を認識させるとしても,本件商標の「i」の文字が,単独で,「インターネット等の情報通信技術を利用した」商取引を示唆する意味合いを有するとは,到底認められない。
3 取消事由3(不正の目的の認定・判断の誤り)について (1) 商標法4条1項19号は,主として,外国で周知となっている商標について不正の目的をもってなされる商標登録出願を排除すること,及び,全国的に著名な商標について,出所の混同のおそれがないときにも,出所表示機能希釈化から保護することを,目的としているものである。
これを本件商標についてみれば,本件商標の構成中「Office2000」の文字は,マイクロソフトが使用する「Office2000」と同一である。そして,マイクロソフトは,平成10年6月16日には,ニューヨークにおいて開催されたPCExpoにおいて,「Office2000」の名称を公表し,同年6月あるいは7月には,日本においても,マイクロソフトにより「Office2000」の商標が採択されたことが,マスコミにより紹介されている。マイクロソフト株式会社(日本法人)も,本件商標の登録出願前である平成10年11月11日に,「Office2000」をOfficeシリーズ商標シリーズの商標として採択したことを公表している。このように,マイクロソフトの「Office2000」商標は,平成10年6月に公になり,同社の人気商品であるOfficeシリーズの最新商品として,発売のかなり前から世間の注目を集め,遅くとも原告が本件商標を出願する前に,既に取引者・需要者間に広く認識されるに至っていたものである。
これに対し,本件商標は,全体として特定の意味合いを有する熟語ではなく,取引者・需要者の間に広く認識されている「Office2000」の文字を含む商標であると容易に理解させ得るものである。
原告は,ソフトウエアの開発・販売等を行っている業者として,マイクロソフトがそのオフィスソフトに使用する商標である「Office2000」の情報に当然には,精通しているはずである。そうである以上,原告は,この情報を知りながら,これと酷似する本件商標を出願したものというべきであって,マイクロソフトが使用する著名なOfficeシリーズ商標にただ乗り(フリーライド)しようとしたものといわざるを得ず,原告による本件商標の使用は,不正の目的をもってするものであることが明らかである。
(2) 原告は,「Office」又は「2000」をその構成文字に含む登録商標が多数存在する,と主張する。しかし,「Office」と「2000」を共に含む商標は,登録されていないことに留意すべきである。原告は,「Office」と「2000」を共に含む商標を,単に「i」という文字を語頭に付しただけで,「電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路,磁気ディスク,磁気テープ,その他の電子応用機械器具」を指定商品として出願し,登録を得ているのであって,原告の上記行為が,「Office」又は「2000」を構成文字に含む商標を使用する他の第三者の行為と質的に大きく異なることは明らかであり,原告がマイクロソフトのOfficeシリーズ商標の周知性ただ乗り(フリーライド)しようとした意図は容易に看取できる。原告の本件商標の使用により,マイクロソフトがこれまで多大な費用をかけて築き上げてきた「Office」や「Office2000」等のOfficeシリーズ商標の周知性・著名性が希釈化され,顧客吸引力が失われることは明らかである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(Officeシリーズ商標の周知性についての認定・判断の誤り)について (1) 決定は,決定書7頁5行ないし19行において,マイクロソフトのビジネス統合ソフトである「Office95」,「Office97」,「Office98」マッキントッシュ版及び「Office2000」の売上等について認定したうえで,「申立人(判決注・マイクロソフト)の使用に係る商標「Office」(・・・)シリーズのパソコン用ソフトは,本件商標の出願時においては既に,申立人の業務に係る商品を表示するものとして,取引者・需要者の間において広く認識されていたものとみるのが相当である。」(決定書7頁20行〜23行)と認定判断している。ここで,「申立人の使用に係る商標「Office」シリーズのパソコン用ソフト」とは,上記の「Office95」,「Office97」,「Office98」マッキントッシュ版及び「Office2000」を意味していることは明らかであるので,マイクロソフトの上記各商標の,本件商標の出願時における周知性について,次に判断する。
(2) 括弧内に記載した各証拠によれば,次の事実が認められる。
@ マイクロソフトは,ワープロソフトのワードや表計算ソフトの エクセルなどを組み合わせたオフィスソフト(パッケージソフトないしはビジネス用統合ソフトともいう。米国では,オフィス・スイートともいわれる。)である「Office95」を平成7年(1995年)11月に発売した。「Office95」は,パソコン用のオペレーティングシステムであるウインドウズ95やウインドウズNT上で稼動するソフトウエアであり,わずか1年余りで300万本以上が販売され,オフィスソフトとしては,日本において最も多く販売され,極めて高いシェア(市場占有率)を有するオフィスソフトとなった。(乙5の1,乙6の1,乙10の1,乙13) A マイクロソフトは,平成9年3月14日,上記「Office95」をバージョンアップ(より優れたものへの改訂)したオフィスソフト「Office97」を発売した。Office97は,Office95の改訂版であり,これには,ワープロソフトの「ワード97」,表計算ソフトの「エクセル97」,プレゼンテーションソフトの「パワーポイント97」,電子メールなどの共同作業用ソフトの「アウトルック」等が組み込まれた。Office97は,Office95と同様にマスコミ等でも取り上げられて,反響を呼び,Office97を学習するためのビデオソフトがNECなどから販売されたりした。
(乙4の1・2,乙5の2・3,乙6の1〜3,乙7の1・2,乙10の1) B マイクロソフトは,平成10年(1998年)9月,アップルコンピュータのマッキントッシュ用の「ワード98」や表計算ソフト「エクセル98」,ブラウザーソフトの「インターネット・エクスプローラー4」等を収録したオフィスソフト「Office98」マッキントッシュ版を発売した。(乙8,乙9の1・2,乙10の2) C マイクロソフトは,平成10年(1998年)6月16日に米国で開催されたPCExpoで,「Office97」の次のバージョン(改訂版)のソフトウエアの名称が「Office2000」となることを公式に認め,これがその翌日以降日本でもインターネットその他のマスコミを通じて知られるようになり,同年11月11日には,マイクロソフト株式会社(日本法人)が,日本において,「Office2000」の概略や新機能を説明する発表会を開催した。また,平成10年10月1日発行の日経パソコン新語辞典99年版には,既に「Office2000」について,「米マイクロソフトが99年発売を予定しているオフィスソフトの次期バージョン。」との解説が掲載されている。(乙11〜乙16) D マイクロソフトは,平成11年(1999年)7月に,「Office2000」の発売を開始した。(丙1) E マイクロソフトのオフィスソフトである「Office95」,「Office97」,「Office98」マッキントッシュ版,「Office2000」は,「Microsoft」あるいは「MS」と併記されて紹介されたり,引用されたりすることも多く,マイクロソフト自身,「MICROSOFT OFFICE 2000」との商標登録を得ている(甲49〜甲65,甲67の1・2,甲241〜甲248,甲254,甲257,甲262,甲265〜甲277,甲284の1〜6)。
しかし,上記「Office95」,「Office97」,「Office98」マッキントッシュ版,「Office2000」は,「Microsoft」あるいは「MS」との商標と離れて,単独で紹介されることも多く,例えば,「わかりやすいコンピュータ用語辞典」(株式会社ナツメ社・平成8年1月15日発行)では,「Office」との項目について,「Microsoft社の事務用アプリケーションソフトウェアパッケージ。」との説明が付されており,日経パソコン新語辞典99年版(日経BP社平成10年10月1日発行)では,「Office97」との項目について,「マイクロソフトが97年3月に発売したWindows 95/NT用のオフィスソフト。」との説明が付されており,同新語辞典2001年版(平成12年10月2日発行)には,「Office2000」との項目について「マイクロソフトが1999年7月に発売したオフィスソフトの最新バージョン。」との説明がある(乙3,乙5の2・3)。そして,新聞やパソコン関連の雑誌の記事やインターネットのホームページ等においても,マイクロソフトのオフィスソフトを示す語として,「Microsoft」や「MS」と離れて,「オフィス」,「Office95」,「オフィス95」,「Office97」,「オフィス97」,「Office98」,「オフィス98」及び「Office2000」,「オフィス2000」等がそれぞれ単独で記載されることも極めて多い(甲249〜甲253,甲255,甲256,甲259,甲261,甲263,乙4の1・2,乙6〜乙16(各枝番を含む。),丙5〜丙12,丙21〜丙23,丙27〜丙34)。
(3) 前記(2)認定の事実及び前記(2)Eに記載した各証拠によれば,マイクロソフトのオフィスソフト(ワープロソフトや表計算ソフトその他のビジネスに必要なソフトを統合したソフト)であるOffice95とそのバージョンアップ版(改訂版)であるOffice97及びOffice2000は,米国及び日本並びにその余の世界各国において普及している,パソコンのオペレーティングシステムであるウインドウズ上で稼動するオフィスソフトの中で,最も大量に販売され,極めて高いシエア(市場占有率)を有するビジネス用ソフトウエアであると認められ,また,その商標であるOffice95,Office97,Office2000の語は,Officeという文字と西暦とを組合せたものであるから,それだけでは,本来,オフィスソフトにおける商標として,自他商品識別力が十分であるとは認められない性質のものであるものの,前記(2)のような,宣伝,広告,マスコミによる情報伝達,雑誌等の各種の記事等,及び,それによって表示されるオフィスソフトの爆発的な売上げ自体から,取引者・需要者の間において,それら単独でも極めて著名な商標となっていったものであることが認められる(Office98マッキントッシュ版も,既にOffice95及びOffice97が著名であったことから,同オフィスソフトのマッキントッシュ版として,同様に著名となったものと認められる。)。また,その著名となった時期については,Office95は,その発売された平成7年11月から1年以内に300万本以上が販売されたものであるから,遅くとも平成8年初めころには,マイクロソフトのオフィスソフトを表す商標として著名となったものと認められ,そのバージョンアップ版であるOffice97及びマッキントッシュ版であるOffice98も,遅くとも平成9年3月及び平成10年9月にそれぞれ発売されるころには,既に著名であったOffice95のバージョンアップ版あるいはマッキントッシュ版として,Office95の著名性をそのまま承継し,著名な商標となったものと認められる。そして,Office2000については,それによって表示される商品の発売自体は,平成11年7月であるものの,既に平成10年6月には,マイクロソフトにより,著名なOffice97のバージョンアップ版として,「Office2000」の名称で発売されることが,少なくとも米国において公式に発表されており,その後,日本においても次期バージョンアップ版の正式名称が「Office2000」となることが様々なマスコミを通じて伝えられ,また,マイクロソフト株式会社(日本法人)が同年11月11日には,日本において「Office2000」の発表会を正式に開催していることからすれば,商標としては,遅くとも本件商標が出願された平成10年12月8日よりも前には,米国及び日本において,マイクロソフトの著名なオフィスソフトであるOffice95及びOffice97のバージョンアップ版の商標として,Office95及びOffice97の著名性を承継し,既に著名な商標となっていたものと認められる。
以上によれば,マイクロソフトのOfficeシリーズ商標(Office95,Office97,Office98マッキントッシュ版,Office2000)は,本件商標の出願時において,同社の業務に係る商品を表示するものとして,取引者・需要者の間において広く認識されていたものとみるのが相当である,旨の決定の認定・判断は,何ら誤りではない。
原告は,オフィスソフトにOfficeとの文字を使用しても自他商品識別機能がない,本件商標の出願時等においてOfficeをその構成中に含む商標は多数登録ないし出願されている,Officeシリーズ商標は,MicrosoftあるいはMSの文字が必ず付記されて使用されているとして,Officeシリーズ商標の周知性を争う。しかし,上述のとおり,Officeシリーズ商標は,オフィスソフトについての,Officeとの文字と西暦を表す数字とを組み合わせた商標であることから,本来ならば,自他商品識別機能が十分ではない性質のものではあるものの,マイクロソフトのオフィスソフトの商標として,MicrosoftないしはマイクロソフトあるいはMSの文字とともに使用され,宣伝広告され,あるいは,マスコミ等により各種の記事及びホームページ等で取り上げられたこと,これによって表示されるオフィスソフト自体が爆発的な売行きとなったことから,少なくとも米国及び日本において,マイクロソフトのオフィスソフトを表す商標として著名になったものであることは,上記に認定したとおりであり,原告の上記主張は,いずれも採用し得ない。
また,原告は,本来的に自他商品識別力がない文字等が使用によって識別力を獲得するためには,特定の者によって相当期間かつ独占的に使用されることが不可欠であるというべきであるのに,マイクロソフトが同業界において独占的に「Office」という文字を含む商標を使用していた時期は存在しない,旨主張する。しかし,マイクロソフト以外の多数の者が,「Office」をその構成中に含む多数の様々な商標を使用し,あるいは,商標登録ないし出願していることは認められるものの,これらの商標は,いずれも「Office」ないし「オフィス」という文字に何らかの特徴的な文字を組み合わせた商標であると認められ(甲4〜甲48,甲113〜甲223),「Office」という文字に単純に西暦を組合せたマイクロソフトの商標とは十分に区別され得るものがほとんどであり,そのような商標が多数存在していたとしても,そのことは,マイクロソフトがOfficeシリーズ商標について著名性を獲得したと認定することについての障害となるものではない。原告の主張は,採用することができない。
2 取消事由2(本件商標とOfficeシリーズ商標の類似性についての認定・判断の誤り)について 決定は,本件商標の「語頭に位置する「i」の文字は,他の構成文字「Office2000」とは明らかに相違する小文字筆記体により表示されているものであるから,該「i」の文字は付記的なものとして看取されるとみるのが相当であり,本件商標は構成中の「Office2000」の文字をもって取引に資される場合が少なからずあるものというべきである。」(決定書6頁37行〜7頁4行)と認定・判断している。そこで,本件商標と「Office2000」との類似性について判断する。
本件商標中の語頭に位置する「i」の文字は,これに続く他の構成文字である「Office」と比べたとき,小文字筆記体を大きく表示したところに特徴があり,本件商標は,外観上も観念上も,「i」と「Office」と「2000」の3つの部分から構成されるものであると認められる。また,その称呼としては,「アイオフィスニセン」,「アイオフィスニゼロゼロゼロ」,「アイオフィス」,「イオフィス」等があり得るが(甲3),この中では,「アイオフィスニセン」がもっとも一般的な称呼となると認められる(弁論の全趣旨)。
しかし,「i」の文字は,単独では,ローマ字のアルファベットの「i」であり,それ自体では特有の意味を有しないこと,「Office2000」の部分は,前記1認定のとおり,マイクロソフトの著名なオフィスソフトの商標である「Office2000」と同一であることからすると,本件商標がその指定商品に使用されるときは,多くの場合,「Office2000」の部分に一般人の注意が集まることになるとみるのが自然であり,その結果,本件商標をみた取引者・需要者は,場合によっては,語頭にある「i」の文字に気付かず,本件商標から「Office2000」のみを看取し,これを「Office2000」と誤認し,あるいは,気付いてもこれを軽視して,「Office2000」のように観念するおそれがあると認められる。また,称呼においても,「アイオフィスニセン」の称呼は,比較的冗長であること,「アイ」自体では,特段の意味を有しないことからすると,「アイオフィスニセン」のうち,「アイ」と「オフィスニセン」とが分離して理解され,後半部分が著名なマイクロソフトの「Office2000」と同一の称呼であるため,前同様に「アイ」の部分が省略され,「オフィスニセン」との称呼をも生じ得るものと認められる。したがって,上述のとおり証拠上認められる,マイクロソフトの商標である「Office2000」の著名性を前提にする限り,本件商標と「Office2000」との類似性を肯定した決定の判断に誤りはない。
原告は,本件商標の中ほどにある「i」は,語頭の「i」と同じ字体であり,全体としてまとまりのある一体不可分の構成となっている旨主張する。しかし,中程にある「i」が語頭の「i」と同じ字体であるとしても,本件商標については,語頭の「i」と「Office2000」とが分離して理解され,認識され得ることは前記のとおりであり,一体不可分の構成でのみ理解され認識され得るものということはできない。
原告は,本件商標の「i」の文字は,「私は」を意味する英単語であり,あるいは,インターネット等の情報通信技術を利用した商取引を示唆する意味合いで用いられることも少なくなく,本件商標は,全体として,「インターネット等の情報通信技術を利用した仮想現実空間における仕事場」といったイメージを需要者に喚起するものであり,語頭の「i」の文字は,自他商品識別機能として重要な役割を果たしている,旨主張する。しかし,英語で「私は」を意味するのは,大文字の「I」であり,また,「I.T.」とか「iモード」とかの言葉が,それぞれインフォメーションテクノロジー(情報通信産業),あるいは,NTT移動通信網が携帯電話向けに開始したインターネット情報サービスを意味する(乙17)としても,「i」の文字が,それ単独でインターネット等の何らかの意味を有するものと認めることはできず,「iOffice」から直ちに「インターネット等の情報通信技術を利用した仮想現実空間における仕事場」とのイメージを需要者に喚起するものと認めることもできない。
原告は,@原告は,平成11年2月から本件商標をグループウエアに使用してきており,本件商標は,遅くとも設定登録時(平成12年2月10日)までに,「アイオフィスニセン」又は「アイオフィス」の称呼で,取引者・需要者の間において相当程度認知されている,A本件商標中の「Office」との部分は,その指定商品との関係において,商品がオフィス用のものであることを示すものとして,すなわち,商品の品質を表すものとして理解され,認識されるにとどまり,独立して商品の出所識別標識として機能することはなく,独立して取引に資されることはない,旨主張する。確かに,原告が「iOffice2000」の販売を開始したことが,平成11年3月3日付けの日本経済新聞,同月24日付けの日経産業新聞に掲載され,その後,NTTドコモのiモードを利用したスケジュール管理ができるように改良した「iOffice2000」を販売する予定であることが,同年5月27日付けの日経産業新聞と同年7月26日付けの日本経済新聞,同年11月19日付けの日経産業新聞に各1回掲載されたこと,及び,原告の「iOffice2000」がパソコン関連の雑誌やインターネット等で,グループウエアとして適宜紹介されていること,並びに,原告が日経産業新聞やパソコン関連の雑誌に各数回「iOffice2000」についての宣伝広告を掲載していることは認められる(甲70〜甲90,甲92〜112)。しかし,原告の証拠上認められる「iOffice2000」の宣伝広告等の回数は上記のとおりそれほど多いものではなく,また,売上高に関しては,主張も証拠の提出もない。そして,東京地方裁判所は,平成11年6月に,原告の「iOffice2000」バージョン2.43について,訴外サイボウズ株式会社の著作権を侵害するものとして,その頒布や使用許諾差止めを認める仮処分決定を下している(丙24,25)。これらの事実をも総合すると,原告の本件商標が「アイオフィスニセン」ないし「アイオフィス」の称呼で,取引者・需要者の間において相当程度認知されていると認めるには,上記認定事実及び証拠では十分ではないという以外にない。また,前記認定のとおり,本件商標中の「Office2000」の部分がマイクロソフトの著名商標である「Office2000」と同一であり,「i」の文字が,それ単独で何らかの意味を有するものと認めることができない以上,本件商標中の「Office2000」の部分が独立して出所識別標識として機能し,この部分が独立して取引に資されるおそれがあるというべきである。これに反する原告の主張は,いずれも採用することができない。
3 取消事由3(不正の目的の認定・判断の誤り)について 決定は,「商標権者は申立人(判決注・マイクロソフト)使用商標が,本件商標の出願前より世界的に周知・著名であった事実を知りながら,申立人使用商標である「Office」と同一の文字をその商標中に含み,申立人使用商標と商標において類似する本件商標を出願したものであり,商標権者が本件商標を採択使用する行為には不正の目的があったものと推認せざるを得ない。」(決定書7頁24行〜28行)と認定判断している。
マイクロソフトのOfficeシリーズ商標が著名な商標であり,Officeシリーズ商標のうちの「Office2000」についても,本件商標の出願時には,少なくとも日本及び米国においてその著名性が認められること,及び,本件商標が上記「Office2000」と類似していることは,前記1及び2で認定したとおりである。
これに対し,原告は,平成10年12月8日に本件商標の出願をし,平成11年2月から,会社の職場での作業の生産性を向上させるための,電子メールやデータベース等を使って社内情報を共有し又は交換するためのソフトウエア(電子メール,電子会議システム,掲示板,共有データベース,スケジュール管理,文書管理,共有アドレス帳などの機能を有するグループウエア)に,本件商標を使用している(甲2,甲3,甲70〜甲75)。
マイクロソフトが,その「Office97」の次期のバージョンアップ版であるオフィスソフトに「Office2000」との名称を使用することを米国において公式に発表したのが,平成10年6月16日であり,それが日本でもマスコミ等で伝えられた後,マイクロソフト株式会社(日本法人)が日本において「Office2000」の発表会を開催したのが,平成10年11月11日であることは前記1認定のとおりであり,この事実に,原告が,パソコンのソフトウエアの一種であるグループウエアを開発し,これを販売することを業とする会社であることを併せて考えれば,原告は,遅くとも本件商標の出願時である平成10年12月8日の一か月以上前には,マイクロソフトの次期オフィスソフトが近く「Office2000」として発売されること,これが既に著名な商標となっていることを十分に知りながら,これと類似する本件商標を出願し,その後これを使用したものであることを優に認めることができる。そして,この認定の下では,原告は,マイクロソフトの商標である「Office2000」の著名性にただ乗りする意図で,本件商標の出願をし,オフィスソフトと密接に関連することが明らかなグループウエアにこれを使用したものと認めざるを得ず,また,原告が本件商標を使用する結果として,マイクロソフトの「Office2000」の著名性が希釈化されるおそれが大きいと認めざるを得ない。したがって,原告がその商品であるグループウエアに本件商標を使用することには,商標法4条1項19号にいう「不正な目的」があったものという以外になく,これと同旨の決定の認定・判断には,何ら誤りはない。
原告は,原告自身が開発したグループウエアを販売するために本件商標を使用しており,不正な目的は全くない,旨主張する。しかし,原告が自ら開発したグループウエアを販売するために本件商標を使用しているとの事実は,何ら,上記不正の目的の存在の認定の妨げとなるものではない。原告が販売しているグループウエアがマイクロソフトが販売しているオフィスソフトと密接な関連性を有するソフトウエアであることは前記のとおりであり,原告がマイクロソフトの著名なオフィスソフトである「Office2000」と類似する本件商標を付したグループウエアを販売することにより,他人の商標の著名性にただ乗りする意図があると認められることは,前記認定のとおりである。原告の上記主張は採用し得ない。
原告は,本件商標出願時においては,「Office2000」が次世代オフィスソフトの名称となるとは予測できなかったし,コンピュータ・ソフトウエア等では,2000年問題があったため、「2000」をその構成中に含む商標が多数あった,旨主張する。しかし,マイクロソフトの次期オフィスソフトの名称が「Office2000」となることは,本件商標の出願の数か月前から正式に公表されており,少なくともパソコン関連業界の業務に従事する者の間においてはこれが周知となっていたことは前記認定のとおりである。また,当時、「2000」をその構成中に含む商標が多数出願・登録されていたとしても,マイクロソフトのOfficeシリーズ商標のように,「Office」と「2000」を組み合わせただけの商標が存在していたことを認め得る証拠もない。したがって,原告の上記主張も採用することができない。
原告は,本件商標の出願時には,マイクロソフトの「Office2000」は発売されておらず,周知性も著名性もなかった旨主張するが,本件商標の出願時において,マイクロソフトの「Office2000」が,それによって表示される商品の発売前であるとはいえ,「Office95」及び「Office97」のバージョンアップ版として,その著名性を承継し,既に著名な商標となっていたことは,前記認定のとおりである。
原告の上記主張も採用することができない。
4 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,その他決定にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴
訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 阿部正幸