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関連ワード 識別力 /  指定商品 /  普通に用いられる方法 /  損害額 /  使用料相当額 /  権利濫用(権利の濫用) /  外観(外観類似) /  国内 /  警告 /  過失の推定 /  並行輸入 /  使用許諾 /  同一の商品 /  継続 /  利益額 / 
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事件 平成 12年 (ワ) 15912号 商標権侵害に基づく損害賠償請求事件
原告 田辺インターナショナル株式会社
訴訟代理人弁護士 島田康男
被告 株式会社ジェイティービートラベランドトレーディング
訴訟代理人弁護士 三浦雅生
同 山本厚
訴訟復代理人弁護士 古笛伴雄
被告補助参加人 株式会社ムース
訴訟代理人弁護士 池末彰郎
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2001/10/31
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は原告に対し,金126万0810円及びこれに対する平成12年8月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを5分し,その1を被告の,その余を原告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
被告は原告に対し,1021万6800円及びこれに対する平成12年8月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,原告が,被告に対して,その有する商標権侵害を理由として損害賠償を請求した事案である。
1 前提となる事実 (1) 原告は,以下の商標権(以下「本件商標権」といい,その登録商標を「本件商標」という。)を有する(争いがない。)。
登録番号 2377063号 出願年月日 昭和63年3月4日 登録年月日 平成4年2月28日 商品の区分 第29類 指定商品 カナダ産のメープルシロップ 登録商標 別紙原告商標目録記載のとおり (2) 被告は,平成8年4月から翌年3月(以下「平成8年度」という場合がある。)まで,及び平成11年4月から翌年3月(以下「平成9年度」という場合がある。)までの間,別紙被告標章目録記載の標章(以下「被告標章」という。)を付したカナダ産メープルシロップ(以下「被告商品」という。)について,その写真を各年度の通信販売用のカタログ(以下「本件カタログ」という。)に掲載した上,これを販売した(争いがない。被告商品の販売数量及び販売時期については争いがある。)。
(3) 被告商品のうち,平成8年度中に販売した分は,ターキーヒルシュガーブッシュ社(以下「ターキー社」という。)が製造し,被告補助参加人(以下「補助参加人」という。)が輸入して被告に販売したものであり,平成11年度中に販売した分は,ターキー社が製造し,訴外有限会社ア(以下「ア社」という。)が輸入して被告に販売したものである(弁論の全趣旨)。
2 争点及び主張 (1) 本件商標と被告標章とは同一又は類似か。
(原告の主張) 本件商標のうち,文字部分は原産地や原材料を普通に用いられる方法で表示したものであるから,その要部は図形部分である。本件商標の図形部分は,丸形の背景に楓の葉の図柄が描かれ,3枚に分かれた葉のうち,中心に位置する葉の全部及びその両脇に位置する葉の一部に,上部からほぼ等間隔に,順次交互に直交する8本の直線が描かれたものである。
被告標章の図形部分は,本件商標の図形部分と同一であるから,被告標章は本件商標に類似し,被告標章を付した製品の販売等は,本件商標権の侵害に当たる。
(被告,補助参加人の反論) 本件商標は,デザイン化された楓の葉の下に,英語の「Canadian Maple Syrup」と片仮名の「カナディアン メープル シロップ」とが並行して記載されているのに対し,被告標章は,デザイン化された楓の葉に重なるように英語の「Canadian Maple Syrup」が記載されている点において,外観が異なる。
本件商標の図形部分は,樹液を採取する時に樹皮に傷を付ける一般的なマークである直行する直線が描かれており,特徴はない。本件商標と被告標章とは,図形部分において同一であるからといって,類似とはいえない。 本件商標と被告標章とは相違する。
(2) 原告の本件商標権に基づく請求は権利濫用に当たるか(抗弁)。
(被告の主張) ア 原告は,昭和63年に代理店契約を締結し,ターキー社の代理店として同社の商品を輸入し,日本での販売を行っていた。
原告代表者田邊裕康は,平成元年,ターキー社に対し,同社の商品に原告においてデザインしたラベルを使用するよう提案し,ターキー社はこれを受け入れ,平成2年2月以降,被告標章を同社の全商品に付した。
原告は,ターキー社が被告標章を採用する際,被告標章の使用についてターキー社に対し何らの請求権も有しないことを確認した。
イ その後,原告は,ターキー社に無断で,被告標章の文字の位置等を少し変えた本件商標について商標登録出願を行い,平成4年に登録を受けたが,商標登録を受けたことをターキー社に知らせることはなかった。
ターキー社は,平成8年,代金トラブルを理由に原告との代理店契約を破棄し,原告との取引を中止したが,その後も,日本を初めとする各国で,被告標章を付した商品の販売を継続した。原告は,これを知りながら何らの警告も行わず,補助参加人,ア社及び被告が被告標章を付した商品を販売することを放置していたにもかかわらず,その後,本件商標権を侵害する旨主張した。
ウ 以上の経緯に鑑みれば,被告標章は,本来ターキー社のものであり,原告が本件商標権を取得して,被告に対し商標権侵害を理由に損害賠償の請求をすることは,権利の濫用に当たり許されない。
(原告の反論) ア 原告は,昭和62年,カナダの貿易商社サチ・インターナショナル社(以下「サチ社」という。)を介して,カナダのシャディメイプルファーム社(以下「シャディ社」という。)製のメープルシロップを輸入し販売するようになった。原告は,メープルシロップに用いる商標のデザインをS氏に依頼し,昭和63年に本件商標の出願をし,平成4年に商標登録を受けた。原告は,シャディ社以外にも,カナダの複数のメープルシロップメーカーと取引をするようになり,シャディ社の商品構成を補完するため,やはりサチ社を介して,ターキー社のメープルシロップを輸入し販売するようになった。
イ 原告は,シャディ社を初め,ターキー社以外から輸入したメイプルシロップにも本件商標を付して販売をしている。ターキー社は,原告の取引先の一つにすぎない。原告は,輸入後に日本国内でラベルを貼付することが煩雑であるため,ターキー社等に本件商標を貼付した上で輸出するよう依頼した。原告は,ターキー社及び他のメープルシロップ製造会社に対して,原告商品以外に本件商標を付することを許諾したことはない。原告とターキー社との取引関係は終了した。
ウ 以上のとおり,本件商標は,本来的に原告のものであり,また,原告が,ターキー社に本件商標の使用を許諾したことはないのであるから,被告の権利濫用の主張は失当である。
(3) 被告が被告商品を販売する行為は,いわゆる真正商品の並行輸入として実質的違法性を欠くか(抗弁)。
(補助参加人の主張) 原告は,昭和63年にターキー社との間で日本における代理店契約を締結し,同契約以降,ターキー社の商品を輸入し,日本で販売を続けていた。また被告標章は,原告代表者である田邊がターキー社に使用を提案し,同提案を受けてターキー社が自社製品に使用していたもので,ターキー社の商標といえる。ターキー社と原告との間のこのような関係からすると,ターキー社と原告とは同一人と同視される特殊な関係があるというべきである。したがって,補助参加人が被告標章が付された被告商品をターキー社から輸入し,被告がこれを販売する行為は,いわゆる真正商品の並行輸入に当たり,実質的違法性を欠き,権利侵害を構成しないというべきである。
(原告の主張) 争う。
(4) 商標権侵害について,被告には過失がないといえるか(抗弁)。
(被告の主張) 被告商品は,被告が海外旅行者から,海外旅行の際の土産品をあらかじめカタログにより注文を受け,注文者が帰国をする際に,自宅又は指定先に届けるという形態で販売されている。「アメリカ・カナダ・メキシコ・ブラジル版」である本件カタログを含め,6地域用のカタログが存在し,これらのカタログによる取扱点数は約900点に及ぶ。被告は多数の輸入販売業者から商品の納入を受け,工業所有権の抵触については,輸入販売業者において調査し対処する旨を合意している。被告は,被告商品についても,補助参加人及びア社との間で上記内容について合意し,補助参加人らにおける確認後,納入を受けた。流通の末端に位置する被告としては,このような態様で取り扱う商品の商標権侵害については過失がないというべきである。
また,被告は,平成11年5月,ア社が原告から本件商標権侵害について警告を受けた直後の同月27日以降,本件商品から被告標章をすべて除去するとともに,本件カタログ(平成11年度版)の臨時改訂を行い,1000万円以上の費用をかけて20万部を新たに印刷し,全国3000箇所余りの旅行代理店に配送した。被告は,商標権侵害の可能性を認識した時点以降,商標権侵害の除去に努めたので,過失はない。
(原告の反論) 被告と補助参加人又はア社との間で,工業所有権の抵触については補助参加人らが調査する旨の合意があったとしても,登録商標と類似する標章を付して商品を販売した被告の過失の推定は覆されない。
原告は,販売業者として,自己が販売する商品に付されている商標の登録,所有関係を調査すべきであり,そのような調査をしていれば本件商標の登録権者が原告であることは容易に知れたのであるから,かかる調査をしなかった被告には過失があったというべきである。
(5) 損害額はいくらか。
(原告の主張) ア 商標法38条1項所定の損害額 被告は,被告商品を,平成8年4月から同9年3月までの間に7821セット(1セットは,メープルシロップ3本からなる。以下同じ。),平成11年4月から同12年3月までの間に6746セット販売した。 原告の同種商品の卸売価格は1セット2418円,その仕入価格は一般管理費込みで1セット1644円であり,1セット当たりの利益は774円を下ることはない。
よって,原告の損害は,被告の譲渡数量に原告の1セット当たりの利益の額を乗じた金額(平成8年度分605万3454円,平成11年度分522万1404円)の合計1127万4858円となる。原告は,内金として1021万6800円を請求する。
イ 商標法38条2項所定の損害額 被告は,被告商品を,平成8年度中は1セット2800円で,平成11年度中は1セット3800円で販売し,その仕入額は1セット1215円である。
被告の利益額を算定するに当たり,一般販売管理費を控除するのは相当でない。
よって,原告の損害は,被告商品の販売額の合計(4753万3600円)から仕入額の合計(1769万8905円)を控除した2983万4695円と推定される。原告は,その内金1021万6800円を請求する。
ウ なお,被告は,平成11年5月27日以降,被告商品から被告標章を除去した旨主張するが,平成12年2月25日に,被告標章を掲載したカタログが旅行代理店に置かれていた事実が認められることからすると,平成12年3月までに販売された被告商品のすべてを対象とすべきである。
(被告及び補助参加人の反論) ア 損害の不発生について (ア) 被告商品は,海外旅行者が,旅行先で土産物を買う手間やこれを日本に運ぶ労力を省くため,あらかじめ旅行代理店等に配布されたカタログにより注文をして,旅行の土産物として家族や知り合いに配布する目的で購買する商品である。被告商品は,すべてカタログを利用して通信販売され,店頭で販売されたことはない。需要者が商品を見て購入するという形態は採られていない。
これに対して,原告の商品は,食品スーパー等の店頭で販売されている。
このように原告の商品と被告商品とでは,販売方法,販売対象等が異なり,市場において競合することはない。
(イ) 本件商標はカナダの国旗に酷似しており,そのデザインは特別の出所表示力を有しない。また,原告の商品の認知度は低く,本件商標は,原告の商標として広く認識されてはいない。
本件カタログにおいて,被告標章は,その形状等がほとんど識別し得ないような形で掲載されている。また,海外旅行の土産物として被告商品を購入する者は,それがカナダの商品であることを前提としており,日本の会社である原告の出所識別表示があると認識すれば,これを購入しない。
被告商品に被告標章を付しても,原告の商品としての出所表示をするものではなく,被告商品を購入した者は,これを原告の商品と誤信,混同して購入することはない。
(ウ) 被告商品が相当数販売されたのは,出発前に海外旅行土産をカタログで選定し,直接届け先に配送するという利便性の高いシステム,このシステムを実現するための大規模かつきめ細かい流通販売体系,3000個所以上の旅行代理店で扱うという販売スケール,個々の旅行代理店の営業努力,及び魅力的な品揃えや価格設定といった種々の要素によるのであって,被告標章は,その販売に寄与していない。
現に,被告は平成11年5月に被告商品から被告標章を除去し,同年7月に本件カタログを改訂したが,被告商品の売り上げは減少せず,むしろ上昇した。
(エ) 以上のとおり,被告標章の使用は,被告商品の売上げに何ら寄与していない。被告が被告標章を使用したことによって,原告には何らの損害も生じていない。
イ 商標法38条1項,2項所定の損害額 (ア) 被告は,平成8年4月から平成9年3月までに間に被告標章を付した被告商品を7812セット販売し,平成11年4月から同年5月27日までの間に,被告標章を付した被告商品を873セット販売したが,その後は,前述のとおり,被告商品から被告標章を除去し,同年7月には本件カタログの改訂も行った。
(イ) 原告の同種商品の1セット当たりの卸売価格は1890円であり,仕入価格は1644円であるから,その利益が246円を超えることはない。
また,被告標章を付した被告商品の販売額は,平成8年度においては2189万8800円,同11年度においては331万7400円であり,仕入原価,販売手数料,営業費を控除した利益は,平成8年度においては36万0084円,同11年度においては3万3744円である。
したがって,商標法38条1項,2項の規定による損害額は,上記のとおりの金額というべきである。
使用料相当額 本件商標には特別の識別力がないこと,本件商標が特に市場で認知されているわけではないこと,被告商品の売上が被告標章の存在によるものではないことなど等の事情を考慮すると,その使用料相当額は,被告商品販売額の2パーセントを超えることはない。
当裁判所の判断
1 本件商標と被告標章との類否及び商標権侵害の成否について (1) 本件商標 本件商標は,円形の背景の中に描かれた楓の葉の図形(以下「本件図形」という。)と,その下に配置された上下二段の文字部分から構成されている。本件図形は,楓の葉を図形化したものであり,葉の中央部分で交互に交差するよう,左右から伸びる8本の直線が上からほぼ等間隔で配され,葉先の形状がやや丸みを帯び,葉柄部分が膨んでいるように描かれている。本件商標の文字部分は,上段に,アルファベットで「Canadian Maple Syrup」,下段に,カタカナで「カナディアン メープル シロップ」と,それぞれ横書きされている。
文字部分のうち「カナディアン」はカナダのという意味であり,「メープルシロップ」は,楓の樹液から作られた天然甘味料という意味であること,メープルシロップはカナダの特産品の一つとして広く知られていること,文字部分は,カナダ産のメープルシロップについて,英語及び日本語で表記したものであって,字体に格別特徴はないことに照らすならば,要部とはいえない。したがって,本件商標の要部は本件図形であると解される。
(2) 被告標章 被告標章は,円形及び楓の葉の図形と,「Canadian Maple Syrup」のアルファベット文字から構成されている。楓の葉の図形は,葉の中央部分で交互に交差するよう,左右から伸びる8本の直線が上からほぼ等間隔で配され,葉先の形状がやや丸みを帯び,葉柄部分が膨んでいる。また,「Canadian Maple Syrup」のアルファベット文字は,楓の葉の図形に重ねられている。
文字部分のうち「Canadian」はカナダのという意味であり,「Maple Syrup」は,楓の樹液から作られた天然甘味料という意味であること,メープルシロップはカナダの特産品の一つとして広く知られていること,文字部分は,カナダ産のメープルシロップについて,英語で表記したものであって,字体にも特徴はないことに照らすならば,要部とはいえない。したがって,被告標章についても,その要部は楓の葉の図形部分であると解される。
(3) 本件商標と被告標章との対比及び商標権侵害の成否 本件商標と被告標章の各図形部分を対比すると,全体の形状,細部の状況及び背景の特徴はすべて共通し,両者は実質的に同一といえる。
本件商標と被告標章は類似又は実質的に同一ということができ,また,被告商品は本件商標の指定商品と同一である。
したがって,被告標章を付した被告商品の写真を本件カタログに掲載した上,通信販売の方法によって,被告標章を付した被告商品を販売した被告の行為は,本件商標権を侵害する。
2 権利濫用の有無について (1) 前記前提となる事実,証拠(甲7ないし14,19,20,42,51,乙1ないし3,5,7,9,10,11,13ないし19,24ないし28,32ないし39)及び弁論の全趣旨によれば以下の事実を認定することができ,これに反する証拠はない。
ア 原告は,昭和61年2月に設立された食品輸入商社であり,主としてカナダ,アメリカ,英国から,メープルシロップとその関連商品,パスタ類,ソース類,ジュース類,紅茶等を輸入して,ホテル,レストラン,健康食品店等に販売している。
原告は,昭和62年,カナダのシャディ社,ターキー社等が製造したメープルシロップについて,日本国内において試験販売をし,昭和63年,その本格的な販売を開始した。
原告は,昭和62年末ころ,Sに対し,楓の葉をテーマにした図形の作成を依頼して本件図形を完成し,これを基に翌年本件商標の登録出願手続を行い,平成4年2月28日に商標登録を受けた。
イ 原告は,シャディ社,ターキー社等との間で,日本における販売代理店契約を締結し,メープルシロップの輸入販売を行った。原告は,昭和63年,ターキー社に対し,同社が日本に輸出するメイプルシロップについては,原告自身が貼付することが煩雑であるため,あらかじめ本件図形を用いたラベルを貼付するよう依頼した。さらに,原告は,平成元年,原告が日本で販売するターキー社の商品が,日本以外で販売される同社の商品と同一になるよう,同社に対し,日本以外に販売する商品にも本件図形を使用するよう要請した。ターキー社は,平成2年2月,原告の要請に応じることとし,本件商標の本件図形部分からなる標章(以下「本件図形標章」という。)をメープルシロップ及びその関連商品に使用した。なお,原告は,ターキー社に対し,本件商標の登録を受けたことを知らせていない。
ウ ターキー社は,昭和63年以降,原告との間で代理店契約を締結して,メープルシロップ及びその関連製品を原告に継続的に供給していたが,商品クレーム問題の処理費用の負担を巡って紛争が生じたことから代理店契約を解除し,平成8年3月の出荷を最後に,原告との取引を中止した。しかし,ターキー社は,代理店契約解除後も本件図形標章の使用を継続していた。
(2) 上記認定した事実を基礎にして検討する。原告は,自己の販売する商品に使用するために,本件図形を第三者に創作させ,本件商標の登録出願手続を行い,平成4年2月28日に登録を受けたこと,原告が,ターキー社に対し,原告が販売する商品及び同社が扱う他の商品に本件図形標章を使用することを許諾したのは,原告の便宜のためであったこと,右標章使用許諾に関しては格別の取り決めもなく,無償の許諾であったこと,平成8年3月までに原告とターキー社の取引が終了し,代理店契約等が解消されたことにより,ターキー社は,本件図形標章を使用する権限を失ったと解するのが相当であること等の事実に照らすならば,原告が,被告に対し,本件商標権侵害を理由に損害賠償の請求をすることについて,権利の濫用に当たるということはできない。原告が商標権侵害の事実を知りながら直ちに権利行使をしなかったからといって,後にした権利行使が権利の濫用に当たることにもならない。
本件請求が権利の濫用に当たるとする被告の主張は失当である。
3 真正商品の並行輸入の主張の可否について 前記2において認定したとおり,ターキー社は,原告との取引が継続していた間も,被告標章を使用する固有の地位を有していたとはいえないこと,ターキー社は,原告との取引を平成8年3月に終了した後,本件図形標章又は被告標章を使用する権限を失ったとみるのが相当であることに照らすならば,前記取引が終了した後のターキー社と原告との関係について,契約上又は経済上の結合関係があって,両者の間に同一人と同視し得る特殊な関係があると解することはできない(この点は,ターキー社が同社の商品に本件図形標章を使用することになった経緯が,原告の要請によるものであることを考慮にいれても,なお消長を来さない。)。
したがって,被告標章を付したターキー社製造に係る商品を販売する被告の行為が,いわゆる真正商品の並行輸入として実質的違法性を欠くということはできない。
4 被告の過失の有無について 被告は,輸入販売業者から商品の供給を受けるに当たり,あらかじめ,工業所有権侵害については,輸入販売業者において調査し対処する旨合意したこと,被告の立場では,商標権侵害について確認できないこと等を理由として,過失の推定を覆すべき特段の事情がある旨を主張する。
しかし,被告と商品の納入業者との合意により,納入業者において工業所有権の抵触には対処することを約していたとしても,商標権侵害について,被告に予見可能性がなかったとする特段の事情があると判断することはできない。その他被告はるる主張するがいずれも理由がない。
この点に関する被告の主張は採用できない。
5 損害の算定について (1) 商標法38条1項及び2項について検討する。
ア まず,商標法38条1項は,商標権者がその侵害行為がなければ販売することができた商品の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を,商標権者の実施の能力を超えない限度において,商標権者の受けた損害の額とすることができる趣旨を規定している。
ところで,商標権は,商標それ自体に当然に商品価値が存在するのではなく,商品の出所たる企業等の営業上の信用等と結び付くことによってはじめて一定の価値が生ずる性質を有する点で,特許権,実用新案権及び意匠権などの他の工業所有権とは異なる。商標権侵害があった場合,侵害品と商標権者の商品との間には,必ずしも性能や効用において同一性が存在するとは限らないから,侵害品と商標権者の商品との間には,市場において,当然には相互補完関係(需用者が侵害品を購入しなかった場合に商標権者の商品を購入するであろうという関係)が存在するということはできない。特許権侵害等があった場合,侵害品が売れたことは,当該特許権等を実施した製品についての需要が存在するということを意味するといっても差し支えないが,商標権侵害があった場合,侵害品が売れたからといって,当該商標を付した商品についての需要があったということを当然には意味しない。そうとすると,商標法38条1項所定の「商標権者がその侵害行為がなければ販売することができた」か否かについては,商標権者が侵害品と同一の商品を販売(第三者に実施させる場合も含む。以下同じ。)しているか否か,販売している場合、その販売の態様はどのようなものであったか,当該商標と商品の出所たる企業の営業上の信用等とどの程度結びついていたか等を総合的に勘案して判断すべきである。
この観点から,以下検討する。
イ 前提となる事実,証拠(前掲各証拠,甲15ないし18,23ないし26,28ないし38,45ないし48,50,乙31,丙1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば,以下のとおりの事実が認められる。
(ア) 原告は,食品輸入商社であり,主としてカナダから,メープルシロップとその関連商品等を輸入して,ホテル,レストラン,健康食品店等に販売している。
原告が,原告の商品に本件図形標章を使用していた態様は,次のとおりである。まず,ターキー社との代理店契約を解消する以前においては,平成元年ころから,日本国内で販売するターキー社及びシャディ社のメープルシロップに本件図形標章を使用したが,必ずしもすべてに使用したわけではない。平成6年までに発行された雑誌又はカタログで,本件図形標章と原告の取り扱う商品との結びつきが示されたものとしては,原告自身のパンフレット(甲17)及び平成3年2月に発行された雑誌(甲38)のみである。また,原告とターキー社との取引が終了した平成8年以降においては,H.T.エミコット社(以下「エミコット社」という。)が製造するメープルシロップに本件図形標章を使用した。しかし,輸入元又は販売元としての原告が表記されているものは多くなく,単に本件図形標章を付したメイプルシロップ類の写真が掲載されているにすぎないものが大部分である。本件図形標章を用いたエミコット社の商品で,原告の扱う商品との結びつきが示されたものとしては,原告自身の価格表(甲50)及び平成13年4月に発行された雑誌(甲32)のみである(使用の時期が不明なものは除いた。)。
(イ) 被告は,大手旅行会社のグループ企業であり,主として同旅行会社が主催する海外旅行の参加者向けに,「海外おみやげ宅配便・おみやげおまかせ」の名称で,カタログによる通信販売事業を営んでいる。同通信販売事業については,被告が,海外旅行に出発する旅行者からあらかじめ土産品の注文を受け,旅行者が帰国すると同時に,これを自宅又は指定先に配送する方法によっている。土産品の注文は,被告が作成したカタログによって行われ,被告はこのために,多数の商品を掲載したカタログを旅行の目的地別に6種類用意し,これらを全国に多数存在する前記旅行会社の代理店に配布している。被告は,前記カタログに掲載した商品を通信販売の方法によってのみ販売し,店頭販売は行っていない。被告が前記通信販売事業により販売する商品は,菓子,食品,雑貨,酒類等多品種に及び,被告は,多数の輸入業者から商品の納入を受けている。
ウ 上記認定した事実によれば,@被告商品の販売は,カタログを利用した通信販売に限定され,前記カタログは,被告の関連会社である大手旅行会社の代理店等に置かれていること,及び被告の通信販売事業が,海外旅行者のための土産品販売であることを考慮すると,これを利用する者は,前記旅行会社が主催する海外旅行の参加者が主であると推認されるのに対し,原告は,取り扱うメープルシロップ類を,主として,食品輸入商社として,食品販売店,ホテルその他に販売しているから,原告と被告では,対象とする市場及び需用者が相違すること(なお,原告が取り扱うエミコット社のメープルシロップも,被告の事業に類似する「おみやげ予約宅配サービス」のカタログ(甲24)に掲載されたことがあるが,同カタログが発行されたのは,被告標章を付した被告商品の販売が終了した後である。),A原告は,本件図形標章を,原告のパンフレットや価格表に用いたことがあるものの,雑誌やカタログには,商品の写真を掲載するだけで,本件図形標章と原告の名称とを関連付けて掲げた例は少ないこと,他方,被告が頒布した本件カタログ(平成8年度版,平成11年度版)において,被告標章を付した被告商品の写真が掲載されているが,同写真では本件図形の特徴をほとんど看取し得ないこと,B日本国内において,他社の製造に係る多数のメープルシロップが,輸入,販売されていること(丙1ないし3)等の事情を総合的に勘案すると,被告の本件商標権侵害がなければ,原告が自己の商品を販売することができたという関係はそもそも存在しないというべきである。
そうすると,商標法38条1項によって原告の損害を算定することは相当とはいえない。また,同様の理由から,同法38条2項によって,被告の利益を原告の損害と推定することも,相当とはいえない。
(2) そこで,商標法38条3項の規定により,本件商標の使用に対し受けるべき金銭の額を算定する。
前掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,被告は,平成8年4月から同9年3月までに被告標章を付した被告商品7821セットを,1セット当たり2800円で販売し,その売上高は2189万8800円であり,また,平成11年4月から同年5月までの間に,被告標章を付した被告商品873セットを,1セット当たり3800円で販売し,その売上高は331万7400円であること,売上高の合計は2521万6200円であることが認められる。
そして,本件商標は,原告自らが第三者に創作させたものであること,ターキー社に対する標章の使用許諾は無償であったが,これは原告にも利点があるという特殊な事情があったこと,その他前記認定に係る一切の事情を総合考慮すると,本件商標の使用料相当額は,被告商品の販売額の5パーセントである126万0810円というべきであり,したがって,同額が原告の損害ということになる。
6 結語 よって,原告の請求は,被告に対し126万0810円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成12年8月23日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 谷有恒
裁判官 佐野信
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