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関連審決 無効2000-35508
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18ネ10085損害賠償請求控訴事件 判例 商標
平成22ネ10076商標権侵害差止等請求控訴事件 判例 商標
平成20ワ1606商標権侵害差止等請求事件 判例 商標
平成20ワ34852商標権侵害差止等請求事件 判例 商標
関連ワード 識別力 /  包装 /  識別機能 /  指定商品 /  普通名称(3条1項1号) /  普通に用いられる方法 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  損害額 /  権利濫用(権利の濫用) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  取引の実情 /  出所の混同 /  国内 /  差止 /  使用許諾 /  無効審判 /  外国 /  商号 /  利益額 / 
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事件 平成 13年 (ネ) 1221号 商標権侵害差止等請求控訴事件
控訴人 株式会社武蔵野化学研究所
訴訟代理人弁護士 島田康男
被控訴人 ピューラック・ジャパン株式会社
訴訟代理人弁護士 中島徹
同 木村久也
同 斎藤亜紀
同 寺原真希子
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/10/31
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴人の当審で追加した請求を棄却する。
3 当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人 (1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人は、乳酸又はその容器若しくは包装に別紙標章目録記載(1)ないし(3)の各標章を付し、各標章を付した乳酸又はその包装に各標章を付したものを販売し、販売のため展示し、又はそれに関する広告、取引書類に各標章を付してはならない。
(3) 被控訴人は、別紙広告目録記載の謝罪文を株式会社食品化学新聞社発行の「食品化学新聞」に1回掲載せよ。
(4) 被控訴人は、控訴人に対し、金1885万円及びこれに対する平成12年8月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5) 訴訟費用は、第1、2審を通じ、被控訴人の負担とする。
2 被控訴人 主文と同旨
事案の概要
本件は、被控訴人が別紙標章目録記載(1)ないし(3)の標章(以下「被控訴人標章(1)」ないし「被控訴人標章(3)」といい、これらを総称して「被控訴人標章」という。)を乳酸に付するなどして使用し、控訴人の商標権を侵害していると主張して、控訴人が、被控訴人に対し、商標法36条1項に基づき被控訴人標章の使用の差止めを、民法709条、商標法38条1項に基づき損害の賠償を、同法39条において準用する特許法106条に基づき謝罪広告の掲載を、それぞれ求める事案である。
なお、被控訴人標章(2)及び(3)に係る請求は、当審において追加されたものである。
1 争いのない事実等 (1) 控訴人は、有機酸その他の化学工業製品の製造、加工、販売、輸出入等を業とする株式会社であり、被控訴人は、乳酸及び乳酸誘導体の輸入、マーケティング業務、販売、新製品の開発等を業とする株式会社である。控訴人及び被控訴人は、いずれも、乳酸と乳酸ナトリウムの混合物から成る食品添加物であるpH調整剤(以下「本件pH調整剤」という。)を販売している。
(2) 控訴人は、次の商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件商標」という。)の商標権者である。
出願年月日 平成7年6月7日 査定年月日 平成9年7月3日 登録年月日 同年8月22日 登録番号 第3341616号 商品区分 商標法施行令別表第1類 指定商品 乳酸 登録商標 別紙商標目録記載のとおり 2 控訴人の主張 (1) 被控訴人は、平成9年9月以降、被控訴人標章を付した本件pH調整剤を販売し、その広告に被控訴人標章を付している。
被控訴人は、被控訴人標章を、被控訴人の販売する本件pH調整剤(以下「被控訴人商品」という。)の広告のみならず、被控訴人商品及びその取引書類にも付している。また、被控訴人商品の広告に被控訴人標章を付す行為は本件商標権を侵害するから、被控訴人商品に被控訴人標章を付す行為など他の態様の使用行為についても、本件商標権を侵害するものとして差止めの必要性がある。
被控訴人による被控訴人標章の使用態様は、自他商品の識別機能を果たすものであり、商標としての使用というべきである。
(2) 被控訴人標章(1)は、本件商標と称呼が同一で外観が酷似しており、全体として本件商標と類似している。被控訴人標章(2)の要部は「カンショウ乳酸」であって本件商標と称呼が同一で外観が酷似しており、被控訴人標章(3)の要部は「緩衝乳酸」であって本件商標と称呼が同一であり、被控訴人標章(2)及び(3)は、いずれも全体として本件商標と類似している。したがって、被控訴人の上記(1)の行為は、
本件商標権の侵害行為に当たる。
(3) 被控訴人は、平成9年9月から平成12年3月までの間に、被控訴人標章を付した被控訴人商品を合計145トン販売した。控訴人は、本件pH調整剤の販売について1トン当たり13万円の利益を得ている。したがって、控訴人が被控訴人の本件商標権の侵害行為により被った損害は、商標法38条1項により1885万円と推定される。
(4) 被控訴人は、業界紙である株式会社食品化学新聞社発行の「食品化学新聞」に被控訴人商品の広告を掲載してきたから、被控訴人による本件商標権の侵害行為によって控訴人が被った被害を回復するためには、同新聞に別紙広告目録記載の謝罪文を掲載することが必要である。
(5) 被控訴人は、本件商標が商標法3条1項1号に掲げる商標に該当し、その登録には同法46条1項1号所定の無効事由が存在することが明らかであると主張する。
しかしながら、本件商標は、以下のとおり、有機酸類又は乳酸塩類の一種類名を表す普通名称ではない。
ア 「カンショウ乳酸」という名称の有機酸又は乳酸塩は存在せず、そのようにいう文献も見当たらないのであって、本件商標が有機酸類又は乳酸塩類(pH調整剤)の一種類名を表す普通名称ではない。
イ 乳酸と乳酸ナトリウムの混合溶液のように緩衝作用のある溶液について「緩衝乳酸」と呼ばれることはない。有機化学の研究者の世界でも、食品添加物の業界においても、このような語は使用されず、「乳酸緩衝液」と表示される。
乳酸と乳酸ナトリウムの混合溶液だけでなく、酢酸と酢酸ナトリウムの混合溶液等は、緩衝作用が認められることから緩衝溶液といわれ、「酢酸緩衝液」などと表示されるが、これらの混合溶液が「緩衝酢酸」などといわれることはない。「クエン酸緩衝液」、「ギ酸緩衝液」、「酢酸リチウム緩衝液」、「リン酸緩衝液」等の混合溶液も同様である。
有機酸(弱酸)とその塩から成る緩衝溶液について、これを構成する有機酸及び塩により表示することは普通に行われており、これによれば、乳酸と乳酸ナトリウムの混合物から成る緩衝溶液は「乳酸-乳酸ナトリウム」と表示される。
ウ 「緩衝乳酸」の語が乳酸と乳酸ナトリウムの混合物を表す普通名称でない以上、その一部を片仮名で表記した本件商標が普通名称であるということはできない。
外国文献においては、「buffered lactic acid」「lactic acid buffered」「lactate buffer」など、乳酸と乳酸ナトリウムの混合物である緩衝溶液を意味する表現が見られるが、日本語に翻訳されるときは、日本語として一般的な「乳酸-乳酸ナトリウム緩衝液」又は「乳酸緩衝液」と表現される。上記の英語表現等が外国文献に存在することは、日本語として使用されていない「緩衝乳酸」が乳酸と乳酸ナトリウムの混合物の普通名称であることの根拠となるものではない。
オ 本件商標は、控訴人の商品名であり、控訴人の営業努力によって食品業界に広く知られるようになった。本件pH調整剤の製造販売は、控訴人が昭和42年5月に行ったのが最初であり、控訴人は、この製品(以下「控訴人製品」という。)に控訴人の造語である「カンショウ乳酸」の商標を付した。以後、本件商標を付した製品は、控訴人の製造販売に係る本件pH調整剤として、同業界において広く知られるところとなったため、控訴人は、ブランド政策の観点から、平成7年6月7日、本件商標の登録出願を行い、平成9年8月22日に設定登録を受けた。近年、被控訴人が本件pH調整剤の我が国における販売を本格化する前には、控訴人は、国内最大手として、本件pH調整剤の製造販売総量の9割程度を占めていた。
カ 商標が誤って普通名称として使用された場合において、そのような使用のすべてに対し商標権者が対応することは困難であり、単に1回誤った普通名称として使用されたことから直ちに、当該表示が普通名称化したということはできない。安易に普通名称化を認めることは、周知又は著名な商標の商標権者が永年にわたって築いてきた商標に化体された業務上の信用を無にするおそれがあり、商標法の制度趣旨に反する。
キ 小田聞多「新めんの本第3版」(食品産業新聞社1992年11月15日発行、乙第11号証、以下「小田文献」という。)は、本件pH調整剤を表示する普通名称として「緩衝乳酸」の語を誤って用いているが、普通名称としては「乳酸緩衝液」又は「乳酸-乳酸ナトリウム緩衝液」と表示すべきであった。執筆者らは、控訴人の製品である本件pH調整剤が業界に広く知られていたので、乳酸緩衝液の例としてこれを挙げたが、商品名をそのまま書籍に用いることを避け、本件商標の片仮名部分を漢字で表記したものである。
ク 藤野満「乳酸の特徴と食品への利用」(月刊フードケミカル1997年2月号、乙第10号証、以下「藤野論文」という。)は、当時、業界でよく知られていた控訴人製品を取り上げるについて「カンショウ乳酸」の語を表示したものであって、読者もそのように理解している。業界紙においては、メーカーの社員が研究発表の形で自社製品について書くことは通常見られるところであり、この一事をもって「カンショウ乳酸」が普通名称化したということはできない。
ケ 控訴人は、本件商標等を違法に使用する者に対して、その使用の差止め等を要求しており、「緩衝乳酸」の商標を使用していた者は、これに応じ、その使用を中止した。
被控訴人は、三共フーヅ株式会社(旧商号・三共イースト株式会社、以下「三共フーヅ」という。)の包装容器(乙第8号証)により、三共フーヅが本件商標を使用していることから、本件商標が普通名称であると主張するが、三共フーヅは、本件商標について控訴人と使用許諾契約を締結して適法に本件商標を使用しているのであり、このことは、本件商標が普通名称化していないことの証左である。
コ 被控訴人は、アムステルダム化薬会社作成及び重松貿易株式会社発行に係る「乳酸と乳酸塩」(乙第12号証の2の5)に「緩衝乳酸」の表示があると主張するが、同証において、本件pH調整剤は「乳酸-乳酸ナトリウム緩衝剤」と表示されており、「緩衝乳酸」とは表示されていない。
サ 控訴人の関連会社である武蔵野商事株式会社作成の「カンショウ乳酸」のパンフレット(乙第12号証の2の6)には、「カンショウ乳酸は、食品のpH調整剤です」、「カンショウ乳酸は緩衝作用を持つpH調整剤です」等の記載があるが、これらの記載によれば、本件商標は当該製品の商標として使用されており、その普通名称は「pH調整剤」である。本件商標が本件pH調整剤の普通名称であるならば、「本件製品はカンショウ乳酸です」と表示されるはずであるが、同証において「カンショウ乳酸は、食品のpH調整剤です」、「カンショウ乳酸は緩衝作用を持つpH調整剤です」と記載されているのは、本件商標が本件pH調整剤の普通名称ではないことの証左である。
シ 片仮名の「カンショウ」に対応する漢字は、「干渉」、「観賞」、「鑑賞」等多数あり、「緩衝」に限られないから、この点においても、本件商標が普通名称であるということはできない。
ス インターネットの検索サイト「goo」、「infoseek」、「BIGLOBE」及び「YAHOO」において、検索条件を「緩衝乳酸」とすると、本件訴訟以外の検索結果は表示されず、検索条件を「緩衝」及び「乳酸」の両方を含むとすると、多数の検索結果が表示される。そうすると、「乳酸緩衝液」のように「緩衝」と「乳酸」の語が同時に表記されることは頻繁であるのに対し、「緩衝乳酸」という学術用語は存在しないことが分かるから、「緩衝乳酸」及び本件商標が普通名称であるということはできない。
セ 商標法3条1項1号該当性は、主として商標の外観により判断されるところ、「カンショウ乳酸」は「緩衝乳酸」と外観上異なるから、同号該当性を認めることはできない。
3 被控訴人の主張 (1) 被控訴人は、設立された平成10年2月2日以降、被控訴人標章(1)を被控訴人商品の広告に付したことはあったが(乙第1号証)、被控訴人商品のラベルに付したことはない。被控訴人は、平成12年5月ころまで、被控訴人標章(2)を被控訴人商品の箱のラベル及び請求書に付し(乙第4号証、乙第7号証の1〜5)、
その後、被控訴人標章(3)を被控訴人商品の箱のラベル、請求書及び広告に付している(乙第5号証、乙第6号証、乙第20号証)。
(2) 被控訴人は、被控訴人商品の広告において、商品の普通名称として被控訴人標章(1)の表示をしたものであり、商標として使用したものではない。「カンショウ乳酸」及び「緩衝乳酸」が普通名称である以上、これらに商品の特性を示す「発酵」の文字を付した被控訴人標章(2)及び(3)も同様に、商標として使用されたものではない。
(3) 被控訴人標章と本件商標は、外観において類似していない。また、本件商標及び被控訴人標章が使用される商品は食品添加物であり、その需要者は食品製造メーカーであって、その販売元による個別かつ直接の販売活動を通じてこれを購入するものであること、控訴人製品と被控訴人商品が原材料を異にすること、被控訴人が乳酸の広告に「カンショウ乳酸」と表示する場合には、必ずそのすぐ近くに被控訴人の会社名を表示していたことなど取引の実情に照らせば、被控訴人標章と本件商標は、商品の出所の混同を生ずるおそれがない。したがって、被控訴人標章は本件商標と類似しないというべきである。
(4) 本件商標は、以下のとおり、化学物質の名称である「Buffered Lactic Acid」を和訳した「緩衝乳酸」という用語について(Bufferedは緩衝作用を意味し、Lactic Acidは乳酸を意味する。)、「緩衝」の部分を片仮名とし、全体を行書体で書してなるものであって、商品の普通名称普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として商標法3条1項1号に掲げる商標に該当し、その登録には同法46条1項1号所定の無効事由が存在することが明らかであり、控訴人の本件商標権に基づく請求は、権利の濫用として許されないというべきである。なお、被控訴人を請求人、控訴人を被請求人とする商標登録無効審判事件(無効2000-35508)において、平成13年5月8日、上記理由により本件商標に係る商標登録を無効とするとの審決がされた。
ア 小田文献(乙第11号証)においては、有機酸の一種として「緩衝乳酸」が挙げられ、藤野論文(乙第10号証)においては、乳酸塩の一種として「カンショウ乳酸」が挙げられている。これら書証の記載が誤りであるとする証拠はない以上、「カンショウ乳酸」は、有機酸類又は乳酸塩類(pH調整剤)の一種類名を表す普通名称というべきである。
イ 本件商標は、新製品に付された名称が普通名称化したものであるから、
酢酸と酢酸ナトリウムの混合溶液など、本件pH調整剤以外の緩衝作用を有する混合溶液について、「酢酸緩衝液」などと表示され「緩衝酢酸」などと表示されないとしても、そのことから直ちに、本件商標が普通名称であることを否定することはできない。
ある製品について、普通名称が一つに限られるということはないから、
本件pH調整剤が「乳酸-乳酸ナトリウム」という普通名称により表示されることがあっても、本件商標が普通名称であることを否定することはできない。学術論文においては、化学的成分を明らかにするという意味で、成分表示を用いた学術用語である「乳酸-乳酸ナトリウム」という用語が用いられ、取引において通常用いられる慣用的名称としての普通名称が用いられないことも自然である。
ウ 控訴人は、「緩衝乳酸」の語が乳酸と乳酸ナトリウムの混合物を表す普通名称ではないことを前提として、その一部を片仮名で表記した本件商標が普通名称であるということはできないと主張するが、「緩衝乳酸」は普通名称であるから、控訴人の主張は前提を欠く。
外国文献において使用される「buffered lactic acid」などの表現は、
「緩衝(buffered)」「乳酸(lactic acid)」という日本語の表現と合致する。日本語の「乳酸-乳酸ナトリウム緩衝液」は英語の「lactic acid-sodium lactate buffer solution」に、日本語の「乳酸緩衝液」は英語の「lactic acid buffer solution」に、それぞれ合致する。
本件商標が控訴人の造語であるとしても、英単語の直訳をつなげて熟語にしただけのものであって、使用されるうちに普通名称化しやすいものである。
オ 当初、本件pH調整剤を控訴人のみが製造販売していたからこそ、被控訴人等がその製造販売を始めたことにより、本件商標が普通名称化したものである。
控訴人以外の者が本件商標と異なる名称を付して本件pH調整剤の製造販売をしていたならば、本件商標の普通名称化はむしろ困難であったはずである。
カ 控訴人主張のように本件商標が周知であることの証明はなく、これが1回だけ誤用されたということもできない。本件商標が普通名称として複数回使用されたことは、証拠から明らかである。
キ 藤野論文(乙第10号証)が「カンショウ乳酸」の語を使用するに当たっては、だれが製造販売したかに関係なく、種類物としての本件pH調整剤を表示している。メーカーの社員が研究発表の形で自社製品について書く場合にも、自社製品を普通名称により表すことはあり得る。
ク 控訴人は、控訴人製品である本件pH調整剤が業界に広く知られていたとか、小田文献(乙第11号証)の執筆者らが商品名をそのまま書籍に用いることを避けたなどと主張するが、単なる憶測にすぎない。
ケ 「緩衝乳酸」の商標を使用していた者がその使用を中止したとしても、
使用者が、法律的に商標権の侵害に当たるかどうかを問わず、紛争を避けるためにその使用を中止することは、頻繁に見られることであって、上記商標が普通名称であることを否定する根拠とはならない。
商標の使用許諾を受けた者が真正商品を販売する場合には、当該商標の商標権者を表示するものであり、そのような表示がない場合には、当該商標は製品の普通名称であると認識される。
コ 本件pH調整剤が「乳酸-乳酸ナトリウム緩衝液」の普通名称を有していても、取引用語として「緩衝乳酸」の普通名称を有することを否定することはできない。「乳酸と乳酸塩」(乙第12号証の2の5)の記載は、「緩衝乳酸」の語が普通名称であることを示している。
サ 控訴人作成のパンフレット(乙第12号証2の6)に「カンショウ乳酸は、食品のpH調整剤です」等の記載がされていても、「カンショウ乳酸」が普通名称であることを否定することはできない。また、本件pH調整剤が「乳酸-乳酸ナトリウム混合pH調整剤」及び「カンショウ乳酸」という複数の普通名称を有することは、種類物一般について頻繁にあることである。また、本件商標が本件pH調整剤の普通名称であっても、その性能及び効能を説明するために「カンショウ乳酸は、食品のpH調整剤です」などの記載がされることは自然である。
シ 化学物質について片仮名を用いた表示がされることは非常に多く、「緩衝」の部分を片仮名で表記することは独創的なことではない。片仮名の「カンショウ」に対応する漢字が多数あっても、「緩衝」の片仮名表記は「カンショウ」しかないのであるから、この点で本件商標が普通名称であるということは否定し得ない。
(5) 被控訴人が被控訴人標章(1)を使用した行為は、「緩衝乳酸」という化学物質の普通名称である「カンショウ乳酸」を普通に用いられる方法で表示したものであるから、商標法26条1項2号に掲げる商標に当たり、本件商標権の効力が及ばない。被控訴人標章(2)及び(3)も、「カンショウ乳酸」及び「緩衝乳酸」という化学物質の普通名称に「発酵」という特性を付したもの及びその効能を普通に用いられる方法で表示したものであるから、同様に、本件商標権の効力は及ばない。
(6) 被控訴人には、今後、被控訴人標章(1)を使用する計画が全くないから、
同標章については、差止めの必要性がない。
(7) 損害額の算定について控訴人の主張する販売量及び利益額は、何ら根拠がない。
また、控訴人製品と被控訴人商品との間に誤認混同が生じたことがないこと、控訴人及び被控訴人以外の会社によっても「カンショウ乳酸」という表示が用いられていること、食品添加物の需要者である食品メーカーはその原材料に着目するものであって、原材料が異なる控訴人製品と被控訴人商品との間に代替性がないことなどに照らすと、被控訴人が被控訴人標章を使用したことにより控訴人製品の販売量が減少したとはいえない。したがって、被控訴人による被控訴人標章の使用と控訴人の損害との間に相当因果関係を認めることはできない。
(8) 被控訴人による被控訴人標章の使用によって控訴人の業務上の信用は何ら害されていないから、謝罪広告の必要性はない。
4 争点 (1) 被控訴人標章の使用態様及び商標として使用の有無 (2) 本件商標権の侵害の有無(被控訴人標章と本件商標の類否) (3) 本件商標権に係る商標登録の無効事由の有無(商標法3条1項1号該当性)と本件商標権に基づく請求の許否 (4) 本件商標権の効力の制限の有無(被控訴人標章の商標法26条1項2号該当性) (5) 被控訴人標章の使用の差止めの必要性 (6) 控訴人が被った損害の額 (7) 謝罪広告の必要性
当裁判所の判断
1 争点(3)(本件商標権に係る商標登録の無効事由の有無と本件商標権に基づく請求の許否)について (1) 「カンショウ乳酸」及び「緩衝乳酸」の普通名称該当性について ア 平成4年11月15日に発行された小田文献(乙第11号証)には、
「菌の耐熱性を弱めると共に増殖を抑える意味で、茹麺のpHを下げて加熱殺菌するのが効果的である。・・・pHを下げるためには・・・有機酸類を使用するが、使用方法としては生地に練り込む方法と、茹麺を酸液に浸漬する方法とがある」と記載され(97頁)、「表3-14 各種有機酸0.1%練込み生地及び茹麺pH」には、生地に練り込んだ有機酸として、冒頭に「緩衝乳酸」が記載され、これに続けて「乳酸」、「リンゴ酸」、「フマール酸(注、フマル酸と同義)」及び「クエン酸」が並列的に記載されている(97頁)。小田文献の上記記述部分には、「緩衝乳酸」等の上記各種有機酸について、その内容、性質等を説明する記載はない。
また、同文献には、「(2) 包装茹麺の製造 ・・・茹上げた後に水洗いして、有機酸液に浸漬するが・・・表4-3に示すように、有機酸はそれぞれpHを下げる力が異なる」と記載され(109頁)、「表4-3 各有機酸の強度比較」には、各種有機酸として、酸度の強い順に、「フマル酸」、「酒石酸」、「フィチン酸」、「乳酸」、「緩衝乳酸」、「グルコン酸」、「リンゴ酸」、「クエン酸」、「リン酸」、「コハク酸」及び「酢酸」が並列的に記載されている(109頁)。そして、上記の記載に続けて、「食味として感じる酸味は、pHよりも酸の量に比例する。従って、pHをできるだけ下げたい場合は、フマル酸や乳酸を使用するとよい」と記載されている(109頁)。同文献の包装茹麺の製造に関する記述部分には、「フマル酸」、「酒石酸」等の上記有機酸について、その内容、性質等を説明する記載はない。
イ 平成9年2月発行の藤野論文(乙第10号証)には、「4.乳酸塩類と製剤 現在,種々の乳酸塩類が食品添加物として認可されており,食品製造の分野で使用されている。本項では,乳酸塩類の特徴について述べる」との記載に続き、
このような乳酸塩類として、「乳酸カルシウム」、「乳酸ナトリウム」、「乳酸鉄」、「ステアロイル乳酸カルシウム」及び「粉末製品(注、粉末乳酸及び粉末乳酸ナトリウム)」と並べて「カンショウ乳酸」が記載され、「カンショウ乳酸」の特徴として、「乳酸に乳酸ナトリウムを配合し,緩衝性を持たせたpH調整剤である。pHの影響を受け易い食品成分に対しその緩衝作用により,望ましいpH領域内に安定させることができる」との記載がある(76頁)。藤野論文には、「カンショウ乳酸」が控訴人の開発に係る本件pH調整剤の商標であることを示す記載はない。
また、藤野論文には、藤野満が平成3年4月から控訴人の従業員であり、藤野論文が発行された平成9年2月当時、控訴人の関連会社である武蔵野商事株式会社の従業員であったとの記載もある。
ウ これらの記載によると、食品業界においては、遅くとも平成9年2月の時点において、既に、「緩衝乳酸」について、「リンゴ酸」、「フマル酸」、「クエン酸」、「酢酸」などと並んで食品に添加するpH調整剤の一種であり、乳酸に乳酸ナトリウムを配合し緩衝性を持たせたpH調整剤として、一般に認識されていたものと認められる。そして、「リンゴ酸」、「フマル酸」、「クエン酸」、「酢酸」、「乳酸カルシウム」、「乳酸ナトリウム」、「乳酸鉄」、「ステアロイル乳酸カルシウム」、「粉末乳酸」、「粉末乳酸ナトリウム」など上記の用語は、いずれも有機酸類の種類を示す普通名称であるから、これらと並列的に記載された「緩衝乳酸」及び「カンショウ乳酸」の語も、有機酸類の一種である本件pH調整剤を示す普通名称となっていたものと認めるのが相当である。
エ そうすると、本件商標が登録査定された平成9年7月3日当時、「カンショウ乳酸」の語は、既に本件pH調整剤の普通名称となっており、また、本件商標は、「カンショウ乳酸」を通常の書体で横書きしてなるものであるから、商品の普通名称普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として商標法3条1項1号に掲げる商標に該当し、その登録には同法46条1項1号所定の無効事由が存在することが明らかであるというべきである。
(2) 控訴人の主張について ア 控訴人は、「カンショウ乳酸」という名称の有機酸又は乳酸塩は存在しないと主張するが、上記(1)のとおり、小田文献には有機酸の一種として「緩衝乳酸」が記載され、藤野論文においては、乳酸塩の一種として「カンショウ乳酸」が記載されているのであって、本件商標は有機酸類又は乳酸塩類(pH調整剤)の一種類名を表す普通名称であるというべきである。
イ 控訴人は、乳酸と乳酸ナトリウムの混合溶液のように緩衝作用のある溶液について、有機化学の研究者の世界でも、食品添加物の業界においても、「緩衝乳酸」のような語は使用されず、「乳酸緩衝液」と表示されると主張するが、現に「緩衝乳酸」及び「カンショウ乳酸」の語を使用した文献があることは上記(1)のとおりである。また、控訴人は、緩衝溶液が「酢酸緩衝液」などと表示され「緩衝酢酸」などと表示されることはないとも主張するが、このような事実をうかがわせる証拠はない上、仮に、緩衝溶液一般について「酢酸緩衝液」のように表示されることが一般的であるとしても、少なくとも、乳酸緩衝液については、上記(1)のとおり「緩衝乳酸」及び「カンショウ乳酸」の語が使用されていることが明らかである。
また、ある種類物について、普通名称が一つに限られるということはないから、緩衝溶液一般に係る控訴人の上記主張は、「カンショウ乳酸」が普通名称であるとの認定を左右するものではない。同様に、乳酸と乳酸ナトリウムの混合物から成る緩衝溶液が必ず「乳酸-乳酸ナトリウム」と表示されるわけではないから、「カンショウ乳酸」が普通名称であるとの認定は左右されるものではない。
ウ 控訴人は、「緩衝乳酸」の語が乳酸と乳酸ナトリウムの混合物を表す普通名称ではないことを前提として、その一部を片仮名で表記した本件商標が普通名称であるということはできないと主張するが、上記(1)のとおり、「緩衝乳酸」は普通名称であると認められるから、控訴人の主張は前提を欠く。
エ 控訴人は、外国文献における「buffered lactic acid」「lactic acid buffered」「lactate buffer」など、乳酸と乳酸ナトリウムの混合物である緩衝溶液を意味する表現が日本語に翻訳されるときは、日本語として一般的な「乳酸-乳酸ナトリウム緩衝液」又は「乳酸緩衝液」と表現される旨主張するが、そのような事実をうかがわせる証拠はない。「buffered lactic acid」の英語を直訳すると、
「緩衝(buffered)」「乳酸(lactic acid)」であり、これらを連続させた「緩衝乳酸」の語も、自然な訳語と認められる。
オ 控訴人は、昭和42年5月から本件商標を付した本件pH調整剤を製造販売しており、本件商標が控訴人の商品名であることは食品業界に広く知られるようになったと主張し、「カンショウ乳酸について」と題する報告書(甲第20号証の1〜26)を提出する。しかしながら、その記載内容は、上記(1)掲記の証拠及び認定事実に反する上、本件商標の付された製品が控訴人の製造に係る本件pH調整剤であることが食品業界において広く知られているというものの、その認識を基礎付ける根拠も、作成名義人も明らかではなく、採用することができない。また、控訴人は、本件商標が控訴人の造語であること、控訴人が国内最大手として本件pH調整剤の製造販売総量の9割程度を占めていたことを主張するが、当初は特定の商品を示す造語であったものが、その後次第に自他識別力を失い、当該種類物を示す普通名称として一般に認識されるに至ることも珍しいことではない上、控訴人において本件pH調整剤の製造販売を開始したのが昭和42年5月であるならば、藤野論文が公刊された平成9年2月までに約30年の長期間が経過していることとなるから、控訴人の本件pH調整剤市場における占有率が高いことは、本件商標の普通名称化を妨げる事情とはならない。
カ 確かに、商標が誤って普通名称として使用された場合において、このようなすべての使用に商標権者が対応することは困難であり、また、このような使用が1回されたからといって、直ちに当該商標が普通名称化するものではない。しかしながら、他方、出願された商標が普通名称として商標法3条1項1号に該当するかどうかは、査定時においてこれが普通名称であるという事実の有無により決められるべきものであって、仮に、これが普通名称化する前に特定人の周知の商品等表示であったとしても、査定に当たりこのことは当然には考慮されない。また、上記のとおり、本件商標が控訴人の周知の商品等表示であるというべき証拠もない。
キ 控訴人は、小田文献(乙第11号証)が本件pH調整剤を表示する語として「緩衝乳酸」を用いるべきではなく「乳酸緩衝液」又は「乳酸-乳酸ナトリウム緩衝液」と表示すべきであったと主張するが、これらの普通名称のほかに「緩衝乳酸」の用語も本件pH調整剤を表す普通名称となっていたことは、上記(1)のとおりである。控訴人は、小田文献の執筆者らの動機についても主張するが、このような事実をうかがわせる証拠はない上、小田文献において「緩衝乳酸」の語が普通名称として使用されている以上、その動機が上記(1)の事実認定に影響を及ぼすものではない。
ク 控訴人は、藤野論文(乙第10号証)が業界でよく知られていた控訴人製品を取り上げるについて本件商標を表示したものであると主張するが、上記(1)のとおり、同証は「カンショウ乳酸」の語を本件pH調整剤を表す普通名称として使用しており、控訴人製品を意味するものとして使用していないことは明らかである。
また、業界紙においてメーカーの社員が研究発表の形で自社製品について書くことがあるとしても、このことは、同証における「カンショウ乳酸」の語が普通名称として使用されているのか、それとも識別力を有する商品等表示として使用されているかとは関係がない。同証が普通名称として「カンショウ乳酸」の語を用いていることは上記(1)のとおりであるから、藤野論文が業界紙においてメーカーの社員が研究発表の形で自社製品について書いたものであるということは、上記認定を左右するものではない。
ケ 控訴人は、「緩衝乳酸」の商標を使用していた者が控訴人の要求に応じてその使用を中止したこと、また、三共フーヅが本件商標について控訴人と使用許諾契約を締結して使用していることを主張するが、当該商標を使用する者が、種々の経営判断により、任意に商標の使用を中止し、又は使用許諾契約を締結することもまれではないから、これらの事実から直ちに、本件商標が普通名称化した事実を否定することはできない。
コ 控訴人は、本件pH調整剤が「乳酸-乳酸ナトリウム緩衝液」の普通名称を有していても、取引用語として「緩衝乳酸」の普通名称を有することを否定することはできないと主張するが、「乳酸と乳酸塩」(乙第12号証の2の5)の記載内容に照らすと、同証では、本件pH調整剤が「緩衝乳酸」と「乳酸-乳酸ナトリウム緩衝剤」の双方の用語により表示されており、後者のみが普通名称として使用されているとは認められない。また、同証に「乳酸-乳酸ナトリウム緩衝剤」の表示がされていることから直ちに、「緩衝乳酸」が普通名称であることを否定することはできない。
サ 控訴人主張のように、控訴人の関連会社作成のパンフレット(乙第12号証の2の6)には、「カンショウ乳酸は、食品のpH調整剤です」、「カンショウ乳酸は緩衝作用を持つpH調整剤です」等の記載があるが、上記(1)の認定によれば、
このような記載は、「カンショウ乳酸」が本件pH調整剤の普通名称として、「食品のpH調整剤」及び「緩衝作用を持つpH調整剤」が「カンショウ乳酸」より上位概念の普通名称として使用されているものというべきであるから、控訴人の主張する上記の記載があるからといって、「カンショウ乳酸」が普通名称であるとする上記認定が左右されるものではない。
控訴人製品である本件pH調整剤が「乳酸-乳酸ナトリウム混合pH調整剤」と表示されることがあるからといって、「カンショウ乳酸」が普通名称であることが否定されないことは、一つの種類物について複数の普通名称が使用され得ることからも明らかである。また、同証において「カンショウ乳酸は、食品のpH調整剤です」、「カンショウ乳酸は緩衝作用を持つpH調整剤です」と記載されているのは、上記(1)の認定によれば、「カンショウ乳酸」という種類物の性能及び効能を説明するものというべきであるから、この記載も「カンショウ乳酸」が普通名称であることを否定するものではない。
シ 控訴人は、片仮名の「カンショウ」に対応する漢字が多数あり、「緩衝」に限られないから、この点においても本件商標が普通名称であるということはできないと主張する。確かに、片仮名の「カンショウ」に対応する漢字が多数あることは控訴人主張のとおりであるが、「カンショウ乳酸」として使用された場合には、「カンショウ」に対応させて意味のある漢字は「緩衝」にほとんど限定される。したがって、普通名称である「緩衝乳酸」の「緩衝」の部分を片仮名で表記した「カンショウ乳酸」も、普通名称というべきである。また、上記(1)のとおり、藤野論文においては、「カンショウ乳酸」が普通名称として使用されているから、このことからも、「緩衝乳酸」の「緩衝」部分が片仮名で表記されていることは、
「カンショウ乳酸」が普通名称であることに影響を及ぼすものではない。
ス 控訴人は、インターネットの検索サイトにおける検索結果について主張する。しかしながら、検索条件を「緩衝乳酸」とした場合と「緩衝」及び「乳酸」の両方を含むとした場合とで検索結果が大きく異なるからといって、このことから「緩衝乳酸」という学術用語が存在しないということはできない。現に、上記(1)のとおり、「緩衝乳酸」及び「カンショウ乳酸」の語が普通名称として使用された文献が存在するのであるから、上記検索結果が得られたからといって、「緩衝乳酸」という学術用語の存在を否定し得ないことは明らかである。
セ 控訴人は、商標法3条1項1号該当性が主として外観により判断されると主張するが、そのように解すべき根拠はなく、また、上記(1)のとおり「緩衝乳酸」及び「カンショウ乳酸」が共に普通名称であると認められる以上、両商標の類否は同号該当性の判断に影響を及ぼさない。
ソ 以上のとおり、控訴人の主張はいずれも採用することができず、他に、
本件商標が商標法3条1項1号に掲げる商標に該当し、その登録には同法46条1項1号所定の無効事由が存在することが明らかであるとの上記(1)の判断を左右するに足りる証拠はない。
(3) 本件商標権に基づく請求の許否について 特許に無効事由が存在することが明らかであるときは、その特許権に基づく差止め、損害賠償等の請求は、特段の事情がない限り、権利の濫用に当たり許されないところ(最高裁平成12年4月11日第三小法廷判決・民集54巻4号1368頁)、このことは、商標登録に無効事由が存在することが明らかである商標権に基づく請求についても同様であると解するのが相当である。なぜならば、無効事由が存在することが明らかな商標権に基づく請求を認めることは、商標権者に不当な利益を与え衡平の理念に反する結果となること、商標登録の対世的な無効までも求める意思のない当事者に無効審判の手続を強いることは、妥当とはいえず訴訟経済にも反すること、商標法43条の14において準用する特許法168条2項は、
商標登録に無効事由が存在することが明らかな場合においてまで訴訟手続を中止すべき旨を規定したものと解することはできないことにおいて、無効事由が存在することが明らかな商標権と特許権とで異なるところはないからである。
なお、指定商品普通名称が誤って商標登録されるとともに、第三者が普通に用いられる方法でこれを使用している場合には、当該商標登録に商標法46条1項1号所定の無効事由が存在することが明らかであり、かつ、その商標権の効力について同法26条1項2号の適用を排除すべき根拠は見当たらないから、第三者の上記使用には同条の適用により当該商標権の効力が及ばないというべきであるが、このように第三者の使用が同条に該当する場合においても、無効事由が存在することが明らかな商標権に基づく請求が権利の濫用に当たることを否定すべき理由はない。
そうすると、上記のとおり、本件商標に係る商標登録は商標法46条1項1号所定の無効事由が存在することが明らかであるから、特段の事情がうかがわれない本件においては、本件商標権に基づく請求は、権利の濫用に当たり許されないというべきである。
2 争点(4)(本件商標権の効力の制限の有無)について 本件商標権の行使が権利の濫用に当たる本件において、商標法26条1項2号の適用が排除されるわけではないことは上記のとおりであるから、なお事案にかんがみ、争点(4)について判断する。
食品化学新聞社発行の「食品化学新聞」平成12年2月17日号(乙第1号証)及び同年4月20日号(乙第2号証)によれば、被控訴人による被控訴人標章(1)の使用態様は、被控訴人の広告において、被控訴人が本件pH調整剤すなわち「カンショウ乳酸」を取り扱っていることを示すものである。したがって、被控訴人標章(1)は、指定商品普通名称普通に用いられる方法で表示する商標として商標法26条1項2号に掲げる商標に当たる。
次に、当審における追加請求に係る被控訴人標章(2)及び(3)は、普通名称である「カンショウ乳酸」及び「緩衝乳酸」の語の前に、これが発酵により製造されたことを示す「発酵」の語を付加したものである。また、被控訴人商品の箱のラベル(乙第4号証、乙第6号証)及び請求書(乙第7号証の1〜5、乙第20号証)によれば、被控訴人による被控訴人標章(2)及び(3)の使用態様は、被控訴人商品のラベル及び請求書において、当該商品が「発酵」により生産された「カンショウ乳酸」であることを示すものである。したがって、被控訴人標章(2)及び(3)は、いずれも指定商品普通名称及び生産方法を普通に用いられる方法で表示する商標として商標法26条1項2号に掲げる商標に当たる。
そうすると、被控訴人標章は、いずれも商標法26条1項2号により本件商標権の効力が及ばない商標であることが明らかであるから、この点においても、控訴人の本件商標権に基づく請求は理由がない。
3 以上のとおりであるから、控訴人の被控訴人標章(1)に係る請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がなく、これを棄却した原判決は相当であって、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴人が当審で追加した被控訴人標章(2)及び(3)に係る請求も理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法67条1項61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 石原直樹
裁判官 長沢幸男
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