関連審決 | 異議2000-90580 |
---|
関連ワード | 指定商品 / 4条1項11号 / 類似性(類否判断) / 外観(外観類似) / 離隔的 / 非類似 / |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|---|
元本PDF | 裁判所収録の別紙1PDFを見る |
事件 |
平成
13年
(行ケ)
174号
商標登録取消決定取消請求事件
|
---|---|
原告 株式会社サラブランド 訴訟代理人弁理士 福田賢三 同 福田伸一 同 福田武通 被告 特許庁長官及川耕造 指定代理人 上村勉 同 宮川久成 |
|
裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2001/10/24 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
---|---|
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が異議2000-90580号事件について平成13年3月15日にした決定を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
|
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、別紙第1表示の構成よりなり、指定商品を商標法施行令別表(以下「施行令別表」という。)による第25類「被服、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、履物、仮装用衣服、運動用特殊衣服、運動用特殊靴」とする商標登録第4364496号商標(平成11年4月16日登録出願、平成12年3月3日設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者である。 本件商標につき登録異議の申立てがされ、特許庁は、同申立てを異議2000-90580号事件として審理した上、平成13年3月15日に「登録第4364496号商標の商標登録を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は同年4月2日に原告に送達された。 2 本件決定の理由 本件決定は、別添決定謄本写し記載のとおり、別紙第2表示の構成よりなり、指定商品を施行令別表による第25類「被服、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、履物(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。)、仮装用衣服、運動用特殊衣服、運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。)」とする商標登録第4327531号商標(平成10年11月25日登録出願、平成11年10月22日設定登録、以下「引用商標」という。)を引用し、本件商標と引用商標とは外観において相紛らわしい類似の商標であり、また、 本件商標の指定商品は引用商標の指定商品と同一又は類似するものであるから、本件商標は、商標法4条1項11号に違反して登録されたものであり、同法43条の3第2項の規定により、その登録を取り消すべきものであるとした。 |
|
原告主張の本件決定取消事由
1 本件決定の理由中、本件商標の指定商品が引用商標の指定商品と同一又は類似するものであることは認める。 本件決定は、本件商標と引用商標との外観の類否判断を誤り、本件商標と引用商標とが外観において類似する商標であるとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。 2 取消事由(外観の類否判断の誤り) (1) 本件決定は、本件商標と引用商標との外観の対比において、その差異点につき「両商標は・・・いずれも左向きの犬のシルエットの図形よりなるものであるところ、子細に観察すれば、本件商標の犬は、引用商標の犬より頭の位置がやや低く、腹回りがやや太目であり、前足がやや開いている等の点において差異を有する」(決定謄本3頁15行目〜18行目)と認定した。 しかしながら、本件商標と引用商標とが、いずれも左向きの犬のシルエット図形よりなること(以下、本件商標においてシルエット図形で表されている犬を単に「本件商標の犬」と、引用商標においてシルエット図形で表されている犬を単に「引用商標の犬」ということがある。)は認めるが、以下のとおり、上記差異点の認定は不正確であるとともに、差異点の看過がある。 すなわち、@足部の構成においては、本件商標の犬は、足が太く、前足と後足をそれぞれ大きく開き、交互に踏み出しているのに対し、引用商標の犬は、本件商標の犬に比べ足が細く、前足はきちんとそろえており、後足はやや開いている。A頭部の構成においては、本件商標の犬は、まっすぐ前方に正対しており、顎を引き、全体的に頭部が低く、頭部と背中とがほぼ一直線上にあるのに対し、引用商標の犬は、斜め上方を見上げており、顎を上げ、全体的に頭部が高く、頭部が背中より上方に位置する。B胴部の構成においては、本件商標の犬は全体的に太いのに対し、引用商標の犬は、中ほど下側に山形のえぐれ部が存在し、本件商標の犬に比べ全体的にスマートである。C頭部から背中を経て尾に至るラインの構成においては、本件商標の犬は、仮想地面に平行なライン上に頭部が位置し、首部においてなだらかに下降した後、仮想地面に平行なライン上に背中が位置し、尾に至ってなだらかに上昇するのに対し、引用商標の犬は、仮想地面に対し左上がりのライン上に頭部が位置し、首部において急に下降し、仮想地面に平行なライン上に背中が位置するものの、臀部に接近するにつれて下降し、尾において仮想地面に平行となる。 本件商標と引用商標とは、上記@〜Cのとおり、各構成において明りょうな差異点を有するものであり、本件決定の上記認定が不正確かつ差異点の看過を有するものであることは明らかである。そして、上記各構成における態様の相違により、看者は本件商標と引用商標とを明確に識別することができるものである。 なお、本件商標は、上記@〜Cの各構成における態様によって、歩行中ないし歩行状態の犬を表現しようとしたものであり、他方、引用商標は、上記@〜Cの各構成における態様によって、静止状態の犬を表現しようとしたものと認められる。 (2) 本件決定は、本件商標と引用商標との外観の対比において、その共通点につき「ともに犬の立位の図形を黒塗りで表してなり、どちらの犬も左向きで静止している状態であり、かつ、尾を挙げている(垂れていない)点等においてその構成の軌を一にするものであり」(決定謄本3頁19行目〜21行目)と認定し、さらに両商標が「大型犬のシルエットの図形」(同頁21行目〜22行目)からなるものとした。 しかしながら、本件商標及び引用商標がともに犬の立位の図形を黒塗りで表してなり、どちらの犬も左向きであること、引用商標の犬が静止状態であることは認めるが、本件商標の犬は、上記のとおり歩行状態であって、これを静止状態であるとすることは誤りである。 すなわち、四つ足歩行動物である犬は、引用商標の犬のように前後の足をそれなりにそろえて静止するものである。被告の指摘する甲第15号証の95枚目の写真に表されている犬にしても、足をそれなりにそろえて静止しているということができる。これに対し、本件商標の犬は、前足及び後足とも顕著に前後に開いて交互に踏み出しており、頭を上げることなく、首をやや前方に突き出し、まっすぐ前方を見据えて、尾を上げており、その姿態は、日常的に目にする歩行中の犬のものであって、これを静止状態の犬と認識する者はいない。したがって、上記のとおり「どちらの犬も・・・静止している状態であり」として、その点を本件商標と引用商標との共通点とした本件決定の認定は誤りである。 また、本件商標及び引用商標がいずれも大型犬のシルエット図形からなることは認めるが、本件商標の犬の種類はゴールデンレトリーバーであるのに対し、 引用商標の犬の種類は、ゴールデンレトリーバーと比較して細めの体型を有し、特に脚部の細さと後足付け根付近の胴部下側のえぐれ部分の存在が顕著であるフラットコーテッドレトリーバーである。 (3) 本件決定は、本件商標と引用商標との外観の類否につき、「時と処を異にして離隔的に接する場合、必ずしも常に図形の細部まで正確に記憶されているとはいえないのが通常であり、両商標における商標権者が主張している構成上の差異は、両商標の構成全体から受ける共通した印象からすれば、微差の範囲にとどまるものというべきである。加えて、本件商標の指定商品である『被服』等の取引分野においては・・・いわゆるワンポイントマークとして、商品に縫いつけたり、刺繍するなどして使用されることも多く、その場合においては、比較的小さく表示され、上記した細部における構成上の差異は一層、曖昧なものとなり、印象が希薄なものとなるといわなければならない」(決定謄本3頁23行目〜32行目)、「本件商標と引用商標とは、いずれも、どちらかといえば、静的にして、穏やかな印象を看者に与える犬の姿態を表しているといえるものであり、商標権者(注、原告)が主張するような視覚的印象の明瞭な差異は認め難い」(同3頁37行目〜4頁1行目)、「本件商標と引用商標とは、外観において相紛わしい類似の商標といわなければならない」(同4頁6行目〜7行目)と判断したが、上記判断の前提である本件商標と引用商標との差異点及び共通点の認定に上記のとおり誤りがあるから、 上記判断も誤りである。 犬は、人と共生する四つ足動物として最も身近な存在であり、人は、代表的な犬の種類や、歩行している犬、立ち止まった犬等の様々な犬の姿態を日常的に学習し、記憶している。そして、上記のとおり、本件商標と引用商標とは、日常的に接する犬の歩行中の姿態(本件商標)又は静止中の姿態(引用商標)を表現したものであり、両商標に接する需要者は、自己の記憶にある犬の具体的な姿態と関連付けて各商標のイメージを形成するものである。すなわち、本件商標については、 自己の記憶中の「近所をのんびりと散歩(歩行)していたゴールデンレトリーバー(大型犬)の姿態」と関連付けを行い、そのようなイメージの商標として理解、記憶し、他方、引用商標については、「飼い主の顔を見るように顔を上げつつ、きちんと静止している賢そうなフラットコーテッドレトリーバー(大型犬)の姿態」と関連付けを行い、そのようなイメージの商標として理解、記憶する。 本件商標と引用商標との上記差異点は微差にとどまるものではなく、両商標は、その構成全体から著しく相違した視覚的印象を看者に与えるものであるが、 そのような視覚的印象は、両商標の各構成全体から醸し出されるイメージと看者の経験に基づく関連付けの中で自然に理解され、記憶されるものである。 そして、本件商標は「歩行中の犬」を表したものとして、引用商標は「静止状態の犬」を表したものとして看者の記憶に残り、そのように記憶された各商標は、時や所を異にして接した場合にも、混同が生ずることはない。また、多少縮小されたり、商品に縫い付けたりして、細部まで正確に表すことができない態様で使用されたとしても、本件商標の犬の「歩行状態」のイメージや引用商標の犬の「静止状態」のイメージは損なわれるものではない。さらに、引用商標の犬は静的であるが、歩行状態を表した本件商標の犬は動的であり、また、本件商標の犬は全体として丸みを帯びて穏やかな印象を与えるが、引用商標の犬は全体として精かんな印象を与えるものであって、上記各相違は極めて明りょうである。両商標は、以上のとおり、人間の日常生活と密接な関係を有する「犬」を題材にしつつも、異なった形態を看者に主張し、自らのブランドを認知させようとするものである。 したがって、本件決定の上記判断は誤りである。 (4) なお、原告が異議申立ての審理において参考資料として提出した各商標公報(甲第41〜第55号証)に掲載された登録商標は、いずれも犬のシルエット図形等からなるものであり、これらの間に存在する程度の差異により、各商標が識別されるものと判断されて設定登録がされたものであるところ、そのような判断は、 本件においても十分に参酌されるべきものである。 |
|
被告の反論
1 本件決定の認定及び判断は正当であり、原告主張の本件決定取消事由は理由がない。 2 取消事由(外観の類否判断の誤り)について (1) 本件商標と引用商標とが、原告主張の@〜Cの各構成上の差異点を有すること自体は認める。 なお、原告は、本件決定が認定した本件商標と引用商標との差異点につき、その認定が不正確であるとともに、差異点の看過があると主張するが、本件決定は、本件商標の犬と引用商標の犬とを対比した場合に目に付く主な差異点を具体的に示し、他にも差異点があることを「等の点」(決定謄本3頁18行目)との文言によって表現したものであるから、原告の上記主張は当たらない。 (2) 原告は、犬は前後の足をそれなりにそろえて静止するものであって、前足及び後足が前後に開いている本件商標の犬を静止状態であるとすることは誤りであり、本件商標の犬の姿態は日常的に目にする歩行中の犬のものであるから、両商標の犬が静止状態である点を本件商標と引用商標との共通点とした本件決定の認定は誤りであると主張する。 しかしながら、甲第15号証の95枚目の写真に示されているように、犬が立位で静止している状態であっても、その足が開いている場合もあり、足が前後に開いているからといって、静止中でないということはできない。また、犬は人に身近な動物であって日常目にしているが、一般的には、足の曲げ具合や位置関係など、歩行中の犬の姿を正確に理解、記憶しているものではない。そして、本件商標の犬は、その4本の足先が仮想地面のラインに接地しているように見えることから、静止状態の犬という印象を受けるものである。また、仮に、本件商標の犬が歩行状態と認識されることがあるとしても、そのことによって引用商標の犬との共通した視覚的印象が薄められるものではない。 なお、原告は引用商標の犬の種類をフラットコーテッドレトリーバーであると主張するが、引用商標の犬も本件商標の犬と同様、ゴールデンレトリーバーである。 (3) 原告は、本件商標と引用商標とが、その構成全体から著しく相違した視覚的印象を看者に与え、記憶されるものであると主張するが、本件商標と引用商標との間に被告が主張するような視覚的印象の明りょうな差異はなく、本件決定の説示(決定謄本3頁15行目〜4頁7行目)のとおり、両商標は外観において相紛らわしい商標である。 (4) 原告が異議申立ての審理において参考資料として提出した各商標公報(甲第41〜第55号証)に掲載された登録商標は、いずれも本件商標と商標の構成を異にするものである。そして、商標の類否判断は、比較すべき商標につき個別具体的にされるべき性質のものであるから、上記各商標が設定登録されたというだけでは、本件商標が引用商標と外観において非類似の商標であるとすることはできない。 |
|
当裁判所の判断
1 取消事由(外観の類否判断の誤り)について (1) 本件商標及び引用商標は、いずれも左向きの犬のシルエット図形よりなるところ、本件商標と引用商標とが、上記第3(原告主張の本件決定取消事由)の2の(1)の@〜Cの各構成上の差異点を有すること、本件商標の指定商品が引用商標の指定商品と同一又は類似するものであることは、当事者間に争いがない。 なお、原告は、本件決定の差異点の認定が不正確であるとともに、差異点の看過があると主張するが、商標の類否判断に当たり、両商標の差異点を認定する場合に、すべての差異点を網羅し細大漏らさず認定することは多くの場合困難であるのみならず、商標の類否判断という目的に照らせば、当該類否判断に影響を及ぼすべき差異点を認定すれば足りるものであって、このような点にかんがみれば、 「両商標は・・・いずれも左向きの犬のシルエットの図形よりなるものであるところ、子細に観察すれば、本件商標の犬は、引用商標の犬より頭の位置がやや低く、 腹回りがやや太目であり、前足がやや開いている等の点において差異を有する」(決定謄本3頁15行目〜18行目)とした本件決定の差異点の認定に原告主張の誤りがあるとまでいうことはできない。 (2) 本件商標及び引用商標がともに犬の立位の図形を黒塗りで表してなり、どちらの犬も左向きであること、引用商標の犬が静止状態であることは、当事者間に争いがないところ、本件決定は、「どちらの犬も・・・静止している状態であり」(決定謄本3頁19行目〜20行目)として、本件商標の犬も静止状態であると認定したのに対し、原告は、本件商標の犬は歩行状態であるから、本件決定の上記認定は誤りであるとし、その根拠として、犬は前後の足をそれなりにそろえて静止するものであるのに対し、本件商標の犬は、前足及び後足とも顕著に前後に開いて交互に踏み出しており、頭を上げることなく、首をやや前方に突き出し、まっすぐ前方を見据えて、尾を上げていることを挙げ、その姿態は、日常的に目にする歩行中の犬のものであると主張する。 しかしながら、現実の犬が立位で立ち止まった状態であるときに必ずしも前後の足をきちんとそろえているわけではないことは、甲第15号証の95枚目の犬の写真や、上記のとおり、静止状態であることに争いのない引用商標の犬が後足を開いていることなどからうかがわれるところであって、足を開いているからといって直ちに歩行中であると断定することはできないところ、立ち止まった状態の犬が現実にどの程度まで足を開くことがあるかを明らかにすべき的確な証拠はない。 のみならず、本件商標の犬は、前足及び後足とも前後に開いてはいるが、4足とも足先の高さは同一であって、本件商標には表されていない地表を想定すれば、すべての足を地表に付けた状態であるものと認められところ、現実の犬が歩行状態であるときに、4足とも地表に付けることがあるかどうかについても必ずしも明らかではない。そうすると、現実の犬が、本件商標にシルエットで表された姿態を示しているときに、常に歩行状態であり、あるいは立ち止まった状態であると断定するだけの証拠はないというべきであるが、この点をおくとしても、商品について使用される商標の類否判断ないしその前提である各商標から受ける印象ないし認識の内容等は、当該商標の指定商品に係る一般的な需要者において普通に払われる注意力を基準として考察すべきものであるところ、犬がいかに人に身近な動物で、日常目にするものであるとはいえ、本件商標の指定商品に係る一般的な需要者(指定商品中に生活必需品である「被服」を含むところからすれば、本件商標の指定商品に係る一般的な需要者は、犬ないし動物に特段の関心を持たない者を含む広範な一般消費者というべきである。)が、その普通に払われる注意力をもって、歩行中の犬又は立ち止まった状態の犬の足の開き具合等の細部まで正確に観察し、記憶し、想起して、これによって商品の出所を識別するとは限らず、商標全体から受ける印象ないし認識によって商品の出所を識別する場合が少なくないことは当裁判所に顕著であり、また、このことは、頭や首、尾の状態などについても同様というべきである。 したがって、本件商標にシルエットで表された一瞬の状態の姿態のみから、本件商標の犬が歩行状態であるか、立ち止まった状態であるかにつき、本件商標の指定商品に係る一般的な需要者が確定的な印象ないし認識を得ることはないといわざるを得ない。 もっとも、本件商標の指定商品に係る一般的な需要者において普通に払われる注意力を基準としても、本件商標の犬の姿態から、それが駆けているとか、跳躍しているというような動きの活発な状態でないことは直ちに認識するものと認められるところ、一般に、犬は活発に動き回ることが多い動物との印象を持たれているといえるから、そのこととの対比において、本件商標の犬が歩行状態又は立ち止まった状態のいずれであるにせよ、静的な状態にあるとの印象を受けることは明らかである。 そうすると、本件商標の犬が歩行状態であるとの原告の主張は採用し難いが、本件決定の「どちらの犬も・・・静止している状態であり」(決定謄本3頁19行目〜20行目)との認定も、本件商標の犬につき、静的な状態にあるとの範囲を超えて、静止している状態(立ち止まっている状態)であると認定した限度で誤りであるといわざるを得ない。 また、本件商標及び引用商標がいずれも大型犬のシルエット図形からなることは当事者間に争いがないところ、その犬の種類につき、原告は本件商標の犬がゴールデンレトリーバーであり、引用商標の犬はフラットコーテッドレトリーバーであると主張するのに対し、被告は両商標の犬ともゴールデンレトリーバーであると主張するが、客観的にはいずれの主張に沿うものであるにせよ、本件商標の指定商品に係る一般的な需要者において普通に払われる注意力を基準として、両商標にそれぞれシルエットで表された犬の体型等から、直ちにその犬の種類がフラットコーテッドレトリーバーであるかゴールデンレトリーバーであるかを理解、認識し得るものとは到底認められず、したがって、両商標の類否判断に当たっては、両商標とも大型犬のシルエット図形からなる点で共通するものとし、原告の主張する両種類の犬の体型の相違は、その相違自体を両商標に表された限度でその間の差異点として考慮すれば足りるものというべきである。 (3) そこで、本件商標と引用商標との外観の類否について検討する。 上記(2)のとおり、本件商標と引用商標とは、ともに大型犬の立位の図形をシルエット状に黒塗りで表してなり、どちらの犬も左向きで、駈けたり、跳躍したりしていない静的な状態である点において共通する。 そして、これらの共通点は、時と所を異にして離隔的に各商標に接した場合に一見して看者(看者としては、両商標の指定商品に係る一般的な需要者を想定すべきところ、引用商標についても、指定商品中に「被服」を含むところから、その指定商品に係る一般的な需要者は、犬ないし動物に特段の関心を持たない者を含む広範な一般消費者であることは本件商標の場合と同様である。)の目を引く両商標の構成上の基本的な要素に係るものであって、それぞれ看者に強く印象付けられるものであり、したがって、この点の共通性のゆえに、本件商標と引用商標とは、 その外観全体から直ちに受ける視覚的印象が著しく似通ったものとなることが認められる。 他方、上記のとおり、本件商標と引用商標とは、@足部の構成において、 本件商標の犬は、足が太く、前足と後足をそれぞれ大きく開き、交互に踏み出しているのに対し、引用商標の犬は、本件商標の犬に比べ足が細く、前足はきちんとそろえており、後足はやや開いている点、A頭部の構成において、本件商標の犬は、 まっすぐ前方に正対しており、顎を引き、全体的に頭部が低く、頭部と背中とがほぼ一直線上にあるのに対し、引用商標の犬は、斜め上方を見上げており、顎を上げ、全体的に頭部が高く、頭部が背中より上方に位置する点、B胴部の構成において、本件商標の犬は全体的に太いのに対し、引用商標の犬は、中ほど下側に山形のえぐれ部が存在し、本件商標の犬に比べ全体的にスマートである点、C頭部から背中を経て尾に至るラインの構成において、本件商標の犬は、仮想地面に平行なライン上に頭部が位置し、首部においてなだらかに下降した後、仮想地面に平行なライン上に背中が位置し、尾に至ってなだらかに上昇するのに対し、引用商標の犬は、 仮想地面に対し左上がりのライン上に頭部が位置し、首部において急に下降し、仮想地面に平行なライン上に背中が位置するものの、臀部に接近するにつれて下降し、尾において仮想地面に平行となる点において差異があることは、当事者間に争いがない。 しかしながら、これらの差異点のうち、@の足部の太さに関しては、引用商標の犬の後足の足先の細さが多少目立つが、犬として不自然な感を与える程度のものではなく、また、それ以外の部分では、本件商標と引用商標とに同時に接した場合には引用商標の犬の足がやや細いことが看取できるとしても、離隔的に接した場合にはほとんど把握することができない程度の微差でしかない。@の足の開き具合については、上記のとおり、両商標の犬とも静的な状態であることが強く印象付けられる結果、看者の印象にさほど残るものとは認められない。Aの頭部の構成に関しては、両商標の犬の頭部の角度(上向きの程度)に係る差異や、両商標の犬の頭部と背中との位置関係の差異等はいずれも微差というべきであって、本件商標と引用商標とに同時に接した場合には看取できるとしても、離隔的に接した場合には明りょうに把握できる程度のものということはできない。Bの胴部の構成に関しては、本件商標の犬の胴体部分が全体として多少太めであるとの印象を与えるが、犬として不自然な感を与える程度の太さではなく、また、山形のえぐれ部は、引用商標の犬よりは程度が小さいが、本件商標の犬においても見いだすことができ、これらの差異点に係る各構成が看者に残す印象は、両商標ともさほど強いものということはできない。Cの頭部から背中を経て尾に至るラインの構成に関しては、本件商標と引用商標とに同時に接した場合には看取できるとしても、離隔的に接した場合には明りょうに把握できる程度のものではなく、特に尾の態様については、両商標の犬ともに、尾が上がっている(垂れていない)点がまず看者の目に付き、差異点に係るその角度(尾が上がっている程度)は印象に残るようなものではない。 本件商標と引用商標とが、構成上の基本的な要素に共通点を有し、その共通性のゆえに、その外観全体から直ちに受ける視覚的印象が著しく似通ったものとなることは上記のとおりである。これに対し、本件商標と引用商標との差異点は、 上記のとおり、両商標に離隔的に接した場合には明りょうに把握できない程度の微差であるか、そうではないとしても、看者の印象に残り難いものであるのみならず、いずれも両商標の構成上の細部にわたる要素に係る差異であるにすぎない。そうすると、そのような差異点から看者が受ける印象の相違は、上記の外観全体から直ちに受ける視覚的印象をさほど減殺するものではなく、簡易、迅速を重んじる取引の実際においては、この点が明りょうに意識されるものとも認め難い。 原告は、本件商標の犬が歩行状態であるとの主張を前提とした上、両商標に接する需要者は、本件商標については「近所をのんびりと散歩(歩行)していた大型犬の姿態」と、引用商標については「飼い主の顔を見るように顔を上げつつ、 きちんと静止している賢そうな大型犬の姿態」と、それぞれ自己の記憶にある犬の具体的な姿態と関連付けを行い、そのようなイメージの商標として理解、記憶し、 時や所を異にして接した場合にも、混同が生ずることはない旨主張する。 しかしながら、本件商標の犬が歩行状態であることを認めることができないことは上記のとおりであって、上記主張はその前提を欠くのみならず、上記のとおり、本件商標と引用商標の外観全体から直ちに受ける視覚的印象は著しく似通っており、仮に、原告主張のように、自己の記憶にある犬の具体的な姿態と関連付けを行って、商標のイメージを理解、記憶するということがいえるとしても、本件商標及び引用商標からそれぞれ形成されるイメージの間に、原告主張のような明りょうな相違が生ずるものとは到底認め難い。 また、原告は、引用商標の犬は静的であるが、歩行状態を表した本件商標の犬は動的であると主張し、さらに、本件商標の犬は全体として丸みを帯びて穏やかな印象を与えるが、引用商標の犬は全体として精かんな印象を与えるものであって、上記各相違は明りょうであるとも主張するが、これらの主張を採用し難いことも、上記説示から明らかである。 以上によれば、本件商標と引用商標との外観は互いに類似するものというべきである。 (4) なお、原告は、商標公報(甲第41〜第55号証)に掲載された登録商標は、いずれも犬のシルエット図形等からなるものであり、これらの間に存在する程度の相違により、各商標が識別されるものと判断されて設定登録がされたものであって、そのような判断は、本件においても十分に参酌されるべきものであると主張する。 しかしながら、原告が摘示する各商標公報(甲第41〜第55号証)に掲載された商標は、甲第42号証に掲載されたものを除き、犬のシルエット図形に文字又は文字とともに他の図形を結合させてなる構成(甲第41号証、第43〜第53号証、第55号証)であるか、あるいはシルエット図形が、犬を写実的に表したというより、犬を図案化して表した構成のもの(甲第51〜第55号証、なお、甲第51〜53号証、第55号証に掲載されたものは、図案化された犬のシルエット図形に文字又は文字とともに他の図形を結合させてなる構成である。)であり、これらの商標の識別性は、それぞれ上記のような構成に基づいて判断されたものであることは明らかであるから、これらの商標が登録された事実があるとしても、犬のシルエット図形のみからなる本件商標と引用商標とに係る上記類否判断を左右するものではない。 また、甲第42号証に掲載された商標は、犬のシルエット図形のみからなるものであるが、これが登録された事実があるとしても、この1例のみをもってしては、本件商標と引用商標とに係る上記類否判断を左右するに足りない。 (5) したがって、「本件商標と引用商標とは、外観において相紛わしい類似の商標といわなければならない」(決定謄本4頁6行目〜7行目)とした本件決定の判断に、原告主張の誤りはなく、上記(2)の本件決定の認定の誤りは、本件決定の結論に影響を及ぼすものではない。 2 以上のとおりであるから、原告主張の本件決定取消事由は理由がなく、他に本件決定を取り消すべき瑕疵は見当たらないから、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
---|---|
裁判官 | 石原直樹 |
裁判官 | 宮坂昌利 |