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事件 平成 13年 (行ケ) 35号 審決取消請求事件
原告 ピエールバルマン ソシエテ アノニム
訴訟代理人弁護士 佐藤雅巳
同 古木睦美
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 酒井福造
同 宮川久成
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/09/28
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成10年審判第20458号事件について平成12年10月11日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文第1、2項と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、平成7年7月21日、別添審決謄本写し別紙(1)表示の構成より成る商標(以下「本願商標」という。)につき、指定商品を商標法施行令別表による第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」として商標登録出願をした(商願平7-73840号)が、平成10年8月24日に拒絶査定を受けたので、同年12月21日、これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成10年審判第20458号事件として審理した上、
平成12年10月11日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、
その謄本は、同月30日、原告に送達された。
2 審決の理由 審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、同写し別紙(2)表示の構成より成り、指定商品を平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令別表(以下「旧別表」という。)による第17類「被服、布製身回品、寝具類」とする登録第904167号商標(昭和44年5月8日登録出願、昭和46年6月28日設定登録、以下「引用A商標」という。)及び同写し別紙(3)表示の構成より成り、指定商品を旧別表による第17類「被服、布製身回品、寝具類」とする登録第1360351号商標(昭和49年11月1日登録出願、昭和53年11月30日設定登録、以下「引用B商標」といい、引用A商標と併せて「引用各商標」という。)を引用し、本願商標と引用各商標とは類似の商標であって、その指定商品も同一又は類似のものであるから、本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした原査定を取り消すべき限りでないとした。
原告主張の審決取消事由
審決は、本願商標の称呼の認定を誤り(取消事由1)、また、本願商標と引用各商標との類否判断を誤った(取消事由2)結果、本願商標と引用各商標とが類似の商標であるとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(本願商標の称呼の認定の誤り) (1) 審決は、「『ヴァ』及び『ヴェ』の音は、通常使用する日本語の発音にはない音であり、正確に発音され難く、むしろ古来より日本語に存在し日本人にとってなじみ深い近似した音である『バ』及び『ベ』に置き換えて発音される場合が少なくないところから、本願商標は、『バンベール』と称呼して取引に当たることも決して少なくないというのが相当である。そうとすれば、本願商標からは『バンベール』の称呼をも生ずるものといわなければならないものである」(審決謄本2頁10行目〜17行目)として、本願商標から「バンベール」の称呼が生ずるものと認定し、また、引用各商標からも「バンベール」の称呼が生ずるものと認定した。
しかしながら、引用各商標から「バンベール」の称呼が生ずることは認めるが、以下のとおり、本願商標から「バンベール」の称呼が生ずるとの認定は誤りである。
(2) 原告は、我が国を含め世界的に著名なオートクチュールであって、その保有する商標の「PIERRE BALMAIN」も、我が国を含め世界的に著名である。原告は、
1989年(平成元年)に開発した香水にフランス語で「緑の風」を意味する「VENT VERT」の商標を付し、同年からこれを我が国でも販売しているが、1996年(平成8年)5月、原告は、「VENT VERT」を「PIERRE BALMAIN」のサブブランド(「PIERRE BALMAIN」を使用する商品より低価格帯の商品に使用する商標)とし、香水に加え、あらゆるファッション関連製品について使用し、我が国においてその商品展開を行うことを決めた。このことが日本経済新聞、日本繊維新聞、日経流通新聞及び繊研新聞によって大々的に報じられ、また、同年6月28日、原告が記念パーティを催して関連業者及び報道機関を集め、上記商品展開の告知をしたことにより、同年5月ないし6月当時、「VENT VERT」及び「ヴァン ヴェール」は、「PIERRE BALMAIN」のサブブランドである原告の商標として、我が国において周知となった。
そして、原告は、「VENT VERT」を使用した商品展開を我が国で行うに当たり、「VENT VERT」がフランス語であって「ヴァンヴェール」と称呼すること及び「緑の風」を意味することを周知徹底させている。
したがって、本願商標は「ヴァンヴェール」と称呼するものとして周知であるから、本願商標からは「ヴァンヴェール」の称呼のみ生じ、「バンベール」の称呼は生じない。
(3) 被告は、「外来語の表記」の記載を根拠として、本願商標から「バンベール」の称呼が生ずると主張するが、「外来語の表記」は外国語の表記に関する内閣の告示にすぎず、本願商標の指定商品に係る取引者、需要者が本願商標をどのように称呼するかとは無関係であって、被告の上記の主張は誤りである。
2 取消事由2(類否判断の誤り) (1) 審決は、「本願商標と引用各商標とは、外観において相違し、観念上相紛れるおそれがないとしても、それぞれから生ずる『バンベール』の称呼を共通にする類似の商標と認められ」(審決謄本2頁21行目〜23行目)ると判断した。
しかしながら、本願商標から「バンベール」の称呼が生ずるとすることは、上記1のとおり誤りというべきであるが、仮に、本願商標から「バンベール」の称呼が生ずるとしても、以下のとおり、審決の上記類否判断は誤りである。
(2) 商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるところ、その判断に当たっては、商品に使用された商標の称呼外観観念によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して、全体的に考察すべきであり、しかも、その商品の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である。そして、その場合、商標の称呼外観観念の類似の有無は、あくまでも、その商標を使用した商品についての出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎないものというべきであって、称呼外観観念のうち、一つが類似するものではあっても、他の二つにおいて著しく相違したり、取引の実情のいかんによって、商品の出所に誤認混同を来すおそれを認め難いものについては類似商標と解すべきではない。
上記1の(2)の経緯によって、本願商標から、「『緑の風』を意味する、原告の著名商標『PIERRE BALMAIN』のサブブランド」という周知の観念が生ずるが、
引用各商標からは特定の観念が生じない。したがって、本願商標と引用各商標とは観念において相違するものである。
また、本願商標と引用各商標とは、外観において顕著に相違するものである。
そして、現実の取引において、本願商標は、「PIERRE BALMAIN」の商標のサブブランドであり、かつ、その使用が原告の許諾に係るものであることを示すために、「VENT VERT」に続けて「PAR/PIERRE BALMAIN/PARIS」又は「PIERRE BALMAIN/PARIS」の語を同時に表示するという態様で使用されており、また、原告のサブブランドである旨の文言も付加されている。すなわち、本願商標の使用態様自体からも、本願商標を使用した商品の出所が著名な原告であることが明示されているのである。
加えて、本願商標を付したその指定商品は量販店向けであり、引用各商標を付したその指定商品は専らデパート向けであるから、両商品は、販路や販売店を異にし、その出所において誤認混同の生ずる余地はない。
さらに、本願商標の指定商品は、商品ごとに品番が付され、流通過程における取引及び在庫管理は品番によって行われていて、称呼によって取引されるものではない。また、本願商標の指定商品は、購入者の個人的な好みが強く反映する商品であり、消費者は、型、サイズ、色、デザインなどを基準に商品の選択をするものであって、称呼のみによって商品を購入することはない。
以上のような、観念及び外観の相違並びに取引の実情を総合して全体的に考察すれば、本願商標と引用各商標とがそれぞれの指定商品に使用されたとしても、商品の出所について誤認混同を生ずるおそれは全くない。したがって、本願商標と引用各商標とは非類似の商標というべきである。
被告の反論
審決の認定、判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は理由がない。
1 取消事由1(本願商標の称呼の認定の誤り)について (1) 原告及びその保有する商標の「PIERRE BALMAIN」が、我が国において著名であること、原告が、1989年に開発した香水にフランス語で「緑の風」を意味する「VENT VERT」の商標を付し、同年からこれを我が国でも販売していること、原告が、1996年5月に、「VENT VERT」を「PIERRE BALMAIN」のサブブランドとし、香水に加え、あらゆるファッション関連製品について使用し、我が国においてその商品展開を行うことを決めたこと、その旨が日本経済新聞、日本繊維新聞、日経流通新聞及び繊研新聞によって報じられたこと、同年6月28日に、原告が記念パーティを催して関連業者及び報道機関を集め、上記商品展開の告知をしたことは認める。
(2) 本願商標は、「VENT VERT」の欧文字及び「ヴァン ヴェール」の片仮名文字を2段に書してなるものであるところ、本願商標からは、「ヴァンヴェール」の称呼が生ずるほか、以下のとおり、「バンベール」の称呼も生ずるものである。
すなわち、片仮名で「ヴ」と表記される子音「v」は、「外来語の表記」(平成3年6月28日内閣告示第2号)において、一般的に用いられる国語化の程度の高い語ではない第2表が適用される語であって、一般的には「バ行」の語で書くことができるとされている。また、「ヴァ」、「ヴェ」の語は、日本人にとってその発音や聴別が必ずしも容易ではなく、日本国内における日常会話や一般の商取引の場においては、子音「v」を含む欧文字についても、その綴りの部分が正確に発音されず、むしろ、日常的に発音されていて日本人にとってなじみ深く、かつ、
「v」音と調音方法及び音質が極めて近似する子音「b」が、これに取って代わって発音される場合が少なくない。
したがって、本願商標から、その構成中の欧文字の部分に相応して「バンベール」の称呼が生ずるものである。
2 取消事由2(類否判断の誤り)について (1) 原告は、仮に、本願商標から「バンベール」の称呼が生ずるとしても、観念及び外観の相違並びに取引の実情を総合して全体的に考察すれば、本願商標と引用各商標とがそれぞれの指定商品に使用されたとしても、商品の出所について誤認混同を生ずるおそれは全くないから、本願商標と引用各商標とは非類似の商標というべきである旨主張する。
しかしながら、以下のとおり、上記主張は誤りである。
(2) 本願商標と引用各商標とが外観上相違することは認めるが、各商標とも文字によって構成される商標であって、外観上の相違は両商標の類否判断に大きな影響を及ぼす程の特殊性はない。
また、「VENT VERT」が「緑の風」の意味を有するフランス語であること自体は認めるが、我が国においてフランス語は英語程には普及しておらず、かつ、本願商標及び引用各商標が使用される「被服」等の商品分野における主たる需要者が一般的な消費者であることにかんがみれば、本願商標が「緑の風」の観念をもって取引に資されているものとは必ずしもいえず、まして、「『緑の風』を意味する、
原告の著名商標『PIERRE BALMAIN』のサブブランド」という周知の観念が本願商標から生ずるなどということはあり得ない。他方、引用各商標からは特定の観念は生じない。そうすると、本願商標が、引用各商標と称呼を同一とし、称呼上類似のものである点をりょうがするような特別な観念をもって親しまれているとはいえず、
本願商標と引用各商標とが、その有する観念によって区別されるということはできない。
さらに、原告は、現実の取引において、本願商標は、「VENT VERT」に続けて「PAR/PIERRE BALMAIN/PARIS」又は「PIERRE BALMAIN/PARIS」の語を同時に表示するという態様で使用され、本願商標を使用した商品の出所が著名な原告であることが明示されている旨主張するが、当該主張は、その内容に照らして、本願商標と同一性のない別異の商標について述べているにすぎないものであり、そのことが本願商標と引用各商標との類似性の判断に影響を与えるものではない。
結局、本願商標と引用各商標とは、称呼外観観念を総合して、全体的に考察した場合、外観において異なるところがあるとしても、観念をもって区別し得るとはいえず、さらに、「バンベール」の称呼を同じくするものであるから、全体として相紛れるおそれのあるものであり、両商標をそれぞれその指定商品に使用した場合には、商品の出所について誤認混同を生じさせるおそれが十分にある。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本願商標の称呼の認定の誤り)について (1) 本願商標は、別添審決謄本写し別紙(1)表示のとおり、いずれも活字体である「VENT VERT」の欧文字と「ヴァン ヴェール」の片仮名文字とを上下2段に書してなるものである。
ところで、正確な欧語(フランス語)の発音においては、「v」の綴りを含む語の当該部分と、「b」の綴りを含む語の当該部分とが識別され得ることはいうまでもなく、被告も本願商標から「ヴァンヴェール」の称呼が生ずることを否定するものではない。
しかしながら、子音「b」が古くから日本語に存在する音であるのに対し、子音「v」は日本語の発音には元々存在していなかった音であることは公知の事実であるところ、このことによれば、日本人としては、「v」音の発音や聴別が必ずしも容易ではないため、日本国内における日常会話や一般商取引の場等において、子音「v」を含む語(外国語又は外来語)が用いられる場合においても、その綴りの部分が正確に発音され難く、むしろ、日本人にとってなじみ深く、しかも「v」音と発音が極めて近似する子音「b」による発音が「v」音による発音に取って代わり、これに伴って、その表記においても、本来の「ヴァ」、「ヴィ」、
「ヴ」、「ヴェ」、「ヴォ」の各片仮名文字に代わって、「バ」、「ビ」、
「ブ」、「ベ」、「ボ」の各片仮名文字が使用されるのが一般的であることは容易に推認することができる。欧語に由来する外来語であって、その子音「v」の綴りの部分を子音「b」によって発音されることが一般的であるものは、例えばフランス語由来のものであれば「バカンス(vacance)」、「バガボンド(vagabond)」、
「トラバーユ(travail)」等、英語由来のものであれば「ビタミン(vitamin )」、「バイオリン(violin)」、「ボランティア(volunteer)」等多数を挙げることができること、また、「外来語の表記」(平成3年6月28日内閣告示第2号、
乙第1号証)において、原則として「外来語や外国の地名・人名を書き表すのに一般的に用いる仮名」とされている第1表に示す仮名に「ヴァ」、「ヴィ」、
「ヴ」、「ヴェ」、「ヴォ」が含まれておらず、「外来語や外国の地名・人名を原音や原つづりになるべく近く書き表そうとする場合に用いる仮名」とされている第2表に示す仮名にこれが含まれていることは、その間の事情を反映したものというべきである(「ヴィスカリン」と「ビスコリン」の称呼類否判断に関する当庁平成8年(行ケ)第312号、平成9年10月1日判決参照)。
そうすると、一般商取引の場等において、本願商標を構成する「VENT VERT」の欧文字が「バンベール」と発音されることが多いものと推認され、さらには「ヴァン ヴェール」の片仮名文字でさえ、その表記にかかわらず、「バンベール」と発音されることも十分に考えられるところであるから、本願商標からは「バンベール」の称呼も生ずるものと認めるのが相当である。
原告は、「外来語の表記」(乙第1号証)は外国語の表記に関する内閣の告示にすぎず、本願商標の指定商品に係る取引者、需要者が本願商標をどう称呼するかとは無関係であると主張するが、上記のとおりであるから、この主張は採用することができない。
(2) 原告及びその保有する商標の「PIERRE BALMAIN」が、我が国において著名であること、原告が、1989年に開発した香水にフランス語で「緑の風」を意味する「VENT VERT」の商標を付し、同年からこれを我が国でも販売していること、原告が、1996年(平成8年)5月に、「VENT VERT」を「PIERRE BALMAIN」のサブブランドとし、香水に加え、あらゆるファッション関連製品について使用し、我が国においてその商品展開を行うことを決めたこと、その旨が日本経済新聞、日本繊維新聞、日経流通新聞及び繊研新聞によって報じられたこと、同年6月28日に、
原告が記念パーティを催して関連業者及び報道機関を集め、上記商品展開の告知をしたことは当事者間に争いがない。
そして、原告は、上記の経過により、平成8年5月ないし6月当時、「VENT VERT」及び「ヴァン ヴェール」は、「PIERRE BALMAIN」のサブブランドである原告の商標として我が国において周知となった旨、また、「VENT VERT」を使用した商品展開を我が国で行うに当たり、「VENT VERT」がフランス語であって「ヴァンヴェール」と称呼すること及び「緑の風」を意味することを周知徹底させているから、本願商標は「ヴァンヴェール」と称呼するものとして周知であり、本願商標からは「ヴァンヴェール」の称呼のみ生じ、「バンベール」の称呼は生じない旨主張する。
しかしながら、原告による「VENT VERT」又は「ヴァン ヴェール」を使用した日本における商品展開の決定を報じた上記日本経済新聞(平成8年5月8日付け、甲第8号証)、日本繊維新聞(同月14日付け、甲第9号証)及び日経流通新聞(同月16日付け、甲第10号証)の各記事は、本文の字数が五百数十字から七百数十字程度のものであって、それぞれ「ヴァン ヴェール」とのブランド名が記載されているものの、日本繊維新聞記事には「VENT VERT」の語句や「ヴァン ヴェール」が「緑の風」を意味する旨の記載はなく、さらに、いずれの記事中にも、本願商標の構成に言及したり、「VENT VERT」が「バンベール」ではなく「ヴァンヴェール」と称呼することを強調した記載は全く見当たらない。なお、繊研新聞記事(同月29日付、甲第11号証)は、株式会社三貴の店舗において「ヴァン・ヴェール・ピエール・バルマン」の婦人パンツスーツの売れ行きがよいという内容の本文三百字余りの記事であって、本願商標の構成、「VENT VERT」の語句、「ヴァン ヴェール」が「緑の風」を意味する旨及び「VENT VERT」が「バンベール」ではなく「ヴァンヴェール」と称呼する旨の記載は全くない。
また、雑誌「BRUTUS」平成10年10月1日号(甲第41号証)及び同誌同月15日号(甲第42号証)、雑誌「ヴァンサンカン」同年10月号(甲第43号証)及び同誌同年11月号(甲第45号証)、雑誌「エル・ジャポン」同年10月号(甲第44号証)及び同誌同年11月号(甲第46号証)にそれぞれ掲載された広告には、いずれも「VENT VERT」、「BALMAIN」、「PARIS」の各欧文字を上下3段に配置し、「VENT VERT」の部分のみ大きい筆記体とし、また「PARIS」の部分はごく小さく書してなる商標が記載されているが、同広告中に本願商標や「ヴァン ヴェール」の語句はなく、「VENT VERT」が「バンベール」ではなく「ヴァンヴェール」と称呼する旨の記載もない。
そうすると、たとえ原告自体は著名であっても、平成8年5月に上記の程度内容の各新聞記事が掲載され、また、平成10年10月〜11月ころに、上記3誌に各2回宛て上記内容の広告が掲載されたからといって、平成8年5月ないし6月から審決がされた平成12年10月11日までの間に、本願商標はもとより、「VENT VERT」又は「ヴァン ヴェール」の構成よりなる商標が、「PIERRE BALMAIN」のサブブランドである原告の商標として我が国において周知となったとは認められないし、まして、「VENT VERT」が「緑の風」を意味することとか、「バンベール」ではなく「ヴァンヴェール」と称呼することなどが我が国において周知になったものとは到底認め難い。
なお、平成8年6月28日に原告が記念パーティを催した事実については、その規模、出席者数、原告による上記商品展開の告知に対する反響等を明らかにし得る証拠がなく、この事実によって、原告主張の上記の各事項が周知となったものとは認められない。
また、弁論の全趣旨により平成10年7月ころに撮影したものと認められる商品写真(甲第14〜第36号証)には、装身具、カバン、ネクタイ、ベルト、
眼鏡、衣料などの各商品のタグやネーム、包装箱等に、「VENT」、「VERT」、「PAR」、「PIERRE BALMAIN」、「PARIS」の各欧文字を上下5段に配置し、「VENT」及び「VERT」の部分のみ大きい筆記体とし、かつ、多くは緑色で書した商標、「VENT VERT」、「PAR」、「PIERRE BALMAIN」、「PARIS」の各欧文字を上下4段に配置し、「VENT VERT」の部分のみ大きい筆記体とし、かつ、多くは緑色で書した商標、「VENT VERT」、「PARIS」の各欧文字を上下2段に配置し、「VENT VERT」の部分のみ大きい筆記体とし、かつ、多くは緑色で書した商標、又はほぼ正方形状の枠を左右方向中央の上下の直線によって分割した左右二つの縦長長方形状の枠内に、同一の筆記体で書した「V」の文字を各1字宛て配置し、
かつ、「V」の文字及び枠内の地の色を左右の枠で反転させてなる商標などが付されており、さらに、そのうち複数の商品については「このヴァン・ヴェール商品はフランス ピエールバルマン社とのデザイン提携により、製作されたものです。」等の文言のあるタグが付されている状況が撮影されているが、これによっても、平成10年7月ころ以前にそのような商品が販売された事実が認められるものの、その販売期間、販売地、販売数量等を明らかにする証拠は全くなく、上記事実のみによって、本願商標、「VENT VERT」又は「ヴァン ヴェール」の構成よりなる商標が、「PIERRE BALMAIN」のサブブランドである原告の商標として我が国において周知になったこと、「VENT VERT」が「緑の風」を意味することや、「VENT VERT」が「バンベール」ではなく「ヴァンヴェール」と称呼することなどが我が国において周知になったことは到底認められない。
したがって、本願商標からは「ヴァンヴェール」の称呼のみ生じ、「バンベール」の称呼は生じないとの原告の主張は採用することができない。
(3) 以上によれば、本願商標から「バンベール」の称呼が生ずるものとした審決の認定に誤りはない。
2 取消事由2(類否判断の誤り)について (1) 原告が主張するように、商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるかどうかによって決せられるべきものであり、その際、商品に使用された商標が、その外観観念称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して、全体的に考察すべく、かつ、その商品の取引の実情を明らかにし得る限り、
その具体的取引状況に基づいて判断すべきものであること、そして、この判断に当たり、商標の称呼外観又は観念の同一又は類似は、それぞれその商標を使用した商品についての出所の誤認混同のおそれを推測させる基準ではあるが、その一つが類似したとしても、他の二つにおいて著しく相違したり、具体的な取引の実情のいかんによっては、商品の出所に誤認混同を来すおそれを認め難いものとして、両商標を類似商標と解すべきでない場合もあることは、一般論として正当である。
そこで、この点に留意しつつ、本願商標と引用各商標との類否について検討する。
(2) 本願商標から「バンベール」の称呼が生ずることは上記1のとおりであり、また、引用各商標から「バンベール」の称呼が生ずることは当事者間に争いがないから、本願商標と引用各商標とは同一の称呼を有するものである。
また、本願商標と引用各商標とが外観上相違することは当事者間に争いがない。しかしながら、「バンベール」との片仮名文字のみによってなる引用A商標と本願商標との相違は明確であるものの、「VINVERT」の欧文字と「バンベール」の片仮名文字を上下2段に書してなる引用B商標と本願商標とは、上段に欧文字を、
下段に片仮名文字を配置してなる構成や、構成文字がさして特徴のない活字体である点などの共通性が看者に一見して強い印象を与え、細部にわたる構成文字の相違や文字間の空白の有無等を考慮したとしても、その間の外観上の相違は全体として小さく、両商標の類否判断に及ぼす影響は乏しいものというべきである。
さらに、原告は、本願商標から、「『緑の風』を意味する、原告の著名商標『PIERRE BALMAIN』のサブブランド」という周知の観念が生ずる旨主張するが、
上記1の(2)に摘示した当事者間に争いのない事実によっては本願商標から上記観念が生ずるものとはいえないことは、上記1の(2)に説示したところにより明らかであり、他に、本願商標から上記観念が生ずることを認めるに足りる証拠はない。そうすると、本願商標からは特定の観念が生じないといわざるを得ず、他方、引用各商標からも特定の観念が生じないことは当事者間に争いがないから、本願商標と引用各商標とは、観念において相違するということはできない。
(3) 平成10年7月ころ以前に、タグやネーム、包装箱等に、「VENT」、「VERT」、「PAR」、「PIERRE BALMAIN」、「PARIS」の各欧文字を上下5段に配置し、「VENT」及び「VERT」の部分のみ大きい筆記体とし、かつ、多くは緑色で書した商標、「VENT VERT」、「PAR」、「PIERRE BALMAIN」、「PARIS」の各欧文字を上下4段に配置し、「VENT VERT」の部分のみ大きい筆記体とし、かつ、多くは緑色で書した商標、「VENT VERT」、「PARIS」の各欧文字を上下2段に配置し、「VENT VERT」の部分のみ大きい筆記体とし、かつ、多くは緑色で書した商標、又はほぼ正方形状の枠を左右方向中央の上下の直線によって分割した左右二つの縦長長方形状の枠内に、同一の筆記体で書した「V」の文字を各1字宛て配置し、
かつ、「V」の文字及び枠内の地の色を左右の枠で反転させてなる商標などが付された装身具、カバン、ネクタイ、ベルト、眼鏡、衣料などの各商品(甲第13〜第36号証)が販売されており、そのうち複数の商品については、「このヴァン・ヴェール商品はフランス ピエールバルマン社とのデザイン提携により、製作されたものです。」等の文言のあるタグが付されていたことは、上記1の(2)のとおりである。
そして、原告は、この事実に基づいて、本願商標の使用態様自体からも、
本願商標を使用した商品の出所が著名な原告であることが明示されている旨主張するが、上記構成態様の各商標が、いずれも活字体である「VENT VERT」の欧文字と「ヴァン ヴェール」の片仮名文字とを上下2段に書してなる本願商標と社会通念上同一と認められる商標に当たらないことは明白であり、原告の上記主張は、上記構成態様の各商標の使用が本願商標の使用であるとする前提においてすでに失当である。
また、原告は、本願商標を付したその指定商品は量販店向けであり、引用各商標を付したその指定商品は専らデパート向けであるから、両商品の出所において誤認混同の生ずる余地はない旨主張し、鈴木泰人作成の「証明書」と題する書面(甲第49号証)にこれに沿う記載がある。しかしながら、仮にそのような事実が存在するとしても、少なくとも、本願商標及び引用各商標が使用される「被服」等の商品分野における主たる需要者である一般的な消費者にとって、本願商標を付した被服等は量販店において、引用各商標を付した被服等はデパートにおいて専ら販売されることが周知であるといえなければ、そのような事実が存在するゆえに、商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがないとはいえないところ、そのことが一般的な消費者に周知であることを認めるに足りる証拠はない。
さらに、原告は、本願商標の指定商品は、流通過程における取引及び在庫管理は品番によって行われ、称呼によって取引されるものではなく、また、本願商標の指定商品は、購入者の個人的な好みが強く反映する商品であり、消費者は、
型、サイズ、色、デザインなどを基準に商品の選択をするものであって、称呼のみによって商品を購入することはないと主張するが、本願商標の指定商品が、一般に購入者の個人的な好みが強く反映する商品であるとしても、本願商標の指定商品
特に「被服」の商品分野で、上記主たる需要者である一般的な消費者の商品選択において、型、デザイン、色、サイズ等のほか、商標(ブランド)もその基準となることが一般であることは公知の事実というべきである。そうとすると、仮に、流通過程における取引及び在庫管理が品番によって行われているとしても、そのゆえに、上記主たる需要者である一般的な消費者にとって、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがないとはいえない。
そして、他に具体的な取引の実情において、本願商標を付したその指定商品と、引用各商標を付したその指定商品との間に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがないといえるような事情を認めるに足りる証拠はない。
(4) 上記(2)及び(3)によれば、本願商標と引用各商標、特に引用B商標とは、
称呼を共通にし、外観上の相違は両商標の類否判断に及ぼす影響に乏しく、観念において相違するということもできない上、本願商標及び引用各商標が使用される商品の分野における具体的な取引の実情において、本願商標を付したその指定商品と、引用各商標を付したその指定商品との間に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがないとはいえないから、両商標は極めて類似するものというべきである。
したがって、本願商標と引用各商標とが称呼を共通にする類似の商標であるとした審決の判断は、少なくとも引用B商標に関して誤りはなく、そうであれば、本願商標が商標法4条1項11号に該当するとしたことについても誤りはない。
なお、甲第1号証及び弁論の全趣旨によれば、本願商標は、当初、「VENT VERT」の欧文字を横書きしてなり、指定商品を旧別表による第17類「被服(運動用特殊被服を除く。) 布製身回品(他の類に属するものを除く。) 寝具類」とする登録第2465239号商標(平成2年6月29日登録出願、平成4年10月30日設定登録)の連合商標として登録出願されたものであるところ、当該商標登録については、商標法4条1項11号に違反して登録されたものとして無効とする審決(平成8年審判第15219号)がされ、これに対する審決取消訴訟の判決(当庁平成10年(行ケ)第163号、平成11年6月1日判決)においても上記審決の判断が維持されてこれが確定していることが認められる。
3 よって、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらないから、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担並びに上告及び上告受理申立てのための付加期間の指定につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条96条2項を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 石原直樹
裁判官 宮坂昌利