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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成14ワ13569商標権侵害差止等請求事件 平成15ワ2226商標権侵害差止請求事件 判例 商標
平成17・248損害賠償請求控訴事件 判例 商標
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平成18ワ4737商標権侵害差止等請求事件 判例 商標
平成10ワ4292商標使用差止等請求事件 判例 商標
関連ワード 包装 /  識別機能 /  指定商品 /  顧客吸引力(グッドウィル) /  類似性(類否判断) /  損害額 /  逸失利益 /  使用料相当額 /  権利濫用(権利の濫用) /  通常使用権 /  専用使用権 /  外観(外観類似) /  国内 /  警告 /  差止 /  継続 /  商号 /  利益額 / 
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事件 平成 11年 (ワ) 8085号 商標権侵害差止等請求事件
原告 株式会社ジェー・ピー・シー
原告 インターナショナル・トイレツリース株式会社
両名訴訟代理人弁護士 渡邊敏
被告 株式会社コスモビューティー
訴訟代理人弁護士 服部廣志
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2001/09/28
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は,原告株式会社ジェー・ピー・シーに対し,金884万円及びこれに対する平成11年5月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,原告株式会社ジェー・ピー・シーに生じた費用の4分の3と被告に生じた費用の8分の3を同原告の負担とし,同原告に生じた費用のその余と被告に生じた費用の8分の1を被告の負担とし,その余のすべての費用を原告インターナショナル・トイレツリース株式会社の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1 被告は,原告株式会社ジェー・ピー・シーに対して,金3705万5696円及びこれに対する平成11年5月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告インターナショナル・トイレツリース株式会社に対して,金300万円及びこれに対する平成11年5月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は,東京スポーツ全国版,通販新聞及び日本経済新聞全国版に別紙記載の謝罪広告を別紙記載の条件で掲載せよ。
事案の概要
原告らは,別紙商標権目録記載の登録商標(以下「本件商標」といい,これに関する商標権を「本件商標権」という。)の付された別紙原告商品目録記載の商品(以下「原告商品」という。)を輸入して,販売していた。被告は,本件商標と同一の標章が付された別紙被告商品目録1ないし5記載の各商品(以下「被告商品」という。また,個別に指す場合は「被告商品1」などという。)を輸入して販売していた。
原告株式会社ジェー・ピー・シー(以下「原告ジェー・ピー・シー」という。)は,被告の行為が,同原告の有していた本件商標の専用使用権等侵害,原告商品に関連して有する著作権侵害及び不正競争行為にそれぞれ該当すると主張し,また,原告インターナショナル・トイレツリース株式会社(以下「原告トイレツリース」という。)は,被告の行為が薬事法に違反する不法行為に該当すると主張して,被告に対して損害賠償の請求をした。
1 前提となる事実(証拠等を示した事実を除き,当事者間に争いがない。) (1) 当事者 原告ジェー・ピー・シーは,広告の企画及び制作請負,化粧品,トイレタリー製品の製造,販売及び輸出入等を目的とする株式会社であり,平成6年11月から原告商品を原告トイレツリースを介して輸入し,日本国内で販売していた(甲47,弁論の全趣旨)。原告トイレツリースは,化粧品,医薬部外品,雑貨品の輸出入等を目的とする株式会社である(弁論の全趣旨)。被告は,化粧品,石鹸,洗剤,医薬部外品の製造販売等を目的とする株式会社である(弁論の全趣旨)。
(2) 原告商品 原告商品は,中華人民共和国(以下「中国」という。)で開発され,北京亜美日化廠(ベイジン・ヤ・メイ・コスメティクス・ファクトリー,以下「北京亜美」という。)が1987年(昭和62年)に商品化した「迷奇」と称する美容クリームであり,1989年(平成元年)12月,共産圏内の発明コンクールである第38回ユーレカ国際発明展で金賞を受賞した(甲3)。
(3) 独占販売契約 原告ジェー・ピー・シーは,平成8年6月21日,北京亜美との間で,原告商品について,次の条項を含む内容で,日本における独占販売契約(以下「本件独占販売契約」という。)を締結した(甲19)。
北京亜美は,原告ジェー・ピー・シーに対し,日本市場における原告商品の独占販売権を許諾し,原告ジェー・ピー・シーは,唯一の正規販売代理店とする。また,原告ジェー・ピー・シーは,北京亜美の有する商標権を北京亜美に代わって行使できる(第1項)。
北京亜美は,原告ジェー・ピー・シー以外の日本の会社に対して,原告商品を直接又は第三者を通して販売してはならない(第3項)。
契約期間は1年とし,更新は自動継続を基本とするが,契約更新は契約期間終了3か月前に,北京亜美,原告ジェー・ピー・シー相互の協議による確認を基本とする(第7項)。
なお,平成12年2月5日,北京亜美と同原告は,本件独占販売契約について解約する旨の協議書を交わした(解約の効力が生じているかについては争いがある。)。そして,同年3月6日,北京亜美は,被告との間で,美容クリーム「迷奇」の日本国内における独占販売契約を締結した(甲59,乙108,109及び126,枝番号の表記は省略する。以下同じである。)。
(4) 本件商標権に係る専用使用権 原告ジェー・ピー・シーは,北京亜美の有する本件商標権の全部の範囲について専用使用権の設定を受け,平成9年5月12日その旨の登録を受けた。
なお,平成12年2月5日,北京亜美は,原告ジェー・ピー・シーとの間の本件商標権の専用使用権設定契約について,解約する旨の協議書を交わした(解約の効力が生じているかについては争いがある。)。そして,同年3月6日,北京亜美は,被告との間で,本件商標権の専用使用権設定契約を締結した(その設定登録は未だされていない。甲59,乙110ないし112,126)。
(5) 本件商標と被告標章との同一性又は類似性 本件商標は,別紙商標権目録記載のとおり,「迷奇」,「MiQi」を円環の中に記載して図形化したものであり,被告商品に付された標章は,本件商標と全く同一であるか,又は極めて類似する。
(6) 被告の行為等 ア 被告は,平成7年ころから,中国にある中国和平公司等の商社から被告商品を輸入し,これを日本国内の通信販売業者等に卸売販売している。なお,被告商品1ないし5は,本件商標を付して販売された商品の例示(一部)である(弁論の全趣旨)。
イ 東京スポーツ新聞社の発行する「東京スポーツ」平成9年5月24日付け「中国の万能クリーム 日本で販売権闘争」と題する記事の中に,被告の意見として「商標権はあくまで北京の会社にあるはず。独占販売契約なんて結んでいるわけがない。私らが売っているのは間違いなく本物の『迷奇』。とんだ言いがかり」旨の記事が掲載された(甲39)。
ウ 被告は,以下のとおりの態様で被告商品の宣伝活動をした。
(ア) 背景写真の利用行為 株式会社総通が発行した訴外日本直販の「日本メールサービス」の1996リベラル特別号(VOL47)及び1998総合カタログ(VOL51)に,被告商品の広告がされた。その広告中に掲載されている背景写真は,訴外株式会社世界文化フォトが著作権を有する写真と同一である。
なお,原告ジェー・ピー・シーは,同社から複製について許諾を受けている(甲33,46,52)。
(イ) キャッチコピーの利用行為等 訴外富士パックス販売は,被告商品を通信販売していたが,その通信販売用チラシ「アイデア便利品」には,「漢方のふるさと中国四千年の歴史が生んだ,あの迷奇がついに日本上陸」との広告が用いられ(甲48),また,上記チラシ広告の背景写真は,前記世界文化フォトが著作権を有する写真と同一である。
(ウ) 推奨文の作成,利用行為 訴外株式会社テレマートは,被告商品を通信販売していたが,その広告には,東京都板橋区の大牧氏(38才)の推奨文として,「友人からの紹介で朝晩使ってみたら,肌がいつもしっとりして気持ち良く保湿性の良さに驚きました。」との文章が用いられた。上記の推奨文は,原告ジェー・ピー・シーの販売広告に記載された推奨文と全く同一である(甲22,32,50)。
(エ) 輸入許可番号の使用 被告商品の通信販売の広告には,原告トイレツリースが原告商品を輸入するに際して付された神奈川県輸入化粧品許可番号「神化輸・第0027号」がそのまま記載されている(甲22,45,46,48,50及び51)。
(オ) 成分表示の使用 被告商品の通信販売の広告には,被告が大阪府知事宛に届出た化粧品輸入製品届書に記載の成分表とは異なる成分表示がされている。具体的には,「主成分 天然ミンクオイル 高麗人参エキス 他」又は「配合成分/天然ミンクオイル,高級高麗人参,硅油,甘油など」等と記載されている(甲22,40,41,47,48及び51)。
なお,これら(ア)ないし(オ)の行為に,被告が関与したか否かについては,争いがある。
2 争点 (1) 本件商標権に係る独占的通常使用権ないし専用使用権侵害の成否 被告商品は,商標権者である北京亜美の製造,販売に係る商品(いわゆる真正商品)であって,被告商品を輸入,販売する被告の行為は違法性がないといえるか。
(被告の主張) 被告が中国から輸入して日本国内で販売している被告商品は,本件商標権者である北京亜美が中国国内において適法に拡布した商品(いわゆる真正商品)である。
確かに,原告商品と被告商品1ないし5との間には,外箱の色つや,色彩,内容器の形状,ラベルの表示の仕方等において相違があるが,これらは年代の変遷に伴って通常変化する程度のわずかな差異にすぎず,被告商品と原告商品とは,外観が同一であると評価でき,外観の僅かな相違は,被告商品が真正商品でないことの根拠にはならない。
被告商品は,北京亜美から輸入販売したものであるから,本件商標についての出所識別機能等を阻害することはなく,実質的違法性がないので,原告の有する専用使用権等を侵害しない。
(原告ジェー・ピー・シーの反論) 以下に述べるとおり,原告商品と被告商品との間には,相違点が存在するので,被告商品は,真正商品でないことは明白である。被告による被告商品の輸入販売について,実質的な違法性が欠如することはなく,原告の有する専用使用権等を侵害する。
ア 原告商品の特徴 (ア) 外箱の特徴 外箱の正面,背面,右側面,左側面には,ピンク色の花柄が中心に描かれており,正面の横線より上部に,「迷奇」と大きく記載され,その下には「高級神奇美容蜜」と記載されている。背面は横線より上部に,「MIRACLE」と大きく記載され,その下には,「super miracle beauty cream」と記載されている。右側面の横線より上部には,第38回ユーレカ国際コンクール金賞受賞のメダルが描かれている。左側面の横線より上部にはバーコードが印刷されている。外箱頭部には,本件商標が記載され,外箱底面には印刷会社が,外箱の内面には本件商標が,全面に点在模様として,それぞれ印刷されている。
(イ) 容器の特徴 容器は,円柱状の容器であり,上部がキャップ,下部が容器本体となっている。キャップ部は頭部に本件商標のシールが貼付されており,容器本体部には,筒状にラベルが巻装されており,その正面には,「迷奇」と大きく記載され,その下には「高級神奇美容蜜」と記載され,さらにその下には,「super miracle beauty cream」と記載されている。
イ 被告商品の特徴 (ア) 被告商品1 外箱は,原告商品と同じ特徴を有しているが,正面の「迷奇」の文字の大きさや太さ,絵柄や文字の配置等すべてにおいて,原告商品と異なっている。
背面の英語の文字の配置や字体も異なっている。右側面のメダルの色や配置も同様である。左側面のバーコードは後から張り付けており,記載の位置も異なっている。容器本体のラベル正面の迷奇の文字も原告商品より細くなっている。キャップの平面写真の迷奇のシールは,被告商品1の方が僅かに濃い。
(イ) 被告商品2 外箱の特徴は,被告商品1に似通っているが,外箱正面の迷奇の文字は,被告商品1よりさらに文字が太くなっている。なお,外箱正面の「迷奇」の文字の大きさや太さ,絵柄や文字の配置等すべてにおいて,原告商品と異なっている。背面の英語の文字の配置や字体も異なっている。右側面のメダルの色や配置も異なっている。本体についても,印刷色が紫色で不鮮明であるし,キャップの形状や材質も原告商品とは全く異なっている。
(ウ) 被告商品3 商品の外箱は,原告商品とは異なり,その正面の花柄やその色合いも違い,また銀色の横線より上に,「MIRACLE」,「高級神奇美容蜜」,「Super Quality Miracle Beauty Cream」,「Made in China」と記載されている。さらに金賞メダルが背面に描かれており,バーコードの記載もなく,原告商品と著しく異なる。容器は,被告商品1と同一である。
(エ) 被告商品4 外箱については,おおむね原告商品と同じである。しかし,容器については,キャップの頭部の迷奇のマークが刻印され,キャップの形状が原告商品より丸みが少なくなっており,さらにキャップ内部にギザギザのストッパーが付いている。容器本体のラベルの色合いは原告商品よりも薄く,また正面の「迷奇」の文字間の幅が原告商品に比べて狭く,かつ文字の印刷配置も異なる。
(オ) 被告商品5 外箱については,おおむね原告商品と同じである。しかし,容器は,キャップの頭部の「迷奇」のマークが原告商品と同様シールで,同様の形態をとっているが,シールに描かれたマーク及び文字の字体が原告商品と異なる。キャップの底部のさらに下の容器本体に付されているリング状の銀帯については,原告商品が燻し銀タイプであるのに対して,被告商品5は光沢タイプである。また,キャップの形状は,原告商品より丸みが少なくなっている。容器本体のラベルの色合いは,原告商品より薄く,また正面の「迷奇」の文字間の幅が原告商品に比べて狭く,かつ文字の印刷配置も異なる。容器本体のラベルの花柄も異なる。
(2) 権利濫用の成否 (被告の主張) 原告ジェー・ピー・シーの本件商標権に係る専用使用権に基づく請求は,日本国内における同原告の独占的輸入権や販売権を確保する手段,目的で利用され,また,独占禁止法にも違反するから,商標権に係る専用使用権の濫用に当たり許されない。
(原告ジェー・ピー・シーの反論) 被告の主張は争う。
(3) 著作権侵害の成否 (原告ジェー・ピー・シーの主張) 被告商品の販売に際し,「前提となる事実」(6)ウ(ア)ないし(ウ)記載のとおり,宣伝活動がされた。
被告は,訴外日本直販,同富士パックス販売及び同テレマートと共同で,背景写真,キャッチコピー及び推奨文を作成したというべきであり,被告の宣伝行為は,原告ジェー・ピー・シーが有する著作権を侵害する。
(被告の反論) 原告ジェー・ピー・シーの主張は争う。各著作権侵害行為に関する被告の具体的関与は何ら主張立証されていない。
(4) 不正競争防止法違反の成否 (原告ジェー・ピー・シーの主張) 被告商品の販売をめぐる紛争に際し,「前提となる事実」(6)イ記載のとおり,被告側の発言が東京スポーツに記事として掲載された。当時,原告ジェー・ピー・シーは訴外北京亜美との間で,「前提となる事実」(3)記載のとおり,原告商品について,日本における独占販売契約を締結していたから,被告の発言は,虚偽の風説を流布した行為であって,不正競争防止法2条1項13号に当たる。
(被告の反論) 原告ジェー・ピー・シーの主張は争う。被告の誰が,どのような方法で虚偽の風説を流布したかは何ら主張立証されていない。
(5) 薬事法違反の成否 (原告トイレツリースの主張) 被告商品の販売に際し,「前提となる事実」(6)ウ(エ)及び(オ)記載のとおり,宣伝活動がされたが,これらは,薬事法66条に違反する虚偽の表示である。
これらの虚偽の表示行為は,訴外日本直販,同富士パックス販売及び同テレマートによってされたものであるが,被告はこれらの事実を知り,あるいは過失により看過して,販売行為を継続した。被告の同行為は,原告トイレツリースの信用を毀損する不法行為を構成する。
(被告の反論) 原告トイレツリースの主張は争う。被告の違法行為,故意過失の内容は何ら主張立証されていない。
(6) 損害額 (原告らの主張) ア 原告ジェー・ピー・シーの損害 原告ジェー・ピー・シーは,被告の商標権侵害行為,著作権侵害行為及び不正競争防止法違反行為により以下の損害を被った。
すなわち,被告による平成7年11月ないし同11年3月までの被告商品の販売個数は14万1542個である。一方,原告ジェー・ピー・シーの販売額(卸値)の平均値は,原告商品1個当たり1309円で,純利益率は20%であるから,被告が被告商品を販売したことによる原告ジェー・ピー・シーの逸失利益は,金3705万5696円であり,同額の損害を被った。よって,同原告は,被告に対し,民法709条により,同額の損害賠償請求をする。
141,542×1,309×0.2≒37,055,696 イ 原告トイレツリースの損害 原告トイレツリースは,被告の薬事法違反行為により,信用を毀損され損害を被ったところ,その額は金300万円を下らない。よって,同原告は,被告に対し,民法709条及び710条により,金300万円の損害賠償請求をする。
(被告の反論) 原告らの主張は争う。
原告が本件商標の専用使用権について設定登録したのは,平成9年5月12日であり,それ以前の損害賠償請求は認められない。
被告が販売した被告商品の年度別販売数量は,平成7年度不明,平成8年度8万7556個,平成9年度15万3117個,平成10年度7万7841個,平成11年度7万9172個,平成12年度7万3092個である。被告商品の販売価格(卸価格)の平均は,550円ないし若干それより高い程度である。
争点に対する判断
1 争点(1)(商標権に係る専用使用権侵害等の有無)について まず,被告商品が,商標権者である北京亜美の製造,販売に係る商品(いわゆる真正商品)であるか否かについて検討する。
証拠(各認定部分に表記した。)によれば,以下の事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
(1) 被告が,被告商品を仕入れた経路は,以下のとおりである。
ア 新興三鼎砿業開発公司ルート 被告は,新興三鼎砿業開発公司から,平成7年10月23日「MIRACLE SUPER-QUALITY BEATUTY CREAM」と称する商品5000個を(乙16,17,19),同年12月28日「MIRACLE SUPER-QUALITY BEATUTY CREAM」と称する商品10000個を(乙25,26),同8年1月末ころ「MIRACLE SUPER-QUALITY BEATUTY CREAM」と称する商品1515キログラム(約10000個に相当)を(乙24),それぞれ輸入した。一方,新興三鼎砿業開発公司は,平成7年12月25日,北京亜美から「神奇(香)」と称する商品10000個を購入したことがある(乙118,119)。
イ 北京工芸進出口集団公司ルート 被告は,北京工芸進出口集団公司から,平成7年12月26日「MIRACLE SUPER-QUALITY BEATUTY CREAM」と称する商品10000個を(乙20ないし23),同8年1月26日「MIRACLE SUPER-QUALITY BEATUTY CREAM」と称する商品10000個を(乙122),それぞれ輸入した。一方,北京工芸進出口集団公司は,北京亜美から「神奇(香)」と称する商品10000個を購入したことがある(乙122)。
ウ 長城国際経済技術合作有限公司ルート 被告は,長城国際経済技術合作有限公司から,平成8年4月「MIRACLE SUPER-QUALITY BEATUTY CREAM」と称する商品10000個を輸入した(乙27ないし29)。一方,長城国際経済技術合作有限公司は,北京亜美から「神奇(香)」と称する商品5000個を購入したことがある(乙30,120)。
エ 中国和平公司ルート 被告は,中国和平公司から,平成9年2月28日「MIRACLE SUPER-QUALITY BEATUTY CREAM」と称する商品7200個を輸入した(乙31ないし34)。被告と中国和平公司との取引は,平成8年12月ころから同9年4月22日ころまで続いていた(乙129)。一方,中国和平公司は,北京亜美から,平成9年4月3日「美容蜜」と称する商品3600個を(乙5ないし7,35,36),同年4月18日「美容蜜」と称する商品3600個を(乙5,8,9)を,それぞれ購入したことがある。
オ シノケム山東等ルート 被告は,被告商品を,平成9年2月以降中国石炭から,平成9年8月以降シノケム山東から,平成9年11月以降上海軽工から,それぞれ輸入した(乙129)。しかし,中国石炭等の仕入先各社が北京亜美から商品を購入したことを認めるに足りる証拠はない。
(2) 北京亜美と原告ジェー・ピー・シー及び被告との関係についての経緯は以下のとおりである。
ア 平成7年10月,被告が新興三鼎砿業開発公司から被告商品を輸入するに先立ち,被告の親会社の担当者である傅柔は,平成7年9月26日,新興三鼎砿業開発公司を訪れて,被告商品の輸入に関する折衝をし,新興三鼎砿業開発公司から,乙18号証の成分表をファックスで取り寄せた。次いで,翌27日,新興三鼎砿業開発公司の担当者と共に北京亜美の工場に赴き,当時同工場長の学守東と面談し,同成分表に社印を押してもらったことがある(乙100,101,103)。
なお,同成分表には,北京亜美の旧商号「北京市亜美日用化粧品廠」(6年以上前に変更された。)が押されている(甲37)が,これをもって,同社印が真正に押捺されたものでないと認定することはできない。
イ ところが,平成8年6月21日,北京亜美は,原告ジェー・ピー・シーに対して,「前提となる事実」(3)記載の本件独占販売契約を締結し,原告商品の販売に関して独占権を付与した。
一方で,学守東は,新興三鼎砿業開発公司等の取引先を通じて,被告が被告商品を取り扱うことを黙認していた形跡がある(乙100,102,129)。
ウ 原告ジェー・ピー・シーは,本件独占販売契約を締結した直後,被告に対して,独占販売権を侵害する旨の警告書を送付した。被告は,これに対し,平成8年10月1日,同原告の警告に理由がないこと等を返答し,以後も被告商品の輸入,販売を継続していた(甲34,乙129)。
平成9年1月28日,原告ジェー・ピー・シーは,北京亜美の代理人として,各税関長あてに輸入差止めの申立てをし(甲17,18),同年2月12日には,北京亜美及び同原告が,被告外2社に対し,被告外2社による被告商品の販売は商標法に違反する旨主張して,警告を発した(乙1,13)。さらに,同年5月9日,原告ジェー・ピー・シー及び北京亜美は,東京地方裁判所に,被告外1社を債務者として,被告外1社による「迷奇」標章の使用の禁止を求めて,仮処分の申立てをした(乙14,15)。
他方,被告側も,平成9年,大阪地方裁判所に,原告ジェー・ピー・シーの警告や宣伝広告行為が営業妨害行為に当たるとして,損害賠償及び謝罪広告を求めて訴えを提起した(以下,「大阪訴訟」という場合がある。甲43)。
エ 平成9年5月12日,原告ジェー・ピー・シーのため,本件商標について専用使用権の設定登録がされた。
このころ,被告は,被告商品の仕入先を変更した。すなわち,被告商品の仕入先は,平成9年5月12日以前は,新興三鼎砿業開発公司,北京工芸進出口集団公司,長城国際経済技術合作有限公司及び中国和平公司であったが,それ以後は,主にシノケム山東及び上海軽工に変更した(乙129)。
北京亜美は,少なくともこの時期には,大阪訴訟及び本件訴訟において,原告ジェー・ピー・シーを支援していた。
ところが,平成12年2月5日,北京亜美は,原告ジェー・ピー・シーとの間の本件商標権の専用使用権設定契約を解消し,同年3月6日,被告との間で,本件商標権の専用使用権設定契約を締結し,被告との協力関係を構築した(その設定登録は未だされていない。) (3) 被告商品と原告商品の外観及び形状を対比すると,以下のとおりである。
ア 原告商品 原告商品の外観及び形状は,以下のとおりである(甲28,29,弁論の全趣旨)。
(ア) 外箱の特徴 外箱は,白色で,上端から約3分の1の位置に銀色の横線が設けられており,その下には,正面,背面,右側面,左側面いずれもピンク色の牡丹の花が描かれている。正面下部には「中国・北京市亞美日化厂」「厂址・北京市<以下略>」,背面下部には「Yamei Cosmetics Factory」「Beijing China」の文字が記載されている。横線の上部は,正面に「迷奇」の文字が記載され,その下に若干小さい字で「高神奇美容蜜」と記載されている。背面には「MIRACLE」の文字が記載され,その下に「super miracle beauty cream」の文字が二段に記載されている。右側面には第38回ユーレカ国際コンクール金賞のメダルが金色で描かれており,左側面にはバーコードが印刷されている。外箱の頭部には,本件商標が銀色で印刷されており,底面には「大生印有限公司承印」と黒字で印刷されている。また,外箱の内面は,水色の地に,本件商標が灰色で全面に点在模様として印刷されている。
(イ) 容器の特徴 容器は円柱状であり,上部のキャップ及び下部の容器本体から構成されている。容器本体とキャップの間には銀色の線が設けられている。容器本体に貼付されたラベルには,「迷奇」「高神奇美容蜜」「Super Miracle Beauty Cream」の文字及びピンク色の牡丹の花が印刷されている。容器のキャップは軟質プラスチックで形成され,頭部に本件商標のシールが貼られており,キャップの内部にギザギザはない。また,容器の底部には,「迷奇」の刻印がされている。
イ 北京亜美の中国正規販売店における商品 被告が,北京亜美の中国での正規販売店である北京友誼商店で購入した商品の外観は,以下のとおりである(なお,北京友誼商店が北京亜美の正規販売店であることは,乙121により認められる。)。
被告が平成10年8月3日北京友誼商店で購入した商品(乙61ないし64,76,79,87ないし91,以下「中国商品」という。)は,外箱が原告商品と類似し,本体は,容器のキャップ頭部に本件商標の刻印があり,キャップの内側にギザギザがある。キャップ頭部の縁の形状は後記被告商品4と同一である。
ウ 被告商品 被告が平成8年及び同9年に輸入販売した商品には,少なくとも以下の5種類(被告商品1ないし5)存在することが認められる(甲28,29,42,弁論の全趣旨)。
(ア) 被告商品1 原告らが平成8年2月13日HACドラッグで購入した商品(甲42の管理番号11)の外観及び形状は,以下のとおりである。
外箱正面の「迷奇」の字の大きさが原告商品よりやや大きく,「高神奇美容蜜」の字体も原告商品と若干異なっているほか,牡丹の花の色が黄色味を帯びており,箱の底面に印刷会社の表記がなく,裏側は白色で本件商標の点在模様がない。
容器は,原告商品とおおむね類似するが,貼付されたラベルに印刷された「迷奇」の文字が原告商品におけるものより細くかつ薄く描かれ,容器の底部に「迷奇」の刻印がなく,キャップ頭部に貼付された本件商標のシールも,原告商品と比べると,文字に縁取りがある点で異なる。
(イ) 被告商品2 リベラル特別号(47号)に掲載され,原告らが平成8年5月23日に日本メールサービスの通信販売で購入した商品(甲42の管理番号25)の外観及び形状は,以下のとおりである。
少なくとも外箱正面の「迷奇」の文字の大きさが原告商品のものと異なり,牡丹の花の色が黄色味を帯びており,外箱右側面に記載されたメダルの色も銀色である。外箱の底面に印刷会社の表記がなく,裏側は白色で本件商標の点在模様がない。
容器は,本体とキャップの間に設けられた銀色の線が原告商品よりも細く光沢があり,ラベルに印刷された花が濃い赤紫色で輪郭が不鮮明であり,底部に「迷奇」の刻印がない。また,容器のキャップが硬質プラスチック製で内蓋押さえがある(甲42)。
(ウ) 被告商品3 原告らが平成8年7月16日にエスティ寺内から購入した商品の外観及び形状は,以下のとおりである。
外箱正面の銀線より上に「MIRACLE」「高級奇美容蜜」「Super Quality Miracle Beauty Cream」「Made in China」と記載され,外箱背面に銀色のメダルが描かれている。また,牡丹の花の色が黄色味を帯びている。外箱左側面の銀線より上に「Manufactured by Yamei Cosmetics Factory,Beijing,China」,右側面の銀線より上に「中國・北京美日化廠製造」と記載されている。外箱の底面に印刷会社の記載がなく,裏側は白色で本件商標の点在模様がない。なお,この商品は,外箱底面の折り畳み方が原告商品のみならず,他の被告商品とも異なっている。
容器は,おおむね原告商品と類似しているが,ラベルの「迷奇」の文字が原告商品のものに比べて薄く,底面に「迷奇」の刻印はない点で相違している。
(エ) 被告商品4 原告らが平成9年4月22日にテレマートで購入した商品の外観及び形状は,以下のとおりである。
外箱が原告商品と文字,印刷ともに酷似している。
容器は,キャップの頭部に銀色で本件商標の刻印がされており,キャップ内部にギザギザが付いている。キャップの頭部の縁の丸味が原告商品とは異なる。ラベルの花柄が原告商品と異なる。容器の底面に,「迷奇」の刻印があるほか,点が1個盛り上がっている。
(オ) 被告商品5 原告らが平成9年2月14日小俣商会から購入した商品の外観及び形状は以下のとおりである。
外箱は,被告商品4と外観及び形状が同一である。
容器は,原告商品と同じく,キャップ頭部に本件商標のシールが貼られており,蓋の内側にギザギザもない。ラベルは被告商品4と同じであるが,リング状の銀帯が光沢を有している。容器の底面に,「迷奇」の刻印があるが,2個の点が盛り上がっている。
エ 上記アないしウの事実を前提に検討する。
(ア) 被告商品1ないし3 被告商品1及び2は,原告商品との間で,外箱に印刷された牡丹の花やメダルの色の違いや文字の大きさ,字体において相違するだけでなく,(a)外箱の裏側が真白で,原告商品に見られる本件商標の点在模様がなく,(b)容器の底部に「迷奇」の刻印がないという点において相違する。また,容器のキャップが割れやすい硬質プラスチック製という顕著な違いがある(被告商品2については,容器貼付のラベルに印刷された花の色が他の製品と異なる濃い赤紫色で,花の輪郭も不鮮明であるという粗雑な印刷がされている。)。被告商品3は,外箱に印刷された牡丹の花の色及びメダルの色,字体において相違する外,(a)外箱の裏側に本件商標の点在模様がなく,(b)容器の底部に「迷奇」の刻印がなく,(c)外箱下部の折り方が異なるという点で相違する。
点在模様や刻印は,経験則上,製造業者が偽造防止のため施す措置であると理解される点に鑑みれば,被告商品1,2と原告商品との相違点は,単に印刷の不具合や容器製造業者による品質のばらつきという範囲に止まるものではないというべきであって,被告商品1ないし3は,北京亜美の製造,販売に係る製品ではないと判断される。
(イ) 被告商品4及び5 被告商品4は,原告商品と対比すると,キャップの刻印及び内側のギザギザの点を除いては,外箱及び容器ラベルの印刷の質及び色彩,外箱の裏側の本件商標の点在模様の存在,容器の底部の「迷奇」の刻印などの点において,すべて同等の質を有していること,中国商品と外箱及び容器の形態が類似していること,北京亜美の社長である李長海作成の文書に「キャップに刻印があるもの,キャップの内側にギザギザが付いているものは,1997年度(平成9年度)から北京亜美が製造している商品である」との記載があること(乙116)を総合すれば,北京亜美が,中国国内向けに製造した商品であると判断される。 被告商品5は,被告商品4と同一の外箱及び容器ラベルから構成され,原告商品と対比すると,容器のリング状の銀帯の光沢の有無において異なる点を除いて,容器のキャップに本件商標のシールが貼付され,その内側にギザギザもない点で同一であることや外箱及び容器ラベルの印刷の質及び色彩,外箱の裏側の本件商標の点在模様の存在,容器の底部の「迷奇」の刻印などの点において,すべて同等の質を有していることに照らすならば,北京亜美が,中国国内向けに製造した商品であると判断される。
(ウ) 被告は,原告商品と被告商品1ないし5の間にみられる相違は,年代の変遷に伴い通常生ずる,単なる色彩や字体の相違にすぎない旨主張し,同主張に沿った証拠(乙115,124)もある。しかし,被告商品1ないし3と原告商品及び中国商品との間には,単に,年代の変遷に伴い認められる程度の色彩や字体の変化を超えた印刷技術や「迷奇」の刻印の有無における相違があり,その点を考慮すると,原告の主張は採用の限りでない。
また,被告は,被告商品は,中国の商検機構の検験に合格し,北京亜美製造に係る真正商品であるという証明を受けて中国から輸出を許可されたものであるから,北京亜美の製造,販売に係る商品であることは明らかである旨主張する。しかし,同検験は,「輸出入商品に関して検査・鑑定を行い,輸出入商品の品質管理と検査業務に対する監督管理の職務を履行する」ためのものであり(中華人民共和国進出口商品検験法実施条例3条〔乙38〕),商検機構による検験の内容は,商品の品質,規格,数量,重量,包装等のほか,安全,衛生基準等と定められており(同条例9条),輸出商品がいわゆる真正商品であるかどうかは対象とされていないから,商検機構による検験を経たことをもって,当該商品がいわゆる真正商品であるということはできず,この点の被告の主張は採用できない。
また,当時,被告において,被告商品の輸入を担当していた宋海は,「中国の商社が『迷奇』を輸出する時は,北京亜美の商品企画検査合格表の原本を入手し,これを添付しているから,被告商品は,北京亜美の製造販売する商品である」旨陳述する(乙102)。確かに,輸出商品に関し商検手続をする際には,@売買契約書か販売確認書若しくは受注書,A商業信用状,その取引に関係する通信書類,B製造元が提出した「製品規格検査合格表」の原本,C指定検査輸出商品(法検商品)の申請の際,商品検査機関(商検機構)が発行した「輸送する際に輸出商品の包装容器の性能に関する検査結果報告書」の原本を提出しなければならないことが認められるが(乙37),本件において,被告に対して被告商品を輸出した各商社が,輸出に際して,北京亜美が発行する「製品規格検査合格表」の原本を提出したことを認めるに足りる証拠はないので,被告商品のすべてがいわゆる真正商品であると認定することはできない。
さらに,宋海及び被告の親会社である株式会社モクケンの担当者であった傅柔は,「被告は,『迷奇』を輸入する時,BL(貨物送り状),インボイス(領収書),パッキングリスト,FORM A(原産地証明書)の4点を揃えて正規に輸入しているから,被告が輸入した商品は,北京亜美の製造販売した商品である」旨陳述する(乙102,103)。しかし,原産地証明書は,その商品の原産国を証明する文書であり,商品の出所が北京亜美であることを証明する文書ではないことは明らかであるから,同陳述書により,被告商品のすべてがいわゆる真正商品であると認定することはできない。
(エ) 以上認定したとおり,被告が平成8年及び同9年ころに輸入販売した被告商品のうち,被告商品4,5については,北京亜美が製造,販売した商品である可能性が高いと推認されるが,被告商品1ないし3については,北京亜美が製造,販売した商品であると認めることはできない。
(4) 結論 (1)ないし(3)において認定した事実を総合すると,被告が平成9年5月より前に,中国の新興三鼎砿業開発公司,北京工芸進出口集団公司,長城国際経済技術合作有限公司及び中国和平公司から輸入した被告商品は,北京亜美の製造,販売した商品であるということができるが,他方,被告が,@平成9年2月に中国石炭から輸入した被告商品,A平成9年6月6日以降にシノケム山東,上海軽工から輸入した被告商品,B通信販売で取得した被告商品は,北京亜美の製造,販売した商品であるということはできない(また,被告商品のうち,被告商品4,5については,北京亜美が製造,販売した商品である可能性が高いと推認されるが,被告商品1ないし3については,北京亜美が製造,販売した商品であると認めることはできない。もっとも,被告商品1ないし5の各商品毎について,その仕入先,取引時期,取引数量との対応関係,真正商品の割合等は,必ずしも明らかではない。そこで,損害額の算定に当たっては,@ないしBの数量を基礎に認定することとする。)。
なお,被告は,権利濫用を主張するが,同主張は採用の限りでない。
2 争点(6)(損害額)について 次いで,本件商標権の専用使用権等の侵害によって原告が被った損害額について検討する。
(1) 権利侵害を生じさせた期間について 前記のとおり,原告ジェー・ピー・シーは,平成8年6月21日,北京亜美との間で独占販売契約を締結し,北京亜美から,正規販売代理店として独占販売権を付与され,本件商標権について北京亜美に代わって権利行使をする債権的地位を与えられた(なお,同原告と北京亜美との間で同独占販売契約は平成12年2月5日に解約された。)。したがって,この期間に,被告が本件商標を付した被告商品(北京亜美の製造,販売したいわゆる真正商品を除く。)を販売した場合には,同原告の有する独占的通常使用権(本件商標を付した原告商品について独占販売権を付与したことに照らして,同原告が独占的通常使用権を取得したと解して差し支えない。)ないし専用使用権を侵害するものとして不法行為が成立するというべきであり,これによって原告に生じた損害を賠償する義務を負う。この点,原告が独占販売契約を締結した以降で,北京亜美が本件商標権について設定登録を受けた平成8年11月29日から,同原告が本件商標について専用使用権の登録を受けた平成9年5月12日の前日までの間は,同原告は,本件商標について独占的通常使用権を有するにすぎないが,同権利の侵害が不法行為に当たることはいうまでもない。
(2) 損害額の算定について ア 損害額について検討する。
原告は,必ずしも明らかでないが,原告の受けた損害額につき,「被告商品の販売個数」に「原告商品1個を販売したことにより原告の得る利益額」を乗じた金額とすべきである旨主張するようである。しかし,原告商品1個を販売することによって得た原告の利益額が幾らであるかについて,これを認めるに足りる証拠はない。のみならず,被告は,原告ジェー・ピー・シーよりはるかに大量の商品を販売していること(甲55,乙129,弁論の全趣旨),被告が大量の商品を販売したのは,低い価格設定や被告の独自の営業努力によるものと推認されること,我が国において,「原告商品」の類似品について,15社(個人輸入代行者を含む)が販売していたこと,また,香港製の偽造品が多数出回っていたこと(甲42)等の諸事情を総合すると,原告の受けた損害額について,被告商品の販売個数に原告商品1個当たりの利益額を乗じて算定した金額とするのは相当でない。
その他,原告の受けた損害額について,これを認定するに足りる的確な証拠はない(主張も明確ではない。)。そうすると,原告の受けた損害額については,その登録商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額(以下「使用料相当額」という。)の限度で認めるのが相当である。そこで,以下に,使用料相当額について検討する。
イ 本件商標権(専用使用権及び独占的通常使用権)を侵害する被告商品の販売個数 (ア) 本件商標権に係る専用使用権及び独占的通常使用権を侵害する被告商品の輸入個数は以下のとおりである(なお,乙129は,発注日のみ明らかにされているので,これに依拠した。) (a) 平成9年2月17日,中国石炭から輸入した2万4000個 (b) 平成9年8月22日ないし同年12月26日まで計9回,シノケム山東から輸入した10万9902個 (c) 平成9年6月6日,通信販売で入手した45個 (d) 平成9年11月18日,上海軽工から輸入した6600個 (e) 平成10年1月21日ないし同年10月5日まで計3回,上海軽工から輸入した4万6000個 (f) 平成11年1月6日ないし同年7月5日まで計11回,上海軽工から輸入した8万7960個 (g) 以上合計 27万4507個 なお,被告は,平成12年2月3日以降,上海軽工から,計13回,13万個輸入しているが,原告と北京亜美との間において前記独占販売契約を解消した平成12年2月5日後に販売されたものであると推認されるので,損害額の計算上,これらを除外した。
(イ) 次に,被告商品の国内販売個数を算定する。
平成9年1月ないし平成12年12月の間の,被告の販売個数の合計は38万3222個であること,輸入個数の合計は41万5307個であることに照らすならば,輸入された商品のおおむね92パーセントが販売されたと推認することができる。
そうすると,前記輸入された被告商品27万4507個については,その内25万2546個が販売されたと推認することができる。
ウ 被告商品の販売価格(卸売価格) 被告は,平成13年7月24日付準備書面において,「被告の実際の卸売平均価格は,550円ないし若干それより高い場合もあるという程度である。」旨自白し,その限りでは争いがないこと,乙129によれば,被告商品の輸入価格(単価)は,おおむね3ドル(USドル)であり,当時の為替レートは100円ないし130円程度を推移しているので(甲58),300円ないし390円程度であったと認められること,被告の業態は,輸入した被告商品を,主として国内の通信販売業者に卸すというものであり(弁論の全趣旨),輸入代金のほかには,通関諸費用,国内配送運賃,倉庫料,法定シール貼付代金程度のものが経費として考えられること(甲58),被告商品は,原告商品と比較すると,販売価格(卸売価格)が低額に設定されていること(甲12ないし15,41,42,45,46,48,50ないし52,57及び58)等の諸事情を総合すると,被告商品の販売価格(卸価格)は平均700円程度であったと推認するのが相当である。
エ 使用料率 証拠(甲3,5ないし16)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
北京亜美の製造,販売した商品は,女性のシワ予防クリームとしての効果を有する中国の漢方の化粧品であり,平成元年12月に共産圏内での発明コンクールである,ブルッセルで行われた第38回ユーレカ国際発明展で金賞受賞したこと,平成4年ころより,香港や上海で国際線のスチュワーデスや日本人観光客の間で人気が出るようになり,テレビでの通信販売を通じて全国的に販売が展開されたり,各雑誌や広告媒体でしばしば取り上げられたりするようになったこと,本件商標は,そのような商品を識別するために付された標章であって,その顧客吸引力は決して低いとはいえないこと等の諸事情を総合して考慮すると,本件商標の使用料率としては,被告の販売額の5パーセントとするのが相当である。
使用料相当額 上記アないしウの事実によれば,本件商標の使用料相当額は金884万円であり,これが使用料相当損害金となる(1万円未満を4捨5入した。)。
252,546×700×0.05=8,839,110 3 争点(3)ないし(5)(著作権侵害,不正競争行為,薬事法違反)について (1) 著作権侵害との主張について 「前提となる事実」(6)ウ(ア)ないし(ウ)記載のとおり,被告商品について,宣伝広告がされた。
しかし,被告が宣伝広告に関して,どのような具体的行為に関与したかについて,原告ジェー・ピー・シーの主張がなく,そうである以上,同原告の著作権侵害を理由とする損害賠償請求は認める余地がない。
のみならず,同原告の主張は,以下の理由からも失当である。すなわち,背景写真については,本件全証拠によっても,同原告が著作権を有すると認めることはできない。甲33によれば,同原告ジェー・ピー・シーは,訴外株式会社世界文化フォトから同写真の使用について許諾を受けたにすぎず,さらに,「専用使用権ではない。同一又は,類似写真が,他社又は他スポンサーで,既に使用され又は将来使用されることがある。」旨記載されていることから,同原告の使用権限は非独占的なものであることが明らかである。同原告が,第三者の複製使用に対して不法行為に基づいて損害賠償請求権を有することはない。また,キャッチコピー「漢方のふるさと中国四千年の歴史が生んだ,あの迷奇がついに日本上陸」及び推奨文「友人からの紹介で朝晩使ってみたら,肌がいつもしっとりして気持ち良く保湿性の良さに驚きました。」については,いずれも極く短く,平凡かつありふれた表現からなる文章であって,これらの文章について,創作性を肯定することはできない。
以上のとおり,背景写真,キャッチコピー及び推奨文について,著作権侵害を根拠とする原告ジェー・ピー・シーの主張は理由がない。
(2) 不正競争行為との主張について 「前提となる事実」(6)イ記載のとおり,中国商品「迷奇」の販売をめぐる原・被告間の紛争に関して,東京スポーツ新聞に,被告の発言が掲載された。
しかし,本件全証拠によるも,被告が新聞記者の取材に対して,どのような発言をしたかについては明らかではない。結局,被告が原告ジェー・ピー・シーの営業上の信用を害する虚偽の事実を告知した点について,原告の立証がないことになる。原告の請求は理由がない。
(3) 薬事法違反との主張について 「前提となる事実」(6)ウ(エ)及び(オ)記載のとおり,被告商品の販売に際し,訴外日本直販,同富士パックス販売及び同テレマートによって宣伝活動がされた。
しかし,これらの宣伝広告に関し,被告が具体的にどのように関与したかについて,原告トイレツリースは何ら主張,立証しない。したがって,原告トイレツリースの請求は理由がない。
4 結論 よって,主文のとおり判決する。
追加
商標権目録登録番号第3220102号出願日平成5年4月23日公告番号商公平7-87634号登録日平成8年11月29日商標権者ベイジン・ヤ・メイ・コスメティクス・ファクトリー指定商品第3類化粧品登録商標別紙商標公報該当欄記載のとおり・(原告商品目録)(被告商品目録1)(被告商品目録2)(被告商品目録3)(被告商品目録4)(被告商品目録5)謝罪広告インターナショナル・トイレツリース株式会社が輸入し,株式会社ジェー・ピー・シーが販売している美容クリーム「迷奇」は,真正商品でありますが,偽造品であるかのように記載したり,或いは独占販売契約が無いように記載したり,又インターナショナル・トイレツリース株式会社の輸入許可番号を冒用したことは,貴社らの信用を殿損し,多大なご迷惑をおかけしました。ここに謹んでお詫び申し上げます。
平成年月日大阪府大阪市<以下略>株式会社コスモビューティー代表者代表取締役Y株式会社ジェー・ピー・シー御中インターナショナル・トイレツリース株式会社御中東京スポーツ新聞大きさ5センチ×2段見出し及び原告らは倍活字掲載場所社会面広告欄通販新聞大きさ全5段見出し及び原告らは倍活字掲載場所広告欄日本経済新聞全国版大きさ5センチ×2段見出し及び原告らは倍活字掲載場所社会面広告欄
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 今井弘晃
裁判官 石村智