運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 審判1999-30422
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成16行ケ312審決取消請求事件 判例 商標
関連ワード 識別力 /  商品商標 /  包装 /  指定商品 /  普通名称(3条1項1号) /  周知性 /  不使用 /  更新登録 /  不使用取消審判 /  ハウスマーク /  商号 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 13年 (行ケ) 23号 審決取消請求事件
原告 株式会社日本ヘア・サプライ
訴訟代理人弁護士 朝倉正幸
被告 タカラベルモント株式会社
訴訟代理人弁護士 秋吉稔弘
訴訟代理人弁理士 瀧野秀雄
同 吉田隆志
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/09/25
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成11年審判第30422号事件について平成12年12月6日になした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,商品区分第3類「せっけん類,植物性天然香料,動物性天然香料,合成香料,調合香料,精油からなる食品香料,薫料,化粧品,歯磨き」を指定商品とする,ローマ字大文字で「N.H.S.」と横書きして成る登録第3026146号商標(平成4年7月31日商標登録出願,平成7年2月28日商標登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。
原告は,平成11年4月8日,被告を被請求人として,商標法50条の規定に基づき,本件商標の登録を取り消すことについて審判を請求し,この請求は,平成11年6月30日に登録された。特許庁は,同請求を平成11年審判第30422号事件として審理した結果,平成12年12月6日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同年12月25日に原告に送達された。
2 審決の理由 審決は,別紙審決書写しのとおり,被告は,本件審判の請求の登録前3年以内において,本件商標と社会通念上同一と認められる商標(「N.H.S.」及び「NHS」)を本件商標の指定商品に含まれる「ヘアーソープ,ヘアートリートメント」について使用していたものと認められ,したがって,本件商標の登録を商標法50条の規定に従って取り消すことはできない,とした。
原告主張の審決取消事由の要点
被告は,「N.H.S.」の文字も,「NHS」の文字も,自他商品識別力を有する商標としては,使用していない。審決は,この点についての認定判断を誤り,その結果誤った結論に至ったものであるから,取り消されるべきである。
1 審決は,主として乙第3ないし第7号証を根拠として,被告が,「N.H.S.」や「NHS」をその商品「ヘアーソープ,ヘアートリートメント」について使用していると認定した。しかし,上記乙号各証は,いずれも,上記認定の根拠となるものではない。
(1) 乙第5号証のパンフレットには,「NHSニューイヤーボックス」との記載があるものの,この中の「NHS」は,商品の内容を表示するものとして認識されるにすぎず,したがって,自他商品識別標識としての機能を果たしていない。
ア 「NHS」の3文字は,同号証に記載されている商品である「ナチュラルヘアソープ」の英文の略称,すなわち,その頭文字を拾って記号化した表示である。したがって,ここでの「NHS」は,洗髪用石鹸という商品の内容を示す普通名称にすぎず,自他商品識別のための表示ではない。また,「NHSニューイヤーボックス」との表示を全体としてみても,ナチュラルヘアーソープとナチュラルヘアートリートメントとの詰め合わせ商品であるとの内容を示しているにすぎない。
イ 乙第5号証においては,商標としての機能を有する表示は,「Level Cosmetics」であって,「NHS」ではない。このことは,同号証の上端に「ルベルコスメティックス サンクスプロモーション」「ニューイヤーキットのご案内」との表示があり,また,商品の写真のすべてに「Level Cosmetics」という表示が付されていることから,明らかである。
(2)ア 乙第6,第7号証の取扱サロン誓約書は,本件審判の予告登録後に作成されたものであるから,登録前の使用の事実を認めるための証拠としては,本来,価値がないものである。それにもかかわらず,審決は,「被請求人の答弁及び他の乙号証に照らしてみれば」(審決書5頁下から3行),予告登録前においてもこれと同様の取引形態にあったものと推認できる,としている。しかし,商標権者が,不使用取消しの審判請求を提起された後に,当該商標を使用し始めることは往々にしてあることであるから,予告登録後に作成された証拠を根拠に,予告登録前の使用を安易に認定することは許されない。また,被請求人の答弁は,そもそも証拠ではないから,これが推認の根拠になることはあり得ない。さらに,他の乙号証により,どのようにして,同様の取引形態があったことを推認できるのか,その根拠は何ら示されていない。
イ 仮に予告登録前に同様の取引形態にあったとしても,これをもって,予告登録前,本件商標が使用されたものとすることはできない。乙第6,第7号証の取扱サロン誓約書からは,被告の商品ナチュラルヘアソープとして,「CYPRESS」,「JOJOBA」,「MARIGOLD」,「SEAWEED」等の個々の商品商標が付されたシリーズものが存在し,それらが「NHSプレミアム」と称されてプレミアム商品として提供されていたことは認められるものの,そこで使用されている「NHS」は,「ナチュラルヘアソープ」の略称にすぎないことが明らかであり,これが商標として使用されていると認めることはできないからである。
(3) 乙第4号証は,「販売セットのご案内」と題するパンフレットであり,そこには「N.H.S.シリーズ」との表示がある。しかし,これは全体として,前記の「CYPRESS」,「JOJOBA」,「MARIGOLD」,「SEAWEED」等のシリーズものがプレミアム商品として提供されることを意味しているだけのものであり,その中の「N.H.S.」も「ナチュラルヘアソープ」の略称にすぎず,自他商品の識別標識としては使用されていない。
(4) 乙第3号証の価格表の「ギフト」欄に記載されている「NHS」は,上記と同趣旨のプレミアム商品の記号にすぎず,同「サッシェ」欄の「NHSマリーゴールド・ホホバ・シーウィード」,「NHSサイプレス」の表記は,上記の「N.H.S.シリーズ」商品中の「CYPRESS」,「JOJOBA」,「MARIGOLD」,「SEAWEED」等の商品を記号化して記載しているものにすぎない。
また,同「サッシェ」欄の「NHTウィートプロテイン」との表示中の「NHT」は,「ナチュラルヘアートリートメント」の頭文字を記号化して略記したものにすぎない。
2 被告は,本件商標を使用している証拠として,価格表,パンフレット,取扱サロン誓約書を提出するのみで,その商品又はその包装に本件商標を付したものを証拠として提出していない。このことは,被告が商品又は包装に本件商標を使用してなかったことを如実に物語るものである。審決は,原告がこの点を明確に主張しているにもかかわらず,それについて何の判断もしていない。これは,判断の脱漏として審決を違法にするものというべきである。
3 審決は,被告が「Level Cosmetics」「ルベルコスメティックス」をハウスマークとして使用していると認めたうえで,これを根拠に,商標権者である被告の表示がない乙第4ないし第6号証を被告作成の書類と認定した。しかし,「Level Cosmetics」は,次に述べるとおり,被告のハウスマークとはいえないのであり,審決は,この点で誤っている。
(1) 「Level Cosmetics」商標が,被告が有する登録商標の一つと同一の態様であることは事実であるが,それによって,「Level Cosmetics」が被告のハウスマークであると即断することはできない。
ハウスマークは,個々の商品に付して使用する「商品商標」に対比される概念で,社標,営業名,又はそれらの略称など(例えば,三菱マーク,ウロコ印等)の営業標識を商品に付して商品標識とする商標をいうものである。ハウスマークは,一般に使用者の製造・販売するすべての商品について使用され,商品商標と同時に使用されることが多い。このような使用方法は,著名な営業標識を有する企業が新製品を市場に送り出す場合に有利であり,営業商標と社標ないし商号を一本化することによって企業イメージを高めることができるようにしているのが,取引社会の実情である。
このことからも明らかなように,ハウスマークと認定するについては,当該マークが取引者,需要者間に広く認識されていることが必要であって,そうでない場合には,ハウスマークとして機能しないとみるのが妥当である。ところが,審決は,ハウスマークが成立するについて不可欠な要件である周知性に関して被告が何ら立証していないのに,「Level Cosmetics」を被告のハウスマークであると誤った認定をしたのである。
(2) 被告は,多数(合計419件)の商標権を取得していて,この中には,被告の略称とみられる「ベルモント」「タカラベルモント」及び被告の企業標とみられる「図案化された夕の字マーク」も含まれている。被告のハウスマークと目すべき商標は,「Level Cosmetics」ではなく,これらの商標なのである。
また,被告が開設しているインターネットのホームページを見ると,その第1頁目に「夕記号・TAKARA/BELMONT」との表示を大きく掲記したうえで,各種のCompany Informationを掲げ,そのうちのHairCosmeticsの欄を見ると,この頁には,「TAKARA BELMONT Products」,「ヘアコスメティックス」という部門別のマークの下に「Level Cosmetics」,「PAUL MITCHELL」,「VIDAL SASSOON」,「Water Hearts」という個々別々の商品商標を付して各種の商品群を展開していることが分かる。これらの事実からみても,「Level Cosmetics」は,数種類のブランドのうちの一つにすぎず,被告のハウスマークであるとは言えないことが明らかである。
4 被告は,本訴において,乙第10ないし第24号証を提出するが,これらは,いずれも,何ら,本件商標の使用を裏付けるものではない。これらの証拠に関しては,むしろ,被告の「主要取扱商品一覧」が記載されている被告のデータファイル(乙第22号証)にも,被告の製品カタログ(乙第23号証)にも,被告が開設したインターネットのホームページ(乙第24号証)にも,本件商標が記載されず,使用されていないことに着目すべきである。
5 被告が本訴において提出した美容室等のディスプレイ・コンテストの応募記録(乙第12ないし第16号証,第18ないし第21号証)における「NHS」の記載は,「Natural Hair Soap」又はナチュラルヘアーソープという文字を全部記載するには長すぎるので,「NHS」と略記しただけであり,商標としての使用とはいえない。また,同応募記録は,商標法2条3項7号における「商品又は役務に関する広告,定価表又は取引書類」のいずれにも該当しない。さらに,乙第10ないし第16号証は,不使用取消審判請求の登録前3年より以前に作成されたものであるから,この点でも証拠価値はない。
6 仮に,被告による「N.H.S.」あるいは「NHS」の使用が商標の使用と認められるとしても,商標法50条1項で保護すべき商標の使用には当たらない。すなわち,原告は,昭和42年5月の設立当初から,「NHS」を商標として多くの商品に使用し続けている。「NHS」は,原告の商号である株式会社日本ヘアサプライ中の「日本ヘアサプライ」の頭文字をとったものであり,原告のハウスマークないしは主要商標である。原告は,昭和46年7月15日に,第4類せっけん類,化粧品等を指定商品として,「NHS」を登録商標として取得したが,その後平成3年7月15日の更新登録の申請を失念したものである。そして,原告が「NHS」商標を使用していても,現実に被告の同種商品との間に誤認混同を生じていない。
以上のような原告と被告の商標の各使用状況,出願状況及び商標法50条1項の趣旨からすれば,被告の本件商標の使用は,商標法50条1項で保護すべき商標の使用には当たらないというべきである。
被告の反論の要点
審決の認定・判断は,正当であり,審決に原告主張のような違法はない。
1 本件商標は,1998年11月の被告の価格表(乙第3号証),1997年及び1998年の被告のパンフレット(乙第4,第5号証)に商品識別のための表示として使用されている。需要者は,これらの価格表,パンフレットを見て商品を発注するわけであり,本件商標が商品を識別する商標として使用されていることは明らかである。したがって,審決の認定判断に誤りはない。
2 「Lebel Cosmetics '93 POP & DISPLAY CONTEST」という,美容室内におけるルベル化粧品群の展示方法のコンテストに応募した各美容室の応募記録(当審において新たに提出した乙第10ないし第13号証)及び1994年と1996年の同様のコンテストに応募した各美容室の応募記録(同乙第14ないし第16号証,乙第18ないし第21号証)には,そのいずれにも本件商標が記載されており,本件商標が商品に使用されていることは,このことからも明らかである。
3 原告は,被告が,本件商標を使用している証拠として,価格表,パンフレット,取扱サロン誓約書を提出するのみで,その商品又はその包装に本件商標を付したものを証拠として提出していない旨主張する。
しかし,商品又はその包装に付すことだけが商標の使用であるわけではなく,商品に関する広告,定価表又は取引書類に標章を付して展示し,頒布する行為も,商標の使用であるから,そもそも,原告の主張は,主張自体失当である。本件商標は,もともと,各美容室向けの化粧品であるルベル化粧品群の各化粧品に付す商標のうちの一つとして,需要者である美容室と被告との取引において商品の識別ができれば足りる形で使用されているものである。被告がこれを価格表に記載し,美容室がこれを使用して美容室の応募コンテストに応募している以上,取引の実際において本件商標が使用されていたことは,明らかというべきである。
4 原告は,「Level Cosmetics」が被告のハウスマークとは認められない旨主張する。しかし,被告は,昭和26年設立当初は,理容・美容椅子の製造・販売を目的とする株式会社であったものの,現在では,化粧品,歯科,医療機器,理容・美容機器の製造・販売まで行うようになっており,化粧品については,化粧品事業本部の中に設けられた「ルベル事業部」が,ルベル化粧品群(「Level Cosmetics」)を扱っている。ルベル事業部は,美容室向けの専門化粧品として,「Level Cosmetics」をハウスマークとして使用し,数多くの化粧品を販売している。
当裁判所の判断
1 証拠によれば,次の事実が認められる。
(1) 被告は,昭和26年に設立された株式会社であり,その営業目的は,理容室・美容室及びエステティックサロン(以下まとめて「美容室等」という。)向けの関連設備機器及び頭髪化粧品・基礎化粧品等の製造・販売,並びに,歯科関連設備機器及び歯科材料の製造・販売その他である。被告は,複数の事業本部中に化粧品事業本部を有し,その中のルベル事業部が頭髪化粧品,基礎化粧品等を製造・販売している。被告のルベル事業部は,「Level Cosmetics」(ルベルコスメティックス)をその営業表示あるいは営業商標(ここでいう「営業商標」は,個別の営業を指し示す商標であり,会社の営業全体を表示する社章(ハウスマーク)とは,個別の営業を表示する点で異なる。)として使用し,様々な種類の商品を多数の個別商標(特定の種類の商品を表示する商標)を使用して製造・販売しており,美容室等向けのヘアーソープ及びヘアートリートメントについては,Natural Hair Soap & Treatment(ナチュラルヘアソープ & トリートメント)の名称の下に,MARYGOLD,JOJOBA,SEAWEED,CYPRESS等の個別商標を付した商品を製造・販売している。
(乙第8,第9,第22,第23号証) (2) 被告の1998年11月現在の商品価格を示す価格表(乙第3号証)には,「商品名」として,「サッシェ」の欄に,「NHS マリーゴールド・ホホバ・シーウィード」,「NHS サイプレス」との名称,「ギフト」の欄に,「NHS MG+WP・JO+WP・SW+WP」,「NHS SW+EP」,「NHSギフト50(MG+JO+SW+WP+EP)」,「NHSギフトバコ200・600・11本・1 ペア」との名称が,それぞれについての「容量」,「サロン価格」,「小売価格」,「梱包」とともに記載されており,そのころ,これらが商品として販売されていた(なお,上記MGはMARYGOLD,同JOはJOJOBA,同SWはSEAWEEDを略記したものである。)。また,被告は,1997年に配布された(このことは,「'97 RETAIL CAMPAIGN」との表示から明らかである。)「販売セットのご案内」と題する美容室等向けのパンフレット(乙第4号証)において,「Level Cosmetics」の営業表示ないし営業商標名義で,「N.H.S.シリーズ」と表示したセット商品(AセットとBセット)をサロン価格で販売する旨を表示して,その申込みの勧誘をし,1998年夏ころに作成された(このことは,「'98 Summer Debut!!」との表示から認められる。)「ルベルコスメティックス サンクスプロモーション ニューイヤーキットのご案内」と題する美容室等向けのパンフレット(乙第5号証)において,「Level Cosmetics」の営業表示ないし営業商標名義で,ナチュラルヘアソープ & トリートメントのニューイヤーキットの宣伝広告をし,その中で「NHSニューイヤーボックス」との名称の贈答用商品をその一部に含んだセット商品の販売申込みの勧誘をしている。
(乙第3ないし第5号証)。
(3) 被告は,「Lebel Cosmetics POP & DISPLAY CONTEST」という美容室等におけるルベル化粧品群の展示方法のコンテストを,少なくとも1993年,1994年,1996年に開催している。1993年の美容室等からの応募記録には,「商品N.H.S.のエコロジーをテーマとしました」等の記載があり,1994年の応募記録にも「N.H.Sがあるだけでインパクトがあります。」等の記載があり,1996年8月末締切りの応募記録にも「NHSの内箱を利用して,ディスプレイボックスを制作してみました。」,「キャンペーンはNHS11本に1000円のシャンプーorトリートメントをプレゼント・・・お客様の・・・反応あり・・・NHS1,100ペア完売することができた。」等の記載がある。
(乙第10ないし第21号証) 上記認定の応募記録のうち,1996年のものは,本件審判請求の登録日である1999年6月30日の3年前である1996年6月30日よりも後に提出されたものである(このことは,同年8月末日締切りの募集に応じたものであることにより認められる。)から,被告が本件商標を自他識別力のある商標として使用していたかどうかを判断するに当たり,このころ(1996年6月30日以降),被告の取引先である各美容室等が「N.H.S.」あるいは「NHS」をどのようなものとして認識していたかを知るうえで重要な証拠の一つとなることは当然である。1993年と1994年のものも,予告登録日の3年前よりも前に提出されたものであるとはいえ,1996年6月30日以降も使用されていた「N.H.S.」あるいは「NHS」について,そのころ(1996年6月30日以降),被告の取引先である各美容室がこれをどのようなものとして認識していたかを知るうえで,参考となる事実であるということは可能である。
(4) 以上のとおり,被告は,「Level Cosmetics」の営業表示ないしは営業商標で,美容室等を対象として,ヘアーソープ とヘアートリートメントを販売してきたこと,被告は,これにNatural Hair Soap及びその略称である「N.H.S.」あるいは「NHS」との名称を付し,さらにその個別商標として「MARYGOLD」,「JOJOBA」,「SEAWEED」,「CYPRESS」等の商標を付した商品を品ぞろえして,これを販売していること,「N.H.S.」あるいは「NHS」との名称は,被告のヘアーソープ及びヘアートリートメントの商品全体を表す商標として使用され,具体的には,「N.H.S.シリーズ」の名称,あるいは,そのセット商品について使用される「NHSマリーゴールド・ホホバ・シーウィード」,「NHSサイプレス」等の名称,また,その贈答品について使用される「N.H.S.ニューイヤーボックス」などの名称で使用されてきたことを,証拠によって認めることができる。そして,この事実関係の下では,被告は,「N.H.S.」あるいは「NHS」を,被告が「Level Cosmetics」の営業表示あるいは営業商標の下に展開している頭髪化粧品,基礎化粧品の商品群の中の,ヘアーソープとヘアートリートメント商品を総称する商標として,その価格表,宣伝広告のためのパンフレット等に,本件審判請求の登録前の3年内に商標として使用したということができる。
(5) なお,被告は,遅くとも1999年7月ころには,「Level Cosmetics」との営業表示の下に,各地の美容室とナチュラルヘアソーププレミアム取扱サロン誓約書と題する契約書を締結していること,その内容は,ナチュラルヘアソーププレミアムを「NHSプレミアム」と称し,これを「ルベルコスメティックスが今般,新しく企画し,販売するナチュラルヘアソープの新シリーズ全品を対象とし,NHSプレミアムシリーズラインナップにて表示する商品をいう。」と定義したうえで,このNHSプレミアムを,同取扱サロン誓約書により登録されたNHS推奨サロンにのみ販売するというものであり,これにより,被告が同誓約書により契約をした美容室等に,NHSプレミアムという名称の商品を販売していることが認められる(乙第6,第7号証)。しかし,本件審判請求の登録日は,1999年6月30日であり,上記契約はこの後に締結されたものである。そして,この種の誓約書は,通常ならそのすべてが被告の手元に管理されているはずであるから,同登録日より遠くない前に締結された誓約書が存在するとすれば,被告がこれを証拠として提出するのは極めて容易なはずであるのに,被告が,原告から乙第7号証が同登録日以降に作成されたものであるとの指摘を受けながらも,これを提出しないところからすれば,同登録日以前に作成された誓約書は存在しないものと考えるのが自然である。したがって,乙第7号証と同種の誓約書及び同誓約書中の「NHSプレミアム」と定義された新商品は,本件審判請求の登録日以降のものであると認めざるを得ない。ただし,これによっても,被告がヘアーソープ及びヘアートリートメントについて,同登録日以前から本件商標を使用していたとの前記認定が影響を受けるものではないことは,上記に説示したところから明らかである。
2(1) 原告は,乙第5号証その他に関連して,「N.H.S.」あるいは「NHS」の3文字は,被告の商品である「ナチュラルヘアソープ」の英文の頭文字を拾って記号化した形で略記した表示であり,洗髪用石鹸という商品の内容を示す普通名称にすぎず,自他商品識別のための表示ではない旨主張するが,採用できない。
「N.H.S.」あるいは「NHS」が「ナチュラルヘアソープ 」の英文字の頭文字をとって略記したものであるとしても,これらが洗髪用石鹸という商品の内容を示す普通名称にすぎないものとなるわけではないことは明らかであり,また,これらが英文字の頭文字を略記したものであるとしても,そのこと自体から,これらに自他商品識別力がないとの結論を導き得ないことも明らかであるからである。
また,原告は,乙第5号証等において商標としての機能を有する表示は「Level Cosmetics」であり,「N.H.S.」あるいは「NHS」ではないとも主張するが,これも採用することができない。「Level Cosmetics」が被告の営業表示ないし被告の個別の営業を指し示す営業商標であることは前記認定のとおりであり,このような営業商標の下で,個々の商品に個別商標を付して営業活動をなすことはしばしば見られるところであるから,「Level Cosmetics」が上記のような営業商標であるとしても,それによって「N.H.S.」あるいは「NHS」が当然に商標ではなくなるものではないからである。
(2) 原告は,乙第3号証に関連して,「NHS」は単なる記号にすぎない旨主張する。しかし,被告が販売するヘアーソープとヘアートリートメントをナチュラルヘアソープ&トリートメントとの名称で呼び,かつ,これについて,「N.H.S.」あるいは「NHS」との略称を使用していることは,前記のとおりであるから,「N.H.S.」あるいは「NHS」を単なる記号ということはできない。
(3) 原告は,被告が,本件商標を使用している証拠として,その商品又はその包装に本件商標を使用したものを提出していないことは,被告がその商品又は包装に本件商標を使用していなかったことを如実に物語る旨主張する。
しかし,商標法にいう商標の使用は,商品又は包装に使用することに限られるわけではなく,被告が主張している使用の態様は別のものなのであるから(被告は,本件商標を付したヘアーソープ及びヘアートリートメントを一般の顧客ではなく,美容室等に向けて販売しており,また,前記のとおり,個別の商品については個別商標が付されていて,本件商標は,これらの商品の総称を示す商標として使用されたり,セット商品の商標として使用されたりすることが多かったため,個別の商品やその包装等に本件商標を使用する必要性が低かったものと認められる。),原告の主張は,主張自体失当であることが明白である。したがって,審決がこの点について特に判断しなかったとしても,これを審決の誤りとすることはできない。
(4) 原告は,審決が「Level Cosmetics」を被告のハウスマークであると認定したことを取り上げて,それが誤りであることを強調する。しかし,審決が上記のように認定したことが,乙第4ないし第6号証が被告作成の価格表ないしパンフレットであることを認定する根拠とするためであることは,審決の説示自体で明らかである。そうだとすると,問題とされるべきは,「Level Cosmetics」が他の者によってではなく被告によって使用されている標章であるという限度において,審決の認定が正しいか否かのみであって,「Level Cosmetics」が原告のいう意味でハウスマークであるか否かでないことは,明らかなことである。そして,原告は,「Level Cosmetics」が被告によって使用されている標章であることを争っているわけではない。そうである以上,「Level Cosmetics」が被告のハウスマークかどうかを議論する意味はない。
(5) 原告は,被告のデータファイル,製品カタログ,インターネットのホームぺージに,本件商標が記載されていない旨主張する。乙第22ないし第24号証によれば,被告のデータファイルに,個々の具体的な商品の個別商標が掲載されていないこと,及び,その製品カタログのNatural Hair Soap & Treatmentの頁にも,本件商標は記載されていないことが認められる。しかし,被告のデータファイルに本件商標が記載されていないのは,被告のデータファイルが,被告の取扱いに係る極めて多くの商品の個別の商標までは記載していないためであるから,むしろ記載されないのが当然である。また,被告の製品カタログの前記頁に本件商標の記載がないのは,本件商標が被告のヘアーソープとヘアートリートメント商品の総称的な商標であり,そのセット商品に使用されることが多いことによるためであると考えることができる。したがって,被告の製品カタログに本件商標が記載されていないとしても,これにより前記認定は左右されない。
(6) 原告は,美容室等のディスプレイ・コンテストの応募記録における「NHS」の記載は,「Natural Hair Soap」又はナチュラルヘアーソープという文字を全部記載するには長すぎるので,「NHS」と略記しただけであり,商標としての使用とはいえない旨主張する。しかし,名称が長すぎるので簡略化されたものが商標として使用されることはよくあることである。また,本件商標は,前示のとおり,「Natural Hair Soap」の頭文字を略記したものであり,これが被告のヘアーソープとヘアートリートメントを総称する名称として使用され,商標として使用されているものである。したがって,原告の主張は,採用することができない。なお,応募記録に関するその余の原告の主張も,前記説示したところから採用することはできない。
(7) 原告は,仮に,被告の「N.H.S.」の使用が商標の使用に当たるとしても,商標法50条1項の趣旨からすれば,被告の本件商標の使用は同条で保護すべき商標の使用には当たらない旨主張する。しかし,同条は,被請求人が不使用取消審判請求の登録前の3年以内に,登録商標の使用をしていることを証明しない限り,その取消しを免れない旨を規定しているのであり,何がここにいう登録商標の使用に当たるかについては,原則として商標法2条3項の規定によりこれを決するのが相当であるというべきである。そして,本件において,上記原則の例外に当たることを根拠づける事情を見いだすことはできない。これとその趣旨を異にする原告の主張は,採用することができない。
3 以上のとおりであるから,被告は,本件商標と社会通念上同一と認められる商標をその指定商品に含まれるヘアーソープ及びヘアートリートメントに使用している,と認定した審決は,その結論において相当であり,原告主張の審決取消事由は理由がなく,その他,審決には,これを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件
訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 阿部正幸