関連審決 | 無効2000-35315 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成12行ケ461審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成12行ケ253審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
関連ワード | 指定商品 / 周知性 / 混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) / 4条1項11号 / 類似性(類否判断) / 外観(外観類似) / 称呼(称呼類似) / 観念(観念類似) / 取引の実情 / 国内 / 補正 / 無効審判 / 社団法人 / 非類似 / 商号 / |
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事件 |
平成
13年
(行ケ)
114号
審決取消請求事件
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原告A 訴訟代理人弁護士 稲元富保 同 丸山裕司 被告 株式会社ラブラドールリトリーバー 訴訟代理人弁護士 中村智廣 同 三原研自 同 馬場恒雄 同 田中史郎 同 吉能平 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2001/09/20 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
特許庁が平成13年2月22日,無効2000−35315号審判事件についてなした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,「Golden Retriever」の欧文字を横書きして成り,指定商品を第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,靴下,スカーフ,手袋,ネクタイ,ネッカチーフ,マフラー」とする登録第4048846号の商標(平成5年6月30日出願,平成9年8月29日設定登録。以下「本件商標」といい,その登録を「本件登録」という。)の商標権者である。 原告は,本件商標は後記引用商標との関係で商標法4条1項11号に該当するとして,本件登録を無効にすることにつき審判を請求し,特許庁は,これを無効2000-35315号商標登録無効審判事件として審理した結果,平成13年2月22日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年3月7日,その謄本を原告に送達した。 2 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件商標と,指定商品を旧第17類「被服,その他本類に属する商品」とする登録第2202445号の商標(昭和62年12月24日出願,平成2年1月30日設定登録。以下「引用商標」という。)とは,その外観,称呼,観念のいずれの点よりみても相紛れるおそれのない非類似の商標であるから,本件商標を引用商標との関係で商標法4条1項11号に該当するものということはできず,したがって,本件商標が引用商標との関係で同条項に該当するとして,本件登録を無効とすることはできない,とするものである。 |
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原告主張の審決取消事由の要点
審決は,本件商標及び引用商標の文字部分が,いずれも,一体不可分のものであると誤認し,その結果,両商標の類否判断を誤り,両商標が非類似の商標であると誤った結論を導き出したものであって,違法であるから,取り消されるべきである。 1 本件商標及び引用商標の文字部分が一体不可分であるとの誤認について 審決は,「最近は,愛玩動物に関心が集まっており,『愛犬家』以外の取引者,需要者も決して少なくないと認められるから,両犬は,特定の分野においてのみ著名とはいい得ない」(審決書8頁18行〜20行)とし,これを理由に,「Golden Retriever」も「Labrador Retriever」も,一体不可分のものとしてのみ把握されると認定した。 しかし,審決は,ゴールデンリトリーバー犬及びラブラドールリトリーバー犬が,特定の分野,すなわち愛犬家以外においても著名であると認定しつつ,これに係る何らの証拠も挙げていない。審決の上記認定は,証拠に基づかないものである。 また,審決にいう「最近」が,いつの時点を意味しているのか定かではないものの,審決時(平成13年)から約4年前の査定時を,通常,「最近」とはいわないことからすると,審決は,登録要件の有無の判断の基準時を査定時より後の時点とする誤りを犯しているといわざるを得ない。 2 類否判断について (1) 「Retriever」(リトリーバー)は,それ自体で,「狩猟犬,回収犬」という意味を有する語であり,「ゴールデンリトリーバー犬」は,その名のとおり,「リトリーバー」に属する多数の犬種の中の一つであり,我が国において極めて人気の高いペット犬であるから,犬をよく知る者の間では,本件商標「Golden Retriever」からは,「ゴールデンリトリーバー犬」という観念,「ゴールデンリトリーバー」という称呼以外にも,我が国において人気の高いペット犬が属する種類全体を示す「リトリーバー」という観念,「リトリーバー」という称呼が生じるものというべきである。 一方,ラブラドールリトリーバー犬は,リトリーバーの代表犬種として認識されており,ゴールデンリトリーバー犬とともに,我が国において極めて人気の高いペット犬であるから,引用商標の英文字部分の「Labrador Retriever」からは,「Golden Retriever」における場合と同様に,「ラブラドールリトリーバー犬」という観念,「ラブラドールリトリーバー」という称呼以外に,「リトリーバー」という観念,「リトリーバー」という称呼が生じるものというべきである。 審決が認定するように,ラブラドールリトリーバー犬及びゴールデンリトリーバー犬が,愛犬家のみならず,愛犬家以外の者にも著名であると仮定しても,そのときには,上記のとおり,両商標は,いずれも,取引者・需要者の間に,「リトリーバー」という観念及び称呼をも生じさせるものであり,しかも,指定商品と犬との間には何らの関係も存しないことからして,これらの商標を指定商品に使用した場合には,出所が同じであるかのように誤認混同を生じるおそれがあるものというべきである。 (2) また,愛犬家以外において,ゴールデンリトリーバー犬及びラブラドールリトリーバー犬がさほど著名でない場合を想定しても,両商標を指定商品に使用した場合には,出所が同じであるかのように誤認混同を生じるおそれがあるというべきである。 本件商標には,外観上,「Golden」と「Retriever」との間に間隔がある。また,「Labrador Retriever」にも,外観上,「Labrador」と「Retriever」との間に間隔がある。したがって,両商標は,外観上,一体不可分とはいえない。そして,いずれも「Retriever」の語を含むから,愛犬家以外の者の間においては,両商標を明確に区別することができず,出所が同じであるかのように誤認混同されるおそれがあるのである。 この点,審決は,本件商標と引用商標とは構成上の明確な差異が存するから互いに区別し得るものであるとする。確かに,両商標は外観上相違する。しかし,上述した,両商標から生じる観念,称呼の共通性を考慮すれば,上記外観上の相違は,両商標の類否を判断するうえで,審決が認定するほどに大きな意味を有するものではないというべきである。 (3) 被告は,平成5年6月30日,本件商標の登録出願をしたが,平成7年4月26日付けで,引用商標と類似するとの拒絶理由通知を受けた。被告は,これを受けて,同年7月5日付けの意見書で,「確かに審査官殿のご指摘の通り,本願商標と引用例とは,商標および指定商品が類似したものとあると認められます。」として,本件商標が引用商標と類似することを認めつつ,引用商標の商標権の被告への譲渡の手続きの完了まで処分を待つよう要求した。 さらに,被告は,平成7年10月5日,本件商標と字体のみが異なる商標「GOLDEN RETRIEVER」につき登録出願をしたが,これについても,平成8年12月17日付けで,引用商標と類似するとの拒絶理由通知を受けた。被告は,これを受け,平成9年3月5日付けで,「本件出願人は,本願商標「GOLDEN RETRIEVER」が引用商標「Labrador Retriever」及び「Golden Retriever」と類似又は同一であることを認めて,それ等の指定商品である「被服」並びに「靴類及び運動用特殊靴」に対応する商品を本願の指定商品中から削除するための手続補正書を本書と同時に提出し,本願の指定商品を「ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,靴合わせくぎ,靴くぎ.靴の引き手,靴びょう,靴保護金具,げた,草履類,運動用特殊衣服,乗馬靴」に減縮したので,拒絶理由は解消されました。」との内容の意見書を提出した。 このように,本件商標の登録査定当時において,犬について平均的な取引者・需要者よりも高い知識を有すると考えられる被告でさえも,「Golden Retriever」ないし「GOLDEN RETRIEVER」と「Labrador Retriever」とは商標として類似すると認識していたものである。 犬種名を商号にするなど犬に関する高い知識を有する被告においてさえも,上記のような認識を有していたのであれば,まして,平均的な取引者・需要者の立場からすれば,本件商標と引用商標とは類似すると認識されると判断するのが合理的である。 |
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被告の反論の要点
1 本件商標及び引用商標の文字部分が一体不可分であるとの誤認について 原告は,「ゴールデンリトリーバー犬」及び「ラブラドールリトリーバー犬」は,特定の分野すなわち愛犬家以外においては著名でないとの趣旨の主張をする。 しかしながら,一般に,人間の生活に密着するペット犬は,愛犬家のみならず,犬を飼っていない一般市民の興味の対象にもなっており,犬そのものの存在,散歩行為,書籍,雑誌,テレビ,関連商品等,様々な形で,一般市民の目に触れ得るものであって,社会現象あるいはブームにもなり得るものである。 そして,平成9年当時,ゴールデンリトリーバー犬が著名であったことは,同犬に関する書籍等が市場において多数出版され,一般人も広く認知し得る状況に至っていたこと,社団法人ジャパンケンネルクラブに登録されていたゴールデンリトリーバー犬の頭数(実際には,未登録の犬も多数飼われていたことはいうまでもない。)は,平成6年度から平成9年度まで,毎年4万頭ないし5万頭に及び,全犬種中で常にベスト3に入っていたことからも明らかである。ゴールデンリトリーバー犬は,平成9年より相当前から,既に大型ペット犬の代表といえる存在であって,一種のブームを引き起こし,全国的にマスコミなどに取り上げられていたのである。 また,ラブラドールリトリーバー犬についても,平成9年当時,日本国内において,有名なペット犬であったことは,当時既に同犬に関する書籍等が多数出版され,一般人も認知しうる状況に至っていたこと,社団法人ジャパンケンネルクラブに登録されていたラブラドールリトリーバー犬の頭数(実際には,未登録の犬も多数飼われていたことは言うまでもない)は,平成6年度から平成9年度にかけて全犬種中ベスト10に入っており,平成9年度には,2万4000頭を超えて全犬種中5位であったことからも明らかである。 以上のことから,ゴールデンリトリーバー犬もラブラドールリトリーバー犬も,平成9年当時,愛犬家のみならず平均的な需要者・取引者にも周知著名な犬であったことが明白である。 2 類否判断について (1) 原告は,本件商標「Golden Retriever」からは,「ゴールデンリトリーバー犬」という観念,「ゴールデンリトリーバー」という称呼以外に,我が国において人気の高いペット犬が属する「リトリーバー」という観念,「リトリーバー」という称呼が生じ,一方,引用商標の英文字部分の「Labrador Retriever」からは,「ラブラドールリトリーバー犬」という観念,「ラブラドールリトリーバー」という称呼以外に,「リトリーバー」という観念,「リトリーバー」という称呼が生じる旨主張する。 しかしながら,上記ゴールデンリトリーバー犬の人気,これに基づく周知性・著名性からすれば,愛犬家のみならず一般の需要者,取引者の間でも,「Golden Retriever」の構成中の後部の「Retriever」の部分が独立して認識され,称呼されることはないものというべきである。このことは,引用商標の英文字部分の「Labrador Retriever」についても同様である。平成9年当時,「Golden Retriever」は,一般の需要者・取引者にも,「ゴールデンリトリーバー」の称呼,長毛の大型ペット犬であるゴールデンリトリーバー犬の観念のみを生じさせるものであったのであり,「ゴールデン」の称呼,「ゴールデン」(金色の)の観念を生じさせることはなく,まして,「リトリーバー」の称呼,「リトリーバー」(狩猟犬,回収犬一般)の観念を生じさせることなどはあり得なかった。また,引用商標の英文字部分の「Retriever」も,同様に,「ラブラドールリトリーバー」の称呼,「ラブラドールリトリーバー犬」の観念のみを生じさせるのであって,「リトリーバー」の称呼,「ゴールデンリトリーバー犬」等も含むいわゆる「リトリーバー」(狩猟犬,回収犬一般)という広い分類全体の観念を生じさせることはあり得なかった。 そもそも,「Retriever」(リトリーバー)とは,もともと犬の分類上用いられる表現であり,犬種名の後部に「Retriever」(リトリーバー)と付く犬種は,複数存在するのであって,「Retriever」だけでは,どの犬種か全く特定できない。引用商標から,狩猟犬,回収犬一般を意味する「リトリーバー」の観念,「リトリーバー」の称呼が生じることは,あり得ないことである。 (2) 本件商標は,「Golden Retriever」の英文字のみからなる商標であるのに対し,引用商標は,ラブラドールリトリーバーという短毛犬の横向きのシルエットからなる図形と「Labrador Retriever」の英文字を重ね合わせる形で結合させ,全体が一体不可分となっている外観であるのであるから,外観上の差異は顕著であって,両商標は,明確に区別することができ,出所の誤認混同が起きることもない。 (3) 原告は,被告が,出願手続において,拒絶理由通知に対し,「確かに審査官殿のご指摘の通り,本願商標と引用例とは,商標および指定商品が類似したものであると認められます」などとと述べたことを理由に,犬について平均的取引者・需要者以上の知識を有する被告でさえも,「Golden Retriever」ないし「GOLDEN RETRIEVER」と「Labrador Retriever」とは商標として類似すると認識していた旨主張する。 しかしながら,一般に,拒絶理由通知に対する意見書による対応は,出願人のその時点での経営状況及び商品展開等の営業政策的な判断や,引用商標の権利者との関係,あるいは先願商標の内容等に大きく影響されるものであり,特許庁の当該判断に疑義があった場合でも,常に争う方向で意見を述べ,その根拠資料を探し出して準備するものとは限らない。原告の指摘する被告の意見書においても,審査官の判断に対して,引用商標の商標権者である原告がもともと被告の代表者であったことなどから,拒絶理由を積極的に争わない方向で対応する方針を採ることにした結果として,当該審査官に敬意を表して,類似又は同一であることを認める旨の記載をしているにすぎない。 |
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当裁判所の判断
1 本件商標及び引用商標の文字部分が一体不可分であるとの誤認について (1) 本件商標が,「Golden Retriever」の英文字を横書きして成るものであること,引用商標が,別紙審決書の写しの末尾に示すとおり,犬の横向きのシルエット図形と「Labrador Retriever」の英文字を横書きして成るものであることは,当事者間に争いがない。 また,本件商標「Golden Retriever」の英文字が犬種名である「ゴールデンリトリーバー犬」に由来するものであること,引用商標の英文字部分「Labrador Retriever」が犬種名であるラブラドールリトリーバー犬に由来するものであること,「Retriever」(リトリーバー)が,「狩猟犬,回収犬」という意味を有する語であること,ゴールデンリトリーバー犬,ラブラドールリトリーバー犬は,本件商標の登録査定当時,我が国において,愛犬家の間で,極めて人気の高いペット犬であることも,当事者間に争いがない。 (2) ゴールデンリトリーバー犬及びラブラドールリトリーバー犬が,愛犬家のみならず愛犬家以外においてもよく知られているかどうかについて検討する。 (ア) 我が国においては,昭和30年ころに日本スピッツ犬が,昭和40年ころにアメリカン・コッカー・スパニエル犬が,昭和50年ころに,マルチーズ犬が,昭和60年ころにシェルティ犬がそれぞれ愛犬家の間でブームとなり,その後,シベリアン・ハスキー犬が飼犬として大きな人気を集めていたものの,平成5年ころには下火となり,代わってゴールデンリトリーバー犬が人気の高い飼犬となった。 (乙第24号証) (イ) 平成3年度の社団法人ジャパンケンネルクラブへの飼犬の登録件数は,総数で29万6530頭,そのうち,シベリアン・ハスキー犬が5万714頭で最も多く,ゴールデンリトリーバー犬が1万1008頭で11位,柴犬が7300頭で12位,ラブラドールリトリーバー犬が2593頭で18位,秋田犬が334頭で43位であった。 (乙第19号証) (ウ) ゴールデンリトリーバー犬が社団法人ジャパンケンネルクラブへ飼犬として登録された件数をみると,平成6年度で4万6488頭,平成7年度で4万8344頭,平成8年度で5万133頭,平成9年度で4万7920頭となっており,ラブラドールリトリーバー犬のそれは,平成6年度で9815頭,平成7年度で1万4630頭,平成8年度で1万8741頭,平成9年度で2万4531頭となっていた。ちなみに,総登録件数は,平成6年度で43万3783頭,平成7年度で43万3783頭,平成8年度で48万3999頭,平成9年度で41万2491頭であった。 (乙第20号証) (エ) ゴールデンリトリーバー犬及びラブラドールリトリーバー犬は,通常,18万円ないし40万円程度で取引されている。 (乙第1号証,第2号証) (オ) ゴールデンリトリーバー犬は,愛犬家向けの書籍や雑誌に掲載されてきたほか,平成4年6月7日発行の「週刊読売」,平成5年9月10日発行の「FOCUS」,平成6年1月4日発行の「朝日新聞」に,有名人の愛犬として紹介記事が掲載された。 (乙第22号証〜第24号証) (3) 上記認定の事実によれば,ゴールデンリトリーバー犬は,平成5年ころから,愛犬家の間で注目を集めるようになったこと,平成6年から平成9年にかけて,社団法人ジャパンケンネルクラブへ飼犬として登録された件数は,登録件数総数の約10分の1を占めていたこと,このころ,ときどき,有名人が同犬を飼育していることが全国版日刊紙,週刊誌に取り上げられていたことが認められる。 しかしながら,本件商標が登録された平成9年までにゴールデンリトリーバー犬が愛犬家の間でブームとなっていた期間は,約5年間にとどまり,この間の社団法人ジャパンケンネルクラブへの登録件数も,最高でも5万133頭(平成8年度)にとどまっている。また,我が国では,戦後,外産犬が一時的にブームとなってはやがて廃れていくということを繰り返しており,その人気は,かなり皮相的であって必ずしも市民の間に定着しているとは認められない。これらのことを前提にすると,ゴールデンリトリーバー犬が愛犬家の間で一時的にブームとなったからといって,そのことから直ちに,本件商標の登録当時,ゴールデンリトリーバー犬が,愛犬家以外の者にまで知れ渡っていたと認めることはできない。加えるに,愛犬家以外の者が,屋外で同犬を見かけることはあっても,必ずしも,その名称についてまで知られるようになるわけではないから,犬そのものの周知度より,その犬の名称の周知度は,格段に低いものとなるといわざるを得ない。 また,上記認定の事実に照らせば,ラブラドールリトリーバー犬は,愛犬家の間において,その人気がゴールデンリトリーバー犬のそれをやや下回っていたことが認められるので,その人気を根拠に,愛犬家以外の者への周知度において,ゴールデンリトリーバー犬を超えるものと認定することはできず,他にも,本件商標の登録当時,ラブラドールリトリーバー犬が,愛犬家以外の者にまで知れ渡っていたと認めさせる証拠はない。 (4) そうすると,ゴールデンリトリーバー犬及びラブラドールリトリーバー犬が,愛犬家のみならず,愛犬家以外の取引者・需要者の間でも関心が集まっていると認定し,この認定を前提に,本件商標「Golden Retriever」についても,引用商標中の「Labrador Retriever」についても,その構成中の「Retiever」の部分のみが独立して認識されることはなく,一体不可分のものとしてのみ把握されるとした審決の判断は,その前提において既に誤っているものといわざるを得ない。 2 類否判断について (1) 本件商標の指定商品は,「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,靴下,スカーフ,手袋,ネクタイ,ネッカチーフ,マフラー」であって,犬とは全く関係のない商品であるから,類否判断に当たり基準とすべき取引者・需要者には,愛犬家以外の一般消費者が含まれることになる。 上記1の認定を前提にした場合,本件商標「Golden Retriever」に接した愛犬家以外の一般消費者にとっては,この英文字から,これらを一体として観察して,「ゴールデンリトリーバー」という称呼とゴールデンリトリーバー犬という観念が生じることがあり得るとしても,これらの称呼と観念のみしか生じないということはできない。外観上,「Golden」と「Retriever」との間に間隔があり,しかも15字から成る,一語とするには長い語であるから,同英文字を構成する「Golden」と「Retriever」とを分離して観察することも多いものというべきである。 一方,引用商標に接した愛犬家以外の一般消費者にとっては,英文字部分の「Labrador Retriever」から,これらを一体として観察して,「ラブラドールリトリーバー」という称呼とラブラドールリトリーバー犬という観念が生じることがあり得るとしても,これらの称呼と観念しか生じないということはできない。外観上,「Labrador」と「Retriever」との間に間隔があり,しかも17字から成る,一語とするには長い語であるから,同英文字を構成する「Labrador」と「Retriever」とを分離して観察することも多いものというべきである。 このように,両商標において,「Retriever」の部分が他の構成部分と分離されて観察されることになると,これらが本件商標の指定商品に使用された場合,特別の事情がない限り,それらから生じる共通の称呼「リトリーバー」,あるいは,「リトリーバー」に対応して生じる共通の観念(犬に詳しくない者も,「リトリーバー」が犬の種類の名であるという程度の認識を有することはあり得る。)を通じて,商品の出所につき誤認混同を生じるおそれがあるものというべきである。そして,本件全証拠を検討しても,上記特別の事情を見いだすことはできない。 (2) 次に,本件商標の指定商品に係る取引者・需要者が愛犬家である場合について検討する。 愛犬家の場合には,本件商標「Golden Retriever」からは,「ゴールデンリトリーバー」という称呼及び「ゴールデンリトリーバー犬」という観念が,引用商標の英文字部分の「Labrador Retriever」からは,「ラブラドールリトリーバー」という称呼及び「ラブラドールリトリーバー犬」という観念が生じることは,明らかである。 愛犬家は,ゴールデンリトリーバー犬,ラブラドールリトリーバー犬について広く深く知っているのであるから,「リトリーバー」がゴールデンリトリーバー犬,ラブラドールリトリーバー犬を包含する犬種を示すものであると把握し,認識するものというべきである。 そうである以上,本件商標及び引用商標から,取引上,「リトリーバー」という称呼,犬種である「リトリーバー」という観念が生じることもあり得るものというべきである。 そうすると,両商標は,「リトリーバー」という観念,「リトリーバー」という称呼において類似しているから,取引の実情その他特別の事情がない限り,これらが指定商品に係る商品に使用された場合,商品の出所につき誤認混同を生じるおそれがあるものというべきである。そして,本件全証拠を検討しても,上記特別の事情を見いだすことはできない。 この点について,被告は,「Retriever」(リトリーバー)とは,もともと犬の分類上用いられる表現であり,犬種名の後部に「Retriever」(リトリーバー)と付く犬種は,複数存在するのであって,「Retriever」だけでは,どの犬種か全く特定できず,本件商標や引用商標から,狩猟犬,回収犬一般を意味する「リトリーバー」の観念,「リトリーバー」の称呼を生じることは,到底,あり得ない旨主張する。 しかしながら,被告のこの主張は,どの犬種であるかを特定する必要のある取引(例えば,犬そのものの売買)については当てはまり得ても,そのような特定の必要のない取引に関しては,当てはまらないことが明らかなものというべきである。 そして,本件商標の指定商品に係る取引が上記特定を要しない種類の取引であることは,自明である。 被告の上記主張は,採用できない。 3 以上のとおりであるから,審決の取消しを求める本訴請求には理由があることが明らかである。そこで,これを認容することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山下和明 |
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裁判官 | 宍戸充 |
裁判官 | 阿部正幸 |