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関連審決 審判1998-16097
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成11行ケ240審決取消請求事件 判例 商標
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平成12行ケ1審決取消請求事件 判例 商標
平成10ネ3707商標権侵害差止等請求控訴事件 判例 商標
不服201220726 審決 商標
関連ワード 識別力 /  識別機能 /  指定商品 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  4条1項11号 /  類似性(類否判断) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  出所の混同 /  連合商標 /  非類似 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 122号 審決取消請求事件
原告 黄桜酒造株式会社
訴訟代理人弁理士 福島三雄
同 野中誠一
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 米重洋和
同 大橋良三
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/09/06
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成10年審判第16097号事件について平成13年2月5日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成7年3月15日,「伏見の竜馬」の文字を書して成る商標(以下「本願商標」という。)につき,指定商品を第33類「日本酒」として,商標登録出願をしたが(以下,この出願を「本願出願」という。),平成10年7月10日に拒絶査定を受けたので,同年10月,拒絶査定に対する不服の審判を請求した。特許庁は,これを平成10年審判第16097号事件として審理した結果,平成13年2月5日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月26日,その謄本を原告に送達した。
2 審決の理由 別紙審決書の理由の写しのとおりである。要するに,審決は,本願商標が,「竜馬」の文字を書して成る登録第2406288号商標(指定商品は旧第28類「酒類」。昭和58年9月14日出願,平成4年4月30日設定登録。以下,「引用商標A」という。),「龍馬」の文字を書して成る登録第2406289号商標(指定商品は旧第28類「酒類」。昭和58年9月14日出願,平成4年4月30日設定登録。以下,「引用商標B」という。)と,その称呼において共通し,かつ,指定商品も共通するから,商標法4条1項11号に該当する,とするものである。
以下,審決にいう「引用A商標」を「引用商標A」と,「引用B商標」を「引用商標B」と,それぞれ言い換えることにする。
原告主張の取消事由の要点
審決の理由中,1(本願商標),2(引用商標)を認める。3(当審の判断)のうち,本願商標が「伏見の竜馬」の文字を書して成るものであること,「伏見」が京都市南端の地区名であり,同地区が清酒の産地としても知られていること,引用商標A及びBから「リョウマ」の称呼を生ずること,本願商標の指定商品が引用商標A及びBの各指定商品に包含されることを認め,その余を争う。
審決は,本願商標につき,一体不可分のものとしてのみ把握しなければならないとする格別の理由はないと認定し,また,本願商標をその指定商品である「日本酒」に使用した場合,これに接する取引者・需要者が,前半の「伏見の」の文字部分は単に商品の産地あるいは販売地を表示するにすぎず,後半の「竜馬」の文字部分こそが自他商品の識別機能を果たすものである,と理解したうえ,「竜馬」の文字部分から生じる「リョウマ」の称呼をもって取引に当たることも決して少なくない,と認定し,これらの認定を前提として,本願商標は引用商標A及びBとその称呼において共通し,かつ,指定商品も共通するから,本願出願は商標法4条1項11号に該当すると判断した。しかし,上記認定は誤っており,この誤った認定を前提とした,本願商標は引用商標A及びBとその称呼において共通しているという結論も誤ったものであるから,審決は取り消されるべきである。
1 本願商標について (1) 取引者・需要者は,本願商標に含まれている「竜馬」の文字に接した場合,明治維新の時代に活躍した著名な志士である「坂本竜馬」を想起することが明らかである。そして,京都の「伏見」といえば,坂本竜馬が活動の本拠地とした土地であることで非常に有名である。現在,伏見には「竜馬通り商店街」という商店街があり,同所は,店の外観を明治時代の町家風に統一し,坂本竜馬が活躍した幕末から明治にかけてのころの雰囲気を持つ町並みにするという事業を始めており,商店街には,たくさんの坂本竜馬の写真や像が飾られ,坂本竜馬に関する様々な土産物や記念品,特産品等が多数売られている。また,この商店街には,「龍馬館」という記念館も建てられている。このように,今日,坂本竜馬は伏見の象徴的存在となっており,「伏見の竜馬」といえば,「京都の伏見を本拠地として活躍した竜馬」を意味するものになっているのである。
このように,坂本竜馬は,伏見の象徴的存在なのであるから,「伏見の竜馬」といえば,「京都の伏見を本拠地として活躍した竜馬」を意味するものであり,取引者・需要者は,本願商標の「伏見の竜馬」の文字に接したとき,本願商標を一体不可分のものとして認識するのであって,本願商標を「伏見の」及び「竜馬」の語を結合した商標と認識し,あえて「伏見の」の文字部分のみを取り出して商品の産地,販売地を表示するものであると認識することはないのである。
(2) 「伏見」が清酒の産地として有名であったとしても,坂本竜馬は,特別に酒類と関係深い人物として知られているわけではなく,「竜馬」の文字から「清酒」を連想させることもないから,本願商標のように「伏見」を「竜馬」とともに使用したからといって,取引者・需要者が,「伏見」を清酒の産地として認識することはない。
そもそも,「伏見の」の語句は,「伏見」という地名と格助詞「の」が結合したものであり,格助詞の「の」は,その後に固有名詞である人名が続くときには,「〜で有名となった」,「〜にいる」,「〜出身の」といった意味に使われるのが通常である。そうである以上,「伏見の酒」という場合であればともかく,「伏見の竜馬」という場合に,「伏見の」という文字部分が「伏見で生産され若しくは販売されたものであること」を示す,ということはあり得ない。
(3) 本願商標の「フシミノリョウマ」との称呼は,わずか7音からなるものであって,省略して呼ばなければならないほど冗長なものではない。しかも,この7音は,全体を一連に称呼しようとした場合,滑らかに称呼することができるものである。この点からみて,本願商標からは,「フシミノリョウマ」という称呼のみが生じると考えるのが自然である。
(4) 以上のとおり,本願商標においては,「伏見の竜馬」の文字全体が,一体不可分のものとして自他商品識別力を有するのであり,「竜馬」の部分だけが自他商品識別機能を果たし,「伏見の」の文字部分は識別力を有さない,とすることはできないのである。
2 本願商標と引用商標A及びBとの類否判断について (1) 上記のとおり,本願商標からは,「フシミノリョウマ」との称呼のみが生じる。
一方,引用商標A及びBからは,「リョウマ」の称呼のみが生じる。
このように,本願商標と引用商標A及びBとは,称呼を異にするから,これらにつき,称呼が共通であることを理由に類似の商標であるとすることはできない。
(2) 地名に「竜馬」を結合したものが,単なる「竜馬」とは非類似であると判断されていることは,次の事例からも明白である。
「土佐竜馬」の文字から成る登録第2410766号商標(昭和63年8月19日出願,平成4年5月29日設定登録)と「土佐龍馬」の文字から成る登録第2410767号商標(昭和63年8月19日出願,平成4年5月29日設定登録)とは,相互に連合商標として登録されているが,「竜馬」とは連合関係にないものとされている。したがって,これらは,「竜馬」との関係では,非類似の商標として登録されたというほかない。原告がこの点を指摘したにもかかわらず,審決は,理由を明らかにすることなく,「請求人が挙げる事例をもって,本件についての前記認定を左右するものではない。」としており,極めて不当である。
被告の反論の要点
審決の認定判断は,正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1 本願商標について (1) 原告は,取引者・需要者は,本願商標に含まれている「竜馬」の文字を目にした場合,明治維新の時代に活躍した著名な志士である「坂本竜馬」を想起する旨主張する。しかし,一般の国語辞典において,「竜馬」の項目をみると,「極めてすぐれた馬」,「将棋で角のなったもの」を意味することが記述されているものの,「坂本竜馬」に関する記述はなく,「坂本竜馬」にたどりつくためには,「坂本」の項目に当たらなければならない。したがって,「竜馬」の文字から,直ちに「坂本竜馬」のみを想起するということはできず,本願商標に接した取引者・需要者が,一義的に「坂本竜馬」を想起するとはいえない。
また,原告は,京都の「伏見」といえば,坂本竜馬が活動の本拠地とした土地であることで非常に有名であり,今日,坂本竜馬は伏見の象徴的存在となっているため,「伏見の竜馬」といえば,「京都の伏見を本拠地として活躍した竜馬」を意味するものとなっている旨主張する。しかし,「京都の伏見を本拠地として活躍した竜馬」という史実が周知であることを窺わせる資料を,原告提出の証拠から見いだすことができない。
さらに,原告が主張する「竜馬通り商店街」は,「京都市伏見区」の南端の一区域にすぎず,しかも,この名称を冠することになったのは,本願登録出願のわずか2年前である。この名称は,その歴史が比較的浅く,広く認識されているとはいい難い。かえって,同区域には「酒蔵」が多くあって,このことの方がよく知られているのである。
「伏見の竜馬」の語句は,全体として特定の意味を有する熟語ではないから,この語句に接した取引者・需要者が,その意味を「京都の伏見を本拠地として活躍した竜馬」と特定して認識するという主張は,恣意的であるといわざるを得ない。
(2) 「伏見」は,灘と並ぶ清酒の産地として知られている。
本願商標は,その構成中,前半の「伏見」の文字部分が,上記のとおり,灘と並ぶ清酒の産地である京都市南端の地区名であって,日本酒を取り扱う業界のみならず,一般的にも,その産地として周知著名であるところからすれば,単に「伏見の」及び「竜馬」の語を結合した商標と認識されることが生じ得るものというべきである。そして,これを一体不可分のものとしてのみ把握しなければならないとする格別の理由もない。そうすると,本願商標をその指定商品「日本酒」に使用した場合,これに接する取引者・需要者が,前半の「伏見の」の文字部分を周知著名な清酒の産地あるいは販売地を表示するものとして認識し,後半の「竜馬」の文字部分を自他商品の識別機能を果たすものであると認識することは,十分生じ得ることというべきである。
(3) 本願商標「伏見の竜馬」は,拗音を加えて7音であって,これを全体として称呼する場合,一気一連に称呼するにはいささか冗長であるから,「フシミノ」と「リョウマ」の二つに分断して発音されることも決して少なくないはずである。
(4) 以上のとおり,本願商標は,「竜馬」の文字部分において自他商品の識別機能を果たしているものであり,取引者・需要者が,これから生じる「リョウマ」の称呼をもって取引に当たることも,決して少なくないというべきである。
2 本願商標と引用商標A及びBとの類否判断について (1) 上記のとおり,本願商標は,その文字全体として,特定の熟語的意味合いを有するものではないことなどから,「竜馬」の文字部分から,単なる「リョウマ」の称呼をも生ずる。他方,引用商標A「竜馬」及び引用商標B「龍馬」から,「リョウマ」の称呼が生じることは明らかである。したがって,本願商標と引用商標A及び引用商標Bとは,全体の外観において差異を有する点があるとしても,それぞれ「リョウマ」の称呼を生じ,称呼上類似するものである。
(2) 過去にされた登録例等は,具体的・個別的な判断が示されているものであって,必ずしも確立された統一的な基準によっているものではない。仮に,その中に矛盾や誤りがあるとしても,具体的事案の判断における検討は,過去の登録例等の一部の判断に拘束されることなく,なされなければならない。
当裁判所の判断
1 本願商標及び各引用商標並びにこれらの指定商品 本願商標が,「伏見の竜馬」の文字を書して成り,指定商品を第33類「日本酒」とする商標であること,引用商標Aが,「竜馬」の文字を書して成り,指定商品を旧第28類「酒類」とする商標であること,引用商標Bが,「龍馬」の文字を書して成り,指定商品を旧第28類「酒類」とする商標であることは,当事者間に争いがない。
2 本願商標について (1) 本願商標が「伏見の竜馬」の文字を書して成るものであることは,上記のとおりであり,「伏見の竜馬」との文字が,「伏見」と「竜馬」とを格助詞「の」で結合したものであることは,語句の構成自体から明らかである。
「坂本竜馬」が幕末の時代に活躍した歴史上の人物であることは,幼児や児童を除いたほとんどの日本人が知っていることであり,このことは,当裁判所にも顕著である。また,「坂本竜馬」はしばしば「竜馬」のみで示されること,このことが,「坂本竜馬」の著名性と相まって,ただ「竜馬」といえば,通常は「坂本竜馬」を示すものと理解される状況を生じさせていることも,当裁判所に顕著である。したがって,「竜馬」の文字に接した取引者・需要者は,まず第一に,上記歴史上の人物である「坂本竜馬」を想起することは,明らかというべきである。
この点について,被告は,一般の国語辞典において,「竜馬」の項目をみると,「極めてすぐれた馬」,「将棋で角のなったもの」を意味することが記述されているものの,「坂本竜馬」に関する記述はなく,「坂本竜馬」にたどりつくためには,「坂本」の項目に当たらなければならないとし,これを根拠に,「竜馬」の文字から,直ちに「坂本竜馬」のみを想起するということはできない旨主張するが,失当である。一方では,被告の主張によっても,「坂本竜馬」は,一般の国語辞典に掲載されているのであり,「坂本」の項目に記載されているか,「竜馬」の項目に記載されているかによって,「坂本竜馬」の著名度が左右されるものではなく,単に,国語辞典の編集方針にすぎないということができ,他方,「竜馬」の語が,「極めてすぐれた馬」あるいは「将棋で角のなったもの」として知られている度合いは,決して大きいとはいえないからである。
「伏見」が京都市南端の地区名であり,「伏見」が清酒の産地としても知られていることは,当事者間に争いがない。そして,甲第7号証ないし第11号証,弁論の全趣旨によれば,京都市伏見区には,原告を始めとする酒造メーカーが点在しており,灘とともに酒造の町として著名であることが認められる。
そうすると,「竜馬」と「伏見」との文字は,それぞれ固有の意味を有するものであり,しかも,それぞれが著名であるから,このような二つの語を格助詞「の」で結合させたとしても,「竜馬」及び「伏見」の固有の意味が失われることはないものというべきであり,取引者・需要者の中に,「伏見の竜馬」の文字から,「伏見にいた坂本竜馬」あるいは「伏見で活躍した坂本竜馬」を想起し,これを全体として一体不可分のものとして認識する者があり得るとしても,多くの者は,これを一体不可分のものとは認識せず,「伏見にいた坂本竜馬」あるいは「伏見で活躍した坂本竜馬」を想起すると同時に,「伏見」と「竜馬」という文字とを分離して認識し,あるいは,「伏見にいた坂本竜馬」あるいは「伏見で活躍した坂本竜馬」と想起することなく,「伏見」と「竜馬」という文字とを分離して認識するものというべきである。
さらには,前記のとおり,伏見区が酒造の町として著名であるとの事実からすれば,本願商標を日本酒に使用した場合,これに接した取引者・需要者の中には,「伏見」の文字を清酒の産地を表示するものとして理解し,「竜馬」の部分をもって当該商品を識別する表示であると理解する者も,少なからず存在することが十分に考えられるのである。
(2) 原告は,坂本竜馬は,伏見の象徴的存在なのであるから,「伏見の竜馬」といえば,「京都の伏見を本拠地として活躍した竜馬」を意味するものであり,取引者・需要者は,本願商標の「伏見の竜馬」の文字に接したとき,本願商標を一体不可分のものとして認識する旨主張する。
しかしながら,坂本竜馬が,京都の伏見で活躍したことがあるのはもちろんであるとしても,その他,江戸,長崎などでも活躍していたこと,土佐藩出身であることが,一般によく知られていることは,当裁判所に顕著である。したがって,たとい,坂本竜馬が京都の伏見で活躍したことがあり,伏見の地区において,坂本竜馬が象徴的存在となっているとしても,そのことで,直ちに,一般の取引者・需要者の間で,「伏見の竜馬」といえば,必然的に「京都の伏見を本拠地として活躍した竜馬」を意味することになるものとはいえない。ある一部の地区において,「伏見の竜馬」といえば,必然的に「京都の伏見を本拠地として活躍した竜馬」を意味するものと理解する者が存在するに至っていたとしても,「伏見の竜馬」の一体性は,その限度で認められるにすぎない。
また,原告は,「伏見」が清酒の産地として有名であったとしても,坂本竜馬は,特別に酒類と関係深い人物として知られているわけではなく,「竜馬」の文字から「清酒」を連想させることもないから,本願商標のように「伏見」を「竜馬」とともに使用したからといって,取引者・需要者が,「伏見」を清酒の産地として認識することはない旨主張するが,失当である。
本願商標は,指定商品を「日本酒」としているものであるから,日本酒に使用されている本願商標に接した取引者・需要者の多くは,「伏見」の文字を清酒の産地を表示するものとして理解することが予想されることになるものというべきである。一方,坂本竜馬は特別に酒類と関係深い人物として知られているわけではなく,「竜馬」の文字から「清酒」を連想させることがないからといって,そのことが,取引者・需要者が「伏見」を清酒の産地として認識することの妨げになるとは考えられない。
原告の主張は,いずれも採用できない。
(3) 原告は,本願商標の「フシミノリョウマ」との称呼は,わずか7音からなるものであって,省略して呼ばなければならないほど冗長なものでもなく,しかも,全体を一連に称呼しようとした場合,滑らかに称呼することができるものであるから,この点からみても,本願商標からは,「フシミノリョウマ」という称呼のみが生じると考えるのが自然である旨主張する。
しかしながら,前記認定のとおり,「竜馬」の文字と「伏見」との文字とは,それぞれ固有の意味を有するものであり,しかも,それぞれが著名であるから,このような二つの語を格助詞「の」で結合させたとしても,「竜馬」及び「伏見」の固有の意味が失われることはないのである。そうである以上,取引者・需要者が本願商標を称呼するに当たっては,上記の事情を反映して,「フシミ」と「リョウマ」とに分断して発音することが少なくないというべきである。
原告の主張は,採用できない。
(4) 以上検討したところを総合すると,本願商標は,一体として把握され,認識されることがあると同時に,「伏見」という文字と「竜馬」という文字とが分離して把握され,認識されることもあるのであり,しかも,このように分離して把握し,認識する者の方が,本願商標の全体を一体不可分のものであると認識する者より,多いものと推認することができる,ということになる。
そうすると,本願商標は,「竜馬」の文字部分において,自他商品の識別機能を果たす場合も少なくないといわざるを得ない。
3 本願商標と引用商標A及びBとの類否判断について (1) 上述したところによれば,本願商標からは,「フシミノリョウマ」という称呼が生じ,また,「伏見で活躍した坂本竜馬」,「伏見に住んでいた坂本竜馬」という観念が生じるとともに,「リョウマ」という称呼が生じ,また,「坂本竜馬」という観念が生じる。
一方,引用商標A及びBから「リョウマ」の称呼が生じ,また,「坂本竜馬」という観念が生じることは,上述したところから明らかである。
そうすると,本願商標と引用商標A及びBとは,「リョウマ」の称呼を共通にし,「坂本竜馬」という観念を共通にするものである。
そして,一般的にいうと,取引者・需要者は,外観を離れて称呼観念のみに基づいて行動することが十分あり得るものであるから,称呼観念において共通していても,当該指定商品について商品の出所の混同をきたすおそれはない,と認めさせる特別の事情が認められる場合でない限り,たとい,外観に相違があるとしても,出所の混同を生ずるおそれがあるものと認めるべきである。ところが,上記特別の事情は,本件全証拠によっても認めることができない。
(2) 原告は,地名に「竜馬」を結合したものが,単なる「竜馬」と非類似として判断されていることは,過去の事例からも明白であるとして,「土佐竜馬」の文字から成る登録第2410766号商標と「土佐龍馬」の文字から成る登録第2410767号商標とが「竜馬」との関係で非類似の商標として登録されていることを挙げる。しかし,原告主張の事例は,本件とは事案を異にしており,また,同事例における特許庁での扱いを一般原則とすべき根拠を認めることもできない。
4 以上のとおりであるから,原告主張の審決取消事由は,理由がなく,その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設楽隆一
裁判官 宍戸充