関連審決 | 審判1999-35518 |
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関連ワード | 包装 / 指定商品 / 普通名称(3条1項1号) / 品質誤認(4条1項16号) / 警告 / 存続期間 / |
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事件 |
平成
13年
(行ケ)
156号
審決取消請求事件
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原告 有限会社黒雲製作所 訴訟代理人弁護士 市東譲吉 被告B 訴訟代理人弁理士 牛木理一 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2001/08/29 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成11年審判第35518号事件について、平成13年3月21日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は、「VIBRAMUTE」の欧文字を横書きしてなり、商標法施行令別表の区分による第15類「楽器,演奏補助品,音さ,調律機」を指定商品とする登録第4271277号商標(平成8年12月3日登録出願、平成11年5月14日設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者である。 原告は、平成11年9月24日、被告を被請求人として、本件商標につき登録無効の審判の請求をした。 特許庁は、同請求を平成11年審判第35518号事件として審理した上、 平成13年3月21日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年4月2日、原告に送達された。 2 審決の理由 審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、本件商標を構成する「VIBRAMUTE」の語が、ギターの一部品である「弱音器」の普通名称であると認めることはできないから、本件商標は商標法3条1項1号、4条1項16号に違反して登録されたものではないとした。 |
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原告主張の審決取消事由
審決の理由中、「VIBRAMUTE」の語義等に関する認定(審決謄本4頁28行目〜36行目)、セミー・モズレーが我が国において「VIBRAMUTE」との商標を取得した経緯、セミー・モズレーがトレモロアームシステムのユニットを完成させて、モズライトギターに採用した経緯、被告による本件商標の登録出願及び登録を得た本件商標の使用等に関する経緯(同5頁1行目〜2行目の「我が国において」から25行目まで)は認める。 審決は、審判において原告がした主張に対する判断を遺脱し、かつ、理由に食違いがあり(取消事由1)、さらに、「VIBRAMUTE」の語がギターの一部品の普通名称として使用されているとは認められないとの誤った認定をして(取消事由2)、本件商標が商標法3条1項1号、4条1項16号に違反して登録されたものではないとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(判断遺脱及び理由の食違い) 原告は、審判において、本件商標を構成する「VIBRAMUTE」の語が、「弱音器」若しくは「台座、アーム及び弦掛の3点セットから成るギターの一部品」(これは、審決が認定した「トレモロアームシステムのユニット」(審決謄本5頁30行目、32行目、37行目)と同義である。)の普通名称である旨主張したが、審決は、「VIBRAMUTE」の語が「台座、アーム及び弦掛の3点セットから成るギターの一部品」の普通名称である旨の主張に対する判断をしていない。 また、審決は、本件商標が商標法4条1項16号に違反して登録された旨の原告の審判における主張を、「本件商標は・・・『弱音器』以外の指定商品に使用するときは、商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるものである」(同3頁13行目〜15行目)と摘示した(ただし、原告は、審判において「弱音器もしくは台座、アーム及び弦掛の3点セットから成るギターの部品以外の商品」と主張したものであり、上記摘示は「台座、アーム及び弦掛の3点セットから成るギターの部品」との主張部分が欠落している。)にもかかわらず、この摘示に係る主張に対し、「本件商標『VIBRAMUTE』は、前記3で認定判断したとおり『弱音器』の普通名称ということはできないから、本件商標をその指定商品中『弱音器』に使用しても、商品の品質について誤認を生ずるおそれがある商標ではない」(同6頁32行目〜35行目)と判断した。しかしながら、「本件商標をその指定商品中『弱音器』に使用しても」とする上記判断は、上記摘示に係る主張と対応しておらず、結局、審決は、上記摘示に係る主張に対する判断をしていない。 のみならず、審決が上記判断において指称する「前記3」の「認定判断」に相当する認定判断は審決に存在しないから、審決の理由に食違いがあることも明らかである。 2 取消事由2(普通名称についての事実誤認) (1) 審決は、「本件商標『VIBRAMUTE』は、全体として特定の語義を生ずる商品の普通名称であるものとする事実はなく」(審決謄本5頁26行目〜27行目)、「『VIBRAMUTE』がトレモロアームシステムのユニットに使用された結果、 『音を振動させる弱音器』『振動弱音器』という商品を意味する語として商標が稀釈化し、商品の普通名称であるとする事実を認めることはできない」(同頁36行目〜末行)と認定判断したが、以下のとおり、誤りである。 (2) 被告の経営する楽器店(「フィルモア楽器」、「FILLMORE」若しくは「FILLMORE MUSIC STORE」)又は株式会社フィルモアによる下記の広告、パンフレット等の記載に照らせば、被告自身が「VIBRAMUTE」の語をギターの一部品を指称する普通名称であると認識していたことが明らかである。 ア 昭和62年1月30日発行の「THE 楽器」(甲第4号証)に掲載された被告(フィルモア楽器)のギターの広告には、ギターのいわゆるスペックの表示中に「ヴァイブラ・ミュート」との記載があるところ、これが、スペックの一つとして記載されていること及び「・」によって「ミュート」(弱音器)の語が「ヴァイブラ」の語と切り離されていることからみて、「ヴァイブラ・ミュート」がギターの一部品を指称するものであることは明らかであり、商標の使用とみる余地はない。 イ 平成9年12月5日発行の雑誌「Player」平成10年1月号(甲第5号証)に掲載された被告(フィルモア楽器)の広告中には、「ヴィブラミュートセット」、「10セット限定(スタッド付)38,000」との記載とともに、ギターの一部品であるヴィブラミュートの写真が掲載されているところ、この広告において、 ヴィブラミュートがギターの一部品を指称するものであるからこそ、3万8000円という価格表示がされるのであって、この「ヴィブラミュート」との記載を商標の表示とみる余地は全くない。 ウ 遅くとも平成10年5月7日までには発行されていた被告(FILLMORE)のパンフレット(甲第6号証)には、ギターの写真とともに、「SPECIFICATION」として、「Roller Briage」(「Roller Bridge」の誤記である。)などの記載と並べて「Vibramute」との記載があるところ、「Roller Bridge」はギターの一部品であるから、これと並べて記載された「Vibramute」の語もギターの一部品を指称するものであることは明白であり、この「Vibramute」との記載を商標の表示とみる余地は全くない。 エ 平成11年5月26日に被告(FILLMORE MUSIC STORE)が発行した「mosrite of California」と題する冊子(甲第7号証)には、「What is “VIBRAMUTE”」との標題の下に、「VIBRAMUTE」がトレモロアームシステムを指称するものであり、この新しいトレモロユニットは、材質をブラスにすることによって弦の振動をブリッジからテールピースに伝え、さらに台座によるサスティーン(弦の振動を伸ばす)効果を充分に出すことができたこと、ビブラミュート(バイブラミュート)には7o台座と3o台座と呼ばれる2種類があることなどが記載され、16種類の「VIBRAMUTE」の写真が掲載されていて、「VIBRAMUTE」がギターの一部品である台座、アーム(トレモロアーム)および弦掛(テールピース)の3点のセットから成るトレモロアームユニットの名称であることが示されている。 オ 平成12年に被告(FILLMORE)がその顧客に配布した価格表(甲第8号証)には、ギター本体(「MOSRITE GUITAR」との表示のある部分)とギターの部品(「MOSRITE PARTS&ACCESSORIES」との表示のある部分)とに分けて、各製品の価格が表示されており、ギターの部品の価格を表示した部分に、「TAIL PIECE 10,000」、「PICKGUARD 8,000」、「SWITCH KNOB 2,000」、「CONDENSER 200」等の記載と並べて「VIBRAMUTE 30,000」との記載があるところ、この価格表において、「VIBRAMUTE」がギターの一部品を指称するものであるからこそ、3万円という価格表示がされるのであって、この記載は、「VIBRAMUTE」が独立して販売されるギターの一部品を指称する普通名称として使用されていることを示している。仮に、「VIBRAMUTE」が商標であるとすれば、これと並べて記載されている「TAIL PIECE」、「PICKGUARD」、「SWITCH」、「CONDENSER」等もすべて商標の記載であるといわざるを得ないが、それが誤りであることは明白である。 カ 平成12年6月5日発行の雑誌「Player」同年6月号(甲第9号証)に掲載された株式会社フィルモアの広告中には、「NOKIE EDWARDS Model Type T」及び「NOKIE EDWARDS Model Type U」とのギターの各「SPECIFICATION」として、いずれも「BRIDGE:VIBRAMUTE/Roller Bridge」との記載があり、「VIBRAMUTE」がギターの一部品であるブリッジ(ギターなどの弦楽器で弦をボディに固定する木製又は金属製の部品)であることを示している。 キ なお、商標法73条によれば、商標権者らは、指定商品等に登録商標を付するときは、その商標に商標登録表示を付るすように努めなければならないとされているところ、本件商標の設定登録後に頒布された上記「mosrite of California」と題する冊子(甲第7号証)、価格表(甲第8号証)及び雑誌「Player」平成12年6月号(甲第9号証)掲載の広告中の各「VIBRAMUTE」との記載には、商標登録表示が全く付されていないから、その記載を商標の表示とみる余地は全くない。 (3) 上記(2)のア〜カの被告等の広告、パンフレット等における「VIBRAMUTE」(ヴィブラミュート、ビブラミュート)の使用状況に照らして、「VIBRAMUTE」と称される台座、アーム及び弦掛の3点セットから成るギターの部品には「VIBRAMUTE」以外に普通名称がないことが明らかである。被告は、審判において、「VIBRAMUTE」が「あまりにも有名なトレモロアームシステムについての標章」であると主張したが、この主張は、「VIBRAMUTE」が台座、アーム及び弦掛の3点セットから成るギターの部品の普通名称であることを認めたことにほかならない。 (4) 当事者と無関係な楽器店その他の第三者も、以下のとおり、「VIBRAMUTE」(ヴィブラミュート、ヴァイブラミュート)の語をギターの一部品を指称する普通名称として使用し、あるいはそのことを記載した文書を作成している。 ア 平成10年2月5日発行の雑誌「Player」同年2月号(甲第12号証の1)、同年4月5日発行の同誌同年4月号(甲第12号証の2)及び同年6月5日発行の同誌同年6月号(甲第12号証の3)に掲載されたワルツ堂の広告中には、 ギターの一部品につき「ヴィブラミュートフルセット 38,000」等の記載がある。 イ 株式会社石橋楽器が、平成10年9月9日付け又は同年10月8日付けでしたインターネットによる「モズライト・ギター」の広告(甲第23号証)中には、エレキギターを構成する部品として「VIBRAMUTE UNIT」との記載があり、「VIBRAMUTE UNIT」の写真が掲載されている(4枚目、5枚目、9枚目、11枚目)ほか、「PARTS」(部品)として「VIBRAMUTE Acc.A 58,000yen 78,000yen」(「58,000yen」はクロム製のもの、「78,000yen」は金製のものである。)、「VIBRAMUTE Acc.B 48,000yen」(クロム製のものである。)との記載(17枚目)があり、「VIBRAMUTE」がエレキギターの一部品を指称する普通名称として使用されていることを示している。 ウ 宮地楽器ほか10店の楽器店が作成した文書(甲第13〜第22号証、 第35号証)には、「VIBRAMUTE」(ヴィブラミュート、ビブラミュート)の語がギターの一部品を指称する普通名称として使用されている旨が記載されている。 エ Cほか11名のギター愛好者等が作成した文書(甲第26〜第34号証、第36〜第38号証)には、「ヴィブラミュート」の語がモズライトギターの一部品を指称する普通名称として使用されていること等が記載されている。 (5) 原告は、平成4年11月24日、台座、アーム及び弦掛の3点をセットにして成る物品の意匠につき、意匠に係る物品を「ビブラミュート」として、意匠登録出願をしたところ、特許庁は、平成5年9月24日に意匠登録をすべき旨の査定(以下「本件意匠登録査定」という。)をし、平成6年1月28日、意匠登録第896716号として設定登録をした(甲第10、第11号証)。 上記意匠に係る物品である「ビブラミュート」は「VIBRAMUTE」のことであるから、本件意匠登録査定は、「VIBRAMUTE」がエレキギターの一部品を指称する普通名称であると認定したものであり、本件意匠登録査定がされた平成5年9月24日当時、既に「VIBRAMUTE」が普通名称であったことが明らかである。 のみならず、本件意匠登録査定は、「VIBRAMUTE」が普通名称であることを含めた行政処分であり、これが確定した以上、同一特許庁が行う他の行政処分に対しても覊束力を有するものであり、本件の審決が、「VIBRAMUTE」を普通名称ではないと判断することは、上記本件意匠登録査定の覊束力により許されない。 |
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被告の反論
審決の認定、判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。 1 取消事由1(判断遺脱及び理由の食違い)について 原告は、審判における、「VIBRAMUTE」の語が「台座、アーム及び弦掛の3点セットから成るギターの一部品」の普通名称である旨の原告の主張に対し、審決が判断をしていないと主張するが、原告自身が、「『弱音器』若しくは『台座、アーム及び弦掛の3点セットから成るギターの一部品』」と主張するように、「台座、 アーム及び弦掛の3点セットから成るギターの一部品」という商品部材名は、「弱音器」を言い替えたものであり、審決の説示における「弱音器」には、「台座、アーム及び弦掛の3点セットから成るギターの一部品」も実質的に同等のものとして含まれていると解されるから、上記主張は失当である。 また、原告は、審決の「本件商標『VIBRAMUTE』は、前記3で認定判断したとおり『弱音器』の普通名称ということはできないから、本件商標をその指定商品中『弱音器』に使用しても、商品の品質について誤認を生ずるおそれがある商標ではない」(審決謄本6頁32行目〜35行目)との判断が、「本件商標は・・・『弱音器』以外の指定商品に使用するときは、商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるものである」(同3頁13行目〜15行目)との原告主張に対するものではなく、 上記判断において指称する「前記3」の「認定判断」に相当する認定判断が審決に存在しないと主張するが、その「前記3」は、「前記(3)」(同5頁26行目〜末行の説示)とすべきものであっただけのことであり、この主張も理由がない。 2 取消事由2(普通名称についての事実誤認)について (1) 被告の経営する楽器店又は株式会社フィルモアが掲載した広告、頒布したパンフレット、冊子及び価格表(甲第4〜第9号証)に、「VIBRAMUTE」がギターの一部品を指称する普通名称として使用されていることを示すような記載は全くない。 また、原告は、その主張に係る「台座、アーム及び弦掛の3点セットから成るギターの部品」に、「VIBRAMUTE」以外の普通名称がないと主張するが、「トレモロアームユニット」がその普通名称であって、モズライトギターにあっては、これに「VIBRAMUTE」(ヴァイブラミュート)の標章を用いているのであり、他の著名なエレキギターである「フェンダー」、「ギブソン」、「リッケンバッカー」等のメーカーは、そのエレキギターに設置するトレモロアームユニットに「VIBRAMUTE」(ヴァイブラミュート)の標章を用いてはいない。また、被告は、モズライトギターのトレモロアームユニットにつき、真鍮鋳造製のものに本件商標を用い、亜鉛鋳造製のものには被告が登録を得ている「MOSELEY」(モズレー)の商標を用いている。 なお、商標法73条はいわゆる努力規定であるにすぎないから、広告等の「VIBRAMUTE」の記載に商標登録表示が付されていないからといって、その記載が商標の表示でないとはいえない。 (2) 楽器店その他第三者の広告及び作成文書(甲第12号証の1〜3、第13〜第23号証、第26〜第38号証)は、「VIBRAMUTE」がギターの一部品を指称する普通名称として使用されていることを証明するに足りるものではない。 (3) 本件意匠登録査定がされたからといって、平成5年9月24日当時、「VIBRAMUTE」が普通名称であったことが証明されるものではない。また、本件意匠登録査定が、「VIBRAMUTE」が普通名称であることにつき覊束力を有するとの主張は争う。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(判断遺脱及び理由の食違い)について (1) 原告は、審判における、「VIBRAMUTE」の語が「台座、アーム及び弦掛の3点セットから成るギターの一部品」の普通名称である旨の原告の主張に対し、審決が判断をしていない旨主張する。 しかしながら、審決は、「 第4 当審の判断」として、当事者の主張の趣旨及び証拠により、「『VIBRAMUTE』は、モズライト(MOSRITE)ギターの生みの親であるアメリカ人セミー・モズレーが造語命名した商標であり、我が国において、 同人を商標登録出願人として出願、商標登録第2025895号として登録されていたものである・・・セミー・モズレーは、それまでのカスタムギターに搭載されていたビグスビー社が開発したトレモロアームシステム(トレモロとは震音の意味であり、これを発生させるためのアームがトレモロアーム)よりも狂いのないトレモロアームシステムのユニットを完成させ、モズライトギターに採用した。上記商標『VIBRAMUTE』は、このトレモロアームシステムのユニットに付されていたものである」(審決謄本4頁末行〜5頁12行目)との事実を認定し、この認定事実等に基づき、「本件商標『VIBRAMUTE』は、全体として特定の語義を生ずる商品の普通名称であるものとする事実はなく、前示のとおりセミー・モズレーがトレモロアームシステムのユニットについて造語命名した創造語であって、楽器を取り扱う取引者、楽器の需要者において、セミー・モズレーのトレモロアームシステムのユニットに付された商標『VIBRAMUTE』が広く知られた結果、セミー・モズレーの取扱いに係るトレモロアームシステムのユニットを指称するものとして認識されるに至っていたとみるのが相当である・・・『VIBRAMUTE』がトレモロアームシステムのユニットに使用された結果、『音を振動させる弱音器』『振動弱音器』という商品を意味する語として商標が稀釈化し、商品の普通名称であるとする事実を認めることはできない」(同5頁26行目〜末行)と判断したものである。そして、この説示において、「音を振動させる弱音器」又は「振動弱音器」が、商品として、「トレモロアームシステムのユニット」を含む意味で用いられていることは明らかであり、また、審決の「『VIBRAMUTE』が楽器を取り扱う取引者、楽器の需要者の間において『弱音器』の普通名称と認識されているとみることはできない」(同6頁19行目〜21行目)、「本件商標『VIBRAMUTE』は・・・『弱音器』の普通名称ということはできない」(同頁32行目〜33行目)等の説示における「弱音器」は、上記「音を振動させる弱音器」又は「振動弱音器」を意味するものと解されるから、審決は、「VIBRAMUTE」の語が上記「トレモロアームシステムのユニット」の普通名称であるとは認められないとの判断をしているものというべきところ、原告の主張に係る「台座、アーム及び弦掛の3点セットから成るギターの一部品」が上記「トレモロアームシステムのユニット」と同義であることは、原告が自認するところである。 したがって、原告の上記主張は理由がない。 (2) 原告は、審決の「本件商標『VIBRAMUTE』は、前記3で認定判断したとおり『弱音器』の普通名称ということはできないから、本件商標をその指定商品中『弱音器』に使用しても、商品の品質について誤認を生ずるおそれがある商標ではない」(審決謄本6頁32行目〜35行目)との判断が、審決の摘示した原告の主張と対応せず、また、上記判断中の「前記3」の「認定判断」に相当する認定判断は審決に存在しないから、審決には上記原告の主張に対する判断がなく、また理由に食違いがある旨主張する。 しかしながら、相当の注意をもって上記判断に係る審決の説示を読めば、 「その指定商品中『弱音器』に使用しても」の部分が「その指定商品中『弱音器』以外に使用しても」の、「前記3」の部分が「前記2」(すなわち、審決謄本中4頁27行目〜6頁30行目の部分)の各誤記であることは容易に認識し得るところであり、各誤記部分をそのように改めた場合には、原告主張の判断遺脱や理由の食違いがないことは明らかである(なお、「弱音器」が「トレモロアームシステムのユニット」、すなわち、原告の主張に係る「台座、アーム及び弦掛の3点セットから成るギターの一部品」を含むことは上記のとおりである。)から、このような明白な誤記があるからといって、審決に違法があるとはいえない。 したがって、原告の上記主張も理由がない。 2 取消事由2(普通名称についての事実誤認)について (1) 「VIBRAMUTE」の語が、「我が国において、同人(注、セミー・モズレー)を商標登録出願人として出願、商標登録第2025895号として登録されていたものである(昭和60年12月20日登録出願 第24類『ギター、その他の楽器、その他本類に属する商品』昭和63年2月22日設定登録 平成10年2月22日存続期間満了により商標権消滅)・・・セミー・モズレーは、それまでのカスタムギターに搭載されていたビグスビー社が開発したトレモロアームシステム(トレモロとは震音の意味であり、これを発生させるためのアームがトレモロアーム)よりも狂いのないトレモロアームシステムのユニットを完成させ、モズライトギターに採用した。上記商標『VIBRAMUTE』は、このトレモロアームシステムのユニットに付されていたものである・・・その後、平成4年(1992年)8月7日セミー・モズレーが死亡、同人が代表者であったユニファイド・サウンド・アソシエーション・インコーポレーテッドが倒産したことを知った被請求人(注、被告)は、上記商標権は、存続期間の更新がされることはないと考え、本件商標を登録出願し、その登録を得た」(審決謄本5頁1行目〜17行目)ことは当事者間に争いがない。 なお、被告(FILLMORE MUSIC STORE)が発行した「mosrite of California」と題する冊子(甲第7号証)によれば、セミー・モズレーが上記トレモロアームシステムのユニットをモズライトギターに採用したのは1963年(昭和38年)のことであることが認められ、また、株式会社共和商会大阪営業所作成の「証明書」(甲第21号証)、C作成の「ビブラミュートに関する意見書」(甲第26号証)、D作成の「ヴィブラミュート(VIBRAMUTE)について」と題する書面(甲第27号証)及び弁論の全趣旨によれば、「モズライトギター」は、米国人セミー・モズレーが考案したエレキギターであり、モズライトギター及び上記トレモロアームシステムのユニットは、ユニファイド・サウンド・アソシエーション・インコーポレーテッド等同人が関係する米国会社(以下「米国モズライト社」という。)により製作販売されていたが、現在、我が国において、原告や被告又は被告の関係する会社によっても製作販売されていることが認められる。 また、1964年(昭和39年)研究社辞書部発行の「KENKYUSHA'S NEW ENGLISH-JAPANESE DICTIONARY」(甲第24号証)には、「mute」の語につき、 「(弦楽器・金属管楽器・ティンパニ・ピアノなどに用いる)弱音器」の語義が掲載されているが、「VIBRAMUTE」の語が英和辞典その他の辞典類に掲載されていることを認めるに足りる証拠はない。 (2) 原告は、被告の経営する楽器店又は株式会社フィルモアによる広告、パンフレット等の記載に照らせば、被告自身が「VIBRAMUTE」の語をギターの一部品を指称する普通名称であると認識していた旨主張するので、順次検討する。 ア 昭和62年1月30日発行の「THE 楽器」(甲第4号証)123頁には、10種類のエレキギターの紹介記事があり、それぞれについて@からKまでの符号を付して、各ギターのスペック(specification、仕様)と認められる記載があり(ただし、@からKまでの符号が具体的に何を意味するかは明らかではない。)、そのうちの「MOSLITE USA/VENTURES MODEL V-63」及び「MOSLITE USA/VENTURES MODEL V-64」との2種類のギターにつき「Hヴァイブラ・ミュート」との記載があるところ、原告は、当該「ヴァイブラ・ミュート」の記載がスペックの一つとして記載されていること及び「・」によって「ミュート」の語が「ヴァイブラ」の語と切り離されていることを根拠として、それがギターの一部品を指称するものであり、商標の使用とみる余地はない旨主張する。 しかしながら、上記「Hヴァイブラ・ミュート」の記載部分がスペックの一つとして記載されているとすれば、その記載はギターの一部品を指称するものであるとしても、そのうちの普通名称に当たるものは、上記10種類のギターに共通するHの符号が意味する部品名等の名称であるところ、「ヴァイブラ・ミュート」の記載は、上記2種類のギターに係るものであるから、Hの符号が表す部品に属する特定の商品を示すものであって、それ自体が普通名称を記載したものではないと考えるのが自然である。このことは、上記10種類のエレキギターのうちの他のものについては、Hとして「ムーンWP-4ストップ・ブリッジ」、「P・F・STROH」等、普通名称ではなく、特定の商品を示すものと認められる記載があることによっても裏付けられる。そして、特定の商品に付された商標が広く知られている場合に、雑誌等の広告若しくは商品の紹介記事又は取引に当たって、特定の商品を表示するのに商標をもってすることは普通に行われているところであり、上記のとおり、「VIBRAMUTE」が、セミー・モズレーによってモズライトギターに採用されたトレモロアームシステムのユニットに付されていた商標であり、その商標権の存続期間が10年間に及んだことを併せ考えれば、エレキギターのスペックの一つとして「Hヴァイブラ・ミュート」との記載があるからといって、「ヴァイブラ・ミュート」が商標ではなく、普通名称として認識されていると認めることはできない。 なお、上記「THE 楽器」(甲第4号証)の記事中には、「部品ブランド/発売元・輸入元一覧表」として、「モズライトUSA=フィルモア楽器(注、被告)」との記載があり、上記「MOSLITE USA/VENTURES MODEL V-64」のギターに関して「フィルモアとUSAモズライトが協力、ヴェンチャーズ・モデルMK-1を再現」との記載があることに照らして、上記「MOSLITE USA/VENTURES MODEL V-63」及び「MOSLITE USA/VENTURES MODEL V-64」の各ギターの製作販売には米国モズライト社が関与していたことが認められるところ、昭和62年1月30日当時は、本件商標はもとより、セミー・モズレーの出願に係る登録第2025895号商標の設定登録もされていなかったのであるから、セミー・モズレー又は米国モズライト社がその製作に係るトレモロアームシステムのユニットに付した「VIBRAMUTE」の商標につき、我が国で様々な表記がされていたことが推認され、さらに、片仮名文字のみから成る商標の使用態様において、「・」の記号を付すこともあり得ないともいえないから、「ヴァイブラ・ミュート」が、上記のような「VIBRAMUTE」の商標の我が国における表記の一つではないと直ちに断定することはできない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 イ 弁論の全趣旨により平成9年12月ころに発行されたと認められる雑誌「Player」平成10年1月号(甲第5号証)に掲載された被告(フィルモア楽器)の広告中には、「ヴィブラミュートセット」、「10セット限定(スタッド付)38,000」との記載及び商品の写真が掲載されているところ、前掲「mosrite of California」と題する冊子(甲第7号証)の記載に照らせば、上記写真は、セミー・モズレーが考案し、モズライトギターに採用したトレモロアームシステムのユニットを撮影したものであることが認められる。 ところで、原告は、上記広告において、3万8000円という価格表示がされていることを根拠として、ヴィブラミュートがギターの一部品を指称するものであり、商標の使用とみる余地はない旨主張する。 しかしながら、平成9年12月当時、セミー・モズレーの出願に係る登録第2025895号商標に係る商標権が存続していたこと、同商標は、セミー・モズレー又は米国モズライト社の製作に係るトレモロアームシステムのユニットに付されていたこと、特定の商品に付された商標が広く知られている場合に、雑誌等の広告若しくは商品の紹介記事又は取引に当たって、特定の商品を表示するのに商標をもってすることが普通に行われていることは上記のとおりであるから、上記広告において、「ヴィブラミュートセット」に3万8000円という価格表示がされているとしても、上記広告が特定のトレモロアームシステムのユニットを販売商品とするものであり、当該特定の商品を表示するのに「ヴィブラミュート」との商標をもってしたものではないと断定することはできない。そうすると、ヴィブラミュートがギターの一部品を指称するものであるとしても、それが、普通名称として用いられており、被告がそのように認識していたと認めることはできない。 ウ 弁論の全趣旨により、遅くとも平成10年5月7日までには発行されていたと認められる被告(FILLMORE)の商品広告パンフレット(甲第6号証)には、 商品であるギターの写真とともに、「SPECIFICATION」として、「Roller Briage」(「Roller Bridge」の誤記であると認められる。)、「Vibramute」などの記載が列挙されているところ、原告は、「Roller Bridge」がギターの一部品であるから、 これとともに記載された「Vibramute」もギターの一部品を指称するものであり、商標の使用とみる余地はない旨主張する。 しかしながら、上記記載が「SPECIFICATION」(仕様)とされていることにかんがみれば、そこに列挙されたものがギターの部品を指称する一般名称ではなく、当該部品に属する特定の商品であることもあり得るものと解され、また、その「SPECIFICATION」が商品広告の用に供する単なるパンフレットに記載されたものであることに照らせば、その記載がさほど厳密ではなく、ギターの部品を指称する一般名称の記載と、当該一般名称の部品に属する特定の商品の記載とが混在していたとしてもあながち不自然とはいえない。そうすると、仮に、「Roller Bridge」がギターの一部品を指称する一般名称であるとしても、「Vibramute」が広く知られた商標をもって特定の商品を表示したものではないと断定することはできないから、 原告の上記主張は採用することができない。 エ 前掲「mosrite of California」と題する冊子(甲第7号証)には、「What is “VIBRAMUTE”」との標題の下に、セミー・モズレーが、材質をブラスにすることによって弦の振動をブリッジからテールピースに伝え、さらに台座によるサスティーン(弦の振動を伸ばす)効果を充分に出すことができる新しいトレモロアームシステムのユニットを開発したこと、ビブラミュート(バイブラミュート)には、台座に付されたMのマークの台座における位置の違いにより、7o台座と3o台座と呼ばれる2種類があること等が記載され、製作年、色、7o台座と3o台座の別などによって区分される16種類の「VIBRAMUTE」の写真が掲載されている。 これらの記載によれば、「VIBRAMUTE」がセミー・モズレーの考案に係るトレモロアームシステムのユニット(原告が主張する台座、アーム及び弦掛の3点セットから成るギターの一部品)を指称する語であることが認められるが、「VIBRAMUTE」の語が上記トレモロアームシステムのユニットを表す普通名称として使用されていることを認めるに足りる記載は見当たらない。 オ 弁論の全趣旨により平成12年に被告(FILLMORE)がその顧客に配布したものと認められる販売商品の価格表(甲第8号証)には、ギターの部品の価格を表示した欄(「MOSRITE PARTS&ACCESSORIES」との表示のある部分)に、「TAIL PIECE 10,000」、「PICKGUARD 8,000」、「SWITCH KNOB 2,000」、「CONDENSER 200」等の記載とともに「VIBRAMUTE 30,000」との記載があるところ、原告は、 3万円という価格表示がされていることを根拠として、「VIBRAMUTE」がギターの一部品を指称するものであり、商標の使用とみる余地はない旨主張する。 しかしながら、上記価格表も商品の広告を兼ねていることは明らかであるところ、上記イの広告と同様、上記価格表においても、「VIBRAMUTE」に3万円という価格表示がされているからといって、それが特定のトレモロアームシステムのユニットに係るものであり、当該特定の商品を表示するのに「VIBRAMUTE」との商標をもってしたものではないと断定することはできず、したがって、「VIBRAMUTE」がギターの一部品を指称するものであるとしても、それが、普通名称として用いられており、被告がそのように認識していたと認めることはできない。 また、原告は、上記価格表に、「VIBRAMUTE」とともに記載されている「TAIL PIECE」、「PICKGUARD」、「SWITCH」、「CONDENSER」等の記載が商標でないことを根拠として、「VIBRAMUTE」が商標ではないとも主張するが、上記のような販売商品の価格表の記載がさほど厳密ではなく、ギターの部品を指称する一般名称の記載と、当該部品に属する特定の商品の記載とが混在していたとしてもあながち不自然とはいえない。そうすると、「TAIL PIECE」、「PICKGUARD」、「SWITCH」、「CONDENSER」等の記載が、それぞれギターの部品を指称する一般名称であるとしても、「VIBRAMUTE」が広く知られた商標をもって特定の商品を表示したものではないと断定することはできないから、原告の上記主張は採用することができない。 カ 平成12年6月5日発行の雑誌「Player」同年6月号(甲第9号証)に掲載された株式会社フィルモアの広告中には、「NOKIE EDWARDS Model Type T」とのギター及び「NOKIE EDWARDS Model Type U」とのギターの各「SPECIFICATION」の一つとして、いずれも「BRIDGE:VIBRAMUTE/Roller Bridge」との記載があるところ、この記載は、上記各ギターの「SPECIFICATION」(仕様)として、ギターの一部品であるブリッジに、「VIBRAMUTE」及び「Roller Bridge」が使用されていることを示すものと認められるが、「Roller Bridge」の語が語頭の文字のみ大文字で表記されているのに対し、「VIBRAMUTE」の語は全部の文字が大文字で表記されていること等を併せ考えると、この「VIBRAMUTE」の語が、広く知られた商標をもって特定の商品を表示したものではないとは断定し得ず、したがって、ギターの一部品を指称する一般名称として用いられたものと直ちに認めることはできない。 キ 原告は、商標法73条の規定を根拠として、上記「mosrite of California」と題する冊子(甲第7号証)、価格表(甲第8号証)及び雑誌「Player」平成12年6月号(甲第9号証)掲載の広告中の各「VIBRAMUTE」との記載に商標登録表示が付されていないから、その記載を商標の表示とみる余地はない旨主張するが、商標法73条は、指定商品に係る商標の商標権者等に対しては、 指定商品自体又は指定商品の包装に登録商標を付するときに、商標登録表示を付するよう努めるべきことを規定したものにすぎないから、上記冊子、価格表及び雑誌掲載広告中の各「VIBRAMUTE」との記載に商標登録表示が付されていないからといって、それが商標の表示でないということはできない。 (3) 原告は、「VIBRAMUTE」と称される台座、アーム及び弦掛の3点セットから成るギターの部品には「VIBRAMUTE」以外に普通名称がない旨主張するが、当該「台座、アーム及び弦掛の3点セットから成るギターの部品」が、「トレモロアームシステムのユニット」(審決謄本5頁10行目)と同義であることは、原告が自認するところであり、そうであれば、「トレモロアームシステムのユニット」又はこれを適宜省略した「トレモロアームシステムユニット」、「トレモロアームユニット」等の語が、その普通名称となり得るものであるから、「VIBRAMUTE」以外に普通名称がないとすることはできない。 また、原告は、被告が審判において「VIBRAMUTE」が「あまりにも有名なトレモロアームシステムについての標章」であると主張したことをもって、被告が、「VIBRAMUTE」が台座、アーム及び弦掛の3点セットから成るギターの部品の普通名称であることを認めたものであると主張するが、被告が審判においてそのように主張したとしても、それを原告の上記主張のように解する根拠はない。 (4) 原告は、当事者と無関係な楽器店その他の第三者が「VIBRAMUTE」(ヴィブラミュート、ビブラミュート)の語をギターの一部品を指称する普通名称として使用し、あるいはそのことを記載した文書を作成している旨主張するので、順次検討する。 ア 平成10年2月5日発行の雑誌「Player」同年2月号(甲第12号証の1)、同年4月5日発行の同誌同年4月号(甲第12号証の2)及び同年6月5日発行の同誌同年6月号(甲第12号証の3)に掲載されたワルツ堂の広告中には、 いずれも「ヴィブラミュートフルセット 38,000」等の記載及び商品の写真が掲載されているところ、前掲「mosrite of California」と題する冊子(甲第7号証)によれば、上記写真は、セミー・モズレーの考案に係るトレモロアームシステムのユニット(ただし、その製作者は明らかではない。)を撮影したものであることが認められる。 また、弁論の全趣旨により、株式会社石橋楽器が平成10年9月9日付け又は同年10月8日付けでしたインターネットによる「モズライト・ギター」の広告(甲第23号証)中には、ギターを構成する部品として「BRIDGE:ORIGINAL VIBRAMUTE UNIT AND ROLLER BRIDGE」との記載があり、「VIBRAMUTE UNIT」の写真が掲載されている(4枚目〜6枚目、9枚目、11枚目)ほか、「PARTS」として、「VIBRAMUTE Acc.A」が、クロム製は5万8000円、金製は7万8000円であり、「VIBRAMUTE Acc.B」が、クロム製で4万8000円である旨の記載(17枚目)があるところ、上記写真は、セミー・モズレーの考案に係るトレモロアームシステムのユニット(ただし、その製作者は明らかではない。)を撮影したものであることが認められる。 しかしながら、仮に、これらの広告に係る「ビブラミュート」又は「VIBRAMUTE」の記載が、上記トレモロアームシステムのユニットを指称する普通名称として用いられたものとしても、その使用時期は、セミー・モズレーの出願に係る登録第2025895号商標に係る商標権が消滅する前後ころから本件商標の設定登録がされるまで1年余りの期間に限られており、かつ、「被請求人(被告)は、ワルツ堂に本件商標の商標権に基づき、「VIBRAMUTE」の商標を付したギターの無断販売を中止することを請求する平成11年9月21日付け警告書を発した」(審決謄本5頁23行目〜25行目)ことは当事者間に争いがない。そうすると、 これらの1〜2の使用例が存在するからといって、直ちに、取引者、需用者の間で、「VIBRAMUTE」の語が、ギターの一部品を指称する普通名称として認識され、一般的に使用されているものとまで認定することはできない。 イ 宮地楽器ほか8店の楽器店が作成した文書(甲第13〜第21号証)には、「VIBRAMUTE」(ヴィブラミュート、ビブラミュート)の語がギターの一部品を指称するものであり、一般的に又は普通名称として使用されていた旨の記載があるが、その具体的な根拠、使用例等の記載はなく、また、セミー・モズレーの出願に係る登録第2025895号商標に係る商標権との関係について言及されていないこと等に照らして、これらの文書の上記記載を直ちに信用することはできない。 なお、ワルツ堂及び有限会社サウンドトラベルの作成に係る各文書(甲第22号証、第35号証)には、「VIBRAMUTE」(ヴィブラミュート、ビブラミュート)の語がギターの一部品を指称するものとして、一般的に又は普通名称として使用されていた旨の記載はない。 ウ 大久保将志作成の「ヴィブラミュートについて」と題する書面(甲第34号証)には、「ヴィブラミュート」(ビブラミュート)が、モズライトギター部品の一部であり、一般的に普通名称として使用されている旨の記載があるが、上記イの宮地楽器ほか8店の楽器店が作成した文書と同様、上記記載を直ちに信用することはできない。 また、ギター愛好者と認められる内田眞ほか10名が作成した文書(甲第26〜第33号証、第36〜第38号証)には、「VIBRAMUTE」(ヴィブラミュート、ヴァイブラミュート、ビブラミュート)が、モズライトギターの一部品を指称するものである旨の記載や、米国モズライト社と関係のない被告が、本件商標を取得したことを非難する記載はあるものの、「VIBRAMUTE」がギターの一部品を指称するものとして、一般的に又は普通名称として使用されていた旨の記載はない。 (5) 意匠登録第896716号意匠に係る意匠登録原簿写し(甲第10号証)及び意匠公報(甲第11号証)によれば、原告が、平成4年11月24日、「意匠に係る物品」を「ビブラミュート」とし、意匠に係る物品の説明を「本物品は、弦をギターの胴部に取り付け、弦にテンシヨンを与えるものである。」とする意匠登録出願をしたこと、同出願に対し、平成5年9月24日に本件意匠登録査定がされ、平成6年1月28日に設定登録がされたことが認められるところ、原告は、本件意匠登録査定は「ビブラミュート」(VIBRAMUTE)がエレキギターの一部品を指称する普通名称であると認定したものであるから、平成5年9月24日当時、既に「VIBRAMUTE」が普通名称であったことが明らかである旨主張する。 平成10年法律第51号による改正前の意匠法(以下、単に「意匠法」という。)7条に基づく平成10年通商産業省令87号による改正前の意匠法施行規則6条は、意匠登録出願に係る物品の区分は同施行規則別表第一の「物品の区分」の欄に掲げるとおりとする旨規定し、同別表は、「物品の区分」の欄(下欄)に、 例えば、二七の項の「楽器」のうちの「弦楽器」については、「ギター」、「電気ギター」、「ギター用テールピース」、「ギター用ピック」、「ギターケース」等の物品を掲記した上(なお、「ビブラミュート」は同別表に掲記された物品ではない。)、備考二において「この表の下欄に掲げる物品の区分のいずれにも属さない物品について意匠登録出願をするときは、その下欄に掲げる物品の区分と同程度の区分による物品の区分を願書の『意匠に係る物品』の欄に記載しなければならない。」と規定するところ、同別表の「物品の区分」の欄に掲記された各物品の区分の程度にかんがみれば、同欄に掲記されていない物品を「意匠に係る物品」とする意匠登録出願において、その「意匠に係る物品」が固有名詞又は商標によって区分される物品であってはならないことは明らかである。そして、このことは、意匠登録をすべき旨の査定の要件であるから(意匠法18条、17条3号)、本件意匠登録査定は、「ビブラミュート」が商標によって区分される物品には当たらない旨を認定してされたものであるというべきである。 しかしながら、上記認定の根拠を明らかにする証拠はないのみならず、本件意匠登録査定がされた平成5年9月24日当時、セミー・モズレーを商標権者として「VIBRAMUTE」の構成より成る登録第2025895号商標の設定登録がされていたこと、昭和62年から平成12年までの間に、取引者、需用者の間で、「VIBRAMUTE」(ヴィブラミュート、ヴァイブラミュート、ビブラミュート)の語が、ギターの一部品を指称する普通名称として認識され、一般的に使用されたことを認めるに足りる証拠がないことは、上記のとおりである。そうすると、「ヴィブラミュート」、「ヴァイブラミュート」などと同様に、「VIBRAMUTE」を片仮名表記したものと認められる「ビブラミュート」の語は、商標によって区分される物品に当たるものというのが相当であり、本件意匠登録査定の上記認定は誤りであるといわざるを得ない。 原告は、さらに、本件意匠登録査定は「VIBRAMUTE」が普通名称であることを含めた行政処分であり、これが確定した以上、同一特許庁が行う他の行政処分に対しても覊束力を有するものであるから、本件の審決が「VIBRAMUTE」を普通名称ではないと判断することは、上記本件意匠登録査定の覊束力により許されない旨主張する。 しかしながら、意匠登録出願に対し審査官がした意匠登録をすべき旨の査定は、例えば、当該出願を担当する審査官に対し、当該査定自体を任意に取り消したりすることのできない効力を生ずるものと解されるが、これとは別に、意匠登録をすべき旨の査定の要件の存否に係る審査官の認定判断が、商標の登録無効の審判に関与する審判官の審決における認定判断を当然に拘束するものと解すべき法律上の根拠は存在しない。 また、意匠法20条1項の解釈上、意匠権が意匠登録をすべき旨の査定の効力として発生するといえるかどうかはさておき、仮に、原告の主張する「本件意匠登録査定の覊束力」が、意匠登録第896716号意匠に係る意匠権の効力を意味するものであるとしても、本件意匠登録査定の要件に係るものとして審査官が認定した事項である「ビブラミュート」が商標によって区分される物品には当たらないことが、第三者に及ぶ上記意匠権の効力の内容を成すものと解すべき根拠はない。 したがって、いずれにせよ原告の上記主張は採用することができない。 (6) 以上によれば、審決が、「本件商標『VIBRAMUTE』は、全体として特定の語義を生ずる商品の普通名称であるものとする事実はなく」(審決謄本5頁26行目〜27行目)、「『VIBRAMUTE』がトレモロアームシステムのユニットに使用された結果、『音を振動させる弱音器』『振動弱音器』という商品を意味する語として商標が稀釈化し、商品の普通名称であるとする事実を認めることはできない」(同頁36行目〜末行)と認定判断したことに原告主張の誤りがあるものとは認められない。 3 よって、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらないから、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 石原直樹 |
裁判官 | 宮坂昌利 |