関連審決 |
審判1987-5538 審判1995-2379 |
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関連ワード | 識別力 / 指定商品 / 普通名称(3条1項1号) / 記述的商標(3条1項3号) / 品質誤認(4条1項16号) / 国内 / 使用許諾 / マドリッド / 登録異議申立 / 領域指定 / パリ条約 / 国際登録 / 外国 / |
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事件 |
平成
12年
(行ケ)
427号
審決取消請求事件
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原告 ハイデルベルガー・ドルックマシーネン・アクチエンゲゼルシャフト 訴訟代理人弁護士 加藤義明 同 川田篤 同 鹿野直子 被告 特許庁長官及川耕造 指定代理人 寺島義則 同 宮川久成 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2001/07/18 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成7年審判第2379号事件について平成12年6月26日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文第1、2項と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、指定商品を商標法施行令別表(平成3年政令第299号による改正前のもの、以下「旧別表」という。)による第9類「産業機械器具、動力機械器具、風水力機械器具、事務用機械器具、その他の機械器具で他の類に属しないもの、これらの部品及び附属品、機械要素」とし、「HELVETICA」の欧文字を書してなる商標(以下「本願商標」という。)について、平成3年11月29日に商標登録出願(商願平3-123869号)をしたが、平成6年10月26日に拒絶査定を受けたので、平成7年2月8日、これに対する不服の審判を請求した。特許庁は、 同請求を平成7年審判第2379号事件として審理した結果、平成12年6月26日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年7月12日、原告に送達された。 2 審決の理由 審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、欧文書体であるサンセリフ体の一種名と認められる本願商標を、その指定商品中「ヘルベチカ書体の活字及び写真植字機の文字盤」に使用しても、単にその商品の品質を表示しているにすぎず、また、これを上記以外の商品に使用するときは、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあり、本件商標は商標法3条1項3号及び同法4条1項16号に該当するから、本件商標登録出願は拒絶されるべきであるとした。 |
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原告主張の審決取消事由
1 審決は、本願商標を、その指定商品中「ヘルベチカ書体の活字及び写真植字機の文字盤」に使用しても、単にその商品の品質を表示しているにすぎず、また、 これを上記以外の商品に使用するときは、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるとの誤った判断をしたから(取消事由)、違法として取り消されるべきである。 2 取消事由(本願商標が品質表示及び品質誤認表示であるとする判断の誤り) (1) ヘルベチカという名称の活字体及び印刷用書体(以下「書体」という。)は、サンセリフという欧文書体の一種であるが、書体の一般名称は、多かれ少なかれその書体の品質を含意しており、サンセリフとは、活字の先端及び末端に装飾されている極細の直線がないことを意味するフランス語であり、まさに、書体を指称するものとして一般的である。サンセリフ体は、特に20世紀に入り改良が進み、 原告の子会社であるハース活字鋳造株式会社(以下「ハース社」という。)が、 「ノイエ・ハース・グロテスク」という商標により、ヘルベチカの基礎となる活字体を公表し、後に、「ヘルベチカ」という商標の下に機械植字用の活字体として公表した。 ヘルベチカは、ヘルベチアという名詞の形容詞女性形である。ヘルベチアという名称は、今日のスイス連邦西域一帯に居住していたヘルベチア人に由来する。ヘルベチア人は、その後、ゲルマン系部族に吸収されたが、ヘルベチアという名称は、ヘルベチア人の居住していた地域の呼称として残った。このように、ヘルベチアないしヘルベチカは、歴史上の民族又はスイスの地域を指称するもので、本来、活字体とは関連性を有しない標章である。 ハース社が「ノイエ・ハース・グロテスク」という商標に代えて、ヘルベチカという商標を用いたのは、他社の「ノイツァイト・グロテスク」という商標の活字体と混同されるおそれがあったためであり、自他商品の識別を意識したものである。そして、ハース社がスイス連邦の会社であることなどから、名詞形である「ヘルベティア」という商標が考えられたが、当時のスイス連邦においてミシン会社が「ヘルベティア」の商標を使用していたため、形容詞形である「ヘルベティカ」の商標が採用された。 このように、本願商標は、ハース社のサンセリフ書体を同業他社のものから区別するために採用されたものである。サンセリフの語は商品の品質又は形状を記述するものであるが、ヘルベチカの標章は、スイス連邦の地名等を意味するものにすぎず、活字の形状等を意味するものではない。例えば、桑山弥三郎著「レタリングデザイン」(甲第2号証)中に、サンセリフ、ローマン等の一般用語化している書体が掲げられている一方、ヘルベチカが掲げられていないのは、これが一般用語ではなく商標として認識されているからであり、また、このことは、現在、書体を販売する際にヘルベチカが商標として使用されていることからも明らかである。 それにもかかわらず、ヘルベチカが特定のサンセリフを指称する一般名称であるかのように錯覚されているのは、それだけヘルベチカが著名になったためにほかならない。 被告は、サンセリフ、ゴシック等の書体に関する概念が普通名称ないし品質表示であることを前提として、ヘルベチカがそれらと同様に扱われていると主張するが、被告提出の乙号証においても、マックス・ミーディンガーが創作者として、ハース社が権利者として表示されているなど、ヘルベチカが一般名称ないし品質表示としては扱われていない。 (2) 書体の創作者の権利を保護すべき制度は、今もなお決着をみておらず、国際的に統一的な保護が確立していないし、諸外国においても、その保護の態様及び程度は区々であるが、従来、活字を指定商品とする商標登録による保護の方法が採られている。我が国においては、文字の数が多いことから、書体の創作は活発ではなく、書体保護の意識も外国に比べ薄かった経緯があり、現在でも、我が国においては、著作権法、意匠法、不正競争防止法及び民法上の不法行為法のいずれによっても書体の保護は不十分であり、商標法による保護の必要性が高い。 もちろん、商標登録は、指定商品との関連においてされるものであり、伝統的に書体は金属等により製作された活字の一部としてのみ存在し、活字に商標が付されて取引されてきたから、指定商品である活字の保護により、間接的に書体の保護が図られてきた。商標法により保護を受けるのは、直接的には、指定商品である活字との関係における商標であり、活字に用いられた書体ではないから、例えば、ヘルベチカの商標で販売されている活字に第三者が別個の商標を付して販売することは、法律上は自由であるが、実際は、活字及び書体の業界における信用力及び業界慣行により、書体について保護を受けることができる。逆に、ヘルベチカが単なる品質表示であるとすると、第三者は、ヘルベチカを任意の活字に付して自由に販売することができることとなるが、このような行為は、業界の慣行上認められず、かえって、原告の正当な利益が害されるのみならず、取引の公正を害する結果となり、市場も大混乱に陥ることとなる。 (3) 指定商品を活字等とする本願商標は、1969年、ドイツ連邦共和国、フランス共和国、イタリア共和国、ベネルックス3国等を指定国として国際登録がされ、その後、連合王国(英国)、アメリカ合衆国、旧ドイツ民主共和国(東ドイツ)等において登録されており、指定商品を活字以外の書体一般、写植書体、電子書体としても、多くの国において登録されている。現在の国際的商品流通等を考慮すると、商標登録の実体的要件に関しても国際的調和の必要性が高まっている。我が国のみがこれと異なる判断をするならば、国際的に認められている本願商標に係る原告の正当な利益を否定し、商品の正常な流通を妨げ、かつ、日本の国際的孤立を招くことは必至である。 (4) 本願商標に係る「HELVETICA」は、ルフトハンザ・ドイツ航空などに採用されて販路を拡大したが、1990年前後から、コンピュータによる文書の作成等が急速に拡大していく中、コンピュータ製造会社大手のアイ・ビー・エム社などと、次々に使用許諾契約を締結している。ゼロックス、アップル等の世界的企業は、「HELVETICA」のライセンス契約中で、原告の著作権及び商標権を尊重することを合意し、何億円ものライセンス料を支払っている。 |
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被告の反論
1 審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は理由がない。 2 取消事由(本願商標が品質表示及び品質誤認表示であるとする判断の誤り)について (1) 特定人に対し書体について独占的排他的権利を認めることは、万人共通の文化的財産である文字等について他人の使用を排除することとなり、容認することができない。ヘルベチカは、サンセリフ、ローマン等と同様、単に書体名として使用されているのであって、商標として使用されているものではない。ヘルベチカの創作、命名過程が原告主張のとおりであるとしても、これが我が国において不特定多数の者及び多数の出版物に使用されてきた結果、今日においては、本願商標は、 サンセリフ、ローマン等と同様、特定の書体であるヘルベチカ書体を表すものとして、取引者・需要者間に広く認識されている。このように、我が国において、ヘルベチカは、書体名として使用されているのであり、商標として使用されているのではない。したがって、本願商標を指定商品中のヘルベチカ書体を用いた活字、写真植字機等に使用しても、単に商品の品質(形状)を表しているにすぎず、また、これを上記商品以外の指定商品に使用した場合には、商品の品質(形状)について誤認を生じさせるおそれがある。 商標として商品識別力を有し、特定の出所を表示するものとして使用されている登録商標も、商標権者の管理が十分でないときには、その商品の属する種類の慣用的な名称になり、あるいは普通名称化することによって、個性化された商品識別力を喪失することがある。ヘルベチカも同様に、商標権者の管理が十分でなかったために、不特定多数の取引者・需要者に広く使用された結果、印刷用活字の業界においては、その商品の品質(形状)を表す語として普通に使用されてきたものである。 (2) 書体に付された名称が登録商標として保護されるかどうかは、各国の法制度により異なっている上、商標保護の独立、すなわち、商標の登録出願及び登録の条件は各同盟国において国内法令で定められ、かつ、その効力は当該国の領土内に限られるという属地主義の原則が採られているから(パリ条約6条(3)参照)、本願商標が他国において商標登録されているからといって、直ちに我が国において登録を受けられるものではない。 (3) ヘルベチカが原告により創作され、原告とその使用者とがライセンス契約を締結してライセンス料が支払われているとしても、本願商標の使用及び著作権の利用に基づくものではない。ヘルベチカがハース社の権利に属することが記載されている例があるとしても、不測の争いを回避するなどの理由によるものと考えられる。世界的企業がヘルベチカについてライセンス契約を締結しライセンス料を支払っているとしても、本願商標が登録されるべきかどうかとは別の問題であり、また、本願商標が登録されていない以上、支払われているライセンス料は活字の登録商標の使用料ではない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由(本願商標が品質表示及び品質誤認表示であるとする判断の誤り)について (1) 証拠(甲第2、第3、第5、第6、第12、第14、第24号証、乙第1〜第15号証)によれば、書体、レタリング等に関する国内文献やインターネットのウェッブ・ページにおいて、本願商標の「HELVETICA」のほか、頭文字以外は小文字の「Helvetica」及び本願商標を片仮名で表記した「ヘルベチカ」ないし「ヘルヴェチカ」の語は、サンセリフ、ローマン等と同様、欧文書体の一書体名であるヘルベチカ書体を意味するものとして使用されていることが認められ、他方、本願商標がその指定商品中のヘルベチカ書体を用いた活字、写真植字機等(以下「活字等」という。)について特定の商品出所を表示する識別力を有すると認めるに足りる的確な証拠はないから、我が国において、一般に、上記「HELVETICA」、「ヘルベチカ」等の語が一書体名を表す語として活字等の取引者又は需要者において認識され用いられていることが推認される。もっとも、「アドビ社フォント販売用ホーム・ページ」(甲第14号証)には、「Helveticaは、ライノタイプ・ヘル・アーゲー又は(及び)その子会社の登録商標です。」との記載があるが、同号証は、フォント販売用ホーム・ページであり、また、「Helvetica丸字体の基本的なデザインは、Helveticaの標準字体と同じです。」との記載もあるから、「Helvetica」は書体を意味するものとして使用されていることが明らかである。また、「ALTSYS FONTOGRAPHER ユーザーズガイド」(甲第15号証)には、「HelveticaおよびTimesはLinotype-Hell AGまたはその子会社あるいはその両方の商標です。」(422頁)との記載があるが、同号証が活字体作成ソフトウェアである「Fontographer」のユーザーズガイドであり、上記記載が活字体の商標権及び使用許諾に関する記載であることは、原告も認めるところであって、これが活字等の商標権に係るものであることをうかがわせる記載はない。 そうすると、我が国において、本願商標を指定商品中「ヘルベチカ書体の活字及び写真植字機の文字盤」に使用しても、単にその商品の品質を表しているにすぎず、また、これを上記商品以外の指定商品に使用するときは、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるとした審決の判断は正当というべきである。 なお、被告は、本願商標については、昭和57年1月18日、米国法人から指定商品を旧別表による第9類「印刷機械器具、その他本類に属する商品」とする商標登録出願がされたが、特許庁は、公告決定後、第三者からの登録異議申立てに基づき、商標法4条1項16号に該当するとして拒絶査定をし、これに対する不服の審判(昭和62年審判第5538号)においても、平成5年2月5日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、これが確定した経緯がある旨主張するところ、原告が上記経緯について争うことを明らかにしないことは、記録上明らかである。 (2) 原告は、ハース社が、「ヘルベチカ」という商標の下に機械植字用の活字としてヘルベチカ書体を公表し、ヘルベチカは、歴史上の民族又はスイスの地域を指称するもので、本来、活字体とは関連性を有しない標章である上、ハース社が他社の商品との混同を避けるためにヘルベチカという商標を採用したことなど、その由来について主張する。しかしながら、ヘルベチカ書体の創作、命名過程が原告主張のとおりであるとしても、本願商標が登録されるべきであるかどうかは、専ら、 審決時において、我が国において本願商標が活字等の取引者又は需要者においてどのような意味を有するものとして認識され用いられていたかによって判断されるべきである。一般に、商標としての商品識別力を有していた標章が時代の推移とともに商品識別力を喪失することはまれではなく、また、特定の国において商品識別力を有する標章が、他国においては商品の一般名称又は品質表示として用いられているということもまれではない。本願商標の由来が原告主張のようなものであったとすれば、本願商標が長年にわたり広く使用された結果、今日の我が国においては、 サンセリフ、ローマン等と同様、欧文書体の一種であるヘルベチカ書体を表すものとして、取引者又は需要者に広く認識され用いられるに至ったものと推認される。 原告も、本願商標が特定の欧文書体を指称する一般名称であるかのように錯覚されているのは、それだけヘルベチカが著名になったためであると主張しており、本願商標が特定の書体を意味するものと解されていること自体は、争うところではない。 (3) また、原告は、桑山弥三郎著「レタリングデザイン」(甲第2号証)中に、サンセリフ、ローマン等の一般用語化している活字体が掲げられ、ヘルベチカが掲げられていないのは、これが一般用語ではなく商標として認識されているからであると主張する。しかしながら、上記書証においても、「ヘルベチカ・ボールド」の書体が記載され、その説明として「この書体は以前にはノイエ・ハース・グロテスク・ハルプフエットとよばれた。・・・現在ヨーロッパで最も使われているサンセリフの一つである。1962年頃ヘルベチカと改名する。」(151頁)との記載があり、「ヘルベチカ」の語は書体名とされていることが明らかである。さらに、上記書証では、ヘルベチカ書体について、マックス・ミーディンガーが創作者であり、ハース社が権利者であると解され得る記載があるが、上記書籍の著者がヘルベチカ書体について創作者を表示するとともに、ヘルベチカ書体に係る何らかの権利がハース社に帰属しているとの認識の下に上記の表示をしたとしても、本願商標がヘルベチカ書体を意味することと何ら矛盾するものではない。そして、本願商標の指定商品中の活字等との関係においては、書体は商品の品質を表すものであるから、これと同旨の審決の判断に誤りがないことは上記(1)のとおりである。 (4) 書体の創作者の権利をどのように保護すべきかについては、国際的に統一的な保護の方法が確立しておらず、その保護の態様及び程度が各国ごとに異なることは、原告も認めるところである。原告主張のように、書体自体を保護することは、立法論として考慮する余地があり、比較法的にも、そのような法制度を採用する国がある。その際、書体を著作物として著作権法により保護する制度のほか、商標法により書体を保護する制度も考えられないではない。しかしながら、本来、商標法は、商品及び役務の取引に用いられる識別標識である商標を保護することにより、これを使用する者の業務上の信用を維持することを目的とするものであって、 著作権法、意匠法等のように創作者に独占的権利を付与することで創作を奨励する制度とは目的を異にする上、商標法が保護するものは商標であって書体そのものではないから、根拠となる明文の規定のないまま商標法の解釈によって書体を保護することは、法解釈として正当なものということはできない。原告は、伝統的に書体が活字の一部としてのみ存在したことを根拠として、指定商品を活字として商標を保護することにより間接的に書体の保護を図るべきであるとも主張するが、指定商品である活字との関係において、書体はその品質にほかならないから、書体を表す標章は活字等について商品出所の識別力があるということはできない。なお、原告は、本願商標が品質表示であるとすると、第三者は、本願商標を任意の活字に付して自由に販売することができるとも主張するが、このような第三者の行為は、商品の品質、内容について誤認させるような表示をする行為であって、不正競争防止法2条1項12号に規定する不正競争に当たるから、現行法の下においても許容されることはない。 (5) さらに、原告は、本願商標が多くの国において、指定商品を活字、書体等として登録されている旨主張する。しかしながら、本願商標の登録出願は、活字等を指定商品としてされているから、書体を指定商品とする登録を認める国においてその登録がされても、指定商品を異にする点で前提を異にする。また、本願商標が外国において活字等を指定商品として登録されているとしても、上記のとおり、同一の標章について、特定の国において商品出所の識別力を有しながら、他国において商品の一般名称又は品質表示であるということもまれではないから、外国において活字を指定商品として本願商標の登録がされているからといって、直ちに我が国における登録が認められるべきであるということはできない。 原告は、商標登録の実体的要件に関する国際的調和の必要性も主張するが、同一の標章が国により商品出所の識別力を有するかどうかが異なり、これに応じて商標登録が区々になるという事態は、国際的にも制度上予定されている事柄である。すなわち、工業所有権の保護に関するパリ条約は、商標の登録出願及び登録の条件は、各同盟国において国内法令で定めることとし(6条(1))、いずれかの同盟国において正規に登録された商標は、他の同盟国(本国を含む。)において登録された商標から独立したものとする(6条(3))との各国商標の独立の原則を規定するとともに、外国登録商標については、本国において正規に登録された商標が原則として他の同盟国においてもそのままその登録を認められかつ保護される旨(6条の5A(1))規定する一方、その例外として、当該商標が商品の品質を示すため取引上使用されることがある表示のみをもって構成されたものである場合には、本国において正規に登録された商標であっても、その登録を拒絶され又は無効とされることがある旨(6条の5B2)規定している。また、平成12年3月14日我が国において発効したマドリッド議定書も、国際登録による標章の保護について国際事務局から領域指定の通報を受けた締約国の官庁は、当該標章登録についてパリ条約上援用可能な理由に基づく場合には、当該締約国においては当該標章に対する保護を与えることができない旨を拒絶の通報において宣言する権利を有する旨規定している(5条(1))。そうすると、本願商標は、商品の品質を示すため取引上使用されることがある表示のみをもって構成されたものとして、パリ条約及びマドリッド議定書においても、その登録を拒絶され又は無効とされることがあるものであって、本願商標の登録が拒絶されたからといって、原告主張のように、商標登録の実体的要件に関する国際的調和に反するものでも、我が国の国際的孤立を招くものでもない。 (6) なお、原告は、本願商標が世界的企業に使用許諾されていることを主張するが、これら企業がヘルベチカ書体を使用することについて使用許諾契約を締結することは、各企業が種々の要素を考慮して総合的な経営判断により決定したものであり、我が国商標法の下で本願商標が登録されるべきかどうかの判断に影響を及ぼすものではない。加えて、本願商標が登録されるべきかどうかは、これが指定商品である活字等について商品出所の識別力を有するかどうかによって判断されるべきものであって、書体であるヘルベチカ書体の使用許諾がされていることは、活字等を指定商品とする本願商標の登録の許否とは次元を異にする。したがって、上記許諾契約が締結されている事実は、審決の判断を正当とする当裁判所の結論に消長を来すものではない。 2 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担並びに上告及び上告受理申立てのための付加期間の付与につき行政事件訴訟法7条、民訴法61条、96条2項を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 石原直樹 |
裁判官 | 長沢幸男 |