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関連審決 審判1998-35400
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19行ケ10353各審決取消請求事件 平成19行ケ10364各審決取消請求事件 判例 商標
関連ワード 法上の商標の使用 /  識別力 /  使用事実 /  指定商品 /  普通名称(3条1項1号) /  周知性 /  4条1項11号 /  ただ乗り(フリーライド) /  希釈化(ダイリュージョン) /  不使用 /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  国内 /  警告 /  使用許諾 /  無効審判 /  更新登録 /  社団法人 /  不使用取消審判 /  類似商標 /  非類似 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 186号 審決取消請求事件
原告 有限会社アイ・ビー・イー
訴訟代理人弁理士 宇佐見忠男
訴訟復代理人弁理士 木村達矢
被告 京洋興業株式会社
訴訟代理人弁理士 吉田芳春
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/06/28
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が平成10年審判第35400号事件について平成12年4月6日にした審決を取り消す。
前提となる事実(争いのない事実)
1 特許庁における手続の経緯 被告は、別紙審決書の写し(以下「審決書」という。)の別記「(1)本件商標」のとおりの構成(「VRπWATER」の欧文字を横書きしたもの。なお、
「π」の文字は他の文字と同一の大きさである。)よりなり、指定商品を第32類「鉱泉水」とする登録第3123499号商標(平成5年6月3日登録出願、平成8年2月29日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。
原告は、平成10年8月26日、本件商標の登録無効の審判を請求し、特許庁は、平成10年審判第35400号事件として、これを審理した結果、平成12年4月6日に、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年5月1日に原告に送達された。
2 審決の理由 審決書のとおり、
本件商標は、「VRπWATER」の文字を同じ書体、同じ大きさをもって書してなるものであり、視覚上一体に看取し得るものであると判断するのが相当であり、また、意味上において、前半の「VR」と後半の「πWATER」とに分離して考察しなければならない格別の事情は存しないから、全体として特定の意味合いを有しない造語を表したものといえるものであって、「ブイアールパイウォーター」の称呼のみを生ずるものと判断するのが相当である。これに対し、審決書の別記「(2)引用商標」のとおりの構成(「πウォーター」の文字を横書きしたもの)よりなり、指定商品を旧第29類「鉱泉水」とする登録第2013282号商標(昭和60年5月27日登録出願、昭和63年1月26日設定登録、平成9年11月25日更新登録。以下「引用商標」という。)は、その構成文字に相応し、
「パイウォーター」の称呼が生ずることが明らかであるから、本件商標から生ずる「ブイアールパイウォーター」の称呼と明瞭に聴別し得るものであり、また、本件商標と引用商標とは、その構成を異にするから、外観上明らかに相違する。さらに、引用商標を構成する「πウォーター」が「人間の体内の3分の2を占める生体水に限りなく近く、超微量の2価3価鉄塩を含む水」の意味合いを有するとしても、本件商標は、特定の意味合いを持たない一連の造語を表したものと認められるから、両商標は、観念において比較することができない。してみれば、本件商標と引用商標とは、称呼外観及び観念にいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標というのが相当であり、本件商標は、商標法4条1項11号に違反して登録されたものではないから、同法46条1項によりその登録を無効とすることはできない旨判断した。
原告主張の審決取消事由の要点
1 本件商標の文字構成の認定、判断の誤り (1) 審決は、本件商標を構成する文字について、同じ書体、同じ大きさをもって表して書してなるとし、視覚上一体に看取し得るものであると判断するのが相当であるとしている(審決書5頁17行ないし21行)が、以下のとおり、誤りである。
(2) 本件商標は、「VRπWATER」の文字を「同じ書体」で表したものではない。すなわち、「VR」及び「WATER」の文字はゴシック体により表されていると認められるが、「π」の文字はゴシック体ではない。本件商標の「π」の文字は線の端の処理からは明朝体でもなく、引用商標の「π」の文字のデザインと酷似するものであり、特別にデザインされたものと認められる。
したがって、本件商標を構成する文字について、同じ書体とした審決の認定は誤っている。
(3) また、本件商標を構成する文字のうち、「VR」及び「WATER」の文字は、ローマ字の大文字であるが、「π」の文字は、広辞苑第4版 (1994年、株式会社岩波書店発行、甲第3号証)によれば、ギリシア文字の小文字であるとともに、数学において円周率を表す文字であることが記載されている。そして我が国における英語の普及度及びローマ字の使用状況、また円周率を表す「π」は中学校で習い、さらにギリシア文字も高校で習うことからすると(甲第4号証)、
「VR」及び「WATER」と「π」の言語及び大文字と小文字の差異は、これを見る一般需要者にとって容易に区別することができるものである。
(4) 以上のように、本件商標の文字構成は、ゴシック体による同じ大きさのローマ字の中間部に、特殊の字体で表されたギリシア語のシンボル文字の小文字が配されたものと認定することができ、したがって、本件商標を「視覚上一体に看取し得るもの」とした審決の判断は失当である。
(5) 被告の主張に対する反論 被告は、「ギリシア文字は、小文字が、現在における一般社会通念ないし商取引においてローマ字の拡張語として広く一般に使用ないし通用されるに至っている」として、ギリシア文字の小文字「π」があたかもローマ字の一部であるかのように主張するが、被告が引用する広辞苑にも「英語では次の二六文字」とあるように、
ギリシア文字がローマ字の拡張語となっている事実はなく、またローマ字がギリシア文字から由来したからといって同一の文字種になるわけでも、代用されているわけでもない。したがって、一般人なら容易にギリシア文字とローマ字の区別がつくのである。なお、我が国において、ギリシア文字の小文字「π」が使用されるほか、大文字「Π」も現に数学の記号として用いられており、現在における一般社会通念において、使用ないし通用されていないことはない。そもそもギリシア文字は、いまや準義務教育化している高校の数学の教科書に大文字と小文字のそれぞれが記載されているのであり、ローマ字の大文字と異なるギリシア文字の大文字はかえって明確に認識されるのである。
また、被告は、本件商標は、「VRπWATER」の欧文字が肉太のゴシック体に表されている旨主張しているが、被告が引用する広辞苑によれば、ゴシック体とは、「一様に肉太なもの」とあり、単に肉太なのではない。したがって、本件商標は同じゴシック体で表されたものではない。
2 本件商標につき分離して考察すべき格別の事情の存在の看過 (1) 審決は、本件商標について、意味上、前半の「VR」と後半の「πWATER」とに分離して考察しなければならない格別の事情は存しない(審決書5頁22行、23行)としているが、以下のとおり、本件商標の登録査定時(平成7年(1995年)8月30日)において、本件商標及び引用商標の指定商品である「鉱泉水」の需要者の間で、「πウォーター」の語は、周知性を獲得し、さらに、
識別力を有する商標としても周知となっている。したがって、我が国の英語の普及度を考慮すれば、本件商標の後半の「πWATER」の文字は、この語を英字表記したことが明らかであるから、本件商標に接する一般需要者は、本件商標の後半の「πWATER」の部分に独立的に着目して取引することは、大いにあり得るというべきである。
したがって、本件商標について、意味上、前半の「VR」と後半の「πWATER」とに分離して考察すべき格別の事情が存在するというべきであるから、審決の上記判断は、失当である。
(2) 「πウォーター」の語について 「πウォーター」の語は、二価三価鉄塩を含む水を意味し、1985年前後から、当時、名古屋大学農学部に勤務していたA博士によって命名された用語である(A著「生命成立の原理」1985年5月1日、造型社発行。甲第20号証)。なお、「二価三価鉄塩」の語は、二価鉄と三価鉄の中間の性質を有する鉄の塩であり、πウォーター関連の特許を出願するにあたり(甲第21号証)、本件の原告代理人である宇佐見忠男によって創作された用語である。
以後、「πウォーター」は、その優れた生物活性作用によって、Aから特許を受ける権利の譲渡を受けた(甲第22号証の1、2)原告の懸命なる開発営業努力ともあいまって(甲第8号証29頁ないし30頁)、巷に広く知られるようになり、
後記のとおり、ついには用語辞典(「現代用語の基礎知識」、甲第10号証)にも登載されるようになった。
しかし、「πウォーター」や「二価三価鉄塩」の語は、上記のとおり創作された用語であり、したがって理化学辞典等の辞典(甲第23号証及び甲第24号証)に記載されている技術用語ではないし、また、後記のとおり、国語辞典には掲載されておらず、普通名称化している用語でもない。なお、現在は、原告の成果を見て、
これに追従して、「π」、「πウォーター」、「○○πウォーター」等の商標を付した模倣品が多々上市されており、その中には粗悪品質の商品もあり、このような商品も原告の製造販売に係る商品と出所混同されて、原告に多大の損失を与えているケースもある。
(3) 「πウォーター」の語の周知性の獲得について ア この「πウォーター」の語は、原告によって、引用商標として1985年(昭和60年)5月27日に鉱泉水を指定商品として出願され、1988年(昭和63年)1月26日に設定登録された登録商標となり(甲第5号証、第6号証)、その不使用取消審判が棄却されたことから明らかなように、遅くとも1990年(平成2年)には、鉱泉水について商標として使用しているものである(甲第7号証の1ないし3)。なお、付言すると原告は「πウォーター」について家庭用浄水器についても商標登録を有している(甲第12、第13号証)。
イ その後、「πウォーター」の語は、次のとおり、新聞、用語辞典等にも掲載されるなどしている。 (ア) 1991年10月31日付けの産経新聞には、「最近、π(パイ)ウォーターという言葉を聞くようになった」との記載とともに大きな紙面で「πウォーター」の解説がされている(甲第9号証)。
(イ) 1992年1月1日、自由国民社発行の「現代用語の基礎知識」のマスコミ等に使用される外来語・略語の項に、「πウォーター」の語が、「人間の体内の3分の2を占める生体水に限りなく近く、超微量の2価3価鉄塩を含んでいる水。」との解説とともに記載されている(甲第10号証)。
(ウ) 1993年3月15日、株式会社光琳発行の「食品工業」(Vol.36 No.7、甲第8号証)には、「πウォーター」について、原告が応用化技術を開発し、特許を有するとともに、本件商標の指定商品である「鉱泉水」が含まれる飲料水を始めとして、農業、畜産、水産、発酵工業、産業廃棄物処理、環境整備、エネルギー、食品加工、金属、建材など広く各分野で活用されつつあり、
特に浄水器、化粧品でかなりの広がりを見せており、さらに、「πウォーター」に関連する事業が、原告と契約してその許諾を受けた会社により展開されていることが記載されている。
(エ) そして、本件商標の出願日(平成5年(1993年)6月3日)と同時期に発行された「THE21」(1993年5月号、PHP研究所発行)には、被告の取締役統括本部長が、「πウォーター」の語について、「生命エネルギーを高める水」、「π化された水」、「π化とは、その二価三価鉄塩という物質を特殊な方法で水に作用させ、超微少領域に存在させること」と説明し、被告の浄水器の紹介を「πウォーター」の語に関連付けて行っている(甲第11号証)。 (オ) 同じく、同時期に発行された「毎日ライフ(1993年7月号、毎日新聞社発行)の「トピックス」の項には、「πウォーター」の語が「体に良い水」、「二価三価鉄塩によって誘導された、いわば活性化された水」として詳細に紹介されている(甲第14号証)。
ウ これらの雑誌は、家庭の主婦やビジネスマンを対象とするものであり、
また新聞及び新語の解説書にも記載されていることから、本件商標の登録査定時(平成7年(1995年)8月30日)において、本件商標及び引用商標の指定商品である「鉱泉水」の一般需要者の間で、「πウォーター」の語が、かなりの範囲で知られていたものということができる。特に、上記のとおり、水や浄水器に関連した記事において紹介されていることから、水に関心を持つ人にとっては「πウォーター」の語は広く知られていたものいうことができる。
本件においては、引用商標と本件商標との類比の判断において、少なくとも「πウォーター」の語が、本件商標「VRπWATER」に接する需要者にとって「パイウォーター」の称呼が生ずる程度に言葉あるいは文字として一般需要者に知られていれば足りるのであって、原告の登録商標として周知であるか否かについて問題とするまでもない。
他方、後記のとおり、我が国の代表的な国語辞典には「πウォーター」の語は記載されておらず、「πウォーター」が、鉱泉水として一般に認識されて普通に使用されている名称(普通名称)ではないことは明らかであり、「πウォーター」が言葉として顕著性があり、識別力を有することも明らかである。
エ 被告の主張に対する反論 被告は、原告が引用した「食品工業」の発行部数等が示されていないことから、
引用商標の周知性獲得の認定に際して参酌されるべき事実が示されていないと主張しているが、上記記事は業界のルポとして掲載され報道されたものであり、原告が自社製品の宣伝広告として掲載しているものではない。
報道とは、社会の物事や事件、人などについて一般に伝えることをいい、広告とは、商品などを世間に知らせるために宣伝することをいう。つまり、報道記事は、
これによって「πウォーター」を知らせ宣伝することが目的なのではなく、業界内で「πウォーター」が注目を集めているという事実を読者に伝えることが目的なのである。
したがって、上記雑誌の発行部数等を問題とする被告の主張は報道記事と広告宣伝の性格の違いを見誤ったもので、記事の内容の読者への浸透度と記事の内容から読みとられるべき浸透度を混同したものというべきである。
もっとも、このような事実が報道されることによって、さらにその記事の中で紹介された商品や言葉が一般に広まって周知となることは当然であり、そうとすれば、このような報道記事は、報道の内容に示された事実に加えて、記事内で使用された語の周知性をさらに高めるものということができる。
そこで、念のため発行部数について述べると、「食品工業」は24, 000部が発行されている(甲第16号証)。そして、上記記事の内容からは、1993年当時、「πウォーター」の応用実用化がかなりの広がりを見せ、少なくとも飲料水に関連する分野において、「πウォーター」との言葉が取引者・需要者に知られていたことが認められ、さらに本記事に接した読者の間で「πウォーター」の語が浸透していったことが認められる。
そして、以上の議論は、いずれも報道記事である上記の「THE21」(1993年5月号、PHP研究所発行)及び「毎日ライフ(1993年7月号、毎日新聞社発行)においても等しく妥当する。
そして、「毎日ライフ」は、85,000部が発行されており(甲第17号証)、一般家庭向けの健康雑誌であることから、当時、一般においても「πウォーター」が注目を集め、さらに本記事により周知になっていったことが認められる。
また、「現代用語の基礎知識」は、マスコミに登場する用語の解説書であって、
そこに掲載された用語を宣伝広告するものではなく、マスコミに頻繁に登場する新語を解説するものである。したがって、そこに掲載されていること自体がその語の周知性を示すものである。
さらに、産経新聞は日刊の全国紙であり、そこへの記載は周知性を示すに充分なものである。
以上のとおり、「πウォーター」語が周知性を獲得していたことは明らかであり、被告の上記の主張は失当である。
(4) 商標としての「πウォーター」の周知性について ア 「πウォーター」の語は、上記のとおり原告によって引用商標として登録された後、次のとおり、原告によって商標として現に使用されている。
(ア) 遅くとも1990年8月には、鉱泉水について商標として使用されていることが、引用商標に関する不使用取消審判により確定的に認められ (甲第7号証の1ないし3) 、さらに当時のカタログやラベル(甲第7号証の2に添付されているもの)及び同時期の別のカタログの写し(甲第25号証)によれば、日本においても登録商標であることを示す記号として慣習的に使用されるRマークが付されて使用されている。このように、「πウォーター」の語は、鉱泉水の商品について、当初から原告の登録商標として認識することができる態様で使用されていた。
(イ) 1994年から1995年(甲第18号証の1ないし3)、2000年9月(甲第26号証の1、2)、現在(甲第19号証)にかけても、「πウォーター」の語は、鉱泉水の商品について商標として使用されていることが認められる。
そして、「πウォーター」の語は、これらのカタログにおいても、原告と提携する業者ごとのブランド名として「πエナジー」、「パイカエース」の文字と併記されると共に、原告の登録商標である旨の記載が付されている(甲第18号証の1ないし3、甲第26号証の2)。
(ウ) このように、1990年頃より現在にわたり原告商品に接した取引者及び需要者が、「πウォーター」の語を原告の登録商標であると認識することができたことは明らかである。
(エ) また鉱泉水は、単なる飲料用以外にも様々な用途に応用することができ、実際に種々の商品に利用展開されている(甲第26号証の1、2)。そして、「πウォーター」が原料等に使用されている場合、その原料たる鉱泉水について説明するパンフレットを作成頒布しているが(甲第27号証)、このパンフレットにおいても「πウォーター」が原告の登録商標である旨の標記が付されている。
イ 以上によれば、「πウォーター」の語は、飲料用及び原料用の鉱泉水の一般需要者及び取引者の間で、原告の製造にかかる鉱泉水を表すもの、すなわち、
商標として広く認識されていたということができる。
ウ 「πウォーター」を含む標章の原告以外の者の使用について (ア) 原告は、上記のとおり、「πウォーター」の商標を付して鉱泉水の販売を開始したが、その優れた効能によって評判となり、1991年頃より模倣品が出回るようになった。
これらは、原告の知る限りにおいては、被告及び株式会社エイ・シー・エムの製造にかかるものであったが(甲第29号証の1ないし4、第30号証の1、2)、
被告の活水器は、様々な代理店を通じ(甲第31号証)、あるいはマルチ方式で販売されているために、原告としても逐一把握することは困難であった。
そこで、原告は「πウォーター」が登録商標である旨を積極的に告知すると共に(甲第25号証ないし第27号証)、顧客に対しては類似品に対する注意を呼びかけた(甲第18号証の3)。
(イ) しかしながら、これらの会社は、なお「πウォーター」にあやかった商標を出願すると共に(本件商標の「VRπWATER」及び甲第28号証の「VARUNAπウォーター」)、商品にはかかる登録商標を原告の商標と紛らわしい態様で付しつつ、説明書等において、「πウォーター」との用語を使用しているものである(甲第29、第30号証)。
被告らの商標の使用態様からは、不正競争の意図は明らかであり、原告は、かかる不正競争に対する措置として、被告の紛らわしい登録商標の使用を封ずるべく、
今回商標登録無効の審判及び本件取消訴訟を提起し、また商標権侵害訴訟の提起も考慮している。被告によるこのような商標の登録は、商標法第1条の目的にも反するものであるから、かかる事情は、商標法4条1項11号においても、引用商標の周知性認定の基礎事由としても考慮されるべきものと考える。
また、このような原告以外の第三者による「πウォーター」の語の使用は、原告の登録商標であることを認識した上で、その評判にフリーライドする意図で使用しているのであり、一般名称と認識して使用しているのではない。
エ 引用商標の周知性の獲得について、被告は、引用商標の使用によって周知性を獲得したことは一切示されていないと主張しているが、原告は、上記のとおり、鉱泉水について「πウォーター」の登録商標を本件商標の出願前より現在まで使用しつづけており、かかる原告の使用があるからこそ、上記(3)のとおり「πウォーター」の語が周知性を獲得したことは明らかである。
すなわち、そのような原告の使用の結果、原告の商品の効能が需要者・取引者の間で評判になり話題となることによって周知となり、そのような評判がマスコミまで伝わったからこそ、上記(3)のとおり記事として取り上げられている。
そして、マスコミに取り上げられてさらに周知化したとしても、原告の使用によって周知となったということに何ら不都合なことはない。
確かに、一般的にいえば、マスコミ等で商標が過度に流布された結果、当該商標の識別力希釈化してしまうことはあり得る。マスコミが記事を書くにあたり、固有名詞や商標を記載せざるを得ない場合があり、記事中における商標の記載はある程度やむを得ないことである。
しかし、その語句が鉱泉水について普通名称的に使用されず、また、商標権者により登録商標である旨の告知が積極的に行なわれているならば、その商標の識別力は一向に失われない。
これを本件についてみると、上記のとおり、原告は引用商標の使用開始当初より引用商標が原告の登録商標である旨の告知を行っており、また生体エネルギーシステム研究普及協会の機関誌「パイテック・フォーラム’98爽春号」(甲第32号証)によれば、1997年に、1100名もの取引者・需要者を集めて盛大にフォーラムが開催されていることが認められる。この生体エネルギーシステム研究普及協会は、原告代表者が理事長を務め、原告に係る「πウォーター」の普及を図る取引者・需要者等の親睦団体であり、これは多くの取引者・需要者が「πウォーター」を原告の登録商標であることを認識していたことを示すものである。
(5) 以上のとおり、「πウォーター」の語は、本件商標の登録査定時において周知性を獲得しており、原告に係るものとして識別力のある商標として認識されていたことは明らかである。
そして、我が国の英語の普及度を考慮すれば、「πウォーター」の英字表記である「πWATER」について、容易に読み、かつ理解することができ、時と場所を異にして取引をする一般需要者が、本件商標を見る際に、「πWATER」の部分に独立的に着目して取引することは、大いにあり得るということができる。
したがって、本件商標「VRπWATER」の前半の「VR」の文字は、「πWATER」に冠されたとみるのが順当であり、「VR」と「πWATER」とに分離して考察しなければならない格別の事情が存しないとした審決の判断は失当であり、「VR」と「πWATER」とに分離して考察すべき格別の事情が存在するというべきである。
(6) 被告の主張(πウォーターの語の普通名称化)に対する反論 ア 被告は、本訴において、乙第2号証ないし第59号証を提出し、「πウォーター」の用語が、現状において一般名称化、普通名称化しているとの主張をしている。
しかし、そもそも本件は、商標登録無効審判の審決取消訴訟であり、無効理由の存否についての審決の判断を争うものである。商標法46条1項の無効事由は後発的なものではなく、したがって、同法4条1項11号違反の有無に関しては、本件商標の登録査定時である平成7年(1995年)8月30日を基準に判断されなければならない。
したがって、本訴提起後の2001年3月7日付けのホームページの印刷文書である乙第2号証ないし第59号証に基づいて、「πウォーター」の用語が現状において一般名称化・普通名称化しているとの主張は、主張自体が失当である。
また、乙第2号証ないし第59号証の内容についてもみても、平成7年の登録査定当時に、「πウォーター」が一般名称化していたことを示す事実は何ら掲載されておらず、また、そもそも改変容易なホームページは、それのみでは信頼に足りる証拠とはなり得ない。
また、普通名称か否かは、需要者・取引者の認識の問題であって、ホームページ上のその語句の使用頻度とは関係ないものであり、さらに、一部取引者の使用事実と業界一般の認識とは何らの関係もない。
イ また、被告は、「πウォーター」の語の命名者であるA博士がその著書(甲第20号証)において「πウォーター」を固有の商標として使用していないことを理由として、「πウォーター」の発明者であるA博士は本件登録商標の出願前から「πウォーター」を普通名称として用いていたと主張している。
しかし、「πウォーター」は、A博士が普通名称として用いていたのではなく、
A博士が創作した言葉であり、A博士はその後「πウォーター」に関する特許を受ける権利を原告に譲渡し、原告がその応用技術を開発・実用化し、その過程でA博士が創作した「πウォーター」を商標として使用するようになったものである。
したがって、当時、A博士が「πウォーター」を固有の商標として認識しているはずはなく、上記著作(甲第20号証)は、「πウォーター」の語がA博士により創作され、その著書の中で初めて使用されたことを示すものであるが、これをもって普通名称化していると主張をすることは失当である。
なお、普通名称とは、需要者・取引者においてその商品の一般的名称であると認められているものであって、A博士の主観的意図によって普通名称となるものではない。上記著作において、A博士が自ら創作した言葉を普通名称と認識して使用していないこと当然であるが、仮に、発明者が普通名称のつもりで使用したとしても、需要者・取引者にその認識がなければ普通名称にはなり得ない。
また、そもそも新たな造語の創作から約1年後にかかる語句が普通名称化することなどあり得ない。
ウ また、被告は、本件商標の登録査定時の前後にかけて、「πウォーター」の語が2点の著作(乙第61、第62号証)の題名として使用されていることにより普通名称化していると主張している。
しかし、被告が提出した乙第62号証の著者であるBは、原告の提出した甲第32号証の「生体エネルギーシステム研究普及協会」の〔役員〕の欄に記載されているように、原告の顧客である。すなわち、著者自身は、「πウォーター」を原告の登録商標として認識して使用していることが推認されるのである。
また、上記のとおり、用語の普通名称化は、需要者・取引者の一般的な認識の問題であり、そもそも一部の書物のタイトルや文中に、固有名詞や商標が使用されたことをもって、その語句が普通名称であるということはできない。
さらに、被告により提出されているのは、たかだか2点の単行本にすぎず、需要者・取引者の認識を別にして、客観的にみても、「πウォーター」の語が普通に使用されていることを証するとはいい難いものである。
したがって、被告が提出した上記著作は、「πウォーター」の普通名称化を何ら立証するものではない。
エ 「πウォーター」の語が、本件商標の登録査定時において、被告が主張するように普通名称化しておらず、かえって、商標として識別力を伴って周知性を獲得していたことは、次のことから明らかであるというべきである。
(ア) 上記のとおり、「πウォーター」の語が掲載された「現代用語の基礎知識1992年版」は、言葉の定義や用法の説明をしたいわゆる国語辞典ではなく、現代生活に必要な時事用語、学術用語、風俗語、流行語、外来語、略語等を解説した現代用語年鑑である。そして、このような現代用語年鑑が必要とされる理由は、情報が氾濫する現代社会において、日々新発明・新商品が開発あるいは輸入されており、それにともなって新語・造語・外来語も日々産出されているからである。これらの新語・造語等は、いまだ普通名称ではなく、国語辞典には掲載されておらず、現代人としては意味を調べようがない。しかしながら、それらの新語・造語は商品に表示されて、あるいは宣伝又は記事としてマスコミに登場してくるのである。したがって、現代生活を送る上で、人々は否応なくそれらの新語・造語と関わることになり、その意味を知る必要があるのである。
一方で、その語句が周知でなければ、それらの新語・造語と接触する機会は生じないから、あえてこのような用語事典で解説する必要はない。そもそも編集者の目に止まることもないのであるから、収録される事自体あり得ない。
これを本件についてみると、「πウォーター」は上記用語年鑑の「1992年外来語・略語年鑑-マスコミに出る外来語・略語・最新総解説」の項に収録されている。本項には新聞・TV等のマスコミに登場したカタカナの新語が収録され、新商品について命名されたカタカナ商標も主としてここに掲載される。
そして、上記のような用語年鑑の性格に照らしてみると、「πウォーター」が上記用語年鑑の出版時である1992年頃において、新語であり、かつ「鉱泉水」(二価三価鉄塩を含む水)について、現代生活において解説が必要になる程に周知であり、しかも普通名称や一般名称ではなかったということができる。
そして、原告は、上記のとおり、「鉱泉水」及び「鉱泉水」と販売ルートや需要者・取引者が一致する商品並びに「鉱泉水」の商品説明パンフレットにおいて、登録表示を付して引用商標を使用しつづけている。それゆえに、上記のとおり、マスコミで取り上げられ1991年から1993年頃にかけても周知性が維持されていたのである。
以上からすれば、本件商標の登録査定時において、「πウォーター」が指定商品の「鉱泉水」の需要者・取引者において周知であり、かつ、普通名称でなかったことは明らかである。
(イ) 付言すると、上記のとおり、「πウォーター」の語は、1985年に初めて使用された造語であり(甲第20号証)、同年に引用商標として原告により出願され、1988年には商標登録され、遅くとも1990年には登録表示を付して使用されている。そして、1992年に「現代用語の基礎知識」に収録されている。この経過からは「πウォーター」はその創作命名から3年後に、引用商標として登録査定がなされて、その4年後には周知となったことがわかる。
このような新たな造語がさらにその3年後、すなわちその創作命名からわずか10年後の本件商標の登録査定時に、普通名称化していることは経験則上到底あり得ない。
しかも、「πウォーター」の構成中「π」は、鉱泉水との商品属性とは何ら関連付けがなく、その商品から自然に想起され普通名称化し難い語句である。この点を考えれば、かかる事態は更に想定し難いというべきである。
これらの点に加えて、日本における代表的な国語辞典である広辞苑第4版(1994年発行、甲第3号証)、日本語大辞典(1996年発行、甲第37号証)及び広辞苑第5版(1998年発行、甲第38号証)を見ても、本件商標の登録査定時の前後にかけて「πウォーター」又は「パイウォーター」は掲載されておらず、これらの語が普通名称でなかったことは明らかである。
また、上記のとおり、原告は、その営業において登録商標である旨の表示にも努めており、原告商標に接する需要者・取引者はそれが登録商標でありその商品が少なくとも一定の出所にかかる商品であることを認識することができたものである。
さらに、前記「食品工業」には、1992年(平成4年)ごろから、原告より他社に対して警告が出されたことが記載されている(甲第8号証、29頁右欄下から3行目)。したがって、業界内においては「πウォーター」が原告の商品及び商標であることは十分認識することができたことは疑いがなく、1994年(平成6年)には、「πウォーター」が原告の商標であることを詳細に説明する新聞広告が出稿されており(甲第18号証の3)、一般需要者においても「πウォーター」が原告の商品及び商標であることは十分認識することができたことも疑いがない。
一方、被告からは、単に現状における一部取引者及び学者の使用例が示されているにすぎず、第1に、本件商標の登録査定時における、第2に、取引者全体についての一般認識は何ら示されていない。
オ 以上のとおり、「πウォーター」の語は、本件商標の登録査定時において、需要者・取引者にとって「鉱泉水」について慣用されたり、普通名称化してはおらず、商標として識別力を有しており、いずれかの出所にかかるものと認識することができたものと認められる。
したがって、「πウォーター」の語が一般名称化・普通名称化しているとの被告の上記主張は失当である。
3 本件商標から生ずる特定の観念の存在について (1) 審決は、本件商標を全体として特定の意味合いを有しない一種の造語を表したものとし (審決書5頁25行、26行)、本件商標と引用商標とは、観念については比較することができないとしているが、失当である。
(2) 上記のとおり、「πウォーター」及びその英字表記である「πWATER」からは、「二価三価鉄塩を含む水」あるいは、少なくとも「ある種の体に良い水」、「ある種の水」との観念が生じる。
そして、本件商標の語頭の「VR」は、ローマ字2文字からなり、後半の「πWATER」の語に冠されて、商品の型番、規格、品番等を表すための記号、符号として類型的に使用されているものであると認識される。
そうとすると、本件商標に接する一般需要者は、「πWATER」の部分に着目し、そこに特定の意味合いを想起する。
(3) したがって、本件商標からは「二価三価鉄塩を含む水」あるいは、少なくとも「ある種の体に良い水」、「ある種の水」との観念が生ずる。
そして「πウォーター」のみからなる引用商標からは、「二価三価鉄塩を含む水」あるいは、少なくとも「ある種の体に良い水」、「ある種の水」との観念が生ずることは明らかであるから、本件商標と引用商標とは同一の観念を有する商標である。
4 本件商標から生ずる称呼について (1) 審決は、本件商標から「ブイアールパイウォーター」のみの称呼を生ずる(審決書5頁26行、27行)と判断するが失当である。
(2) 本件商標の称呼である「ブイアールパイウォーター」は、審査基準の解説(1996年 社団法人発明協会刊)にあるとおり、長音を除いたとしても9音と一連に称呼するには冗長であり、簡易迅速を旨とする取引においてはいずれかで区切られて発音されると考えられる(甲第15号証)。
一方、上記のように、本件商標の後半の「πWATER」の文字からは、「二価三価鉄塩を含む水」、あるいは、少なくとも「ある種の体に良い水」、「ある種の水」との観念が生じる。
そして、特定の観念を想起させる商標は、その観念に即した称呼をも生じさせるので、本件商標からは「パイウォーター」との称呼が生ずる。
(3) したがって、本件商標より「ブイアールパイウォーター」のみの称呼が生ずるとした審決の判断は誤りであり、「パイウォーター」の称呼が生ずる。
そして、引用商標からは、「パイウォーター」との称呼が生ずることは明らかであるから、本件商標と引用商標は同一の称呼を有する商標である。
5 結論 以上のとおり、本件商標と引用商標は、同一の観念および同一の称呼が生ずる商標であり、外観の差異を考慮するとしても、全体として相紛らわしく類似する商標であるということができ、これに反する審決の判断は誤っており、違法であるから取り消されるべきである。
被告の反論の要点
1 本件商標の一体的外観について (1) 本件商標は、欧文字「π」が欧文字「VR」及び欧文字「WATER」と同一の大きさに拡大されつつ表されているものであり、同一の大きさの欧文字のまとまりのある外観を呈し、一体的に結合した外観を呈するものである。
また、本件商標は、狭い文字間隔で密接に結合された欧文字「VRπ」と、同じく密接に結合された欧文字「WATER」とが半角文字にも満たない間隔を介して一連に同一の大きさで横書きされた外観を呈するものである。
さらに、本件商標は、「VRπWATER」の欧文字が肉太に表されているので、欧文字「VRπWATER」が、肉太表示に伴う外観上の纏まりを維持し、一体的に結合した外観を呈するものである。
以上のとおり、本件商標は、「VRπWATER」の欧文字が同一の大きさであって、かつ「VRπWATER」の欧文字がそれぞれ肉太に表され、さらに狭い文字間隔で密接して表されているので、全体が一連に纏まって一体的に結合した外観を呈するものである。また、構成中、欧文字「VRπ」の部分は、簡明な3つの欧文字より密接に構成されていることから、外観上の一体性並びに結合性は一層強固である。
(2) 原告は、審決の本件商標の文字構成の認定に誤りがあった旨主張するが、失当である。 ア ゴシック体については、広辞苑には、「活字の書体の一。一様に肉太なもの。例「ゴシック活字」。」(乙第1号証の1)と記載されているので、文字を構成する線ないし輪郭が端からその長さ方向にわたって同一の肉太に印字される文字を意味するものである。原告が甲第2号証として示すように、MSゴシック体あるいはDF特太ゴシック体によって太さに相違があるものの、文字を構成する線ないし輪郭が端から長さ方向にわたって同一太さに形成されており、これがゴシック体である。甲第2号証の「π」については、文字が小さく表されているものの、
「VR」及び「WATER」とはそれぞれの線ないし輪郭が端からその長さ方向にわたって同一の肉太に表されているので、「π」の文字はゴシック体で表されているものであり、甲第2号証の中段と下段には、「π」の文字がゴシック体であることが明記されている。したがって、甲第2号証に基づき、本件商標は「VRπWATER」の文字を同じ書体(ゴシック体)で表したものではなく、同じ書体とした審決の判断は失当である旨の原告主張こそ根拠がなく、明らかに失当である。
本件商標は、「VRπWATER」の欧文字が肉太のゴシック体に表されているので、欧文字「VRπWATER」が、肉太表示に伴う外観上のまとまりを維持し、一体的に結合した外観を呈するものである。
イ 原告は、本件商標を構成する「π」の文字は、線の端の処理から明朝体でもなく、引用商標の「π」のデザインと酷似する旨主張している。
しかしながら、本件商標を構成する「π」の文字は、原告が提出する広辞苑(甲第3号証)や高校数学T教科書(甲第4号証)に記載されている「π」の文字をそのまま拡大して用いたものであって、格別なデザイン処理を施していないものである。万人が使用できる欧文字「π」のそのままで拡大したことを、本件商標のデザイン酷似とするとの原告の上記主張は根拠を有しない。
なお、あえて説明するならば、「π」の文字を「VR」と同一の大きさとなるように拡大して表した点には確かにデザイン性が認められる。この意味において、本件商標は、欧文字「π」が欧文字「VR」及び欧文字「WATER」と同一の大きさに拡大デザインされつつ表されているものであり、同一の大きさの欧文字のまとまりのある外観を呈し、一体的に結合した外観を呈することとなるのである。
ウ また、原告は、「VR」及び「WATER」はローマ字の大文字であるが、「π」はギリシャ文字の小文字であるから、「VR」及び「WATER」と「π」の言語および大文字と小文字の差異は需要者にとって容易に区別することができるものである旨主張している。
ところで、ローマ字(欧文字)については、広辞苑(乙第1号証の2)には、
「フェニキア文字から発達したギリシャ文字に由来し、現今は主として欧米諸国で用い、ラテン文字と称する。英語では次の二六文字。」と記載されている。この広辞苑のギリシャ文字を参照すると(乙第1号証の3)、大文字の大部分がローマ字の大文字と共通しており、大文字では識別することができないことが理解される。
ギリシャ文字の大文字である「A、B、E、Z、H、I、K、M、N、O、P、
T、X」は、ローマ字の大文字としてそのまま用いられているので、ギリシャ文字の大文字は歴史的には存在していたものの、現在における一般社会通念ないし商取引においては使用ないし通用されていないのである。ギリシャ文字は、小文字が、
現在における一般社会通念ないし商取引においてローマ字の拡張語として広く一般に使用ないし通用されるに至っているのである。
以上のとおり、原告の上記主張は、ローマ字がギリシャ文字に由来する言語である事実を知らないことに基づくものであり、ギリシャ語の「π」が小文字であるので、「VR」及び「WATER」の大文字と容易に区別することができるとの主張は、一般社会通念ないし商取引に違背しており、失当である。
エ さらに、原告は、本件商標はゴシック体による同じ大きさのローマ字の中間部に特殊の字体で表されたギリシャ語のシンボル文字の小文字が配されたものと認定することができ、したがって本件商標を視覚上一体に看取し得るものとした審決は失当である旨主張している。
しかしながら、上記のとおり、本件商標は、全部の文字が肉太のゴシック体で表されており、「π」の文字が通常の書体で表されており、「π」の文字を表する場合には、甲第2号証に示すように小さく表されるのが通例と認められるが、本件商標では、「π」の文字を「VR」及び「WATER」と同一大きさに拡大してデザインして表しているのであり、本件商標を視覚上一体に看取し得ることは審決が示すとおり明白である。
したがって、原告の上記主張こそ根拠がなく、いずれも失当である。
2 本件商標につき分離して考察すべき格別の事情の存否について (1) 原告は、審決が本件商標について、意味上、前半「VR」と後半「πWATER」とに分離して考察しなければならない格別の事情は存しないとしたことについて失当であると主張するが、原告は、引用商標「πウォーター」について、
何ら周知性を示すに至っていない。
ア 原告は、引用商標について、甲第7号証の2(審判事件答弁書)を提出し、1990年(平成2年)には鉱泉水について商標として使用していたと主張している。
甲第7号証の2に添付の証拠(符号乙第1ないし第5号証)を見ると、1990年(平成2年)8月に、商品カタログとラベルを300部印刷し、翌月にボトルにラベルを添付し、引用商標の使用権者であるアイ・ビー・イー販売株式会社の店頭に販売のために展示したとするが、その余の使用事実は何ら示されていない。写真は、300部印刷の内の3本を示しており、しかも、自社販売会社に展示しているのであり、販売実績などは示されていない。仮に、300本全部を自社販売会社内に展示して販売したとしても、社会通念上、商品流通過程に供せられた商標の使用状況とは到底認められない。このように、引用商標は、商標法上の商標の使用があったとは認められないものであって、これにより周知性を獲得したとする根拠とはなり得ないものである。
イ 原告は、「食品工業」(甲第8号証)を提出し、引用商標の「πウォーター」の語が一般需要者に知られるようになっていた旨主張している。
しかしながら、「食品工業」には、引用商標が指定商品「鉱泉水」との関係で実際に使用され、市場で販売されていた事実は、いずれの箇所の記載内容に照らしても認めることができない。また、「食品工業」については、実際の発行部数、発行の地域的範囲、購読者数等の引用商標の周知性獲得の認定に際して参酌されるべき事実は示されていない。
したがって、「食品工業」に基づいて引用商標の周知性を論じようとする原告の主張は理由を欠き失当であるから、本件商標を「VR」と「πWATER」とに分離する格別な事情は何ら認められない。
ウ また、原告は、「産経新聞」(甲第9号証)、「現代用語の基礎知識」(甲第10号証)、「THE21」(甲第11号証)及び「毎日ライフ」(甲第14号証)をそれぞれ提出し、引用商標の周知性が獲得されていた旨主張している。
しかしながら、上記産経新聞は、1回限りの広告記事にすぎず、周知性の補強には至らないものである。その余の書籍(甲第10、第11号証、第14号証)には、「πウオーター」が二価三価鉄塩を含む水である旨が記載されているが、引用商標が指定商品「鉱泉水」との関係で実際に使用され市場で販売されていた事実は、いずれの箇所の記載内容に照らしても認めることができない。
したがって、これらの記事、書籍に基づいて引用商標の周知性を論じようとする原告の主張は、理由を欠き失当である。
エ 以上のとおり、原告が本訴で提出している甲第7ないし第14号証を参照しても、引用商標が指定商品「鉱泉水」との関係で、実際に使用され市場で販売されていた事実は、いずれの箇所の記載内容に照らしても認めることができないし、同号証には、いずれも引用商標の周知性獲得の認定に際して参酌されるべき事実は一切示されていない。
したがって、これらの書証には、本件商標を「VR」と「πWATER」とに分離する格別な事情を認めるべき事実は全く記載されておらず、右事情を否定した審決の判断は適切であると認められる。
オ また、原告は、本訴において、甲第18号証及び甲第19号証を提出し、沖縄地方において、引用商標が商品「鉱泉水」に使用されていることを立証しようとしている。しかしながら、これらは、単に引用商標の使用事実を立証しようとしているものにすぎず、引用商標が商品「鉱泉水」において周知性を獲得している程度に使用されていることは何ら示されていない。
カ 以上のとおり、原告が本訴で提出した書籍等の書証(甲第7ないし第14号証、第16、第17号証)を参照しても、引用商標を構成する「πウォーター」の語が二価三価鉄塩を含む水の代名詞として使用されていることを示すものにすぎない。また、原告が引用商標の使用を立証するために提出した書証(甲第7号証の2の「審判事件答弁書」添付の符号乙第1ないし第4号証、及び甲第18、第19号証)を参酌しても、引用商標が商品「鉱泉水」に使用されていることが示されているに止まるものであって、その使用により周知性を獲得していることは一切示されていない。
したがって、いずれの書証によっても、審決が説示する「格別な事情」が示されていないのであるから、この点に関する原告の主張は失当であって、審決の上記判断は適切であると認められる。
(2) 「πウォーター」の語の一般名称化・普通名称化について ア インターネットのサーチエンジン「infoseek」を用いて「パイウォーター」の用語を検索したところ、551件の該当があった(乙第2号証)。
この551件の検索結果は、以下に示すとおりであり、「水」に関する学会、学者を初め、鉱泉水の製造、販売者及び消費者まで全て、「πウォーター」、「パイウォーター」あるいは「πwater」の語について、「機能水」の1種であると認識して、これを一般名称ないし普通名称として使用していることが明らかに認められる。
(ア) 国内・国際学会等での普通名称化について 2000年9月1日から3日に、酪農学園大学で開催したエントローピー学会第18回北海道シンポジウムでは、「機能水の効果〜その生物事象」のテーマで「パイウォーターシステムの実態調査」と「人工生体機能水(パイウォーター)の小動物臨床における治療効果」のテーマで発表がなされている(乙第3号証)。ここでは、人工生体機能水が、括弧書きでパイウォーターであると普通名称でタイトルに使用されている。また、「パイウォーター」の語が、生体機能水あるいは生体エネルギーシステムを意味する普通名称として国際的にも把握され、国際学会で使用されていることは、原告提出の甲第32号証にも示すとおりである。
したがって、現状において、学術的には、「パイウォーター」の語は、機能水に関する普通名称であると認識され、現実に使用されていることが明らかである。
(イ) 学者・政府研究者等での普通名称化について 農林水産省農業工学研究所主任研究員のCは、「機能水は一つの特徴ある水を表す言葉ではない。一般的に通常に水に何らかの処理を施した水を機能化された水、
機能水と称している」と述べている。また、D著「微弱エネルギーによる非熱プロセスの意義と展望」27頁及び「生物・環境産業のために非熱プロセス事典」(1997年、サイエンスフォーラム社発行)には、機能水につき、「電磁場等の下で処理した水」、「ある物質を添加した水」及び「ある物質を除去した水」とに分けて、「ある物質を添加した水」の種類に、「パイウォーター」が位置付けられると記載している(乙第4号証の1)。また、財団法人機能水研究進行財団は、機能水シンポジウムを開催しており、生理活性を与える機能を示す水が機能水であり、機能水の種類として、「水、磁化水、パイウォーターなど」が存在することを示している(乙第4号証の2)。また、東芝エンジニアリング株式会社のEは、「パイウォーター(πwater)」の発見の機能の予測をしており、「パイウォーター(πwater)」が機能水であることが示されている(乙第4号証の3)。
さらに、著作物の題名としても「パイウォーター」の標章が一般的に使用されている(乙第5号証)。なお、水の種類として「パイウォーター」が表示されている(乙第6号証)。
このように、現在では、一般学者や政府研究者のレベルにおいても、「パイウォーター」の語が機能水の一種の名称として一般的に使用されていることが明らかである。
(ウ) 医療機関での普通名称化について 歯医者や病院等の医療機関では、「πwater(パイウォーター)」の標章が機能水を表すものと認識しており、現実に機能水の一種として使用している(乙第7ないし第9号証)。
このように、現在では、「パイウォーター」が機能水としての効能を有しており、「パイウォーター」あるいは「πwater」の語が、医療機関において機能水の一種に属するものとして認識され、一般的に使用されていることが明らかである。 (エ) 書籍、ホームページ上における「πウォーター」の説明について F博士は、「地球と人類を救う水の超革命 パイウォーターの奇跡」と題する書籍を出版し、その中で、主として二価三価鉄塩を有する機能水を「パイウォーター」と称している(乙第10号証の1)。
また、株式会社ビーエステクノロジーは、「πウォーター」の機能水として機能と用途とを克明に説明している(乙第10号証の2)。さらに、クリスタル商会は「パイウォーター」の用途を詳細に説明している(乙第10号証の3)。
このように、現在では、「πウォーター」、「パイウォーター」が機能水としての効能を有しており、これが一般的に有用であることが示されており、「πウォーター」、「パイウォーター」の語は、このような機能水を一般的に示す普通名称として使用されている。
(オ) 事業者の認識における普通名称化について 各種事業分野において、機能水として「πウォーター」が下記のとおり使用されており、「パイウォーター」又は「πwater」の語が一般的に使用されている。
@ らーめん店 ラーメンスープの源水(乙第11ないし第15号証) A めん類店 めん類スープの源水(乙第16、第17号証) B 食堂等の調理 食堂や民宿等での水使用(乙第18ないし第21号証) C 他食品製造 パン・みそ漬け・チリメン・メロン等への使用(乙第22ないし第27号証) D プール水使用 プール・温泉の水として使用(乙第28、第29号証) E 家畜用使用 畜牛や動物用の使用(乙第30ないし第32号証の2) F 髪類の使用 髪やシャンプーの水として使用(乙第33ないし第36号証) G 飲料使用 健康のために飲料水として使用(乙第37ないし第39号証) H 化粧品原料 化粧品の原料として使用(乙第40号証) このように、現状において、一般事業者は、「パイウォーター」又は「πwater」の語が機能水の一種であると認識し、使用していることが明らかである。
(カ) 機能水における普通名称化について 「パイウォーター」又は「πwater」が機能水として販売されており、これらの語は、機能水の一種として認識されている(乙第41ないし第43号証)。
このように、現状において、「パイウォーター」又は「πwater」の語は機能水の一種であると認識され、使用されていることが明らかである。
(キ) 浄水器により処理された水における普通名称化について 浄水器によって機能を付加された水が、「パイウォーター」又は「πwater」であると認識されており、一般化している(乙第44ないし第50号証)。
このように、現状において、一般消費者は、「パイウォーター」又は「πwater」の語が浄水器により処理された機能水の一種であると認識しており、一般的に使用していることが明らかである。
(ク) 株式会社エイ・シー・エム使用における普通名称化について 株式会社エイ・シー・エムは、機能水の一種として「パイウォーター」又は「πwater」の語を表示し、一般的な機能や用途を説明している(乙第51、第52号証)。
このように、現状において、同社は、「パイウォーター」又は「πwater」の語が機能水の一種であると認識して説明しており、一般的にも浸透していることが明らかである。
(ケ) カイキ工業株式会社使用における普通名称化について カイキ工業株式会社は、機能水の一種として「パイウォーター」又は「πwater」の語を表示し、一般的な用途を説明している(乙第53号証)。
このように、現状において、同社は、「パイウォーター」又は「πwater」の表示が機能水の一種であると認識して説明しており、一般的にも浸透していることが明らかである。
(コ) 株式会社テレフィン使用における普通名称化について 株式会社テレフィンは、浄水器により処理された機能水を「パイウォーター」又は「πwater」と表示し、一般的に使用している(乙第54号証)。
このように、現状において、同社は、「パイウォーター」又は「πwater」の語が浄水器により処理された機能水の一種であると認識して説明しており、一般的にも浸透していることが明らかである。 (サ) 被告使用における普通名称化について 被告は、浄水器に「VRπWATER」と表示して販売しているところ、購入者が被告の浄水器「VRπWATER」を「VRパイウォーター」あるいは「ブイアールパイウォーター」と称しており、この浄水器で処理された機能水を「パイウォーター」と認識しているものである(乙第55号証)。
このように、一般消費者が、現状において、「πウォーター」あるいは「パイウォーター」の語について、浄水器で機能処理された水であると認識していることが明らかである。
(シ) 他社使用における普通名称化について 上記以外の会社においても、阿蘇山の名水を機能処理した水商品に、「阿蘇冽摯水」と商品名を附し、この阿蘇冽摯水が「パイウォーター(機能水)」であることを説明している。
このように、「パイウォーター」又は「πwater」の語は、機能水として認識され、その機能と用途が明示されていることが明らかである(乙第56、第57号証)。
(ス) 原告使用における普通名称化について 原告は、「πWATER」の表題の下に「パイウォーター」又は「πウォーター」と表示して、その機能と用途とを説明しているばかりか、原告主張とは異なって、登録商標としての表示や登録商標である旨を説明した箇所は存在していない(乙第58、第59号証)。
このように、原告の認識においても「πWATER」の語が機能水の一種であることは疑いなく、原告自身も、現状において、「πWATER」、「πウォーター」あるいは「パイウォーター」の語が機能水を表示する普通名称化された標章であると認識していることが明らかである。
イ 「πウォーター」の命名の経緯及びその後の使用状況について 「πウォーター」を発明した発明者の「πウォーター」の語の命名の経緯やその後の著作物に見られる「πウォーター」の語の使用状況を見ると、「πウォーター」の語が、もともと普通名称として命名され、かつ、その後も普通名称として一般に使用されていることが明らかである。
(ア) 「πウォーター」の語の命名の経緯について 「生命成立の原理」(造型社発行、甲第20号証)は、「πウォーター」の発明者であるAが、1985年(昭和60年)5月1日に第1刷を発行したものであるが、同著作の第5章には「生命成立の場-πウォーターシステムについて」とタイトル表示され、文中には「二価三価鉄塩で誘導される水をπウォーターとして生物および生物圏の中でπウォーターがどのような働きをもっているかを考察してみたい。」と記載されている。
このように、「πウォーター」の標章は、原告主張のとおり発明者が命名したものであるところ、発明者自身は、「πウォーターシステム」としてタイトル表示し、かつ、文中で説明しているように、「πウォーター」の標章を固有の商標として認識しておらず、また、固有の商標として使用していないのである。
このように、「πウォーター」の発明者は、引用商標の出願前である1985年5月1日頃から「πウォーターステム」と称して「πウォーター」の標章を普通名称として用いていたのである。
(イ) その後の発明者による普通名称化について 発明者は、「πウォーター」の語について、その後も同様に普通名称として認識して使用している。
すなわち、「生命科学の原点と未来」(緑書房発行、乙第60号証)は、発明者が1986年(昭和61年)5月20日に第1刷を発行したものであるが、同書には、上記表題に続いて「-現代科学への呈言とパイウォーター理論-」と副題が記載されている。
上記の「πウォーター」の発明者は、「パイウォーター理論」として学者的見地ないし学術的見地から「パイウォーター」を副題として掲げているのであって、引用商標の登録査定時以前(詳しくは出願後約1年経過時)から「パイウォーター」の語を普通名称として使用していたことが明らかである。この副題表示の「パイウォーター理論」からは、例えば「二価三価鉄塩理論」のように使用せずに、「パイウォーター」あるいは「πウォーター」の標章が、二価三価鉄塩を含む水を表す普通名称として一般に使用したことは想像に難くない。このように、「πウォーター」の発明者は、「πウォーター」を商標登録した原告の意思とは異なり、普通名称として当初から認識し、かつ、使用していたことは明白である。
そして、上記書籍の目次にも、上記と同じ副題「-現代科学への呈言とパイウォーター理論-」との記載と、「存在の調和とパイウォーター理論」、「生体システムとパイウォーター」との見出しの記載があり、上記の各記載からは、「パイウォーター」の標章が普通名称化していることが明らかに示されている。
(ウ) その他の著作者による普通名称化について 「21世紀の水 奇蹟のπウォーター」(日新報道発行、乙第61号証)は、発明者以外の著作者であるG、Hが、1993年(平成5年)5月6日に第1刷を発行したものである。同書には、題名として、引用商標と構成を同じくする「πウォーター」の語が用いられており、「πウォーター」の語が本件商標の登録査定時の前から普通名称化されていることは明白である。また、「ガンに克つ 高エネルギー パイウォーター 驚異の自然治癒力」(廣済堂発行、乙第62号証)は、発明者以外の著作者であるBが、1995年(平成7年)9月15日に初版を発行したものである。同書には、題名として同じく「πウォーター」が用いられており、本件商標の登録査定の直後であるが、「πウォーター」の語が普通名称化されていることは明白である。
ウ まとめ 以上のとおり、「πWATER」、「πウォーター」あるいは「パイウォーター」との語(標章)は、機能水の一種を表示するものとして一般名称化、普通名称化されていることは明白である。
したがって、原告は、機能水の一種として普通名称化されている「πWATER」の語について、登録商標に基づくとして、乱訴を提起しているにすぎず、「πウォーター」の語は、周知性を獲得した原告に特有な商標ではないことは明白である。したがって、本件商標について、後半の「πWATER」部分を分離して考察すべき格別の事情として原告が主張するように、「πウォーター」の語が識別力を伴った商標として周知である事実は認められないから、原告の主張は、失当である。
3 本件商標の一体的称呼について 前記1の一体的外観に相応して、本件商標からは「ブイアールパイウオーター」の一体的称呼が生じるものである。
また、欧文字「VRπ」と欧文字「WATER」との間には、半角文字分の間隙が存在し、本件商標の指定商品が「鉱泉水(英訳:ミネラルウオーター)」であることから、欧文字「WATER」の部分については、その識別力が希薄になる場合も想定されるところである。したがって、本件商標からは、「ブイアールパイウオーター」の称呼に加え、「ブイアールパイ」の称呼も生じるものである。
そして、いずれの称呼においても、「ブイアールパイ」の部分は、7音より構成され冗長とは言えず、澱みなく語呂良く発音されるものであり、加えて、前記1のとおり、強固な結合状態が認められる外観部分に相応していることから、常に一体不可分に称呼されるものと認められる。
原告は、審決が本件商標から「ブイアールパイウオーター」のみの称呼を生すると判断したことについて失当であると主張するが、本件商標について、「πWATER」の部分を分離すべき「格別な事情」が存在するとの原告の主張に依拠するにすぎず、この主張が理由がなく失当であることは上記のとおりである。
4 本件商標の一体的観念について 本件商標は、被告が選択した造語に係わるものであるが、特定の意味合いを持たせていないものである。そして、本件商標は、強固な結合状態が認められる外観部分に相応して格別な観念を生じさせるものではない。
また、本件商標の構成中、欧文字「VRπ」の部分を抽出しても、簡明な3つの欧文字より密接に構成されているものの、格別な観念を生じさせるものではない。
また、本件商標について「VR」と「πWATER」とに分離すべき格別な事情の存在しないことは上記のとおりであるから、この格別な事情の存在を前提として特定の観念が生ずるとの原告の主張が失当であることは明らかである。
5 結論 以上のとおり、審決が認定するとおり、本件商標「VRπWATER」を分離して考察すべき格別な事情は存在しておらず、また、本件商標から特定の観念が発生せず、特定の観念に即した称呼の発生がない以上、本件商標は、「VRπWATER」と表示された一体的外観を呈し、「ブイアールパイウオーター」あるいは「ブイアールパイ」という一体的称呼を有しているのであるから、引用商標とは、外観及び称呼において明らかに相違しており、相紛れるおそれのない非類似商標である。
したがって、本件商標の登録が商標法4条1項11号の規定に違反してされたものでないとの審決の判断は相当であり、原告の主張は、いずれも失当である。
理 由1 本件商標及び引用商標の構成等 本件商標が審決書の別記「(1)本件商標」のとおりの構成(「VRπWATER」の欧文字を横書きしたもの)よりなり、指定商品を第32類「鉱泉水」とするものであり、他方、引用商標が審決書の別記「(2)引用商標」のとおりの構成(「πウォーター」の文字を横書きしたもの)よりなり、指定商品を旧第29類「鉱泉水」とするものであることは、争いがない。
2 本件商標の文字構成について (1) 原告は、審決が本件商標を構成する文字について、同じ書体、同じ大きさをもって表して書してなるとし、視覚上一体に看取し得るものであると判断するのが相当である(審決書5頁17行ないし21行)と判断したことに対して、本件商標「VRπWATER」を構成する文字のうち、「VR」及び「WATER」の文字はゴシック体により表されていると認められるが、「π」の文字はゴシック体ではなく、また、「VR」及び「WATER」の文字は、ローマ字の大文字であるが、「π」の文字は、ギリシア文字の小文字であって、本件商標の文字構成は、ゴシック体による同じ大きさのローマ字の中間部に、特殊の字体で表されたギリシア語のシンボル文字の小文字が配されたものと認定することができるから、本件商標を「視覚上一体に看取し得るもの」とした審決の上記判断は失当である旨主張している。
(2) 確かに、本件商標「VRπWATER」を構成する文字のうち、「VR」及び「WATER」の文字は、英字(ローマ字)の大文字であり、「π」の文字は、ギリシャ文字の小文字であることは明らかである。また、甲第2号証、乙第1号証の1によれば、ゴシック体とは、活字の書体の一つであり、一様に肉太なものを意味し、「VR」及び「WATER」の活字の書体は、ゴシック体であると認められるのに対し、「π」の活字の書体は、一様に肉太に表されてはいないため、
ゴシック体とはいえないことが認められる。
(3) しかしながら、原告も自認するとおり、我が国では、「π」の文字は、
円周率を表すことは中学校で、ギリシア文字については高等学校でそれぞれ教育されていることから、国民一般の間で、英字と同じ程度に馴染み深い文字となっていることが明らかである。また、本件商標を構成する「π」の文字の活字の書体についても、広辞苑第4版(甲第3号証)、高等学校の数学Tの教科書(甲第4号証)に見られるように、我が国で「π」の文字を表す場合の通常の書体として見慣れたものであり、格別のデザインを施したものではないと認められる。
そして、本件商標「VRπWATER」の文字は、欧文字の「π」の文字が、欧文字の「VR」及び「WATER」の文字と同一の大きさに拡大され、これらの文字と並列して横書きされ、全体にまとまりがあり、一体的に結合した外観を呈しており、我が国の一般需要者から見て、一連によどみなく看取し得る構成となっているものと認められる。
(4) 以上によれば、本件商標について「視覚上一体に看取し得るもの」とした審決の判断に誤りはないと認められるから、原告の前記(1)の主張は、採用することができない。
3 本件商標につき「πWATER」の部分が独立して看取されると認めるべき格別の事情の存否について (1) 原告は、審決が本件商標について、意味上、前半の「VR」と後半の「πWATER」とに分離して考察しなければならない格別の事情は存しない(審決書5頁22行、23行)と判断したことに対して、本件商標の登録査定時(平成7年(1995年)8月30日、甲第35号証)において、本件商標及び引用商標(πウォーター)の指定商品である「鉱泉水」の需要者の間で「πウォーター」の語は周知性を獲得し、さらに、識別力を有する商標としても周知となっており、本件商標の後半の「πWATER」の文字は、この語を英字表記したことが明らかであるから、本件商標に接する一般需要者は、本件商標の後半の「πWATER」の部分に独立的に着目して取引することは、大いにあり得る旨主張している。
(2) ところで、「πウォーター」の語が、「二価三価鉄塩を含む水」を意味する用語であること、及び、本件商標の登録査定時において、本件商標の指定商品の需要者の間で周知となっていることは、いずれも原告が自認しており、一方、本件商標の指定商品は「鉱泉水」であるから、「πウォーター」の語(標章)は、商品「鉱泉水」について使用された場合に、「二価三価鉄塩を含む」ものであるとして、その商品の内容(種類、品質)を表わす意味合いを有することは明らかである。
そして、本件商標「VRπWATER」を構成する文字のうち、「πWATER」の文字部分は、原告が指摘するとおり、上記の意味合いを有する「πウォーター」の語を英字表記したことが明らかである。
したがって、上記の観点からすれば、本件商標の構成中、「πWATER」の文字部分は、本件商標の登録査定時には、その商品の出所(業として商品を生産し、
証明し、又は譲渡する者)を表示し、自他商品を識別する標識として機能するという、商標としての識別力を備えないか、少なくとも、これが格段に弱いものであるといわざるを得ない。その反面、本件商標の構成中、冒頭の「VR」の文字部分は、特定の観念を生じさせない造語であり、商標としての識別力を備え、自他商品の識別標識として重要な構成部分(要部)であると認められるべきである。
以上によれば、本件商標の指定商品の需要者、取引者は、本件商標「VRπWATER」に接した場合、自他商品の識別標識である商標として、識別力が微弱な「πWATER」の文字部分につき独立して看取したり、記憶することによって、
これを称呼観念するということは、首肯することができない。
この点に関し、原告は、「πウォーター」の語について、原告が指定商品を本件商標と同じ「鉱泉水」として商標登録を得ている引用商標を構成する「πウォーター」の文字と同じであり、「鉱泉水」の需要者の間で、「πウォーター」の語(標章)は、顕著性を有しており、その商品の出所を示す識別力を有する商標としても周知となっている旨主張している。
しかしながら、本件全証拠によっても、原告の上記主張は認めるに足りず、原告の前記(1)の主張は、採用することができない。
その理由は、次の(3)、(4)に判示するとおりである。
(3) 「π(パイ)ウォーター」の語の命名の経緯及びその後の「πウォーター」の語の使用状況等について、以下、検討する(認定事実は、後記括弧内掲記の証拠及び弁論の全趣旨により認められる。なお、年月日の記載がないものは、証拠上その開始の時期等が不明なものである。)。
ア 「πウォーター」の語の命名の経緯と命名者によるその後の使用状況について (ア) 昭和58年(1983)年4月11日に、名古屋大学農学部勤務のA博士は、発明の名称を「二価三価鉄塩およびその製造方法」とする発明について、特許出願をし、昭和60年(1985年)5月1日第1刷発行の「生命成立の原理」(造型社発行、甲第20号証)を著作し、「生命成立の場-πウォーターシステムについて」と題する第5章の中で、「今、生物個体の生命活動が基本的に二価三価鉄塩によって誘導される反応系のもとで行われていることが明らかになったが、その反応系の主体は生体を構成している水にほかならない。また、生体内での物質変化に二価三価鉄塩が通常の酸化還元反応にみられるような量的関係で関与しているものでないことも確かである。そこで二価三価鉄塩で誘導される水をπウォーターとして生物および生物圏の中でπウォーターがどのような働きをもっているかを考察してみたい。」と記載し、二価三価鉄塩で誘導され、これを含む水について、「πウォーター」と命名した。
このように、「πウォーター」の語は、特定の者が業として生産し、証明し、又は譲渡する商品を表示する標章(商標)や固有名詞としてではなく、一般的に、上記の意味を有する普通名詞としてA博士により命名された用語であり、上記著作においてそのような名称として使用されていることは明らかである。
そして、この著作は、昭和62年(1987年)1月25日、平成元年(1989年)6月15日、平成3年(1991年)3月20日、平成6年(1994年)2月10日に、それぞれ増刷され発行を重ねている。
(イ) さらに、A博士は、昭和61年(1986年)5月20日第1刷発行の「生命科学の原点と未来」(緑書房発行、乙第60号証)を編纂した。この書籍には、上記題号に続けて「-現代科学への呈言とパイウォーター理論-」という副題が付されており、「存在の調和とパイウォーター理論」、「生体システムとパイウォーター」との項目を設けた著述がされている。
この著作も、平成9年(1997年)5月1日、第11刷が発行されるなど、増刷されて発行を重ねている。
イ その他の著作者による「πウォーター」の語の使用状況について (ア) 平成5年(1993年)5月6日第1刷発行のG、H著作の「21世紀の水 奇蹟のπウォーター」(日新報道発行、乙第61号証)には、題号として、「πウォーター」の語が用いられており、「πウォーター」が、美容、健康増進、病状改善から農業改革、環境保護の各方面において、幅広く活用が図られていることが著述されている。
(イ) 平成6年(1994年)発行のF著作、I監修の「パイウォーターの奇跡 地球と人類を救う水の超革命」(廣済堂発行、乙第10号証の1。乙第62号証参照)の書籍は、奇跡の水として話題の「パイウォーター」について、その画期的なパイウォーターシステムを明らかにするとして、広告され販売されており、題号として「パイウォーター」の語を用い、その中で、「科学の常識を覆すパイウォーターシステム」の項目において、「パイウォーター」はどのように発見されたか、パイウォーターの基本原理等が記載され、また、「パイウォーター」が農業、畜産分野、水産分野、工業分野、医療分野、環境において応用が図られていることが著述されている(発行年につき、乙第4号証の3参照)。
(ウ) 本件商標の登録査定時である平成7年(1995年)8月30日に近接する同年9月15日初版発行のB著作の「ガンに克つ 高エネルギー パイウォーター 驚異の自然治癒力」(廣済堂発行、乙第62号証)は、題号として同じく「パイウォーター」の語を用いている。
(エ) これらの書籍においても、「パイウォーター」ないし「πウォーター」の語は、商標や固有名詞としてでななく、一般的な名称として使用されており、これらの読者も、そのように認識することは明らかである。
(オ) なお、本件商標の登録査定以降の著作として、D著「微弱エネルギーによる非熱プロセスの意義と展望」27頁及び「生物・環境産業のために非熱プロセス事典」(平成9年(1997年)、サイエンスフォーラム社発行)には、機能水につき、「電磁場等の下で処理した水」、「ある物質を添加した水」及び「ある物質を除去した水」とに分けて、「ある物質を添加した水」の種類に、「パイウォーター」が「オゾン処理水」、「ミネラル添加水」などとともに位置付けられると記載されている(乙第4号証の1)。また、J著「健康・栄養食品辞典」には、
「πウォーター」は、自然水ではなく、体内に存在する水分(血液・体液・細胞液などの中の水)と同じ特性を持った水(生体水)ということになる、すなわち、
「生命を支えている水」ということで、これは、A、F両博士らの研究開発が基礎となっている旨記載されている(乙第9号証)。
ウ 新聞、雑誌、用語年鑑等における「πウォーター」の語の使用状況について (ア) 平成元年(1989)年7月20日付け日経産業新聞には、「二価三価鉄塩をごく微量含む水、「πウォーター」の普及と応用」、「既にこの水をベースに、梅酢、柿酢、りんご酢、米酢やビタミン、はちみつなどを配合、健康飲料水「パイロゲン」として商品化」との記載がされている(当裁判所に顕著)。
(イ) 平成3年(1991年)10月31日付けの産経新聞には、「最近、π(パイ)ウォーターという言葉を聞くようになった」との記載とともに、
「πウォーター」を詳しく解説した記事が記載され、下面では、「株式会社ずいうん」が「パイアクリス」との商標を使用して、水道水を「パイウォーター」に変える材料や活水器の商品について宣伝する全面広告が掲載されている(甲第9号証)。
(ウ) 平成4年(1992年)1月1日発行の「現代用語の基礎知識」(自由国民社発行)の「外来語・略語」の項に、「π(パイ)ウォーター」の語が、「人間の体内の3分の2を占める生体水に限りなく近く、超微量の2価3価鉄塩を含んでいる水。」を意味する語として登載されている(甲第10号証)。
(エ) 平成5年(1993年)3月15日発行の「食品工業」(株式会社光琳発行)には、「不思議な水 πウォーターのその後」との題名のルポとして、
「πウォーター」について、「不思議な水といわれて、いろんなところで関心がますます上昇中の、いわゆる「π(ぱい)ウォーター」のその後をみてみた。・・・こうしたニーズの背景のなかで、不思議な現象を示すπウォーターへの関心が高まっているものとみられる。」、「πウォーターの原理発見者は、元名古屋大学農学部講師・農博A氏で、この原理の応用化技術を開発、特許を持っている会社がI・B・E社」、「πウォーターの応用は、飲料水のほかに、農業、畜産、水産、発酵工業、産業廃棄物処理、環境整備、エネルギー、食品加工、金属、建材など各分野で活用されつつある。」、「現在、πウォーターの応用技術化が最も熱心で、かなりの広がりをみせているのが水道水につける家庭用、業務用の浄水器と頭髪・頭皮や肌などに使う化粧品」、「浄水器は、はじめ数社がπウォーターの名のもとに、
商品を売り出していたが、I・B・E社の特許が登録となった平成4年はじめごろから、同社の特許抵触の警告も出されたことなどがあって、一時の乱戦は徐々におさまりつつある。こうしたなかでI・B・E社と契約して・・・ライフエナジーの商品名で、πウォーター浄水器を全国で販売しているアイワ社・・・が大手の地位を固めつつあり、月商が1000台を超える売り上げをみせている。」「化粧品では、I・B・E社と契約のニューウェイジャパン社」、「二価三価鉄塩と水とのドッキングをなぜπウォーターと名付けたのかなど改めてリポートしよう。」と記載されている(甲第8号証)。
(オ) 平成5年(1993年)5月1日発行の「THE21」(PHP研究所発行)には、短期集中連載「水を飲んで健康になる」の記事として、被告の取締役統括本部長に対する取材内容として、「πウォーターのπには、ギリシア語で回帰するという意味があります。つまり、πウォーターという名前には本来あるべき姿の水 水が本来もっているさまざまな力を引き出し、生命エネルギーを高める水という意味が込められている」、「πウォーター活水器を製造販売する京洋興業株式会社」、「π化とは、その二価三価鉄塩という物質を特殊な方法で水に作用させ、超微少領域に存在させること」、「われわれが製造しているπウォーター活水器「ヴァレンティノ・ルウディ πウォーター」を通せば」「世界的に有名なイタリアのデザイナー、K氏は、このπウォーターを飲んで・・・評価してくれました」と記載されている(甲第11号証)。
(カ) 同年7月1日発行の「毎日ライフ(毎日新聞社発行)の「トピックス」として「人間の体液に近いπウォーター」との項に、「πウォーター」の語が「体に良い水」、「二価三価鉄塩によって誘導された、いわば活性化された水」として詳細に紹介され、また、「πウォーターの理論は名古屋大学農学部のA博士によって体系化されたものである」、「A博士がπ化システム理論を発表した後、共同開発のパートナーとしてπウォーターシステムの商品化にあたったカイキ工業株式会社」、「同社ではπウォーターによる浄水器を生産していない」、「同社には当然、A博士による最も完成度の高いπウォーターの豊富な原液を託されている。」と記載した上で、同社では、πウォーターの原液に浸したセラミックを中心に水のπ化をしており、同社のπウォーターシステムが「π王」との商品名で販売されていることが記載されている(甲第14号証)。
(キ) 以上の新聞、雑誌、用語年鑑における記載内容をみると、「パイウォーター」ないし「πウォーター」の語は、商標や固有名詞としてでななく、一般的な名称として使用され、他方、「πウォーター」ないし「πウォーターシステム」に関する商品の商標としては、別の文字構成からなる標章が紹介されていることが明らかである。したがって、これらの読者においては、「パイウォーター」ないし「πウォーター」の語について、一般的な名称として記載されているものと認識することも当然であると認められる。
そして「πウォーター」の語が記載された上記の各雑誌は全国に発行されており、原告が指摘するように、家庭の主婦やビジネスマンを対象とするものであり、
また、上記の新聞は、全国紙として、広い購読者層を有しているものと認められる(「食品工業」につき、甲第16号証、「毎日ライフ」につき、甲第17号証)。
さらに、「πウォーター」の語は、我が国における一般的な用語年鑑にも登載されて解説されるに至っている。このことは、原告が主張するように、「πウォーター」の語が、上記用語年鑑の出版時である平成4年(1992年)ころには、新語ではあるものの、「鉱泉水」の一種(二価三価鉄塩を含む水)として解説が必要になる程に知られる機会が増えていたことの証左であるとみることもできよう。
(ク) なお、本件商標の登録査定以降の紙面として、1998年3月20日発行の機関誌「パイテック・フォーラム’98爽春号」(生体エネルギーシステム研究普及協会編集発行、甲第32号証)には、同協会は「生体エネルギーシステム(パイウォーターシステム)をより深く研究し、その成果を正しく世の中に普及させるとともに会員及び主旨に賛同する人々の積極的な親睦をはかる」ことを目的としていることが入会の案内として記載され、本文中に、同協会は、1997年(平成9年)に、1100名の国内外の参加者を集めて、「国際パイウォーターシステム・フォーラム」を開催し、L殿下が記念講演を行ったこと、「パイウォーターの生体への作用」等の題名の講演がされたこと、会長の開会挨拶として、「パイウォーターは地球環境にとって非常にやさしいものであり」、「特別講演ではパイウォーターと羊水との関係」が話される旨の内容が紹介され、また、理事長(原告代表者)の挨拶として、「パイウォーターシステムは、発見されてから・・・」との内容が記載されている。そして、同紙面においても、「πウォーター」ないし「パイウォーター」が特定の業者が製造、販売する商品についての固有の商標であることをうかがわせる記載はないことが認められる。
指定商品「鉱泉水」及び商品「浄水器」の商品における「πウォーター」の語の使用状況について (ア) 本件商標の指定商品である「鉱泉水」の需要者は、広く一般消費者であると認められるが、水道水を鉱泉水に変える「浄水器」の商品の需要者とは、
特に、健康の維持、管理に強い関心を持つ者を中心として、かなりの程度重なり合うものと認めることができる。そこで、指定商品「鉱泉水」における「πウォーター」の語の使用状況のほかに、本件証拠上認められる限度で、商品「浄水器」における「πウォーター」の語の使用状況についてみると、以下のとおりである。
(イ) 原告の使用状況について @ 上記アのとおり、「πウォーター」の語が、A博士によって一般的な名称として命名され公表された後、原告は、この「πウォーター」の語と同一の文字構成からなる標章(引用商標)について、昭和60年(1985年)5月27日に「鉱泉水」を指定商品として商標登録出願し、昭和63年(1988年)1月26日に設定登録された(甲第5、第6号証)。なお、原告は、同じく「πウォーター」の文字からなる標章について、昭和62年(1987年)5月29日に、家庭用浄水器を含む「台所用品」を指定商品として、商標登録出願し、その設定登録を得ている(甲第12、第13号証)。
A 原告は、昭和62年(1987年)3月2日付けの譲渡証書により、A博士から、上記アの発明につき、特許を受ける権利の譲渡を受け(甲第22号証の1)、遅くとも平成2年(1990年)までには、鉱泉水(πウォーター)についてペットボトル入りの商品として開発した。
そして、同年9月に、商品カタログ及びラベル各300部を印刷し、該商品にラベルを貼付して店頭に展示された(甲第7号証の2、第25号証)。
このラベルの表面には、「回帰水」とのやや小さい文字が横書きされ、その下に「πウォーター」の文字が比較的大きく横書きされ、極小さくマーク(登録商標であることを示す)が付されて表記され、さらに、その下には、小さく「BIO CONTROL SYSTEM」と表記されている。また、ラベルの裏面には、
「BCSπーWATER」と表記され、発売元として、「IBE販売株式会社」と記載されている。
しかし、この商品の販売状況については、上記の事実のほかに、その数量、地域等について、具体的に証明する証拠はない。
B 原告から引用商標の使用許諾を受けている有限会社パイエナジー(沖縄県所在)は、平成6年(1994年)から現在にかけて、鉱泉水(πウォーター)についてペットボトル入りの商品を販売しており(甲第18号証の1ないし3、第19号証、第26号証の1)、その貼付のラベルには、小さく「πウォーター」の文字と右下に小さくマークを表記し、その下に、図案化した「π」の文字を大きく表記するとともに、その下に「energy」と表記し、その下部に「πエナジー」、〔100〕と表記されている。また、その商品カタログには、小さく「πウォーター」の文字と右下にマークを表記し、その下に、「π(注、上記と同じ図案化された文字)energy」と大きく表記し、その下部に「πエナジー」と表記されている。また、ラベルには、「「πウォーター」は、生命体を本来あるべきバランスのとれた、健全な状態に導く自然回帰の作用を持っています。」との説明が記載されており、また、カタログには、「πウォーターシステムを応用したボトルドウォーター「πエナジー(πウォーター)」です。」、「「πエナジー(πウォーター)」は、生体の水や、赤ちゃんを包む羊水にもっとも近い水です」との説明が記載がされている。この商品のラベルとカタログには、「πウォーター(πエナジー)は登録商標です。類似品にご注意下さい。」との表記が商標番号とともに記載されている(甲第18号証の2)。
この商品は、沖縄県の平成7年度(平成7年11月1日から、平成10年10月31日まで)の優良県産品として推奨され、株式会社沖縄県物産公社発行の沖縄県産品ガイドの小冊子に掲載されて、一般に頒布されているが、ここでの商品名としては、「パイエナジー〔100〕」の文字のみが表記されている。
C 原告から引用商標の使用許諾を受けているアイビーイー・テクノ株式会社は、商品カタログ(甲第26号証の1)を発行し、その中で、ペットボトル入りの鉱泉水の商品について、「パイカエース」は、BCSパイウォーターシステムと阿蘇の名水を源水としたナチュラルウォーターであるとの説明をしている。
また、同社は、表紙に「水から始まる快適生活!πウォーター HANDY BOOK」と表記された小冊子(甲第27号証)を発行し、「ようこそπウォーターの世界へ」と記載して、「πウォーター」及び「πウォーターシステム」について詳しく説明している。他方、同誌には、表紙に、白抜きの大文字で表記されたの「πウォーター」の文字の下に小さく「πウォーターは、IBEの登録商標です。」と付記されている以外に、「πウォーター」の語が原告の商標であること窺わせる記載はない。
D 原告の浄水器に関する登録商標「πウォーター」について使用許諾を受けているアイ・ビー・イー・パイシステム株式会社は、家庭用浄水器の商品についてカタログを発行し(甲第26号証の2)、その表紙には、上部に比較的小さく「πーWATER SYSTEM」と、その下に、大きく「AQUAーπ」と表記し、商品紹介のページでは、大きく「環境と健康を育む水、πウォーター」と表記し、上記「πウォーター」の文字の右下に極小さく「システム」と表記している。また、表紙と末尾には「πウォーターはIBEの登録商標です。」との記載が比較的小さく表記されているが、商品の写真の下部の商品名としては、「アクア パイ」とのみ表記されている。
E 原告は、平成6年(1994年)8月8日に、「琉球新報」に広告を掲載している(甲第18号証の3)が、この広告は、「お確かめ下さい。」と大きな文字で表記した下に、「「πウォーター」と呼べるのはこのマークのあるI・B・E認定商品だけです。」と記載し、その左側に大きく、上下に2つのマークが示されている。上段のマークは、小さく「πウォーター」の文字と右下に小さくRマークを表記し、その下に、図案化した「π」の文字を大きく表記するとともに、
その下に「energy」と表記し、その下部に「πエナジー」と表記してなるものであり、下段のマークは、パイの文字を円周上白と黒とでデザイン化し、円周上にさらに、BCSと表記し、円周の下には、これに沿って「I・B・E認定商品」と表記してなるものである。そして、本文として、「πウォーターとは、生命科学の研究から生まれた生体エネルギーシステム」であるとした上で、その特許及び商標は、原告所有のものであると説明され、左記の認定マーク(注、下段のもの。以下同じ)は、「IBEのπウォーター理論を応用し、認定を受けた商品にのみ添付されているものです。」と記載し、最近無断でπウォーターの名称や認定マークを使用した商品が出回っているとして、ボトルドウォーターでは3社にのみ、IBE認定マークとして、認定マークを与えているので、「ボトルドπウォーター及びπウォーター浄水器をお求めの際は、必ずIBE認定マーク及び発売元社名をお確かめ下さい。」との記載がされている。
(ウ) 原告以外の業者の使用状況について @ 被告の使用状況 被告は、家庭用浄水器の商品及びその広告に、「ヴァレンチノ・ルウディπウォーター」、「VRπWATER」及び「VRπウォーター・アクトゥーレ」との文字からなる商標を表示して販売しており(甲第11号証、第29号証の1ないし3)、そのホームページ(甲第29号証の1)や商品カタログ(甲第29号証の2、3)において、浄水器で処理された水を「V・R・πWATER」、「ヴァレンチノ・ルウディπウォーター」のほかに、「πウォーター」の語を用い、「πウォーターとは」、「πウォーターの利用法」、「πウォーターの特長」などと題してその特徴や用途などを説明している。
A 株式会社エイ・シー・エムの使用状況 株式会社エイ・シー・エムは、ペットボトル入りの清涼飲料水の商品及びその広告に、「VARUNAπWATER」、「ヴァルナπウォーター」及び「ヴァルナパイウォーター」の文字からなる商標を表示して販売しており、そのホームページ(甲第30号証の1、乙第52号証)において、「ACMパイウォーター」、「πウォーター」、「πwater」の語を用いて、その機能や用途などを説明している。また、家庭用浄水器の商品及びその広告に「ライフハイクリーン」及び「Life High Clean」の文字からなる商標を表示して販売しており、その商品カタログ(甲第30号証の2)において、「πウォーター」の語を使用して、
その特徴、機能、用途などについて説明している。なお、同社は、平成10年(1998年)12月4日に、「VARUNAπウォーター」の文字からなる標章について、指定商品を飲料水、鉱泉水、その他の清涼飲料等として、商標登録を受けている(甲第28号証の1)。
B 株式会社ずいうんは、水道水を「パイウォーター」に変える材料や活水器の商品を販売しており、平成3年(1991年)10月31日付けの産経新聞に「パイアクリス」との商標を使用して、宣伝する広告を掲載している(甲第9号証)。
C カイキ工業株式会社の使用状況について カイキ工業株式会社は、浄水機能を有する商品及びその広告に「カイキπウォーター」及び「カイキW」との文字からなる商標を表示して販売しており、そのホームページ(乙第53号証)において、「πウォーターはエネルギーを持った水なのです。」、「水を補充しπウォーターにする場合は・・・約3時間で総てπウォーターとして利用できます。」と表記している。
D 株式会社テレフィンの使用状況について 株式会社テレフィンは、家庭用浄水器の商品及びその広告に「NGMπウォーター」の文字からなる商標を表示して販売している(乙第54号証)。
E その他の使用例 「良い食物と水を普及する会 自然が一番」と称する業者は、鉱泉水の商品の広告に「阿蘇冽摯水」の文字からなる商標を表示して販売しており、そのホームページ(乙第56号証)には、「おいしい水といい水を阿蘇の地下300mより採水しパイウォーターでお届けします。」と記載した上で、「パイウォーターの秘密」及び「パイウォーターのお話」との項目で、「パイウォーター」の語を使用して、その性質、特徴、機能、用途などについて詳細に説明している。
その他にも、株式会社ビーエステクノロジーは、ホームページにおいて、「πウォーター」の語を用いて、その機能、効用、利用法を詳細に説明した上で、その製品の紹介及び注文のメニューを開くこと(クリック)を可能にしている(乙第10号証の2)。また、「クリスタル商会」と称する業者も、同様のホームページを開設し、「パイウォーター」について説明している(乙第10号証の3)。また、花岡株式会社は、自社取扱い商品情報の紹介と通信販売を目的としてホームページを開設し、その中で、生理活性を与える機能を示す水が機能水であると説明し、機能水として、「アルカリイオン水、磁化水、パイウォーターなどはよく知られています。」と記述している(乙第4号証の2)。
オ その他の産業分野における「πウォーター」の語の使用状況について 前判示のとおり、本件商標の指定商品である「鉱泉水」の需要者は、広く一般消費者であると認められるが、上記のとおり、A博士により発明され、命名された鉱泉水の「πウォーター」は、その後、各種産業分野で応用が図られており、これらの産業に従事する者も、鉱泉水(πウォーター)の商品や水道水を鉱泉水(πウォーター)に変える浄水器の商品の需要者や取引者となることが当然考えられる。そして、ホームページ上で、鉱泉水(πウォーター)やその浄水器が利用されていることが紹介されている下記の各種産業分野において、「πウォーター」の語の使用例について見ると、いずれも、「パイウォーター」ないし「πウォーター」の語は、商標や固有名詞としてでななく、一般的な名称として使用されていることが認められる。
したがって、これらの産業分野に従事している需要者は、「パイウォーター」ないし「πウォーター」の語について、一般的な名称であるとして認識しているもの推認することができる。
記 (ア) 美容関係産業(美容室(乙第9号証)、育毛サロン(乙第35、第36号証)、化粧品(乙第40号証)) (イ) らーめん店(乙第11ないし第15号証) (ウ) めん類(そば、うどん)店(乙第16、第17号証) (エ) 食堂や民宿等(乙第18ないし第21号証) (オ) 他食品(パン・みそ漬け・チリメン・メロン・鶏卵・煎じ茶)製造業(乙第22ないし第27号証) (カ) プール・温泉(乙第28、第29号証) (キ) 畜産業(乙第30ないし第32号証の1)、ペット用飲料水(乙第30号証の2) (ク) 農業(有機栽培溶液)(乙第41号証) (4) 総合評価 ア 以上判示の「πウォーター」の語の命名の経緯及びその後の「πウォーター」の語の使用状況等の事実関係によれば、本件商標の指定商品「鉱泉水」の需要者は、我が国における一般的な消費者であると認められるところ、「πウォーター」の語は、もともと、名古屋大学のA博士によって、昭和60年(1985)年に、特定の業者の出所を示す標章(商標)としてではなく、「二価三価鉄塩を含む水」を意味する一般的な名称として命名され、国内に公表された用語であり、その後も、一般的な名称として、A博士及びその他の者の著作によって、繰り返して使用され、公表されていた。そして、全国の広い読者層を持つ新聞、雑誌においても、そのような用語として取り上げられ、平成4年(1992年)には、用語年鑑に登載して、その解説を要する程度に知られるようになり、使用されるに至っていたものと認められるのである。
そして、鉱泉水及び浄水器の商品分野における「πウォーター」の語の使用状況についてみても、これらの商品は、原告以外にも複数の業者によって製造、販売され、それらの商品や広告では、いずれも「πウォーター」の語について、一般的な名称として使用されており、商標として「πウォーター」ないし「πWATER」の文字を使用する場合においても、他の複数の英字やかたかな文字を必ず組み合わせる構成を採ることなどによって、自他商品の識別力を有する標章として表示してきたものと認められる。
一方、原告は、「πウォーター」の文字からなる標章について商標登録を受けたものの、当初採用した「πウォーター」の文字を横書きしてなる構成の商標については、その下に「BIO CONTROL SYSTEM」と付記したり、「BCSπーWATER」と表記するなどしており、しかも、この商標による商品の販売数量、地域等は不明である。また、その後、原告から引用商標の使用許諾を受けた業者の商標は、「πenergy」ないし「πエナジー」の文字を強調したり、「パイカエース」の文字からなる標章であり、これによって、自他商品の識別力を持たせているとも評価し得るものであり、他方、「πウォーターは、IBEの登録商標です。」と付記したり、「πウォーター」の文字にマークを付してはいるが、いずれも目立たないものであり、また、これらの商品の本件商標の登録査定時までの販売数量、地域等についても、本件全証拠によっても判然としない。
なお、原告は、新聞で警告表示を行った旨主張しているが、これは、平成6年(1994年)8月に至ってから初めてされたものであり、しかも、「琉球新報」に、一回広告を掲載しただけのものである。そして、この広告の内容を見ても、原告の引用商標の登録の事実を伝えてはいるが、「ボトルドπウォーター及びπウォーター浄水器をお求めの際は、必ずIBE認定マーク及び発売元社名をお確かめ下さい。」との記載で結ばれており、原告が当時採用していた認定マークをもって自他商品の識別を図っていたとも推知し得るのである。
原告は、確かに、指定商品を「家庭用浄水器を含む台所用品」及び「鉱泉水」として、「πウォーター」の文字からなる商標について登録を受けているが、他の業者において、これらの商品のカタログ等の広告に、「πウォーター」の文字(標章)を使用し、例えば、浄水器によって「πウォーター」が生成されると説明したり、「πウォーター」の機能、効用を記述したとしても、「πウォーター」の語が、上記のとおり、「二価三価鉄塩を含む水」という一般的な名称として記述されており、需要者にとって、自他商品の識別標識としては認識し得ない態様によって使用されていると認められる限りは、何ら商標権を侵害するものではないことは明らかである(商標法26条1項2号参照)。
そして、前記(3)の事実関係によれば、少なくとも本件商標の登録査定時(平成7年(1995年)8月)までには、上記のとおりの雑誌、新聞等の記事や、このような製造、販売業者による「πウォーター」の語の使用態様に接することによって、これらの商品の需要者である一般的な消費者や取引者の少なからざる範囲の者、特に、健康の維持、管理に関心のある者を中心として、「πウォーター」の文字について、鉱泉水の一種(二価三価鉄塩を含む水)を意味する一般的な名称を意味するものであると看取し、そのように認識するに至ったものと推認することができる。そして、このような状況下にあったために、その後も、「πウォーター」の語は、より広い産業分野において、上記の意味を持つ一般的な名称として使用される頻度が高くなっていると推認することができる。
イ 以上のとおり、「πウォーター」の語については、本件商標の登録査定時において、本件商標の指定商品の需要者、取引者の間で、「二価三価鉄塩を含む水」を意味する用語として広く認識することができるものとなっていたと認められるのであり、「πウォーター」の語について、原告の登録商標としても周知となっていた旨の原告の前記(3)の主張は採用することができない。
したがって、前判示(3)のとおり、「πウォーター」の語が商品「鉱泉水」について使用された場合、「二価三価鉄塩を含む」ものであるとして、その商品の内容(種類、品質)を表わす意味合いを有すると認められるから、本件商標「VRπWATER」を構成する文字のうち、「πWATER」の文字部分は、本件商標の登録査定時には、商標としての識別力を備えないか、少なくとも、これが格段に弱いものであるといわざるを得ず、反面、本件商標の構成中、冒頭の「VR」の文字部分が、商標としての識別力を備え、自他商品の識別標識として重要な構成部分(要部)であると認められる。
以上によれば、本件商標の登録査定時において、本件商標の指定商品の需要者、
取引者は、本件商標「VRπWATER」に接した場合、自他商品の識別標識である商標として、識別力が微弱な「πWATER」の文字部分につき独立して看取したり、記憶することによって、これを称呼観念するということは、首肯することができないのである。仮に、「πWATER」の文字部分が独立して看取されるとしても、当該部分はむしろ商品の内容を意味する一般的な名称として認識されるにとどまり、商標として、「VR」の文字が省略されて、「パイウォーター」とのみ称呼され、観念されることはないと認められる。
4 総括 (1) 以上によれば、原告の取消事由の2(本件商標につき分離して考察すべき格別の事情の存在の看過)のほか、同3(本件商標から生ずる特定の観念の存在について)、同4(本件商標から生ずる称呼について)のいずれの主張も、採用することができず、本件商標について、引用商標とは相紛れるおそれのない非類似商標であるとして、本件商標の登録が商標法4条1項11号の規定に違反してされたものでないとした審決の判断に誤りはない。
(2) なお、原告は、取消事由4の主張に関して、本件商標の称呼である「ブイアールパイウォーター」は、長音を除いたとしても9音と一連に称呼するには冗長であり、簡易迅速を旨とする取引においてはいずれかで区切られて発音されると考えられるとして、本件商標から「パイウォーター」の称呼が生ずるとも主張している。
しかしながら、本件商標の称呼は、無理なくよどみなく発音することができるものと認められ、かつ、需要者、取引者が、商標として注意を惹きやすく、かつ、商標としての識別力が顕著な、冒頭の「VR」の文字部分を省略して、識別力が微弱な「πWATER」の文字部分を独立して看取したり、記憶することによって、これを商標として称呼するものとは認められないから、原告の上記主張は採用することができない。
5 結論 以上の次第で、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 古城春実
裁判官 橋本英史