関連審決 | 審判1994-19082 |
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関連ワード | 識別力 / 指定商品 / 周知商標 / 周知性 / 混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) / 4条1項15号 / 著名商標 / 顧客吸引力(グッドウィル) / ただ乗り(フリーライド) / 結合商標 / 外観(外観類似) / 称呼(称呼類似) / 観念(観念類似) / 取引の実情 / 出所の混同 / 外国 / 継続 / 非類似 / 有名ブランド / |
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事件 |
平成
11年
(行ケ)
420号
審決取消請求事件
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原告 ユーエスピーエープロパティーズ インク 訴訟代理人弁護士 松尾和子 同 弁理士 廣瀬文彦 被告 特許庁長官及川耕造 指定代理人 高野義三 同 大橋良三 被告補助参加人 ザ ポロ/ローレンカンパニー リミテッ ドパートナーシップ 訴訟代理人弁護士 松尾眞 同 兼松由理子 同 岩波修 同 上村真一郎 同 西山哲宏 訴訟代理人弁理士 曾我道照 同 黒岩徹夫 同 岡田稔 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2001/04/19 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は,参加によって生じた費用も含め,原告の負担とする。 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成6年審判第19082号事件について平成11年7月23日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,「US POLO ASSOCIATION」の文字から成る商標(以下「本願商標」という。)について,平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令別表による商品区分第23類の「時計,眼鏡,これらの部品および付属品」を指定商品として,平成2年8月2日,商標登録出願(平成2年商標登録願第88383号)をしたが,平成6年7月22日に拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判の請求をした。特許庁は,同請求を平成6年審判第19082号として審理した結果,平成11年7月23日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同年8月18日原告に送達された。 2 審決の理由 別紙審決書の理由の写しのとおり,本願商標をその指定商品に使用する場合には,これに接する取引者・需要者は,ラルフ・ロ―レン又は同人と組織的・経済的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのように,その出所について混同を生ずるおそれがあるから,本願商標は商標法4条1項15号に該当すると認定判断した。 |
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原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由のうち,「1 本願商標」及び「2 原査定の拒絶の理由」は認め,「3 当審の判断」は争う。 審決は,本願商標はラルフ・ローレンの周知商標である「ポロ商標」を連想,想起させ,同人又は同人の事業と組織的,経済的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのごとく,商品の出所について混同を生じさせるおそれがあると判断し,商標法4条1項15号を適用して,本件出願を拒絶した。しかしながら,審決は,出所の混同のおそれについての認定,判断を誤っており,この誤りが結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。 1 審決は,「ポロ商標」という引用商標があり,それが,眼鏡を含むファッション関連商品分野について,遅くとも昭和55年には広く知られており,周知性が審決時である平成11年7月23日まで存在していたと認定した。しかし,この認定は,誤っており,審決は,この誤った前提に立ったため,出所の混同のおそれについての判断を誤った。 (1) 審決は,単に「POLO」の文字だけから成る商標と,「POLO」の文字に「by RALPH LAUREN」の文字又は馬に乗ったポロ競技プレイヤーの図形を組み合わせた商標とを,包括的に「ポロ商標」として把握した。しかし,単なる「ポロ」又は「POLO」の語が,単独で,ラルフ・ローレンのデザインに係る商品を表示する商標として使用されたことはなく,これらの語は,常に,「RALPH LAUREN」又は「ラルフ・ローレン」の語とともに使用されてきているから,ラルフ・ローレンのデザインに係る商品を表示するものとして現実に用いられてきた各商標を,上記のような上位概念により把握することは,誤りの原因となるものであって,不適切というべきである。 (2) 仮に,「ポロ商標」という上位概念を採用することが許されるとしても,「ポロ商標」に属する具体的な各商標が,それを構成する文字や図形から分離,独立して,「ポロ」と称呼され,ラルフ・ローレンのデザインに係る被服類,靴,かばん類,眼鏡等の,「いわゆるファッション関連の商品分野」において,周知性を取得したとした審決の認定は誤りである。 「ポロ」の語については,辞書類においては,「ポロ」がスポーツのポロ競技を意味すること,あるいは,「ポロシャツ」がポロ競技に関係のある普通名詞であることが記載されているだけで,この語とラルフ・ローレンとの関係に関しては,何ら記載されていない。雑誌類においても,「ポロ」の語が,単独で,「ファッション関連商品分野」において,これらの商品を表示する商標として使用されていたことを示す記載はない。 現に,被告補助参加人は,「ポロ」又は「POLO」の語単独では,商標登録を受けておらず,このことは,同人自身も,「ポロ」がスポーツのポロ競技を指すものであって,それだけでは商標として自他商品の識別力に欠けるものであり,自他商品識別力を取得するためには,「ポロ」の語に「バイ・ラルフローレン」又は「ラルフ・ローレン」の語を付加して使用する必要があることを感じていたことを示すものである。 (3) 審決は,「ポロ商標」の周知性が審決時である平成11年7月23日まで継続していると認定した。しかし,審決が認定の基礎とした甲第83号証ないし第92号証は昭和53年から56年までに発行された古いものであり,審決時に周知性が継続していたことについての証拠はないから,上記認定は誤りである。 (4) 我が国で登録されているポロ関係の商標のうち,被告補助参加人の商標は,「POLO」又は「ポロ」の文字が「RALPH LAUREN」「ラルフ・ローレン」又は「by RALPH LAUREN」「バイ ラルフローレン」の文字と併用され,かつ,プレイヤーの図形を間に挿入している態様から成るもので,「POLO」又は「ポロ」の文字のみから成るものは存在しない。「ポロ」の文字のみから成る商標(旧商品区分第23類の全商品)及び「Polo」の文字のみから成る商標(商品は,眼鏡)については,株式会社第一昭和が商標権を取得している。さらに,「ポロ」又は「POLO」の文字と他の文字との組合せから成る商標(「POLOSOCIETY」,「LANCEL POLO CLUB」等),種々雑多なポロプレイヤーの図形が多数商標登録され,それぞれ第三者により使用されている。原告自身も,プレイヤーがマレットを下に向けた図形を「USPA」の文字で挟んだ商標及び2名のポロ・プレイヤーの図形の下に「UNITED STATES POLO ASSOCIATION」の文字を表示した商標につき商標登録を受けて使用している。 このように,我が国において,ポロ関係の多数の登録商標が存在し,使用されていることからすれば,このように多数存在する「ポロ」に関する商標のうち,被告補助参加人の商標のみが,眼鏡及び時計等を含む広い範囲の「ファッション関連分野」全般にわたって周知性を獲得しているとみることは困難であり,これを認めた審決の認定は,証拠に基づかない不合理なものというべきである。 なお,米国及び英国におけるポロ関係の商標の登録状況及び使用状況も我が国におけるのと同様であり,このことも,被告補助参加人の商標が「(ポロ)ラルフローレン」又は「RALPH LAUREN」若しくは特定のポロ・プレイヤーの図形と無関係に「ポロ商標」として周知著名となっていると認めるのは困難であることを裏付けるものというべきである。 2 審決は,@本願商標が,仮に米国のポロ競技の団体名である「United States Polo Association」を表すものであるとしても,ポロ競技は,我が国ではなじみの薄いスポーツであり,一般に親しまれていない,A本願商標又は「UNITED STATES POLO ASSOCIATION」は,自他商品識別標識として使用され機能していたという事情がないから,当該商標が特定のポロ競技団体を表彰するものと認識し,理解するのは極めて困難であるので,そのような事情は考慮に入れる余地はない,B本願商標は,「POLO」の文字を有するから,これに接する者が,全体として,ポロ社又はラルフ・ローレンに係る事業と関連付けて考察する場合が少なからずある,C本願商標の指定商品「眼鏡等」は,ファッション関連商品の一つである,Dよって,本願商標を使用すると,ラルフ・ローレン又は同人の事業と組織的・経済的に何らかの関係を有する者の商品であるかのように,商品の出所について混同を生じるおそれがある,と認定,判断したが,誤りである。 (1) 商標法4条1項15号にいう「混同のおそれ」の判断要素としては,比較対象となる他人の表示の周知著名性及び独創性の程度が,重要な一要素である(最高裁判所第3小法廷平成12年7月11日判決)。 「POLO」又は「ポロ」の語は,被告補助参加人の造語ではなく,スポーツのポロ競技から採ったものであり,取引者・需要者にもそのように認識されているから,これが,単独で,被告補助参加人の商品又は事業を指すことはあり得ない。 また,被告補助参加人が「POLO」又は「ポロ」の語を単独で使用してきていないことは,前述のとおりである。さらに,被告補助参加人がその商標に係る商品としてきたのは,被服等を中心とする限られたものにすぎない。 そうである以上,被告補助参加人の商標は,「RALPH LAUREN」の文字商標ないし「POLO by RALPH LAUREN」の文字商標,又はこれらの文字と馬に乗ってマレットを振り上げたポロプレイヤーの図形商標を組み合わせたものとしてのみ独自性を有し,しかも,被服等を中心とする商品に関してのみ周知性を獲得していたものと理解するのが合理的である。商標自体についていえば,「ポロ商標」という包括的概念についてや,商品についていえば,「ファッション関連商品分野」といった広い範囲の商品において,周知性を認めることはできないというべきである。 (2) 上記@ないしBは,本願商標が特定人の表示としての認識を確立していたなら,それと補助参加人の商標とは非類似の関係に立つ,と考えたものとみることができる。しかし,出願商標は,本来,未使用を前提に考察され得るものであり,商標の類似,非類似は,原則的に,本願商標の構成自体から判断できるのであるから,このような考えは誤りである。 審決は,本願商標から,特定のポロ競技団体を認識することは困難であるとする。しかし,ポロ競技は,我が国においても知られており,「アメリカ合衆国ポロ協会」の名称を正確に承知する者がないとしても,ポロ競技のような大規模な競技においては,これを統括する協会が存在していると認識するのが,むしろ常識的であり,取引者・需要者は,本願商標の構成から,ポロ競技の統括団体の標章であると認識し,理解すると解する方が自然であり,合理的である。また,現在では,各種のスポーツの競技団体が,主催する大会名を登録したり,所属するチームのロゴマークやシンボルマークを商標登録し,収益を当該スポーツの振興の一助としたりしていることはよく知られている。 被告補助参加人の周知著名商標は,「RALPH LAUREN」の文字商標ないし「POLO by RALPH LAUREN」の文字商標,又はこれら文字と馬に乗ってマレットを振り上げたポロプレイヤーの図形商標を組み合わせたものであり,現在の日本人の英語知識からすると,これらと,単なる「US」に,協会であることが容易に認識できる「POLO ASSOCIATION」が結合された商標である本願商標とは,外観,観念,称呼のいずれにおいても,非類似の商標であると理解されるとみるべきである。 (3) 本願商標は,被告補助参加人の商標とは,外観,観念,称呼のいずれにおいても非類似の商標であると解すべきであるから,本願商標に接する者が,全体としてポロ社又はラルフ・ローレンにかかる事業と関連付けて考察する場合が少なからずあるというためには,実質的な根拠を要するものというべきである。 商標や商品が非類似であっても,両者に混同が生じるのは,商品間の密接な関係,用途・目的における関連性,取引者・需要者の共通性などの取引の実態があり,また,同号の規定の趣旨からみて,他人のグッドウィルに対するフリーライドや他人の表示に対するダイリューションが存在するなど,混同を意図的に招いている事情又は需要者における混同を生じさせられる実態ないし実質的理由を検討する必要がある。このような観点からみた場合,原告のライセンシーの扱う商品は,被告補助参加人が扱う商品に比して,一段とカジュアルであり,普段着であって,取引者・需要者が異なり,市場における商品の棲み分けが確立している。また,原告及びその親会社は,歴史のある由緒正しい協会であり,ポロ競技を推進し,育成し,そのための経済的基盤を整備することを目的としており,不当に被告補助参加人の営業と混同を招いたり,被告補助参加人の周知著名表示の価値を毀損するつもりを少しも有しておらず,むしろ,そのような事態を排除するよう極力努力している。 このような状況の下で,商標法4条1項15号を適用して,本願商標の登録を拒絶することは,許されない。 |
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被告の反論の要点
審決の認定,判断は正当であり,審決に原告主張の違法はない。 1 原告の主張1について 原告は,審決が,「ポロ商標」が眼鏡を含むファッション関連商品分野について,遅くとも昭和55年には広く知られており,周知性が審決時である平成11年7月23日まで存在していたと認定したのは,誤りであると主張する。 しかし,乙第1ないし第12号証,第13号証の1ないし7によれば,審決の上記認定は,適正,かつ客観的なものであるというべきである。 (1) ラルフ・ローレンのデザインに係る被服等について使用される標章は,「Polo」の文字とともに,「by Ralph Lauren」の文字及び「馬に乗ったポロ競技のプレーヤーの図形」などの各標章であると認められる。我が国においては,これらの標章を総称して,単に「POLO」,「ポロ」と略称されていたというべきであり,「POLO」,「Polo」,「ポロ」の標章は,遅くとも昭和55年ころまでには,我が国において取引者・需要者の間に広く認識されるに至っていたものと認められる。 (2) ラルフ・ローレンのデザインに係る紳士服,婦人服,眼鏡等は,ファッションに関連する商品といえるものであり,このことは甲第17号証,乙第3,第12号証からも明らかである。 (3) 審決時においても,「ポロ商標」が周知,著名であることは,乙第13号証の6,7によっても裏付けられる。 (4) 原告は,我が国において,ポロ関係の多数の登録商標が存在し,使用されていることから,被告補助参加人の商標のみが「ポロ商標」という「ポロ」のみで包括できる商標の下に眼鏡及び時計等についても周知性があるとみることは困難であり,審決の認定は証拠に基づかない不合理なものである旨主張する。しかし,前記各乙号証によれば,「ポロ」が被服等において周知,著名であること,被服,眼鏡等についてラルフ・ローレンのデザインに係る商品に付される商標として使用されている状況は明白であるから,審決の認定に誤りはない。 原告は,「ポロ商標」の周知著名性が認められないことの根拠として,米国や英国での事情をあげるが,外国の諸事情は,我が国における「ポロ商標」に係る需要者の認識とは直接関わりがなく,これをもって審決に誤りがあるとすることはできない。 2 原告の主張2について (1) 原告は,審決が,本願商標をその指定商品に使用すると,ラルフ・ローレン又は同人の事業と組織的・経済的に何らかの関係を有する者の商品であるかのように,商品の出所について混同を生じるおそれがある,と認定,判断したことは,誤りである旨主張する。 しかし,「ポロ商標」,「POLO」,「Polo」,「ポロ」等は,被服を始めとするファッション関連の商品分野において,ラルフ・ローレンのデザインに係る被服等について使用され,取引者・需要者間に広く認識されているものであるから,「POLO」の文字を含む本願商標をその指定商品について使用した場合には,ラルフ・ローレン又はその関連会社の取扱いに係る商品との間に出所の混同を生じさせるおそれがあるというべきである。審決の認定,判断に誤りはない。 (2) 原告は,「POLO」又は「ポロ」の語は,被告補助参加人の造語ではなく,スポーツのポロ競技からとったものであり,取引者・需要者にもそのように認識されているから,単独では,被告補助参加人の商品又は事業を指すものとみることはできない旨主張する。しかし,球技としてのポロは,我が国ではほどんどなじみのないものであることは証拠(乙第14ないし第16号証)に照らし明らかである。そして,前記のとおり,「ポロ商標」が,被服を始めとするファッション関連の商品分野において,ラルフ・ローレンのデザインに係る被服等について使用されていることからすると,「POLO」は,明らかに普通名詞として認識され,あるいはスポーツの競技名として認識されるような方法で用いられている場合に限り,普通名詞として認識されるものであるというべきであって,これら以外の場合に「POLO」が普通名詞又は球技としての「ポロ」を表したものと認められることはない,というべきである。 (3) 原告は,審決が,本願商標又は「UNITED STATES POLO ASSOCIATION」が,自他商品識別標識として使用され機能していたという事情がないから,当該商標が特定のポロ競技団体を表彰するものと認識し,理解するのは極めて困難であるので,本願商標が米国のポロ競技団体を表す名称であるとしても,そのことは混同のおそれの有無の考慮に入れる余地はないとしたことは,誤りである旨主張する。しかし,審決は,我が国においては,本願商標は,商品に使用されることによって,特定のポロ競技団体名として,出所の混同のおそれがない程に自他商品識別標識として機能している事実は認められないから,本願商標がポロ競技団体の名称であることは,混同のおそれの判断にあたって考慮できないとしたものであるから,正当である。 原告は,本願商標は,その構成から,ポロ競技の統括団体の標章であると認識されるのが自然である旨主張する。しかし,プロ野球やJリーグサッカー等のように一般になじまれたスポーツと全くなじみの薄いスポーツとでは,おのずと,当該スポーツ名称から成る商標に接する取引者・需要者の印象は異なる。「POLO」の文字を有する本願商標は,これをその指定商品に使用した場合は,スポーツの競技名として認識されるというよりは,紳士服,婦人服,眼鏡等の商標として周知,著名性が確立したラルフ・ローレンに係る「POLO(ポロ)」と認識されることが明らかである。 (4) 原告は,現在の日本人の英語知識からすると,単なる「US」と,協会であることが容易に認識できる「POLO ASSOCIATION」とが結合された商標である本願商標は,被告補助参加人の周知,著名商標である,「RALPH LAUREN」の文字商標ないし「POLO by RALPH LAUREN」の文字商標,又はこれらの文字と馬に乗ってマレットを振り上げたポロプレイヤーの図形商標を組み合わせたものと比較して,外観,観念,称呼のいずれにおいても,非類似の商標であると理解されるとみるべきである旨主張する。 しかし,1個の商標から2個以上の称呼,観念の生ずることが少なくないことは取引の経験則上明らかであり,「US POLO ASSOCIATION」の文字が我が国の一般の取引者・需要者に全体として特定の熟語や特定の団体名称を表わすものとしてよく知られているとは認められないことからして,本願商標が指定商品である「時計,眼鏡」等のファッション関連商品に使用された場合には,これに接した取引者・需要者は,その「POLO」の文字部分に着目して,ラルフ・ローレンに係る「ポロ(POLO)」と呼ばれるブランド名を連想し,ラルフ・ローレン又は同人と何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのように,その出所について混同を乗ずるおそれがあるというべきでる。 (5) 原告は,原告のライセンシーの扱う商品と,被告補助参加人が扱う商品とは,取引者・需要者が異なり,市場における商品の棲み分けが確立していること,原告及びその親会社は,不当に被告補助参加人の営業と混同を招いたり,被告補助参加人の周知著名表示の価値を毀損したりする意図を有しておらず,むしろ,そのような事態を排除するよう極力努力していることといった事情を考慮すると,このような状況のもとで,商標法4条1項15号を適用して,本願商標の登録を拒絶することは,許されない旨主張する。 しかし,原告主張のように商品の棲み分けが確立していることを示す証拠は何ら提出されていないし,仮にそのような状況があるとしても,そのことは,本願商標の指定商品「時計,眼鏡についての出所混同の可能性を否定する理由にはならない。また,ラルフ・ローレンのデザインに係る被服等について使用される標章を模倣した偽物ブランドが市場に出回っており,「ポロ商標」の顧客吸引力に便乗した,偽「ポロ」ブランド商品を販売する者も絶えないといった状況を前提にした場合,本願商標の出願自体がこれを意図するものではないとしても,原告による本願商標の管理が上記状況に対処するに十分であるとは必ずしも言い難く,現実には,むしろ「U.S.P.A」,「US POLO ASS’N」,「U.S.POLO」とポロ競技のプレーヤー図形を表示したもの等,使用商標は多数に及び,かつ,その使用者が必ずしも一定でないという状況からして,原告による本願商標の管理を,「ポロ商標」との混同可能性を否定する根拠とすることもできないのである。 |
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当裁判所の判断
1 本願商標の商標登録出願時における商品の出所の混同のおそれについて (1) 乙第1ないし第12号証,第13号証の1,3によれば,次の事実が認められる。 ラルフ・ローレンは,1939年(昭和14年)生まれのアメリカの服飾等のデザイナーである。同人は,1970年,73年の2回にわたりアメリカのファッション界では最も権威があるとされるコティ賞を受賞し,1974年には映画「華麗なるギャツビー」の男性衣装を担当するなどして,世界的に知られるようになった。ラルフ・ローレンがデザインした紳士服,ネクタイ等には,「馬上の競技者が,先端が小さなT字状になった棒のような物を持っている図形」,「Polo Ralph Lauren」,「Polo by Ralph Lauren」といった標章が,単独で又は組み合わされて使用されている(以下,これらを総称して「ラルフ標章」という。)。我が国においては,日本でのラルフ・ロ―レンのデザインに係る商品の輸入・製造・販売のライセンス(許諾)を得ていた西武百貨店(ただし,眼鏡,ネクタイのライセンスは,別の会社が有していた。)の昭和62年におけるポロ・ラルフローレンブランドの小売販売高が約330億円となり,平成元年には,第三者が,ラルフ標章ないしこれに酷似した標章を付した偽ブランド商品を販売していたとして摘発されるという事件が発生するほど,ラルフ標章は顧客吸引力を有するに至っていた。本願商標の商標登録出願前から,各種雑誌等において,ラルフ・ローレンのデザインに係る紳士服,婦人服,眼鏡を始めとする商品が一流ブランドないし流行ブランドとして,「ポロ」,「POLO」,「Polo」のブランド名のもとに紹介され,一般大衆を読者とする新聞でも,平成元年5月19日付け朝日新聞夕刊(乙第13号証の3)に「『ポロ』の偽を大量販売 警視庁,通信販売会社を摘発・・・『Polo(ポロ)』の商標で知られるラルフローレンブランド・・・米国の『ザ・ローレン・カンパニー』社の商標・デザインで西武百貨店が日本での独占製造販売権を持っている『Polo』の商標と乗馬の人がポロ競技をしているマーク」という記事が掲載されているように,(なお,本願商標の登録願の約4か月後のものとしては,平成2年11月27日付け朝日新聞東京地方版/栃木 栃木版(乙第13号証の1)に「プレゼント・・・ポロ・・・などの輸入ブランドに人気があるという。女性から男性へは,ポロのセーター(1万4000円)」との記事がある。)ラルフ標章は「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)の商標の名で知られ,これを付した商品もブランドとして「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)と呼ばれていた。 上記認定事実によれば,本願商標の商標登録出願時までには,ラルフ標章は,「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)の商標などと呼ばれ,これを付した商品もブランドとして「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)と呼ばれて,いずれも紳士服,婦人服,眼鏡等のファッション関連商品についてラルフ・ローレンのデザインに係る商品に付される商標ないしそのブランドとして著名であったことが認められる。 (2) 一般に,簡易,迅速を尊ぶ取引の実際においては,商標は,各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほどにまで不可分的に結合していない限り,常に必ずその構成部分全体の名称によつて称呼,観念されるというわけではなく,しばしば,その一部だけによって簡略に称呼,観念され,その結果,一個の商標から二個以上の称呼,観念の生ずることがあるのは,経験則の教えるところである(最高裁判所第1小法廷昭和38年12月5日判決・民集17巻12号1621頁参照)。 また,本願商標が使用される商品である「時計,眼鏡,これらの部品および付属品」等のファッション関連商品は,主たる需要者は,老人から若者までを含む一般大衆であって,その商品「時計,眼鏡,これらの部品及び付属品」等に係る商標やブランドについて,詳しくない者や中途半端な知識しか持たない者も多数含まれている。そして,このような需要者が購入する際は,恒常的な取引やアフターサービスがあることを前提にメーカー名,その信用などを検討して購入するとは限らず,そのような検討もなくいきなり小売店の店頭に赴いたり,ときには通りすがりにバーゲンの表示や呼び声につられて立ち寄ったりして,短い時間で購入商品を決定することも少なくないものである。(以上の事実は,当裁判所に顕著である。) したがって,本願商標についての混同のおそれの判断に当たっては,以上のような経験則,及び取引の実情における需要者の注意力を考慮して判断すべきである。 (3) 本願商標は,17文字から成り,これより生ずる「ユーエスポロアソシエーション」の称呼は長音を含む14音より構成されているから,その外観,称呼とも,一つの名称のものとしては,冗長というべきである。そして,「US」は,米国を表すものとして,その後に続く「POLO」以下の語を修飾する語であり,「POLO ASSOCIATION」は,「ポロに関する協会」というような意味合いであるから,本願商標において「POLO」の文字は重要な意味を持つ言葉と認識されるものと認められる。ところが,本件全証拠によっても,「US POLO ASSOCIATION」との文字が,全体として特定の熟語や団体名称を表わすものとして我が国の一般の取引者・需要者によく知られているものとは認められない。 このように,本願商標の文字相互の結びつきは,それを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほどまでに不可分的に結合しているものとは認めることのできないものである。 (4) そうすると,本願商標がその指定商品である,「時計,眼鏡,これらの部品及び付属品」等のファッション関連商品に使用された場合には,これに接した取引者・需要者は,その「POLO」の文字部分に着目して,「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)の商標と呼ばれるラルフ標章や,「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)と呼ばれるブランド名を連想し,ラルフ・ローレン又は同人と組織的・経済的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのように,その出所について混同を生ずるおそれがあるものというべきである。 この点について出所の混同の発生する具体的な例を挙げれば,本願商標は,「POLO」の文字を重要な要素として含んでいるのであるから,これを「US POLO ASSOCIATION」,「ユーエスポロアソシエーション」という冗長であって一般に知られていない名称で称呼,観念するのではなく,簡略に,「ポロ」の商標と称呼,観念して取引することが考えられる。このようにして取引したとしても,決して不自然ということはできない。まして,「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)の商標と呼ばれるラルフ標章や,「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)ブランドが著名であり,強い顧客吸引力を有していることからすれば,ラルフ・ローレンと関係のある「ポロ」の商標ないし「ポロ」ブランドであることには大きな価値があるから,そのような称呼,観念は,より発生しやすいところである。そして,取引者,特に販売者が,本願商標を,「ポロ」の商標と呼んだとき(前示のとおり,このこと自体を不自然ということはできない。),需要者は,本願商標の「POLO」の部分に着目して,それが「ポロ」の商標であるから,ラルフ・ロ―レンに係る著名な「ポロ」の商標ないし「ポロ」ブランドであると誤解し,あるいは,ラルフ・ロ―レンに係る著名な「ポロ」の商標とは全体の構成が異なることに気付いたとしても,同じ「ポロ」の一種であって兄弟ブランドないしファミリーブランドであると誤解して,その出所について混同を生ずるおそれがあるものというべきである。 もとより,上記は,原告がそのような方法で出所の混同を発生させることを意図して本願商標の登録出願をしたという趣旨ではない。しかし,商標がいったん登録された場合には,自由に譲渡されたり使用権が設定されたりし得るものであるから,出所の混同のおそれは,出願人の出願の意図とは関係なく,取引の実情に基づき客観的に判断せざるを得ないのである。 2 審決時における商品の出所の混同のおそれについて 乙第13号証の2,4ないし7によれば,本願商標の商標登録出願後審決時にかけても,平成3年12月5日付け朝日新聞大阪地方版/京都 京都版(乙第13号証の2)に「ポロの靴下 ブランド世代・・・足元は,申し合わせたようにラルフロ―レンのポロのマーク」,平成4年9月23日付け読売新聞東京本社版朝刊(乙第13号証の4)に「アメリカの人気ブランド『ポロ』・・・のロゴ『ポロ・バイ・ラルフ・ロ―レン』」,平成4年10月13日の読売新聞大阪地方版朝刊(乙第13号証の5)に「偽『ポロ』眼鏡枠を摘発・・・ポロ競技のマークで知られる米国のファッションブランド『POLO(ポロ)』の製品に見せかけた眼鏡枠」,平成11年6月8日付け朝日新聞西部版夕刊(乙第13号証の7)に「偽ブランドの販売で元社長に有罪判決・・・米国ブランド『ポロ』などのマークが入った偽物のセーターやポロシャツ」,同年9月9日付け日本経済新聞本紙朝刊(乙第13号証の7)に「ラルフロ―レン偽物衣類を販売・・・「ポロ」ブランドの偽物セーター」との記事が掲載されていることにも示されているとおり,「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)の商標などと呼ばれるラルフ標章,及び,そのブランドである「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)ブランドの著名性は継続しており,また,ラルフ標章の顧客吸引力に着目して偽「ポロ」ブランド商品を販売する者も絶えなかったことが認められる。 そして,本願商標の商標登録時から審決時までの間に,前記1の認定に係る事情に変化があったものと認めるに足りる証拠はないから,審決時においても,前記1の認定に係る混同のおそれは,なお継続していたものと認められる。 3 原告の主張について (1) 原告は,「ポロ」又は「POLO」の語が単独で,ラルフ・ローレンのデザインに係る商品を表示する商標として使用されることはないのに,審決が「POLO」の単独文字だけからなる商標と,同文字と「by RALPH LAUREN」の文字又は馬に乗ったポロ競技プレイヤーの図形を組み合わせた商標とを,包括的に「ポロ商標」として把握して,その周知性を認定したことは誤りである旨主張する。 しかしながら,たとい,「POLO」の文字が単独で商標として用いられたことがなかったとしても,ラルフ標章は,「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)の商標などと呼ばれ,それの付された商品もブランドとして「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)と呼ばれて,いずれも紳士服,婦人服,眼鏡等のファッション関連商品についてラルフ・ローレンのデザインに係る商品に付される商標ないしそのブランドとして,本願商標の登録出願時までには,著名となっていたことは前示のとおりであるから,「POLO」の文字が単独で商標として使用されていたか否かは,商標法4条1項15号の「混同のおそれ」の有無の判断を左右するものではない。 (2) 原告は,辞書において,ポロはスポーツのポロ競技を意味し,ポロシャツがポロ競技に関係のある普通名詞であることが記載されているだけで,ラルフローレンについては記載されていない旨主張する。 しかし,乙第14ないし第17号証によれば,ポロ競技は,我が国では,平成10年ころでも競技者がわずか約30人という程度のものであって,「スポーツ用語」(株式会社教育社1992年11月25日発行),「ニュースポーツ百科」(株式会社大修館書店1995年9月20日発行),「NEW COLOR SPORTS 1995」(一橋出版株式会社1995年発行)にも取り上げられておらず,関心の薄いスポーツであったことが認められる。 そうである以上,本願商標の指定商品である,「時計,眼鏡,これらの部品及び付属品」等のファッション関連商品との関係においては,「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)とは,前記ラルフ・ローレンと関係のある「ポロ」の商標ないし「ポロ」ブランドを指すものであると理解されることが多いのは,当然というべきである。 原告は,被告補助参加人が「ポロ」又は「POLO」の単独の語について,商標登録を受けていない旨主張する。 しかし,ラルフ標章は,「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)の商標などと呼ばれ,それが付された商品は,ブランドとして「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)と呼ばれて,いずれも紳士服,婦人服,眼鏡等のファッション関連商品についてラルフ・ローレンのデザインに係る商品に付される商標ないしそのブランドとして著名であったことは前示のとおりである。そして,被告補助参加人が「ポロ」又は「POLO」の単独の語について商標登録を受けていたか否かとは関係なく,取引者・需要者が,ラルフ標章及びそれが付された商品のブランドを上記のように呼んでいる以上,本願商標の出所の混同のおそれを判断するに当たっては,上記事実を前提として判断すべきであることは,当然である。 (3) 原告は,我が国や諸外国において,ラルフ・ローレン以外にも,ポロ関係の多数の登録商標が存在することから,被告補助参加人の商標のみが「ポロ」として周知性があるとみることはできない旨主張する。 しかし,「POLO」の語を含む結合商標が他にも多数存在することは当裁判所に顕著ではあるものの,それらがラルフ・ロ―レンによって使用される「POLO」と明確に区別され,ラルフ・ローレンとは関係のないものとして,著名性を獲得していることは,本件全証拠によっても認めることができない。 すなわち,前認定のとおり,ラルフ標章が「ポロ(「POLO」ないし「Polo」)の商標,ラルフ標章の付された商品のブランドが「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)と呼ばれて,著名である事実に照らせば,需要者が,「POLO」の語を含む結合商標について,ラルフ・ローレンのデザインに係る商品を示すものと理解し,それの付された商品を,著名な「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)ブランドないしその兄弟ブランドであるなどと誤解している可能性も十分にあるのである。 (4) 原告は,審決が「混同のおそれ」を判断するに当たり,本願商標が特定のポロ競技団体を表彰するものと認識,理解されているか否かを問題にしたことは誤りである旨主張する。 しかしながら,前認定のとおり,ラルフ標章が「ポロ(「POLO」ないし「Polo」)の商標,ラルフ標章の付された商品のブランドが「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)と呼ばれて,著名である事実に照らせば,「POLO」を含む他の結合商標については,原則として,すなわち,例外的に,「POLO」とそれ以外の他の特定の文字とが結合した文字から成るものとしてよく知られ,かつ,何らかの事情によりそれがラルフ・ローレンとは関係のないものとしてよく知られるに至っているとか,又は,「POLO(ポロ)」以外の文字の特異性などにより当然にそれがラルフ・ローレンとは関係のないものと認識されるとか等の特段の事情がない限り,取引者・需要者は,「POLO」の語に注目して,ラルフ・ロ―レンに係る著名な「ポロ」の商標ないし「ポロ」ブランドと誤解し,あるいは,ラルフ・ロ―レンに係る著名な「ポロ」の商標とは全体の構成が異なることに気付いたとしても,同じ「ポロ」の一種であって兄弟ブランドないしファミリーブランドであると誤解して,その出所について混同を生ずるおそれがあるものというべきである。したがって,審決が,本願商標に対する認識,理解につき検討,判断したのは正当である。そして,本件全証拠によっても,本願商標が「POLO」以外の他の文字と結合した文字から成るものとしてよく知られ,かつ,ラルフ・ローレンとは関係のないものとしてよく知られるに至っているとか,「POLO」以外の文字の特異性などによって当然にそれが認識されるとかというような特段の事情も窺えないから,本願商標については,前記商品の出所の混同のおそれが認められるものというべきである。 原告は,本願商標は,取引者・需要者がこれに接した場合,ごく自然に,「ポロ競技の統括団体」であると認識し,理解するのが自然であり,ラルフ・ローレンの商標とは非類似のものと理解されるから,「POLO」の部分のみが注目され,直ちにラルフ・ローレンに係る商標が連想されるとはいえない旨主張する。 しかし,1個の商標から2個以上の称呼,観念の生ずることがあることは,前示のとおりであるから,仮に本願商標から,「ポロ競技の統括団体」が認識され,ラルフ・ローレンに係る商標と非類似のものと理解されることがあるとしても,そのことによって,直ちに出所の混同が生じなくなるというものではない。 そして,前記1の(1)認定に係るラルフ・ローレンと関係のある「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)の商標(ラルフ商標)及び「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)ブランドと呼ばれるものの著名性,同(2)認定に係る経験則,及び取引の実情における需要者の注意力を考慮したとき,取引者・需要者は,本願商標の「POLO」の部分から,本願商標を,例えば,「ポロ」の商標と称し,その結果,ラルフ・ローレン又は同人と組織的・経済的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのように,その出所について混同を生ずるおそれがあることは,前示のとおりである。 本願商標について,冷静かつ厳密に分析し,その意味を正確に理解し,取引に当たろうとする者であるならば,誤りなく「(米国の)ポロ競技の統括団体」と認識することになるかもしれない。しかし,簡易迅速を尊ぶ取引の実際,本願商標に係る指定商品の取引の実情における需要者の注意力,「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)の商標あるいは「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)ブランドと呼ばれるものの著名性(換言すれば,ラルフ・ローレンと関係のある「ポロ」ブランドであることの価値)を考慮すれば,本願商標に係る指定商品の取引の実情においては,本願商標のような結合商標であって,かつ全体としては冗長な商標について,そのように冷静かつ厳密に分析し,その意味を正確に理解することが普通であって,そのように理解されないことは,本願商標の登録の可否を論ずるうえで無視できる程度にしか生じないであろう,などということはできないのである。 この点に関する原告の主張も,採用することができない。 (5) 原告は,審決が,ラルフ商標につき,本願商標の指定商品である「眼鏡及び時計等」を含む,広い範囲の「ファッション関連分野」全般にわたって著名であると認定,判断したのは誤りである旨主張する。 確かに,前記認定によれば,ラルフ商標は,被服関係(眼鏡を含む。)の商品に付される商標ないしそのブランドとして著名であることが認められるものの,「時計」については,著名性を獲得したことを認めるに足りる証拠はない。しかしながら,「時計」もいわゆるファッション関連分野の商品の一つであることや,有名ブランドが多様な商品に用いられていることが珍しくないこと(当裁判所に顕著である。)に,前記認定に係るラルフ商標及び「ポロ」ブランドと呼ばれるものの著名性や,取引の実情における需要者の注意力等を併せ考慮すると,本願商標を,時計を含むその指定商品に付した場合には,ラルフ・ローレン又は同人と組織的・経済的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのように,その出所について混同を生ずるおそれがあるというべきである。 したがって,ラルフ標章が時計につき著名性を獲得していないとしても,そのことは出所混同のおそれについての前記判断を左右しないというべきである。 原告の主張は採用できない。 (6) なお,弁論の全趣旨によれば,本願商標は,原告の出資母体である「アメリカ合衆国ポロ協会」の名称の略称であると認められるから,その登録出願に対する保護の要請は,「ポロ」の語に無縁な者により採用されたものの出願との比較においてという限度では,より大きいということができよう。しかし,自己の名称やその略称を用いた商標であっても,それが他人の著名な商標との関係で,混同のおそれが認められると評価される場合には商標法4条1項15号の適用があるというべきであり,前述の諸事情の下では,本願商標が原告の出資母体の略称であることは混同のおそれについての前記判断を左右するものではないというべきである。 (7) そして,他に,以上の認定,判断を覆すに足る主張,立証はない。 4 以上のとおりであるから, 原告主張の取消事由は理由がなく,その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。 |
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よって,本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担,上告及び上告受理
の申立てのための付加期間につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,66条,96条2項を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山下和明 |
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裁判官 | 阿部正幸 |
裁判官 | 山田知司 |