関連審決 | 審判1990-12237 |
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関連ワード | 包装 / 識別機能 / 指定商品 / 記述的商標(3条1項3号) / 普通に用いられる方法 / 3条2項 / パリ条約 / ハウスマーク / 商号 / |
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事件 |
平成
12年
(行ケ)
101号
審決取消請求事件
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原告 レゴシステム エー/エス 代表者 【A】 訴訟代理人弁理士 岡部正夫 同 加藤伸晃 同 産形和央 同 岡部譲 同 臼井伸一 同 藤野育男 同 越智隆夫 同 本宮照久 同 高梨憲通 同 朝日伸光 同 高橋 誠一郎 同 吉澤弘司 同 花村太 被告 特許庁長官【B】 指定代理人 【C】 同 【D】 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2001/02/28 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
特許庁が平成2年審判第12237号事件について平成11年11月11日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、1987年(昭和62年)4月7日にデンマーク国においてした商標登録出願に基づく優先権を主張して、同年9月22日、別紙本願商標欄表示のとおりの構成から成り、指定商品を平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令別表による商品区分第24類「おもちゃ、ゲームその他の娯楽用具、その他本類に属する商品」とする商標(以下「本願商標」という。)につき、商標登録出願(商願昭62-106158号)をしたが、平成2年4月13日に拒絶査定を受けたので、同年7月12日、これに対する不服の審判を請求した。 特許庁は、同請求を平成2年審判第12237号事件として審理した上、平成11年11月11日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年11月29日原告に送達された。 2 審決の理由 審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願商標は、全体としてブロックの図形を表示したものと認識されるにとどまるものであり、これを指定商品「ブロックおもちゃ、組立おもちゃ」に使用した場合、取引者、需用者は、商品の品質を端的に表したものと理解するにとどまり、自他商品を識別すべき標識とは認識しないというべきであるから、商標法3条1項3号に該当するものであり、かつ、請求人(原告)の提出する証拠によっても、同条2項に規定する要件を具備するに至っているとは認められないとした。 |
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原告主張の審決取消事由
審決は、本願商標が「ブロックおもちゃ、組立おもちゃ」の品質を端的に表したにとどまるものではなく、自他商品の識別機能を発揮し得るものであるのに、 商標法3条1項3号に該当する商標であると誤った判断をする(取消事由1)とともに、本願商標は、指定商品について使用をされた結果、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるものであるのに、同条2項に規定する要件を具備しないとの誤った判断をし(取消事由2)、また、パリ条約6条の5A(1)の適用を看過した(取消事由3)ものであるから、違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り) 原告は、1954年(昭和29年)以来プラスチック製のいわゆるブロックおもちゃを製造販売する先駆者であり、その製造に係るブロックおもちゃ(以下「原告製品」という。)は、日本においても昭和37年に本格的な輸入が開始されて以来、有名デパートや玩具店で販売され、原告の名称(略称)である「LEGO(レゴ)」は、ブロックおもちゃの代名詞であるかのように認識されるに至っている。このような原告製品の包装箱には、別紙LEGO標章欄記載の構成から成る標章(以下「LEGO標章」という。)が付され、原告のいわゆるハウスマークとしての役割を果たす標章として位置付けられている。 そして、LEGO標章は、輪郭を構成する四角形の図形の内側背景部が赤色で着色され、その中にロゴ化された「LEGO」の文字が黒色で太く縁取りされて配され、背景部と文字との境界には黄色のラインが配されたものであるが、これと本願商標とは、四角形の図形の中に配されている要素がロゴ化された文字か、ブロックの図形かという相違はあるものの、それ以外の点で構成の軌を一にするものである。 審決は、本願商標について「ブロックの図形のほか、赤塗りの四角形の図形が表されているが、この四角形の図形もブロックの図形を際立たせる程度の印象の希薄なありふれたものであって、全体としてブロックの図形を表示したものと認識されるに止まる」(審決書3頁8行目〜12行目)とするが、上記のように、本願商標は、LEGO標章におけるロゴ化された「LEGO」の文字に相応する形で8個(2×4)の丸い突起を有するブロックの図形が斜めに配されているほか、LEGO標章と統一的な調和を図る態様をもって全体の色彩が配色されているものである。そして、ブロックおもちゃの中には、丸い突起が4個(2×2)、6個(2×3)、8個(2×4)のものがあるが、8個(2×4)の突起は原告製品の最も基本的な構成を成すものである。 このように、本願商標は、原告のハウスマークであるLEGO標章と相まって、原告によって独創的に創作されたものであり、需用者、取引者に対し、単にブロックおもちゃ、組立おもちゃの品質を端的に表したものと理解させるにとどまらず、自他商品の識別機能を十分に発揮することができるものである。 2 取消事由2(商標法3条2項該当性の判断の誤り) 本願商標が、仮に商標法3条1項3号に該当するとしても、本願商標は、指定商品について使用をされた結果、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるものであり、同条2項に該当する。 すなわち、本願商標は、原告製品の一つである「基本セット赤いバケツ」や「BASIC(Free Style)」の包装箱等に付されて、長年にわたり使用され、また、 本願商標を付した原告製品は大々的に宣伝広告されている。今日では、我が国のブロック玩具の市場において、原告の製造販売に係るブロックおもちゃの占有率は80%を占めており、その販売数量、販売店舗数等に照らしても、多くの需要者が本願商標を目にしていることは明らかである。 また、米国、イギリス、オーストリア、スイス、旧西ドイツ及びニュージーランドにおいては、本願商標と構成を同じくする商標について、使用により識別性を獲得したことを基礎としてその登録がされている。 3 取消事由3(パリ条約6条の5A(1)の適用の看過) 本願商標とその構成を同じくする商標は、デンマーク本国及びヨーロッパ共同体を始め、世界各国において「ブロックおもちゃ、組立おもちゃ」を指定商品として商標登録されているところ、パリ条約6条の5A(1)(いわゆるテルケル条項)は、本国において正規に登録された商標が他の同盟国においてもそのままその登録を認められ、かつ、保護される旨を定める。なお、同条の5B2は、その例外として「識別性を有しないもの」を掲げるが、本願商標のような図形商標の識別性の判断については、各国でその判断が大きく異なるものではないというべきであるから、その登録を拒絶されるべき理由はない。また、本願商標の登録を拒絶することは、パリ条約に反しない限り商標の登録を拒絶することができる旨規定する「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定」(TRIPs協定)15条2項の趣旨にも反することになる。 |
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被告の反論
審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。 1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)について 本願商標の指定商品「ブロックおもちゃ、組立おもちゃ」は、プラスチック製の小さな直方体で上下の凹凸にはめ込み、模型を作って遊ぶものであって、そのブロックの一個一個の形状、色彩、凹凸部分の数及び配列等は種々様々であるにせよ、基本的な構成において異なるものではない。また、各社とも、ブロックの包装箱等に、各種構成ブロックの種類を表示したシールを貼付して販売しているのが実情である。 そして、各社が製造販売するブロックの形状、色彩、凹凸部分の数及び配列に照らせば、本願商標に表示されたブロックは、格別独創的な形状のものとはいえず、また、ブロック周囲の地色も単に彩色されているにすぎないものであり、ブロックの縁取りにしても、ブロックを強調している程度にしか認識されないものと解されるから、本願商標の図形は、ブロックおもちゃの各種ブロックの一種を表したものと認識されるにとどまり、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないというべきである。 2 取消事由2(商標法3条2項該当性の判断の誤り)について 原告提出の証拠のうち、まず、本願商標の使用態様を示すという証拠(甲第7〜第13号証)に照らしても、本願商標は、ブロックおもちゃの包装箱に入っている各種ブロックの構成を示す表示の一種と認識されるように表示されており、本願商標を商標として認識されるほどに顕著に表示されているものはない。販売店の私的な証明書(甲第14〜第19号証)については、原告の依頼により作成提出されたわずか6通の証明書で本願商標の周知著名性を証明することはできないというべきである。また、本願商標の付された商品の宣伝広告の状況を証するという証拠(甲第20号証、第21号証の1〜3、第25、第26号証)からは、本願商標がどのような表示で広告宣伝されたか明らかでないし、玩具売場の写真等(甲第22号証の1〜5)においても、本願商標の表示態様は不明である。さらに、原告製品の販売数量(甲第24号証)及び販売店舗数(甲第27号証)をみても、本願商標の使用との関係は明らかでない。 結局、原告の提出した甲号各証を総合しても、本願商標が商標法3条2項に該当するとはいえない。 3 取消事由3(パリ条約6条の5A(1)の適用の看過)について 原告の主張は、本願商標が識別標識としての機能を有していることを前提とした主張であるから失当である。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)について 本願商標の構成は、別紙本願商標欄に表示のとおり、ほぼ正方形の枠内に、 直方体のブロックを斜め上方から見た図形を斜めに配して表示するとともに、当該ブロックの上面に4個ずつ2列の丸い突起を規則的に配し、枠内背景を赤色に、ブロックの周囲を縁取り状に黄色に塗り分けたものである。 他方、株式会社講談社発行の「日本語大辞典」(乙第1号証)、株式会社河田発行のブロックおもちゃの包装箱の貼付シール等(乙第2号証の1〜3)、マスセット株式会社発行のブロックおもちゃのカタログ(乙第4号証)及び株式会社主婦の友社発行のブロックおもちゃのカタログ(乙第5号証)によれば、「プラスチック製の小さな直方体で、上下の凹凸に一個一個がしっかりとはまりこむ」(乙第1号証)ブロックおもちゃは我が国において一般的な玩具の一種であって、そのブロックの形状としては、直方体の上面に複数の丸い突起を配した形態が一般的で、 当該突起の配列として4個ずつ2列とするものもごく普通に見られるものであること、また、ブロックの縦、横、高さの比率等においても、本願商標に表示されているブロックは他社製品のものと大差がないこと、この種のブロックおもちゃの包装箱等に、「部品の種類」などとして各種のブロックの形状を斜め上方から見た図形で表示することも広く行われていることが認められる。 以上の事実に照らすと、本願商標の構成要素であるブロックの図形は、一般的に広く知られているこの種のブロックおもちゃにおける典型的なブロックの形状の一つを表示したものであり、本願商標におけるほぼ正方形の枠及び枠内の赤色の彩色は、主要な構成部分であるブロックの図形の背景を示すもの、ブロックの周囲を縁取り状に黄色く彩色している点も、ブロックを強調する配色と解されるから、 これらの枠や彩色という要素が付加されているにしても、本願商標の図形は、ブロックおもちゃにおけるブロックの図形を、普通に用いられる方法で表示するものというべきである。 なお、原告は、本願商標が原告のハウスマークであるLEGO標章と構成の軌を一にする旨主張するが、両者は、ロゴ化された「LEGO」の文字とブロックの図形という両標章の最も本質的な部分で全く異なった構成となっており、LEGO標章の存在及び原告主張の両者の相似性は、前記認定を左右するものではない。 そうすると、本願商標は、その指定商品である「ブロックおもちゃ、組立おもちゃ」の品質(部品の種類及び形状)を普通に用いられる方法で表示する標章のみから成る商標というべきであり、これが商標法3条1項3号に該当するとした審決の判断に誤りはない。 2 取消事由2(商標法3条2項該当性の判断の誤り)について (1) 原告商品の包装箱(甲第7〜第13号証)、株式会社伊勢丹ほかの販売店作成の証明書(甲第14〜第19号証)、協同広告株式会社作成の広告宣伝証明書(甲第20号証)、原告作成のテレビCM出稿実績その他の集計表(甲第21号証の1〜3、第24、第27号証)、テレビCM画像(甲第25、第26号証)、レゴジャパン株式会社代表者作成の陳述書(甲第28号証)及び在日デンマーク国大使【E】作成の書簡(甲第29号証)によれば、以下の事実が認められる。 ア 原告は、1962年(昭和37年)、日本における原告製品の販売を開始し、昭和53年1月に日本の子会社であるレゴ・ジャパン株式会社(旧商号・日本レゴ株式会社)を設立してからは、同社が原告製品を輸入販売するようになり、 現在、原告製品は、トイザラスほかの玩具専門店、イトーヨーカ堂ほかのスーパーマーケット、高島屋、三越、西武ほかの百貨店、その他玩具を取り扱う全国の主要店舗で販売されており、原告製品を取り扱う店舗総数は3632店に上る。 イ 原告製品には必ずLEGO標章が付されているが、本願商標は、原告製品のうち「基本セット」と呼ばれるセット商品にLEGO標章とともに付されて販売されており、その販売数量は、平成7年〜平成12年の間だけでも、セット商品である品番4132が3万5005個、同4135が2万4873個、同4198が10万5242個、同4244が28万6400個、同4225が3万6361個等に及んでいる。なお、現在の我が国におけるブロックおもちゃ市場における原告製品の占有率は約80%に達する。 ウ また、原告製品については活発な広告宣伝が行われており、そのテレビCM本数は、平成4年〜平成11年の間に15秒スポットのものが1万5116本、30秒スポットのものが7221本に上り、少なくともその一部には、やや見にくい角度ながら原告製品に本願商標が付された状況も映し出されている。 エ 本願商標の使用形態は、原告製品の包装箱等に、おおむねLEGO標章に準ずる体裁(例えば、箱の正面の左上部にLEGO標章、横面のこれに対応する左上部に本願商標をそれぞれ付するなど)で使用されており、構成部品の種類を説明するための表示とは、大きさ、配色、表示位置等から明確に区別されている。 (2) 以上の事実を総合すれば、本願商標は、その指定商品「ブロックおもちゃ、組立おもちゃ」について使用をされた結果、審決時までには、需要者が原告の業務に係る商品であることを認識することができるに至ったものと認めるのが相当であるから、これに反し、本願商標について商標法3条2項に規定する要件を具備するに至っていないとした審決の判断は誤りというべきである。 3 以上のとおり、原告主張の審決取消事由2は理由があり、取消事由3について判断するまでもなく、審決は取消しを免れない。 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 長沢幸男 |
裁判官 | 宮坂昌利 |