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関連審決 審判1997-18725
関連ワード 識別力 /  役務商標 /  指定商品 /  指定役務 /  周知性 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  4条1項15号 /  称呼(称呼類似) /  国内 /  無効審判 /  更新登録 /  外国 /  継続 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 209号 審決取消請求事件
原告 株式会社エス・エス・アイ代表者代表取締役 【A】
訴訟代理人弁護士 井上定明
同 弁理士 稲垣仁義
被告 ディルカーネギー アンド アソシエイ ツ インコーポレーテッド代表者 【B】
訴訟代理人弁護士 森内憲隆
同 左高健一
同 弁理士 小沢 慶之輔
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/02/28
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成9年審判第18725号事件について平成12年5月1日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、「ディル・カーネギー・プログラム」を横書きして成り、商標法施行令別表の区分による第16類「印刷物」を指定商品とする登録第3100976号商標(平成5年2月2日登録出願、平成7年11月30日設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者である。
被告は、平成9年10月29日、原告を被請求人として、本件商標登録の無効審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成9年審判第18725号事件として審理した上、平成12年5月1日に「登録第3100976号の登録を無効とする。」との審決をし、その謄本は同月26日原告に送達された。
2 審決の理由 審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、請求人(被告)が人材能力の開発講座等の役務に使用してきた「DALE CARNEGIE(デール・カーネギー)」の文字を書して成る別紙引用商標目録イ〜ト記載の商標(以下「引用商標」という。)は、取引者、需用者に広く認識されるに至っていたところ、本件商標は、引用商標と同一又は類似の構成より成り、本件商標をその指定商品に使用するときは、これに接する取引者、需要者は請求人(被告)又はこれと経済的、組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれがあるから、本件商標は、商標法4条1項15号に違反して登録されたものであり、同法46条1項1号により無効とすべきものとした。
原告主張の審決取消事由
1 審決は、引用商標は周知であるとの誤った認定に基づき、本件商標をその指定商品に使用した場合の商品の出所混同のおそれについての判断を誤った(取消事由)ものであるから、違法として取り消されるべきである。
2 取消事由 (1) 引用商標の周知性について 審決は、引用商標が人材能力の開発講座等の役務に長期にわたって使用された結果、我が国においても本件商標の登録出願時以前に取引者、需用者に広く認識されるに至った旨認定するが、その判断の基礎とした関係証拠は、米国における「デール・カーネギー」の周知著名性を示すものではあっても、我が国における周知著名性を示すものではない。すなわち、故【C】が「人を動かす」等のベストセラーの著者として米国で認知度の高い人物であることは確かであるが、その我が国における認識度は高いものではない上、被告提出書証は故【C】の著作物を紹介するものがほとんどで、人材能力開発講座に関するものはわずかである。
そして、被告及び使用権者(本件商標出願当時は株式会社ジャパンインスチチュート、平成6年以降はパンポテンシア株式会社(以下「パンポテンシア」という。))は、本拠である東京地区においても講座の宣伝広告をほとんどしておらず、協賛企業を中心とした講座の開催にとどまり、個人参加は例外的な扱いとなっているなど、不特定多数を相手に顧客を開拓するという講座事業の一般的なやり方と大きく異なる閉鎖的な営業しかしていない。こうした被告の講座事業の方法からすると、これを長年にわたり継続的に行ってきたとしても、被告の引用商標が需用者の間で広く認識されることはあり得ないというべきである。
(2) 商品の出所混同のおそれについて 被告は、上記のとおり、限定された需用者を相手に閉鎖的な営業しかしてこなかったから、本件商標と引用商標とでその需用者層を異にし、その間に出所混同のおそれは生じないというべきである。また、原告は、引用商標を構成する「デール・カーネギー」と区別するために本件商標を「ディル・カーネギー」としたものであり、被告の信用を利用する意図など有していなかった。
被告の反論
1 審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
2 引用商標の周知性について 引用商標が外国において著名であることは乙第1号証の1〜12から明らかであるところ、国際的交流が活発化している中で、現在では、外国で著名なものは、少なくとも我が国の同一業界の需用者間では周知となっているといっても過言ではないが、日本国内に限定しても、引用商標の周知性は明らかである。すなわち、「DALE CARNEGIE(デール・カーネギー)」の名称による被告の人材能力開発講座は、日本においても被告の著作権及び商標権の利用権者又は使用権者によって長年行われてきたところであり、また、この講座やその創始者である故【C】の著作については、我が国内の雑誌等にしばしば取り上げられている。なお、故【C】の著書「人を動かす」(原題「How to Win Friends and Influence People」)は、株式会社研究社発行の英和辞典「リーダーズ・プラス」(乙第5号証)によれば、聖書に次ぐベストセラーとまでいわれたものである。しかも、原告代表者である【A】の翻訳に係る「運命を動かした男、デール・カーネギー」と題する著作(乙第6号証)において、故【C】の開講した「話し方コース」という講座が「今では世界的にその名を知られている」と記載されている。
3 商品の出所混同のおそれについて 原告は、被告の事業の需用者とは需用者層を異にする旨主張するが、顧客層に傾向の相違があることをもって需用者を異にするということはできない。かえって、原告は、その配布するパンフレット(乙第7号証)の中で「半世紀以上にわたって、世界中の人々に支持され続けている【C】の実践ノウハウによって・・・」と述べるなどしており、出所混同のおそれがあることは明らかである。
当裁判所の判断
1 引用商標の周知性について (1) 乙第1号証の1〜12、第2、第3号証、第4号証の1〜12、第5、第6号証によれば、以下の事実が認められる。
ア 故【C】(1888年生、1955年没)は、米国の著述家・講演者であって、「Dale Carnegie Course」等の名称による話し方講座ないし能力開発講座(以下「本件講座」という。)の創始者として、また、ベストセラー「人を動かす」(原題「How to Win Friends and Influence People」)等の著者として世界的に著名であって、我が国においても、その著書又は本件講座は、講談社発行の「週刊現代」昭和53年8月31日号(乙第4号証の1)、マキノ出版発行の「特選街」昭和54年11月号(同号証の2)、世界文化社発行の「BIGMAN」昭和60年6月号(同号証の3)、PHP研究所発行の「THE21」平成5年6月号(同号証の4)、潮出版発行の「潮」平成3年5月号(同号証の5)、小学館発行の「週刊ポスト」平成7年8月4日号(同号証の6)及び平成7年8月11月号(同号証の7)、日経BP社発行の「日経ビジネス」昭和60年6月12日号(同号証の8)及び平成9年8月18日号(同号証の10)、平成7年5月10日付け「毎日新聞」(同号証の9)、経済界発行の「蘇る!」平成9年9月号(同号証の11)並びにみくに出版発行の「中学受験合格レーダー」平成9年8月号(同号証の12)の各紙誌において、「私が薦めるこの一冊」などとして取り上げられている。
イ 本件講座は、1912年に故【C】によってニューヨークで開講されたものであるが、その後、被告又はそのライセンシーを主宰者として、世界数十か国で実施されており、我が国においても昭和38年の開講以来本件商標の登録出願日までに30年以上の実績を持ち、この間6万名余りが本件講座を修了している。なお、原告代表者【A】も、その訳書「運命を動かした男、デイル・カーネギー」(乙第6号証)の「訳者あとがき」(平成7年5月25日の日付がある。)において「本書の主人公【C】・・・はそれらのノウハウを基にして、今では世界的にその名を知られている『話し方コース』という講座を開講し、多くの受講生がそこで学んだ。」と記載しているところである。
ウ 被告及びその著作権・商標権の使用権者であるパンポテンシアは、本件講座の総称として「デール・カーネギー・トレーニング」との名称を用いるとともに、その中に「デール・カーネギー・コース」、「デール・カーネギー・セールス・コース」等「デール・カーネギー」の語を含む名称の計六つのコースを設定している。そして、被告が商標権を有する引用商標の使用権者であるパンポテンシアは、引用商標に係る標章(「DALE CARNEGIE」、「Dale Carnegie」、「デール・カーネギー」、「DALE CARNEGIE COURSE」等)を本件講座に係る役務を表示するものとして使用してきた。
(2) 以上の認定事実を総合すれば、引用商標の「Dale Carnegie(デール・カーネギー)」の標章は、原告ないしそのライセンシーの提供する人材能力開発講座の役務を表示するものとして、本件商標の登録出願時(平成5年2月2日)までには、我が国においても取引者、需用者に広く知られており、かつ、その周知性は審決当時も継続していたと認めるのが相当である。
原告は、本件講座は、限定された顧客を相手に閉鎖的な営業をしているにすぎず、周知とはいえない旨主張するが、上記認定事実に照らすと、原告の営業は、その顧客が限定されておらず、また、営業が閉鎖的でもないと認められるから、原告の主張は、その前提を欠くものであって、採用することはできない。
2 商品の出所混同のおそれについて 本件商標を構成する「ディル・カーネギー・プログラム」のうち、「ディル・カーネギー」の部分は、前示のとおり周知標章と認められる引用商標の「Dale Carnegie(デール・カーネギー)」と対比した場合に、特に外来語については、
「ディ」と短音で発音、表記すべきところ、「デー」と長音で発音、表記することも少なくないことにかんがみると、称呼及び構成において酷似することは明らかであり、また、「ディル・カーネギー・プログラム」は、「ディ」を1音として考えても12音(長音を含む。)とやや冗長であって、全体として一体不可分にのみ称呼されるべき理由も見当たらない。そして、「プログラム」の文字部分は、「番組。予定。計画。」等(岩波書店発行「広辞苑」第5版)を意味する言葉として広く親しまれている単語で、それ自体、自他商品識別力の希薄な部分と考えるのが相当である。そうすると、本件商標をその指定商品に用いた場合には、これに接する取引者、需用者は、「ディル・カーネギー」の部分に着目するとともに、これに酷似する被告の引用商標「Dale Carnegie(デール・カーネギー)」標章を想起し、被告又は被告と経済的、組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、その出所について混同を生じさせるおそれがあるというべきである。
なお、原告は、本件商標と引用商標とはその需用者層を異にする旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。また、原告は、被告の信用を利用する意図を有していなかったとも主張するが、このことは商標法4条1項15号の適用を妨げるものではない。
したがって、本件商標をその指定商品に使用した場合の商品の出所混同のおそれを肯定した審決の判断に誤りはないというべきである。
3 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
追加
引用商標目録イ登録第673178号商標構成別添審決謄本写し末尾「引用商標(イ)」欄記載のとおり(「ディル・カーネギー・プログラム」)指定商品平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令別表の区分(以下「旧商品区分」という。)による第26類「印刷物、書画、彫刻、写真、これらの附属品、ただしこの商標が特定の著作物の表題(題号)として使用される場合を除く」登録出願日昭和38年2月4日設定登録日昭和40年4月12日新登録日平成8年3月28日(3回目)ロ登録第673179号商標構成別添審決謄本写し末尾「引用商標(ロ)」欄記載のとおり(肖像写真と署名体による「DaleCarnegie」)指定商品、登録出願日、設定登録日及び更新登録日は、いずれも上記イと同じ。
ハ登録第944088号商標構成別添審決謄本写し末尾「引用商標(ハ)」欄記載のとおり(「デール・カーネギー」)指定商品旧商品区分第26類「印刷物、書画、彫刻、写真、これらの附属品」登録出願日昭和44年7月8日設定登録日昭和47年1月14日更新登録日平成4年10月29日(2回目)ニ登録第3091527号商標構成別添審決謄本写し末尾「引用商標(ニ)」欄記載のとおり(「DALECARNEGIECOURSE」)指定役務商標法施行令別表の区分による第41類「人材能力開発の技術と知識の教授」登録出願日平成4年9月30日設定登録日平成7年10月31日ホ登録第3091528号商標構成別添審決謄本写し末尾「引用商標(ホ)」欄記載のとおり(「デール・カーネギー」)指定役務上記ニと同じ。
登録出願日平成4年9月30日設定登録日平成7年10月31日ヘ登録第3138449号商標構成別添審決謄本写し末尾「引用商標(ヘ)」欄記載のとおり(筆記体による「DaleCarnegie」)指定役務上記ニと同じ。
登録出願日平成4年9月30日設定登録日平成8年3月29日ト登録第3174259号商標構成別添審決謄本写し末尾「引用商標(ト)」欄記載のとおり(肖像写真及び署名体による「DaleCarnegie」)指定役務上記ニと同じ。
登録出願日平成4年9月30日設定登録日平成8年7月31日
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利