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関連審決 異議1997-90161
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19行ケ10061審決取消請求事件 判例 商標
平成20行ケ10042審決取消請求事件 判例 商標
平成15ワ11661商標権侵害差止等請求事件 判例 商標
平成19行ケ10205商標登録取消決定取消請求事件 判例 商標
平成18行ケ10356審決取消請求事件 判例 商標
関連ワード 識別機能 /  指定商品 /  周知性 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  4条1項15号 /  顧客吸引力(グッドウィル) /  類似性(類否判断) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  対比的(対比的観察) /  取引の実情 /  出所の混同 /  使用許諾 /  継続 /  非類似 /  有名ブランド / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 162号 商標登録取消決定取消請求事件
原告 株式会社メイポール・エス・アー・ジャパン代表者代表取締役 【A】
訴訟代理人弁理士 溝上満好
同 弁護士 溝上哲也
同 岩原義則
被告 特許庁長官【B】
指定代理人 【C】
同 【D】
被告補助参加人 ザ ポロ/ローレンカンパニー リミテッ ド パートナーシップ代表者 【E】
訴訟代理人弁理士 曾我道照
同 黒岩徹夫
同 岡田稔
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/02/08
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は参加によって生じたものも含め原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が平成9年異議第90161号事件について平成12年3月29日にした決定を取り消す。
前提となる事実(争いのない事実)
1 特許庁における手続の経緯 原告は、別紙2記載のとおりの構成よりなり、指定商品を商品及び役務の区分第18類の「毛皮、かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ、傘」とする登録第4013244号商標(平成7年9月27日商標登録出願、平成9年6月20日設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者である。
被告補助参加人は、平成9年10月17日、本件商標について登録異議の申立てをし、特許庁は、この申立てを平成9年異議第90161号事件として審理した結果、平成12年3月29日に「登録第4013244号商標の登録を取り消す。」との決定をし、その謄本は同年4月17日に原告に送達された。
2 決定の理由 別紙1の決定の写しのとおり、
「本件商標は、疾走する右横向きの馬を描き、その馬の前に棒状のもの(マレット)を所持して立つ人物を描いてなるものであるが、該人物が特徴ある棒状のもの(マレット)を所持していることにより、ポロ競技を人馬をもって象徴的に表してなるものとみるのが相当といえるものであり、その全体構成より「ポロ」の称呼
観念を生ずると認められる。他方、別紙3記載の各標章(以下「引用標章」という。)の構成に係る「polo」「Ralph Lauren」、「Polo」「by Ralph Lauren」等の文字と共に表されているマレットを振り上げ騎乗してポロ競技を行っているポロプレーヤーを表示した図形部分(以下、
「ポロ図形」といい、これらの図形部分からなる標章について、「ポロ図形標章」という。一番上の図形について、別紙4参照。)は、アメリカの著名なデザイナーである【F】の考案によるもので、1970年ころにはアメリカでは著名になり、
ポロ図形、「Polo」「Ralph Lauren」の各文字及びこれらの組合せよりなる商標を付した「ネクタイ」、「洋服」、「眼鏡」等が販売され、我が国においても、少なくとも本件商標の出願前、既に著名になっていて、引用標章が「ポロ」と略称されていたことが認められる。そうすると、本件商標をその指定商品に使用した場合には、これに接する取引者、需要者は、周知になっている【F】にかかるポロ図形標章を連想し、該商品が【F】又は同人と組織的・経済的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのごとく出所の混同を生ずるおそれがあるから、本件商標の登録は、商標法4条1項15号の規程に違反してされたものであり、取り消すべきである。」旨認定、判断した。
原告主張の決定の取消事由の要点
決定は、被告補助参加人が使用する引用標章について、その周知性の認定を誤り、また、本件商標より生じる称呼観念の認定を誤っている。また、決定は、本件商標と引用標章との間で出所の混同のおそれはないのに、本件商標について、被告補助参加人又は同社と組織的、経済的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのごとく出所の混同を生ずるおそれがあると誤った判断をしている。したがって、決定は、違法なものとして取り消されるべきである。
1 引用標章の周知性の認定の誤り 決定は、「POLO」、「Polo」、「ポロ」の各商標について、【F】のデザインに係る被服類及び眼鏡製品に使用する標章として、遅くとも昭和55年頃までには既に我が国において取引者、需要者間に広く認識されるに至っていたものと認められ、その状態は現在においても継続している旨、引用標章が我が国においても本件商標の出願前に既に著名なものとなっていた旨認定しているが、到底認め難い。
(1) 被服の分野における「Polo」の商標は、我が国では古くから【F】とは無関係の商標権者が有しており、被告補助参加人も「Polo」単独では使用せず、必ず「Polo by RALPHLAUREN」と表示して使用している。また、インターネットをみると、有名な「楽天」のオークションサイトにおけるブランド一覧には、「ポロ」の表示はなく、「ラルフローレン」だけであり(甲第88号証)、週間ファッション情報の「BBCブランドデータ」についても同様に、「ポロ」の表示はなく、「ラルフローレン」だけである(甲第89号証)。すなわち、引用標章について、需要者は「ラルフローレン」と認識し、区別しているのが実情である。
また、ポロ図形標章が被服の分野において登録されたのは最近のことであり、ポロ競技中のプレーヤーを表した図形については、被告補助参加人と関係のない商標も多数登録され、かつ、現に使用されている事実がある(甲第13ないし第69号証、甲第71ないし第73号証参照)。
(2) また、本件商標と構成を同じくする商標が登録されている事実があり、これらの商標の指定商品は、本件商標の指定商品以上に被告補助参加人の業務と密接な関係を有している。すなわち、商標登録第4211352号の商標(甲第11号証)は、本件商標と同日に出願された本件商標と構成を同じくする商標であり、その指定商品を第25類「洋服、コート、セーター類、ワイシャツ類、寝巻き類、下着、エプロン、えり巻き、靴下、ショール、スカーフ、手袋、ネクタイ、ネッカチーフ、マフラー、バンド、ベルト、靴類」等として、平成10年11月13日に登録されている。また、商標登録第4211351号の商標(甲第12号証)も、指定商品を第24類「織物(畳べり地を除く。)、布製身の回り品、布団、カーテン」等として、平成10年11月13日に登録されている。このように、本件商標と同日に出願され、その構成を同じくする商標が、第24類及び第25類の指定商品においては登録を受けおり、【F】は服飾デザイナーであるから、本件商標の指定商品が、これらの商標の指定商品以上に、被告補助参加人の業務と密接な関係を有しているとは到底考えられない。
2 本件商標から生じる称呼観念についての認定の誤り 本件商標は、疾走する右横向きの馬と、この馬の前に立つ人物を描いてなる独創的な構図の商標であって、その特異な外観によってのみ取引者・需要者に認識されるから、我が国におけるポロ競技の認識の薄さを前提にすれば、本件商標は、決定のように「ポロ競技を人馬をもって象徴的に表してなるものとみる」ことは到底できないし、本件商標から「ポロ」の称呼観念を生じることはないというべきである。
(1) 本件商標の特異な外観について 決定は、本件商標は、ポロ競技を人馬をもって象徴的に表してなるものと認められるから、その構成全体より「ポロ」の称呼観念をも生ずると認定している。しかし、我々が「ポロ競技」を象徴的に表す構図として真っ先に思い浮かべるのは、
馬に騎乗した「競技中のポロプレーヤー」であって、本件商標のように、疾走する右横向きの馬と、この馬の前に立つ人物を描いた構図が「ポロ競技」を表すのに普通一般に用いられていることを示す事実は存在しない。
これに対して、引用標章中のポロ図形標章は、馬に騎乗した人物が、右手に持ったマレットを振りかざしている様子を左斜め前方から描いた「競技中のポロプレーヤー」の図形である。そこで、本件商標とポロ図形標章を比較して見ると、両者を対比的に観察する場合には、一見して明らかに構成の軌が異なるので、この判然と区別し得る外観上の差異により、誤認混同されないことは明らかであり、したがって、本件商標は、ポロ図形標章とは全く非類似の商標である。
また、両者は、馬とポロ競技のプレーヤーと思わしき人物を描いている点で共通するとしても、その構図、表現方法において根本的な差異があり、また、次のとおり、本件商標から特定の称呼観念は生じないと認められるから、市場において、
時と所を異にして隔離的に対比する場合についても、誤認混同されるおそれは全くない。すなわち、本件商標は、疾走する右横向きの馬と、この馬の前に立つ人物を描くという極めて独創的な構図をとっており、本件商標は、この特異な外観によって取引者、需要者に把握されるものであるから、馬に騎乗した「競技中のポロプレーヤー」を左斜め前方から描いたポロ図形標章と誤認混同されるようなことはおよそ考えられない。また、本件商標は、人物の黒い帽子、半そでのポロシャツ、乗馬靴と、白いズボン、腕、顔及び首が、コントラストをもって表現されているので、
馬に騎乗した「競技中のポロプレーヤー」を、黒塗りの表現で描いた引用標章(別紙4参照)とは、看者の受けるイメージとしても、全く異なるものというべきである。
このように、本件商標は、引用標章とは全く非類似の商標であって、決定が、ポロ競技を人馬をもって象徴的に表してなるものとみることにより直ちにその構成全体より「ポロ」の称呼観念を生ずると認めている点には、重大な誤りがある。
(2) 本件商標から生ずる称呼観念について ア 本件商標は、ある人からは、「ウマノマエニタツジンブツ」と称呼され、「馬の前に立つ人物」のイメージで取引きされるかも知れないし、別の人からは、「ヒトノハイゴヲカケルウマ」と称呼され、「人の背後を駆ける馬」のイメージで取引きされるかも知れない。要するに、本件商標は、上記のとおりの特異な外観によってのみ取引者、需要者に把握されるものであって、特定の称呼観念を生じさせるものとは認められない。過去の特許庁の判断の例をみても、馬とマレットを所持した人物を構成中に含む図形商標であっても、看者の印象に強く残る特異な構図よりなるものである場合には、「ポロ」の称呼及び観念は生じないと認定されている(甲第2号証、第4号証、第6号証、第8号証)。本件商標は、人物が馬に騎乗していないという点で、これらの商標以上に独創的な構成であることを鑑みれば、「ポロ」の称呼及び観念が生じることがないことは明らかである。
イ 本件商標が、「ポロ」の称呼観念を生じさせるためには、まず、
@本件商標が「ポロ競技」を認識させること、すなわち、「ポロ競技」を人馬をもって象徴的に表してなるものとみることができ、さらに、A「ポロ競技」を認識させるとしても、「ポロ」の称呼観念が生じさせるか否かが吟味されなければならない。この観点から判断すると、「馬」と明らかにポロ競技者に特有な「マレット」をもった人物との組み合わせよりなる本件商標に接する需要者は「ポロ」と称呼する旨の被告の主張は明らかに誤りである。
そもそも、我が国における「ポロ競技」の認識の程度をみると、例えば、1993年(平成5年)1月に発行された「イミダス」では、スポーツの項目として約70頁にわたり設け、平均的な一般人としてはマイナー競技といわれる競技まで解説をしているが、その中には、「ポロ競技」はない(甲第81号証)。また、1987年(昭和62年)4月発行の「コンサイス外来語辞典」において、「ポロ」の項には、「騎乗競技の1つ。馬に乗りスティックでボールを打って」とあり、「ポロ競技」に「マレット」という「ポロ競技」に特有な道具が使われるという説明はない(甲第82証)。さらに、同じ辞典の「マレット」の項には、「ゲートボール・クロッケー」と用途が書かれてあり、やはり、「ポロ競技」に「マレット」という「ポロ競技」に特有な道具が使われるという説明はない。さらに、日本語大辞典においては、そもそも「マレット」という用語が収録されていない(甲第83号証)。
このように、我が国における「ポロ競技」の認識の程度としては、せいぜい引用標章のように「馬に乗りボールを打つ競技」とぐらいしか認識されていないのであり、我が国における「ポロ競技」の認識からすると、「ポロ競技」と認識されるためには、「馬に乗った」人物が「ボールを打っている」状態でなければならない。
反対にいえば、「馬にも乗っておらず」、「ボールを打っている状態でもない」本件商標が「ポロ競技」をしているものと認識されるとは到底考え難い。
この点について、被告は、本件商標の描いた人物が有する棒状のものを明らかにポロ競技者に特有な「マレット」であると断定するが、以上のとおりの我が国における「ポロ競技」の認識からすると本件商標にある棒状のものをみて即座に「マレット」であると断定されるとは到底考え難い。また、被告は、本件商標がその各構成要素として、「ポロシャツ、乗馬ズボン、乗馬用帽子(ヘルメット)及び乗馬靴と思われる身ごしらえの人物、その人物が肩上にかざしているT字型スティック(マレット)及び疾走する馬」を有しているとするが、本件商標の図柄から明らかにいえることは、「人物が棒状のものを持っている」点及び「疾走する馬」が存在する点のみである。他の被告主張の事実は、本件図柄からは明確に読みとることはできないし、「マレット」については、我が国におけるポロ競技の認識からすれば、馬にも乗っていない人物が持つ棒状のものを「マレット」と認識することが困難であることは、上記のとおりである。さらに、被告の主張で問題なのは、被告が主張する本件商標の各構成要素は、まさに「ポロ競技」一般についての構成要素であることである。被告は、自ら「ポロ」と称されるのは、騎乗しマレットを振り上げた図形であると主張しているにもかかわらず、スポーツ一般の図柄として本来誰でも使用できるはずの「ポロ競技」一般の図柄について描けば、【F】の使用に係る「ポロプレーヤーの図形」を想起、連想させると主張していることになり、矛盾があるばかりか、従来被告補助参加人が主張してきた類似性判断をさらに広げる不当な主張である。被告が引用する証拠や判例も「騎乗の競技中のポロプレーヤー」に関するものであり、本件商標に描かれた馬と棒状のものを持った人物について論じたものではない。
このように、我が国における「ポロ競技」の認識の程度を前提とすれば、本件商標から「ポロ競技」を認識されることはあり得ないが、仮に、本件商標が「ポロ競技」を認識させるとしても、本件商標が「ポロ」の称呼観念を生じさせることはない。本件商標は、馬と棒状のものを持った人物が描かれているが、「ポロ競技」を描いたものが全て「ポロ」と称呼観念されるわけではない。我が国において「ポロ競技」の認識が薄いとしても、「ポロ競技」は、ヨーロッパ上流階級のスポーツであるから(乙第3号証)、「ポロ競技」を描いたものが全て「ポロ」と称呼観念されるはずはないからである。被告の主張は、我が国における「ポロ競技」の認識の薄さを利用して安易に引用標章の類似性判断を広げるもので、被告の主張はあたかも「馬」と「棒を持った人物」が描かれれば全て「ポロ」の称呼観念が生じるという乱暴な主張である。
本件商標から「ポロ」の称呼観念が生ずるためには、被告が主張するように、
馬に乗ってポロ競技に特有な道具であるマレットを振りかざした「ポロプレーヤーの図形」が周知、著名な標章であると認められるとするだけでは足りない。本件商標のように、馬にも乗っておらず、単に棒状のものを持っている図形についてまで、「ポロ」と認識させるほどの周知、著名な標章であることを認定する必要がある。
しかしながら、被告補助参加人の有する引用標章はそれほど強力な周知、著名な標章と認定することはできないし、また、そう認定することは妥当でもない。なぜならば、馬に乗ってポロ競技に特有な道具であるマレットを振りかざした「ポロプレーヤーの図形」は、本来誰でも認められるべきスポーツの特別な状態を描写したに過ぎないからである。それを越えて、「ポロ競技」一般に、さらには、本件商標のように馬にも乗っておらず、単に棒状のものを持っている図形についてまで「ポロ」を認識させるほど周知、著名な標章と認定することはできない。仮に、馬に乗ってポロ競技に特有な道具であるマレットを振りかざした「ポロプレーヤーの図形」が「ポロ競技」一般よりよく知られた強力な周知、著名な標章であるとするならば、周知、著名な標章であればあるほど、本件商標のように全く異なる図柄の商標とは全く非類似の商標として、混同されることなく区別されるはずである。
ウ 以上のとおり、仮に、ポロ図形標章が、取引者、需要者の間で、
「ポロ」と称呼し、観念されているものだとしても、特定の称呼観念が生じない本件商標とは比較すべくもないし、仮に、ポロ図形標章につき、【F】が自己のデザインした商品に使用する商標として需要者に知られているものだと仮定しても、
それは、「競技中のポロプレーヤー」を描いたものとして取引者、需要者に記憶されているのであって、本件商標は、「競技中のポロプレーヤー」を描いたものではなく、「ポロ」の称呼及び観念が生じるものでもないから、本件商標によって、引用標章が想起されるようなことは、全くあり得ないといわざるを得ない。
3 混同のおそれについての判断の誤り 本件商標は、上記のとおり、ポロ図形標章と異なる特異な構図からなるものであるところ、取引者、需要者は、【F】が、引用標章中のポロ図形標章とは全く別異の商標を、自他の商品を識別する商標として採択することなどあり得ないことも充分認識しているので、本件商標は、商標権者によってその指定商品に使用されても、被告補助参加人あるいは同社と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのごとく、その商品の出所について、取引者、需要者に誤認混同させるおそれは全くないというべきであり、これを肯定した決定の判断は明らかに誤りである。
(1) ポロプレーヤーを描いた図形を含むブランドの存在について 馬に騎乗した「競技中のポロプレーヤー」の図形を構成中に含む商標は、近時、
各種商品において実際に採択されており、これらの商標を付したブランドの商品は、しばしば市場で見かけられるものである(甲第75ないし第77号証参照)。
そのため、取引者、需要者が、本件商標に接するとき、馬とポロプレーヤーと思わしき人物を描いているというだけで、【F】に関係する商品であるかのように誤って直感することは考え難い。すなわち、取引者、需要者は、市場には馬とマレットを所持したポロプレーヤーを描いた図形を含むブランドがあることを流通している実際の商品を見て知っており、これらのブランドの商品を、【F】とは出所が異なることも充分認識した上で、支持しているのであり、【F】のブランドと他のブランドは、市場において出所の混同を生じることなく共存している。このことは、1996年度の年商30億円以上のライセンスブランドの売上高ランキング(甲第78号証)において、「ポロ・ラルフローレン」及び「ラルフローレン」のブランドが、19位から20位にランクされる一方、「ポロクラブ」(甲第37ないし第40号証)のブランドは、年商161億5千万円で第24位、「ビバリーヒルズポロクラブ」(甲第26ないし第36号証)のブランドは、年商130億円で第34位、「サンタバーバラポロ&ラケットクラブ」(甲第13ないし第25号証)のブランドは年商48億円で第82位にランクされている事実からも首肯することができる。
このように、【F】のブランドと馬とマレットを所持したポロプレーヤーを描いた図形を含むブランドは、市場において、出所の混同を生じることなく共存している状況の中で、本件商標が、その構成中に、馬とポロプレーヤーと思わしき人物を描いてなる図形を含むというだけで、引用標章との関係で商標法4条1項15号に違反して登録されたものであると断定することは、市場における取引の実態にはそぐわず、相当ではないといわざるを得ない。
ましてや、極めて独創的な構図である本件商標が、その指定商品に使用されたとしても、引用標章が想起されることはないから、被告補助参加人に関係する商品であるかのように出所の誤認混同を生じるようなことは、全く考えられないのである。
(2) 取引者、需要者の年齢層等と引用標章の認識の状況について 引用標章の指定商品の取引者、需要者は、いわゆるおしゃれに敏感な年齢層であることを指摘することができる。そして、上記のとおり、外観において全く異にする本件商標と引用標章、しかも「polo」等の引用標章を連想させる文字が全くない本件商標に接したときに、取引者、需要者が「ポロ」の称呼及び観念が生じ誤認混同が生じるということは全く考えられない。
また、被告の主張は、現在における取引者、需要者の程度を低く見積もりすぎている点で問題である。現在、特にファッション関連の商品に接する取引者、需要者の認識程度は、相当高いものである。例えば、ある有名なブランドが、兄弟ブランドないしファミリーブランドを新たに作り出せば、その情報は雑誌、テレビ、インターネットなどを通じてあっという間に伝わり、取引者、需要者は兄弟ブランドないしファミリーブランドの存在を知るのである。また、そのような者にとって、真実、有名ブランドの兄弟ブランドないしファミリーブランドであるか否かというのは最も重視する情報であり、情報が氾濫しているからといって、誤解に基づき購入することはあり得ない。また、製造メーカーにとっても、ブランドを維持することについて注意を払わなければ生き残ることができないのであるから、兄弟ブランドないしファミリーブランドを新たに作り出せば、取引者、需要者にいち早く伝える努力をし、万一、兄弟ブランドないしファミリーブランドと誤解されているならば、いち早く訂正の情報や注意を呼びかける情報を取引者、需要者に提示するのである。被告の主張は、時代の流れに全く沿っていない主張であり、現在における取引者、需要者の能力を低く見積もりすぎている主張である。
これらの取引者、需要者は、【F】が、引用標章とは全く別異の商標を、自他の商品を識別する商標として採択することなどあり得ないことも充分認識しているので、本件商標は、商標権者によってその指定商品に使用されても、被告補助参加人あるいは同社と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのごとくその商品の出所について誤認混同させるおそれはない。
被告の反論の要点
原告が指摘する決定の認定、判断はいずれも正当であり、決定に原告主張の違法はない。
1 ポロ商標の周知性について 決定で認定したとおり、昭和53年7月20日発行の「男の一流品大図鑑」(乙第2号証)、昭和58年9月28日発行の「舶来ブランド事典’84ザ・ブランド」(乙第3号証)、昭和63年10月29日付日経流通新聞(乙第4号証)等によれば、以下の事実が認められる。
すなわち、米国在住のデザイナーである【F】が、1967年に幅広ネクタイをデザインして注目され、1968年にポロ・ファッションズ社を設立して、ネクタイ、シャツ、セーター、靴、かばん等のデザインをはじめ、ファッション関連の商品について、トータルな展開を図ってきたこと、同人は、1971年には婦人服デザインに進出し、また、1970年と1973年に「コティ賞」を受賞したほか、
数々の賞を受賞し、1974年には映画「華麗なるギャツビー」の主演俳優【G】の衣装デザインを担当して、米国を代表するデザイナーとしての地位を確立したこと、そのころから、同人の名は我が国服飾業界にも広く知られるようになり、そのデザインに係る一群の商品には、引用標章(乙第1号証)中の横長四角形中に記載された「Polo」の文字と共に「by RALPH LAUREN」の文字及び「ポロプレーヤーの図形」(ポロ図形)の各標章が用いられ、これらは「ポロ」の略称でも呼ばれていること、我が国では、昭和51年に西武百貨店が、ポロ・ファッションズ社から使用許諾を受けて、昭和52年より【F】のデザインに係る紳士服、紳士靴、サングラス等の、昭和53年からは婦人服の輸入販売を開始したことが認められる。
そして、これらの事実に基づけば、ポロ図形標章が、被服類等において、本件商標の出願前に既に周知、著名な標章であったことは明らかであって、その状態は現在おいても継続していると認められる。この主張が正当であることは、例えば、
「ポロプレーヤーの図形」が著名なものであること、それが「ポロ」と称され、
【F】のデザインに係る紳士服、紳士靴、婦人服、サングラス等に使用されて、現在に至っていると認定した判決(東京高等裁判所平成11年(行ケ)第298号・平成12年2月1日判決)があり、また、「ポロプレーヤーの図形」は、【F】の考案によるもので、これが好評を得て、・・・世界的にも有名になり、・・・日本において、文字としての「RALPHLAUREN」以上に高い著名性と識別性を有していたことも認められると認定した判決(東京地方裁判所平成8年特(わ)第151号・平成9年3月24日判決)があることからも裏付けられる。
したがって、【F】の使用に係る「ポロプレーヤーの図形」(ポロ図形)及び「POLO」、「Polo」、「ポロ」等の各標章の著名性を否定する原告の主張は失当である。
なお、原告は、【F】の「POLO」、「Polo」等の標章が本件商標の出願時までに著名なものとなっていないとする根拠の1つとして、本件商標と構成を同じくする商標登録第4211352号及び同第4211351号の各商標が存在する旨主張するが、これらの商標は、いずれも登録異議の申立てがあった結果、本件商標と同様の取消理由通知が発せられ、現在審判において審理中のものである。
2 本件商標から生じる称呼観念について 【F】の「ポロプレーヤーの図形」の標章(ポロ図形標章)は、騎乗し、マレットを手にしたポロ競技者を表す図形として、ファッション関連の商品分野において著名であり、これが単に「ポロ」と称されて本件商標出願前、既に我が国において取引者、需要者の間に広く認識されるに至っていたこと、及びその状態は現在においても継続していることは、上記のとおりである。
他方、本件商標は、右横向きに疾走する馬と、この馬の前方に、明らかにポロ競技に特有なマレットを手にし、乗馬用帽子をかぶった競技者を表す図形を描いてなるものである。そして、本件商標の指定商品は、ファッションに関係するものであることを考えると、馬とマレットをもった人物との組合わせよりなる本件商標に接する需要者は、「ポロ」と称されて、本件商標出願前、既に我が国において取引者、需要者間に広く認識されるに至っている「ポロプレーヤーの図形」を想起、連想するとみるのが自然であるから、本件商標は、「ポロ」の称呼観念を生じるものというべきである。
原告は、我が国における「ポロ競技」の認識の程度を前提とすれば、本件商標から「ポロ競技」が認識されることはあり得ず、また、仮に、本件商標が「ポロ競技」を認識させるとしても、本件商標が「ポロ」の称呼観念を生じさせるということはできない旨主張する。
しかしながら、「ポロ競技」が我が国においては知名度の低いスポーツであるとしても、我が国のファション関連の商品分野において、【F】の使用に係る引用標章中の「ポロプレーヤーの図形」(ポロ図形)は、騎乗しマレットを振り上げた図形として、「ポロ」と称され、その取引者、需要者に極めて広く認識されているものであることは、上記のとおりであるから、本件商標に接する取引者、需要者は、その各構成要素であるポロシャツ、乗馬ズボン、乗馬用帽子(ヘルメット)及び乗馬靴と思われる身ごしらえの人物、及びその人物が肩上にかざしているT字型スティック(マレット)及び疾走する馬から、【F】の使用に係る「ポロプレーヤーの図形」を想起、連想し、これと関連した図形を表現したと理解することは極めて容易というべきである。
してみると、本件商標は、ファッション関連の商品といえる「かばん類」等について使用された場合、その需要者等は、【F】の「ポロプレーヤーの図形」に倣い、
「ポロ」の称呼観念をもって、商品の取引に当たる場合が多いのみならず、
【F】の「ポロプレーヤーの図形」の兄弟ブランドないしファミリーブランドと誤解し、該商品が【F】又は同人と組織的・経済的に何らかの関係を有するものの業務に係る商品であるかのごとく、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものというべきである。
したがって、本件商標より、「ポロ」の称呼観念が生じ、【F】の使用に係る各標章との間に出所の混同を生ずるおそれがあるとした決定に誤りはない。
3 混同のおそれの存在について 原告は、構成中に馬に騎乗した「競技中のポロプレーヤー」の図形を含む商標は、近時、各種商品に実際に採択使用されており、本件商標と引用標章とは外観非類似であること、本件商標より「ポロ」の称呼観念が生じないことからすれば、本件商標が、その構成中に、馬とポロプレーヤーと思わしき人物を描いてなる図形を含むというだけで、引用標章との関係で商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであると断定することは、市場における取引の実態にそぐわず、相当ではない旨、また、引用標章の使用商品の取引者、需要者は、いわゆるおしゃれに敏感な年齢層であり、【F】が引用標章とは全く別異の商標を、自他の商品を識別する商標として採択することなどあり得ないことを認識している旨主張する。
しかしながら、「ポロプレーヤーの図形」(ポロ図形)が「ポロ」とも略称され、ファッション関連の商品分野において、極めて高い著名性及び顧客吸引力を有していることは、例えば、本件商標の登録出願前より【F】の使用に係る「ポロプレーヤーの図形」等の標章を真似た偽物商品が市場に多数出回っている事実(乙第5号証ないし第8号証)からも、容易に認め得るところであり、このような取引の実情よりすれば、「ポロ」の称呼観念が生ずる本件商標をその指定商品について使用した場合は、これに接するこの種商品の需要者は、【F】の使用する著名な引用標章の一種であって、兄弟ブランドないしファミリーブランドと誤解して、その出所について混同を生ずるおそれがあるというべきものである。
さらに、原告の提出した「ヤノニュース」(甲第78号証)中の「1996年度30億円以上ライセンスブランド売上高ランキング(1)」(66頁)をみても、
「ポロ・ラルフローレン」のブランドが、「ポロクラブ」及び「ビバリーヒルズポロクラブ」のブランドより上位にランク付けされていることが認められる。
また、「ポロクラブ」や「ビバリーヒルズポロクラブ」のブランドの年商が原告主張のとおりであるとしても、需要者が「POLO」、「Polo」、「ポロ」の文字商標や「競技中のポロプレーヤーの図形」を含むブランドを【F】の著名な標章と何らかの関係があるものと誤解している可能性は否定することができない。
したがって、【F】以外の者が「POLO」、「Polo」、「ポロ」の文字標章や「競技中のポロプレーヤーの図形」を含むブランドを使用している事実があるとしても、本件商標をその指定商品について使用した場合は、これに接する需要者が、その商品の出所について混同を生じていないと断ずることはできないから、この点に関する原告の主張も失当というべきである。
4 結論 以上のとおり、本件商標は、その構成全体から「ポロ」の称呼観念が生ずるものであり、ファッション関連の商品分野において、極めて著名な「ポロプレーヤーの図形」及び引用標章とその称呼観念において相紛らわしく、これをファッション関連商品といえるその指定商品について使用した場合は、需要者をして商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるものというべきであるから、本件商標が商標法4条1項15号に該当するとして、その登録を取り消した決定の判断に何ら違法の点はなく、決定が取り消されるべき理由はない。
理 由1 本件商標の構成及び指定商品等 本件商標が別紙2記載のとおりの構成よりなる図形標章であり、指定商品を商品及び役務の区分第18類の「毛皮、かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ、傘」として、平成7年9月27日に登録出願されたものであることは争いがない。
これに対し、引用標章は、別紙3記載のとおりの構成からなるものであり、その構成に係る「polo」「Ralph Lauren」、「Polo」「by RALPH LAUREN」、「Polo」「by Ralph Lauren」の各文字と共にポロ図形が表されている標章である。
2 ポロ図形標章の周知性の存否 (1) 甲第78号証(「ヤノニュース」1998年5月号)、乙第2号証(昭和53年7月20日発行の「男の一流品大図鑑」)、第3号証(昭和58年9月28日発行の「舶来ブランド事典’84ザ・ブランド」)、第4号証(昭和63年10月29日付け「日経流通新聞」)、第5号証(平成元年5月19日付け「朝日新聞」)、第7号証(平成4年9月23日付け「読売新聞」)、乙第8号証(平成5年10月13日付け「読売新聞」)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア アメリカの服飾等のデザイナーである【F】は、1967年(昭和42年)に、幅広ネクタイをデザインして若者の圧倒的な支持を受けて注目され、翌1968年(昭和43年)に、ポロ・ファッションズ社を設立し、ネクタイ、スーツ、シャツ、セーター等のほかに、靴、かばん、ベルトのデザインを手がけるなどファッション関連の商品についてトータルな展開を図り、1971年(昭和46年)には、婦人服のデザインにも進出し、1970年(昭和45年)と1973年(昭和48年)の2回にわたり、アメリカのファッション界で最も権威があるとされる「コティ賞」を受賞したほか、「アメリカ・ファッション賞」、「トミー賞」、「ウール・ニット賞」を受賞するなど高い評価を受けた。さらに、1974年(昭和49年)に、映画「華麗なるギャツビー」の主演男性俳優「【G】」の衣装のデザインを担当し、アメリカを代表するデザイナーとしての地位を確立すると共に、世界的に知られるようになった。
イ 我が国の服飾業界においても、昭和49年ころから【F】の名前が知られるようになり、西武百貨店は、昭和51年に、ポロ・ファッションズ社から使用許諾を受け、翌昭和52年より、【F】のデザインに係る紳士服、紳士靴、サングラス等の商品、昭和53年からは婦人服の商品の輸入を開始し、全国各地の店舗で販売するようになり、多額の売り上げを計上するに至っており、「ヤノニュース」(甲第78号証)による平成8年度(1996年度)の30億円以上のライセンスブランド売上高ランキングには、【F】に係るブランドの商品が、年商173億円として第19位に挙げられている。
ウ 【F】のデザインに係る一群の商品には、「Polo」の文字と共に「by RALPH LAUREN」、「by Ralph Lauren」の各文字及び【F】のトレードマークとしてポロ図形が使用されている。この図形標章は、【F】が、自らのファッションイメージに合致するものとして、ヨーロッパ上流階級のスポーツのポロ競技をデザイン化したものである。我が国において、これらの各標章は「ポロ」とも称されており、【F】のデザインに係る商品について、
昭和53年7月20日発行の「男の一流品大図鑑」の掲載記事「一流ブランド物語」(乙第2号証)において、ポロ図形標章を含む引用標章が表示され、【F】が「ポロ・ブランド」を世界に通用させるに至るまでの経緯等が詳しく紹介され、同誌に西武百貨店の広告として、【F】のデザインの服が「ポロ」というブランド名としてポロ図形標章を含む引用標章と共に記載されるなど、各種雑誌等において一流ブランドの商品として紹介されてきており、昭和58年9月28日発行の「舶来ブランド事典’84ザ・ブランド」(乙第3号証)には、「ポロ」の文字からなる標章が【F】のブランド名として表題に使用されて、ポロ図形標章を含む引用標章、ブランド品の特徴、沿革、マークの由来等が記載されている。
エ このように、【F】のデザインに係る商品は、我が国においてもファッション関連の商品における一流のブランド品としてその需要者の間に定着し、新聞記事においても、平成元年5月19日付け「朝日新聞」(乙第5号証)は、
【F】のブランドが「Polo(ポロ)」の商標で知られていることを記載し、平成4年9月23日付け「読売新聞」(乙第7号証)は、アメリカの人気ブランドとして「ポロ」と表記し、平成5年10月13日付け「読売新聞」乙第8号証)は、
ポロ競技のマークで知られる米国のファッションブランドとして「Polo(ポロ)」と表記しており、いずれも我が国で「ポロ」の偽ブランド商品が出現しており、これらが摘発されたことを報じている。
(2) 以上の事実によれば、我が国において、引用標章を構成する「Polo」「by RALPH LAUREN」、「Polo」「by Ralph Lauren」の各文字標章及びポロ図形標章は、その略称である「Polo」、
「ポロ」の各文字標章と共に、ネクタイ、スーツ、シャツ、セーター、靴、かばん、ベルト等のファッション関連の商品において、【F】がデザインし、その創設した会社の業務に係る商品に使用される商標として広く知られ、強い顧客吸引力を取得するに至っていることが認められるのであって、本件商標の出願(平成7年9月)前に既に需要者の間で周知となっていたことは、明らかであるというべきである。
(3) 原告は、「Polo」等の文字標章の周知性を否定し、被服の分野における「Polo」の商標は、我が国では古くから【F】とは無関係の商標権者が有しており、被告補助参加人も「Polo」単独では使用せず、必ず「Polo by RALPHLAUREN」と表示して使用しており、また、インターネットのホームページ上のブランド名には「ポロ」の表示はなく、「ラルフローレン」と表記されていることから、引用標章について、需要者は「ラルフローレン」と認識し、区別している旨主張している。
確かに、上記(1)の事実及び甲第88、第89号証により認められる原告指摘のホームページ上の表記によれば、我が国の需要者が、【F】のデザインに係る商品に付された引用標章から、「ラルフローレン」という著名なデザイナー名を想起し、また、当該商品を「ラルフローレン」という人名によって、他の商品と識別することがあることを肯定することができるのではあるが、他方では、我が国において、引用標章を構成する「Polo」「by RALPH LAUREN」、「Polo」「by Ralph Lauren」の各文字標章及びポロ図形標章が「Polo」、「ポロ」とも称されて、ファッション関連の商品の分野において、
【F】がデザインし、その創設した会社の業務に係る商品に使用される商標として、その需要者の間で周知性を獲得し、これらの各商標によって他の商品と識別されていることも優に認めることができるのであって、この認定を覆すに足りる証拠はないから、原告の上記主張は採用することができない。
また、原告は、ポロ図形標章の周知性を否定する根拠として、ポロ図形標章と同様にポロ競技中のプレーヤーを表した図形について、被告補助参加人と関係のない商標が多数登録され、使用されていることや本件商標と構成を同じくする商標が登録されている事実を挙げている。
しかしながら、原告主張の事実があるとしても、それらによって、【F】に係るポロ図形標章の自他商品の識別機能が損なわれ、あるいは希釈されるなどして、その商標としての周知性の獲得が阻害されているという事実は本件全証拠によっても認められず、むしろ、上記認定のとおり、ポロ図形標章は、【F】が自らのファッションイメージに合致するものとしてそのデザインに係るファッション関連の商品に使用し、各種雑誌、広告等においても表記され、我が国の需要者の間で、【F】がデザインし、その創設した会社の業務に係る商品に使用される商標として周知性を獲得したことが認められるのであって、原告の主張は採用することができない。
3 混同のおそれの存否 (1) 引用標章中のポロ図形標章は、別紙3に表示するとおり、疾走する馬に乗り、ポロ競技用のスティック(マレット)を斜め上方に構え、帽子と被服を身にした一騎のポロプレーヤーを斜め前方から表したものであるところ、ポロ図形標章は、【F】が自らのファッションイメージに合致するものとしてそのデザインに係るファッション関連の商品に使用し、我が国の需要者の間で、「ポロ」と略称されて、【F】がデザインし、その創設した会社の業務に係る商品に使用される商標として周知性及び高い顧客吸引力を獲得していることは、上記認定のとおりである。
他方、本件商標は、別紙2に表示されているとおり、横向きに疾走する一頭の馬と、この馬の前方に、ポロ競技用のスティック(マレット)を斜め上方にかざして、乗馬用の帽子、被服、靴を身にした一名のポロプレーヤーを表したものであることは明らかである。
そして、本件商標の指定商品は、第18類の「毛皮、かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ、傘」というファッションに関係する商品であり、また、少なくとも、
かばんの商品において【F】に係るポロ図形標章が使用されている商品と共通しているから、上記の構成からなる本件商標に接する一般的な需要者は、上記の構成からなり「ポロ」と称されているポロ図形標章や「ポロ」の観念を想起し、本件商標が使用された商品について、【F】又は同人と組織的、経済的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのように誤解したり、あるいは、本件商標につきポロ図形標章と同じく「ポロ」と称呼、表記し、この称呼をもって商品の取引に当たることもあるであろうと推認することができ、これらの需要者の間で、その商品の出所について混同を生ずるおそれが十分にあると認めることができる。
したがって、本件商標より「ポロ」の称呼観念が生じ、【F】の使用に係る引用標章との間に出所の混同を生ずるおそれがあるとした決定に誤りはない。 (2) 原告は、我が国における「ポロ競技」の認識の程度を前提とすれば、本件商標が描いた人物が有する棒状のものをポロ競技に特有な「マレット」であると断定することはできず、本件商標から「ポロ競技」が認識されることはあり得ない旨、また、仮に、本件商標が「ポロ競技」を認識させるとしても、本件商標が「ポロ」の称呼観念を生じさせるということはできない旨主張する。
しかしながら、我が国において、球技としての「ポロ」が馴染みが薄く、国民に普及してはいないスポーツであるとしても、「ポロ(polo)」について、我が国における一般的な辞典である岩波書店発行の「広辞苑(第4版)(1995年発行)」(当裁判所に顕著)に、「ペルシア起源の騎乗球技。現今のものは、4人ずつ2組に分かれ、1個の木のボールを馬上から長柄の槌(マレット)で相手側のゴールへ打ち込み合って勝負を争う。」と登載され、講談社発行のカラー版「日本語大辞典(1989年発行)」(甲第10号証)に、「球技の1つ。馬上にまたがって行うホッケーに似た競技。1チーム4人で2チームに分かれマレット(槌)でボールを打ち、相手ゴールに入れて得点を争う。」と登載され、馬に乗って競技をしている2名のポロプレーヤーのカラー写真も掲載されており、三省堂発行の「コンサイス外来語辞典(第4版)(1987年発行)」(甲第82号証)にも、「騎乗競技の1つ。馬に乗り、スティックでボールを打って、相手のゴールに入れ、得点数を競うもの。1チームは4人。」と登載されていることが認められる。
そして、【F】に係るポロ図形標章は、馬に乗り、スティックでボールを打つ競技である「ポロ(polo)」を、上記のとおりの一対の人馬の構成によって端的に表現しており、我が国でも、これが「ポロ」と称されて、ファッション関連の商品の需要者の間で周知なものとなっていることからすれば、ファッション関連の商品に付された本件商標に接した需要者は、上記のように一対の人馬をもって構成されている本件商標の全体から、当該容姿の人物について、馬に乗ってその手にするスティックでボールを打つ競技者であると容易に把握することができ、本件商標の図形全体をポロ図形標章と同じく「ポロ」と認識して、称呼し、観念するであろうことは優に推認することができる。なお、当該スティックの形状についてみると、
これがポロ図形標章と同じT字状のスティックとして表されていることから、これに接する需要者は、本件商標の全体の構成から「ポロ」の競技に使用されるものであると明らかに看取することができると認められるのであり、これが「マレット」と称されていることまで認識し得るか否かは問うところでないことは明らかである。
このように、原告の上記主張は採用することができない。
(3) また、原告は、構成中に馬に騎乗した「競技中のポロプレーヤー」の図形を含む商標は、近時、各種商品に実際に採択使用されていて、【F】のブランドと馬とマレットを所持したポロプレーヤーを描いた図形を含むブランドは、市場において出所の混同を生じることなく共存している状況の中で、本件商標が、その構成中に、馬とポロプレーヤーと思わしき人物を描いてなる図形を含むというだけで、引用標章との関係で商標法4条1項15号に違反して登録されたものであると断定することは、市場における取引の実態にはそぐわず、相当ではない旨、また、
引用標章の使用商品の取引者、需要者は、いわゆるおしゃれに敏感な年齢層であり、【F】が引用標章とは全く別異の商標を、自他の商品を識別する商標として採択することなどあり得ないことを認識している旨主張している。
しかしながら、上記認定のとおり、我が国において、引用標章を構成する「Polo」「by RALPH LAUREN」、「Polo」「by Ralph Lauren」の各文字標章及びポロ図形標章は、その略称である「Polo」、
「ポロ」の各文字標章と共にファッション関連の商品において、【F】に係る商標として広く知られ、強い顧客吸引力を取得するに至っており、我が国で「Polo(ポロ)」の偽ブランド商品が度々出現し、摘発されたことが認められるのであり、他方、原告が主張する馬とマレットを所持したポロプレーヤーを描いた図形を含むブランドを付した商品が市場で流通していることは認められるが、ファッション関連の商品の需要者の間において、これらの商品がすべて【F】に係る商品と出所の混同を生じることなく共存しているものと認めるに足りる的確な証拠はない(被告が指摘するとおり、原告主張の他のブランドの年商が原告主張のとおりであるとしても、需要者がそれらのブランドの標章を【F】と何らかの関係があるものと誤解している可能性は否定することができない。)。これらに照らすと、本件商標がポロ図形標章との関係で商品の出所の混同を生ずるおそれがあることを否定することはできない。
したがって、原告の上記主張も採用することができない。
4 総括 以上のとおり、ファッション関連の商品分野において、【F】に係るポロ図形標章は「ポロ」とも称され、本件商標の出願前に既に【F】に係る商品の商標として周知となっており、他方、本件商標は、これをファッション関連商品といえるその指定商品について使用した場合は、その構成の全体から「ポロ」の称呼観念が生じて、需要者をして商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるものということができるから、本件商標が商標法4条1項15号に該当するとして、その登録を取り消した決定の判断に誤りはない。
5 結論 このように原告主張の決定の取消事由はすべて理由がなく、その他決定にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 橋本英史