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関連審決 不服2002-4430
関連ワード 識別力 /  識別機能 /  指定商品 /  指定役務 /  普通名称(3条1項1号) /  3条1項6号 /  周知性 /  補正 /  著名人 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10233号 審決取消請求事件
原告 A
同訴訟代理人弁理士 竹中一宣
被告 特許庁長官 小川洋
同指定代理人 佐藤正雄
同 伊藤三男
同 宮下正之
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/07/20
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2002―4430号事件について平成16年10月13日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成12年11月29日,「ファスティング」の文字からなる商標(以下「本願商標」という。)について,商標法施行令(平成13年政令第265号による改正前のもの)1条別表の第32類「ビール,清涼飲料,果実飲料,飲料用野菜ジュース,乳清飲料,ビール製造用ホップエキス」及び第42類「飲食物の提供,美容,理容,入浴施設の提供,デザインの考案,栄養の指導」を指定商品及び指定役務として,商標登録出願をした(商願2000―128214号。以下「本願」という。)ところ,特許庁は,これについて,平成14年2月15日に拒絶査定をした。
そこで,原告は,平成14年3月14日,拒絶査定不服審判の請求をし(不服2002―4430号),平成16年9月16日には,指定商品及び指定役務を上記別表の第32類「飲料用野菜ジュース」及び第42類「飲食物の提供,栄養の指導」と補正したが,特許庁は,平成16年10月13日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は同月22日に原告に送達された。
2 本件審決の理由 別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願商標は,その指定商品及び指定役務に使用しても,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標であるから,商標法3条1項6号に該当する,というものである。
原告主張に係る本件審決の取消事由
本件審決は,本願商標が,使用をされた結果需要者が原告の業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものであるにもかかわらず,商標法3条1項6号に該当すると誤って判断したものであるから,取り消されるべきである。
1 本願商標「ファスティング」とそれを提唱する原告は,新聞,雑誌,書籍,ホームページ等で広く紹介されているから(甲9ないし16,24ないし26),本願商標を指定商品及び指定役務に使用すれば,需要者は,原告の業務に係る商品又は役務であることを認識することができる。
なお,本件審決は,新聞記事(甲5ないし8)を引用して,「ファスティング」の文字が新聞紙上において普通に使用されていると認定した(審決書2頁)。
しかしながら,これらの記事は,原告を示唆する記載を伴うから,むしろ,原告が「ファスティング」を広め,指導していることを示すものである。
また,被告の提出した証拠(乙1ないし8)にも,原告が「ファスティング」専用飲料を考案し,それを用いて「ファスティング」の指導を行っていることが随所に記載されているから,これらも,むしろ,「ファスティング」が普通名称ではなく,その提唱者が原告であることを示すものである。
2 「ファスティング」の語義は,本願商標の出願がされた平成12年ころを境に,大きく変化している。すなわち,当初は,「ファスティング」とは,宗教的修行の一環や服喪を表す「断食」とされていた(甲2,3)。しかるに,平成15年に発行された「現代用語の基礎知識」(甲4)では,「ファスティング」とは,原告が提唱する内容である「水とジュースなど最低限の栄養補給をして数日過ごす健康法。その後3日間はおかゆなど消化のよい食事をして体内浄化する。専門の施設のあるホテルもできた。」と説明されている。このことから,原告が,「ジュースを用いる新しい健康療法」を確立し,「ファスティング」という言葉により世に定着させたことが理解できる。
3 商標登録出願において重要である周知性や著名性は,商標の使用期間・地域,生産や販売数量等に限らず,商標及び商品を使用する愛好者(特に人気俳優,スポーツ選手等)に係る評判等も重視して認定されるべきであるところ,上記書籍等によれば,「ファスティング」の体験者の中に著名人が多く存在し,彼らによる評判が大変よいことが明らかである。
4 これらの事情によれば,本願商標「ファスティング」が普通名称に近いものであるとしても,本願商標は,その指定商品及び指定役務に使用をされた結果需要者が原告の業務に係る商品又は役務であることを認識できるものであるというべきである。
被告の反論
本願商標が商標法3条1項6号に該当するとの本件審決の判断に誤りはなく,原告の主張する本件審決の取消事由には理由がない。
1 「ファスティング」の文字は,本件審決に引用した以外にも新聞記事等に記載があり(乙1ないし8),これらを総合勘案すると,「ファスティング」とは,「環境中に存在する化学物質と毒物から体を遠ざけることを本来の目的としている断食療法のことであって,ある一定期間の断食を行う一方,必要最低限のエネルギーを摂るために野菜の発酵ジュースや水などを飲みながら行われるもの」,あるいは,少なくとも「断食療法,絶食療法」として知られているのが実情である。
2 原告の提出した証拠(甲9ないし16,24ないし26)によれば,新聞,雑誌,書籍,ホームページ等に用いられている「ファスティング」の語は,「ファスティング」の内容を説明したものであって,自他商品・役務を表示する標識として使用されているものではない。また,ボトル等に使用されている「ファスティングダイエット」及び「ファスティング・ダイエット」の商標は,「ダイエット」の文字の有無において本願商標と明らかに別異の商標である上,原告自身が自己の業務に係る本願の指定商品・役務について使用しているものとはいえない。殊に,「飲食物の提供」に関しては,「ファスティング」の語の記述すら見出すことができない。したがって,本願商標が使用をされた結果,需要者が何人かの業務に係る商品及び役務であることを認識するに至ったとは到底いうことができない。
3 なお,たとえ原告が「ファスティング」を提唱したものであったとしても,商標が使用により識別力を具有するに至ったものとするには,査定時又は審決時において何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識されることが重要であって,誰が提唱したかは重要ではない。
また,商標の使用による識別力を獲得する手段の一つとして著名人をマスメディアに登場させることは理解し得るが,識別力を獲得するには,商標が出所表示のための標識として使用されていることが前提である。しかるに,原告の提出した証拠には,著名人が登場しているものの,そこに表示された「ファスティング」は出所表示のための標識として使用されていない。
当裁判所の判断
原告は,本願商標が使用をされた結果,需要者が原告の業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものであるにもかかわらず,本件審決は本願商標が商標法3条1項6号に該当すると誤って判断した旨主張するので,検討する。
1 本願商標は,「ファスティング」の文字からなる商標であるところ,「ファスティング」という語については,辞書等において,次のように説明されている。
(1) 「情報・知識imidas2000」(株式会社集英社・平成12年1月1日発行,乙1),「情報・知識imidas2001」(株式会社集英社・平成13年1月1日発行,乙2),「情報・知識imidas2003」(株式会社集英社・平成15年1月1日発行,乙3)では,いずれも,「ファースティング〔fasting〕」の項に,「断食.超低カロリーによる食事療法.」と説明されている。
(2) 「現代用語の基礎知識 2003年版」(株式会社自由国民社・平成15年1月1日発行,甲4)では,「ファスティング」の項に,「水とジュースなど最低限の栄養補給をして数日過ごす健康法。その後3日間はおかゆなど消化のよい食事をして体内浄化する。専門の施設のあるホテルもできた。」と説明されている。
(3) 「新修 広辞典 第5版」(株式会社集英社・平成13年6月30日発行,甲2)では,「だんじき(断食)」の項に,「ある期間,食物を食べないこと。」「fasting ファスティング」と説明されている。
(4) 「新英和大辞典 第5版」(株式会社研究社・平成9年(33刷)発行,甲3)では,「fasting」の項に,「断食,絶食」と説明されている。
以上の事実によれば,「ファスティング」の語は,一般に,「断食,絶食」,「断食療法,絶食療法」ないし「水とジュースなど最低限の栄養補給をして数日過ごす健康法」として知られていることが明らかである。
2 このことは,たとえば,新聞記事における「ファスティング」の次のような用法からも明らかである。
(1) 平成13年8月2日付け大阪スポーツには,「B断食修行突入」の見出しを付して,「Bは肉体改造をスタート。…断食(ファスティング)特訓に取り組んでいる。」との記載がある(甲9の20)。
(2) 平成14年6月28日付け朝日新聞朝刊には,「断食でわかる私の体」の見出しを付して,「昨年,テレビやインターネットで「水とジュースなどで最低限の栄養補給をして数日過ごすと,胃腸が休まり,体にたまっている毒素が出る」と目にした。この方法はファスティングと呼ばれ,雑誌などにも載り,若い女性らの注目を集めている。」との記載がある(甲7,乙4)。
(3) 平成15年1月5日付け日刊スポーツには,「Cただいま断食中」の見出しを付して,「巨人C投手(39)が4日,明日6日からの宮崎自主トレを前に2日間の断食(ファスティング)に突入した。腸をきれいにすることで,栄養分の吸収を良くすることが目的。「(断食を)やるなら今しかなかった。今日でオフは終わりだから」と,…ベテラン左腕の一大決心には頭が下がる。」との記載がある(甲8,乙5)。
(4) 平成15年1月26日付け静岡新聞朝刊には,「SBSアナウンサーのチャットルーム=半断食で食の大切さを痛感-D」の見出しを付して,「先日,ファスティングに挑戦しました。早い話が断食です。と言ってもファスティングは,完全断食ではなく,水と特製野菜ジュースを飲む半断食です。実は,昨年12月,人間ドックの検査で,体脂肪の数値が少し増えていたのです。基準値の範囲内ではあるものの,気になり,以前からトライしようと思っていたファスティングをやってみました。」との記載がある(乙6)。
(5) 平成16年1月29日付け神戸新聞朝刊には,「<ロビー>西神オリエンタルホテル社長E氏 地域にこだわり」の見出しを付して,「昨年秋,「ファスティング(断食療法)」を取り入れた宿泊プランを始めたところ,口コミで人気が広がっている。」との記載がある(乙7)。
3 このように,「ファスティング」とは,一般に,「断食,絶食」,「断食療法,絶食療法」ないし「水とジュースなど最低限の栄養補給をして数日過ごす健康法」として知られているものであるから,「ファスティング」の語からなる本願商標をその指定商品及び指定役務である「飲料用野菜ジュース,飲食物の提供,栄養の指導」について使用した場合,本願商標に接する取引者,需要者は,「断食療法に対応した飲料用野菜ジュース,飲食物の提供,栄養の指導」という程度の意味を理解するに止まり,本願商標は自他商品・役務識別機能を果たし得ないものというべきである。
4 これに対し,原告は,本願商標「ファスティング」とそれを提唱する原告は,新聞,雑誌等で広く紹介されているから,本願商標を指定商品及び指定役務に使用すれば,需要者は,原告の業務に係る商品又は役務であることを認識することができる旨主張する。
しかしながら,本願商標が,使用をされた結果需要者が原告の業務に係る商品又は役務であることを認識することができる(使用による識別力を獲得した)ものであるというためには,「ファスティング」や原告が新聞,雑誌等で紹介されているだけでは足りず,少なくとも,@本願商標と同一の商標が,A本願の指定商品及び役務のすべてについて,B商品・役務の出所が原告であることを表示する標識として使用されてきたことが前提となると解すべきである。
しかるところ,本願の指定商品「飲料用野菜ジュース」についてみると,証拠(甲6,9の1,9の6,9の12,9の16,9の18,9の23,10の4ないし8,11の1,13)及び弁論の全趣旨によれば,原告が開発したファスティング用ジュースである「Mineral&Herb Fasting Diet」(価格3本入り1万8000円)が株式会社ニュー・サイエンスから販売されており,その瓶のラベルに同欧文字や「ファスティング ダイエット」の文字が記載され,雑誌等に「ファスティングダイエット」,「ファスティング・ダイエット」という名称で宣伝等されていることが認められるが,上記「Mineral&Herb Fasting Diet」,「ファスティング ダイエット」などは本願商標「ファスティング」と同一の標章とはいえないし,上記商品の発売元は株式会社ニュー・サイエンスであって原告ではないから,上記販売等の事実をもって,本願商標が商品の出所が原告であることを表示する標識として使用されたということはできず,他に,上記指定商品についての本願商標の使用を認めるに足りる証拠はない。
また,本件全証拠を検討しても,本願の指定役務「飲食物の提供」について,原告が本願商標を使用した事実を認めるに足りる証拠はない。
さらに,本願の指定役務「栄養の指導」についてみると,証拠(甲5,8,9の1ないし11,9の13ないし18,9の21・22,10の1ないし8,11の1,12の1ないし14,13ないし15,16の1ないし9)によれば,原告が,「杏林予防医学研究所」の所長として,分子栄養学の研究に基づいてプロスポーツ選手や芸能人等の多くの人にファスティング等の栄養指導を行ってきており,その分野で有名であること,また,原告の提唱するファスティングの内容は,数日間通常の食事をやめ,ビタミンやミネラルを多く含む野菜ジュースで必須栄養素を補うという健康法であることは認められるものの,それ以上に,原告が上記役務について本願商標を出所表示のための標識として使用していることを認めるに足りる証拠はない。換言すれば,「ファスティング」が単なる「断食,絶食」,「断食療法,絶食療法」ないし「水とジュースなど最低限の栄養補給をして数日過ごす健康法」ではなく,原告が業として提供する役務の出所を表示するものであることを認めるに足りる証拠はない。
以上のとおり,いずれの理由によっても,本願商標は使用による識別力を獲得したものとはいえない。
したがって,本願商標が商標法3条1項6号に該当するとした本件審決の判断に誤りはない。
5 また,原告は,「ファスティング」の語義は,本願商標の出願がされた平成12年ころを境に大きく変化し,当初の「断食」から,その後,原告が提唱する内容である「水とジュースなど最低限の栄養補給をして数日過ごす健康法」として知られるようになったものであり,原告が,「ジュースを用いる新しい健康療法」を確立し,「ファスティング」という言葉により世に定着させたことが理解できる旨主張する。
しかしながら,「ファスティング」の内容として知られている「水とジュースなど最低限の栄養補給をして数日過ごす健康法」なるものが原告の提唱したものであったとしても,そのことから直ちに,需用者が本願商標を原告の業務に係る商品又は役務を表示するものとして認識することができるということはできない。ファスティングの具体的な内容の提唱者が誰であるかということと,「ファスティング」なる商標が商品・役務の出所の識別力を獲得したかということとは,別個の問題というべきであり,原告の上記主張は理由がない。
6 さらに,原告は,「ファスティング」の体験者の中には著名人が多く存在し,彼らによる評判は大変よいから,このことは,商標登録出願において重要である周知性や著名性の認定に当たり重視されるべきである旨主張する。
確かに,商標の使用による識別力を認定するに当たり,新聞,雑誌等に掲載された著名人の体験談等も一資料として考慮し得るものである。しかしながら,そもそも,商標の使用による識別力の獲得の前提として,当該商標が商品・役務の出所を表示する標識として使用されてきたことが必要であり,本願商標がそのようなものとして使用されたことを認めるに足りないことは,前記のとおりである。したがって,原告の上記主張も理由がない。
7 以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がなく,他に本件審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 若林辰繁
裁判官 沖中康人
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