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関連審決 不服2003-16712
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19行ケ10391審決取消請求事件 判例 商標
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平成18行ケ10233審決取消請求事件 判例 商標
平成15行ケ371審決取消請求事件 判例 商標
平成18行ケ10280審決取消請求事件 判例 商標
関連ワード 役務の提供 /  識別機能 /  指定商品 /  指定役務 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  公序良俗(4条1項7号) /  4条1項11号 /  類似性(類否判断) /  分離観察 /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  全体観察 /  取引の実情 /  出所の混同 /  存続期間 /  更新登録 /  類似商標 /  非類似 /  商号 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10618号 審決取消請求事件
原告 三洋信販株式会社
訴訟代理人弁護士 佐藤雅巳
同 古木睦美
被告 特許庁長官中嶋誠
指定代理人 小出浩子
同 柳原雪身
同 宮下正之
同 伊藤三男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/02/16
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が不服2003-16712号事件について平成17年6月14日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
争いのない事実等(証拠を掲げた事実以外は,当事者間に争いがない。)
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成14年5月13日,別紙商標目録(1)に示すとおりの構成からなる商標(以下「本願商標」という。)について,指定役務を第36類「資金の貸付け」として,商標登録出願(商願2002-43547号)したが,平成15年6月27日,拒絶査定を受けたので,同年7月28日,これに対する不服の審判を請求した。特許庁は,この請求を不服2003-16712号事件として審理した上,平成17年6月14日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,同年7月6日,その謄本を原告に送達した。
2 本件審決の理由 別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願商標と,登録第3074326号商標及び登録第3074327号商標(以下,本件審決と同じく,「引用商標1」,「引用商標2」といい,これらをあわせて「引用商標」と総称する。)とは,その外観において相違し,観念においては比較すべきところがないとしても,「サンヨーシンパン」の称呼を共通にする類似する商標であり,役務の出所について混同を生じさせるおそれのある商標であって,本願商標の指定役務は,引用商標の指定役務と同一又は類似のものを含むから,本願商標は商標法4条1項11号により商標登録を受けることができないとするものである。
引用商標1,2は,いずれも第36類「クレジットカード利用者に代わってする支払代金の精算,割賦販売利用者に代わってする支払代金の精算,貸金業規制法に基づく資金の貸付け」を指定役務として,平成4年9月24日に登録出願され,平成7年9月29日に設定登録されたものであって,平成17年9月29日に存続期間が満了し,更新登録はなされていないものの,本件審決時において,現に有効に存続しており(甲172〜174,乙3,4,弁論の全趣旨),それぞれ別紙商標目録(2),(3)に示すとおりの構成からなるものである。
原告主張の取消事由の要点
本件審決は,本願商標と引用商標との類否判断を誤り,本願商標が商標法4条1項11号に該当すると誤って判断したものであるから,取り消されるべきである。
1 混同のおそれについて (1) 商標の類否判断は,具体的な取引の実情に基づき,全体的に対比考察して,出所について誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきである(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)から,本願商標と引用商標との対比に際しては,次のような取引の実情を考慮した上で,類否判断を行うべきである。
ア 本願商標の指定役務である「資金の貸付け」は,提供者が直接,需要者(借入者)に提供するものであって,取引者(問屋や小売店)が介在することはない。また,提供者の信用や評判,利率などの貸付の条件が,需要者が借入の申込をするしないを決めるにおいて重要な要素である。すなわち,需要者は,役務の提供(資金の貸付)を受けようとするとき,貸付者の信用,評判や貸付条件(金利,返済条件等)を勘案して貸付者を選択し,貸付者の店舗(有人又は無人)に赴き,貸金業の規制等に関する法律等に基づいて店舗に掲示されている商号,名称又は氏名等及び貸付者の説明により,貸付者を確かめた上,審査を受け,審査に合格すると交付される会員カードを使って,当該貸付者の店舗で借入又は返済をするものである(甲164,165,177〜180)。
イ 原告は資金の貸付けを業としている東証一部上場会社であるところ,本件審決がなされるよりも前の時点において,登録商標である「三洋信販」及び「SANYO SHINPAN」(甲162,163)は原告の略称ないしそのローマ字表記として,本願商標中の図形は原告及び原告を中核とする「三洋信販グループ」のシンボルマークとして,本願商標中の「SANYO SHINPAN GROUP」は同グループのローマ字表記として,それぞれ周知のものであり,さらには本願商標も,原告の略称である「三洋信販」などとともに,広く広告宣伝され(甲1〜158,175,176,181,182),需要者の間で,原告を中核とする企業グループの商標としてすでに周知となっていたものである。
ウ 引用商標の商標権者として登録されている山陽信販株式会社は,引用商標の設定登録後,アイフル株式会社の100%子会社となり,本店を移転した後,平成16年4月に,トライト株式会社との合併により,解散したものであり,もはや貸金業者として登録されていない(甲166〜171)。また,引用商標については,平成17年9月29日に商標権の存続期間が終了したが,平成17年10月14日現在,更新登録出願はなされていない(甲172〜174。なお,引用商標に係る商標権は,山陽信販株式会社を吸収合併したトライト株式会社が有していると解されるが,法人の商号と異なる商号又は名称からなる商標は公序良俗に反するものであり無効事由がある。)。
(2) 上記(1)アの実情に照らせば,本願商標の指定役務である「資金の貸付け」には,取引者(問屋や小売店)は存在せず,提供者が直接,需要者に提供するものであり,「資金の貸付け」の需要者は,提供者の商号又は名称や商標の外観によって,提供者の出所を認識するから,商標の称呼や商標の一部の称呼によって,役務の出所が識別されることはない。
(3) そうすると,仮に本願商標及び引用商標から「サンヨーシンパン」の称呼を生ずるとしても,当該称呼は,役務の出所の識別に関わらないというべきであり,本願商標と引用商標の類否判断に際して,問題にすべきではない。
そして,本願商標と引用商標とは,本件審決も認めるとおり,外観において相違し,また,本願商標は,前記(1)イにおいて指摘したとおり,原告を中核とする企業グループの商標として周知であるから,本願商標からは,「原告を中核とする企業グループ」の観念が生ずるところ,引用商標からは,本件審決も認めるとおり,格別一定の観念が生じないから,本願商標は引用商標と観念においても相違する。
以上によれば,仮に引用商標を使用して提供される役務が存し得るとしても,本願商標と引用商標とは,役務の出所について混同を生じさせるおそれはなく,非類似の商標であるというべきである。
(4) そもそも商標法4条1項11号は私益的登録阻却事由であり,同号の保護法益は引用商標の商標権者が引用商標について有する利益であるから,「出所の混同のおそれ」とは,本願商標を使用して提供される原告の役務が,引用商標を付して提供される引用商標の商標権者の役務と混同されるおそれをいう。
しかるところ,前記(1)ウ の実情に照らせば,そもそも引用商標を使用して提供される役務が存在しないのであるから,引用商標の商標権者が引用商標について有する利益が侵害されることはあり得ない。
したがって,本願商標と引用商標とは,役務の出所について混同を生じさせるおそれはなく,非類似の商標であるというべきである。
2 称呼について 本件審決は,本願商標及び引用商標から「サンヨーシンパン」の称呼が生ずると認定したが,誤りである。
商標の類否の判断にあたっては,役務に使用された商標の称呼,外観,観念によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して,全体的に考察するべきである(前記最高裁昭和43年2月27日判決参照)。
本願商標中の「SANYO SHINPAN」との部分及び引用商標中の「山陽信販」との部分は,それぞれ本願商標及び引用商標の一部にすぎず,本願商標及び引用商標と同一性の範囲内にない(商標法50条1項は,登録商標と同一性の範囲内にある商標として,「書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標,平仮名,片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標,外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標」と規定している。)から,類否判断に際して対比すべきではない。
前記1(1)イ のとおり,「SANYO SHINPAN GROUP」は原告を中核とする企業グループの名称として周知であり,また,本願商標においては,「SANYO SHINPAN GROUP」を上下2段に配してあるものの,まとまりよく相近接して配してあるから,本願商標の指定役務の需要者は,本願商標中の「SANYO SHINPAN GROUP」を一体として認識し,原告を中核とする企業グループを観念するものであって,あえて「SANYO SHINPAN」と「GROUP」とに分割して認識するとみるべき理由はない。
したがって,称呼の類否を問題にするとすれば,本願商標については「サンヨーシンパングループ」,引用商標1については「サンヨーシンパンカブシキガイシャ」,引用商標2については「エーシーサンヨーシンパン」の各称呼を対比すべきであるから,本願商標は,引用商標と称呼において相違するというべきである。
そして,本願商標と引用商標とが外観及び観念において相違することは前記1(3)のとおりであるから,結局,本願商標と引用商標とを全体的に対比考察すれば,本願商標は,引用商標と外観,称呼,観念のいずれにおいても相違するものであって,非類似の商標であるというべきである。
被告の反論の要点
本件審決の認定判断は正当であり,原告主張の違法はない。
1 混同のおそれについて (1) 原告は,本願商標と引用商標との対比に際し,取引の実情を考慮すべきである旨主張するが,商標法4条1項11号の適用の際に考慮される取引の実情とは,指定商品又は役務全般についての一般的,恒常的なものを指すものであって,特殊的,限定的なものを指すのではない(最高裁昭和47年(行ツ)第33号同49年4月25日判決・審決取消訴訟判決集(昭和49年)掲載番号1566,443頁参照)。原告が取引の実情として主張している事実は,本願商標の指定役務全般についての一般的,恒常的な取引の実情といい得るものでなく,特殊的,限定的なものであって,類否判断にあたり考慮すべきものではない。
(2) 原告は,本願商標の指定役務である「資金の貸付け」においては,取引者(問屋や小売店)は存在せず,また,需要者は,商標の称呼や商標の一部の称呼によって,役務の出所を識別するものではない旨主張する。
しかし,取引者は,問屋や小売店に限られるものではなく,提供者や需要者をも含む概念である。また,需要者は,インターネット,電話等の通信媒体を通じ,貸付者の店舗に直接赴くことなく資金の貸付けを受けることも可能であり,原告が主張する取引の実情は,貸金業における一形態にすぎない。そして,電話など口頭による取引が頻繁に行われ,テレビ・ラジオ等による宣伝・広告が一般化している現状においては,人の耳を通じた記憶が,需要者にとって貸金業者選定のための必要かつ重要な要素の一つとなるのであって,本願商標及び引用商標に係る各指定役務が,口頭あるいは電話によって行われることを否定する理由はないから,役務の出所の識別にあたり,商標から生ずる称呼を無視することはできないというべきである(なお,本願商標から生ずる称呼が,自他役務の識別標識としての機能を果たす上で重要な役割を果たしていることは,原告のテレビ広告及びイベントのテレビ放映における原告の告知において,「サンヨーシンパン」と称呼された音声が収録されている(甲181)ことからも,首肯し得るところである。)。
(3) 本願商標は,中段に「SANYO SHINPAN」の欧文字を独立して配してなるものであり,引用商標は,「山陽信販」を要部とし,又は,独立して把握されるものであるから,本願商標と引用商標は外観類似とはいえないまでも,「SANYO SHINPAN」の文字を見た者が「山陽信販」の文字を想起しないということはできず,本件審決は,この程度の近似性まで否定したものではない。
また,本願商標の「SANYO SHINPAN」の文字からは,「さんよう信販」ほどの観念が看取されるものであるのに対し,引用商標からも,「さんよう信販」の観念が生じないといえるものでもないから,本願商標と引用商標とを観念類似とすることができないまでも,観念上全く異なるというのではなく,看者に与える観念の印象においていささかの近似性は有するものである。
原告が,本願商標を一定程度広告宣伝に使用していることを認め得るとしても,後に述べるように,本願商標と引用商標とは,少なくとも称呼においては共通する類似する商標であり,かつ,本願商標の指定役務には引用商標の指定役務と同一又は類似の役務を含むものである。
そうすると,本願商標が「資金の貸付け」について,一定程度広告宣伝に使用されていることを考慮してもなお,引用商標の指定役務と同一又は類似する役務に本願商標を使用したときは,一般需要者の間で出所の混同を生ずるおそれが極めて高いものというべきである。
(4) 商標法4条1項11号は,先願登録主義を採用したわが国の商標制度の下で,先願に係る他人の登録商標と抵触する商標は登録しない旨定めたものであり,既登録商標の権利を保護する私益保護のための規定ではあるが,同時に取引における競業秩序が重複登録により乱されるおそれを防ごうとする公益保護のための規定でもある。したがって,先願商標が登録されている以上,当該商標の商標権者の同意やその登録商標の使用の有無とは関係なく,出所の混同のおそれがあり,同号の要件を満たすときは,商標出願は拒絶されるのである。そして,同号の適用を判断する基準時は,査定時又は審決時と解すべきである。
原告は,引用商標の存続期間が満了し,更新登録申請がなされていないという本件審決後の事情を主張するが,本件審決時(平成17年6月14日)において,引用商標が有効に存続していた(乙3,4)以上,かかる事情は本件審決を違法とすべき事由に当たらない。
また,原告は,本件審決の前に,引用商標の登録原簿上の商標権者が,別会社に合併されたことや,商標権者が「資金の貸付け」に引用商標を使用している事実がないことを主張するが,本件審決時において,引用商標が「資金の貸付け」等に使用されていなかったとしても,その後も使用されないということはできないし,引用商標の登録原簿に記載されている権利者の法人格が消滅しているとしても,その商標権は承継会社に引き継がれているものであるから(甲168),引用商標の商標権を引き継いだ者の事業の展開によって,引用商標が前記役務に使用されたときには,本願商標との間において,役務の出所について混同を生じるおそれがあり,それを否定することはできないというべきである。
2 称呼について (1) 原告は,類否判断にあたっては,もっぱら全体的対比をすべきである旨主張するが,全体観察のほかに,各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合していない商標については,分離観察をして,その部分が有する外観,称呼又は観念により類否判断すべきである。
なお,原告は,商標法50条1項において,本願商標が「SANYO SHINPAN」と同一性の範囲内にないから,本願商標の類否判断にあたって,商標を全体として対比観察すべき旨主張するが,原告の主張は,商標法50条と商標法4条1項11号の立法趣旨の相違を考慮せず,また,前者における「社会通念上の同一」と後者における「類似する商標」とを同一視しており,失当である。
(2) 本願商標は,図形と文字とがそれぞれ独立して自他役務の識別標識としての機能を果たし得るというべきであり,本願商標の文字部分は,「SANYO SHINPAN」と「GROUP」を2段に書してなり,上段の「SANYO SHINPAN」と下段の「GROUP」とは,視覚的に分離されて看取されるものである。
本願商標の文字部分が,一連に「SANYO SHINPAN GROUP」と把握され,「サンヨーシンパングループ」と称呼されることは否定しないが,「GROUP」の文字は,「群,集団」又は「共通点をもつ人や物の集まり」の意味を有する英語として知られ,商取引の場にあっては,企業系列,企業集団を表す語として使用されており,自他役務識別標識としての機能が弱いものであり,また,全体から生ずる「サンヨーシンパングループ」の称呼は,長音を含めて12音と,やや冗長にすぎるから,「SANYO SHINPAN」の文字が独立して,自他役務識別標識としての機能を発揮し,当該文字部分より「サンヨーシンパン」の称呼をも生ずるものというべきである。
引用商標1は,「山陽信販株式会社」の文字よりなるところ,その構成中の「株式会社」の文字は法人の組織形態を表すにすぎず,自他役務識別標識としての機能を果たすものではないから,需要者は,「山陽信販」の文字部分に自他役務の識別標識としての機能を見いだすものというべきであり,「サンヨーシンパンカブシキガイシャ」の称呼のほか,単に「サンヨーシンパン」の称呼をも生ずるものというべきである。
引用商標2は,図形と「AC」及び「山陽信販」の文字よりなるものであるが,「AC」の文字部分と「山陽信販」の文字部分とは視覚上分離して認識され,一体のものとして把握すべき理由は見いだし難く,また,アルファベットの2文字よりなるものは自他役務の識別標識としての機能が弱いものというべきであるから,需要者は,「山陽信販」の文字部分に着目し,そこから生ずる称呼をもって取引にあたる場合が多いものとみるのが自然であり,「サンヨーシンパン」の称呼をも生ずるものというべきである。
以上のとおりであるから,本願商標と引用商標とは,互いに「サンヨーシンパン」の称呼を共通にするものである。
当裁判所の判断
1 混同のおそれについて (1) 商標法4条1項11号は,「当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて,その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務‥‥‥又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」については,商標登録を受けることができない旨規定している。この場合,商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品・役務に使用された場合に,商品・役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであり,誤認混同を生ずるおそれがあるか否かは,そのような商品・役務に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者及び需要者に与える印象,記憶,連想等を考察するとともに,その商品・役務の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に照らし,その商品・役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断すべきものと解される(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。なお,ここで考慮される取引の実情とは,指定商品又は役務全般についての一般的,恒常的なものを指すものであって,特殊的,限定的なものを指すのではない(最高裁昭和47年(行ツ)第33号同49年4月25日判決・審決取消訴訟判決集(昭和49年)掲載番号1566,443頁参照)。
そこで,上記の観点から,「資金の貸付け」を指定役務とする本願商標が,引用商標及びそれらの指定役務との対比において,商標法4条1項11号に該当するものであるか否かについて,検討する。
(2) 原告は,本願商標の指定役務である「資金の貸付け」には,取引者(問屋や小売店)は存在せず,需要者は,提供者の商号又は名称や商標の外観によって,提供者の出所を認識するから,商標の称呼や商標の一部の称呼によって,役務の出所が識別されることはないと主張する。
確かに,「資金の貸付け」においては,商品の取引のように問屋や小売店が介在することなく,役務の提供者(貸付者)が直接,需要者(借入者)に役務を提供すること,取引にあたって,需要者は,提供者の店舗に赴いて役務の提供(貸付)を受けるという場合があり,貸金業の規制等に関する法律等により,提供者の店舗には,商号,名称又は氏名等が掲示され,また,提供者は,需要者に対し,口頭又は書面等により説明することが義務付けられていること(甲164,165,177〜180及び弁論の全趣旨)は,原告主張のとおりである。しかし,甲1〜103,133〜134,136〜138,140〜142,151〜158及び弁論の全趣旨によれば,需要者は,インターネット,電話等の通信媒体を通じ,貸付者の店舗に直接赴くことなく資金の貸付けを受けるという形態の取引もなされており,現に原告の宣伝・広告にもそのような取引形態が記載されていることが認められるのであって,「資金の貸付け」が常に需要者が貸付者の店舗に赴いて行われる形態のものばかりといえないことは明らかである。また,原告のテレビ広告及びイベントのテレビ放映における原告の告知として,「サンヨーシンパン」と称呼された音声が収録されていること(甲181)にも示されるように,今日においては,一般に,テレビ・ラジオ等による音声を用いた宣伝・広告が広く行われていることは公知の事実である。
以上の事実によれば,原告が主張する役務の提供形態に関する取引の実情(前記第3,1(1)ア)は,「資金の貸付け」という役務における取引の一つの形態をいうものにすぎず,また,現代社会において音声を用いた宣伝・広告に対する人の耳からの記憶(商標の称呼)が,出所の識別に重要な役割を果たしており,このことは本願商標の指定役務である「資金の貸付け」においても何ら変わることはないものというべきである。また,「資金の貸付け」の一般の需要者が,提供者の正確な商号又は名称や商標の外観について,常に細心の注意力を払っていると認めることもできない。したがって,「資金の貸付け」においては,商標の称呼や商標の一部の称呼によって,役務の出所が識別されることはないとの原告の主張は,採用の限りでない(なお,転々流通することが通常の商品の場合と異なり,役務の提供は,提供者が直接,需要者になすことが一般的であり,それゆえ取引者という用語が提供者や需要者を含む概念として用いられることもある。本件審決は「取引者,需要者」という表現を用いているが,本願商標の指定役務の取引に問屋や小売店が介在するという趣旨でないことは明らかである。)。
(3) 本願商標と引用商標を対比すれば,本件審決が説示したとおり,両者が外観において相違することは明らかである(被告もこの点を積極的に争うものではない)。
また,本願商標は,その図形部分からは特定の観念は生じないし,文字部分からは「SANYO SHINPAN GROUP」という固有名詞が把握されるにすぎず,これが「サンヨーシンパングループ」という企業グループを意味するものであるとしても,それ以外に特定の観念は生じない。一方,引用商標1からは,「山陽信販株式会社」という固有名詞が把握されるにすぎず,それ以外に特定の観念が生ずるものではない。引用商標2の図形部分,「AC」の文字部分からは特定の観念は生じないし,「山陽信販」の文字部分からは「山陽信販」という固有名詞が把握されるにすぎず,それ以外に特定の観念が生ずるものではない。そうすると,本願商標と引用商標とは,観念において比較すべきところがないものと認められる(なお,原告は,本願商標が原告を中核とする企業グループの商標として周知であるから,本願商標からは「原告を中核とする企業グループ」の観念が生ずると主張するが,本願商標が相当程度広告宣伝に使用されていることは原告提出の証拠によって認めることはできるものの,本件審決当時,本願商標に接した需要者が,これから「原告を中核とする企業グループ」という特定の観念を想起するほどに,本願商標が周知著名なものとなっていたとまで認めるに足りる証拠はない。)。
しかしながら,後記2のとおり,本願商標と引用商標とは,「サンヨーシンパン」の称呼において共通する類似の商標というべきであり,当該称呼を生じさせる部分が自他役務の識別機能を果たすものとして一般の需要者に認識されるものと解される(「資金の貸付け」においては,商標の称呼は役務の出所の識別に関わらないとの原告の主張が失当であることは,前記のとおりである。)。
そうすると,本願商標の指定役務が引用商標の指定役務と同一又は類似の役務を含むことは明らかであるから,原告が,本願商標を相当程度広告宣伝に使用していることを考慮しても,なお,本願商標と引用商標との間で,出所の混同を生ずるおそれを否定することはできないというべきである。
(4) 原告は,現実には,引用商標を使用して提供される役務が存在しないことを理由に,本願商標と引用商標について,出所の混同を生ずることはない旨主張する。
甲166〜171及び弁論の全趣旨によれば,引用商標の登録原簿上の商標権者である山陽信販株式会社は,引用商標の設定登録後,平成13年6月にアイフル株式会社の100%子会社となり,平成14年6月に本店を移転した後,平成16年4月21日に,アイフル株式会社の子会社であるトライト株式会社との合併により解散し,もはや貸金業者として登録されていないことが認められる。これらの事実によれば,引用商標は,山陽信販株式会社の解散後,現実に使用されていないことがうかがわれる。
しかしながら,商標法4条1項11号にいう先願の「他人の登録商標」は,後願の同一又は類似商標の査定時又は審決時において,現に有効に存続しているものであれば足り,現実に使用されていることを必要とするものではないと解するのが相当である。また,商標の類否判断に際しては,取引の実情を考慮することが必要であるが,ここで考慮すべき取引の実情とは,前記1(1) のとおり,指定商品又は役務全般についての一般的,恒常的なものを指すものであるから,「他人の登録商標」が現実に使用されているかどうかということは類否判断に際し考慮すべき取引の実情には当たらないのであり,査定時又は審決時において,先願の「他人の登録商標」が現に有効に存続しているものである以上,現実に使用されていなくても,それが使用された場合に混同を生ずるか否かを一般的,恒常的な取引の実情に照らして判断すべきものである。
仮に「他人の登録商標」の使用の点を取引の実情として考慮し得るとしても,本件において,引用商標に係る商標権を承継したトライト株式会社もしくはその親会社であるアイフル株式会社の事業の展開によっては,引用商標が将来的に使用される可能性がおよそないとまではいえず,本件審決時において,引用商標が使用される可能性を否定することはできないのであるから,引用商標が使用されたときに,本願商標との間において,役務の出所について混同を生ずるおそれがあることを否定することはできないというべきである(なお,原告は,法人の商号と異なる商号又は名称からなる商標は公序良俗に反し無効事由があると主張するが,引用商標は,本件審決時において有効に存続していたものであるから,原告の主張は上記判断を何ら左右するものではない。)。
したがって,引用商標が山陽信販株式会社の解散後,現実に使用されていないという事実は,本願商標と引用商標との類否判断に影響を及ぼすものではなく,原告の上記主張は失当である。
なお,原告は,引用商標の存続期間が満了し,更新登録申請がなされていないという本件審決後の事情を主張するが,引用商標は,本件審決時において,現に有効に存続していた以上,当該事情をもって本件審決を違法とすることはできない。
2 称呼について (1) 原告は,本願商標については「サンヨーシンパングループ」,引用商標1については「サンヨーシンパンカブシキガイシャ」,引用商標2については「エーシーサンヨーシンパン」の各称呼を対比すべきであって,本願商標及び引用商標から「サンヨーシンパン」の称呼が生ずるとの本件審決の認定は誤りである旨主張する。
本願商標は,上段中央に図形を配し,「SANYO SHINPAN」の欧文字を中段に,「GROUP」の欧文字を下段に書してなるものであり,視覚的に,「SANYO SHINPAN」の文字と「GROUP」とが上下に分離して認識される上,「GROUP」の文字は,「群,集団」又は「共通点をもつ人や物の集まり」の意味を有する英語として知られ,商取引の場において,企業系列,企業集団を表す語として使用されていることは公知の事実であるから,自他役務識別標識としての機能は弱いものといわざるを得ず,本願商標を指定役務に使用した場合,これに接した需要者は,通常,「SANYO SHINPAN」の文字部分を自他役務の識別機能を果たすものとして認識するものということができる。そうすると,本願商標からは,原告が主張するように「SANYO SHINPAN」と「GROUP」を一連のものとしてとらえ「サンヨーシンパングループ」との称呼を生ずるということができるとしても,同時に,「SANYO SHINPAN」の文字部分に対応して「サンヨーシンパン」の称呼をも生ずるものと認めるのが相当である。
一方,引用商標1は,「山陽信販株式会社」の文字を横書きしてなるものであり,このうち「株式会社」の文字は法人の組織形態を表すものであって,通常,自他役務識別標識としての機能を果たすものではないから,引用商標1を指定役務に使用した場合,これに接した需要者は,「山陽信販」の文字部分を自他役務の識別機能を果たすものとして認識するものということができる。そして,「山陽信販」の文字部分からは「サンヨーシンパン」の称呼が生ずるから,引用商標1からは「サンヨーシンパン」の称呼が生ずるものと認めるのが相当である。
また,引用商標2は,角を丸くした正方形状の図形の中の上部3分の2ほどにやや大きくアルファベットの「AC」を黒い太線で表し,下部3分の1ほどを黒く塗りつぶした中に「山陽信販」の文字を白抜きで表した構成よりなるものであり,「AC」の文字部分と「山陽信販」の文字部分とは視覚的に分離して認識され,両者を一体のものとして把握すべき特段の理由はないから,引用商標2を指定役務に使用した場合,これに接した需要者は,「山陽信販」の文字部分を自他役務の識別機能を果たすものとして認識するものというべきである。そして,「山陽信販」の文字部分からは「サンヨーシンパン」の称呼が生ずるから,引用商標2からは「サンヨーシンパン」の称呼が生ずるものと認めるのが相当である。
そうすると,本願商標及び引用商標1,2からは,それぞれ「サンヨーシンパン」の称呼が生ずるとの本件審決の認定に誤りはなく,本件商標と引用商標とは,称呼において類似するというべきである。
(2) 原告は,本願商標中の「SANYO SHINPAN」との部分及び引用商標中の「山陽信販」との部分は,本願商標及び引用商標の一部にすぎず,本願商標及び引用商標と同一性の範囲内にないから,類否判断に際して対比すべきではないと主張し,その根拠として,商標法50条1項の規定に言及する。
しかし,原告が言及する商標法50条1項の規定は,登録商標が使用されていない場合の取消審判に関し,登録商標と同一と認められる範囲についてのものであって,商標法4条1項11号により登録を拒絶すべき登録商標と同一又は類似する範囲について定めたものではないから,原告の主張は,当を得ないものというべきである。
また,一般に,簡易,迅速を尊ぶ取引の実際においては,商標は,各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していない限り,常に必ずその構成部分全体の名称によって称呼,観念されるというわけではなく,しばしば,その一部だけによって簡略に称呼,観念され,その結果,1個の商標から2個以上の称呼,観念の生ずることがあるのは,経験則の教えるところであり(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日判決・民集17巻12号1621頁参照),本願商標中の「SANYO SHINPAN」との部分及び引用商標中の「山陽信販」との部分から生ずる称呼を対比すべきでないという原告の主張は採用できない。
原告は,本願商標の指定役務の需要者は,本願商標中の「SANYO SHINPAN GROUP」を一体として認識し,原告を中核とする企業グループを観念するものであって,あえて「SANYO SHINPAN」と「GROUP」とに分割して認識するとすべき理由はない旨主張する。
甲1〜158,175,176,181,182によれば,原告が本願商標を相当程度広告宣伝に使用している事実が認められるが,本願商標を用いた広告等(甲1〜158)には,「三洋信販」あるいは「三洋信販株式会社」などの記載もあり,これらから「サンヨーシンパン」の称呼が生ずることは明らかであるから,本願商標中の「SANYO SHINPAN」との文字部分が独立して認識されることは否定できず,むしろ,それらの広告等における使用態様に照らせば,本願商標から,「三洋信販」と共通する「サンヨーシンパン」の称呼を生ずることが裏付けられるというべきである(なお,本件審決時において,本願商標が「原告を中核とする企業グループ」を表す標章として周知著名なものとなっていたとまで認められないことは前記のとおりである。)。
また,すでに説示したとおり,本願商標において,「SANYO SHINPAN」の文字と「GROUP」とは上下に分離して認識される上,「GROUP」の文字は自他役務識別標識としての機能が弱いものといわざるを得ないところであって,需要者は,通常,「SANYO SHINPAN」の文字部分を自他役務の識別機能を果たすものとして認識するものと解されるから,原告が本願商標を相当程度広告宣伝に使用している事実を踏まえても,本願商標から「サンヨーシンパン」の称呼が生ずるとの判断を左右することになるものではない。
3 結論 以上のとおりであるから,本願商標と引用商標は,外観において相違し,観念において比較すべきところがないとしても,「サンヨーシンパン」の称呼を共通にし,類似する商標というべきであり,役務の出所について混同を生じさせるおそれがある商標といわざるを得ないところ,本願商標の指定役務は引用商標の指定役務と同一又は類似のものを含むから,本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした本件審決の判断に誤りはない。
したがって,原告主張の取消事由は理由がなく,他に本件審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 嶋末和秀
裁判官 沖中康人