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関連審決 審判1998-35423
関連ワード 識別力 /  役務商標 /  指定役務 /  周知性 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  4条1項15号 /  類似性(類否判断) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  取引の実情 /  無効審判 /  継続 /  非類似 /  商号 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 80号 審決取消請求事件
原告 株式会社エヌ・ティ・ティ・データ代表者代表取締役 【A】
訴訟代理人弁護士 水谷直樹
同 粟田英一
被告 有限会社ナショナルフーズ(旧商号) 有限会社ネブキン 代表者取締役 【B】
訴訟代理人弁理士 【C】
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2000/11/15
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた判決
1 原告 特許庁が平成10年審判第35423号事件について平成11年12月17日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は、「アンサーセンター」の片仮名文字を横書きして成り、商標法施行令別表の区分による第38類「移動体電話・テレックス・電子計算機端末・電報・電話・ファクシミリによる通信、無線呼出し、テレビジョン・有線テレビジョン・ラジオ放送、報道をする者にたいするニュースの供給、電話機・ファクシミリその他の通信機器の貸与」を指定役務とする登録第3369807号商標(平成4年9月30日登録出願、平成10年7月10日設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者である。
原告は、平成10年9月4日、被告を被請求人として、本件商標登録の無効審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成10年審判第35423号事件として審理した上、
平成11年12月17日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、
その謄本は平成12年2月7日原告に送達された。
2 審決の理由 審決は、別添審決書写し記載のとおり、@本件商標は、請求人(原告)の引用する下記Aの商標(以下「引用A商標」という。)とは類似しないから、商標法の一部を改正する法律(平成3年法律65号)附則5条3項の規定によって読み替えられた商標法8条2項の規定に違反して登録されたものということはできず、また、A「ANSER」、「ANSERシステム」及び「アンサーセンター」の文字は、請求人(原告)の業務に係る役務であることを表すものとして需要者の間に広く認識されていたものとは認められず、かつ、本件商標と請求人の引用する引用A商標及び下記Bの商標(以下「引用B商標」という。)とは非類似の商標であるから、本件商標をその指定役務に使用しても役務の出所について混同を生じさせるおそれはなく、本件商標が商標法4条1項15号に違反して登録されたものということはできず、したがって、本件商標の登録を無効とすることはできないとした。
A 商標の構成 「ANSER」 指定役務 商標法施行令別表の区分による第38類 「電子計算機端末による通信」 出願日 平成4年9月9日(商標法の一部を改正する法律(平成3年法律65号)附則5条1項の規定による使用に基づく特例の適用を主張) 設定登録日 平成6年9月30日 登録番号 登録第3004638号 B 商標の構成 「ANSER」 指定役務 商標法施行令別表の区分による第42類 「電子計算機による情報処理」 出願日 平成4年9月9日(商標法の一部を改正する法律(平成3年法律65号)附則5条1項の規定による使用に基づく特例の適用を主張) 設定登録日 平成7年5月31日 登録番号 登録第3044264号
原告主張の審決取消事由
審決の理由中、本件商標及び引用A、B商標の構成、指定役務、出願及び登録の経緯の認定(審決書2頁2行目〜3頁1行目)は認める。
審決は、本件商標と引用A商標との類否の判断を誤り(取消事由1)、また、本件商標をその指定役務に使用した場合の役務の出所混同のおそれについての判断を誤った(取消事由2)結果、本件商標につき、商標法の一部を改正する法律(平成3年法律65号)附則5条3項の規定によって読み替えられた商標法8条2項及び同法4条1項15号の適用を看過したものであるから、違法として取り消されるべきである。
1「ANSER」ないし「ANSERセンター」の周知著名性について 取消事由1、2に共通する前提として、原告が「ANSER」の名称で提供してきたサービス(以下「ANSERサービス」という。)を通じて、「ANSER」ないし「ANSERセンター」が顕著に知られるに至ったことを述べる。
(1) 原告が分社化される以前の日本電信電話株式会社の更に前身である日本電信電話公社は、昭和56年8月に、コンピューターを利用した自動照会応答サービスとしてANSERサービスの提供を開始し、同サービスは、昭和60年に日本電信電話株式会社の設立に伴い同社に引き継がれ、更に昭和63年5月に同社が分社化されるのに伴って原告に引き継がれた。
(2) ANSERサービスの「ANSER」は、Automatic Answer Network System for Electrical Request の頭文字をつなげた造語であるが、当初より自動照会応答サービスの名称として「アンサー」の称呼が採用された。この自動照会応答サービスとは、例えば、銀行に預金口座を有する者が自己の預金残高の照会や振込、入金の通知を受ける際に利用されるサービスである。すなわち、利用者は、原告(当初は日本電信電話公社、次いで分社前の日本電信電話株式会社)が運営管理している「ANSERセンター」を介して、銀行のセンターに電話等により接続して預金残高の照会等を行うと、銀行から「ANSERセンター」に対して当該預金に関するデータが提供され、これに応じて「ANSERセンター」がコンピューターの自動処理により照会内容に対する自動音声応答を行い、あるいは口座入金の自動通知を行い、資金移動(振込、振替等)等に応ずるというものである。
(3) ANSERサービスは、当初は電話機に対する自動音声応答ないし通知等の形態で提供されていたが、その後は音声以外の方法、すなわち、ファクシミリ(昭和59年4月)、キャプテン端末(同年11月)、パソコン(昭和61年11月)、ディスプレイホン(平成2年)への自動応答へとサービス提供方法が拡大されていった。
さらに、原告からANSERサービスの提供を受けることにより自動照会応答等に応じる機関も、当初の銀行から、証券会社(昭和60年)、生命保険会社(平成2年)へと拡大しており、平成4年3月時点でANSERサービスを利用していた銀行は、当時の我が国の都市銀行、特殊銀行(長信銀)、信託銀行及び地方銀行の全行、第2地方銀行の約85パーセントに達し、さらに、信用金庫の80パーセント、大手ないし準大手証券に分類される主要な証券会社のすべてもANSERサービスの提供を受けていた。そして、我が国の個人、法人の大半は銀行に預金口座を開設しているから、これらの者が自己の預金口座の残高照会に対する自動応答、入金通知、資金移動等のサービスを銀行から受けた際には、そのほとんどすべての場合に、原告の「ANSERセンター」から、上記のサービスを受けていたことになる。
なお、被告は、「共同CMS」サービスについて言及するが、共同CMS(「CMS」は、Cash Management Serviceの頭文字をつなげた造語)は、あらかじめ指定された時刻にデータを一括送信するというサービスを内容とするものであり、音声応答を行えないなど、ANSERサービスとはサービス内容を異にしているほか、その需要及び利用回数にも格段の差がある。すなわち、平成2年度のANSERサービスの利用回数(トラヒック数という単位でカウントされる件数)は、
銀行、証券関係だけでも合計3億8100万件に及んでいるのに対して、共同CMSにおいては、同2214万6000件にすぎない。
(4) そして、銀行が預金者等に対して配布していた自動応答サービスのパンフレットにおいても、ANSERサービスの仕組みが図示されているほか、液晶画面が付された電話機のパンフレットにおいても、同電話機を利用してホームバンキングサービスの提供を受ける際には、原告のANSERサービスが利用され、原告の「ANSERセンター」を介して自動応答がされることが説明されている。また、
ANSERサービスは、新聞においても繰り返し記事として掲載されてきたほか、
「知恵蔵」1992年版にも、原告が提供する自動応答サービスの名称として掲載されている。
なお、被告は、上記パンフレット等において「ANSERセンタ」と語尾に長音がないものが混在しているとか、「ANSERセンター」と表示すべき部分に単に「ANSER」としか表示していないものがある旨主張するが、長音の有無は実質的な同一性を損なうものではないし、被告が指摘する「ANSER」としか表示していない部分は、サービスの名称としての「ANSER」を表示したにすぎないものである。
(5) 以上のとおり、「ANSER」は、原告が提供してきた自動照会応答サービスの名称として、また、「ANSERセンター」は、同サービスの提供場所として、遅くとも本件商標の出願日である平成4年9月30日までには、我が国において顕著に知られるに至っていたことは明らかである。そして、引用A商標は、このANSERサービスを開始した当初から、本件商標の出願時までの11年余りにわたって使用されてきた著名な商標である。
(6) 原告のANSERサービスは、本件商標の出願時以降も更に利用実績を高め、現在ではネットワーク上の自動照会応答サービスにも対応し、社会的インフラストラクチャーの一つとして必須不可欠の地位を占めるに至っている。すなわち、
平成8年には「ANSER-WEB」の名の下にインターネット上での利用を可能にするサービスを開始し、平成10年には「ANSER-SPC」の名の下に、利用者がANSERサービスを通じて入力したデータをそのままコンピュータ上で加工利用することを可能とするサービスを開始した。このような新しいサービスは、
新聞や雑誌等でも積極的に取り上げられ、「ANSER-SPC」サービスを利用するためのパソコン用ソフトウェアが販売され、原告自身もこの新しいサービスを積極的に広告宣伝してきている。
このような状況の下で、本件商標についての誤認混同のおそれは一層強くなっている。
2 取消事由1(類否判断の誤り) 本件商標と引用A商標とは、その指定役務において相互に包含関係にあることは明らかであるところ、本件商標の「アンサーセンター」は、それ自体で一連に記述されてはいるものの、その構成は、「応答」等を意味する「アンサー」の語に、「中心、中央、中心施設」等を意味する用語として日常的に慣用されている「センター」の語を付したものにすぎないから、これに接した需要者は、これを「アンサー」を行う「センター」であると認識するものである。
そして、引用A商標「ANSER」が「アンサー」の称呼を生ずる著名な商標であることは上記1のとおりであるから、「アンサーセンター」が一連に表記されているとしても、需要者がその称呼を耳にした場合には、語頭部分の「アンサー」が引用A商標と称呼において同一であって、引用A商標と本件商標とは称呼が類似しているとして、本件商標の役務の出所について混同を生ずるおそれがあるというべきである。
以上の点からすると、本件商標は、引用A商標と称呼において類似していることが明らかであり、商標法の一部を改正する法律(平成3年法律65号)附則5条3項の規定によって読み替えられた商標法8条2項に違反して登録されたものであるから、審決のこの点の判断は誤りというべきである。
3 取消事由2(役務の出所混同のおそれの判断の誤り) 原告の提供してきたANSERサービスの名称である「ANSER」及びその提供場所である「ANSERセンター」が本件商標の出願時までに顕著に知られていたことは前述のとおりであるが、これに加えて、「ANSER」は原告の造語に係る創造標章として強い識別力を持つこと、本件商標と引用A商標の指定役務はともに第38類に属し強い関連性を有すること、原告は我が国を代表する情報通信企業であって、第38類に属する役務全般を提供することについて何らの違和感もないことは、いずれも明らかというべきである。
以上を勘案すると、本件商標をその指定役務に使用した場合、需要者は、原告又は原告と経済的、組織的に何らかの関係のある者の業務に係る役務であるかのように誤認して、その出所について混同を生ずるおそれがきわめて大きいといわなければならず、本件商標は商標法4条1項15号に違反して登録されたものであるから、審決のこの点に関する判断は誤りといわなければならない。
被告の反論
審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
1「ANSER」ないし「ANSERセンター」の周知著名性について 原告は、「ANSERセンター」がANSERサービスの提供場所として顕著に知られていた旨主張するが、原告の提出する甲第5〜第14号証においては、
「ANSERセンター」についての説明はどこにも記述されていないから、これを見ても「ANSERセンター」が何かを理解することはできず、「ANSERセンター」が周知著名であることの根拠となり得るものとはいえない。また、上記甲号各証において、同サービスの提供場所として、語尾に長音のない「ANSERセンタ」と記載されているものが多く、さらに、「NTTDATAANSERセンタ」、「NTTデータANSERセンタ」との用語も用いているほか、単に「ANSER」と表示しているものもある。このように同じ場所の説明に異なる用語が使用され、統一されていないということは、原告自身が「ANSER」サービスの提供場所を「ANSERセンタ(ー)」と認識しておらず、また、それを商標として使用するという認識もなかったということにほかならない。
また、銀行の自動応答、通知サービスには「ANSER」だけでなく、「共同CMSセンター」も存在したこと、「ANSERセンター」を介して自動応答する電話機は多数ある電話機メーカーのうちのごく一部の製造にすぎないことからすると、同サービスが必ず「ANSERセンター」を介して提供されていたかのような原告の主張は失当である。
さらに、ANSERサービスが、実際にどの程度使用されてきたかも不明であり、本件商標の出願当時までに、同サービスないし「ANSERセンター」が我が国において顕著に知られるに至っていたとはいえない。
2 取消事由1(類否の判断の誤り)について 原告は、「アンサーセンター」は「アンサー」を行う「センター」と認識される旨主張するが、「センター」が原告主張のように「中心、中央、中心施設」等を意味する用語として日常的に慣用され、単独で使用されることもあるにせよ、通常は「○○センター」として他の語を付加することによって独自の意味を持つ用語として認識され、互いに混同されることなく使用されている。例えば、日常生活においても、「文化センター」、「ショッピングセンター」、「サービスセンター」、「集配センター」といった用語が使用され、これらも前段部分と「センター」とが分離されることなく全体で一つの用語として認識され明確に識別されている。「アンサーセンター」についても、一連に称呼されるものであって、これを分離して認識され、称呼されることはあり得ない。したがって、本件商標の「アンサー」の部分が引用A商標の「ANSER」と称呼が同一であるとしても、本件商標が一連に称呼されるべきものである以上、互いに相紛れることはない。
3 取消事由2(役務の出所混同のおそれの判断の誤り)について 原告は片仮名文字で表記された「アンサーセンター」を使用しているものではなく、これと欧文字表記の「ANSER」とは、外観称呼観念のいずれにおいても類似しない。そして、「ANSER」ないし「ANSERセンター」が我が国において顕著に知られているものでないことは前記1のとおりであるから、被告が本件商標をその指定役務に使用しても、原告の主張するような役務の出所混同を生ずるおそれはないというべきである。
当裁判所の判断
1「ANSER」との名称の周知著名性について (1) ANSERサービスの概要 甲第5号証の1〜5、甲第6、第7号証、第9号証の1〜3、第10〜第12、第13号証の1〜15、第14号証によれば、ANSERサービスとは、家庭や事業所等に置かれた端末から、例えば、銀行に対して預金の残高照会や振込・振替依頼等を行い、又は銀行から顧客の端末に対して通知を行う際の応答業務を音声自動応答装置などで対応するサービスであること、原告の前々身である日本電信電話公社は、これをまず銀行ANSERサービスとして昭和56年に開始した後、
ANSERサービス提供機関として、昭和59年に証券会社を、原告に引き継がれた後の平成2年に生命保険会社を加え、このサービスに適応できる端末についても、当初の電話機から、昭和59年にファクシミリ、昭和61年にパソコン、平成元年にテレビゲーム機等を加えるなど、そのサービス内容を順次拡充してきたこと、ANSERサービスの利用が可能な機関は、本件商標出願時までには、銀行の大部分、大手・準大手を中心とする証券会社46社及び生命保険会社6社に及び、
銀行ANSERサービスに係る月間トラヒック(利用件数)は、平成3年には3200万件に達するなど、「ファームバンキング」(金融機関のコンピュータと企業のコンピュータ又は端末を通信回線で結び、資金の移動や残高照会等のデータのやりとりを行うこと)、「ホームバンキング」(金融機関のコンピュータと家庭に設置された端末を通信回線で結ぶことにより、家庭にいながらにして預金残高照会や振替・振込などを行うこと)を担う中心的なサービスと目されるに至ったこと、以上の事実を認めることができる。
(2) ANSERサービスの取引者、需要者 上記(1)の事実からすると、ANSERサービスの取引者、需要者としては、ホームバンキングの利用者を中心とする一般個人需要者、ファームバンキングの利用者を中心とする企業需要者、原告とともにこれらの需要者に対する関係でサービス提供を行う立場に立つ金融機関、証券会社及び生命保険会社という三者に大別することができると解される(これらの取引者、需要者は、本件商標の指定役務との関係でも取引者、需要者になり得ると考えられる。)ことから、以下、個別に周知著名性を検討する。
(3) 一般個人需要者における周知著名性 前掲甲号各証によれば、ANSERサービスに関しては、原告自身がパンフレットを作成していたほか、銀行が配布するファームバンキング、ホームバンキング関係のパンフレットや、一部の電話機のパンフレット中にも、ANSERサービスについて触れているものがあったこと、そして、以上のパンフレットの中には「ANSERセンター」又は「ANSERセンタ」の記載があるものもあること、
他方、新聞においても、本件商標出願時までに、ANSERの新たなサービス内容の拡充等に関する記事が少なくとも15件掲載され、また、平成4年1月1日朝日新聞社発行の「知恵蔵」1992年版にも「ANSER」が原告の提供しているサービスである音声応答システムの名称であることについての記述があること、以上の事実を認めることができる。
しかし、まず、原告が平成3年に作成したANSERに関する2種類のパンフレット(甲第5号証の1、2)は各5000部ずつしか印刷されておらず(同号証の3)、一般に広くANSERサービスを認識してもらうための宣伝手段としては部数が十分ではないし、銀行が顧客向けに配布していたパンフレット(甲第9号証の1〜3)を見ても、「ANSER」や「ANSERセンター」がそれ自体としていかなるものであるかを理解できるような内容とはいえない。また、上記「知恵蔵」の記述も、「音声応答システム」の項目において、その実例として原告のANSERについて触れているものであって、ANSERサービス自体を独立の項目として取り上げているものではない。そして、新聞の記事(甲第13号証の1〜15)に関しては、その多くが事業者等を中心的な購読者層とする日経産業新聞、日刊工業新聞、日経金融新聞等の記事である。
さらに、「平成4年版金融情報システム白書」(財団法人金融情報システムセンター編、甲第7号証)には、ホームバンキングの現状に関して、「ホームユース端末によるサービスの実施機関数は103(14.6%)であるが、利用顧客数は22千と少なく、企業を対象とするファームバンキングの急速な普及ぶりとは対照的である。現在では、液晶画面付多機能電話によるサービスを実施する金融機関が相次いでいるが、利用顧客層は中小企業、個人事業主が中心であり、一般家庭へ普及しているとはいえないようである。」と記載されているほか、平成4年4月16日付け日経産業新聞の記事(甲第13号証の14)は、ANSERサービスを利用した金融サービスに触れつつ、「いまのところ、こうした金融サービスの利用は中小規模事業所、個人商店などに限られている。『ホームバンキング』といえども、現金の引き出しは無理なので、頻繁に残高をたしかめたりすることのない家庭では、利用する人は少ない。」と、同年5月4日付けの日本経済新聞の記事(甲第13号証の15)は、「ホームバンキングやファームバンキングに利用されているNTTデータ通信の銀行向け『ANSER(アンサー)システム』は、利用件数が最近の2年間で約5割増となっている。」としつつ、「個人家庭への端末の普及は都銀全体でも数万件にとどまり、個人預金者全体の1%にも満たない。」と記載しているところである。
以上を総合すれば、本件商標の出願(平成4年9月30日)当時、ホームバンキング自体、いまだごく一部の限られた家庭にしか普及するに至っていなかったことが認められ、原告のANSERサービスを示す名称としての「ANSER」が、ホームバンキングの現実の利用者層を超えて広く知られていたとまで認めるには足りないというべきである。また、銀行以外の分野(証券、生命保険)でANSERサービスがより普及していたことを認めるに足りる証拠はなく(むしろ、前掲甲号各証からすると、ANSERサービスの主力は銀行ANSERであったことがうかがわれる。)、証券、生保分野でのANSERサービスの普及を通じて、「ANSER」との名称が一般個人需要者の間で広く知られるに至ったことを認めることもできない。
また、本件商標の出願後、その設定登録(平成10年7月10日)までの間における「ANSER」の認識について見るに、甲第16、第17、第22号証によれば、原告は、平成9年6月に従来の銀行ANSERの使い勝手を向上させた「ANSER-SPC」のサービスを開始し、このことが、「日経ウォッチャーOn IT Business」同年7月11日号に掲載され、その中には「ANSERセンター」についての図示も含まれているが、他方、同サービスは企業向けが大半を占めるとの記述もあること、さくら銀行は上記「ANSER-SPC」に対応するサービスについてのパンフレットを作成し、その中には「ANSERセンター」に関する図示もあるが、その記述でユーザーをもっぱら「貴社」と記載し、企業向けの説明を想定していることが認められる。なお、甲第18〜第21、第23〜第26号証は、
本件商標の設定登録後に頒布されたものであることがその記載から明らかであり、
これを審決取消事由の認定の根拠とすることはできない。
以上の事実によれば、本件商標の出願後、その設定登録時までの間にも、
ANSERサービスは拡充しているとはいえるものの、上記「ANSER-SPC」は主として企業向けサービスに重点が置かれており、上記認定のような「ANSER」に関しての一般個人需要者の認識に特段の変化があったと認めるには足りないというべきである。
(4) 企業需要者における周知著名性 前掲「平成4年版金融情報システム白書」(甲第7号証)によれば、平成2年におけるファームバンキングの利用顧客数(延数)は、最も普及しているテレフォンサービスで195万7000、ファクシミリサービスで89万1000に上っていること、これらのすべてがANSERサービスを利用しているものではないが、少なくとも、ANSERサービスがファームバンキングを担う中心的なサービスと目されていることが認められる。この事実に上記(1)、(3)の認定事実を併せ考えると、企業需要者に関しては、ファームバンキングの普及等を背景に、本件商標の出願時までには、ANSERサービスを示す名称として「ANSER」は一定程度の周知性を獲得していたと認めることができるが、更に進んで、著名といえる程度の広範な認識を得ていたとまでは認めるに足りる証拠はない。
(5) 金融機関等における周知著名性 本件商標の出願時までには、銀行の大部分、大手・準大手を中心とする証券会社46社及び生命保険会社6社がANSERサービスの実施機関に加わっていたことは前示のとおりであり、ANSERサービスの取引者としてのこれらの業態に関する限り、「ANSER」の名称は、ANSERサービスを示すものとして本件商標の出願時までに周知となっていたことは認めることができる。
2 取消事由1(類否判断の誤り)について (1) まず、本件商標の「アンサーセンター」との構成と引用A商標の「ANSER」との構成を対比した場合、外観において類似しないことは明らかであり、また、引用A商標は造語商標であると認められ、特段の観念を生じさせるものとはいえないから、観念においてはも類似しない。
そこで、次に、称呼について検討するに、本件商標から「アンサーセンター」の称呼が生ずることは明らかであるところ、原告は、本件商標の「センター」の部分は慣用的な日常用語にすぎず、かつ、「アンサー」の部分は引用A商標と称呼が同一であるから、両者は称呼において類似する旨主張する。
しかし、本件商標の構成態様は、同書、同大、同間隔の「アンサーセンター」の片仮名文字を1行に表示したものであること、「アンサーセンター」との称呼は、長音2音を含む8音から成るものであって、格別冗長なものとはいえず、よどみなく一連に称呼し得ることからすると、特段の事情のない限り、本件商標からは「アンサーセンター」との称呼のみを生ずると解するのが相当である。
(2) この点について、原告は、「センター」の文字は「中心、中央、中心施設」等を意味する用語として日常的に慣用されている旨主張し、広辞苑第4版(甲第15号証)においても、「中央。中心。中央機関。また、それぞれの分野の専門的・総合的施設。」と記述されている。しかし、「アンサー」の文字についても、
「答、回答、応答」を意味する用語として親しまれているものであるから、その識別力の強弱に関して「アンサー」の部分と「センター」の部分に格別の差異があるとはいえない。さらに、「センター」の文字は、被告が主張するように、「文化センター」、「ショッピングセンター」、「サービスセンター」、「集配センター」などのように、他の語とその末尾で結合して使用される例が多いところ、そのような場合には、当該他の語の表す事項に関する施設を意味する単一の用語として理解され、当該他の部分だけで略称されるのが一般的であると認めるに足りる証拠はない。そうすると、「センター」の文字が、「中心、中央、中心施設」として日常的に慣用されているとの事実があっても、本件商標が「アンサーセンター」との一連の称呼を生じさせることと何ら矛盾するものではない。
(3) 進んで、原告が主張する「ANSER」の周知著名性について検討する。
まず、一般の個人需要者においては、いまだ「ANSER」の名称が広く認識されていたと認められないことは前示のとおりである。
次に、ファームバンキングの利用者等である企業需要者について見るに、
ANSERサービスは、その提供者である原告と需要者との間の直接相対取引の形態で完結するものはなく、需要者は、まず電話通信網を通じてANSERセンターを経由してANSER実施機関である銀行等に対して照会等を行い、銀行等が提供するデータに基づいて、需要者に対して自動音声応答等を行うという特有の形態をとるものである。しかも、ファームバンキングが比較的専門性の高い取引であって、その需要者である企業等においては、そのサービスの出所の識別については相当高い注意力が払われると解するのが相当である。そうすると、企業需要者は、ANSERサービスを認識しているとしても、その実施金融機関の存在、旧日本電信電話公社の流れを汲む原告がサービス提供主体であること等をも十分に踏まえてANSERサービスを認識していると推認され、「ANSER」との商標のみによって他の類似サービスとその出所を識別しているといった取引の実情を認めることもできない。加えて、「ANSER」と「アンサーセンター」の類似性の判断において着目すべきはその称呼であるが、「ANSER」の称呼(アンサー)は、我が国でもよく知られている英単語「answer」と同じであって、独創性に乏しいありふれた称呼にすぎず、それ自体が強い識別力を有していると認めることはできないし、
著名性のゆえに強い識別力を獲得するといった状況にないことは前示の認定から明らかである。そうすると、原告のANSERサービスが企業需要者に相当程度普及し、かつ、「ANSER」の称呼(アンサー)が本件商標「アンサーセンター」の前段部分と一致しているとしても、役務の出所についての混同のおそれを認めるに足りる特段の事情があるということはできない。
また、金融機関等(銀行、証券会社、生命保険会社)について見ると、ANSERサービスの取引者としてのこれらの業態に関する限り、「ANSER」との名称が本件商標の出願時までに周知となっていたことは前示のとおりである。しかしながら、金融機関等は、顧客との関係では原告とともにサービスの実施主体の立場に立つところから、ANSERサービスに係る原告との関係は、ファームバンキングやホームバンキング関係の事業をいかに構築するかという企業戦略に直接関わる極めて重要な役割を占める取引であること、その取引態様も、迅速性の要求される新規取引が反復されるものではなく、継続的な取引関係として慎重な検討の下に高度の注意力をもって決定されるのが通常であるから、「ANSER」から生ずる「アンサー」との称呼によってその役務の出所を判断するような状況は到底考えられないところというべきである。
(4) 以上のとおり、本件商標「アンサーセンター」の「アンサー」の部分と引用A商標の「ANSER」の称呼の同一性をもって、両者を類似する商標と解すべき特段の事情は認められない。したがって、本件商標からは、「アンサーセンター」との一連の称呼のみが生ずると解すべきところ、これと引用A商標から生ずる称呼である「アンサー」とは、「センター」の有無により明確に区別し得るから、
称呼上も類似しないというべきである。
よって、取消事由1に係る原告の主張は理由がない。
3 取消事由2(役務の出所混同のおそれの判断の誤り)について (1) まず、原告の提供するANSERサービスの名称である「ANSER」との関係において役務の出所混同のおそれが生ずるとの原告の主張に理由がないことは、上記2で説示したところと同一である。
(2) 次に、原告は、「ANSERセンター」がANSERサービスの提供場所として広く知られていたから、この名称との関係で役務の出所混同のおそれを生ずる旨主張する。
確かに、原告作成のパンフレット、一部の銀行の作成したパンフレットや一部の新聞記事に「ANSERセンター」ないし「ANSERセンタ」との名称が記載されていることは前記1で認定したとおりである。しかし、原告の作成した「ANSER」に関するパンフレットにおいてさえ、「ANSERセンタ(ー)」との用語が全く記載されていないもの(甲第5号証の1)がある上、「ANSERセンタ」との用語が使用されているパンフレットや新聞記事(甲第5号証の2、
4、5、第6号証、第9号証の1、3、第10号証、第13号証の10、13、14)においてもその具体的な説明はなく、「銀行のセンタ」などの一般用語しての「センタ」が併用されているもの(甲第5号証の2、第6号証)もある。また、これらのパンフレット等において、「ANSERセンター」と「ANSERセンタ」との両方の用語が混在していることは被告の指摘するとおりであり、原告が「ANSER」をそれ自体として単独で使用している例が多いこと(一連の称呼のみが生ずる本件商標「アンサーセンター」とは前提が異なる。)にも照らすと、「ANSERセンター」ないし「ANSERセンタ」との単一の固有の用語というより、
「ANSER」との名称に一般的な用語である「センター」ないし「センタ」を付加して使用されているにすぎないことがうかがわれるところである。これらの点を併せ考えると、一般個人需要者はもとより、企業需要者及び金融機関等の取引者においても、「ANSERセンター」ないし「ANSERセンタ」が、一連の用語として広く認識されていると認めることはできないというべきである。
(3) したがって、「ANSERセンタ(ー)」の名称との関係で、本件商標に関する役務の出所混同のおそれのあることを前提とする取消事由2に係る原告の主張も理由がないというべきである。
4 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 石原直樹
裁判官 宮坂昌利