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審判番号(事件番号) データベース 権利
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昭和54ネ2078 判例 商標
平成18行ケ10280審決取消請求事件 判例 商標
関連ワード 識別力 /  包装 /  指定商品 /  普通名称(3条1項1号) /  ありふれた氏 /  周知性 /  不正目的(不正の目的) /  ただ乗り(フリーライド) /  類似性(類否判断) /  結合商標 /  不使用 /  先使用(32条) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  要部観察 /  取引の実情 /  警告 /  差止 /  更新登録 /  継続 /  商号 / 
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事件 平成 9年 (ワ) 26980号 商標権使用差止等請求事件
原告 株式会社和漢生薬研究所右代表者代表取締役 【A】 右原告訴訟代理人弁護士 西込明彦
同 渡邉 俊太郎右補佐人弁理士 【B】
被告 株式会社タケ右代表者代表取締役 【C】 右被告訴訟代理人弁護士 島田康男右補佐人弁理士 【D】
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2000/10/31
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の請求
一 被告は、別紙標章目録(一)ないし(六)記載の標章を付した石鹸及び化粧品を製造・販売し、並びにその容器、包装紙、広告、名刺及び看板に前記標章を使用してはならない。
二 被告は、前項の標章を付した石鹸及び化粧品、並びにその容器、包装紙、広告、名刺及び看板から前記標章を抹消せよ。
三 訴訟費用は、被告の負担とする。
事案の概要
本件は、原告が、被告に対し、別紙標章目録(一)ないし(六)記載の被告の標章(以下、「被告標章(一)」のようにいい、これらを総称して「被告標章」という。)の使用行為について、第一に原告が有する商標権に基づき、これと選択的に、第二に被告標章の使用行為が不正競争行為に該当するとして、第三に原告・被告間の代理店契約の終了に基づき、その差止めを求めている事案である。
一 争いのない事実等 1 原告は、石鹸・化粧品の製造販売を主たる業務としている株式会社であり、
被告は、石鹸・化粧品・医薬品の製造・販売等を主たる業務とする会社である。
2 原告は、左記の商標権を有している(以下、右商標権を「本件商標権」といい、その商標を「本件登録商標」という。)。
登録番号 第三一九九〇八七号 出願年月日 平成五年九月二四日 登録年月日 平成八年九月三〇日 指定商品 第三類 化粧品、石鹸類、香料類 登録商標 別紙商標目録(一)記載のとおり 3 被告は、被告標章(一)、(三)の二、(四)の二、(五)、(六)を、現に使用し、
又は過去に使用したことがある。
二 争点 1 被告標章の使用による本件商標権侵害の有無、とりわけ本件登録商標と被告標章の類否。
2 被告による被告標章の使用が不正競争行為に該当するか、とりわけ (一) 「麗姿」は原告の商品等表示といえるか。
(二) 商品等表示「麗姿」の周知性 (三) 原告の商品等表示と被告標章との類否 (四) 混同のおそれの有無 3 原告・被告間の契約の内容(原告・被告間で、代理店契約が締結されたか、
右契約締結の際に、代理店関係解消後は被告において「麗姿」の語を被告の商品に使用しない旨の合意があったか。)三 当事者の主張 1 争点1(被告標章の使用による本件商標権侵害の有無)について (一) 原告の主張―本件登録商標と被告標章の類似性について (1) 本件登録商標は、「和漢研」「麗姿」の文字を横書き二段組みに表示した商標であり、被告標章(一)ないし(四)は、この「麗姿」の文字部分を同一にし、
称呼及び観念において同一の、類似の標章である。被告標章(五)、(六)も、その称呼は本件登録商標の要部である「麗姿」(れいし)の称呼と同一である。そのため、被告標章を本件登録商標の指定商品に使用するときには、商品の取引者・需要者において本件登録商標の要部を使用する商品とその出所について誤認混同を生じる。そして、被告が被告標章を付して販売している石鹸・化粧品は、本件登録商標の指定商品に属する。
したがって、被告による被告標章の使用は、本件登録商標と類似する商品について標章を使用するものであり、本件商標権を侵害する。
(2) 被告は、本件登録商標「和漢研 麗姿」を構成する「麗姿」の部分は「麗姿」の語意が「うるわしい姿」であるから、石鹸・化粧品の「効能あるいは品質」を意味する語であって、自他商品識別力を有さず、本件登録商標の要部といえないと主張する。しかし、以下に述べるように、被告の主張は失当である。
すなわち、「麗姿」という語は、広辞苑その他の辞書によれば、「うるわしい姿」、「形の整ったうるわしい体つき、身体の格好」などの意味を持つ語として説明されているが、右の語は日常会話はもちろんのこと、本件登録商標の指定商品についても普通に使用されるものではなく、前記のような収録語数の非常に多い辞典を引いて初めて見ることのできる語である。そして、「麗姿」の語は、@石鹸・化粧品の普通名称(商標法3条1項1号)、A石鹸・化粧品について慣用されている商標(同二号)、B石鹸の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状、価格若しくは生産若しくは加工若しくは使用の方法若しくは時期を表示するもの(同三号)、Cありふれた氏又は名称を表示するもの(同四号)のいずれにも該当しない。また、「姿」とは人の全体的な外見であり、石鹸・化粧品を使用したとしても人の体つきや身なりなど、全体的な外見がうるわしくなるはずがなく、取引者・需要者において石鹸を使用して人の体つきや身なりなどの全体的な外見がうるわしくなると認識することはあり得ないから、「麗姿」という語が、石鹸・化粧品の効能あるいは品質を表示するものとは考えられない。さらに、商標法3条1項3号が効能・品質を普通に表示される方法で表示したものに商標登録を認めないのは、@そのような言葉は、当該商品に普通に使用されるために自他商品の識別能力がないこと、あるいは、A商品の効能・品質の表示は一般人にその使用を開放しておく必要があり、独占適応性がないこと、を根拠とする。そうすると、前述のように「麗姿」なる語は、本件指定商品について普通に使用されることのない語であることからも、十分に、@自他商品の識別能力があり、Aこのような語を石鹸・化粧品に使用することを一般に開放する必要もないから、実質的に見ても同号に反しないのである。したがって、「麗姿」なる語には登録性が認められるのであり、登録商標「和漢研 麗姿」の「麗姿」部分は、右登録商標の「要部」といえるのであって、被告の主張には論拠がない。
(3) なお、昭和二五年に「麗姿」という商標が石鹸を指定商品として登録された事例があり(右商標権は、更新登録をしなかったために、既に消滅している。)、その後、指定商品である「石鹸」「化粧品」「香料類」について、「麗姿」なる文字が、製造者、需要者及び取引者間で商品の「品質」「効能」「形状」「用途」を表示するものとして使用されている事実も、認識されている事実もないので、現在においても、「麗姿」の文字そのものが、石鹸について登録性が認められることは明らかである。
したがって、原告の「和漢研 麗姿」という登録商標は、「麗姿」部分についても自他商品識別力を有するから、「和漢研」という要部と「麗姿」という要部から成り立つ商標であることは明らかである。
(二) 被告の主張―本件登録商標と被告標章の類似性について (1) 原告は本件登録商標があたかも「麗姿」なる商標であるように主張するが、本件登録商標は「和漢研 麗姿」である。その外観は、「和漢研 麗姿」(二段組横書き)で、称呼は「ワカンケンレイシ」であって、いわゆる結合商標といわれるもので、一個の商標として一体不可分に扱われるものである。したがって、これを恣意的に分割して「麗姿」のみを取り出すことはできない。
原告主張の被告標章(一)ないし(六)のうち、被告が使用し又はかつて使用したものは、同目録(一)、(三)の二、(四)の二、(五)、(六)であるが、(六)を除いて、外観はいずれも「TAKE麗姿」、「TAKEREISHI」、「TAKE麗姿REISHI」を二段組あるいは一段組の横書きにした構成であり、称呼は「タケレイシ」、「タケレイシ」、「タケレイシレイシ」である。したがって、被告標章(三)の二、(四)の二、
(五)、(六)はいずれも本件登録商標と類似せず、商標権を侵害しない。仮に本件登録商標「和漢研 麗姿」に要部観察なる手法が採用されるとしても、「麗姿」部分には自他商品識別力が認められないから、本件登録商標の要部ということはできない。本件登録商標の要部をあえて抽出するとするならば、「和漢研」部分というべきである。
したがって、このような本件登録商標と被告標章は類似しない。
(2) 原告が実際に登録出願した商標は「和漢研 麗姿」であって、「麗姿」ではない。原告が「麗姿」なる商標を取得したいと望んでいたにもかかわらず、「和漢研 麗姿」で商標出願を行った理由は定かではない。「麗姿」商標の存在、「麻保良れいし」商標(登録第二五七六九一四号)の存在を考慮したとも推測されるが、いずれにせよ、「麗姿」では商標登録を取得することができないと考えて、原告名称の一部である「和漢生薬研究所」の略である「和漢研」と結合して、
「和漢研 麗姿」として出願したものである。つまり、「麗姿」では商標登録を取得することができないと考えた原告は、原告名称の略である「和漢研」と結合させて、「和漢研 麗姿」商標の出願を行い商標登録を得たものであり、本件登録商標に自他商品識別力が認められる根拠は「和漢研」部分にある。しかるに「和漢研 麗姿」について商標登録を得るや、同商標の要部が「麗姿」であるとして、あたかも「麗姿」について商標権を取得したのと同様の主張を行うことは、禁反言の原則に照らし、許されないというべきである。
本件登録商標「和漢研 麗姿」に自他商品識別力が認められる根拠は、
「和漢研」部分にあり、「麗姿」部分には自他商品識別力は認められない。これは、特許庁の見解でもある。同庁は、被告の「麗姿」商標出願(平成六年商標登録願第一一〇三九号)に対する拒絶理由通知書では、「本願商標は『うるわしい姿、
うつくしい姿』等の意味を表す『麗姿』の文字を独特の書体とはいえ、いまだ普通に用いられる域を脱しない程度の態様をもって書してなるところ、指定商品との関係においては、よごれなどを落とし又は化粧により『うるわしく、美しい容姿にする商品』であることを容易に理解させるものであるから、これを本願指定商品に使用するときは、単に商品の品質を表示するにすぎない」と、その理由を示している。
2 争点2(被告による被告標章の使用が不正競争行為に該当するか)について (一) 原告の主張 (1) 「麗姿」は原告の商品等表示といえるか、という点について ア 原告は、平成五年九月ころから、霊芝(きのこの一種)その他の生薬成分を練り込んだ枠練り石鹸を、製造・販売してきた(以下、原告の製造・販売する右石鹸を「原告商品」という。)。他方、被告は、原告の製造した枠練り石鹸を、原告から購入するという取引を、平成六年四月ころから開始し、平成七年六月ころからは、原告の販売総代理店である訴外有限会社ちえの輪(以下「ちえの輪」という。)を通じて右取引を行うようになり、平成九年七月ころまで続いた。この平成七年六月から平成九年七月までの間に、被告は、総額で七八三五万一七五四円(化粧品二七七四万三二三四円、石鹸二九一六万五九七○円)の商品をちえの輪から購入し、原告の商品として顧客に販売していた。
イ 「麗姿」は、原告商品を表示するものとして、実際に原告商品を使用している顧客はもちろん、高級石鹸、高級化粧品を使用する女性及びこれらに興味のある女性の消費者の間では周知である。
(2) 原告の商品等表示「麗姿」の周知性について ア 不正競争防止法2条1項1号の「需要者の間に広く認識されている」とは、商品の種類や販売態様によって決定されるものであるが、少なくとも相手方、すなわち被告の商品の販売対象者の間で周知であれば足りると解される。被告の販売する商品は、一○グラムで一六○○円もする石鹸等、原告商品と同様に高級石鹸、高級化粧品であり、通常の薬局・化粧品店に置かれた大衆商品ではなく、ダイレクトメールや販売員による商品の売込みによって、固定客を販売対象としているものである。
イ 原告は、平成五年一二月二七日から、原告商品の販売を、ちえの輪を販売総代理店として一手に任せ、同社に商品を納入している。ちえの輪は原告商品を、北は北海道から南は沖縄までの全国約七○○店の代理店に納入して、各代理店を通じて、消費者に販売している。
原告商品の販売実績は次のとおりである。主な販路であるちえの輪及び全国に約七○○店あるちえの輪代理店を通じて販売している。
原告の売上 平成六年度 一億一五九三万七二九五円 平成七年度 七四三二万九四八三円 平成八年度 七三五一万八八六○円 平成九年度(一月から一一月)五五二三万二二五○円 ちえの輪の売上 年間四億円以上 ウ 右各代理店は、それぞれ、販売員を使用し、原告商品のパンフレットを配布するとともに商品の説明を行うことにより、販路を拡大した他、地方新聞や女性雑誌への広告掲載、テレビのスポット広告等を行ってきた。このような販売活動により、取引者・消費者の間で原告商品の知名度は上がり、また、実際に使用した消費者の評判もよく、固定客も多く獲得し、商品に対する信頼も得ている。
原告商品の広告方法は、各代理店による口コミの他、ちえの輪作成のビラの配布、各代理店作成のビラの配布、各代理店による講習会の開催、地方紙への広告掲載、地方テレビでの広告放映等である。さらに、原告は、日本テレビの取材を受け、平成八年八月二二日午後九時から日本テレビ系全国ネットで放映された「輝け!噂のテンベスト」という番組で麗姿ブランドの石鹸を紹介された。右取材の際には、ちえの輪代理店の一社であった被告の社名も放映されたが、麗姿石鹸はあくまで原告商品として放映されたもので、原告は、原告商品を主に通信販売によって販売していた被告の名前を掲載することが販売政策上好ましいとの判断から、
同社に声を掛けて、同社の名前も放映してもらったものである。
これらの結果、「麗姿」の語は、消費者層の間で、原告商品を示すものとして広く認識されている。
(3) 混同のおそれ―被告の行為について 被告は、前記のとおり、原告の商品を販売する代理店であったにもかかわらず、平成九年一○月初めころから、被告標章を付した石鹸及び化粧品の製造・販売及びその宣伝・広告を始め、被告標章を被告の右商品の容器に印刷又は刻印し、包装紙・広告・ビラや社外の看板や営業課員の名刺にも印刷して使用し始めた。
被告は、平成九年一○月ころ、原告の販売代理店や原告商品の消費者等に対して、「よりよい製品の提供に努めるために、麗姿シリーズの生産工程の見直しをはかり、製造元をこれまで委託しておりました和漢生薬研究所から自社へと切り替えることに致しました。…これにより生産コストの大幅な削減がなされ、更に原材料も内外の原産地から直送することで、より上質な成分を惜しむことなく配合することが可能になり、…価格の低減と品質向上の両立を実現致しました。」という内容の虚偽の案内状を送付し、石鹸及び化粧品の販売開始を通知した。しかも被告は、原告の顧客をも対象に、原告と同様パンフレットによる商品紹介を中心に石鹸及び化粧品を宣伝・販売している。このことからも、被告の販売対象者の間で「麗姿」の商標が原告商品を表示するものとして周知であることは明らかである。
また、被告が原告の顧客に対して宣伝活動を行っていることは、被告のパンフレットに、右記載の「よりよい製品の…」以下の内容が記載されていること、実際に原告の顧客から問い合わせがあったことから明らかである。被告は、自社の出した広告においても、その石鹸が原告の開発した商品であることを認めており、右の広告は故意に原告商品の信用にただ乗りする意図で行ったものであることを明確に示すもので、商品の出所について消費者に誤認混同を生じさせるものである。
(4) 原告の商品等表示と被告標章の類似性 被告標章は、無地に金色の字で「麗姿」と縦書きで表記したもの(被告標章(一))、無地の長方形の中に黒・金・茶色等で「麗姿」と横書きしたもの(同(二))、金地の正方形の中に抜き字の横書きで「麗姿」「REISHI」と表記したもの(同(三))、正方形の枠の中に横書きで「麗姿」「REISHI」と表記したもの(同(四))であり、これらを原告の商品等表示である両者「麗姿」と比較すると、外観において極めて類似しており、称呼においては全く同一である。また被告標章(五)、(六)は、「REISHI」と表記されているもので、その称呼は原告のそれと同一である。しかも、原告の商品と被告の商品はいずれも石鹸、クレンジングと基礎化粧水であり、被告が販売の対象としている原告の代理店であるちえの輪やその代理店又は一般消費者においては、原告の商品と被告の商品は完全に競合関係にあり、
混同のおそれは極めて高い。
以上のとおり、被告の行為は、不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当する。
(二) 被告の主張 (1) 以下に述べるとおり、商品等表示「麗姿」は、被告のものとして周知である。
ア 原告商品の販売経路とちえの輪及び被告との関係 (ア) 原告の商品は平成五年からちえの輪を販売総代理店として、ちえの輪の傘下の販売代理店を通じて消費者に販売されていた。この販売方法はいわゆる代理店方式を利用した連鎖的な販売方法であり、販売総代理店に当たるちえの輪は、訪問・対面販売の方法で販売するとともに、代理店の募集、形成を行い、代理店は消費者に対して訪問・対面販売を行う。商品の売買については、原告はちえの輪に製品を販売し、ちえの輪は傘下の代理店に販売し、傘下の各代理店が消費者に販売するという連鎖的な関係である。
(イ) これに対して、被告はいわゆる通信販売の方法により物品の販売を行う販売業者である。被告代表者は、平成五年半ばころ、知人からよい石鹸があると、現在原告の顧問となっている【E】(以下「【E】」という。)を紹介され、原告の製造する石鹸を取り扱うことになった。当時、原告の製造する石鹸は「和漢 de SAVON」(「和漢ドゥサボン」)の名称で、右(ア)に述べたとおり、ちえの輪を販売総代理店として、代理店形式を利用して、消費者に販売されていた。
(ウ) 平成五年当時、原告の製造する石鹸の本体には「和漢」と型押しされており、パッケージに「和漢 de SAVON」と表示されていた。ちえの輪の系列では、原告の石鹸は「和漢ドゥサボン」と呼ばれて取り扱われていた。被告は、原告の石鹸を取り扱うにあたり、既にちえの輪の系列では「和漢ドゥサボン」の名称で販売されていたこと、ちえの輪と被告とでは、前記のように販売方法が異なることを考慮し、右名称で販売することは被告の販売政策上好ましくないと考え、原告から購入する石鹸を「サボン麗姿」なるブランドで販売することとした。つまり、被告は原告の製造する石鹸を「サボン麗姿」の名称で販売するが、石鹸本体は「和漢ドゥサボン」の名称で販売されているちえの輪の系列の石鹸と同じであり、パッケージ等に「サボン麗姿」と表示され、「サボン麗姿」の名称で取引される点が相違することになる。
イ 被告の「サボン麗姿」の販売促進活動について (ア) 被告は通信販売において、広告展開を販売促進活動の中心に位置付けており、自社のブランド「サボン麗姿」の販売に当たっても、平成六年三月の「週刊文春」ヘの宣伝広告の掲載を皮切りに、平成九年八月までにテレビ、雑誌を媒体として二○○件を超える宣伝広告活動を展開しており、「サボン麗姿」、「サボン麗姿ゴールド」は、被告の商品として通信販売において多くの顧客を獲得するに至った。特に、「サボン麗姿ゴールド」は前記2(一)(2)ウ記載のテレビ番組で取り上げられ人気商品となった。これに対して、ちえの輪の系列は、その商品ブランドである「和漢ドゥサボン」あるいは原告の「ドゥサボン」について宣伝広告活動を行ったようであるが、前記のような販売方法のため、テレビ、雑誌を媒体とするものよりは、代理店募集のための集会等におけるパンフレット等の配布、会報誌によるものが多かったようである。
テレビ、雑誌を媒体とした「サボン麗姿」、「サボン麗姿ゴールド」の宣伝広告活動により、被告の二商品の知名度は、ちえの輪の系列の「和漢ドゥサボン」、「ドゥサボン」のそれをはるかに凌駕していた。
(イ) ちえの輪及びその代理店は平成七年ころになると、広告、パンフレット、会報誌等に「和漢ドゥサボン」、「ドゥサボン」の紹介記事、広告として、被告が「サボン麗姿」、「サボン麗姿ゴールド」について行った雑誌媒体の宣伝広告を無断で掲載するようになった。「サボン麗姿」、「サボン麗姿ゴールド」の広告、写真を見て注文すると、実際には「和漢ドゥサボン」、「ドゥサボン」が送られてくるという状況が生じた。被告は、そのような場合、広告主に「サボン麗姿」、「サボン麗姿ゴールド」と思わせてちえの輪の「和漢ドゥサボン」、「ドゥサボン」、「ドゥサボンゴールド」を販売しないように警告するとともに、ちえの輪及び原告にも、被告の取扱商品とちえの輪の系列の取扱商品を混同させるような行為をしないように申し入れている。
このように、「麗姿」の名を冠した石鹸は、被告の商品等表示として周知であり、原告の商品等表示とはいえない。
(2) 先使用の抗弁 仮に、原告の主張する不正競争防止法2条1項1号該当性が認められたとしても、「麗姿」が原告の商品等表示として需要者の間に広く認識される前から、被告は石鹸、化粧品等の商品に、被告標章(一)、(三)の二、(四)の二、(五)、
(六)を付して、不正の目的でなく使用していたものであるから、同法11条1項3号により、差止請求の規定は適用されない。被告は、平成六年一月か二月には右の各被告標章を商品に付して使用していたが、この時点では、「麗姿」は原告の商品等表示として周知となっていなかった。
3 争点3(原告・被告間で、代理店契約が締結されたか、右契約締結の際に、
代理店関係解消後は被告において「麗姿」を使用しない旨の合意があったか。)について (一) 原告の主張 (1) 被告が原告商品の販売代理店となった経緯 ア 原告の顧問であり、原告商品の開発者である【E】は、平成五年前半に被告代表者を紹介され、当時原告が取り扱っていた石鹸「和漢ドゥサボン」を渡した。その後、原告は、「和漢ドゥサボン」の名がフランス語の文法上おかしいことや、原告が主に取り扱っていた「霊芝」(きのこの一種)と言葉をかけた「麗姿」というブランドを思いついたことから、今後、石鹸・化粧品を、このブランドで販売することにした。そして原告は、同年八月に弁理士に「麗姿」の商標登録出願について相談し、同年九月二四日に本件登録商標の商標登録出願をした。
原告は、同年九月ころから、「和漢ドゥサボン」のブランドで販売していた石鹸に「麗姿」という商標を付して販売を始めるとともに、「麗姿」ブランドの化粧品の販売も開始した。なお、販売開始当初は、「和漢ドゥサボン」の商標を付した商品の在庫分も販売していた。また、この時から、ちえの輪が本件商品の販売総代理店になった。
イ 同年一一月ころになって、被告代表者から、「和漢ドゥサボン」の販売を一手にやらせてほしいとの申入れがあったが、原告は、「和漢ドゥサボン」をやめて「麗姿」というブランドで販売を開始しており、販売総代理店も決まっているので、応じられない旨回答した。その後しばらくして、被告から再度連絡があり、麗姿としての販売をやりたいが、通販用にパッケージのデザインだけを変えてほしい、との申入れがあり、その際に、ちえの輪を通して取引してもよいが、形式上は原告と直接取引する形にしてほしい、との要望があった。そこで、原告は、ちえの輪の了承が取れることを条件に、これに応じた。
その後、ちえの輪の了承が得られ、被告は、平成五年一二月ころから原告商品の販売代理店となった。なお、原告は、形式上被告から直接注文を受けて、直接被告に納品して被告から代金の支払を受けることにしていたが、その販売価格は、ちえの輪からその代理店に卸す価格と同じにし、ちえの輪に対しては、他の代理店に販売したのと同額のマージンを原告から支払っていた。したがって、被告は当初から実質的にはちえの輪の代理店と同様の立場にあったものである。
(2) 黙示の合意 ア 右のように、被告が原告商品の販売代理店になる際、被告は原告商品を通信販売によって販売することとし、他のちえの輪代理店において通信販売をさせない旨を、原告・被告間で合意した。右合意に従って、本件紛争に至るまで、原告はちえの輪の代理店から通信販売を行いたいので了承してほしいとの要請があっても、これを断ってきた。さらに原告は、被告が雑誌等に広告を掲載する際に、
【E】がその記載内容のアドバイスをし、原告商品についてのテレビの取材があった時には被告の名前を放映してもらうなど、被告による原告商品の販売促進に協力してきた。このように、原告が被告に通信販売の独占を認め、販売促進活動に協力をしてきたのは、被告が「麗姿」ブランドの石鹸を原告の商品として広告することが、原告の営業にもメリットがあったからに他ならない。すなわち、原告が被告に対して「麗姿」の使用を許諾していたのは、被告が「麗姿」を原告商品を示す標章として用いることが前提になっていたからであり、他方被告が「麗姿」を用いて原告商品の販売を行ってきたのは、その販売する商品が原告の商品であることを示すためであった。
イ 右からすると、原告と被告の間ないしちえの輪と被告の間においては、代理店契約の際に代理店関係解消後の「麗姿」の使用に関して明示的な取決めはなかったが、原告の責に帰すべき事由によらずに代理店関係が終了した際には爾後被告において「麗姿」の語を被告の商品に用いない旨の黙示の合意があったといえる。
なお、ちえの輪と被告の間で結ばれた代理店契約中には、「(ちえの輪の販売)組織を混乱させる販売について、これを行わないことを合意」したことが示されている。右の「組織を混乱させる販売」の中には、「麗姿」の語を原告商品以外の商品に付して使用することも当然含まれている。したがって、被告はちえの輪との関係では右の合意を明示的にしていたものであり、このことは、原告との間の黙示の合意を推認させるものである。
(3) 代理店関係の解消 前記のとおり、被告は、原告商品を販売する代理店であったにもかかわらず、平成九年一○月初めころから、「麗姿」と同一ないし類似する被告標章を付した石鹸、化粧品の製造・販売及びその宣伝・広告を始め、被告標章をその容器に印刷又は刻印するなどした。このような被告の背信行為によって、代理店契約は解除された。右解除は、原告の責に帰すべき事由によるものではない。
以上のように、被告は、原告に対して、代理店契約締結の際に原告・被告間でなされた合意に基づき、「麗姿」を使用しない義務を負担している。
(二) 被告の主張 原告と被告との間には、明示的にも黙示的にも、「麗姿」を使用しない旨の合意は存在しない。原告は、被告が原告の販売代理店であると主張するが、被告は原告の製造する石鹸について原告の販売代理店となったことはない。被告が原告の販売代理店でないことは「取引基本契約書」(乙一)から明らかである。平成六年一月末日、原告と被告との間で、取引基本契約を締結するに当たり、被告の指定ブランド(「サボン麗姿」)で製品を製造し売買するという、いわゆるOEM方式で行う旨合意したが、石鹸業界の取引においては、いわゆるOEM契約は特別のものではなく、しばしば行われているものである。原告も、第三者が自己のブランドを指定してきた場合にはその指定ブランドを付して製造し、納品していたことを認めている。本件においては、パッケージ(外箱)等を被告が別の企業に作成させ、
これを原告に交付して、箱詰めさせて納品させていたというだけのことである。原告は、自分のところで製造し納品した製品であるから、それに付された商標は当然に自己を出所として表示するものと考えているように見受けられるが、このような考えは誤りである。製造者の製造した製品を購入して、購入者が自社のブランド(商標)で販売することは商品流通では通常のことである。このように、被告商品表示(「サボン麗姿」)は被告のブランドであり、原告はこれを認めているのであるから、「麗姿」が原告の商品表示であるとする原告の主張は成り立たず、被告は、「麗姿」を含む商品名ないし標章を被告の商品に使用しない義務を負うものではない。
当裁判所の判断
一 争点1(一)(被告標章の使用による本件商標権侵害の有無、とりわけ本件登録商標と被告標章の類否)について 1 被告使用の標章 (一) 被告が、被告標章(一)、(三)の二、(四)の二、(五)、(六)を、現に使用し、又は過去に使用したことがある事実は、当事者間に争いがない。また、証拠(甲六五)によれば、被告標章(二)は、被告が販売する石鹸のパッケージに使用されたことがあることが認められる。
(二) 右被告標章のうち被告標章(一)は、毛筆のような書体に丸みを帯びさせるなどし、よりデザイン性を高めた書体で、縦書きされており、その称呼は「れいし」である。被告標章(二)は、被告標章(一)と同様な書体を横書きしたもので、称呼は被告標章(一)と同じである。被告標章(三)の二は、横書きにした英大文字「TAKE」の下に配した黒い正方形の中に白抜き文字で、「麗姿REISHI」と二段組横書きにしたもので、その称呼は「たけれいしれいし」であり、被告標章(四)の二は、正方形が黒色でなく、文字も白抜きでない黒い文字である点及び正方形の下に横書きに「Reishi Savon's」と記載されている点以外は被告標章(三)の二と同様で、その称呼は「たけれいしれいしれいしさぼんず」である。被告標章(五)は、英大文字で「TAKE REISHI」と、二段組横書きにしたもので、その称呼は「たけれいし」であり、被告標章(六)は、英文字で「Reishi Savon's」と横書きにしたもので、その称呼は「れいしさぼんず」である。
(三) 被告標章(三)の一及び同(四)の一は、弁論の全趣旨によれば、それ自体を被告が実際に使用したことがあるものではなく、被告が実際に使用している標章から、一部分を取り出して(被告標章(三)の一は同(三)の二から、被告標章(四)の一は同(四)の二から)、被告が今後使用する可能性のある標章を原告において作成したものと認められる。しかしながら、右二つの標章は、それ自体としては、被告が使用したことがなく、また、被告において、被告標章(三)の二、同(四)の二についてその一部を取り出して使用するおそれがあると認められるものでもないから、
原告の本訴請求のうち、被告標章(三)の一、同(四)の一についてその使用の差止め等を求める部分は、その利益を欠くものというべきである。
2 本件登録商標の特徴 本件登録商標は、別紙商標目録(一)記載のものである。その外観は、「和漢研 麗姿」という文字を二段組横書きにしたもので、上段には、原告の商号を略した「和漢研」という文字が、太めの角ゴチック体で記載されている。下段には「麗姿」の文字が、上段の「和漢研」よりも僅かに広い幅の中に、これよりもやや太くかつ大きな文字で、同様な書体で描かれている。その称呼は「わかんけんれいし」である。
3 本件登録商標と被告標章の類否の検討 (一) 商標の類否は、同一又は類似の商品に使用された商標が外観観念称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、かつ、その商品の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである(最高裁平成六年(オ)第一〇二号同九年三月一一日第三小法廷判決・民集五一巻三号一〇五五頁)。
(二) これを本件登録商標についてみると、本件登録商標は右2に述べたとおりの構成であり、上段部分の「和漢研」は、原告の社名を略した造語と認められるから、あまり用いられない語である。このうち日本と中国の両方を表す「和漢」は、「和漢朗詠集」「和漢三才図絵」「和漢薬」などといった語もあるところから、「和漢の事物を広く集めた」という趣旨にも通じる、古風な趣を持った語である。これと、研究所を表す「研」と合わさって、「和漢の事物を広く集め、研究している」との観念を生じる、取引者等の注意を強く引く語であるということができる。
他方、下段部分の「麗姿」は、原告の造語ではなく、証拠(甲三〇の六)によれば、「うるわしいすがた」を表す語であって、「広辞苑」のような、収録語数の多い辞典には掲載されていることが認められる。そして、その生じる観念から、石鹸、歯磨き、化粧品、香料等は、これらを用いた効果として「うるわしいすがた」を得ることができるという意味で、関連性を有するものであって、証拠(甲三五、三九ないし四四)によれば、これらを指定商品として、「麗姿麗身 レイシレイシン」(二段組み横書き)、「麻保良れいし」、「海爽麗姿」が商標登録されていることが認められる。
(三) 本件登録商標は、「和漢研」と「麗姿」という二つの語を組み合せたいわゆる結合商標であるところ、前者の「和漢研」部分の方が、一般的でない、前記のような観念を生じる語であることから、取引者・需要者の注意をより強く引く部分であるということができる。他方、「麗姿」部分は、より一般的な語であって、
指定商品である「化粧品、石鹸類、香料類」と関連する語であることからすれば、
取引者・需要者に特定的、限定的な印象を与える力を有するものではない。そうすると、後記のとおり(後記二参照)「麗姿」はむしろ被告のブランドであって、これが具体的取引において原告を出所として示す識別標識として使用されているような特段の事情の認められない本件においては、本件登録商標については、そのうち「麗姿」部分のみからは出所の識別標識としての称呼観念を生ぜず、「和漢研 麗姿」全体として若しくは「和漢研」部分としてのみ出所の識別標識としての称呼観念を生じるものであるから、「和漢研 麗姿」全体若しくは「和漢研」部分が要部であるというべきである。
そうすると、被告標章は、前記1に判示したように、単に「麗姿」部分からなる、あるいはこれに「和漢研」以外の、「TAKE」などの語を組み合わせたものであり、本件登録商標の要部たる「和漢研 麗姿」若しくは「和漢研」と外観称呼観念のいずれも異にするものであるから、本件登録商標とは類似しないというべきである。
以上より、被告が現在使用し又は過去に使用したことのある被告標章(一)、
(二)、(三)の二、(四)の二、(五)、(六)についても、商標権侵害を理由としてその使用の差止め等を求める請求は理由がないというべきである。
二 争点2(一)(被告による被告標章の使用が不正競争行為に該当するか、とりわけ「麗姿」は原告の商品等表示といえるか。)について 1 証拠(甲一、二、四の七ないし一〇、甲七の一及び二、甲八の一ないし三、
甲九の一及び二、甲一二、一三の一ないし五、甲二〇ないし二二、二四、二六ないし二八、五七、六三、六五ないし六八、乙一、二の一及び二、乙三の一及び二、乙四の一ないし五、乙五の一及び二、乙七、一二の一ないし四、乙一四、一五の一ないし三、乙一六の一及び二、乙一七、二〇の一ないし三、乙二一の一及び二、証人【E】、被告代表者本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。
(一) 原告は、事業目的を、医薬品、健康食品、医薬部外品、化粧品等の製造並びに販売などとする会社であるところ、東洋医学や漢方薬学などの研究の成果を取り入れ、霊芝(きのこの一種)やその他の生薬成分を練り込んだ枠練り石鹸を、
平成三年ころから製造してきた。この石鹸には、「和漢ドゥサボン」の名が付けられ、石鹸の本体には「和漢」と型押しされており、パッケージに「和漢 de SAVON」と表示されていた。この石鹸は、平成五年五月ころには、株式会社あみゅーれという、代理店方式を利用した連鎖的な販売方法の販売元により販売されていた。この会社は、原告との間に代金支払に関する紛争を生じ、その後(時期は明らかでないが、遅くとも平成六年三月ころ。)は、右会社と同様な販売方法をとるちえの輪を販売総代理店として、同様な方法により、消費者に販売されるようになった。
(二) 他方、被告は、当時「株式会社オフィス・タケ」と称しており(平成九年二月三日に現在の商号に変更。)、通信販売の方法により物品の販売を行う会社である。被告代表者は、平成五年五月ころ、知人からよい石鹸があると言われて手渡され、さらに原告の顧問をしている【E】を紹介された。この石鹸を気に入った被告代表者は、【E】を介して、原告に対して、この石鹸の販売を一手にやらせてほしい旨を申し入れた。原告は、いったんはこれを断ったが、被告は、独占的販売でなくてよいから販売したい旨を粘り強く申し入れた。被告の販売方法は通信販売であり、原告において従来行ってきたような代理店形式による販売方法とは異なっていて、これに抵触しないことから、四か月ほどにもわたる交渉の末、原告は、被告が通信販売の方法により原告の製造する右石鹸を販売することを了承した。このようなやりとりの中で、原告・被告いずれの側から出たアイデアか必ずしも定かではないが、被告が販売する石鹸の名称に、これまでの「和漢ドゥサボン」とは異なり、原料に使われている霊芝と言葉をかけた「麗姿」なる名称を用いることが決められた。そして、パッケージのデザインも、「和漢ドゥサボン」と異なる、「サボン麗姿」なる文字を入れたもので、ちえの輪が販売するものとは差別化することになった。なお、この間の平成五年九月二四日、原告は本件登録商標の商標登録出願をしている。
平成五年後半から平成六年一月にかけて原告・被告間で販売条件等についての交渉が行われ、同年一月末日付けで、両者間に取引基本契約が締結された(取引基本契約書。乙一)。右取引基本契約においては、原告は、継続的に被告が発注するところの被告の指定ブランド化粧品類(実際には石鹸のみ)の製造を引き受けてこれを被告に売り渡し、被告は買い受けること(取引基本契約書第2条)、被告は、被告の指定ブランドや指定文字等が記載された容器類、包装資材等の代金等を、原告の請求により別途支払うこと(同第10条2項。もっとも、実際には、容器類、包装資材等は、被告において支給することが定められた。)、原告は、いかなる事由があっても商品を第三者に販売し、譲渡したりしてはならないこと(同第12条)などが定められた。
(三) 右契約により、「サボン麗姿」(中身の石鹸は「和漢ドゥサボン」と同じ。)の通信販売による独占的販売権を得た被告は、雑誌等にこの石鹸の広告を掲載した。この石鹸は、一〇〇グラムのサイズのものが小売価格六〇〇〇円もする高価なもので、被告は、高級であるが東洋医学や漢方薬学などの研究の成果を取り入れたもので効果があることを、宣伝する路線を採った。原告もこれに協力し、右の石鹸の開発者であるとして、東洋医学や漢方薬学などの研究者である【E】の顔写真や名を出すようにした。「サボン麗姿」のパッケージには、裏面に「製造元」として原告の名称、所在地が、「総発売元」として「株式会社オフィス・タケ麗姿事業部」なる名称と被告所在地が記載されていた。右石鹸の雑誌広告には、「取材協力」や「問い合わせ先」として「株式会社オフィス・タケ麗姿事業部」の名称が記載されていた。
他方、代理店方式を取るちえの輪では、個々の代理店は地方ごとにあるもので、広告も、個々の代理店が出すものであることから、地方紙などに掲載したり、パンフレットを配布したりするなどにとどまった。ちえの輪の代理店が配布するパンフレット中に、被告が全国誌に出した広告が引用されることもあった。
(四) 平成八年春には、さらに高価な「サボン麗姿ゴールド」が発売された。
これは、「サボン麗姿」と同じ一〇〇グラムのサイズのものが小売価格二万円もするもので、平成八年八月二二日午後九時から日本テレビ系全国ネットで放映された「輝け!噂のテンベスト」という番組で、「世界一高価な石鹸」として紹介された。番組では、これまでの広告と同様、製造者は原告で、販売者は被告として紹介された。この「サボン麗姿ゴールド」は、「サボン麗姿」同様、被告とちえの輪の双方の系列で販売され、本体には「和漢」と型押しされていた。
なお、ちえの輪の系列で販売される石鹸の名称については、当初の「和漢ドゥサボン」から、「麗姿ドゥサボン」「麗姿ドゥサボンゴールド」と変更された。石鹸のパッケージには別紙商標目録(二)記載の標章が付された。この変更がされた時期は不明であり、早ければ平成五年九月ころ(甲二三)から徐々にされたと思われるが、平成八年春以降の広告パンフレットなどの中にも、「麗姿ワカンドゥサボン」「麗姿ワカンドゥサボンゴールド」(甲三の一)、「和漢・ドゥサボン」(甲四六の三)のように、なお「和漢」の名と「ドゥサボン」の名称が表示されているものがある。
2(一) 被告標章のうち、(三)の一及び(四)の一については、前記のとおり(前記一1(三)参照)、被告において、実際に使用しているものではなく、使用するおそれも認められないから、これらについて不正競争防止法に基づいて使用の差止め等を求める点は理由がない。
そこで、被告が現に使用し、また、過去に使用したことのあるその余の被告標章(前記一1(一)参照)について、原告の主張するように、その使用が不正競争行為に該当するかどうかを、検討する。
(二) 原告は、「麗姿」の語が原告商品を表示するものとして取引者・需要者の間で広く認識されていると主張する(原告の主張は、「麗姿」の語自体を、原告商品を表示するものとして、主張するものと解される。)。
しかし、前記認定事実によれば、原告・被告間の取引基本契約においては、原告は、被告の指定するブランドの化粧品類を製造してこれを被告に納入し、
ブランドの付された容器等は被告の負担により製作され、原告は商品を第三者に販売してはならないものとされているものであり(取引基本契約書。乙一)、また、
「サボン麗姿」「サボン麗姿ゴールド」は、その広告等において、「総発売元」又は「取材協力」ないし「問合わせ先」として、常に「株式会社オフィス・タケ麗姿事業部」の表示がされていたことに照らせば、原告・被告間の契約は、被告が自己のブランドを付して販売する化粧品類について、原告がその中身を製造する、いわゆるOEM契約と認めるのが相当であるから、「麗姿」は、むしろ被告のブランドすなわち被告の商品表示というべきであって、これを原告の商品表示であるという原告の主張は失当である(なお、テレビ番組、雑誌広告等において、原告が「サボン麗姿」「サボン麗姿ゴールド」の製造元として取引者・需要者の間で広く認識されるに至っているとしても、その総発売元である被告との間では、互いに「他人の」商品等表示に当たらず、原告が被告の行為を不正競争行為と主張することはできないというべきである。)。
3 以上によれば、原告の不正競争防止法違反の主張は、理由がない。
三 争点3(原告・被告間で、代理店契約が締結されたか、右契約締結の際に、代理店関係解消後は、被告において、「麗姿」の語を被告の商品に使用しない旨の合意があったか。)について 1 前記二1認定の事実に加えて、証拠(甲六の一ないし三、甲一〇、一二、五七、乙一三の一及び二、乙一六の一及び二、乙一七、証人【E】、被告代表者本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
平成八年七月二九日、被告は、原告の製造する製品の仕入れの便宜のためと、原告からの依頼もあって、ちえの輪と代理店加入の契約を締結した。しかし、
被告はちえの輪の他の代理店とは販売方法が異なるため、定型の契約書の「従来のちえの輪のルールによって販売することを前提として」という部分が削除された。
また、ちえの輪との右契約の締結後も、商品は原告から直接納入されていた。
平成八年秋ころ、被告は、ちえの輪の系列での販売と混同が生じている様子があったことから、「サボン麗姿ゴールド」の中身の石鹸本体も被告独自のものに変えることを考え、「和漢」の型押しのない、独自の金型を使用することを原告に申し入れた。この際、一回の引取量を一〇〇〇個とすることでいったん合意したが、同年末ころになって、原告から、様々な事情から、五〇〇〇個としてもらいたい旨の申入れがあった。被告はこれだけの量を販売しきれないことから、これを拒否した。しかし、結局原告の要求に応じざるを得ず、ちえの輪と共同で原告から仕入れすることによって、この数量をこなすことにした。このころから原告・被告間の信頼関係が揺らいでいった。被告は、平成九年一○月ころ、「サボン麗姿」「サボン麗姿ゴールド」を別の製造元で製造されたものに切り替えることとし、ちえの輪の販売代理店や消費者等に対して、麗姿シリーズの生産工程の見直しを図り、製造元をこれまで委託していた原告から自社へと切り替えることにしたことなどを内容とする案内状を送付して、被告独自の商品の販売開始を通知し、また価格も従来の製品より下げて販売するようになった。これにより、被告と原告との関係が打ち切られた。
2 右認定事実に基づき検討する。
(一) 原告は、原告・被告間で代理店契約が締結されたと主張するが、原告・被告間で代理店契約が締結されたことを認めるに足る証拠は存しない。これとは異なり、原告・被告間で商品供給契約が締結されたことは前記二1認定のとおりであるが、これは代理店契約ではなく、原告が被告の指定ブランド化粧品類の製造を引き受けて被告に供給する旨のOEM契約であって、「麗姿」を原告のブランドとして契約終了後は被告に同ブランド名不使用の義務を負わせるものとは、到底解されない。
(二) なお、仮に、原告の主張が、被告とちえの輪との間で代理店契約が締結されたことをいうものであるとしても、契約当事者でない原告が、被告に対して、
契約上の義務を理由として「麗姿」の語を使用しないように求めることはできないから、いずれにしても原告の主張は失当である。
以上のとおり、代理店契約上の義務を根拠とする原告の請求も、理由がない。
四 以上によれば、原告の請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結の日 平成一二年八月二九日)
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 村越啓悦
裁判官 田中孝一