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関連審決 不服2002-8579
関連ワード 識別力 /  指定役務 /  記述的商標(3条1項3号) /  品質誤認(4条1項16号) /  観念(観念類似) /  補正 /  社団法人 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10350号 審決取消請求事件
原告 社団法人再開発コーディネーター協会
訴訟代理人弁護士 村上愛 三,照井史 生,弁理士広瀬文彦
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 金子尚 人,井出 英一郎
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/07/12
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が不服2002-8579号事件について平成16年9月28日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告が平成12年9月21日に登録出願した本願商標(商願2000-103241)は,標準文字をもって「再開発コーディネーター」と書してなる。
願書記載の指定役務は,第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授,研究用教材に関する情報の提供及びその仲介,セミナーの企画・運営又は開催」等であった。
本件出願については拒絶理由通知があり,平成14年1月9日付け手続補正書により,指定役務が,第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授,研究用教材に関する情報の提供及びその仲介,セミナーの企画・運営又は開催,動物の調教,植物の供覧,動物の供覧,図書及び記録の供覧,美術品の展示,庭園の供覧,洞窟の供覧,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,映画の上映・制作又は配給,演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,放送番組の制作,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),放送番組等の制作における演出,映像機器・音声機器等の機器であって放送番組等の制作のために使用されるものの操作,ゴルフの興行の企画・運営又は開催,相撲の興行の企画・運営又は開催,ボクシングの興行の企画・運営又は開催,野球の興行の企画・運営又は開催,サッカーの興行の企画・運営又は開催,興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。),競馬の企画・運営又は開催,競輪の企画・運営又は開催,競艇の企画・運営又は開催,小型自動車競走の企画・運営又は開催,当せん金付証票の発売,音響用又は映像用のスタジオの提供,運動施設の提供,娯楽施設の提供,映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための施設の提供,興行場の座席の手配,映写機及びその附属品の貸与,映写フィルムの貸与,楽器の貸与,スキー用具の貸与,スキンダイビング用具の貸与,テレビジョン受信機の貸与,ラジオ受信機の貸与,図書の貸与,レコード又は録音済み磁気テープの貸与,録画済み磁気テープの貸与,ネガフィルムの貸与,ポジフィルムの貸与,おもちゃの貸与,遊園地用機械器具の貸与,遊戯用器具の貸与,絵画の貸与,興行に用いる書割りの貸与,美術用モデルの提供」と補正された。
原告は,本件出願につき拒絶査定の送達を受けたので(平成14年4月15日送達),平成14年5月15日不服の審判請求をしたが(不服2002-8579号),平成16年9月28日,本件審判の請求は成り立たないとの審決があり,その謄本は同年10月20日原告に送達された。
2 審決の理由の要点 (1) 原査定の拒絶理由 原査定は,「本願商標は,『再開発コーディネーター』の文字を書してなるものであるが,その構成中『コーディネーター』の文字は『物事を調整する人』の意味を有する語として,一般に親しまれていることよりすれば,本願商標全体として『再開発の計画や遂行のための指揮・調整を担当する者』等の如く認識される。そうとすれば,本願商標をその指定役務中『技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催』等に使用しても,単に役務の質(内容)を表示するものと認める。したがって,本願商標は,商標法3条1項3号に該当し,前記役務以外の役務に使用するときは,役務の質の誤認を生じさせるおそれがあるので,同法4条1項16号に該当する。」旨認定,判断し,本件出願を拒絶したものである。
(2) 当審(審決)の判断 本願商標は,「再開発コーディネーター」の文字を書してなるところ,その構成中の「再開発」の文字部分は,「既存の施設を取り払い,新たな目的設定のもとに開発し直すこと。」(岩波書店発行「広辞苑 第5版」)を意味する語であり,また,「コーディネーター」の文字部分は,「調整係。複雑化した機構の中で,仕事の流れを円滑化させる専門職。」(株式会社三省堂発行「コンサイス カタカナ語辞典 第2版」)をそれぞれ意味する語であって,いずれも日常的に使用されている語であるといえる。
そうすると,本願商標を構成する「再開発コーディネーター」の文字からは,「再開発の調整係」あるいは「再開発のための業務を円滑に行うための調整者」等の意味を容易に理解させるものである。
ところで,社会が複雑高度化する中で,様々な専門的な知識を持つ者が必要となることから,専門的知識を教授する教室,あるいはセミナー等がしばしば開催されているところである。
このような状況の下,本願商標である「再開発コーディネーター」を本願の指定役務中「技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催」に使用しても,需要者は,「再開発のための業務を円滑に行うための調整者を養成するためのもの」と理解し,結局,役務の内容,質を表示するにすぎないものとしか認識し得ないものというのが相当であり,上記以外の内容で行われる「技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催」に使用するときには,役務の質の誤認を生じるものというのが相当である。
この点について,請求人(原告)は,「『再開発コーディネーター』という言葉は,以前から存在していたものではなく,再開発コーディネーター協議会が創設したものである。請求人が創作するまで,『再開発コーディネーター』という一般名称は存在せず,特定の観念を生ずる用語ではなかった。」旨主張するが,「再開発」及び「コーディネーター」の各語の意味が一般的に理解されるものであり,それらを結合したにすぎないものとみるのが相当であり,前記意味合いが容易に理解されることから,請求人の主張は採用することができない。
したがって,本願商標が商標法3条1項3号及び同法4条1項16号に該当するとして本件出願を拒絶した原査定は,妥当であって,取り消すことはできない。
原告主張の審決取消事由
1 審決の判断手法の不当性 2つの一般に通用する語を結合した連結語は,それが既に一般に用いられている組合せでない限り造語に当たるところ,通常の場合,造語はその創造者のみが使用するのであって,品質表示用語として一般に使用されるものではないのである。そして,現実に使用された事実のない用語は,たとえ辞書的に意味が探索されたとしても,品質表示用語とは認定されないのが審査・審判の実務である。
また,この種の連結語は直ちに2つの語の語義を連結した意味になるとは限らないのであって,単純に2つの語義を結合することからは仮想の語義が導かれるにすぎない。審決は,そのような仮想の語義を措定し,一般の需要者・取引者が直ちにそのような理解をするとしている点で不自然不合理なものである。
2 「再開発コーディネーター」の多義性・曖昧性 (1) 本願商標の構成要素たる単語は,いずれも具体的な内容の把握が難しいものである。
すなわち,本願商標を構成する「再開発」という単語は,審決が指摘するように一応は辞書的な定義がなされているものの,辞書によっては「すでに開発されたものに手を加えて,更に開発すること(大辞泉)」との定義がなされているとおり,これ単独では意味内容が漠然としており,前後に配される言葉によりその意味内容が千差万別となる。例えば,「能力再開発」となれば,役務区分第41類に属する役務となる可能性が高く,「都市再開発」「地域再開発」からは同区分第37類の建設工事が想起されるのである。
他方,「コーディネーター」という単語も,その意味するところを具体的な役務との関係で特定することは困難なものである。この語源である「コーディネート」の語には具体的に特定された対象業務はなく,どのような具体的役務を指すかは結合する語によってまちまちとなる。当然ながら,そこから派生する「コーディネーター」も,これ単独ではどのような業務を行う専門家なのか不明である。
「コーディネーター」が特定の業務を行う者として用いられることもないわけではないが(辞書によっては,「放送番組全体の進行を図る係(大辞泉)」「 衣服や装身具の組合せを助言しながら販売する人。ファッション-コーディネーター。(大辞林)」との定義もされている。),それは,少なくとも市街地等の再開発とは結びつかない。
(2) 審決は,本願商標を構成する単語の語義を単純に結合することにより,本願商標をして「再開発の調整係」あるいは「再開発のための業務を円滑に行うための調整者」等の意味を容易に理解させるものと認定している。
しかし,本願商標が需要者に対して審決判示のような意味内容を暗示させるものだとしても,それが個々の単語の多義性・曖昧性をそのままに語義を結合して導かれたものである以上,需要者にとっては,何の「再開発」なのかも,具体的に何をコーディネートするのかも判然としないのである(需要者によっては,その判然としない部分を前述した「コーディネーター」の2次的語義によって補完し,本願商標を「衣服や装身具の組合せを助言してファッションセンスを更に開発してくれる人」のように限定的に理解する可能性もある。)。
このような理解しか需要者にもたらさない本願商標は,それ自体としてセミナー開催等の役務の内容等を具体的に表示するものとはいえない。
3 特定の需要者にとっての本願商標の意味(原告の活動に伴う「再開発コーディネーター」概念の確立) (1) 原告は,昭和54年10月発足の「再開発コーディネーター協議会」が発展し,昭和60年5月に建設大臣(当時)の設立認可を受けて成立した社団法人であるところ,その定款2条(再開発コーディネーターの定義)において,『「再開発コーディネーター」とは市街地の再開発に関する企画,計画,経営,法律,税務,評価,設計,管理運営等の分野に関する専門知識と経験を有し,関係権利者や事業の施行者等の指導調整にあたり,事業の円滑な遂行にあたる者をいう。』と定義されている(甲2の1「社団法人再開発コーディネーター協会要覧」12頁)。
上記要覧により,原告の入会資格基準が定められており,この資格を有する者が,原告に入会申込みを行い,定款に定める審査委員会の書面審査及び面接審査により,都市再開発の業務を遂行するにふさわしい人格と見識を有すると認められた者が,理事会の承認を経て正会員となることができる。
そして,上記の過程を経て,原告に個人正会員として入会を認められた者だけが,「再開発コーディネーター」であり,それらの者だけが,「再開発コーディネーター」の名称を名乗ることができる。
(2) 「再開発コーディネーター」は,原告の傘下にあって,都市再開発の推進等,重要な社会的使命を有しているものであり(その職能については,甲4の1「再開発コーディネーター第23号」51頁「再開発コーディネーターの職能について 3」等を参照),その遵守すべき規範として「再開発コーディネーター憲章」が定められている(甲2の4「名簿」本文1頁)。
他方,「再開発コーディネーター」の業務内容及び業務報酬の標準化のため,原告は,「コーディネート及びコンサルティングに関する業務基準及び標準的業務量(案)」を作成し,また,「コーディネート業務のあり方-コーディネート業務契約の指針(案)」を策定し,「コーディネート業務の委託に関するモデル基本協定書」「コーディネート業務モデル委託契約書」等を提示している(甲3の1,2)。
原告は,都市の再開発に当たって,関係権利者・事業協力者・行政等と各種の専門家を結ぶ調整・推進役である再開発コーディネーター業務を推進することを目的としており,都市再開発に関する幅広い分野の専門家の結集を目指し,一般事業の他,調査研究事業,技術研究会事業,養成講座事業,説明会・講習会事業,名簿発行事業,理論誌発行事業,会報発行事業及び再開発プランナー資格審査・証明事業等を行っている(甲2の1〜3)。
(3) このように,「再開発コーディネーター」概念は,原告の活動理念と分かち難く結びついたもので,それが原告の個人正会員を指す呼称であることは,市街地再開発事業等に指導調整的な立場で携わっている(あるいは携わろうとしている)個人・法人や,現に再開発事業を行っている(あるいは行おうとしている)事業施工者・地権者などの関係者の間では広く認められているところであり,協会を離れてこの概念・呼称が独り用いられることはない。
すなわち本願商標は,前述のような市街地等の再開発事業に関わりのある者にとっては,単に「再開発の調整役」等という不特定の者を指すものではなく,特定の資格を有する者を表すものとして認識されるのであり,本願商標を使用する役務は,特定の資格を有する者の業務に係るものと認識されるものである。
したがって,本願商標は,役務の内容・質を一般的に表示するものとはいえず,商標法3条1項3号に該当するものではない。
4 本願商標の使用状況等 (1) 本願商標の独自性 原告は,市街地再開発等に関わる特定の能力を有する者とそうでない者とを差別化するため,「再開発コーディネーター」なる本願商標と同一の呼称を独自に創作した。
そして,特定の有資格者の呼称として「再開発コーディネーター」を長年にわたり使用する一方,「再開発コーディネーター」を束ねる団体として,「再開発コーディネーター」の業務の向上,「再開発コーディネーター」の資質の向上のための教育,指導活動等を行ってきた。
(2) 第三者が本願商標を使用していないこと 多方面にわたる原告の活動の結果,市街地再開発事業等に関わりを持つ関係者の間では,本願商標が原告により認定された有資格者を意味するものであることが周知の事実となっている。
市街地再開発事業に何らかの関わりを持つ需要者にとっては,本願商標は既に自他役務識別力を獲得しているといえるのである。
それゆえ,原告及び原告により本願商標の使用を認められた原告個人正会員以外の第三者は,原告請求に係る指定役務の範囲内外を問わず,敢えて本願商標を使用することはないのであり,市街地再開発事業に関わる広範な業務領域のいずれにおいても,第三者がその提供する役務の内容等を表示するものとして本願商標を用いているという事実はないのである。
このことは,インターネット上で「再開発コーディネーター」を検索キーにして検索を行った際に抽出される多数のページが,いずれも原告又は原告個人正会員に関する記事であることによっても裏付けられる(甲9)。
(3) 第三者に本願商標を使用する必要性がないこと 原告は,その定款において「再開発コーディネーター」を「市街地の再開発に関する企画,計画,経営,法律,税務,評価,設計,管理運営等の分野に関する専門知識と経験を有し,関係権利者や事業の施行者等の指導調整にあたり,事業の円滑な遂行にあたる者」と定義しており,厳格な審査を経て原告個人正会員となった者のみにその呼称の使用を許諾している。
他方,本願商標は原告が独自に創作したものであって,上記の定義に該当するような者を指すための用語のひとつではあるものの,上記の定義に盛り込まれた内容の多様性(あるいは市街地再開発事業に従事する者の業務の多面性)ゆえに,それを指すための用語は本願商標に限られるものではない。
換言すれば,本願商標が需要者に対して「再開発のための業務を円滑に行うための調整者」との意味を暗示するとしても,「再開発のための業務を円滑に行うための調整者」との概念を表現する方法は,本願商標以外にもあり得るのである。
例えば,「再開発デベロッパー」「再開発デザイナー」「再開発アレンジャー」といった用語や,「市街地再生コーディネーター」「都市活性化コーディネーター」といった用語でも,「再開発のための業務を円滑に行うための調整者」ないしそれに極めて類似した意味を需要者に認識させることが可能である。
したがって,本願商標を商標登録したとしても,市街地の再開発事業に関わる広範な取引業界への第三者の参入を妨げることにはならないのであり,現に第三者が本願商標を使用していないにもかかわらず,本願商標の登録を拒絶することによって第三者に将来の使用機会を保障する必要性は存しない。
(4) 本願商標登録の必要性 原告は,原告正会員として「再開発コーディネーター」を名乗る者に一定水準以上の資格・能力を要求するとともに,その業務内容や報酬の標準化を図り,また業務指針や基本契約書(案)などを策定することによって,本願商標によって呼称される者の業務が適正に行われるよう努めてきた。これにより原告は,本願商標を信頼した需要者の期待に応えることができ,社会的にも高い評価を受けてきた。
しかるに,取引界の第三者に使用機会を保障するという公益的要請から本願商標に法的保護が与えられないとなると,資格・能力に問題がある第三者がそれを僭称することも容認される結果となる。そのような事態になれば,市街地再開発事業に関わる需要者に不測の損害を与えることにもなりかねず,かえって公益を損なうことになりかねない。
よって,本願商標を登録することによって,第三者の不正使用を抑止することこそが,需要者の利益保護ひいては公益に資することになる。
(5) 小括 以上のとおり,本願商標は,原告請求に係る指定役務の内容等を表示するものとして取引上一般に使用されているとはいえないものであるから,商標法3条1項3号には該当しない。また,本願商標を登録したとしても,将来における第三者の経済活動が阻害されるおそれはなく,むしろ本願商標を登録することこそが公益にかなうから,この点においても本願商標は登録されるべきものである。
5 本願商標は商標法4条1項16号に該当しないこと 既に述べたところから明らかなように,本願商標は,セミナー開催等の役務の内容・質を表示するにすぎないようなものではないのであるから,その論理的帰結として,「再開発のための業務を円滑に行うための調整者を養成するためのもの」以外の内容で行われるセミナー開催等の役務に使用されたとしても,役務の質の誤認を生じることはない。
よって,本願商標が商標法4条1項16号に該当するとした審決の判断もまた誤りである。
審決取消事由に対する被告の反論
1 本願商標が商標法3条1項3号に該当することについて (1) 「再開発コーディネーター」の意味合い 本願商標は,「再開発コーディネーター」の文字からなるところ,その構成中の「再開発」の文字は,「既存の施設を取り払い,新たな目的設定のもとに開発し直すこと。」を意味する語であり,日本全国において都市・地域における市街地等の再開発事業が非常に多くなされていることがニュースや新聞記事等で報道され伝えられていることからも,日常社会において身近な語である。また,「コーディネーター」の文字は,「調整係。複雑化した機構の中で,仕事の流れを円滑化させる専門職。」を意味する語であって,「留学コーディネーター」「国際会議コーディネーター」等,他の語と結びつけられて使用されているものである。
このような事情から,「再開発」の語と「コーディネーター」の語とを結合した本願商標からは,「再開発の調整係」若しくは「再開発のための業務を円滑に行うための調整者」等の意味合いをもって,需要者をして,職業名等を表したと認識されるにとどまるものというべきである。
(2) 原告のいう「特定の需要者にとっての本願商標の意味」について 商標の登録要件を満たすか否かは,判断時である審決時において,本願指定役務の需要者がどのように認識するかによって決められるべきであり,商標を創作した者がだれであるかにかかわらないものである。
そこで,本願商標「再開発コーディネーター」をみるに,その名称は,かなりの長期間にわたり市街地等の再開発事業における業界において使用されてきた結果,「再開発コーディネーター」なる業務・職種として確立されてきたものであり,その名称より容易に理解される意味合いから,審決時においては,指定役務の需要者によって,ひとつの業務・職種として認識されるようになったものである。
また,原告の正会員が,その資格を失った場合にも,「再開発コーディネーター」を業務・職種として名称を使用できることは,当然である。そして,「弁護士」「税理士」等,一般に業務・職種と理解される名称と,それに関わる特定の団体との関係において,その団体の会員として,前記名称が理解されるようなことは一般的にないといえるものである。
したがって,「再開発コーディネーター」というような一般に業務・職種と理解される名称は,誰もが使用できるものとして,その使用が自由であるべきであって,独占適応性に欠けるものである。
(3) 本願商標と指定役務「技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催」等との関係 一般的に「知識の教授」等の役務が提供される講座,セミナー等においては,その名称について,その目的・内容等を端的に表す業務・職種などを冠してその講座,セミナー等の名称とすることはしばしば行われているところであり,本願商標「再開発コーディネーター」を「技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催」等の役務に使用した場合には,「再開発のための業務を円滑に行うための調整者」を養成するための講座,セミナー等を表示したものであると需要者は認識するというのが相当である。
(4) 小括 本願商標を構成する「再開発コーディネーター」の文字からは,上記した両語の意味合いをもって,「再開発の調整係」あるいは「再開発のための業務を円滑に行うための調整者」等の意味合いを容易に理解させるものであって,一種の業務・職種として認識されるものであって,これをその指定役務中「技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催」等に使用した場合,需要者は限られた業界関係者のみに限定されるものでないから,「再開発のための業務を円滑に行うための調整者」を養成するための講座,セミナー等を表示したものであると認識するというのが相当である。
2 「本願商標の使用状況等」について 本願商標「再開発コーディネーター」は,一種の業務・職種として容易に認識されるものであって,長年にわたり原告の正会員もまた業務・職種として使用してきたものといえるから,このような業務・職種といえる本願商標は役務の質,内容を端的に表し,理解させるものであるから,指定役務を取り扱う業界において広く使用することを可能とすべきであって,原告「社団法人再開発コーディネーター協会」があったとしても,ただ一人原告のみに商標権として独占させることが妥当な商標ではないものである。
3 本願商標が商標法4条1項16号に該当することについて 本願商標をその指定役務中「技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催」について使用する場合は,需要者をして,「再開発のための業務を円滑に行うための調整者」を養成するための役務を表したと認識されるものであるから,上記以外の内容で行われる「技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催」について使用するときには,役務の質について誤認を生じさせるというべきである。
4 被告主張のむすび 本願商標「再開発コーディネーター」は,その指定役務中の「技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催」に使用する場合は,需要者をして,「再開発のための業務を円滑に行うための調整者」を養成するための役務を表したと認識されるものであるから,役務の内容,質を表示するにすぎず,また,上記以外の内容で行われる「技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催」について使用するときには,役務の質について誤認を生じさせるおそれがあることは否定できないものである。
当裁判所の判断
1 審決の認定判断中,「本願商標は,「再開発コーディネーター」の文字を書してなるところ,その構成中の「再開発」の文字部分は,「既存の施設を取り払い,新たな目的設定のもとに開発し直すこと。」(岩波書店発行「広辞苑 第5版」)を意味する語であり,また,「コーディネーター」の文字部分は,「調整係。複雑化した機構の中で,仕事の流れを円滑化させる専門職。」(株式会社三省堂発行「コンサイス カタカナ語辞典 第2版」)をそれぞれ意味する語であって,いずれも日常的に使用されている語であるといえる。」との部分は,その説示に照らし是認することができる。
そうすると,本願商標を構成する「再開発コーディネーター」の文字からは,「再開発の調整係」あるいは「再開発のための業務を円滑に行うための調整者」の意味を容易に理解させるものである。
そして,一般的に本願商標が指定役務とするうちの「技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催」の役務が提供される講座,セミナー等においては,その目的・内容等を端的に表す業務・職種などを冠してその講座,セミナー等の名称とすることがしばしば行われていることは公知の事実であり,本願商標「再開発コーディネーター」を,その指定役務のうちの上記役務などに使用した場合には,需要者は,「再開発のための業務を円滑に行うための調整者」を養成するための講座,セミナー等を表示したものであると認識するものというべきである。
したがって,「上記以外の内容で行われる「技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催」に使用するときには,役務の質の誤認を生じるものというのが相当である。」とした審決の判断に誤りはない。
2 本願商標の使用状況として原告が主張し,かつ立証しようとするところは,原告は,その前身である「再開発コーディネーター協議会」が発展して昭和60年5月に設立認可された社団法人であるところ,原告は,その定款2条で,「「再開発コーディネーター」とは市街地の再開発に関する企画,計画,経営,法律,税務,評価,設計,管理運営等の分野に関する専門知識と経験を有し,関係権利者や事業の施行者等の指導調整にあたり,事業の円滑な遂行にあたる者をいう。」と定義されているところ(甲2の1「社団法人再開発コーディネーター協会要覧」12頁)に従って,事業活動を展開しているから,「再開発コーディネーター」の概念は,原告の活動理念と分かち難く結びついたものであり,それが原告の個人正会員を指す呼称であることは,市街地再開発事業等に指導調整的な立場で携わり,あるいは携わろうとしている個人,法人や,現に再開発事業を行い,あるいは行おうとしている事業施工者,地権者などの関係者の間では,広く認識されていることからすれば,原告を離れて上記概念,呼称が独り歩きして用いられることはない,というにある。
しかしながら,本願商標である「再開発コーディネーター」の語が,原告の定款で原告主張のように定義されていることは上掲証拠によって認められるものの,市街地再開発事業等の分野を越えて,「技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催」を始めとする本願商標の指定役務すべてにわたって,原告の事業活動あるいは活動理念と分かち難く結び付いてきているという実態や,本願商標が原告の正会員を指す呼称であることが市街地再開発事業の関係者の間で広く認識されているという実態を認めるに足りる証拠はなく,原告の主張は採用することができない。
してみれば,前記1で認定説示したような,本願商標により需要者が認識するところを覆すべき特段の事情を認めることはできず,「本願商標をその指定役務中『技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催』等に使用しても,単に役務の質(内容)を表示するものと認める。したがって,本願商標は,商標法3条1項3号に該当し,前記役務以外の役務に使用するときは,役務の質の誤認を生じさせるおそれがあるので,同法4条1項16号に該当する。」とした本願拒絶査定を支持した審決の判断に誤りはない。
結論
以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 塩月秀平
裁判官 野輝久