関連審決 | 審判1997-10026 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成17ワ14972不正競争行為差止等請求事件 平成17ワ22496損害賠償等請求事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
関連ワード | 識別力 / 役務商標 / 役務の提供 / 指定商品 / 指定役務 / 記述的商標(3条1項3号) / 普通に用いられる方法 / 称呼(称呼類似) / 警告 / 同業者 / |
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事件 |
平成
11年
(行ケ)
381号
審決取消請求事件
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原告 合資会社桂花代表者無限責任社員 A 訴訟代理人弁護士 島田康男 同 黒田彩霧 訴訟代理人弁理士 B 被告 特許庁長官C 指定代理人 D 同 E 同 F |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2000/09/28 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
特許庁が平成9年審判第10026号事件について平成11年10月1日にした審決を取り消す。 . 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
主文同旨 |
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前提となる事実(争いのない事実)
1 特許庁における手続の経緯 原告は、平成6年2月12日、「太肉麺」の文字を横書きしてなる商標(以下「本願商標」という。)について、指定役務を商品及び役務の区分第42類の「中華そばの提供」として商標登録出願(平成6年商標登録願第12691号)をしたが、平成9年4月8日に拒絶査定を受けたので、平成9年6月18日、拒絶査定不服の審判を請求した。 特許庁は、同請求を平成9年審判第10026号事件として審理した結果、平成11年10月1日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同月25日に原告に送達された。 2 審決の理由 別紙の審決書の理由の写しのとおり、本願の指定役務に係る「中華そば」は「ラーメン」と同義であって、審決摘示の証拠の記載によれば、「太肉麺」又は「大肉麺」の語が、辞書・辞典類に特定の料理を示唆するものとの記載がないとしても、 「主に豚肉の厚切り肉を盛りつけたラーメン」であることを示すものとして一般に使用されているというのが相当であり、本願商標をその指定役務について使用しても、上記ラーメンを提供するという役務の質(内容)を表示したものと認識するにとどまり、本願商標は自他役務の識別標識としての機能を果たし得ないから、本願商標は、商標法3条1項3号に該当すると認定、判断した。 |
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原告主張の審決取消事由の要点
本願商標の指定役務に係る「中華そば」が「ラーメン」と同義であることは認めるが、審決が「『太肉麺』の語が、『主に豚肉の厚切り肉を盛りつけたラーメン』であることを示すものとして一般に使用されている」と認定したのは誤りである。 1 「太肉麺」の語について (1) 「太肉」の語には、そもそも「豚肉」との意味はないし、「太肉」の語は、辞書、辞典類に掲載されておらず、特定の材料、品質を表示するものではない。このことは、審決自体が「辞書・辞典類に特定の料理を示唆するものとの記載がない」と認定している。 また、審決は、「太肉」の他に「大肉」なる用語を引用しているが、審決も認めるとおり、そもそも「大肉」なる語も辞書、辞典類に掲載されておらず、その意味は明らかではなく、豚肉のことであるとする根拠はない。したがって、「大肉」なる語と本件商標の「太肉」を比較して「太肉」の意味を認定しようとするのは、方法論的にも誤りである。 以上のとおり、「太肉」の語は、ラーメンに使用されている材料を普通に用いられる方法で表示するものではないから、それにラーメンを意味する「麺」を組み合わせた「太肉麺」の語は、ラーメンに使用されている材料を普通に用いられる方法で表示するものではない。また、「太肉」あるいは「太肉麺」の語は、審決が認定するように「豚肉」あるいは「豚肉の厚切り肉を盛りつけたラーメン」を意味するものではない。 (2) 「太肉麺」の語は、原告代表者の考案に係る造語であって、用語として特定の意味を有するものではない。 原告代表者は、昭和43年に、東京に進出するに際して、従来から提供してきたとんこつスープを活かした新しいメニューを考案することになった。この結果生まれたのが、「とんこつスープに生キャベツと豚の角煮を具としたラーメン」である。この具の組合せは当時どの店でも扱っておらず、原告独自のものであった。 この新しく開発した具材の組合せのラーメンの名称について、原告代表者は、具である豚の角煮の形状から、「太肉」なる造語を案出し、これを「ターロー」と呼称し、「太肉が入っているラーメン」ということで「太肉麺」という名称にして、 「ターローメン」と呼称することにしたのである。このように、角煮の形状から「太肉」なる造語を思いつくのは東京人や標準語を話す人間には容易なことではない。 原告の店舗では、それ以来現在に至るまで、「とんこつスープに生キャベツと豚の角煮を具としたラーメン」を「太肉麺(ターローメン)」として販売している。 そして、それまでに存在しない斬新なメニューに、親しみやすい名称(標章)を付したことから、「太肉麺」は、原告の提供する「とんこつスープに生キャベツと豚の角煮を具としたラーメン」の名称(標章)として消費者(需要者)の間に広く認識されるに至っている。 (3) 以上のとおり、本願商標の「太肉麺」は、審決が認定するように「主に豚肉の厚切り肉を盛りつけたラーメン」であることを普通に用いられる方法で表示するものではないから、商標法3条1項3号に該当せず、「太肉麺」の商標は、 原告代表者が案出した造語であり、原告で提供するラーメンの標識(標章)として他社が提供するラーメンとの間で識別力を有するものである。 2 「豚の角煮を盛りつけたラーメン」の一般的な名称について (1) 東京近郊のラーメン店において、豚の角煮を盛りつけたラーメンとして一般的な名称は「角煮ラーメン」である。また、角煮を具としたラーメンとの意味で、「角煮をトッピングする」、「角肉入り」という表現も多々見られるところである。ほかに、沖縄風角煮(ラフティー)を具に盛りつけたラーメンとして、 「ラフティーそば」との名称も使用されている。 (2) 前記のとおり、原告が昭和43年に「太肉麺」の名称で「とんこつスープに生キャベツと豚の角煮を具としたラーメン」を提供し始めてから、これが原告の提供する中華そばであるとの認識が消費者の間に広く認識されていたことから、約20年間にわたって同一又は類似の名称を用いて中華そばを提供する者はいなかった。ところが、最近になって、原告が苦心して築き上げてきたその知名度を利用する形で「太肉麺」又はこれに類似する名称を用いて中華そばを提供する者が現れてきたのである。 原告は、これらの者の使用に対し、不正競争防止法違反により警告を発するなどの準備をしているところであるが、このように、違法に本願商標を使用している者がいることをもって、当該商標が一般に使用されていると認定することは不当である。 原告は、役務商標制度の導入に伴って、「太肉麺」の商標出願を行ったものであり、このような不正な使用者の存在によって権利取得が阻まれるいわれはない。 「太肉麺」の特別顕著性(識別力)は不正な使用者がいるからといって失われるものではないからである。 3 「ターローメン」なる商標の登録例について 前記のとおり、本願商標の「太肉麺」は、原告が案出した造語であるところ、この称呼として原告が案出した「ターローメン」の語に関して、原告は、平成4年10月9日、指定商品を「肉製品」として、「ターロー」なる商標を出願し(商願平4-298839)、平成7年5月31日、商標登録され(登録番号第3045431号)、また、平成6年2月15日、指定商品を「肉製品」として、「ターローメン」なる商標を出願し(商願平6-14505)、平成9年1月31日、商標登録されている(登録番号第3247398号)。 このことは、特許庁が「ターロー」を「豚肉」とは認めず、「ターローメン」を「主に豚肉の厚切り肉を盛りつけたラーメン」であるとは認めていない何よりの証左である。 4 被告が提出する証拠について (1) 審決が「太肉麺」の語が一般に使用されているとして適示している証拠について、審決はその出典を特定しておらず、その引用の正確性及び記載内容の真実性に関する検証が一切できないが、敢えて推測するに、審決が「熊本・下通『こってりとした肉は、豚の三枚肉を使用。〜さっぱりと生キャベツを添える。ターローメン、太肉麺』」(審決書3頁3行ないし5行)として引用しているのは、 原告が熊本市下通りにおいて営業している店舗についての記事である。また、原告は、東京都渋谷区に店舗を構えて営業しており、「東京・渋谷『太肉麺』」(同3頁6行)として引用されているものも原告に関する記事である可能性が高い。このように、原告が本願商標を使用していることをもって、「一般に使用されている」と認定する根拠とすることは不当である。 さらに、「東京・調布『豚の角煮を具に盛りつけた醤油ラーメン。〜肉には三枚肉を使うが〜。ターローメン、大肉麺』」(同3頁8行ないし10行)との記事と、「東京・調布『味も変わっていて太肉麺のスープの味が良くわからなくて店員に〜』」(同3頁12行ないし14行)との記事は、調布市内の同一の店舗に関する記事であるものと思われ、1つの店舗に関する記事を2度も引用して、「一般に使用されている」と認定する根拠とするのは誤りである。 (2) 被告が本件訴訟で提出する乙号証のうち、乙第1号証に記載の「永柳」は、原告に勤務していた元従業員が独立して構えた店であり、原告が創作した商標である「太肉麺」を流用していることは明らかである。なお、「永柳」は現在閉店しており、渋谷の「永竜」では「角煮麺」の名称で角煮を具としてのせたラーメンを提供している(甲第7、第8号証)。 また、乙第4号証の3の「博多らーめん・てん」は、「太肉めん」の名称でチヤーシユーメンを提供していることがその記載上から明らかであり、「太肉」が審決の言うような「豚肉の厚切り肉」の意味で用いられていないことは明らかである。 5 結論 以上のとおり、「太肉麺」なる語は、原告が考案した造語であって、審決が「『太肉麺』の語が、『主に豚肉の厚切り肉を盛りつけたラーメン』であることを示すものとして一般に使用されている」と認定したのは誤りであり、このために、 本願商標が商標法3条1項3号に該当すると誤って判断して、本件審判請求を成り立たないとした審決は違法であるから、取り消されるべきである。 |
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被告の反論の要点
1 「太肉麺」の語が一般的に使用されていることについて 原告は「『太肉麺』は原告の提供する『とんこつスープに生キャベツと豚の角煮を具としたラーメン』であることが消費者の間に広く認識されるに至った」旨の主張をしているが、本願商標を構成する「太肉麺」及び「ターローメン」について、 雑誌等に、以下のとおり記載されている事実が認められる。 (1) 乙第1号証には、「(渋谷/とんこつ)」「とんこつラーメン永柳」店に「太肉麺」、「(笹塚/東京とんこつ)」「ラーメン屋 豪快」店に「太肉らーめん」及びその「特記事項」に「豚バラ肉を特性のタレでじっくり煮込んでとろけるような太肉がのる太肉らーめんもオススメ」との記載がある。 (2) 乙第2号証には、「東京・調布」「ラーメン専門店そらまめ」店に「ターローメン」、「大肉麺」及び「豚の角煮を具に盛りつけた醤油ラーメン。」の記載がある。 (3) 乙第3号証には、「岡山県」「金八ラーメン」店に「豚角煮がのった太肉ラーメン」、「埼玉県」「九州熊本ラーメン麺王」店に「本場熊本の味。大きくてやわらかい角煮の入った太肉麺」の記載がある。 (4) 乙第4号証の1には、「活力ラーメン元氣一杯」店に「太肉麺(ターローメン)」、乙第4号証の2には、「はしご」店に「段々と辛みが増す太肉坦々麺」、「豚のバラ肉をていねいに煮込んだ自家製の太肉も上物だ。」、乙第4号証の3には、「博多らーめん・てん」店に「太肉めん」、乙第4号証の4には、「麺王(その壱)坂戸・若葉、(その弐)鶴ヶ島」店に「熊本系定番の太肉麺(ターロー麺:角煮・生キャベツ・味付け卵半分)がお勧め」の記載がある。 以上の事実からすれば、本願商標は、中華そばの一種類名を表すものとして一般に使用されているものである。 これに対し原告は、乙第1号証について、「永柳」は、原告に勤務していた元従業員が独立して構えた店であって、原告の創作した商標である「太肉麺」を流用していることは明らかであり、また、同店は現在閉店している旨主張している。 しかしながら、乙第1号証における「永柳」が原告の関係者による店であるか否かは、原告又はその関係者以外の者にとっては知り得ないことであり、一般の需要者がこれを原告と関連づけて認識するとは考え難く、店名に共通性がない以上、むしろこれを他人と解し認識していたとみるのが自然である。また、現在閉店しているからといって、過去において原告以外の者により「太肉麺」なる文字(語)が「拉麺」、「叉焼麺」等の文字(語)と同列に使用されていた事実まで消失するものではないから、その証拠価値はいささかも減少するものではない。 原告は、同じく乙第4号証の3に関し、「太肉めん」の名称でチャーシューメンを提供していることは明らかであり、「太肉」が審決のいうような「豚肉の厚切り肉」の意味で用いられていないことは明らかである旨主張している。 乙第4号証の3によれば、原告以外の者が「太肉めん」の文字(語)を「博多らーめん」、「しょうゆらーめん」と同様に、その提供に係る中華そばの一種類名として使用していることと、それが「チャーシューメン」と同義語の如く使用されていることが認められるが、審決は、この乙第4号証の3のみに限定せず、多くの現実の使用例を挙げ、それらを総合勘案して、「『太肉麺』または『大肉麺』の語が『主に豚肉の厚切り肉を盛りつけたラーメン』であることを示すものとして、一般に使用されているというのが相当である。」としたのであり、決して「太肉」の語が「豚肉の厚切り肉」の意味で用いられていると直接認定したものではなく、この点で原告の上記主張は事実に反している。 2 「太肉麺」の語が原告の造語であるとの主張に対して 原告は、「太肉」の語は原告代表者の考案に係る造語であって、用語として特定の意味を有するものではない旨主張している。 しかし、「太肉」の語が成語として辞書等に掲載されていないとしても、漢字は表意文字であることから、組合せによって一定の意味合いが感じ取れるものであり、「太」は「太い、大きい」を意味するから、「大きい肉」の意味を表現したものと看取されるところである。原告自身も陳述書(甲第9号証)において「その形状から、太い肉が入っている麺とわかりやすく『太肉麺』と名づけました」と述べているように、「太肉」や「太肉麺」の語からは、一定の意味合いが看取されるというべきである。そうであるからこそ、乙第1ないし第4号証(枝番を含む。)に示すように、原告以外の者も同様の意味を持つ語としてこれを使用し、一般消費者にもそのように認識されるに至ったものである。 もっとも、審決が「太肉麺」の語について「主に豚肉の厚切り肉を盛りつけたラーメン」であることを示すものとして一般に使用されているというのが相当であると認定したのは、審決の記載内容から明らかなとおり、その語が持つ意味からではなく、同業者による現実の使用例に依るものである。 そして、「太肉麺」が原告の案出した造語であるとかないとかは、これら現実の使用例を前にしては何の意味も持たないのであって、原告が提供するラーメンの標識(名称)として他社のラーメンとの間で識別力を有するものである旨の原告の主張は、事実を無視したものであって到底首肯し得るものではない。 3 「太肉麺」、「ターローメン」なる商標の審査・登録例について 原告は、平成6年2月15日に、「中華そばのめん、即席中華そばのめん」を指定商品とした「太肉麺」の文字よりなる商標及び「穀物の加工品」を指定商品とした「ターローメン」の文字よりなる商標を登録出願したが、審決と同じ理由による拒絶査定が確定している。 また、原告は、「ターロー」又は「ターローメン」の文字よりなる商標がいずれも「肉製品」を指定商品として登録されている事実を指摘しているが、本願商標は「太肉麺」の文字よりなるものであり、「中華そばの提供」を指定役務とするものであって、商標のみならず商品・役務が全く異なる上に、審決は、「中華そばの提供」という役務に「太肉麺」の文字が現に使用されている事実に依拠して判断したものであるから、これらの登録例に影響されないことは明らかである。 4 原告のその余の主張に対して (1) 原告は、「太肉」には豚肉との意味はなく、審決は「大肉」なる用語を引用し、これと本願商標の「太肉」を比較するが、これにより『太肉』の意味を認定しようとするのは、方法論的にも誤りである旨主張している。 しかし、審決は、本願商標「太肉麺」を「太肉」と「麺」とに分けてそれぞれの意味につき言及しているのではなく、「太肉麺」、「大肉麺」、「ターローメン」、「太肉担々麺」、「太肉らーめん」「太肉ラーメン」、「太肉めん」の語が原告以外の者により中華そばの一種類名として取引上使用されている事実を挙げ、 かかる事実から「『太肉麺』または『大肉麺』の語が『主に豚肉の厚切り肉を盛りつけたラーメン』であることを示すものとして、一般に使用されているというのが相当である。」としたものである。 したがって、本願商標から「太肉」を抽出したこともなければこれを「大肉」なる用語と比較したこともないのであるから、この点の原告の主張も事実に反しており失当である。 (2) 原告は、最近になって、原告が苦心して築き上げてきたその知名度を利用する形で、「太肉麺」又はこれに類似する名称を用いてラーメンを提供する者が現れてきたが、これら不正な使用者の存在によって原告の権利取得が阻まれるいわれはない旨主張している。 しかし、本件は、本願商標が商標法3条1項3号に該当するとした審決の判断の当否を争っているものであり、同号は「その役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」を商標登録から排除することを定めている。そして、本願商標については、同業者により取引上普通に使用されているとの客観的事実が形成されているのであり、そうである以上は、その事実の形成過程において、第三者の不正競争等が介在していたと否とを問わず、これを客観的な社会事実としてとらえるほかはない。すなわち、本号の適用に当たり第三者の悪意は何らこれを妨げる事由とはなり得ないのである。 原告の主張は、主観的事情を述べたにとどまり、審決の判断に影響を及ぼすものではない。 5 結論 以上によれば、原告の主張はいずれも失当であり、本願商標は、その指定役務の「中華そばの提供」について使用しても、役務の質(内容)を表示したものと認識するにとどまり、自他役務の識別標識としての機能を果たし得ないものといわなければならない。 したがって、本願商標は、商標法3条1項3号に該当するとした本件審決の認定、判断に何ら違法の点はなく、取り消されるべき理由はない。 理 由 1(1) 本願商標の構成が「太肉麺」の文字を横書きしてなり、その指定役務が「中華そばの提供」であること、右の指定役務に係る「中華そば」が「ラーメン」と同義であることは争いがない。 そして、被告が提出する乙号証には、被告が指摘するとおりの記載があることが認められる。すなわち、 (ア) 「ぴあランキンググルメシリーズ」(ぴあ株式会社、平成9年2月20日発行、乙第1号証)に、「(渋谷/とんこつ)」「とんこつラーメン永柳」店に「太肉麺」、「(笹塚/東京とんこつ)」「ラーメン屋 豪快」店に「太肉らーめん」及びその「特記事項」に「豚バラ肉を特性のタレでじっくり煮込んでとろけるような太肉がのる太肉らーめんもオススメ」との記載、 (イ) 「料理と食シリーズ@ラーメン冷し中華」(株式会社旭屋出版、 平成8年3月12日発行、乙第2号証)には、「東京・調布」「ラーメン専門店そらまめ」店に「ターローメン」、「大肉麺」及び「豚の角煮を具に盛りつけた醤油ラーメン。」の記載、 (ウ) 「全国おいしいご当地ラーメン厳選200店」(株式会社竹書房、平成12年1月3日発行、乙第3号証)には、「岡山県」「金八ラーメン」店に「豚角煮がのった太肉ラーメン」、「埼玉県」「九州熊本ラーメン麺王」店に「本場熊本の味。大きくてやわらかい角煮の入った太肉麺」の記載、 (エ) インターネットのホームページに、「活力ラーメン元氣一杯」店(乙第4号証の1)に「太肉麺(ターローメン)」、「はしご」店(乙第4号証の2)に「段々と辛みが増す太肉坦々麺」、「豚のバラ肉をていねいに煮込んだ自家製の太肉も上物だ。」、「博多らーめん・てん」店(乙第4号証の3)に「太肉めん」、「麺王(その壱)坂戸・若葉、(その弐)鶴ヶ島」店(乙第4号証の4)に「熊本系定番の太肉麺(ターロー麺:角煮・生キャベツ・味付け卵半分)がお勧め」の記載、 がそれぞれ認められる。 (2) しかしながら、他方、本願商標を構成する「太肉麺」の語について、辞書、辞典類には特定の料理を示唆する記載がないことについては争いがない。 そして、「新版漢語林」(株式会社大修館書店発行)によれば、「太肉麺」の語の中の「太」の漢字の音は、「タイ」、「タ」、中国語音は、「タイ」であり、 「肉」の漢字の音は、「ニク」、中国語音は、「ルウ」であることが認められ、甲第2ないし第6号証、第9号証及び弁論の全趣旨によると、次の各事実が認められる。 (ア) 原告は、屋号を「桂花」として、昭和30年に熊本市で創業され、昭和37年に合資会社となり、とんこつスープの熊本ラーメンの専門店として営業していたが、昭和43年に、東京に進出するに際し、原告は、東京では熊本ラーメンは全くの無名であり、白濁したとんこつスープが東京で受け入れられるか不明であったために、とんこつスープを活かした新しいメニューを考案することになった。 そして、原告は、「とんこつスープに生キャベツと豚の角煮を具としたラーメン」を考案し、その名称について、具である豚の角煮の形状から、「太肉」なる造語を案出し、これを「ターロー」と呼称し、この商品が「太肉が入っているラーメン」であることから「太肉麺」という名称にして、これを「ターローメン」と呼称することにした。 当時、この商品における具の組合せはどの店でも扱っておらず、原告独自のものであり、かつ、「太肉麺」、「ターローメン」の名称(標章)は、原告の発案による造語であって、当時、このような標章を使用してラーメンを提供する店は全くなかった。 (イ) 原告の店舗では、それ以来現在に至るまで、「とんこつスープに生キャベツと豚の角煮を具としたラーメン」を「太肉麺」、「ターローメン」として販売している。 そして、それまでになかった新しいメニューに新しい「太肉麺」、「ターローメン」との標章を付したことにより、このラーメンは、東京においても好評を博して、主に東京及びその近郊の取引者、需要者の間に、かなりの程度に認識されるに至っており、特に、ラーメンを愛好する需要者の間に広く知られている。そして、 原告が提供する「太肉麺」、「ターローメン」のラーメンは、例えば、「私が好きなこの店この一品」(朝日新聞社、昭和52年4月30日発行、甲第2号証)、 「東京レストランガイド」(株式会社講談社、昭和61年7月15日発行、甲第4号証)、「別冊angle 最新東京いい店安い店」(主婦と生活社、平成3年5月25日発行、甲第5号証)において紹介され、最近でも、「本当に旨い店グランプリ」(平成11年3月30日発行、甲第6号証)で紹介されるなどしている。 (ウ) これに対して、他のラーメン店では、原告が東京に出店した後の約20年間にわたって、「太肉麺」、「ターローメン」の標章をその提供するラーメンに使用しておらず、現在でも、例えば、豚の角煮を盛りつけたラーメンとしては、一般的に「角煮ラーメン」という名称が付されて提供されている。 (3) 以上認定のとおり、本願商標を構成する「太肉麺」の語は、原告が発案した造語であり、同様に原告が発案した「ターローメン」という標章も、「太肉」という漢字の音読みにはない「ターロー」と「麺」の音読みである「メン」とを結合して親しみやすい称呼として、原告が提供するラーメンの標識として、約20年間という長期間にわたって使用されてきたものである。 確かに、上記(1)の乙号証の雑誌等には、被告指摘のとおり、「太肉麺」、「ターローメン」等の名称でラーメンを提供する店が記載されていることが認められるが、その雑誌の発行年月日、インターネットの検索時期よりすれば、それは最近の比較的短期間のことであることが推認されるのであり、また、被告提出の乙第1ないし第3号証及び原告提出の甲第2ないし第6号証等の雑誌、書籍には、全国の膨大な数のラーメン店が掲載されており、また、インターネットのホームページには、同様に多数のラーメン店が紹介されているにもかかわらず、「太肉麺」、「ターローメン」等の名称でラーメンを提供する店は、被告指摘の数店舗にとどまっており、むしろ、審決の平成11年10月の時点や現在においても、その余のほとんどの店では、その提供するラーメンの名称として「太肉麺」、「ターローメン」の標章は使用しておらず、上記のとおり、例えば、豚の角煮を盛りつけたラーメンとしては、一般的に「角煮ラーメン」という名称を付して提供しているのである。その他、「太肉麺」の語が「主に豚肉の厚切り肉を盛りつけたラーメン」であることを示すものとして一般に使用されているとの審決の認定を認めるに足りる根拠はない。したがって、被告が主張する「本件商標については、同業者により取引上普通に使用されているとの客観的事実が形成されている」ということも認めることができない。 2 以上によれば、審決が、「太肉麺」の語が辞書・辞典類に特定の料理を示唆するものとの記載がないとしながら、「主に豚肉の厚切り肉を盛りつけたラーメン」であることを示すものとして一般に使用されていると認定したことは、誤りであるというほかなく、審決がこの認定を前提として、本願商標をその指定役務について使用しても役務の質(内容)を表示したものと認識するにとどまり、本願商標は自他役務の識別標識としての機能を果たし得ないとして、本願商標が商標法3条1項3号に該当すると判断したことも誤りに帰するから、審決は取消しを免れない。 3 結論 以上のとおり、原告の本訴請求は理由があるので、これを認容することとし、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 永井紀昭 |
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裁判官 | 塩月秀平 |
裁判官 | 橋本英史 |