関連審決 | 審判1994-1725 |
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関連ワード | 識別力 / 識別機能 / 指定商品 / 記述的商標(3条1項3号) / 普通に用いられる方法 / 3条2項 / 称呼(称呼類似) / 継続 / |
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事件 |
平成
11年
(行ケ)
442号
審決取消請求事件
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原告 株式会社中村醸造元代表者代表取締役 【A】 訴訟代理人弁理士 【B】 同復代理人弁護士 鈴木秀彦 被告 特許庁長官【C】 指定代理人 【D】 同 【E】 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2000/08/29 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成6年審判第1725号事件について平成11年11月11日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 【F】は、指定商品を商標法施行令別表(平成3年政令第299号による改正前のもの)第31類の「しょうゆ」として、「昆布しょうゆ」の文字を別紙1のとおり書してなる商標(以下「本願商標」という。)について、平成3年9月10日に商標登録出願(平成3年商標登録願第94391号)をしたところ、平成5年11月19日に拒絶査定を受けたので、平成6年1月17日に拒絶査定不服の審判を請求した。審判請求後、【F】は、本願商標について商標登録を受ける権利を原告に譲渡し、この譲渡は、平成10年3月5日に特許庁長官に届け出られた。 特許庁は、上記審判請求を平成6年審判第1725号事件として審理した結果、平成11年11月11日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、同月29日、その謄本を原告に送達した。 2 審決の理由 別紙2の審決書の理由の写しのとおり、本願商標は、@単に商品の品質、原材料を表示したものであって、商標法3条1項3号に該当し、A同条2項に該当する要件を具備するに至ったものと認定することもできないから、登録することはできないと認定判断した。 |
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原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由1(本願商標)及び2(原査定の拒絶の理由)は認める。同3(当審の判断)は、2頁14行〜3頁1行(「ところである。」まで)、3頁2行〜3行の「濃口醤油、淡口醤油、溜醤油」がJAS規格に基づく分類名であること、及び3頁22行〜24行(「提出しているが」まで)を認め、その余を争う。 審決は、本願商標について、商標法3条1項3号該当性に関する認定判断を誤り(取消事由1)、同条2項該当性に関する認定判断を誤った(取消事由2)ものであって、これらの誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、 違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性に関する認定判断の誤り) (1) 「昆布しょうゆ」の表示について ア 「昆布」は食材としての用途が主であり、だしの材料としての用途は、 あくまでも用途の一つにすぎないから、「昆布」なる表記が、「昆布だし」のみを想起させることはない。したがって、「昆布しょうゆ」の表示が、必ず「昆布のだし成分を含有するしょうゆ」として認識される必然性はない。 「昆布しょうゆ」という表示からは、大豆や小麦の代わりに昆布を原料とした、醤油類似の調味料、あるいは昆布そのものを醤油に混入した商品が認識される可能性もあるのである。 イ 昆布だしと醤油を合わせ用いた商品を開発することは、決して容易なことではない。濃口(こいくち)醤油に、単純に昆布だしを加えたのでは、両方のうま味が減殺されてしまって意味がなく、また、昆布だしは腐敗しやすいために、商品としては成り立たないからである。このように、昆布だし成分を含有する醤油の開発などは、当業者間では予想されなかったことである。 ウ 「品質」なる概念は、商品の性状やグレードを指す概念である。「昆布」は海草の名称であって、醤油の性状やグレードを指す文言ではない。 また、「しょうゆ」の原材料として、大豆や小麦ではなく、これとは別の材料を用いている場合に、その原材料の名を「しょうゆ」の前に表記するというのが、「しょうゆ」の原材料を表示するために「普通に用いられる方法」である。 ところが、本願商標の指定商品は、「しょうゆ」であって、大豆や小麦の代わりに昆布を主原材料として用いたものではないから、「昆布しょうゆ」は、「しょうゆ」の原材料を「普通に用いられる方法」で表記したものではない。 したがって、本願商標を、商品の品質、原材料を普通に用いられる方法で表示したものとすることはできない。 (2) 商標法3条1項3号該当性の判断の基準時について ア 商標法3条1項3号該当性を判断するに当たっては、出願の時点で判断すれば当然に生じたであろう登録期待性が、その後の他人の行為によって奪われるのは社会的公平を損なうことになるから、同法4条3項の規定の趣旨に準じて、出願日を基準とすべきである。 イ 被告は、商標法3条1項3号の趣旨は、「@これに該当するものは、商品を流通過程又は取引過程に置く場合に必要な表示であるから何人(なんぴと)も使用する必要があり、かつ、何人もその使用を欲するものだから、一私人に独占を認めるのは妥当でなく、また、A多くの場合には、既に一般的に使用されあるいは将来必ず一般的に使用されるものであるから、これらのものに自他商品の識別力を認めることはできない。」という理由によるものであると主張する。 しかし、「昆布のだし成分を含有するしょうゆ」を流通過程におく場合に、「昆布しょうゆ」という表記を用いなければならないという必然性はなく、例えば「昆布だししょうゆ」等、他の表記を用いる余地が十分にあるから、本願商標は、商品を流通過程又は取引過程に置く場合に必要な表示ではない。 また、同号該当性を判断するに当たって、当該商標が一般的に使用されているか否かという基準の適用に当たっては、同法4条3項の規定の趣旨に準じて、出願日を基準とすべきである。少なくとも、事情変化の理由を検討し、出願人に事情変化の責めを負わせ難い場合には、出願時を基準とするか、あるいは、上記Aの判断基準の適用は排除して、@の判断基準のみによって判断されるべきである。 ウ 出願人の発売に係る商品「昆布しょうゆ」は、従来販売されていなかった新たな魅力的商品であり、売れ行きが爆発的に伸張し、そのため、本願商標の出願から審決までの約8年間に、それに乗じようとする追随品が出現した。このように審決が遅れたのは、専ら特許庁の事情によるものであって、出願人に責任があるわけではない。その間に、原告の懸命の抑止努力にもかかわらず、本願商標に類似する商標を付した若干の商品が販売されたからといって、そのことのゆえに、本願商標の自他商品識別性が否定されるべきではない。 2 取消事由2(商標法3条2項該当性に関する認定判断の誤り) 原告商品「昆布しょうゆ」の平成11年までの総販売量は1622万リットル(約1622万本)で、その取り扱い店舗の数は北海道だけでも1000店を超えるに至っている。また、原告商品は、テレビ、新聞、雑誌等のマスコミの紹介記事で取り上げられた機会も多く、その他、試食販売会の開催、イベント(催事)ヘの参加等、財力の乏しい地方の小企業としては精一杯の広告宣伝活動を行ってきた。追随品や模造品が時折出現するにしても、その販売量や広告量は微々たるものであり、原告商品の販売量や広告量に比べれば、まさにけた違いである。 このように、原告は、原告商品の発売以来一貫して、本願商標を継続的かつ広範囲に使用しており、これに伴って原告商品の表示として知られるに至っているのである。 被告は、「昆布しょうゆ」の使用例として、乙第1ないし第13号証を提出するけれども、これらは、本願商標とは構成が異なるから、上記主張の妨げとなるものではない。 |
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被告の反論の要点
1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性に関する認定判断の誤り)について (1) 「昆布しょうゆ」の表示について ア 昆布は、食材として用いられるばかりでなく、従来より、「だし」の材料としても用いられ、「かつお」「しいたけ」等と並び、調味料の材料として我が国の食文化に多大な影響を及ぼしてきた。昆布というものがこのようなものであるとすれば、「昆布」「しょうゆ」の二語より構成された本願商標に接する取引者・需要者は、ごく自然に、「昆布のだし成分を含有するしょうゆ」を認識することになるのである。 イ 原告は、「昆布しょうゆ」という表記からは、大豆や小麦の代わりに昆布を主たる原材料とした、醤油類似の調味料、あるいは昆布そのものを醤油に混入した商品が認識される可能性もあると主張する。しかし、「醤油」が、我が国において調味料として長年用いられ、広く知られていることからすれば、「昆布しょうゆ」という表記の付された商品に接したからといって、その主たる原材料が「昆布」であると認識する者は、皆無というべきである。 また、仮に、原告主張のとおりだとしても、そのときには、それはそれで、結局、本願商標には自他商品の識別機能がないということにほかならない。 そうすると、いずれにせよ、本願商標は、これに接する取引者・需要者をして、少なくとも本願指定商品が「昆布」と関わりのある「しょうゆ」であること、すなわち、原材料の一部に昆布を用いた「しょうゆ」であることを、認識させるものである。 ウ 原告は、昆布だしと醤油を合わせ用いた商品を開発することは、決して容易なことではないと主張する。 しかし、調理の場においては、一般に両者を合わせ用いることが行われており、商品「しょうゆ」の需要者が本願商標に接したときに、原告主張のような製法技術にまで思いを及ぼすことはないものとみるのが自然である。 (2) 商標法3条1項3号該当性の判断の基準時について ア 商標法3条1項3号の趣旨は、「これに該当するものは、商品を流通過程又は取引過程に置く場合に必要な表示であるから何人も使用する必要があり、かつ、何人もその使用を欲するものだから、一私人に独占を認めるのは妥当でなく、 また、多くの場合には、既に一般的に使用されあるいは将来必ず一般的に使用されるものであるから、これらのものに自他商品の識別力を認めることはできない。」という理由によるものである。したがって、本件において、商標法3条1項3号に該当するか否かの判断は、審決日を基準とすべきである。 イ 本願商標にあっては、出願時において自他商品の識別力があったが、その後の時間の経過によって、これが失われたという事実は全く認められないから、 自他商品の識別力の有無を基準とするとしても、同号に該当するか否かの判断が、 判断時期によって影響を受けるものではない。 2 取消事由2(商標法3条2項該当性に関する認定判断の誤り)について 審決において提示した「昆布しょうゆ」の語の使用例(キッコーマン株式会社のホームページ(乙第1号証)と羅臼漁業協同組合直営店海鮮工房のホームページ(乙第2号証)の二つ)は一部であって、乙第3ないし第13号証のとおり、その他の使用例も存在する。 また、原告とは異なる者が、「昆布しょうゆ」の文字を構成の一部に有する商標を、「昆布だしを含有するしょうゆ」を指定商品として登録している(乙第14号証)。 さらに、原告が使用しているとする商標は、原告が商標権を有する登録第2724364号商標(乙第15号証)及び登録第2724362号商標(乙第16号証)であって、本願商標ではない。 したがって、本願商標は、商品「昆布のだし成分を含有するしょうゆ」に使用された結果、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識できるものとなっていたものとは、認めることができない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性の誤認)について (1) 「昆布しょうゆ」の表示について ア 我が国において、昆布は、鰹節等と並び、そのエキスないしうまみ成分の入っただし汁を利用する「だし」の基本的な材料として用いられてきていること、及び、調理の場において、醤油は、「昆布だし」「鰹節だし」等の他の調味料と合わせて用いられていることは、当裁判所に顕著である。 そうである以上、単に「昆布しょうゆ」の文字をごくありふれた書体と態様で書いただけの商標である本願商標に接した一般の取引者・需要者は、本願商標から、「昆布のだし成分を含有するしょうゆ」を認識するものと認められるから、本願商標は、商標法3条1項3号にいう「商品の品質、原材料を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するというべきである。 イ 原告は、「昆布しょうゆ」の表記が、必ず「昆布のだし成分を含有するしょうゆ」として認識される必然性はなく、大豆や小麦の代わりに昆布を原料とした、醤油類似の調味料、あるいは昆布そのものを醤油に混入した商品が認識される可能性もあると主張する。 しかし、同号の「商品の品質、原材料を普通に用いられる方法で表示する標章」とは、一般の取引者・需要者の認識を基準として判断されるべきものであって、すべての取引者・需要者が必ず「昆布のだし成分を含有するしょうゆ」という認識をもたなければならないものではない。そして、一般の取引者・需要者は、 本願商標から、「昆布のだし成分を含有するしょうゆ」を認識すると認められることは前示のとおりである。 この点に関して、甲第30号証には、「昆布しょうゆ」の文字から想起する商品を調査したところ、「昆布で作ったしょうゆ」をあげた者は、複数回答が許された場合には43%、第1位をあげる場合には14%であったとの記載がある(もっとも、上記「昆布で作ったしょうゆ」は、「大豆や小麦を使わず、昆布をその代わりの原材料として作ったしょうゆ」とも、「しょうゆは大豆や小麦で作られるものであるから、しょうゆである以上大豆や小麦は使うが、そのほかに昆布も原材料として作ったしょうゆ」とも解することができ、回答者がどちらの意味にも解したのかは定かではない。)。しかし、上記調査は、標本を100例とするものであって、直ちにこれを根拠として、一般の取引者・需要者の認識を認定することが許されるか疑問があるものであることを別としても、同号証によれば、上記調査では、「昆布しょうゆ」の文字から想起する商品として、「昆布のだしが入ったしょうゆ」、「昆布のうまみが入ったしょうゆ」、「昆布のエキスが入ったしょうゆ」をあげた者は、複数回答が許された場合には、それぞれ73%、86%、67%であり、第1位をあげる場合には、それぞれ26%、38%、8%であることが認められる。そして、「昆布のだしが入ったしょうゆ」は、「昆布のうまみが入ったしょうゆ」とも「昆布のエキスが入ったしょうゆ」ともいうことができる(ちなみに、甲第1号証によれば、本願商標の拒絶査定は、「本願商標は『昆布のエキス入りしょうゆ』を認識する『昆布しょうゆ』の文字を書してなるので・・・」としている。)から、結局、上記調査の回答者のうちの多数の者も、「昆布しょうゆ」の文字から「昆布のだしが入ったしょうゆ」を想起していると認められるところである。 ウ 原告は、昆布だしと醤油を合わせ用いた商品を開発することは、決して容易なことではないと主張する。 しかし、調理の場においては、一般に昆布だしと醤油を合わせ用いることが行われていることは、前述のとおりである。そして、昆布だしと醤油を合わせ用いた商品を開発することが容易なことではないという事情が、仮にあるとしても、取引者・需要者がそのような製造者側の事情を認識していることを認めるに足りる証拠はない。そうである以上、本願商標に接した取引者・需要者が、そのような製造者側の事情によって、本願商標から「昆布のだし成分を含有するしょうゆ」を認識することを妨げられるものとは認められない。 のみならず、乙第1ないし第8、第10、第11、第13、第14号証によれば、平成11年10月1日には、キッコーマン株式会社、羅臼漁業協同組合直営店海鮮工房、津軽味噌醤油株式会社、網走海鮮市場、ハコショウ食品工業株式会社、浜中町、オホーツク市場、有限会社まるわ、雄武漁業協同組合、生活協同組合、八雲町が、昆布だし、昆布エキスないし昆布のうまみ成分と醤油を合わせ用いた商品を販売していることが認められる。昆布だしと醤油を合わせ用いた商品を開発することが容易なことではないというような事情が、仮にあるとしても、そのことによって、本願商標が、商標法3条1項3号に該当しなくなるものではないことは、このことによっても裏付けられるところである。 エ 原告は、「品質」なる概念は、商品の性状やグレードを指す概念であり、「昆布」は海草の名称であって、醤油の性状やグレードを指す文言ではないと主張する。 しかし、「品質」とは、良・不良と結び付けて用いられることが多いものの、本来、「品物の性質」というより広い意味で用いられる語であり、商標法3条1項3号にいう「品質」もこの意味で用いられていることは、同号の設けられた目的に照らして明らかというべきである。そして、昆布だしが入っていることは醤油という品物の性質であることは明らかであり、また、「昆布しょうゆ」の文字は「昆布のだしが入ったしょうゆ」を認識させる以上、単に、「昆布しょうゆ」の文字をごくありふれた書体と態様で書いただけの商標である本願商標は、商標法3条1項3号にいう「商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」である。原告は、「昆布のだしが入ったしょうゆ」の「品質を普通に用いられる方法で表示する」には、「昆布のだしが入ったしょうゆ」などと表示した場合に限られ、簡略な記述で表記することは普通の方法ではないと主張するものと解されるが、「商品の品質を普通に用いられる方法で表示する」ものか否かは、一般の取引者・需要者を基準として判断されるべきことであって、原告主張のように限定しなければならない理由はない。 また、原告は、「しょうゆ」の前に原料名を表記するのは、大豆や小麦の代わりとして、これとは別の材料を用いている場合であるというのが、「普通に用いられる方法」であると主張する。しかし、「昆布しょうゆ」の文字が「昆布のだしが入ったしょうゆ」を認識させる以上、単に、「昆布しょうゆ」の文字をごくありふれた書体と態様で書いただけの商標である本願商標は、商標法3条1項3号にいう「商品の原材料を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」ともいうべきであるから、原告の主張は、採用することができない。ちなみに、 「ぽん酢しょうゆ」も「砂糖しょうゆ」も「からしじょうゆ」も、大豆や小麦の代わりにぽん酢、砂糖、からしを用いたものではないから、「しょうゆ」の前に原料名を表記するのは、大豆や小麦の代わりとして、これとは別の材料を用いている場合に限られないことは明らかであって、原告の主張は、前提を欠くものでもあるというべきである。 (2) 商標法3条1項3号該当性の判断の基準時について ア 原告は、商標法3条1項3号該当性を判断するに当たって、出願日を基準とすべきであると主張する。しかし、拒絶査定不服の審判においては、同号該当性は、審決時を基準として判断されるべきである。 すなわち、同号は、商標の登録に関する積極的要件ないし一般的登録要件に関する規定であって、その要件がないものについては、商標登録を拒絶すべき旨を定めたものであるから、このような要件の存否の判断は、行政処分一般の本来的性格にかんがみ、一般の行政処分の場合と同じく、特別の規定のない限り、行政処分時、すなわち、拒絶査定不服の審判においては、審決時を基準として判断されるべきであるからである。同法4条3項は、同法4条1項の登録阻却要件について、例外規定を定めたものであって、同法3条に適用されるものではない。また、 同条1項3号についてこのような例外規定のないことは、同号該当性の判断に当たって、出願時を基準とすべきではないことの裏付けということができる。 この点に関して、原告は、出願の時点で判断すれば当然に生じたであろう登録期待性が、その後の他人の行為によって奪われるのは社会的公平を損なうことになると主張する。しかし、同号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされているのは、このような商標は、商品の産地、販売地その他の特性を表示記述する商標であって、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合、自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものであることによるものである。 そうである以上、審決時において、そのような公益上適当ではなく、また、商標としての機能を果たし得ない商標について、登録を認める行政処分をしなければならないものと解することはできない。仮に、特許庁が、審決を不当に遅らせたために出願人が不当に不利益を被った場合には、出願人は別の方法でその救済を受けるべきものであって、そのような場合があるとしても、そのことゆえに、同号該当性の判断基準時が変更されるべき筋合いはない。 イ のみならず、本願商標は、出願時においても、同号に該当することが明らかである。 すなわち、原告は、「昆布のだし成分を含有するしょうゆ」を流通過程におく場合に、「昆布しょうゆ」という表記を用いなければならないという必然性はなく、例えば「昆布だししょうゆ」等、他の表記を用いる余地が十分にあることを根拠として、本願商標は、商品を流通過程又は取引過程に置く場合に必要な表示ではなく、商標法3条1項3号にいう「商品の品質、原材料を普通に用いられる方法で表示する標章」ではないと主張するようである。しかし、特定の商品について、商標法3条1項3号にいう「商品の品質、原材料を普通に用いられる方法で表示する標章」が一種類に限定されると解すべき理由はないから、他の表記を用いる余地があるとしても、そのことによって、本願商標が、商標法3条1項3号にいう「商品の品質、原材料を普通に用いられる方法で表示する標章」に該当しなくなるものではない。すなわち、「昆布のだし成分を含有するしょうゆ」についていえば、「昆布しょうゆ」であれ、「昆布だししょうゆ」であれ、それを流通過程又は取引過程に置く場合には、何人もその使用を欲するものであるから、本願商標の出願時においても、一私人に独占を認めるのは妥当ではなかったのであって、原告のみが「昆布しょうゆ」の商標を独占し、他の者には、それ以外の表示を強制するなどという不利益を甘受させなければならない理由は、どこにもなかったのである。 また、日本語の用法が、本願商標の出願時と審決時で大きく変化したなどという事実は認められないから、本願商標に接する取引者・需要者が、「昆布のだし成分を含有するしょうゆ」を認識するということは、本願商標の出願時にも同様であったことは容易に推認できる。そうである以上、本願商標は、出願時においても、自他商品の識別力がなかったものと認められるのである。 2 取消事由2(商標法3条2項該当性に関する認定判断の誤り)について 乙第1ないし第8、第10、第11、第13号証によれば、平成11年10月1日には、キッコーマン株式会社が「丸大豆昆布しょうゆ」、羅臼漁業協同組合直営店海鮮工房が「昆布しょうゆ」、津軽味噌醤油株式会社が「昆布しょうゆご愛用キャンペーン実施中」、網走海鮮市場が「昆布しょうゆ」、ハコショウ食品工業株式会社が「昆布しょうゆ・・・霧多布産の昆布使用 昆布エキスが入ったコクのある味」、浜中町が「きりたっぷ昆布しょうゆ・・・おいしいばかりか健康にも役立つ昆布しょうゆ」、「オホーツク市場」が「たまり昆布しょうゆ」、有限会社まるわが「昆布しょうゆを発売しました。」、雄武漁業協同組合が「昆布しょうゆ・・・雄武産利尻昆布のうまみを大切に生かした、昆布しょうゆです。」、生協が「丸大豆昆布しょうゆ」、八雲町が「一番だし昆布しょうゆ・・・塩分を12%におさえた芳醇な味わいの昆布正油です。」と、特別な特徴のない書体で普通に表示して、それぞれ自分の販売している醤油を、インターネットのホームページに掲載して宣伝していることが認められる。 以上の事実を前提にした場合、原告提出の証拠によっても、需要者が、本願商標について、原告の業務に係る商品であることを認識できるものと認めることはできないし、他にこれを認めるに足りる証拠はない。 原告は、上記乙第1ないし第8、第10、第11、第13号証について、本願商標とは構成が異なると主張する。 しかし、本願商標は、「昆布しょうゆ」の文字をごくありふれた書体と態様で書いただけのものであり、「こんぶしょうゆ」の称呼を生ずるものであって、需要者が、これと上記インターネットのホームページに掲載されている「昆布しょうゆ」とを区別しているものとは認められないところである。原告の主張は、採用することができない。 3 以上のとおりであるから、 原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、 その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。 |
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よって、本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟
法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山下和明 |
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裁判官 | 山田知司 |
裁判官 | 宍戸充 |