関連審決 | 無効2003-35302 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成17行ケ10337審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成20行ケ10323審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成17行ケ10336審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成19行ケ10113審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成17行ケ10323審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
関連ワード | 先願主義 / 指定商品 / 指定役務 / 周知性 / 混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) / 公序良俗(4条1項7号) / 4条1項10号 / 4条1項11号 / 4条1項15号 / 4条1項19号 / 不正目的(不正の目的) / 不正競争の目的 / 除斥期間 / 国内 / 補正 / 差止 / 連合商標 / 分割移転 / 存続期間 / 無効審判 / 更新登録 / 登録異議申立 / 外国 / 商号 / |
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事件 |
平成
17年
(行ケ)
10324号
審決取消請求事件
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原告 ジェロビタールコスメティックス エス エー 訴訟代理人弁護士 松尾和子,田中伸一郎,高石秀樹,弁理士 東谷幸浩 被告 株式会社ジーエイチスリールーマニア 訴訟代理人弁理士 菊池新一,菊池徹 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2005/06/30 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
「特許庁が無効2003-35302号事件について平成16年4月26日にした審決を取り消す。」との判決。 |
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事案の概要
本件は,商標登録に対する無効審判請求を不成立とした審決の取消しを求める事件であり,原告は無効審判の請求人,被告は商標権者である。 1 特許庁における手続の経緯 (1) 被告は,別紙商標目録1(2)のとおり,「ジェロビタール」の片仮名文字と「GEROVITAL」の欧文字とを上下二段に横書きしてなり,指定商品を商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前のもの)別表第4類「せっけん類(薬剤に属するものを除く)歯みがき,化粧品(薬剤に属するものを除く)香料類」とする商標登録第1950727号(昭和56年10月8日出願,昭和62年4月30日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。 (2) 原告は,平成15年7月22日,本件商標登録について無効審判の請求をしたところ(無効2003-35302号事件として係属),特許庁は,平成16年4月26日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年5月11日にその謄本を原告に送達した。 (3) 本件当事者間においては,関連事件として,本件の原告が,本件の被告に対し,被告の有する別紙商標目録1(1),(3)及び(4)記載の各商標登録について無効審判を請求したところ,本件と同様に請求不成立の審決を受けたため,その審決の取消しを求めた訴訟(平成17年(行ケ)第10324号,第10336号及び第10337号事件として当庁に係属)があり,これらの事件も同一裁判体によって同時に進行され,本件と同一期日に弁論を終結し,同一期日に判決の言渡しをするものである。 2 審決の理由の要旨 審決の理由の要旨は,以下のとおりであり,要するに,本件商標の登録は,商標法46条1項1号の引用する同法4条1項10号,7号,19号,15号違反に該当しないから,無効とすることはできない,というものである。 (1) 商標法4条1項10号について 商標法47条は,同法4条1項10号に違反してされた商標登録であっても,商標権の設定の登録の日から5年を経過した後は,不正競争の目的で商標登録を受けた場合を除き,商標登録の無効審判請求をすることができないと規定するところ,本件無効審判の請求は,商標登録の日である昭和62年4月30日から5年以上経過していることから,本件商標登録が不正競争の目的で受けたものかどうかについて検討する。 本件商標と同名の薬品・化粧品は,ルーマニアのアナ・アスラン博士により開発された老化予防・治療(いわゆる不老長寿)の効果があるとされる成分を含むものであり,社会主義体制下にあったルーマニアは,これを利用した治療を同国を訪問する外国人に行って外貨を得ていた事実(審判甲41(本訴甲A41))が認められる。 また,本件商標権者(被請求人)と社会主義体制下にあったルーマニアの国家機関というべきルーマニア国立輸出入公団(CHIMICA)との間において,1985,1986年(昭和60,61年)ころ,本件商標と同名の化粧品(ヘアローション,フェイスクリーム)を本件商標権者がルーマニアから輸入する契約(審判乙11(本訴甲4,乙11),12(本訴甲5,乙12))があったことが認められるところ,この契約もルーマニアの外貨獲得のための一環と考えられる。そして,この契約に関連した商標権の取得などで本件商標権者がルーマニアに不利益となる行動をとれば,ルーマニア国立輸出入公団は,この契約を解除して本件商標権者に代わる者を選定できることが容易な立場にあったとみられるから,この契約に関連して,本件商標権者がルーマニア国立輸出入公団ひいてはルーマニアに不利益となる商標権の取得をすることは考え難い。 そうすると,本件商標権者が,本件商標を我が国で商標登録した意図は,本件商標が登録出願,商標登録された当時,社会主義体制下にあったルーマニアから,本件商標と同名の化粧品を我が国に輸入して販売開始するにあたり,それが他人の我が国での商標登録により妨げらないようにするためという目的が主たるものと認められ,他に,本件商標権者が,不正競争の目的で本件商標の商標登録を受けたもの,又は,不正の目的(不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的)をもって本件商標の使用をするものと認めるに足りる証拠はない。 したがって,商標法4条1項10号違反を理由とする請求人の本件商標登録の無効の主張は,採用できない。 (2) 商標法4条1項7号について 上記のとおり,本件商標権者が,不正競争の目的で本件商標の商標登録を受けたもの,又は,不正の目的(不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的)をもって本件商標の使用をするものと認めるに足りる証拠はないものであり,また,本件商標の商標登録後においても公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるとするまでの本件商標に関連する事実は認められない。 したがって,商標法4条1項7号違反を理由とする請求人の本件商標登録の無効の主張は,採用できない。 (3) 商標法4条1項19号について 上記(1)で認定のとおり,本件商標は,不正の目的(不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的)をもって使用するものと認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。 したがって,商標法4条1項19号違反を理由とする請求人の本件商標登録の無効の主張は,採用できない。 (4) 商標法4条1項15号について 商標法47条は,同法4条1項15号に違反してされた商標登録であっても,商標権の設定の登録の日から5年を経過した後は,商標登録の無効審判請求をすることができないと規定されているところ,不正の目的で商標登録を受けた場合は,括弧書きをもって除外されている。 しかしながら,その括弧書きの改正がされた平成8年法律第68号の附則8条2項によれば,「この法律の施行の際(平成9年4月1日)現に存する商標権についての新商標法4条1項15号に該当することを理由とする商標登録の無効の審判の請求をすることができる期間については,なお従前の例による。」と規定されている。 してみれば,本件商標は,前記のとおり,昭和56年10月8日に登録出願され,同62年4月30日に設定登録されたものであるから,従前どおり,除斥期間(5年)の適用があるものといわなければならない。 したがって,同号に該当する旨の主張については,審理することができない。 (5) 以上のとおりであるから,本件商標の登録は,商標法46条1項の規定により無効とすることはできない。また,商標法4条1項15号該当を理由とする部分は,不適法な請求であって,補正ができないものであるから却下すべきものであり,請求人の主張は採用できない。 |
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当事者の主張の要点
1 原告主張の審決取消事由 (1) 取消事由1(商標法4条1項10号についての判断の誤り) 被告は,不正競争の目的で本件商標の商標登録を受けたものであるから,審決が,「本件商標権者が,不正競争の目的で本件商標の商標登録を受けたもの,又は,不正の目的(不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的)をもって本件商標の使用をするものと認めるに足りる証拠はない。」としたことは,誤りである。 ア 被告は,昭和54年3月26日,別紙商標目録1(1)記載の商標について指定商品を商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前のもの)別表第4類「化粧品,その他本類に属する商品」とする商標登録出願をして,昭和59年3月22日,その設定登録(商標登録第1669925号,以下「被告先行登録商標」という。)を受けたが,その商標登録出願について,「GEROVITAL H3」の医薬品及び化粧品を管理しているルーマニアの医薬品,化粧品,顔料及び塗料中央局(Centrala Industriala Medicamente, Cosmetice Coloranti Si Lacuri,以下「CIMCCL」という。)がした商標登録異議の申立てに対し,CHIMICAに連絡することなく,「Gerovital H3」からなる商標の周知性を否定してCIMCCLの申立てを争うとともに,CHIMICAが被告の商標登録出願に同意していないにもかかわらず,これに同意していたと主張して,商標登録出願とは関わりのない「秘密保管のための合意書」(甲A46に添付のもの)を証拠として提出した。被告は,このように,CIMCCLの意思に反し,かつ,CHIMICAの同意がないのにこれを得たと称して偽りの合意書を提出して,被告先行登録商標の商標登録を受けたものであるが,本件商標は,被告先行登録商標の要部である「Gerovital」とその片仮名文字である「ジェロビタール」を結合したものであって,被告は,被告先行登録商標の連合商標としてその商標登録出願をしたのであるから,被告の行為は,自己だけ不正の利益を得る目的又はルーマニアに損害を加える目的に出たものにほかならない。 イ CHIMICAは,輸出入にしか関わることができなかったから,CIMCCLが被告先行登録商標の商標登録出願についてした商標登録異議の申立てに関係なく,スポット契約を履行したのである。したがって,審決が説示するように,CHIMICAが「この契約に関連した商標権の取得などで本件商標権者がルーマニアに不利益となる行動をとれば,・・・この契約を解除して本件商標権者に代わる者を選定できることが容易な立場にあった」というわけではなく,また,仮にCHIMICAが「この契約を解除して本件商標権者に代わる者を選定できることが容易な立場にあった」としても,被告が,輸入契約を解除されないために,あるいは,輸入契約の条件を自己に有利にするために,日本において輸入元の商標の商標登録を受け,これにより,自己の地位を確保することができたのであるから,被告が本件商標の商標登録を受けることがルーマニアに不利益とならないとはいえない。 ウ 審決が認定するように,被告が本件商標の商標登録を受けたのが,「他人の我が国での商標登録により妨げらないようにするためという目的が主たるもの」というのであれば,ルーマニアが商標登録を受ければよいのであり,被告はその旨の助言をすることができたのであるから,そのような助言をしていない以上,被告が自己の利益のみを考えていたことは明白である。 (2) 取消事由2(商標法4条1項7号についての判断の誤り) 本件商標は,公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるから,審決が,「本件商標権者が,不正競争の目的で本件商標の商標登録を受けたもの,又は,不正の目的(不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的)をもって本件商標の使用をするものと認めるに足りる証拠はないものであり,また,本件商標の商標登録後においても公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるとするまでの本件商標に関連する事実は認められない。」としたことは,誤りである。 ア 被告は,上記(1)で述べたように,CIMCCLの意思に反し,かつ,CHIMICAの同意がないのにこれを得たと称して偽りの合意書を提出して,被告先行登録商標の商標登録を受けた上,その連合商標として本件商標の商標登録出願をして商標登録を受け,これにより,ルーマニアとの取引を不当に独り占めし,被告以外の第三者に対して販売されないようにしたのであり,現に,本件商標権に基づき,ルーマニアから「GEROVITAL H3」を付した化粧品(以下「ジェロビタール化粧品」という。)を輸入し,あるいはこれを使用する行為を,限度を超えてまで執拗に阻止しているから,被告が不当な目的で本件商標の使用をしていることは明らかである。 イ 「GEROVITAL H3」は,老化予防,治療薬及びその効果のある化粧品の商標として世界的に著名なものであり,日本においても,本件商標の商標登録出願当時既に需要者に広く認識されていた。 被告は,被告先行登録商標の商標登録出願をし,CIMCCLがした商標登録異議の申立てに対抗までして,商標登録を受けた上,本件商標の商標登録を受けたが,さらに,@「ジエロビタール H3」の片仮名文字と「GEROVITAL H 3」の欧文字とを上下二段に横書きしてなる,指定商品を商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前のもの)別表第29類の「茶,コーヒー,ココア,清涼飲料,果実飲料,氷」とする第1713041号,指定商品を同別表第32類の「食肉,卵,食用水産物,野菜,果実,加工食料品」とする第1950211号,指定商品を同別表第28類の「酒類」とする第2089004号及び指定商品を商標法施行令別表第39類の「鉄道等による輸送,車両による輸送・・・」とする第4639378号の商標登録を,A別紙商標目録1(3)のとおり,「アナ アスラン」の片仮名文字と「Ana Aslan」の欧文字とを上下二段に横書きしてなる指定商品を商標法施行令別表第3類の「家庭用帯電防止剤・・・化粧品,香料類・・・」とする第4658466号の商標登録をそれぞれ受けているところ,これらの一連の行為をみると,被告は,「GEROVITAL H3」の著名性や周知性を熟知していたからこそ,ルーマニアとの取引を妨害されないよう無断で商標登録を取得したものであり,被告が専ら自己の利益を追求しようとしているのは明らかであって,被告の行為は,国際秩序を害し,国際的商業道徳にもとるから,本件商標は公序良俗を害するものである。 (3) 取消事由3(商標法4条1項19号についての判断の誤り) 上記(1),(2)に述べたところによれば,被告が不正の目的をもって本件商標の使用をするものであることが明らかであるから,審決が,「本件商標は,不正の目的(不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的)をもって使用するものと認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。」としたことは,誤りである。 2 被告の反論 (1) 取消事由1(商標法4条1項10号についての判断の誤り)に対して ア 被告は,CIMCCLが被告先行登録商標の商標登録出願についてした商標登録異議の申立てに対し,CHIMICAに口頭で連絡したところ,CHIMICAから,被告側で処理してほしいとの指示を受けたので,CHIMICAとの間の契約を履行するためには,商標登録を受ける必要があった関係上,周知性を否定して争ったにすぎないものであり,自己のために不正の利益を得る目的又は他人に損害を加える目的があったというわけではない。しかも,当時,CHIMICAの許可がなければ化粧品を輸入することができず,ルーマニア側が被告による輸入の可否を決定することができたから,CIMCCLとしても,被告に問題があると判断すれば,CHIMICAに対し,被告との契約を解除するよう指示すれば足りたのであり,そうであれば,被告がルーマニアに不利益となるような商標登録を受けることは,自己の立場を危うくすることを意味するから,被告がそのような行動をとることはあり得ないところである。 イ 被告は,CHIMICAとの話合いの上で,被告先行登録商標の商標登録出願をしたのであり,また,CIMCCLが被告先行登録商標の商標登録出願についてした商標登録異議の申立ての理由の一つが商品の品質の誤認であったので,成分分析書とともに「秘密保管のための合意書」を提出したにすぎず,ルーマニアに損害を加える目的又は自己だけ不正の利益を得る目的があったわけではない。 ウ 被告の商標登録出願は,CHIMICAが同意していた上,各国の商標制度はそれぞれ独立しているから,日本における商標権の取得について,積極的にCIMCCLの同意を得なければならないわけではない。そして,CIMCCLとしては,被告に問題があると判断すれば,CHIMICAに対し,被告との契約を解除するよう指示しているはずであるが,そのような事実はないから,被告の商標登録出願については,CIMCCLも事実上同意していたものである。 (2) 取消事由2(商標法4条1項7号についての判断の誤り)に対して ア 「ファーマク エス エー(Farmec SA)」(以下「ファーマク社」という。)は,ルーマニアにおいて,別紙商標目録2(1)記載の商標の商標登録を受けているところ,被告は,ファーマク社からジェロビタール化粧品を輸入しこれを販売しているのであって,外国の権利者の国内参入を阻止しようとする意思はなく,また,商標権の侵害行為を阻止しようとするのは権利者として当然のことであるから,被告が不当な目的で本件商標の使用をしているものではない。 イ 「GEROVITAL H3」が,老化予防,治療薬及びその効果のある化粧品の商標として世界的に著名なものであるとしても,日本においては,本件商標の登録出願当時未だ需要者の間に広く知られていなかった。また,被告は,被告先行登録商標及び本件商標のほかに,原告が上記1(2)イで主張する商標登録を受けているが,これにおいても,不正な目的があったわけではなく,また,被告の行為が,国際秩序を害し,国際的商業道徳にもとるものでもないから,本件商標が公序良俗を害するとはいえない。 (3) 取消事由3(商標法4条1項19号についての判断の誤り)に対して 上記(1),(2)に述べたところによれば,被告が不正の目的をもって本件商標の使用をしているということはできない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(商標法4条1項10号についての判断の誤り)について (1) 後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ア 「GEROVITAL H3」とその商標 (ア) アナ・アスラン博士(1897年(明治30年)1月1日生,1988年(昭和63年)5月19日死亡)は,ルーマニアの国立アカデミー会員,医学博士・理学博士であったところ,1946年(昭和21年)から1956年(昭和31年)にかけて,老化予防,治療に効果のある医薬品を開発し,これにラテン語で「老いる」を意味する「gero」,「生命(力)」を意味する「vital」とビタミン類似の種々の効果を暗示する「H3」を合成した「GEROVITAL H 3」と名付けた。 また,アナ・アスラン博士は,「GEROVITAL H3」を使用した基礎化粧品を開発し,1960年代後半ころから,マクロース社(MACUL ROSU)が製造を開始した。 なお,マクロース社は,1972年(昭和47年)に名称を「ミラージュ エス エー(Miraj SA)」(以下「ミラージュ社」という。)に変更し,さらに,その後,現在の原告の名称である「ジェロビタール コスメティックス エス エー(Gerovital cosmetics SA)」に変更した。 (甲A17,41,42,52,66,127,148) (イ) ルーマニアの国家機関である食品産業省供給販売局(Directia Gnerala De Aprovisionare Si Defacere)は,1966年(昭和41年),ルーマニアにおいて,別紙商標目録2(1)記載の商標につき,商品を「GEROVITAL H3を基礎としたヘアローションその他の化粧品」とする商標登録を受けた。上記登録商標は,その後,CIMCCLに移転され,さらにイメコ エス エー ブカレスト(IMECO S. A. BUCUREST)に移転された後,1992年(平成4年)2月21日,ミラージュ社とファーマク社とに分割して移転された。この分割移転により,ミラージュ社が取得したのは,商品を「ノボカイン又はノボカインの加水分解物を含むクレンジングミルク,トニックローション,油肌用デイクリーム(Day Cream),乾燥肌用デイクリーム,ナイトクリーム,マッサージクリーム,乾燥防止アイクリーム(Eye Cream),美顔用パック,ハンドクリーム,毛管ローション,ボディミルク,硫黄及びタールシャンプー,抗蜂巣炎クリーム,ヘアーバルサム」とするものであり,ファーマク社が取得したのは,商品を「ノボカインを含む油性クリーム,ハーフ油性クリーム及びボディエマルジョン(乳液)」とするものである。また,上記商標については,1972年(昭和47年)6月13日にCIMCCLが商品を「頭髪用ローション及び化粧品」として世界知的財産所有機関に登録し,その後,イメコ社を経て,1992年(平成4年)8月17日,分割譲渡によりミラージュ社が商品を「頭髪用ローション,美容クリーム及び体用乳液」とし,ファーマク社が商品を「塩酸プロカインベースの化粧品」とする登録をしている。 なお,CIMCCLは,昭和35年5月27日,日本において,「Gerovital H3」,「Prof. Dr. Ana Aslan」からなる商標について,指定商品を「プロカイン酸その他の化学品の滋養強壮剤」等とする商標登録出願をして,昭和37年9月11日にその設定登録(商標登録第596564号)を受け,昭和47年5月22日に更新登録の出願をしたが,その後は更新登録の請求をせず,昭和57年9月11日にその存続期間が終了した。 (甲A15の1及び2,18,19,31,33,49,乙18,19の1,2,25,27ないし30) (ウ) ミラージュ社は,「Gerovital H3 Prof. Dr. Ana Aslan」商標に関し,カナダ(「Gerovital H3」と図形(商標の具体的な構成は明らかでない。)の商標につき,1994年(平成6年)10月19日に出願。),大韓民国(別紙商標目録2(2)記載の商標につき,オイリー肌用クレンジングミルクほかを指定商品として,1995年(平成7年)11月23日に登録。),アメリカ(別紙商標目録2(2)記載の商標につき,クレンジングミルク等を指定商品として,1997年(平成9年)1月14日に登録。),レバノン(別紙商標目録2(3)記載の商標につき,石鹸等を指定商品として,1993年(平成5年)5月13日に出願。),オーストラリア(別紙商標目録2(1)記載の商標につき,化粧品等を指定商品として,1982年(昭和57年)6月15日に登録。),スウェーデン(別紙商標目録2(3)記載の商標につき,国際分類3類化粧品を指定商品として,1996年(平成8年)8月16日に登録。),南アフリカ(「GEROVITAL H-3」につき,油肌用クレンジングミルク等を指定商品として,1994年(平成6年)8月30日に出願。),エクアドル(「Gerovital H3 Prof. Dr. A. Aslan」につき,国際分類3類化粧品を指定商品として,1995年(平成7年)1月20日に登録。),フィンランド(別紙商標目録2(3)記載の商標につき国際分類3類を指定商品として,1994年(平成6年)5月20日に登録。)等の国々において,商標登録を受けている。 ファーマク社は,同様に,ヨルダン(別紙商標目録2(2)記載の商標につき,化粧品を指定商品として,2000年(平成12年)7月23日に出願。),デンマーク(「Gerovital H3 Prof. Dr. Ana Aslan」につき,フェイスクリーム等を指定商品として,1996年(平成8年)9月6日に登録。),レバノン(「Gerovital H3 Prof. Dr. A. Aslan」(「Gerovital」は2本の平行線の間に記載され,文字の上には署名として「Prof. Dr. A. Aslan」と記載され,下段には「H3」と記載されている。)につき,国際分類3類化粧品を指定商品として,1999年(平成11年)6月1日に出願。),アラブ首長国連邦(「Gerovital H3 Prof. Dr. A. Aslan」につき,2001年(平成13年)8月5日に登録。)等の国々において,商標登録を受けている。 そして,ミラージュ社及びファーマク社の両社は,コロンビア(「Gerovital」との商標),ギリシャ(「Gerovital H3 Prof. Dr. Aslan」との商標)において,商標登録を受けている。 (甲A21ないし27,29,30,乙20) イ 被告について (ア) アナ・アスラン博士は,昭和52年に講演のために来日し,翌53年にも東京で開催された国際老年学会出席のために来日した。Yは,その際,報道カメラマンとして,アナ・アスラン博士に密着取材し,同博士と面識を持った。 Yは,昭和53年,ルーマニア観光省の招待を受けてルーマニアを訪れた。Yは,その際に視察したジェロビタールH3治療に興味を持ち,ジェロビタールH 3治療を目的とするパックツアーを企画し,ルーマニア観光省等と交渉して,同年12月5日,ルーマニアの0.N.Tカルパチ社(CARPATI NATIONAL TRAVEL OFIICE)との間で,ジェロビタールH3治療を目的とするパックツアーに関する契約を締結した。Yは,昭和54年2月16日に被告を設立した。被告の商号は,「Gerovital」の頭文字「G」と「H3」を片仮名で表記したものに「ルーマニア」を加えた「ジーエイチスリールーマニア」とされ,これは,ルーマニア観光省の関係者が命名したものであった。被告は,同年3月からパックツアーを開始した。 Yは,また,昭和53年にルーマニアを訪れた際に,アナ・アスラン博士から日本におけるジェロビタール化粧品の販売を打診され,CHIMICA(当時の名称は「ICE CHIMINPORTEXPORT S.R.」)と交渉した。被告は,昭和55年5月23日,CHIMICAとの間で,CHIMICAが被告に対し輸入承認及び登録のために必要なドライ・デイ・クリーム等の成分処方及び分析方法に関する書類を引き渡すこと,被告は,厳重に秘密を保ち,日本での製品の承認を取得するために必要な試験を実施する目的及び販売の目的のみに使用することなどを内容とする秘密保持契約を締結した。 (甲A41,乙1,3ないし5,33,48の1ないし4,49) (イ) 被告は,昭和54年3月26日,被告先行登録商標について商標登録出願をし,昭和57年6月22日に出願公告がされた。CIMCCLは,同年8月21日,商標登録異議の申立てをして,CIMCCLが商標登録第596564号の商標権者であることを援用した上,「本願の商標がその指定商品に使用されるときは,あたかも世界的に著名な異議申立人製造にかかる細胞活性剤「GEROVITAL H3」を含有する商品であるかのごとく商品の品質について混同を生ずるとともに,又,あたかも異議申立人の製造販売にかかる商品であるかのごとく出所についても混同を生ずるおそれがある」と主張したので,これに対し,被告は,「本願商標の登録出願時においてもなお著名であることを立証したものとは認められない。」と反論するとともに,事情として,「数年前ルーマニアの国立貿易機関であるICE CHIMIMPORTEXPORT,S.R. OF ROMANIAと化粧品(Gerovital Cosmetics)の輸入販売に関する代理店契約を結び,かつ,出願人が直接日本国内で,この化粧品についてGEROVITAL-H3の商標を用いて商標登録出願を受けるに必要なすべての参考資料の送付を受けることについて同意書を取替した事実があり(・・・),又出願人においても本件出願の事実を先方に通知し,相互了解の下に行動している」と主張して,「秘密保管のための合意書」及びジェロビタール化粧品の成分分析書(甲A46に添付のもの)を提出した。 特許庁は,昭和58年10月7日,「異議申立人が「GEROVITAL H3」の文字よりなる商標を細胞活性剤に使用し本願出願前より取引者,需要者の間に広く認識されているものとは,異議申立人提出の証拠によっては認め難く,また,その事実も見い出すことができないから,出願人が本願商標をその指定商品について使用しても商品の出所について混同を生じさせるおそれはない。また,何等商品の品質について誤認を生じさせるおそれもない。」として,登録異議申立てを理由がないものと決定した上,商標登録出願について商標登録をすべき旨の査定をしたので,被告は,昭和59年3月22日,被告先行登録商標について設定登録を受けた。 被告は,本件商標について,昭和56年10月8日に商標登録出願をして,昭和61年11月21日に商標登録をすべき旨の査定を受けたので,昭和62年4月30日にその設定登録を受けた。 (甲A4,34,46) (ウ) 被告は,昭和60年4月15日に化粧品の輸入販売業の許可を受け,さらに,平成元年7月10日に医薬部外品の輸入販売業の許可を受けて,ジェロビタール化粧品を輸入し,販売してきた。被告が輸入したジェロビタール化粧品は,当初,ミラージュ社のフェイスクリーム及びヘアーローションであり,昭和61年10月にミラージュ社のフェイスマスクを追加したが,平成4年4月にフェイスクリームをミラージュ社のものからファーマク社のものに変更し,さらに,平成9年ころにはヘアーローション及びフェイスマスクもミラージュ社のものからファーマク社のものに変更して,以後,ファーマク社のものに統一した。被告は,CHIMICAを通じてジェロビタール化粧品を輸入していたが(なお,被告は,CHIMICAから,日本における唯一の代理店と認められていた。),平成4年からはミラージュ社及びファーマク社から直接輸入するようになった。 (甲4,5,甲A93の1ないし5,乙6の1ないし6,7,8,9の1ないし5,10ないし12,17,32,33,57) (エ) 被告は,被告先行登録商標及び本件商標の商標登録を受けたほかに, a 「ジエロビタール H3」の片仮名文字と「GEROVITAL H 3」の欧文字とを上下二段に横書きしてなる商標について,@昭和54年5月25日に指定商品を商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前のもの)別表第29類の「茶,コーヒー,ココア,清涼飲料,果実飲料,氷」とする商標登録出願をして,昭和59年9月26日にその設定登録(商標登録第1713041号)を受け(なお,CIMCCLは,昭和57年2月4日,商標登録異議の申立てをし,上記(イ)と同趣旨の主張をしたが,特許庁は,昭和59年3月22日,登録異議申立てが理由がないものと決定した。),A昭和54年5月25日に指定商品を同別表第32類の「食肉,卵,食用水産物,野菜,果実,加工食料品(他の類に属するものを除く)」とする商標登録出願をして,昭和62年4月30日にその設定登録(商標登録第1950211号)を受け(なお,CIMCCLは,昭和57年10月1日,商標登録異議の申立てをし,上記(イ)と同趣旨の主張をしたが,特許庁は,昭和62年1月20日,登録異議申立てが理由がないものと決定した。),B昭和54年5月25日に指定商品を同別表第28類の「酒類」とする商標登録出願をして,昭和63年10月26日にその設定登録(商標登録第2089004号)を受け(なお,CIMCCLは,昭和57年10月1日,商標登録異議の申立てをし,上記(イ)と同趣旨の主張をしたが,特許庁は,昭和63年5月26日,登録異議申立てが理由がないものと決定した。),C平成14年2月4日に指定商品を商標法施行令別表第39類の「鉄道等による輸送,車両による輸送・・・」とする商標登録出願をして,平成15年1月24日にその設定登録(商標登録第4639378号)を受け, b 別紙商標目録1(4)のとおり,「gerovital」及び「plant」の欧文字並びに「ジェロビタール プラント」の片仮名文字とを上下三段に横書きしてなる商標について,平成9年5月2日に指定商品を商標法施行令別表第3類の「せっけん類,香料類,化粧品,歯磨き」とする商標登録出願をして,平成10年11月27日にその設定登録(商標登録第4214319号)を受け, c 「GH3」の欧文字を横書きしてなる商標について,平成12年11月21日に指定商品を同別表第29類の「食肉・・・」とする商標登録出願をして,平成14年10月25日にその設定登録(商標登録第4616366号)を受け, d 別紙商標目録1(3)のとおり,「アナ アスラン」の片仮名文字と「Ana Aslan」の欧文字とを上下二段に横書きしてなる商標について,平成14年4月12日に指定商品を同別表第3類の「家庭用帯電防止剤・・・化粧品,香料類・・・」とする商標登録出願をして,平成15年4月4日にその設定登録(商標登録第4658466号)を受けている。 (甲A1ないし5,7ないし10,128ないし130) ウ 原告ほかについて (ア) 原告は,平成14年10月3日,ジャパンジーオーティーメイク株式会社との間で,同月から3年間,原告がルーマニアの工場で製造した化粧品をジャパンジーオーティーメイク株式会社に供給し,同社が日本において独占的に販売すること,同社が上記化粧品について原告の「Gerovital H3 Prof. Dr. Ana Aslan」商標を使用することができること,などを内容とする独占的代理店契約を締結し,さらに,平成15年6月25日,日本ジェロヴィタール・コスメティックス株式会社との間で,上記独占的代理店契約の当事者を原告と日本ジェロヴィタール・コスメティックス株式会社に変更すること,原告が「Gerovital H3 Prof. Dr. Ana Aslan」商標について指定商品を化粧品とする商標登録を受けることができるよう,日本ジェロヴィタール・コスメティックス株式会社が支援することなどを内容とする上記独占的代理店契約の修正契約を締結した。 なお,被告は,平成15年4月16日,ジャパンジーオーティーメイク株式会社を相手方として,被告先行登録商標に係る商標権及び商標登録第1950211号の商標権に基づく「Gerovital H3」商標等の使用の差止めを求める仮処分命令を東京地方裁判所に申し立てた(同庁同年(ヨ)第22040号事件として係属)。 (甲2,甲A14の1及び2,96の1,110の1ないし7) (イ) Z(ジャパンジーオーティーメイク株式会社及び日本ジェロヴィタール・コスメティックス株式会社の監査役)は,平成14年10月28日,別紙商標目録2(2)記載の商標につき,指定商品を家庭用帯電防止剤等とする商標登録出願をした。 日本ジェロヴィタール・コスメティックス株式会社は,その後,上記出願により生じた権利をZから承継して,平成15年5月14日にその旨を届け出たところ,同年7月23日付けで,上記商標が被告先行登録商標,本件商標及び商標登録第4658466号の商標等と同一又は類似であって,その商標に係る指定商品(指定役務)と同一又は類似の商品(役務)について使用されるものであるから,商標法4条1項11号に該当するとの拒絶理由通知を受けた。 (乙31) (ウ) 日本ジェロヴィタール・コスメティックス株式会社は,平成15年2月ころから,美容室等を通じて,別紙商標目録2(2)記載の商標を付したデイクリーム,ローションなどの化粧品を販売していたところ,同年6月26日に「ジェロビタールH3」ブランドの化粧品の記者発表会を行い,本格的にその販売を開始した。 被告は,同年6月24日,日本ジェロヴィタール・コスメティックス株式会社ほかに対し,化粧品に「ジェロビタールH3」の商標を使用する行為は被告先行登録商標に係る商標権及び本件商標権を侵害するとの趣旨の通告書を送付した。そこで,日本ジェロヴィタール・コスメティックス株式会社は,同年7月11日,被告を相手方として,被告先行登録商標に係る商標権に基づく差止請求権が存在しないことの確認と損害の賠償を求める訴えを東京地方裁判所に提起した(同庁同年(ワ)第15971号事件として係属)。 被告は,その後,上記化粧品に関する記事を掲載した出版社や上記化粧品の卸業者,小売業者らに対し,被告先行登録商標に係る商標権及び本件商標権の侵害にならないよう通告する旨の通告書を送付している。 なお,原告は,平成15年7月22日,本件商標登録のほか,被告先行登録商標の商標登録,商標登録第4214319号及び商標登録第4658466号の各商標登録について無効審判の請求をした。 (甲2,A11,12,96の1及び2,97ないし100,101の3,104ないし109,111ないし123,124ないし126の各1,133ないし138) (2) 上記(1)の事実に基づき検討する。 ア Yは,昭和53年に,ルーマニア観光省の招待を受けて,ルーマニアを訪れた際に,アナ・アスラン博士から日本におけるジェロビタール化粧品の販売を打診されて,ルーマニアの国家機関であるCHIMICAと交渉し,Yの設立した被告が,その後まもなく,CHIMICAから成分処方及び分析方法の開示を受けてジェロビタール化粧品の輸入販売業等の許可を申請するとともに,昭和54年に被告先行登録商標について商標登録出願し,さらに昭和56年に本件商標について商標登録出願したものであり,被告の商号である「株式会社ジーエイチスリールーマニア」は,ルーマニア観光省の関係者が命名したものであること,CHIMICAは,ジェロビタール化粧品の成分処方及び分析方法に関する書類を被告に引き渡すなどして,被告によるジェロビタール化粧品の輸入販売の実現に協力していたこと,被告は,CIMCCLが被告先行登録商標についてした商標登録異議の申立ての審査において,CHIMICAとジェロビタール化粧品の輸入販売に関する代理店契約を締結した旨主張し,秘密保持契約に係る書面等を提出しているから,CHIMICAは,CIMCCLを通じて,被告が被告先行登録商標について商標登録出願をしていることを知っていたと考えられるところ,CHIMICAは,被告を日本における唯一の代理店と認めて,これに対しジェロビタール化粧品を輸出してきたこと,などの事情にかんがみると,被告による被告先行登録商標及び本件商標の商標登録出願は,CHIMICAひいてはルーマニアの意向に沿うものであったと認められる。なお,甲A45によれば,CHIMICAを承継したロームファルマ キム エス エー(Romfarmachim SA,以下「ロームファルマ」という。)は,2003年(平成15年)10月30日,原告の照会に対し,Yが,ロームファルマ側から,日本において個人名義又はYの会社名義で「Gerovital H3 Prof. Dr. Ana Aslan」商標につき登録を受けることの合意や権限を受けていないこと,Yが,ロームファルマ側から,日本市場において「Gerovital H3 Prof. Dr. Ana Aslan」商標の下で商品を排他的に販売する合意を受けていないこと,などを回答しているが,上記の照会と回答は,簡単な質問とこれに対する結論のみを示す回答などから構成される書面で,これを裏付ける従来の経緯についての説明や資料の添付のないものであり,被告は,CHIMICAを通じてジェロビタール化粧品を輸入するに当たり,CHIMICAから,日本における唯一の代理店と認められていたのに,ロームファルマの上記回答内容はこれと齟齬するものであるなど,上記認定の従来の経緯に照らすならば,甲A45に上記認定を覆すに足りる証拠価値を付与することは到底できないといわざるを得ない。 また,「GEROVITAL H3」の医薬品及び化粧品を管理しているルーマニアのCIMCCLが被告の被告先行登録商標の商標登録出願に対し商標登録異議の申立てをしているが,CIMCCLは,自らが商標登録第596564号の商標権者であることを援用していながら,更新登録の出願をせず,昭和57年8月21日にした商標登録異議の申立ての直後である同年9月11日にその存続期間を終了させてしまっていること,被告がCHIMICAからジェロビタール化粧品を輸入することにつき,CIMCCLが直接又はCHIMICAを通じて異議を述べたり,これを阻止しようとしたりした形跡がないことに照らすと,CIMCCLが組織体としていかなる意思決定をし,かつこれを維持していたかについては,少なからず疑問があり,CIMCCLが被告先行登録商標について商標登録異議の申立てをしたことのみをもって,被告による被告先行登録商標及び本件商標の商標登録出願がルーマニアの意向に沿うとの上記認定を覆すには足りないといわなければならない。 イ そして,被告が,被告先行登録商標及び本件商標について商標登録を受けたことを奇貨として,CHIMICAに対し,代理店契約の締結を求めたり,輸入契約の内容を被告に有利に変更するよう求めたりした形跡はなく,また,被告は,ルーマニアにおいて別紙商標目録2(1)記載の商標につき商標登録を受けているミラージュ社及びファーマク社のジェロビタール化粧品を輸入し,これを販売してきたのである。 ウ 以上によれば,被告は,第三者が不正な目的で本件商標あるいはこれと類似する商標について商標登録を受けてしまうことにより,ルーマニアからのジェロビタール化粧品の輸入や日本における販売に支障を来すことがないよう,ルーマニア側の意向を受けて,本件商標につき商標登録出願をし,その登録を受けたものと認めるのが相当である。そうすると,被告が不正競争の目的で本件商標について商標登録を受けたと認めることはできない。 (3) 原告の主張について ア 原告は,被告が,CIMCCLが被告先行登録商標についてした商標登録異議の申立ての審査において,CHIMICAに連絡せず,かつ,CHIMICAの同意がないのにこれを得たと称して偽りの合意書を提出して,商標登録を受けたのであり,被告の行為は,自己だけ不正の利益を得る目的又はルーマニアに損害を加える目的に出たものにほかならないと主張する。 しかし,被告は,CHIMICAと交渉した結果,被告先行登録商標について商標登録出願をしているのであるから,CHIMICAと同じルーマニアの国家機関であるCIMCCLが商標登録異議の申立てをしたときに,このことをCHIMICAに連絡しないということはいささか考え難い。確かに,「秘密保管のための合意書」(甲A46に添付のもの)は,CHIMICAが被告の商標登録出願に同意したことを証するものではないが,上記(2)アのとおり,被告による被告先行登録商標の商標登録出願は,CHIMICAひいてはルーマニアの意向に沿うものであったと認められるのであり,上記書面があることは,このことを推認させる事実でもあるから,被告が上記書面を提出したとしても,格別に非難されるべきものではない。したがって,商標登録異議の申立ての審査における被告の行為をもって,自己だけ不正の利益を得る目的又はルーマニアに損害を加える目的に出たと認めることはできない。 イ また,原告は,CHIMICAが「この契約に関連した商標権の取得などで本件商標権者がルーマニアに不利益となる行動をとれば,・・・この契約を解除して本件商標権者に代わる者を選定できることが容易な立場にあった」というわけではなく,被告が,輸入契約を解除されないために,あるいは,輸入契約の条件を自己に有利にするために,日本において輸入元の商標の商標登録を受け,これにより,自己の地位を確保することができたから,被告が本件商標の商標登録を受けることがルーマニアに不利益とならないとはいえないと主張する。 しかし,ジェロビタール化粧品の成分処方及び分析方法の開示を受けるなど,CHIMICAの協力がなければ,ジェロビタール化粧品の輸入販売をすることができなかったのであって,被告が被告先行登録商標や本件商標につき商標登録を受けることがルーマニアに不利益となるのであれば,CHIMICAとしては,被告に対するジェロビタール化粧品の輸出販売をしなければよいだけのことであり,そうであれば,CHIMICAは,「本件商標権者に代わる者を選定できることが容易な立場にあった」ということができるものである。また,確かに,本件商標につき商標登録を受けた場合において,このことを奇貨として,CHIMICAに対し,代理店契約の締結を求めたり,輸入契約の内容を自己に有利に変更するよう求めたりする余地がないとはいえないが,現実に被告がそのような行為をしたことは証拠上うかがえない。 ウ さらに,原告は,被告が本件商標について商標登録を受けたのが,「他人の我が国での商標登録により妨げらないようにするためという目的が主たるもの」というのであれば,ルーマニアが商標登録を受ければよいのであり,被告はその旨の助言をすることができたのであるから,そのような助言をしていない以上,被告が自己の利益のみを考えていたことは明白であると主張する。 しかし,被告は,CHIMICAと交渉した結果,被告先行登録商標及び本件商標について商標登録出願したのであって,このことは,CHIMICAひいてはルーマニアの意向に沿うものであったと認められるから,仮にルーマニアが商標登録を受ければよい旨の助言を被告がしなかったとしても,このことから,被告が自己の利益のみを考えていたということはできない。 (4) したがって,被告が不正競争の目的で本件商標につき商標登録を受けたとは認められないから,商標法4条1項10号についての審決の判断に誤りはない。 2 取消事由2(商標法4条1項7号についての判断の誤り)について (1) 商標法4条1項7号は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は商標登録を受けることができない旨規定する。ところで,同号は商標自体の性質に着目した規定となっていること,商標法の目的に反すると考えられる商標の登録については同法4条1項各号に個別に不登録事由が定められていること,商標法においては,商標選択の自由を前提として最先の出願人に登録を認める先願主義の原則が採用されていることを考慮するならば,商標自体に公序良俗違反のない商標が商標法4条1項7号に該当するのは,その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるものというべきである。 これを本件についてみるのに,本件商標それ自体には公序良俗違反がないところ,上記1(2)のとおり,被告は,第三者が不正な目的で本件商標あるいはこれと類似する商標について商標登録を受けてしまうことにより,ルーマニアからのジェロビタール化粧品の輸入や日本における販売に支障を来すことがないよう,ルーマニア側の意向を受けて,本件商標につき商標登録出願をし,その登録を受けた,というのであるから,本件商標の出願の経緯が著しく社会的相当性を欠き,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものであるとは認められない。そして,他に本件商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあると認めるに足りる証拠はない。 (2) 原告の主張について ア 原告は,被告が,本件商標の商標登録を受けることにより,ルーマニアとの取引を不当に独り占めし,被告以外の第三者に対して販売されないようにしたのであって,現に,本件商標権に基づき,ルーマニアからジェロビタール化粧品を輸入し,あるいはこれを使用する行為を限度を超えてまで執拗に阻止しているから,被告が不当な目的で本件商標を使用していることは明らかであると主張する。 しかし,上記1(2)のとおり,被告は,第三者が不正な目的で本件商標あるいはこれと類似する商標について商標登録を受けてしまうことにより,ルーマニアからのジェロビタール化粧品の輸入や日本における販売に支障を来すことがないよう,ルーマニア側の意向を受けて,被告先行登録商標及び本件商標につき商標登録出願をし,その登録を受けたものである。そして,被告は,被告先行登録商標に係る商標権や本件商標権に基づき,ジャパンジーオーティーメイク株式会社を相手方として,「Gerovital H3」商標等の使用の差止めを求める仮処分命令を東京地方裁判所に申し立て,さらに,ジェロビタール化粧品に関する記事を掲載した出版社や上記化粧品の卸業者,小売業者らに対し通告書を送付するなどしているが,被告は本件商標権に基づく権利行使をしていないし,上記判示に照らすならば,被告によるこれらの行為が社会通念上著しく妥当性を欠き,権利の行使として許される範囲を逸脱しているとは認められない。そうであれば,被告が不当な目的で本件商標の使用をしていると認めることはできない。 イ また,原告は,「GEROVITAL H3」は,老化予防,治療薬及びその効果のある化粧品の商標として世界的に著名なもので,日本においても,本件商標の登録出願当時既に需要者に広く認識され,被告は,その著名性や周知性を熟知して,ルーマニアとの取引を妨害されないよう商標登録を受けたものであって,専ら自己の利益を追求しようとしたのであり,被告の行為は,国際秩序を害し,国際的商業道徳にもとるから,本件商標は公序良俗を害すると主張する。 (ア) 後掲証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。 a アナ・アスラン博士が開発した「GEROVITAL H3」は,1957年(昭和32年)にルーマニア厚生省から認可を受け,その後,アメリカ,ドイツ,フランス等の50を超える国々で認可を受けた。また,「GEROVITAL H3」を使用した基礎化粧品は,マクロース社が製造し,国内で販売していたが,1968年(昭和43年)ころからは,オランダ,ユーゴスラビア,イギリス,スイス,イタリア及びリベリア等に輸出するようになった。 (甲A41,42,52,71ないし77,151ないし167) b 日本において,本件商標の指定商品の取引者及び需要者が接するものと認められる一般に発売されている新聞,雑誌等には,「GEROVITAL H3」に関して,次のような記事が掲載されている。 (a) 新聞 @ 昭和54年4月10日発行の「朝日新聞」(甲A59,乙43の92頁)に,「新商法「長寿ツアー」」,「費用96万円安いもの?」との見出しの下に,被告が催したルーマニアにおけるジェロビタールH3治療の参加者との対談記事が掲載されている。 A 昭和54年8月13日発行の「日本経済新聞」(甲A58,乙43の91頁)に,「不老長寿を売る」,「金持ち老人夢を求めて」との見出しの下に,被告の考え出した「ジェロビタール(老いの活力)」を使った長寿ツアーが2週間の滞在で費用が96万円であること,これまでに20人の日本人がやってきたことなどを記載した記事が掲載されている。 B 昭和54年8月15日発行の「報知新聞」(甲A60の4,乙43の95頁)に,「長寿ツアー 高齢化の先取り 秘薬を求めて・・・ ルーマニアへ」,「信じる者は救われる?車イスもいらなくなる?」,「その名ジェロビタールH3」,「効能なんとなんと,神経痛から胃かいようまで」との見出しの下に,被告が1月から3回企画した長寿ツアーに100人の志願者が集まったことなどが記載された記事が掲載されている。 C 昭和54年9月2日,15日,30日,10月14日,11月25日及び12月9日発行の「日中友好新聞」(甲A60の1ないし3,乙43の96ないし98頁)に,「長寿薬ジェロビタールと漢方 ルーマニア訪問記」との表題のコラムが6回にわたり掲載されている。 D 昭和54年10月5日発行の「夕刊フジ」(乙43の94頁)に,「ルーマニアへ若返り<cアー」との見出しの下に,アナ・アスラン博士がGH3を発明したこと,被告がサラリーマン向けの正月プランを企画していることなどを記載した記事が掲載されている。 E 昭和55年2月21日発行の「毎日新聞」(乙43の108頁)に,「ルーマニア自慢の薬≠投与」との見出しの下に,アナ・アスラン博士がGH3を発明したこと,ルーマニアに療養コースがあり,日本からのツアーに加わると約100万円かかること,日本からのツアーはいくつかの旅行者が扱っているが,医学的な問題については,被告が教えてくれることなどを記載した記事が掲載されている。 F 昭和55年3月7日発行の「読売新聞」(甲A60の4,乙43の95頁)に,「豪華施設に泊まり老化に万能秘薬」との見出しの下に,ジェロビタール治療の概要を紹介する記事が掲載されている。 G 昭和63年6月22日発行の「日本経済新聞」(甲A225,乙43の111頁)に,「美しさと若さ求めて女性版101<cアー」との見出しの下に,被告がルーマニアのブカレストへの治療ツアーを年4回企画していることなどを記載した記事が掲載されている。 (b) 週刊誌 @ 読売新聞社の昭和51年10月30日発行の「週刊読売」(甲A82)に,「ルーマニアが元祖の「不老長寿薬」に300万円投ずる政財界人の期待ぶり」,「毛主席も治療を受けていた」,「効果≠フ医学的証明は困難」,「へんに秘薬扱いしないこと」との見出しの下に,アナ・アスラン博士が老化防止の薬であるGH3を発見したこと,ジャパンライフメディカルセンターが同年12月からの実行を計画している「GH3ツアー」が300万円であることなどを記載した記事が掲載されている。 A 新潮社の昭和52年4月14日発行の「週刊新潮」(甲A81)に,「『老化防止薬GH3』の効果-ルーマニアで二十七年前に生まれて-」との見出しの下に,アナ・アスラン博士が同月1日に来日したこと,同博士が老化防止薬「ジェロビタール(GH3)を発見したこと,「日本では専門学者が「外国の文献はあっても,独自のデータはまったくない」という状況にある。」ことなどを記載した記事が掲載されている。 B 光文社の昭和52年4月28日発行の「女性自身」(甲A88)に,「これが謎の若がえり新薬「GH3」です!」,「アナアスラン博士(ルーマニア,80歳)が来日,発表。はたして本当にきくのだろうか?」との見出しの下に,アナ・アスラン博士が不老長寿の薬であるGH3を発見したこと,「マニラ滞在3週間の若返りツアー≠ネどが企画され,・・・芸能人,財界人,政治家など,参加希望者が殺到。ただし費用は300万円。」などを記載した記事が掲載されている。 C 新潮社の昭和52年7月7日発行の「週刊新潮」(甲A87)に,「マニラ『不老長寿の旅』-例のGH3を求めた二十三人-」との見出しの下に,GH 3を開発したアナ・アスラン博士が4月に来日したこと,「日本では学者が,「臨床例もないので,許可どころか,評価もできない」段階にある。」こと,マニラでのGH3による老化防止の治療が総額300万円であることなどを記載した記事が掲載されている。 D 朝日新聞社の昭和52年9月30日発行の「週刊朝日」(甲A83)に,「300万円若返りの秘薬(ジェロビタールH3)<cアーモテモテの幻惑商法」との見出しの下に,アナ・アスラン博士が老化防止の薬であるGH3を発見したこと,ジャパンライフメディカルセンターが「二十一日間老化防止と若返りの旅」を募集していることなどを記載した記事が掲載されている。 E 東洋経済新報社の昭和53年7月22日及び昭和54年1月13日発行の「週刊東洋経済」(甲A57の1及び56,乙43の39頁及び47頁)に,「ルーマニアの長寿薬(1)『ジェロビタールH3,アスラビタール』について」,「ルーマニアの長寿薬(3)「長寿旅行」はいかが?」との表題のコラム,同年12月8日及び同月15日発行の「週刊東洋経済」(甲A57の2及び3,乙43の41頁及び43頁)に,「ルーマニア訪問記(T)」,「ルーマニア訪問記(U)」との表題のコラム,昭和55年1月12日及び同月19日発行の「週刊東洋経済」(甲A57の4及び5,乙43の45頁及び49頁)に,「ジェロビタールと漢方(1)」,「ジェロビタールと漢方(2)」との表題のコラムが掲載されている F 昭和54年2月15日発行の「週刊アサヒ芸能」(甲A90,乙43の51頁)に,「五十数ヵ国では認可されているという妙薬?」,「ウソかマコトか96万円で買えるという不老長寿薬の中身」との見出しの下に,アナ・アスラン博士がGH3を発明したこと,被告が3月からの募集を計画しているツアーが96万円であることなどを記載した記事が掲載されている。 G 講談社の昭和54年7月5日発行の「週刊現代」(甲A84,乙43の59頁)に,「世界中で話題のルーマニア「長寿医療(ジェロビタール治療)」を受けた日本人のその後」,「七十代が五十代に若返り」,「不眠症,肩こり,肥満も克服」との見出しの下に,アナ・アスラン博士がGH3を発明したこと,被告が催したルーマニアでの治療ツアーの参加者がGH3治療によって効果を上げたことなどを記載した記事が掲載されている。 H 毎日新聞社の昭和54年10月7日発行の「サンデー毎日」(甲A85,乙43の63頁)に,「やや!不老長寿治療」,「「毛沢東」も治療を受けた?」,「命の洗濯≠ェ何よりの薬!」との見出しの下に,アナ・アスラン博士がGH3を発明したこと,被告がルーマニア政府とタイアップし,観光を兼ねたツアーとして治療を売り出し,3月からは日本交通公社が加わって「長寿と若がえりの旅」を商品化したことなどを記載した記事が掲載されている。 I 光文社の昭和56年3月12日発行の「女性自身」(甲A89,乙43の71頁)に,「10歳若返るという驚異の医学ツアー」との見出しの下に,GH3治療の創始者であるアナ・アスラン博士との対談を記載した記事が掲載されている。 J 昭和57年2月4日発行の「週刊アサヒ芸能」(乙43の53頁)に,「GH3治療ならびにルーマニア医療ツアーについて」との見出しの下に,アナ・アスラン博士がGH3を発見したこと,日本からのGH 3治療のツアーは,過去4年間に17回組まれて,200人以上の人が参加していることなどを記載した記事が掲載されている。 K 読売新聞社の昭和57年2月21日発行の「週刊読売」(甲A86,乙43の73頁)に,「驚異の延命薬「ジェロビタール」を求めて欧米,日本から信奉者が訪れていた」,「記憶力低下,ストレス解消に」,「あの方も若者みたいな兆候が」との見出しの下に,アナ・アスラン博士がGH3を発見したこと,国立クリニックホテル・フローラの宿泊者はすべて治療客で,ジェロビタールの卓効をきいて世界各地からやってきていることなどを記載した記事が掲載されている。 L 新潮社の昭和63年7月7日発行の「週刊新潮」(甲A216)に,「美容と若返り≠うたい文句にした女性の海外治療ツアーが人気を集めている。」,「美容・老化防止薬『ジェロビタール』の輸入代理店『レッツ・ジェロビタール』が年四回企画しているもの。」とのコラムが掲載されている。 M 読売新聞社の平成元年6月11日発行の「週刊読売」(甲A217)に,「中国の「101」がなんだ! ルーマニアの「ジェロビタールH3」を知っているか!?」との見出しの下に,頭髪剤を紹介するコラムが掲載されている。 N 毎日新聞社の平成元年9月10日発行の「サンデー毎日」(甲A224)に,「ルーマニアに新しい伝説 現代医学が不老長寿=vとの見出しの記事とそれに続く同月24日,10月1日,11月19日,12月10日及び17日発行の「サンデー毎日」(甲A219ないし223)に,「不老長寿の旅3 不老長寿の秘密」,「不老長寿の旅4 VIP極秘病棟」,「不老長寿の旅11 再び治療に専念して」,「不老長寿の旅14 体験者たちの実感」,「不老長寿の旅15 予防医学のルーマニア」との表題の下に,アナ・アスラン博士がGH3を発見したこと,日本人がルーマニアに不老長寿を求めて旅立つようになってから11年目で,延べ約1800人になったことなどを記載した連載記事が掲載されている。 (c) 月刊誌その他の雑誌等 @ 日本化学会の昭和54年3月1日発行の「化学と工業」(甲A55)に,「老化予防薬としての塩酸プロカイン製剤-ジェロビタールH3について-」との題名のアナ・アスラン博士の論文が掲載されている。 A 「Mr.DANDY ミスター・ダンディ」昭和54年3月号(甲A91,乙43の15頁)に,「ルーマニアの秘薬 GH3とは何か」との見出しの下に,アナ・アスラン博士がGH3を発明したこと,被告がルーマニアでの治療を100万円で募集していることなどを記載した記事が掲載されている。 B 昭和54年11月1日,昭和55年1月1日発行の「月刊せんば」(乙43の20頁,30頁)に,「ルーマニアGH3(ジェロビタール)治療を探る」との表題の下に,ジェロビタール治療の概要を紹介する記事が掲載されている。 C 昭和55年1月1日発行の「月刊海外旅行情報」(乙43の33頁)に,「にわかに話題を集めるルーマニアへの「長寿と若返りの旅」」との表題の下に,被告が企画するジェロビタールH3治療ツアーを紹介する記事が掲載されている。 D 中央マーケティング研究所の昭和55年1月1日発行の「健康産業情報」(乙43の35頁)に,「GH3治療のツアー サンコーパックが代理業務を開始」との表題の下に,アナ・アスラン博士がGH3を発明したこと,Yがジェロビタール治療の日本における普及と集客を目的として被告を設立し,その募集により,前年3月25日に12名,4月27日に13名が出発したことなどを記載した記事が掲載されている。 E 「わたしの健康」昭和55年10月号(乙43の2頁,9頁)に,「★ルーマニア治療ツアー同行取材」,「現代の不老長寿薬ジェロビタールH3に奇跡を見た!!」との表題の下に,ジェロビタールH3治療のツアーの同行記が掲載され,また,「老化をストップする薬ジェロビタールH3の秘密」,「ルーマニアの若返り治療≠サの驚くべき効果を探る」との表題の下に,GH3治療の創始者であるアナ・アスラン博士との対談,ジェロビタールH3治療の実例や参加者の体験談が掲載されている。 F 日本医事新報社の昭和55年12月27日発行の「日本醫事新報」(甲A54)に,「「老年病」,「老化予防医学」研究を探る14日間の旅」の広告の中に,「ルーマニアにおけるGH3(ジエロビタール)治療,・・・をつぶさに見聞しようとする試みです。」との記載がある。 G 昭和58年1月1日発行の「健康時代」(乙43の23頁)に,「不老長寿の薬がほんとうにあった!?」との表題の下に,アナ・アスラン博士がGH3を発明したこと,高齢化時代の海外旅行として注目されているのが「ジェロビタールH3療法」を兼ねたルーマニアへの長寿,健康の旅で,一切の経費が96万円であることなどを記載した記事が掲載されている。 H 小学館の平成元年5月18日発行の「DIMEダイム」(甲A218)に,「ちょっと髪の毛が気になる恒くんの情報 臭くないから安心なんだ,アレよりも ルーマニアの101<Wェロビタール」との見出しの下に,養毛剤を紹介する記事が掲載されている。 (イ) アナ・アスラン博士は,昭和52年及び翌53年に来日し,また,被告によるジェロビタールH3治療を目的とするパックツアーは,昭和54年3月から開始されたものであるが,上記(ア)の事実によると,「GEROVITAL H3」に係る記事は,昭和51年10月30日発行の「週刊読売」にはじめて掲載され,昭和52年から昭和55年までの間に,上記のアナ・アスラン博士の来日やジェロビタールH3治療を目的とするパックツアーを取り上げて,断続的に掲載されたものの,その後はほとんど掲載されなくなり,平成2年以降はこれを掲載した新聞,雑誌等がない。そして,新聞,雑誌等に掲載されたものをみても,そのほとんどが長寿薬,不老長寿,費用が96万円の治療ツアーなど専ら興味本位の内容で構成されていて,これらが強く読者の注意を惹いてしまい,老化予防,治療薬及びその効果のある化粧品としての「GEROVITAL H3」それ自体について格別の印象を与えるようなものであるとはいい難い。これらの事情にかんがみると,「GEROVITAL H3」及びその略称である「GEROVITAL」,「ジェロビタール」は,本件商標の登録出願日(昭和56年10月8日)及び登録査定日(昭和61年11月21日)の当時において,老化予防,治療薬及びその効果のある化粧品を表すものとして,我が国の取引者及び需要者の間に広く認識されていたとは認められず,また,現在においても,その間ある程度の状況の変化があったにせよ,取引者及び需要者の間に広く認識されるに至っているとは認められない。 (ウ) 被告は,我が国の取引者及び需要者が「GEROVITAL H3」及びその略称である「GEROVITAL」,「ジェロビタール」の表示に格別の関心を持っていなかった時期に,上記1(2)のとおり,第三者が不正な目的で本件商標あるいはこれと類似する商標について商標登録を受けてしまうことにより,ルーマニアからのジェロビタール化粧品の輸入や日本における販売に支障を来すことがないよう,ルーマニア側の意向を受けて,本件商標につき商標登録出願をし,その登録を受けたものであり,専ら自己の利益を追求しようとして,その登録出願をしたというものではない。そうであれば,被告の行為が,国際秩序を害し,国際的商業道徳にもとる,ということはできない。 (3) したがって,本件商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるとはいえないから,商標法4条1項7号についての審決の判断に誤りはない。 3 取消事由3(商標法4条1項19号についての判断の誤り)について 上記1,2に判示したところに照らすならば,被告が不正の目的をもって本件商標の使用をするものであるとは認めることができない。 したがって,商標法4条1項19号についての審決の判断に誤りはない。 |
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結論
以上のとおりであって,原告主張の審決取消事由は理由がないから,原告の請求は棄却されるべきである。 |
裁判長裁判官 | 塚原朋一 |
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裁判官 | 塩月秀平 |
裁判官 | 野輝久 |