関連審決 | 無効2004-89108 |
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関連ワード | 指定商品 / 指定役務 / 混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) / 4条1項11号 / 品質誤認(4条1項16号) / 外観(外観類似) / 称呼(称呼類似) / 観念(観念類似) / 取引の実情 / 判定 / 無効審判 / |
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事件 |
平成
17年
(行ケ)
10741号
審決取消請求事件
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原告X 被告 Y1 被告 Y2 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2006/02/15 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
特許庁が無効2004−89108号事件について平成17年9月7日にした審決のうち,「その余の指定商品についての審判請求は成り立たない。」との部分を取り消す。 訴訟費用は,被告らの負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判等
原告は,主文同旨の判決を求め,その請求原因として,訴状(訴状追加申立書を含む。)において後記「第3 原告の主張の要点」のとおり主張し,証拠として甲1ないし26を提出し,これらの訴訟書類は口頭弁論期日の呼出状とともに,2回にわたって被告らに送達された。これに対し,被告らは,いずれも,口頭弁論期日に出頭せず,答弁書その他の準備書面も,また証拠申出書等の書類も何ら提出しなかった。 |
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事案の概要
本件は,原告が,被告らを商標権者とする後記登録商標について,商標法4条1項11号及び16号に違反して登録されたものであるとして無効審判請求をしたところ,特許庁は,本件商標の指定商品中「パイ」についての登録を無効とし,その余の指定商品についての審判請求は成り立たないとの審決をしたため,原告が同審決のうち無効不成立とした部分の取消しを求めた事案である。 1 特許庁における手続の経緯 (1) 本件商標 商標権者:被告ら(Y1,Y2) 本件商標: 指定商品:第30類「菓子及びパン,即席菓子のもと」 登録出願日:平成15年2月3日 設定登録日:平成15年8月8日 登録番号:第4699238号 (2) 本件手続 審判請求日:平成16年11月30日(無効2004-89108号) 審決日:平成17年9月7日 審決の結論:「登録第4699238号の指定商品中「パイ」についての登録を無効とする。その余の指定商品についての審判請求は,成り立たない。」 審決謄本送達日:平成17年9月17日(原告に対し) 2 審決の理由の要旨 審決は,以下のとおり,本件商標の指定商品中「パイ」についての登録は商標法商標法4条1項11号に違反して登録されたものであるから無効であるが,その余の指定商品については,同号に当たらず,また同項16号にいう「商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標」ともいえないのであるから,その登録を無効とすることはできないと判断した。 (1) 引用商標 ア 引用商標1 構成: 登録番号:第4058700号 設定登録日:平成9年9月19日 指定商品:第30類「コーヒー及びココア,コーヒー豆,茶,調味料,香辛料,食品香料(精油のものを除く。),米,脱穀済みの大麦,食用粉類,食用グルテン,穀物の加工品,サンドイッチ,すし,ピザ,べんとう,ミートパイ,ラビオリ,菓子及びパン,即席菓子のもと,アイスクリームのもと,シャーベットのもと,アーモンドペースト,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー,氷,アイスクリーム用凝固剤,家庭用食肉軟化剤,ホイップクリーム用安定剤,酒かす」(ただし,その後,商標登録の取消審判により,指定商品中「菓子及びパン,即席菓子のもと,アイスクリームのもと,シャーベットのもと」について取り消す旨の審決がされ,同14年8月14日にその確定審決の登録がされた。) イ 引用商標2 構成: 登録番号:第4093369号 設定登録日:平成9年12月19日 指定役務:第42類「飲食物の提供」 (2) 商標法4条1項11号該当性について ア 本件商標と引用商標の類否について 「本件商標は,別掲のとおり「14March=π(Pi・Pie)Day」の文字と「14March」の文字の下部に「3.14」の文字を表してなるところ,その構成中の「March」は5月(判決注:3月の誤りと認める。),「Pi」は円周率:3.14,「Pie」はパイ料理,パイ菓子及び「Day」は日の意味を有する平易な英単語であるといえる。 そうすると,本件商標中の前半部の「14March」及び「3.14」の文字は,全体で「3月14日」を意味するものということができる。また,後半部の「π(Pi・Pie)Day」の文字は,(菓子の)「パイ」を円周率の「π(パイ)」に語呂合わせして表した「π(Pi・Pie)」の文字と「Day」の文字よりなるとみることができるから,全体として「3月14日はπ(パイ)の日」の意味を容易に理解させるものと認められる。 これに対し,引用商標は,「3.14=π(パイ)の日」の文字よりなるところ,我が国において,月日を表す場合に「月」「日」の文字を省略して「3.14」のように表すことは日常的に広く行われているところであり,かつ,月日を示唆する「π(パイ)の日」の文字が後半部に配されていることからすれば,引用商標に接した取引者,需要者は,これから「3月14日はπ(パイ)の日」の意味を容易に理解するものと認められる。 そうとすれば,本件商標は,引用商標と「3月14日はπ(パイ)の日」の観念を同一にするものであり,また,英単語を配したその構成をみれば,引用商標を英語で表したものものと容易に看取されるものである。 してみれば,本件商標は,引用商標とそれぞれの構成文字より生ずる称呼において区別し得るとしても,「3月14日はπ(パイ)の日」の観念を同一にする類似の商標といわなければならない。」 イ 指定商品,指定役務間の類否について 「「指定商品が類似のものであるかどうかは,商品自体が取引上誤認混同の虞があるかどうかにより判定すべきものではなく,それらの商品が通常同一営業主により製造又は販売されている等の事情により,それらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認される虞があると認められる関係にある場合には,たとえ,商品自体が互いに誤認混同を生ずる虞がないものであっても,それらの商標は商標法(大正10年法律99号)2条9号にいう類似の商品に当たると解するのが相当である。」(最高裁裁判所第3小法廷,昭和36年6月27日判決言渡(注)原文のまま) そこで,先ず,本件商標の指定商品中「菓子」の範疇に属する「パイ」と引用商標1の指定商品中の「ミートパイ」が類似する商品であるか否かについて検討する。」 「前記取引の実情等を総合すれば,本件商標をその指定商品中,「菓子」の範疇に属する「パイ」について使用した場合,これに接する需要者は,本件商標と引用商標1とが商標において類似するものであるが故に,該商品が引用商標1を使用した「ミートパイ」と同一の営業者によって製造又は販売されたものであるかのように,商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるというのが相当である。 したがって,本件商標の指定商品中「菓子」の範疇に属する「パイ」と引用商標1の指定商品中の「ミートパイ」は,類似の商品といわなければならない。」 (3) 商標法4条1項16号該当性について 「本件商標は,その構成全体より「3月14日は(菓子の)パイの日である」程度の意味合いを想起するとしても,商品の特定の品質を表示するものとはいい得ないから,本件商標を「パイ」を除く指定商品に使用しても,これに接した取引者,需要者が,これを「パイ」であろうと認識し,商品の品質について誤認するおそれがあるとは判断することができない。 してみれば,本件商標は,「パイ」を除くいずれの指定商品についても,商品の品質の誤認を生ずるおそれはないといわなければならない。 請求人は,広告代理店の実施したアンケートによれば,一般消費者が本件商標に接して75%もの人が容易に菓子のパイとの関係を認識できることを示している。 この数字は,商標の文字だけから得られた連想の結果であり,菓子売場や広告で商品(パイ)とともに表示されれば当然,その確率は一層高まると容易に判断できる旨も主張する。 しかしながら,広告代理店の該アンケートは,まず,バレンタインデーへの関心度及びプレゼントについて問い,次いで,ホワイトデーについて同様の設問をしたものである。請求人の述べる「一般消費者が本件商標に接して75%もの人が容易に菓子のパイとの関係を認識できることを示している」との回答結果を得たという設問についてみると,本件商標の構成文字などを示して「次のキャッチフレーズの狙いはどのようなプレゼントでしょうか」というものであり,設問自体が「ホワイトデーのプレゼント」という答えるべき範囲を前もってある程度恣意的に提示してされたものであるとみられる。そうすると,該アンケート結果は,実際の商取引の場における一般取引者,需要者の認識の程度を示すものとみることは到底できないから,この点に関する請求人の主張は,上記判断を左右するものではない。 以上のとおり,本件商標は,商標法4条1項16号に該当するものということはできない。」 (4) 結論 「本件商標は,その指定商品中「パイ」については,商標法4条1項11号に違反して登録されたものであるから,その登録を無効にすべきものであり,その余の商品については,同法4条1項16号に違反して登録されたものではないから,その登録を無効とすることはできない。」 |
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原告の主張の要点
1 取消事由(商品の品質を誤認するおそれについての判断の誤り) 審決は,本件商標をその指定商品に使用しても商品の品質の誤認を生ずるおそれはないと判断したが,誤りである。 (1) 本件商標の観念は「3月14日は菓子のパイの日」である。審決は「3月14日は(菓子)のパイの日である」程度の意味合いを想起するとしても,商品の特定の品質を表示するものとはいい得ないとするが,本件商標の「パイの日」のように語尾に「の日」とつく記念日には,その前後に目的の商品を集中して展示し,その記念日であることを強くアピールすることで営業が成立するのが一般的である。 一般需要者は,「パイの日」といわれれば,「パイ」の購入を期待し,商標を付された商品が「パイ」であると考えるのが当然である。 (2) 審決は,原告が提出したアンケート結果(甲1)について,設問自体がホワイトデーのプレゼントという答えるべき範囲を前もって恣意的に提示したものであるというが,本件商標はホワイトデーのプレゼントである「菓子のパイ」に付されることを目的としたものであるから,その使用実態に即した形で回答を求めないと正確な数字を得ることができない。上記アンケートは中立の業者により実施され,ホワイトデーの購買動向という条件設定をすることにより,実態に近い結果を得られたものである。 2 結論 以上によれば,本件商標が商標法4条1項16号に該当しないとした審決の判断は,誤りであり,取り消されるべきである。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由(商品の品質を誤認するおそれについての判断の誤り)について (1) 商標法4条1項16号は,「商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標」は登録することはできない旨規定している。商品の品質の誤認を生ずるかどうかは,その商標の外観,称呼,観念等から判断して,その指定商品について,その商品が現実に有する品質と異なるものであるかのように需要者をして誤認されるおそれがあるかどうかに照らして判断するべきである。 本件商標は,「14March=π(Pi・Pie)Day」の文字と,そのうちの「14March」の文字の下部に「(3.14)」の文字を表してなるものであり,本件商標の指定商品は,第30類「菓子及びパン,即席菓子のもと」である。本件審決の判断のうち,「パイ」についての登録を無効とするとの部分については取消しを求める訴えは提起されていないので,本訴において判断すべきは,本件商標をパイ以外の「菓子及びパン,即席菓子のもと」に使用した場合に,商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるかどうかである。 (2) 本件商標の構成のうち,「March」は3月,「Pie」はパイ菓子又はパイ料理,「Day」は日の意味を有する平易な英単語であり,「π」が「パイ」と呼称され,円周率(3.14)を意味することはよく知られている。また,「Pi」は円周率(3.14)を意味する。 本件商標は,その外観から明らかなように,数式を模したものであり,「=」(イコール)の左側が3月14日を意味することは明らかである。その右側の「π(Pi・Pie)Day」のうち「π」は円周率(3.14)を意味し,「Day」は日を意味することから,「π…Day」は3月14日を意味するものと理解できる。また,「π(Pi・Pie)」を構成する「π」「Pi」「Pie」は,いずれも「パイ」と呼称され,「…Pie)Day」の「Pie」はパイ菓子又はパイ料理を意味する英語としてよく知られているものであるから,本件商標から「3月14日が菓子のパイの日である」ことも想起し得るというべきである。 (3) ところで,我が国では,3月14日は「ホワイトデー」と称され,2月14日のバレンタインデーにチョコレートなどをもらった男性がそのお返しとして贈り物をする日としてよく知られている。ホワイトデーの贈り物として定まったものはないが,マシュマロ,クッキー,キャンディ,ケーキなどの菓子類が贈り物として選択されることが多いことは甲1のアンケート結果からも明らかであり,3月14日が近づくと,菓子店を初めとする小売店がホワイトデーの贈り物用として様々な商品を宣伝・販売していることは,誰もが経験する周知の事実である。 (4) 本件商標の観念,称呼やホワイトデーの上記習慣からすれば,本件商標が3月14日のホワイトデー用のパイ菓子に用いられるものであり,同日が菓子のパイの日であることを需要者にアピールすることによりパイ菓子を販売しようとするものであることは明らかである。パイ菓子は,ホワイトデーの贈り物としてはそれほど一般的であるとはいえないが,ホワイトデーの贈り物として販売される場合には,他の菓子類,即席菓子のもと,パン類等とともに販売される可能性が高いことは,その性質上当然である。 (5) 審決は,本件商標は,「3月14日は(菓子の)パイの日である」との意味を想起するとしても,商品の特定の品質を表示するものとはいい得ないとする。 確かに,本件商標は菓子パイそのものを意味するものではなく,「Pie」の文字も本件商標の一部を構成するにすぎない。また,一般的な需要者にとって,本件商標が「3月14日が菓子のパイの日である」との意味を持つと即座に理解することが必ずしも容易ではないことは,甲1のアンケート結果(問12)が示すとおりである。 しかしながら,前記判示のとおり,本件商標はホワイトデーという多くの人が限られた期間内に菓子類等を買い求める機会に使用されるものであり,そのことが商標の構成から明らかであるところ,同商標には,パイ菓子であることを直接的に示す平易な英語である「Pie」という言葉が使われ,さらに「π」「Pi」も「パイ」と呼称されるのであるから,ホワイトデーの贈り物として菓子類やパン類を求めにきた需要者は,本件商標に接した場合,その内容,品質がパイ菓子であって,他の種類の菓子やパンではないと認識するのが自然である。そうすると,本件商標が,パイ菓子以外の「菓子及びパン,即席菓子のもと」に使用された場合には,需要者はその商品の品質,内容がパイ菓子であると誤認するおそれがあるというべきである。 2 結論 以上のとおり,「パイ」を除く指定商品について,本件商標が商品の品質の誤認を生ずるおそれのある商標とはいえないとした審決の判断は誤りであり,原告主張の審決取消事由は理由があるので,審決は,その無効不成立の部分について取消しを免れない。 |
裁判長裁判官 | 塚原朋一 |
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裁判官 | 野輝久 |
裁判官 | 佐藤達文 |