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関連審決 審判1997-1404
関連ワード 指定商品 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  品質誤認(4条1項16号) /  類似性(類否判断) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  補正 /  外国 /  非類似 / 
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事件 平成 11年 (行ケ) 357号 審決取消請求事件
原告 ディミナコアーゲー 代表者 【A】
訴訟代理人弁理士 【B】
同 【C】
同 【D】
同 【E】
被告 特許庁長官【F】
指定代理人 【G】
同 【H】
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2000/05/31
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
当事者の求めた判決
1 原告 特許庁が、平成9年審判第1404号事件について、平成11年6月21日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文1、2項と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 ソルバイ・デュファー・ビー・ヴィは、平成6年5月10日、「CEFLAZINE」の欧文字を横書きしてなる商標(以下「本願商標」という。)につき、
第5類「動物用薬剤、その他の薬剤」を指定商品として商標登録出願をした(平成9年5月6日、指定商品を「動物用薬剤」と補正)が、平成8年10月15日に拒絶査定を受けたので、平成9年2月4日、これに対する不服の審判の請求をした。
ソルバイ・デュファー・ビー・ヴィは、その後、原告(当時の名称、ディミナコ アーゲー エスアー リミテッド)に対し本願商標の出願人の地位を譲渡し、平成9年11月13日、その旨の名義変更届出が受理された。
特許庁は、前記審判請求を平成9年審判第1404号として審理したうえ、
平成11年6月21日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年7月14日原告に送達された。
2 審決の理由 審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願商標を薬剤の範疇に含まれるその指定商品について使用すると、これに接する取引者・需要者において、世界保健機関(WHO)の定めた医薬品の国際一般的名称(INN)の一つである「CEFRADINE(セフラジン)」を想起し、その商品が当該医薬品又はこれを成分とする商品であるかのように誤認する場合が少なくなく、その商品の品質について誤認混同を生じるおそれがあるから、商標法4条1項16号に該当するものとした。
原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中、「CEFRADINE」が世界保健機関(WHO)の定めた医薬品の国際一般的名称(INN)の一つであること、「CEFRADINE」が「セフラジン」と称呼されることは認める。
審決は、本願商標がINNの「CEFRADINE/セフラジン」又はこれを成分とする商品と誤認するおそれがあると誤った判断しているので、違法として取り消されなければならない。
1 称呼について 本願商標からは「セフラザイン」の称呼のみが生じるものであり、「セフラジン」の称呼を生じるものとした審決の判断(審決書4頁19行〜5頁1行)は誤りである。
(一) 本願商標「CEFLAZINE」は、その語尾が「INE」となっているところ、英語の語法において語尾が子音に続いて「INE(ine)」となっている場合には、「combine」、「dine」、「fine」、「line」、「mine」、「nine」、「pine」、「recline」、「shine」、「thine」、「Valentine」、「wine」などのように「ine」の部分が「アイン」と発音される。
(二) また、商標の称呼は、商標使用者の使用する称呼が、当該商標の構成から自然に生ずるであろう称呼からはなはだしく乖離したものでない限り、その商標使用者の使用する称呼によってなされるものである。外国語で構成された外国人の商標であって、その日本語音訳が幾通りにもなされ得る可能性のある場合においては、その商標より自然に生じる称呼は、当該商標の所有者である外国人が、その本国及びその他の市場で使用している称呼とすべきものである。
本願商標は、スイス国を含む欧米諸国において「セフラザイン」と称呼され、その称呼によって需要者間に受け入れられている(甲第19号証)。
(三) 本願商標の称呼「セフラザイン」とINNの「セフラジン」とを対比するに、語頭において「セフラ」を共通にするものの、語尾において「ザイン」と「ジン」の差違があるほか、「セフラザイン」は語尾語「ザ」にアクセントをおいて称呼されるのに対し、「セフラジン」は各音に強弱なくなめらかに称呼される。
両者は、全体としての称呼において音調を著しく異にし、明瞭に聴別できる。したがって、「セフラザイン」は「セフラジン」とは称呼非類似である。
2 外観について 医薬品においては、その一般名は化学名から誘導されるものが多く、その構造の差をわずかな語の差異で区別しているものが多い(甲第6号証の7〜25、第15号証の1〜4、第16号証の1〜4、第17号証の1〜7、第18号証の1〜4)。このような実際の使用例に照らしても、本願商標「CEFLAZINE」とINNの「CEFRADINE」は、第4文字「L」と「R」、第6文字「Z」と「D」の差異から外観上識別され得る。
3 誤認のおそれの判断について (一) INNの「CEFRADINE/セフラジン」は人の治療に用いる治療薬の一般名であるのに対し、本願商標の指定商品は動物用薬剤である。そして、人の医療に用いる医薬品と動物に用いる医薬品とは製造の場において別個に管理されており、これを投与する治療の現場において医師、獣医師等の専門知識を有する者によって使用されるので、その過程において、関与する当事者によって品質を誤認される余地はない。
(二) また、INNの「CEFRADINE/セフラジン」は医薬品の一般名であって、そのまま医療の現場で使用されることもない。すなわち、我が国の医療は、ほとんど社会保険によって行われているところ、保険医療に用いられる医薬品として厚生大臣の定める薬価基準に収録されている医薬品は、そのメーカーの商品名(商標名)で示され、一般名では記載されていない。また、医師又は獣医師の処方に記載される医薬品はその商品名(商標名)が記載され、医薬品の一般名が使用されることはない。
(三) したがって、取引者・需用者が商品の品質について誤認混同を生じるおそれがあるとした審決の判断は誤りである。
被告の反論の要点
審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
1 称呼について 本願商標は「CEFLAZINE」の欧文字を一連に横書きしてなるもので、その文字は特定の読みをもって親しまれた外国語を表したものとは認められない。そして、我が国において親しまれた英単語において語尾が「ZINE(zine)」となっている語として、「magazine」があり、「マガジン」と発音されている。このほか、我が国で親しまれてる英単語において、語尾が子音に続いて「INE(ine)」となっている場合であって、「ine」の部分が「イン」と発音されるものとして、例えば、「engine」、「imagine」、「margarine」、「medicine」、「routine」、「turbine」などがある。
これらのことからすると、本願商標「CEFLAZINE」は「セフラジン」と称呼するのが自然であり、我が国の取引者・需用者はその称呼をもって取引に当たる場合が多いと見るべきである。
2 外観について 「CEFLAZINE」と「CEFRADINE」はともに9文字からなり、接頭の「CEF」、中央の「A」及び語尾部分の「INE」の7文字を、その構成位置を含め共通にするものであるから、4文字目と6文字目の差異が両者の全体の印象に及ぼす影響は小さく、相紛れるおそれがあるというべきである。
3 誤認のおそれの判断について (一) 我が国においてはINNの「CEFRADINE」は「セフラジン」の片仮名文字をもって認識される場合が少なくない。
(二) 人に用いられる医薬品と動物用医薬品とは、同一の医薬品が人にも動物にも用いられる状況にあり、かつ、共通の製造者、販売者によって取り扱われているという事実があり、両者は極めて関連の深い商品というべきである。
(三) そして、「CEFLAZINE」は、9文字の構成文字中7文字を共通にするINNの「CEFRADINE」を容易に連想すること、大衆向けの書籍において「セフラジン」の名称も一般に知られるようになってきていること、人に用いられるか、動物に用いられるかを問わず、医薬品(薬剤)に使用される商標についての商標法4条1項16号の適否の判断は厳格に適用すべきであることからすると、本願商標「CEFLAZINE」は、これをその指定商品「動物用薬剤」について使用するときは、これに接する取引者・需用者が「CEFRADINE/セフラジン」を想起し、その商品が同医薬品又はこれを成分とする商品であるかのように誤認するおそれがある。
当裁判所の判断
1 称呼について 原告は、本願商標「CEFLAZINE」から「セフラザイン」の称呼のみが生じると主張する。たしかに、「セフラザイン」も本願商標から生じ得る称呼の一つであることまでは一概に否定することはできないが、他方、一般に「CEFLAZINE」との欧文字から「セフラジン」の称呼が生じ得ることは、被告の援用する英単語の発音に照らしても明らかというべきであり、本願商標から一義的に「セフラザイン」との称呼しか生じないと認めるに足りる証拠はない。
次に、原告は、本願商標より生じる称呼が「セフラザイン」のみであることの論拠として、原告の本国であるスイス国を含む欧米諸国で「セフラザイン」と称呼されていると主張し、これに沿う甲第19号証を提出する。しかし、我が国において本願商標の称呼として「セフラザイン」が取引者・需用者の間で一般的に通用していると認めるに足りる証拠はないから、欧米諸国における称呼をもって、我が国における商品の品質の誤認混同のおそれの判断要素としての称呼を認定することはできない。
以上の点からすると、本願商標より生じる称呼が「セフラザイン」に限定されるということはできず、本願商標から「セフラジン」との称呼が生じるとした審決の判断に誤りはない。
2 外観について 「CEFLAZINE」と「CEFRADINE」は、ともに9文字からなり、4文字目の「L」と「R」、6文字目の「Z」と「D」に差違があるものの、
その余の7文字がその構成位置も含め共通であることから、その外観において強い類似性があるというべきであり、両者相紛れるおそれがあるとした審決の判断に誤りはない。
なお、原告は、医薬品の名称がわずかな語の差異で区別されるのが通例であるから、上記の程度の差違でも外観上類似しないと主張し、甲第6号証の7〜25、第15号証の1〜4、第16号証の1〜4、第17号証の1〜7、第18号証の1〜4を援用するが、これらの例に示される医薬品名に照らしても、「CEFLAZINE」と「CEFRADINE」の外観上の類似性は強いというべきである。
3 誤認のおそれの判断について (一) 以上を踏まえて商品の品質の誤認のおそれの有無を総合判断するに、本願商標「CEFLAZINE」がINNの「CEFRADINE」と同様に「セフラジン」の称呼を生じ、かつ、両者の外観も類似するとの前示の認定事実に加え、
我が国における特殊事情として、INNの「CEFRADINE」は片仮名文字の「セフラジン」として認識される場合が少なくないと認められ(甲第3、第5、第6号証の4、第7号証の4〜7)、その場合、「L」と「R」、「Z」と「D」という本願商標とINNの「CEFRADINE」との表記上の差異が捨象され、その称呼が全く同一となってしまう点を考慮すると、人に用いられる医薬品か、動物用薬剤かという相異はあるものの、本願商標をその指定商品に用いた場合、これに接する取引者・需用者がINNの「CEFRADINE/セフラジン」を想起し、
同医薬品又はこれを成分とする商品であるかのように誤認するおそれがあるというべきである。
なお、「セフラザイン」が本願商標から生じ得る一つの称呼であることまでは否定するものでないことは前示のとおりであるが、本願商標が片仮名文字と併記されていればともかく、単に欧文字のみをもって構成される本願商標に係る商品の品質の誤認混同の判断としては、考えられる称呼のうち、誤認のおそれのより強い称呼を基準とせざるを得ない。
(二) ところで、原告は、人に用いられる医薬品と動物用薬剤は別個に管理され、また、専門知識を有する医師、獣医師等によって使用されることから誤認のおそれはないと主張するが、我が国の代表的な製薬会社の多くは、人に用いられる医薬品と並んで動物用医薬品も製造していること(乙第2号証)、医薬品の卸売業者及び小売業者についても、その両者を取り扱っている例があること(乙第3号証の1〜5)、INNの「CEFRADINE/セフラジン」は抗生物質であるところ、人に用いられる抗生物質が動物に用いられる事実があること(乙第4、第5号証)が認められ、原告の前記主張は誤認のおそれを否定する論拠として十分とはいえない。
また、原告は、INNの「CEFRADINE/セフラジン」は医薬品の一般名であり、実際の医療の現場で用いられるのは商品名(商標名)であるから誤認のおそれがないと主張するが、その主張するような医療の現場での医薬品名の使用慣行を前提にしたとしても、上記認定判断を左右するものではない。
4 以上のとおり、原告の審決取消事由の主張は理由がなく、他に審決にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担並びに上告及び上告受理の申立てのための付加期間の指定につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条96条2項を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 田中康久
裁判官 石原直樹
裁判官 宮坂昌利