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審判1968-5867
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審判1980-6962
審判1965-4872
審判1971-5886
関連ワード 識別機能 /  指定商品 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  広義の混同 /  狭義の混同 /  4条1項15号 /  著名商標 /  ただ乗り(フリーライド) /  結合商標 /  通常使用権 /  先使用(32条) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  出所の混同 /  国内 /  当事者適格 /  パリ条約 /  外国 /  継続 /  非類似 /  有名ブランド / 
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事件 平成 11年 (行ケ) 96号 審決取消請求事件
原告 株式会社エクサム代表者代表取締役 【A】
訴訟代理人弁護士 土門宏
被告 アール・ジェイ・レイノルズ・タバコ・カンパニー代表者 【B】
訴訟代理人弁護士 山崎行造
同 山崎 理恵子
同 弁理士 【C】
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2000/01/19
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた判決
1 原告特許庁が、平成7年審判第3124号事件について、平成11年2月17日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、別添審決書写し別紙(以下「本件別紙」という。)「本件商標」のとおりの構成からなり、第21類「かばん類、袋物」(平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令の区分による。以下同じ。)を指定商品とする登録第1588062号商標(昭和54年2月6日登録出願、昭和58年5月26日設定登録、
以下「本件商標」という。)の通常使用権者である。
被告は、平成7年2月17日、本件商標の商標権者である訴外【D】を被請求人として、本件商標につき登録取消しの審判の請求をし、原告は、同審判に参加した。
特許庁は、同請求を平成7年審判第3124号事件として審理した上、平成11年2月17日、「登録第1588062号商標の登録は、取り消す。」との審決をし、その謄本は、同年3月6日、原告に送達された。
2 審決の理由 審決は、別添審決書写し記載のとおり、本件商標の通常使用権者である原告及び株式会社三和袋物(以下「三和」という。)による本件別紙「商標a」〜「商標e」(以下、「本件使用商標a」〜「本件使用商標e」といい、これらの商標をまとめて「本件使用商標」という。)の使用が、「他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをした」といえるから、商標法53条1項の規定により、本件商標の登録を取り消すべきであるとした。
原告主張の取消事由の要点
審決の理由中、本件商標が本件別紙「本件商標」のとおりの構成からなり、第21類「かばん類、袋物」を指定商品とすること、本件使用商標a〜eが同別紙「商標a」〜「商標e」のとおりの構成からなること、当事者双方の主張の認定、原告及び三和が、上記指定商品に関して本件商標の通常使用権者であり、本件使用商標を上記指定商品に含まれるかばん類又は財布類に使用していること(審決書24頁1〜14行)は、いずれも認める。
審決は、被告による本件審判請求が不適法であるにもかかわらずこれを却下せず(取消事由1)、原告らによる本件使用商標の使用が、他人の業務に係る商品と混同を生じるものと誤って判断している(取消事由2)ので、違法として取り消されるべきである。
1 本件審判請求の不適法性(取消事由1) 1 審決は、「参加人(注、本訴原告)は、請求人(注、本訴被告)が我が国において登記をしておらず、日本国内で請求人自身が業務(営業)を行っていないことを根拠に、日本国内で参加人らの業務と混同が生ずることはないとし、また、請求人は商標法第53条の立法趣旨である日本国内の取引秩序維持に何ら関係を持たない者であり、本件審判請求をする法律上の利益がない旨主張する。しかしながら、商標法第53条では『他人の業務に係る商品』と出所の混同を生ずるか否かが問題であり、請求人自身の名義で日本国内で業務(営業)を行っていない事実は、
商品の混同の問題と直接関係がないことは明らかであるから、参加人の主張は、採用できない。」(審決書28頁15行〜29頁2行)と判断するが誤りである。
すなわち、商標法53条の業務の混同を論ずる場合、日本国内での業務の混同が問題となるものであるところ、被告は、主たる事務所を肩書所在地に置く米国の有限責任会社であり、日本国で業務を行うための商法479条481条、商業登記法103条の定める外国会社としての登記をしておらず、本件審判請求をなす時点で日本国で法律上の営業を行い得ない者であるから、このように業務を行い得ない者が業務の混同を生じるおそれがあると主張することはできないのである。
被告が、本件別紙「商標A」のとおりの構成からなり、商品「たばこ」について使用する商標(以下「被告商標」という。)を付した商品を、日本国内で販売しているとしても、それは被告の業務としての販売でなく、被告は、業務の混同を比較される対象にはなり得ないのである。 そもそも、商標法51条53条は「何人も」と規定するが、これらの規定の立法趣旨である日本国内の取引秩序維持に何ら関係を持たない者は、審判請求をする法律上の利益のない者であり、その者がした審判請求は却下されるべきであったのである。国家主権制度の下、商標法は日本国民を対象としたものであり、外国法人は直接にはこの中に含まれない。この「何人も」の解釈につき、いかなる制限もないという解釈は、行政権、裁判権が国家主権の制約制限のもとにあることを看過した考えによるものであり、一方が外国人の場合、当然に日本人と異なる制約があるのである。
すなわち、日本国に無益無縁な外国人と日本人との間に、理論上、商品の出所の混同を生じるおそれ(むしろ可能性)があっても、そのおそれが日本国の法秩序を乱すおそれが全くない場合には、当該外国人は、審判請求をすることができないと解釈されるべきであり、日本の国益・公共の福祉に全く関係のない外国人の紛争解決要求事項についてまで、日本国民の負担となる行政権の行使をする必要はないのである。
2 審決は、「参加人は、パリ条約第2条(3)の解釈をして、本件審判請求手続は実質的に司法手続であることから、請求人には我が国の裁判管轄権の規定が適用され、我が国は、本件審判請求の審理を行う裁判管轄権を有しない旨主張する。
しかし、本件審判請求手続が裁判所による裁判手続でないことは明らかであって、
裁判管轄権の問題が生ずることはないから、根拠のない主張であり採用できない。」(審決書29頁8〜16行)と判断するが誤りである。
すなわち、登録商標取消審判請求手続は、多くの民事訴訟法の規定を準用しており(商標法56条、特許法147条151条等)、このように審判請求に民事訴訟法の手続が利用されるのは、単に形式のみを借用したのではなく、登録商標取消審判が、被請求人の商標権という権利の消滅に関する実体法上の権利紛争と同一であるので、最も当事者の紛争解決に適する訴訟手続を審判手続で準用することにしているのである。また、審決の当否が最終的には裁判所の判断に委ねられることからしても、審判請求手続は実質的に司法手続であり、民事訴訟法の国際裁判管轄と同一の基準で請求人適格を判断すべきである。
本件審決のように、審判手続の中で日本国に無益無縁な外国人である請求人の審判請求適格が、審判が司法手続でないとして審理されず、いったんなされた審決に対する取消訴訟が提起された場合、今度は、審判と審決取消訴訟は審級的結びつきがないとして審判請求適格の有無が審理されないとすれば、日本国に無益無縁な外国人と日本人との間の紛争についての法律関係を、日本国の行政機関が確認するのが適切かという問題が審理されないままとなる。
したがって、被告が日本国で原告に対して訴えを提起するとしたら、日本国に裁判管轄権があるか否かと同等の審判請求適格の問題を、審判請求手続の中においても審理判断すべきであり、業務の混同を判断する前に、日本国で被告に国際裁判管轄が認められると同程度の日本国との関連が存在したか否かが判断されなければならないのである。
そして、被告は、被告商標を日本国で商標登録をしておらず、日本国に納税せず、営業拠点を有せず、ドゥイングビジネス(doing business)といわれる関係もなく、管轄取得原因として民事訴訟法が要求する日本国との最小限の関係も有しないのであり、このような者に日本国での審判請求を認めることは、
いたずらに司法行政事務を増大させ、日本国民の司法行政事務サービスを受ける権利を阻害するものである。
以上のとおり、審判手続において、訴えの利益の有無や日本国に無益無縁な外国人の審決請求についての当事者適格の有無について審理しない審決は、訴訟制度の根本的な審理を欠いており、このような審決は、外国人が当事者となっている訴訟事件で、日本国の裁判権(一般的裁判管轄権)行使が妥当かが審理されない判決と同様に違法であり、憲法76条32条の規定にも違反するものである。
2 他人の業務に係る商品との出所の混同についての誤認(取消事由2) 1 被告商標が、商品「タバコ」について周知著名であること(審決書25頁9〜11行)、被告が「F1のレースチームのスポンサーとなり、商標AをF1カーのボディやレーサーのユニフォームに表示したり、請求人の関連会社がF1グッズとして全国で販売した衣類、帽子、かさ、バスタオル等に商標Aを表示した事実」(同25頁12〜16行)は認めるが、被告商標は、商品「かばん類、財布類」については本件商標の指定商品に含まれるために使用できないものであり、原告のように商品「かばん、財布、名刺入れ、小銭入れ」を継続的に販売していないから、
これらの商品分野についてまで著名とはいえない。
2 被告商標と原告らの使用する本件使用商標とは、類似とはいえない。
すなわち、本件使用商標a〜eは、「CAMEL」の文字と「ラクダの図柄」と「楕円の輪郭」、あるいはこれに加えて本件使用商標aでは「MULTI-PURPOSE GOODS/ENJOY YOUR OUTDOOR LIFE」の文字、本件使用商標bでは「OUTDOOR LIFE」の文字、本件使用商標d及びeでは「MULTI-PURPOSE GOODS」の文字(以下、これらの文字を併せて「本件付記的文字」という。)とが、一体不可分に構成された結合商標である。
こうした結合商標は、その構成要素が結合して構成されている特徴を有するものであるから、分離して考察すべき判断要素がある場合、例えば、結合語間の間隔、
文字の大小、上下の段、ハイフンの介在、文字を取り囲む輪郭、書体の相違等があるため外観上不可分一体として看取されない場合や、全体の称呼が冗長で息の段落があり簡略化して称呼されるため称呼上分離できる場合を除き、不可分一体として把握すべきものであり、むやみに分離して考察すべきではないのである。
したがって、本件使用商標から、「CAMEL」の文字と「ラクダの図柄」だけを取り出して被告商標と比較し、被告商標に類似するとした審決の判断(審決書25頁18行〜26頁18行)は、結合商標である本件使用商標の構成態様及びこれら商標に対する一般需要者の認識に関する判断を誤ったものである。
なお、ある「図形」のみから構成された商標と、「図形」とこれを取り囲む「輪郭」とからなる商標とが、非類似と判断された審決例として、昭和55年審判第6962号事件(甲第12号証)、昭和40年審判第4872号事件(甲第13号証)、昭和45年審判第9978号事件(甲第14号証)及び昭和57年審判第5363号事件(甲第15号証、以下、これらの審決例を併せて「本件参照審決例」という。)などがある。
3 仮に、被告商標と本件使用商標が類似するとしても、
被告商標は「タバコ」の商標として周知である一方、本件商標の指定商品は「かばん類、袋物」であり、本件使用商標も「かばん類、袋物」に使用されているのであるから、それぞれの商品は類似の商品でなく、その性質、用途、用法、需要者、消費者、販売ルート、販売店等がすべてが異なっている。したがって、被告商標と本件使用商標との間で商品の品質の誤認や出所の混同を生じる余地は全くないのである。
また、商標法53条1項の規定は、同法4条1項15号、16号、64条の規定と異なり、混同や誤認を生じる「おそれ」を除外しているから、現実に誤認混同が生じた場合にのみ前記規定が適用されるべきものであると解される。しかも、この「品質の誤認」と「商品の出所の混同」は、経年的な使用が行われた両商標間に生じる問題であり、一時的に使用されるにすぎない被告商標と本件使用商標との間では、「客観的に誤認混同が生ずる場合」に該当しないというべきである。
なお、著名商標と類似する商標であっても、使用する商品の性質、用途、用法等が著しく異なっていれば、商品の出所や品質についての混同が生じないとされた事例として、昭和45年審判第5732号事件(甲第16号証)、昭和43年審判第5867号事件(甲第17号証)、昭和46年審判第5886号事件(甲第18号証)、昭和58年(行ケ)第215号東京高裁昭和60年10月15日判決、平成2年(行ケ)第72号、73号及び74号東京高裁平成2年9月10日判決並びに平成4年(行ケ)第147号東京高裁平成5年6月29日判決(以下、これらの審決例・判決例を併せて「本件参照判決例等」という。)などがある。
被告の反論の要点
審決の認定判断は正当であり、原告の主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1について 1 原告は、商標法53条の業務の混同を論じる場合、日本国内での業務の混同が問題となるものであり、業務主体が日本国内に存在しなければならないと主張するが、同条1項は、条文上、「『商品』の混同」と明記されており、これを「『業務』の混同」と解釈することは無理である。また、商標法上の「商標」とは、サービスマークを除き「商品」について使用されるものであるから、「他人の業務に係る『商品』との混同」という文言を「他人の『業務』との混同」と読み代えて、
「商品」と切り離して解釈することは、商標法の趣旨にも反する。
したがって、商標法53条の要件を検討する際に、「『業務』の混同」は問題とならないのであるから、その前提として、混同の被害を主張する業務主体が日本国内に存在するか否かは意味のないことである。
さらに、商標法51条53条が、特に明文で「何人も」請求をすることができると規定されているのは、商標の不当な使用によって一般公衆の利益が害されるような事態を防止し、かつ、そのような場合に当該商標権者に制裁を課す趣旨のものであり、需要者一般を保護するという公益的性格を有するものである。
したがって、「何人も」取消審判請求適格が認められるのであって、請求人が請求時点で日本国内で法律上業務を行い得る者であるか否か、あるいは、請求人が日本人又は日本法人であるか外国法人であるかは、全く関係がない。
仮に、原告主張のとおりに、審判を受けるにふさわしい適格を有する者だけが取消審判請求をすることができるとしても、被告商標が我が国において周知著名である一方、本件商標の通常使用権者である原告が、本件商標に類似する商標を不当に使用して、我が国における需要者に商品の出所の混同を生じさせたのであるから、
「日本の国益・公共の福祉」が害されるような事態が存在したのであり、原告が主張するところの「法律上の利益」は十分存在したのである。
2 原告は、本件審判請求手続が実質的に司法手続であることを考慮して、民事訴訟法の国際裁判管轄と同一の基準で請求人適格を判断すべきであると主張するが、審判請求手続が裁判所による裁判手続でないことは明らかであり、審判請求手続の請求人の請求は、あくまでも新たな行政処分を求めるものであって、原告の被告に対する直接請求である民事訴訟とは本質的に異なるから、審判手続の請求人適格を民事訴訟法の国際裁判管轄の問題として把握することはそもそも無理である。
商標法53条を根拠とする本件取消審判請求の請求人適格が問題とされないのは、同条の規定により「何人も」請求できるとされているからであって、原告の主張のように、審判が司法手続でないことや、審判と審決取消訴訟に審級的結びつきがないからではない。
以上のとおり、審判請求手続が司法手続でないことは明らかであるから、審判請求適格を裁判管轄権の問題として把握する原告のその他の主張は、それ自体失当である。
2 取消事由2について 1 原告は、商品「タバコ」について被告商標が周知著名であることを認めているが、それ以外の商品分野についても被告商標が周知著名であることは明らかである。
2 本件使用商標は、結合商標の一種であるが、本件付記的文字である「MULTI-PURPOSE GOODS/ENJOY YOUR OUTDOOR LIFE」、「OUTDOOR LIFE」又は「MULTI-PURPOSE GOODS」は、それぞれ「多目的商品/あなたの野外生活を楽しみなさい」、「野外生活」又は「多目的商品」の意味であり、商品の用途・品質等を表す付記的文字であり、形容詞的部分に該当するものである。しかも、いずれも「CAMEL」の文字が上部に極めて大きく太字で書かれているのに対し、それ以外の付記的文字は、下部に小さく書かれているのみであり、これらのことからすると、本件使用商標は、いずれも結合の程度の弱い結合商標に属するものである。
また、本件使用商標における本件付記的文字部分と「CAMEL」の文字部分とを考察すると、まさに、原告が結合商標を分離して考察すべき判断要素として挙げる、文字の大小、上下の段、文字を取り囲む輪郭、書体の相違等があり、「外観上不可分一体として看取されない場合」に該当するのである。
さらに、本件使用商標の称呼を考えても、仮にこれらを不可分一体のものとして把握すると、「CAMEL」の文字部分と本件付記的文字部分とからは極めて冗長な称呼が生じることとなり、まさしく、原告が主張する「全体の称呼が冗長で息の段落があり簡略化して称呼されるため称呼上分離できる場合」に該当することとなる。
しかも、本件使用商標が付された原告の商品は、大手を含む多数のディスカウントストアにおいて、「キャメル」の名のもとで販売されており、「キャメル」のブランド名で称呼されていたことが認められ(乙第43〜第49号証)、一般需要者は、「CAMEL」の文字及び「ラクダの図柄」だけを取り出して「キャメル」と認識していたのである。
なお、本件参照審決例は、いずれも、ある「図形」のみから構成された商標と、
それに「輪郭」のみが付加された商標との比較である点で、本件とは全く事例を異にする。
したがって、この点に関する審決の判断(審決書25頁18行〜26頁18行)に誤りはない。
3 原告は、被告商標が「タバコ」の商標である一方、本件商標の指定商品及び本件使用商標の使用商品は「かばん類、袋物」であり、それぞれの商品は類似の商品でなく、その性質等がすべてが異なっており、商品の品質の誤認や出所の混同を生じる余地はないと主張するが、まず、本件では商品の品質の誤認が全く問題とされていない点で不適切な主張である。しかも、商標法53条1項本文の「混同」の解釈については、商品の出所が同一であると誤信させるいわゆる「狭義の混同」だけではなく、当該両者間に人的又は資本的に何らかの関係があると誤信させるいわゆる「広義の混同」も含まれるものと解されているところ、原告の上記主張は、「狭義の混同」だけを前提とするものであって誤りである。
また、商標法53条1項の「混同」について、「混同のおそれ」では足りず、現実に誤認混同が生じたことまで必要であるとする原告の見解は、東京高裁昭和58年10月19日判決及び最高裁昭和60年2月15日判決(乙第56号証)に反するものである。
さらに、原告は、被告商標が、F1グランプリレースなどのある特定期間一時的に使用されるにすぎないと主張するが、F1グランプリレースは、例えば、1991年には年間16回ものレースが世界各地で行われ、多数の新聞・雑誌に広告や記事が掲載されており、被告商標を表示した衣類等の各商品は、F1ショップといわれる全国のカーマニア向けの店において、通年的に販売されていた(乙第14〜第41、第57、第58号証)から、被告商標が一時的に使用されるにすぎないという事実自体が誤りである。
しかも、本件使用商標が付された原告の商品は、前記のとおり、大手を含む多数のディスカウントストアにおいて、「キャメル」の名のもとで、いわゆる「有名ブランド商品」らしき外観を装って販売されており、被告の著名な被告商標にフリーライドしたものであるから、需要者・取引者の間で、実際に商品の出所の混同を生じていたといえる。
なお、本件参照判決例等と本件とは、事案の内容を異にするものである。
したがって、この点に関する審決の判断(審決書26頁19行〜27頁14行)に誤りはない。
当裁判所の判断
1 審決の理由中、本件商標が本件別紙「本件商標」のとおりの構成からなり、第21類「かばん類、袋物」を指定商品とすること、本件使用商標a〜eが同別紙「商標a」〜「商標e」のとおりの構成からなること、原告及び三和が、上記指定商品に関して本件商標の通常使用権者であり、本件使用商標を上記指定商品に含まれるかばん類又は財布類に使用していること(審決書24頁1〜14行)は、いずれも当事者間に争いがない。また、原告は、本件使用商標が本件商標と類似するものであることを明らかに争わない。
2 取消事由1(本件審判請求の不適法性)について 1 原告は、商標法53条の業務の混同を論じる場合、日本国内での業務の混同が問題となるものであるところ、被告が、主たる事務所を肩書所在地に置く米国の有限責任会社であり、日本国で業務を行うための法律上の外国会社としての登記をしておらず、本件審判請求をなす時点で日本国で法律上の営業を行い得ない者であるから、このように業務を行い得ない者が業務の混同を生じるおそれがあると主張することはできないと主張する。
しかし、商標法53条1項は、「他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたとき」、当該商標を取り消すことができるとしたものであり、原告の主張のように「業務自体の混同」を問題とするものではなく、他人の業務に係る「商品との混同」を当該商標の取消事由としていることが明らかであるから、原告の主張は、条文の規定を無視するものであって、それ自体失当なものといわなければならない。
しかも、同条項は、同条項に該当する登録商標について、「何人も、その商標登録を取り消すことについて審判を請求できる」と規定しており、この趣旨は、商標の不当な使用によって、商品の出所の混同を生じたり、品質の誤認を生じたりするなどの一般公衆の利益が害されるような事態が発生することを防止し、かつ、そのような場合に当該商標権者に制裁を課すことにより、需要者一般を保護するという公益的性格を有するものであると認められる。
したがって、「何人も」当該商標の取消審判の請求人適格が認められるのであり、審判の請求人が請求時点で日本国内に主たる事務所等を有するか否か、あるいは、請求人が外国法人であるか否かにかかわらず、当該審判を提起することができるものといえるから、日本国に無益無縁な外国人は当該審判請求できないとする原告の主張が採用できないことも明らかといわなければならない。
しかも、本件の審判請求人である被告は、後記認定のとおり、我が国において周知著名となっている被告商標を商品に付して使用しており、この被告商標に類似する本件商標の通常使用権者である原告が、本件商標に類似する本件使用商標を使用し、我が国における需要者に商品の出所の混同を生じさせるおそれが認められるのであるから、被告が本件商標の登録取消しを求め得る法律上の利害関係を有することは明らかである。
したがって、この点に関する審決の判断(審決書28頁15行〜29頁7行)に誤りはない。
2 原告は、登録商標取消審判請求手続が、多くの民事訴訟法の規定を準用しており、実質的に司法手続であるから、民事訴訟法の国際裁判管轄と同一の基準で請求人適格を判断すべきであると主張する。
しかしながら、登録商標の取消審判請求は、当該商標の取消しに関する審決という新たな行政処分を求めるものであり、裁判所による司法手続でないことは明白であるから、取消審判請求を行うために各法条が定める請求人適格とは別に国際裁判管轄を観念する余地はなく、本件のように商標法53条1項に基づく登録商標取消審判については、前示のとおり、「何人も」当該審判の請求人適格を有するものであるから、原告の主張は採用することができない。
また、原告は、本件審決のように、審判手続の中で日本国に無益無縁な外国人である請求人の審判請求適格が、審判が司法手続でないとして審理されず、いったんなされた審決に対する取消訴訟が提起された場合、今度は、審判と審決取消訴訟は審級的結びつきがないとして審判請求適格の有無が審理されないとすれば、日本国に無益無縁な外国人と日本人との間の紛争についての法律関係を、日本国の行政機関が確認するのが適切かという問題が審理されないと主張する。
しかし、商標法53条1項に基づく登録商標取消審判については、前示のとおり、「何人も」当該審判の請求人適格を有するものであり、しかも、我が国において周知著名である被告商標を商品に付して使用する被告は、外国法人であっても本件商標の登録取消しを求め得る法律上の利害関係を有するものと認められ、審決もその旨を認定している(審決書29頁3〜7行)のであるから、原告の主張は、その前提において誤りであり、到底採用することができない。
以上の認定判断に照らして、被告による本件審判請求が、国際裁判管轄を欠き、
憲法76条32条の規定にも違反する旨の原告の主張がいずれも失当であることは明らかであり、この点に関する審決の判断(審決書29頁8〜16行)にも誤りはない。
3 取消事由2(他人の業務に係る商品との出所の混同についての誤認)について 1 被告商標が、商品「タバコ」について周知著名であること(審決書25頁9〜11行)、被告が「F1のレースチームのスポンサーとなり、商標AをF1カーのボディやレーサーのユニフォームに表示したり、請求人の関連会社がF1グッズとして全国で販売した衣類、帽子、かさ、バスタオル等に商標Aを表示した事実」(同25頁12〜16行)は、当事者間に争いがない。
原告は、被告商標が、商品「かばん類、財布類」については本件商標の指定商品に含まれるために使用できないものであり、商品「「かばん、財布、名刺入れ、小銭入れ」を継続的に販売していないから、これらの商品分野についてまで著名とはいえないと主張する。
しかし、前示争いのない事実と、被告商標が「かばん類、財布類」と関連のある衣類、帽子、かさ並びにクッション、キーホルダー、ライター、タオル、ステッカー、ワッペン、旗及び折り畳み椅子等の家庭用雑貨などの各種商品に付されて販売され、常時、幅広く使用されていた事実(乙第16号〜第41号証)、並びに日本を含めて世界的に注目され、通年的に報道されるF1グランプリレースにおいて、
顕著な態様により被告商標が使用されていた事実(乙第14、第15、第57、第58号証)を考慮すれば、被告商標は、単に「タバコ」についてだけでなく、本件商標の指定商品である「かばん類、財布類」の分野においても周知著名なものであったと認められるから、原告の主張を採用する余地はない。
2 原告は、本件使用商標が、「CAMEL」の文字と「ラクダの図柄」と「楕円の輪郭」、あるいはこれに加えて本件付記的文字とにより構成された結合商標であり、不可分一体のものとして把握すべきものであって、むやみに分離して考察すべきではないのであるから、本件使用商標から、「CAMEL」の文字と「ラクダの図柄」だけを取り出して被告商標と比較し、被告商標に類似するとした審決の判断(審決書25頁18行〜26頁18行)は誤りであると主張する。
そこで検討するに、被告商標は、「CAMEL」の欧文字と左向きの「ラクダの図柄」からなるものである。他方、本件使用商標は、「CAMEL」の欧文字、右向きの「ラクダの図柄」、「楕円の輪郭」及び本件付記的文字(本件使用商標cを除く。)からなる結合商標であるところ、外観上、「ラクダの図柄」については、
右向きか左向きかの相違はあるものの、その形態が被告商標とほとんど同一といえるものである。そして、本件使用商標における「CAMEL」の欧文字部分は、いずれも楕円形内の上部の3分の1ないし半分程度を占め、5文字がそれぞれ強調されて楕円に沿って大きく太字で書かれているのに対し、本件付記的文字部分は、下部の5分の1程度に位置し1行ないし2行の一連の文章として小さく横書きされている。また、本件付記的文字である「MULTI-PURPOSE GOODS/ENJOY YOUR OUTDOOR LIFE」、「OUTDOOR LIFE」又は「MULTI-PURPOSE GOODS」からは、それぞれ「多目的商品/あなたの野外生活を楽しみなさい」、「野外生活」又は「多目的商品」の意味を生じるものであり、この意味を認識し得る需要者にとって、当該部分は、商品の用途や目的等を示すものとして、それ自体が商品の出所を表示する意味合いは低く、自他商品の識別機能は微弱なものと認められる。さらに、称呼をみても、本件使用商標cと被告商標とは同一の「キャメル」の称呼であるし、「CAMEL」の文字と本件付記的文字を不可分一体のものとして一連に称呼すると、本件使用商標aでは「キャメルマルチパーパスグッズエンジョイユアアウトドアライフ」、本件使用商標bでは「キャメルアウトドアライフ」、本件使用商標d及びeでは「キャメルマルチパーパスグッズ」という極めて冗長な称呼が生じることとなり、一般の需要者・取引者であれば、外観上区分できる「キャメル」とそれ以外の部分に分離して称呼することが当然のことといわなければならない。
以上のことからすると、本件使用商標は、本件付記的文字を有するものについても、これらの文字部分と「CAMEL」の文字及び「ラクダの図柄」部分とが常に一体不可分となるものではなく、これらを分離して認識すことが通常であると認められるから、前記原告の主張を採用する余地はなく、したがって、本件使用商標のうち「CAMEL」の文字と「ラクダの図柄」の部分を主要部と認定した上、この点において被告商標に類似するとした審決の判断(審決書25頁18行〜26頁18行)に誤りはない。
なお、本件参照審決例は、いずれも、図形のみから構成された商標と、当該図形に近似した図形とこれを取り囲む輪郭とからなる商標とが、非類似と判断されたものであり、顕著な態様により表示された文字部分を含まない点において本件とは事案の内容を異にするものであるから、上記判断を左右するものでないことが明らかである。
3 原告は、被告商標が「タバコ」の商標として周知である一方、本件商標の指定商品は「かばん類、袋物」であり、本件使用商標も「かばん類、袋物」に使用されているのであるから、それぞれの商品は類似の商品でなく、その性質、用途、用法、需要者、消費者、販売ルート、販売店等がすべてが異なっており、被告商標と本件使用商標との間で商品の品質の誤認や出所の混同を生じる余地はないと主張する。
しかし、被告商標は、単に「タバコ」の商標としてのみ周知ではなく、前示のとおり、本件商標の指定商品である「かばん類、財布類」の分野についても周知著名なものであったと認められるから、原告の主張はその前提において誤りがあり、これを採用する余地はない。
また、原告は、商標法53条1項の規定が、同法4条1項15号、16号、64条の規定と異なり、混同や誤認を生じる「おそれ」を除外しているから、現実に誤認混同が生じた場合にのみ前記規定が適用されるべきものと解されると主張する。
しかし、商標法が需要者の利益の保護をもその目的としていることを考慮すれば、商標法53条1項の規定は、客観的に誤認混同が生じるとみられる場合、すなわち、誤認混同のおそれのある場合もその対象としていることが明らかであり(最高裁昭和60年2月15日判決・判例工業所有権法2881の316頁(乙第56号証)参照)、原告の主張は独自の見解に立つものであって採用することができない。したがって、この点に関する審決の判断(審決書27頁16行〜28頁1行)に誤りはない。
さらに、原告は、「品質の誤認」と「商品の出所の混同」が経年的な使用が行われた両商標間に生じる問題であり、一時的に使用されるにすぎない被告商標と本件使用商標との間では、「客観的に誤認混同が生ずる場合」に該当しないと主張する。
しかし、前示のとおり、被告商標は、F1グランプリレースの期間中にのみ使用されるものではなく、「かばん類、財布類」と関連のある衣類、帽子、かさ及び家庭用雑貨などの各種商品に付されて、常時、幅広く使用されていたものであるから、原告の主張はその前提において誤りがあり、これを採用する余地はなく、この点に関する審決の判断(審決書28頁2〜11行)にも誤りはない。
なお、原告は、本件参照判決例等に基づき、著名商標と類似する商標であっても、使用する商品の性質、用途、用法等が著しく異なっていれば、商品の出所や品質についての混同が生じないと主張するが、前示の認定事実に照らして、被告商標が付された商品と本件使用商標が付された原告の商品とが、商品の性質、用途、用法等において著しく異なっているとは到底いえないから、この主張も採用することができない。
以上のことからすると、原告が、本件使用商標が付された商品を本件商標の指定商品において使用すると、一般の需要者・取引者の間で、これらの商品が被告又は被告と関連がある者の業務に係る商品であるかのように認識されることが考えられ、商品の出所の混同を生じるおそれがあるといえるから、この点に関する審決の判断(審決書26頁19行〜27頁14行)に誤りはない。
4 そうすると、審決が、「本件商標の登録は、商標法第53条第1項の規定により取り消すべきものである。」(審決書29頁19〜20行)と判断したことは正当であり、原告主張の審決取消事由にはいずれも理由がなく、他に審決にこれを取り消すべき瑕疵はない。
よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 田中康久
裁判官 石原直樹
裁判官 清水節
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