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関連審決 審判1994-3450 審判1994-4532
関連ワード 先願主義 /  指定商品 /  周知商標 /  周知性 /  公序良俗(4条1項7号) /  4条1項10号 /  4条1項19号 /  著名商標 /  不正目的(不正の目的) /  除斥期間 /  国内 /  使用許諾 /  パリ条約 /  外国 /  商号 / 
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事件 平成 10年 (行ケ) 185号 審決取消請求事件
原告 大信貿易株式会社代表者代表取締役 【A】
訴訟代理人弁理士 【B】
同復代理人弁理士 【C】
被告 デュセラデンタル ゲーエムベーハー 代表者 【D】
訴訟代理人弁護士 伊藤 真
同 弁理士 【E】
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1999/12/22
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた判決
1 原告特許庁が、平成6年審判第3450号事件について、平成10年4月27日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、「ドゥーセラム」の片仮名文字及び「DUCERAM」の欧文字を上下2段に横書きしてなり、第1類「人工歯用材料、その他本類に属する商品」(平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令の区分による。以下同じ。)を指定商品とする登録第2151351号商標(昭和61年3月14日登録出願、平成1年7月31日設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者である。
被告は、平成6年2月21日、原告を被請求人として、本件商標につき登録無効の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成6年審判第3450号事件として審理した上、平成10年4月27日、「登録第2151351号商標の登録を無効とする。」との審決をし、その謄本は、同年5月18日、原告に送達された。
2 審決の理由 審決は、別添審決書写し記載のとおり、本件商標が、公正な取引秩序を乱すおそれがあるばかりでなく、国際信義に反し公の秩序を害するものといわなければならないから、商標法4条1項7号の規定に違反して登録されたものであり、同法46条1項(平成3年法律第65号による改正前のもの)の規定により、その登録を無効とすべきであるとした。
原告主張の取消事由の要点
審決の理由中、本件商標が、「ドゥーセラム」の片仮名文字及び「DUCERAM」の欧文字を上下2段に横書きしてなり、第1類「人工歯用材料、その他本類に属する商品」を指定商品とすること、当事者双方の主張の認定、被告による「DUCERAM」の欧文字を横書きしてなる商標(以下「被告商標」という。)の登録の経緯(審決書15頁3〜15行)は、いずれも認める。
審決は、本件商標が、公正な取引秩序を乱すおそれがあるばかりでなく、国際信義に反し公の秩序を害するものと誤って判断している(取消事由)ので、違法として取り消されるべきである。
1 原告は、本件商標の指定商品に本件商標を付して、日本国内に輸入し、それを日本国内で販売するために商標登録出願を行ったものであり、この行為は、基本的に登録主義を採用する我が国の商標法の下において、自己の業務に係る商品について使用する商標につき権利化を図ったものであって、合法、かつ、正当なものである。そして、本件商標は、登録後9年以上が経過し、その間、原告が本件商標を「歯科用陶材」の指定商品に使用した結果、需要者・取引者間において有名となったものであり、原告は、平成1年5月1日以降、上記指定商品の分野において本件商標を付して製品を販売し、年平均4457万円の売上げを得ている。このような原告の長年にわたる宣伝広告及び努力によって、本件商標は、需要者・取引者間において周知となっており、本件商標を無効とすることは、原告の長年にわたる努力を無にするものであり、社会的に許されない。
他方、商標法4条1項7号に該当する商標とされるためには、商標の表示自体から、何らかの公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがあることが伺われるか、商標を使用することが社会公共の利益に反しなければならないが、本件商標のようにそのような問題がない商標には、この条項は適用されない。
2 本件商標の出願当時(昭和61年3月14日)、被告の商品「DUCERAM」は全くの無名の存在であり、この種商品についての文献や科学的裏付けもない上、既に有力な数社が同種製品を取り扱っていたことから、被告の商品が売れる見通しは低く、しかも、本件商標の指定商品である「歯科用陶材」の平成9年の売上高は、4億9000万円であって市場規模が極めて小さい商品であるから、日本でマーケットを築くには障害が極めて多いことが予想された。
このような状況の中で、原告は、歯科技工士を集めて過去何度もセミナーを開催し、宣伝広告費を費やして、本件商標を付した製品を徐々に市場に浸透させていったものであり、本件商標を使用して不正な利益を得る意図など全くなかったものである。
これに対し、被告は、先願主義を採る我が国において、優先権を主張して「DUCERAM」商標を出願し権利化を図ることが可能であったにもかかわらず、これを行わずに登録を受ける機会を放棄したものである。
3 本件商標の出願当時、ドイツ連邦共和国(以下「ドイツ」という。)では、
「ツエットエフエー ツォンテクニッシュ フォルシュウング ウント アントヴィックラングゲーメンハー ウント ツェーオー カーゲー」(以下「ツエットエフエー社」という。)が被告商標を出願中であって、未だ商標登録されておらず、
このように出願中の商標が登録されていたか否かは、保護の必要性を判断する上で重要な要素である。
また、ツエットエフエー社が、1989年5月31日、被告に経営を譲渡したことは認めるが、それまでの間、同社は被告とは別法人であり、株式の所有関係及び商標の使用許諾契約も不明であって、被告の関連会社であることを立証するものは何もないから、本件商標の出願は、国際信義に反するものではない。
さらに、1986年3月5日付けの書簡(審決甲第5号証、本訴甲第13号証、
以下「本件書簡」という。)は、その日付から本件商標の出願前のものとは認められるものの、その内容は、原告の代表者から被告に宛てた厚生省の輸入許可の手続に関するものにすぎず、これによって、両者間に本件商標の指定商品に係る代理店契約等が生じたものということはできず、また、原告被告間における独占供給に関する契約書(審決甲第6号証、本訴甲第14号証、以下「本件契約書」という。)についても、その締結日は1990年10月であり、有効期間は1989年10月以降のものである。なお、上記契約書以外に、1989年4月22日付けで、本件契約書が準備されるまで効力を有する同意書(本訴甲第16号証、以下「本件同意書」という。)が存在するが、本件商標の出願当時、原告と被告との間に取引関係があったことを認めるに足る証拠はない。
4 被告は、本件商標に関する別件の登録取消審判事件において、本件商標が商標法53条の2に違反するとして、その登録の取消しを請求したが、同事件の審決(平成6年審判第4532号審決、甲第9号証、以下「別件審決」という。)においては、被告商標が出願中のものであり商標権に該当する権利でないとして、同請求を不成立とされており、同条項に関する判断との均衡上、本件商標は、同法4条1項7号にも該当しないものと解すべきである。
そもそも、外国の商標権者の代理人等が許諾なく商標登録した場合、当該商標についてその登録の取消しを求めるには、代理人・代表者による商標の登録使用の規制を定めたパリ条約6条の7及びこれを受けた商標法53条の2の規定によるべきものであるところ、この請求については、登録から5年の除斥期間の適用があり、
しかも、取消しという将来的効力しかないのに対し、本件商標のように同法53条の2の要件さえ満たさない場合に、除斥期間の制限なく、同法4条1項7号の規定により遡及的に無効とするのは、法体系上のバランス及び法的安定性を著しく害することが明らかである。
5 また、被告商標は、前記のとおり、本件商標の出願当時、日本国内及び外国で周知ではなく、このように日本及び外国で周知ではない商標と類似の商標を我が国で出願しても、非難されるいわれはないし、本件商標を無効とすることは、周知商標の保護を定めた工業所有権の保護に関するパリ条約上の要請でもない。したがって、本件商標は、同条約6条の2及びこれを受けた商標法4条1項10号、19号にも該当しないから、これらの条項に関する判断との均衡上、同法4条1項7号にも該当しないと解すべきである。
特に、商標法4条1項19号は、不正目的による著名商標等の出願の排除を規定しているところ、この規定からみても、周知でない商標を「不正の目的」をもって登録した場合について、法は何ら規定しておらず、被告商標のように、使用に基づく一定の業務上の信用を獲得していない未登録の商標を一律に保護することは適切ではない。
被告の反論の要点
審決の認定判断は正当であり、原告の主張の取消事由は理由がない。
1 原告が被告から輸入して販売している人工歯科材料「DUCERAM」は、本件商標の出願前から、被告商品の商標として被告が用いていたものであり、世界各国においても商標出願を行って商標登録を得て、「DUCERAM」の名称で各国に輸出しているものである。
原告は、被告が製造し「DUCERAM」と商標が付されている商品をそのまま輸入しているにすぎず、原告による商標登録及びその権利主張は、被告が直接又は他の第三者に対し、被告商品を日本国内で販売することを妨害するためのものにほかならない。このことは、原告が、被告から本件商標を譲渡するよう交渉を受けても、これを拒絶したことからも明らかである。
原告は、長年にわたる宣伝広告及び努力によって、本件商標は、需要者・取引者間において周知となっており、本件商標を無効とすることは社会的に許されないと主張するが、本件商標は、被告がドイツやその他の輸出先において現に使用していた商標であり、その輸入代理店や販売店が宣伝広告及び努力を行うことは当然である。
そして、本件商標の登録により、被告は、日本における代理店の選択に制限を受けるなど、原告が被告との取引関係において不当に優位な立場を得ているのであり、このような原告の行為は、公正な取引秩序を乱すおそれがあるばかりでなく、
国際信義に反し公の秩序を害するものである。
2 原告は、「本件商標を使用して不正な利益を得る意図はなかった」旨主張するが、原告代表者は、ドイツにおいて被告商品の評判を聞いた上で、日本における同商品の独占的な輸入代理店になるべく、帰国後、直ちに本件商標の出願をしているのであって、これもまた「不正な利益を得る意図」に他ならない。
3 ツエットエフエー社は、被告と所在地及び代表者を同じくするものであり、被告の子会社である(甲第5〜第8号証、乙第1〜第3号証、第10号証)。そして、1989年5月31日、ツエットエフエー社は、すべての資産と負債を含め、
一切の経営を被告に譲渡している(乙第5号証)。当時、ツエットエフエー社は、
被告の子会社として、被告の委託により被告の商標の管理を行っていたものであって、被告商標は、実質的に被告の管理下にあり、被告が使用していたのである(甲第10〜第12号証)。
原告は、前述のとおり、他人が現に使用している商標を、当該商品が日本に輸入されるようになることを予測して、自らがその代理店になるべく、これに類似した本件商標を被告の許諾なく無断で出願して登録を受けたものであり、このような原告の行為は、当該商標が、出願中であるか登録になっているか、その名義がいずれであるか係わらず、不正なものである。
4 別件審決において、本件商標がパリ条約6条の7及び商標法53条の2に該当しないと判断されたのは、これらの規定が厳格に我が国の商標権に対応する権利の所有者の代理人・代表者を対象としているからであって、本件商標が、これらの規定に該当しないことと、全く異なる規定である同法4条1項7号に該当するか否かとは何ら関係がなく、同法53条の2に該当しないから同法4条1項7号に該当しないとする論理には、何の根拠も理由もない。
5 被告は、被告商標を1985年4月2日から使用しており、被告の商標を付した商品が歯科用材料という実際に購入する需要者が少数である特殊な商品であることを考えれば、本件商標の出願当時に、これが周知であったと推定することが自然である。
しかし、この周知性の点は措くとしても、本件商標が、パリ条約6条の2及び商標法4条1項10号、19号に該当しないことと、同法4条1項7号に該当するか否かとは何ら関係がなく、同法4条1項10号、19号に該当しないから同法4条1項7号に該当しないとする論理には、何の根拠も理由もない。
当裁判所の判断
1 審決の理由中、本件商標が、「ドゥーセラム」の片仮名文字及び「DUCERAM」の欧文字を上下2段に横書きしてなり、第1類「人工歯用材料、その他本類に属する商品」を指定商品とすること、「DUCERAM」の欧文字からなる被告商標の登録の経緯(審決書15頁3〜15行)は、いずれも当事者間に争いがない。
また、以下の事実も当事者間に争いがない。
1 被告は、ドイツにおいて「DUCERA」の商号で「人工歯用材料」の製造販売を行っている会社であり、「DUCERAM」は、被告の会社名から作られた造語であって、被告が販売する歯科治療用セラミック(人工歯用材料)の商品名である。
2 被告は、現在、「DUCERAM」の欧文字からなる被告商標を、人工歯用材料等を指定商品として、ドイツ及び国際知的所有権機構(略称「WIPO」)において登録している。
3 ツエットエフエー社は、ドイツにおいて、被告商標を、人工歯用材料等を指定商品として、1985年12月4日に出願し、1986年9月11日に登録を得ている。
なお、ツエットエフエー社は、1989年5月31日、被告に経営を譲渡した。
4 被告は、1985年4月2日、自社が販売する人工歯用材料等の商品に係る価格表において、上記出願前の被告商標を付した商品を掲載してその使用を開始し、
同年8月には被告商標を付した人工歯用材料の商品をドイツで最初に販売し、1986年2月には、タイを含む外国にもこれらの商品を輸出していた。
また、被告は、歯科技術等の国際総合専門雑誌である「歯科研究」に、1986年3月12日付けで被告商標を付した商品の広告を掲載した。
5 原告の代表者【A】は、1986年2月半ばに、ドイツの被告を訪ね、当時、
被告の唯一の商品であった人工歯用材料「DUCERAM」について詳細な説明を聞き、その後も被告との接触を重ね、日本への輸入の準備を開始していた。
同人は、帰国後、1986年3月5日付けの被告に宛てた本件書簡において、人工歯用材料「DUCERAM」の輸入許可手続のための資料請求を行い、輸入業務の具体的準備に着手していた。
6 このような状況の中で、原告は、昭和61年(1986年)3月14日、本件商標の登録出願を行ったが、この日時は、原告代表者【A】が、被告から人工歯用材料「DUCERAM」について詳細な説明を聞いて帰国した直後に当たる。
7 原告と被告は、上記商品について、1989年4月22日付けの本件同意書において、本件契約書が準備されるまでの仮の代理店契約を締結し、1990年10月、本件契約書において、両者間における独占供給に関する契約を締結した。
8 ツエットエフエー社は、昭和62年(1987年)4月30日、我が国において、本件商標と類似の商標を、本件商標の指定商品と同一又は類似の商品を指定商品として、登録出願を行った(商願昭62-48669号)ところ、平成1年(1989年)6月30日付けの拒絶理由通知を受け、同通知により引用商標とされた本件商標の存在を知った。
その後、被告は、原告に対し、本件商標を譲渡するよう申し入れたが、原告はこれを拒否した。
2 取消事由について1 甲第5〜第8号証、乙第1〜第3号証、第5号証、第10号証によれば、ツエットエフエー社は、被告とともに1985年4月1日に設立され、被告と会社所在地及び代表者を同じくし、研究、開発を業務としており、被告が同社の持株会社であったが、1989年5月31日、すべての資産と負債を含め、一切の経営を被告に譲渡したものと認められる。
以上の認定事実及び前示争いのない事実によれば、原告の代表者は、1986年2月にドイツの被告を訪ね、「DUCERA」の商号を有する被告が、「DUCERAM」の欧文字からなる被告商標を、同社が販売する人工歯用材料等の商品に付して使用しており、実際に、被告商標を付した当該商品をドイツのみならず諸外国に輸出販売していたことを知り、当該商品「DUCERAM」について詳細な説明を聞いて帰国した後、本件書簡において、被告に対し当該商品の日本への輸入許可手続のための資料請求を行い、輸入業務の具体的準備に着手する一方、被告に何ら告げることなく、「DUCERAM」の欧文字を含む本件商標の登録出願を行い、
その登録を得たものであり、このような原告の行為に基づいて登録された本件商標が、国際商道徳に反するものであって、公正な取引秩序を乱すおそれがあるばかりでなく、国際信義に反し公の秩序を害するものであることは明らかであり、これと同旨の審決の判断(審決書16頁12行〜17頁18行)も正当なものといわなければならない。
2 上記の認定判断に照らして、原告が、本件商標の指定商品に本件商標を付して、日本国内に輸入し、それを日本国内で販売するために商標登録出願を行ったものであり、この行為は、基本的に登録主義を採用する我が国の商標法の下において、自己の業務に係る商品について使用する商標につき権利化を図ったものであって、合法、かつ、正当である旨の主張が採用できないことは明らかである。
また、原告は、原告の長年にわたる宣伝広告及び努力によって、本件商標が、需要者・取引者間において周知となっており、本件商標を無効とすることは、原告の長年にわたる努力を無にするものであり社会的に許されないと主張するが、仮に、
登録後の原告の行為によって本件商標が周知となったものであるとしても、そのことと、前示出願及び登録における不法性とは別異のことであり、前者によって後者が解消されるものでもないから、この主張も到底採用することができない。
さらに、原告は、商標法4条1項7号に該当する商標とされるためには、商標の表示自体から、何らかの公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがあることが伺われるか、商標を使用することが社会公共の利益に反しなければならないが、本件商標のようにそのような問題がない商標には、この条項は適用されない旨主張する。
しかし、商標法4条1項7号に該当する商標は、原告主張のように、商標の表示自体から公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがあることが伺われる場合や、商標を使用することが社会公共の利益に反する場合に限定されるものではなく、前示のような原告の行為に基づいて登録された本件商標も、公正な取引秩序を乱し、国際信義に反し公の秩序を害するものであることは明らかであるから、原告の主張はそれ自体失当であってこれを採用する余地はない。
3 原告は、本件商標の出願当時、被告の商品「DUCERAM」が全くの無名の存在であり、日本でマーケットを築くには障害が極めて多いことが予想され、このような状況の中で、原告が、宣伝広告費を費やして本件商標を付した製品を徐々に市場に浸透させていったものであるから、本件商標を使用して不正な利益を得る意図はなかった旨主張する。
しかしながら、本件においては、前示のとおり、原告の代表者がドイツの被告を訪ね、被告が販売する人工歯用材料等の商品に被告商標を付して使用し、当該商品をドイツのみならず諸外国に輸出販売していたことを知り、帰国後、当該商品の日本への輸入許可手続のための資料請求を行って輸入業務の具体的準備をする一方で、被告に無断で「DUCERAM」の欧文字を含む本件商標の出願を行った行為が問題とされ、この行為に基づいて登録された本件商標が、公正な取引秩序を乱すおそれがあり、国際信義に反し公の秩序を害するものとされるのであって、審決は、本件商標の出願当時、被告の商品が著名であったり、被告商標が周知であることを前提として、これと類似する本件商標を使用して不正な利益を得る意図が原告に存する旨を認定するものではないから、原告の主張はそれ自体失当なものといわなければならない。 また、原告は、被告が、先願主義を採る我が国において、優先権を主張して「DUCERAM」商標を出願し権利化を図ることが可能であったにもかかわらず、これを行わずに登録を受ける機会を放棄したものである旨主張する。
しかしながら、原告は、ドイツにおいて被告が人工歯用材料等の商品に被告商標を付して販売し、諸外国にも輸出販売していたことを知り、当該商品の日本への輸入許可手続のための資料請求を行っていたにもかかわらず、被告に無断で本件商標の出願を行ったものであり、原告によるこのような行為を予想して、被告又はその関連会社が優先権主張に基づく商標出願を行うべきであるということはできず、現に、被告の実質的な管理の下に被告商標を所有するツエットエフエー社が、我が国において、本件商標と類似の商標を、本件商標の指定商品と同一又は類似の商品を指定商品として、登録出願を行ったにもかかわらず、本件商標の存在を理由に拒絶理由通知を受けたことは、前示のとおりであるから、原告による上記非難は、自らの不法性を省みない的外れなものといわなければならない。
4 原告は、本件商標の出願当時、ドイツでは、ツエットエフエー社が被告商標を出願中であって、未だ商標登録されておらず、このように出願中の商標が登録されていたか否かは、保護の必要性を判断する上で重要な要素であると主張する。
しかし、被告が、我が国における本件商標の出願当時、ツエットエフエー社により出願中の被告商標を、被告商品に付しており、ドイツ国内及び諸外国への輸出用の販売商品に使用していたことは、前示のとおりであるから、このような商標を一定の公正な取引秩序及び国際信義の範囲内で保護すべきことは当然であり、原告の主張を採用する余地はない。
また、原告は、ツエットエフエー社と被告とが別法人であり、株式の所有関係及び商標の使用許諾契約も不明であって、被告の関連会社であることを立証するものはないと主張し、さらに、本件商標の出願当時、原告と被告との間に取引関係があったことを認めるに足る証拠はないと主張する。
しかし、被告がツエットエフエー社の持株会社であって、両社が所在地及び代表者を同じくして緊密な関係にあることは前示のとおりであり、また、原告と被告との間には、前示のような原告による輸入販売を前提とした交渉関係が存したものであるから、これらの主張はいずれも採用することができない。
5 原告は、別件審決において、被告商標が出願中のものであり商標権に該当する権利でないとして、商標法53条の2の規定に基づく本件商標の登録取消請求が不成立とされており、同条項に関する判断との均衡上、本件商標が、同法4条1項7号にも該当しないものと解すべきであると主張するが、別件審決における前記の判断と、前示の原告の行為に基づいて登録された本件商標が、公正な取引秩序を乱すおそれがあって国際信義に反し公の秩序を害するものであることとは、直接の関連性もないことが明らかであるから、上記主張は到底採用することができない。
また、原告は、外国の商標権者の代理人等が許諾なく商標登録した場合、当該商標についてその登録の取消しを求めるには、代理人・代表者による商標の登録使用の規制を定めたパリ条約6条の7及び商標法53条の2の規定によるべきものであるところ、この請求については、登録から5年の除斥期間の適用があり、取消しという将来的効力しかないのに対し、本件商標のように同法53条の2の要件さえ満たさない場合に、除斥期間の制限なく、同法4条1項7号の規定により遡及的に無効とするのは、法体系上のバランス及び法的安定性を著しく害すると主張する。
しかしながら、商標法53条の2の規定と同法4条1項7号の規定とは、その趣旨、要件及び効果等を異にするものであり、前示の原告の行為に基づいて登録された本件商標が、公正な取引秩序を乱すおそれがあって国際信義に反し公の秩序を害するものである以上、同法53条の2の規定の要件を充足するか否かにかかわらず、同法4条1項7号の規定により無効となるのは当然のことであり、前者に該当しないことを理由に後者にも該当しないということができないこと明らかであるから、上記主張も失当というほかない。
6 原告は、被告商標が、本件商標の出願当時、日本国内及び外国で周知ではなく、このように周知ではない商標と類似する本件商標を無効とすることは、周知商標の保護を定めた工業所有権の保護に関するパリ条約上の要請でもなく、したがって、本件商標は、同条約6条の2及びこれを受けた商標法4条1項10号、19号にも該当しないから、これらの条項に関する判断との均衡上、同法4条1項7号にも該当しないと解すべきであると主張する。
しかし、本件商標がパリ条約6条の2及び商標法4条1項10号、19号に該当しないことと、前示の原告の行為に基づいて登録された同商標が、公正な取引秩序を乱すおそれがあって国際信義に反し公の秩序を害するものであることとは、直接の関連性がないものと認められ、審決も、本件商標が周知であるか否かを認定することなく、同法4条1項7号に該当する旨を判断しているものであるから、この主張も失当というほかなく、到底これを採用することができない。
3 以上によれば、審決が、「本件商標は商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものと判断するのが相当であるから、本件商標の登録は、同法第46条第1項の規定により無効とすべきである。」(審決書17頁19〜22行)と判断したことは正当であり、他に審決を取り消すべき瑕疵はない。
よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 田中康久
裁判官 石原直樹
裁判官 清水節
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