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関連審決 抗告審判1952-235
抗告審判1952-707
審判1990-17659
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成7行ケ52 判例 商標
平成11行ケ74審決取消請求事件 判例 商標
平成12ネ5798 判例 商標
関連ワード 包装 /  指定商品 /  4条1項11号 /  類似性(類否判断) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  国内 /  連合商標 /  存続期間 /  無効審判 /  更新登録 /  外国 /  非類似 / 
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事件 平成 8年 (行ケ) 50号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1996/07/31
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた判決
1 原告 特許庁が、平成2年審判第17659号事件について、平成8年2月1日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は、別紙1に示す構成からなり、第31類「調味料、香辛料、食用油脂、乳製品」(平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令の商品区分による。
以下同じ。)を指定商品とする、登録第2036257号商標(昭和60年5月30日登録出願、昭和63年1月14日登録査定、同年4月26日設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者である。
原告は、被告を被請求人として、本件商標につき登録無効の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成2年審判第17659号事件として審理したうえ、平成8年2月1日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年2月26日、原告に送達された。
2 審決の理由の要旨(1) 本件商標は、別紙1に示すとおり、文字と図形よりなるところ、構成全体をもって特定の称呼観念を生ずるものとは認められないものであるから、文字部分と図形部分とはそれぞれ独立しても自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものと認められ、構成中の図形部分からは特定の称呼観念は生じないものと認められるが、構成中の「HOLE IN THE WALL」の文字部分からは、
その構成文字に相応して「ホールインザウォール」の一連の称呼を生ずるものと認められる。
(2) 他方、別紙2に示すとおりの登録第1482034号商標(指定商品第31類「調味料、香辛料、食用油脂、乳製品」、昭和52年8月8日登録出願、昭和56年9月30日設定登録、平成4年1月29日存続期間更新登録、以下「引用商標」という。)は、「壁の穴」の文字を書してなるものであるから、構成文字に相応して「カベノアナ」の称呼のみを生ずることが明らかである。
(3) 本件商標より生ずる「ホールインザウォール」の称呼と引用商標より生ずる「カベノアナ」の称呼とを比較すると、両者はその音構成に顕著な差異を有するものであるから、称呼上明確に区別し得るものである。
(4) 両商標の観念を比較するに、一般的にみて、商標が観念上類似するか否かは、二つの商標からただちに同一の観念が想起されうる場合に初めて観念類似が成立するものとみるのが相当であると解されるところ、本件商標中の「HOLE IN THE WALL」の欧文字部分は、これを全体としてみるとき、これより直ちに「壁の穴」の意を想起しうるほど日常的になじまれた英語であるとは言い難いところである。そうとすれば、本件商標と、「壁の穴」の観念を生ずる引用商標とは観念上類似しない。
(5) また、本件商標と引用商標の構成は前記のとおりであるから、両者は外観上も明らかに区別しうるものである。
(6) してみれば、本件商標と引用商標とは、その称呼観念及び外観のいずれよりみても相紛れるおそれのない非類似の商標と認められる。
したがって、本件商標は、商標法4条1項11号の規定に違反してなされたものでなく、同法46条1項1号の規定により無効とすることはできない。
原告主張の審決取消事由
審決は、本件商標から生ずる観念の認定を誤り、その結果、引用商標との類否判断を誤ったものであるので、違法として取り消されるべきである。
1 我が国における英語の普及力についてみるに、高等学校において外国語(英語)の授業は当然に行われているが、公立中学校においても、昭和22年の教育制度改正時より中学1年から英語教育についてはカリキュラム(教育課程もしくは学習指導要領)の一環として筆記、文法はもちろん、会話の全般にわたって授業が実施されてきている。
また、公立小学校においても、約10年位前より、国際教育の一環として、外国人の講師等によりおよそ1校1人の割合で英語を含む外国語について、随時、生活慣習、挨拶等の教育を選択的に実施しており、小学生用の英語教科書も刊行されている(甲第5号証、第6号証)。なお、私立学校の場合、中学校においてはもちろん、小学校、幼稚園においても、英語教育が積極的に授業の中に取り入れられていることは、一般に知られている。
被告は、本件商標をマカロニ、スパゲッティ等のパスタ料理の麺類に用いる調味料のソースに使用しているが、このような場合、調味料のソース類を使う消費者層の多くを占める青少年層の英語意識や英語慣れをも考慮して、観念の類比を論じなければならない。
2 以上のような英語教育の普及や消費者層を前提として、本件商標中の「HOLE IN THE WALL」の欧文字部分を検討すると、まず、「WALL」が日本語の「壁」という名詞であることは、中学生であれば家屋の一部分として習得する身近な英単語であり、学校の授業において容易に身につける言葉である。
また、「HOLE IN THE WALL」の「THE」が名詞につける定冠詞であり、「IN」が場所、位置を表す前置詞であることも、文法上英語の基本構文として習得するはずである。たとえ、これらの「IN」や「THE」が前置詞や冠詞という文法上のきまりであることを忘れたとしても、英文の構成上「IN THE WALL」は「壁の・・・」であり、「IN THE WORLD」が「世界の・・・」という意味を表す場合と同様に、熟語、連語を表す一連のフレーズとして成り立っていることは、中学生以上であれば英語教育の基礎として当然習得しているものである。以上のことからすれば、本件商標の「HOLE IN THE WALL」は、連語として4個の構成単語からなる英語フレーズではあるが、
「壁の穴」の意味を有する以外に他の意味を見出すことはできず、これが直接かつ簡潔な日本語訳であるといえる。
従来の判例及び審決例においても、商標を構成する外国語より生ずる観念とこれを日本語訳した訳語との間に、観念の類似が認められていることを考慮すべきである。例えば、「TOP」と「こま」(東京高裁昭和28年6月9日判決、甲第7号証)、「NORTHERN KING」と「北王」(昭和27年抗告審判第235号審決、甲第8号証)、「LILY」「WHITE」と「白百合」(昭和27年抗告審判第707号審決、甲第9号証)の各商標の間において、観念の共通又は類似が認められている。
したがって、審決の本件商標の欧文字部分から生ずる観念に関する判断は、現在の日常生活において日本語化した英語を使う機会の多い一般家庭や、各種の学校において英語教育を受けた児童学生の英語力の水準を無視し、誤ったものである。
3 原告は、第31類の指定商品であるスパゲッティソースのうちホワイトソースを販売しているが、その際、引用商標「壁の穴」の上に「HOLE in the WALL」の欧文字を付して使用している。
また、原告は、本件商標及び引用商標の指定商品と密接な関係を有するミートソース、トマトソース、スパゲッティ等の加工食料品を指定商品とする第32類において、商標「壁の穴」の登録出願を行い、平成7年2月28日、登録第2703936号として商標登録され、これと連合商標の関係にあるとして「HOLE IN THE WALL」の登録出願を行い、これも出願公告された(商公平7-51030号)。そして、原告は、上記の「HOLE IN THE WALL」と「壁の穴」の両商標を、上下二段に併記した態様により表記して、第32類の指定商品について流通させ、宣伝、販売経路で使用するとともに、上記態様により両商標を使用した第32類の加工食品を、引用商標を付した第31類のホワイトソースの抱き合わせ商品として、一般店頭及び国内外で宣伝、販売している。
なお、原告は、「ひも、網類、包装用容器」を指定商品とする第18類においても、商標「壁の穴」につき登録第1470220号商標権を有し、これの連合商標として、商標「HOLE IN THE WALL」につき登録第2547615号商標権を有する。
これらの商標の使用態様からみても、一般需要者、消費者は、同一商品について「HOLE IN THE WALL」は「壁の穴」の英語訳であり、同義語の商標名であると直観し理解するはずであり、特許庁の連合商標の登録実務においても、両者は類似関係にあることが認められているのであるから、両者は観念において類似することは明らかである。
被告の反論
審決の認定判断は正当であって、原告主張の審決取消事由は、いずれも理由がない。
1 我が国における初等英語教育の普及自体と本件の判断とは、直接には関係しない。なぜなら、本件指定商品の主たる取引者層・需要者層は、現に初等英語教育を受けている者ではないし、日常生活において、このような教育で履修したことを実践しているわけでもないからである。
原告は、青少年層の英語意識や英語慣れをうんぬんするが、たとえ青少年層であっても、「HOLE IN THE WALL」との表現を日常的に用いているわけではない。
2 本件商標の欧文字部分のうち、「HOLE」からは「ホール」という称呼を生ずるが、日本語で「ホール」というと「穴」よりもむしろ「会館」、「大広間」の意味が想起され、英語の「Hall」に対応する観念が生ずる。また、「WALL」なる単語も、これから何も考えずに直ちに「壁」の意を想起できるほど、日常的になじまれた英単語ということはできない。
しかも、原告の提出した小学生用英語教科書(甲第5、第6号証)では、「WALL」に対応する英語表現としては、もっぱら「on the wall」というフレーズが用いられており、「in the wall」という表現は用いられておらず、そのフレーズを慣れ親しんだ表現ということはできない。そもそも、テキストに載っているだけでは、日常的になじまれた英語であるといえないことは当然であるうえ、英語の前置詞には微妙なニュアンスがあり、これは日本人には理解し難いところであるから、「on」を「in」に置き換えたものを自然に感じるというのでは疑問であり、日本人は前置詞「in・・・」を「・・・の中に」なる意味に理解するので、「in the wall」なるフレーズは、いったん「壁の中に」の意味に理解されるものである。
したがって、「壁の穴」なる日本語が併記されない限り「HOLE IN THE WALL」なる英語から直ちに「壁の穴」なる日本語を直観するものではないことは明らかである。
原告が引用する、日本語と英語との間で観念類似を認めた判例ないし審決例において、問題となった英語は、いずれも1単語又は2単語のそれ自体が平易で、これからすぐに対応する日本語を想起し得る英単語から構成され、極めて短いシンプルなものである。これに対し、本件商標のように、4単語からなる、しかも前置詞を含む複雑かつ長いフレーズについて、これを翻訳した日本語との観念類似が認められた判例ないし審決例は見当たらない。
3 商標についての登録無効事由の判断の基準時は、当該商標の登録査定時であると解されるところ、本件商標の登録査定時は、昭和63年1月14日である。
ところが、原告は、昭和63年1月14日以前に、原告が「HOLE IN THE WALL」と「壁の穴」とを必ず併記して使用していた旨の事実を示す証拠を提出していないから、原告の主張は、本件商標の登録査定時の事実に基づくものといえず失当である。
また、原告主張の「壁の穴」と「HOLE IN THE WALL」との連合商標についての事実関係は認めるが、連合商標登録出願における類似性の判断と無効審判における類似性の判断とは、特許庁の取扱いにおいて同一に取り扱われてはいないのであって、前者における類否判断を後者における類否判断の資料とすることは適切でない。
証拠(省略)
当裁判所の判断
1 審決の、本件商標と引用商標の認定内容、両者が称呼上及び外観非類似であるとの判断、引用商標から「壁の穴」の観念を生ずるとの認定は、いずれも当事者間に争いがない。
2 本件商標から生ずる観念について、検討する。
(1) 本件商標は、別紙1表示のとおり、図形部分とその上部に図形部分の約10分の1の幅で一列に横書きされた「HOLE IN THE WALL」の4語句からなる欧文字部分を組み合わせた構成であり、全体の約9割以上の面積を占めるその図形部分は、腰部から上部を描かれた婦人が、湯気をたてて茹で上った麺類を立ったまま皿に盛りつけているところを表した具体的なものであると認められる。
したがって、本件商標のうち、茹で上がった麺を盛りつけている人物を描いた図形部分からは、「茹で上がった麺」又は「麺を茹で上げている人」という比較的具体的な観念が生ずるものということができる。
一方、図形部分の上部に一列に横書きされた「HOLE IN THE WALL」の欧文字部分は、図形部分の約10分の1の幅で記載されているから、上記図形部分に付加された文字という印象を与え、本件商標全体の構成において、見る者に与える影響は、図形部分に比し薄弱たるを免れない。
(2) そして、外国語で表示されている文字商標については、その商品の主たる需要者が、当該外国語文字の表示又は称呼によって、日本語文字の場合とほぼ同様に、その意味が直ちに想起できる程度に当該外国語文字の理解が我が国において普及している場合に、当該外国語文字から、その日本語訳に相当する観念が生ずるものというべきであるところ、本件商標は、その指定商品を第31類「調味料、香辛料、食用油脂、乳製品」とするものであり、これらの商品は、一般の食料品店やスーパーマーケットなどで販売されているものであるから、その主たる需要者は、青少年層に限られず一般の消費者全体と認められ、これら普通一般の消費者の英語に対する普及度及び理解度からみると、「HOLE IN THE WALL」の4語句からなる欧文字の意味するところが、その表示又は称呼に基づいて、直ちに「壁の穴」であると理解できる程度に至っているものとは認めることができない。
(3) 我が国の中学校、高等学校及び一部の小学校において積極的に英語教育が実施されていることが事実であるとしても、そのことによって、履修された英単語又は英語のフレーズの全てについて、その意味するところが、日本語文字の場合とほぼ同様に、直ちに理解される程度に至るわけではないから、その理解の程度は、
当該特定の英語語句に則して個別具体的に検討されなければならないことは当然である。
そして、本件商標に関しては、例えば、小学生用の英語教科書(甲第5号証、第6号証)において、「wall」の意味が「壁」であることは示されているが、本件商標と同義である「hole in the wall」というフレーズが表示されてその意味が「壁の穴」であることを示している箇所はなく、「壁の・・・」を意味するフレーズとしては「on the wall」が表示されているだけである。また、研究社「リーダーズ英和辞典」(昭和59年発行」によれば、
「・・・on the wall」のフレーズが例示されて「壁に掛けた・・・」と訳されているが、「in the wall」のフレーズは表示されていないことは、当裁判所に顕著である。以上のことからすると、我が国の通常の英語教育において、「HOLE IN THE WALL」というフレーズが一般的に多用されて、これが「壁の穴」と訳されていると認めることはできず、そのような英語教育の状況に照らしても、「HOLE IN THE WALL」から「壁の穴」との観念が生ずるとまで認めることはできないというべきである。
(4) 原告は、自己の商品を流通させ、宣伝、販売する際、「HOLE IN THE WALL」(「HOLE in the WALL」の表示を含む。以下同じ。)と「壁の穴」を、上下二段に併記した態様により使用しており、このことにより、一般消費者は、「HOLE IN THE WALL」を「壁の穴」の英語訳であると直観し理解するはずである旨主張する。
しかしながら、本件全証拠によっても、本件商標の登録査定時である昭和63年1月14日までの間に、原告が「HOLE IN THE WALL」と「壁の穴」とを上下2段に併記して広範に使用していたものと認めることはできないから、原告の主張は、その前提を欠くものといわなければならない。
仮に、原告が、前記時点までの間に上記のような態様により「HOLE IN THE WALL」と「壁の穴」とを併記して使用していたとしても、自己が宣伝、販売しようとする限られた商品における使用態様によって、一般の広範な消費者、需要者が、
本件商標中の「HOLE IN THE WALL」から「壁の穴」を直ちに想起することが可能となっていたとは、到底考えれない。
したがって、原告の主張は、いずれにしても失当である。
(5) そうすると、審決の「本件商標中の『HOLE IN THE WALL』の欧文字部分は、これを全体としてみるとき、これより直ちに『壁の穴』の意を想起し得るほど日常的になじまれた英語であるとはいゝ難いところである。」(審決書8頁2〜7行)との判断に誤りはなく、前示のところから、本件商標においては、図形部分から生ずる「茹で上がった麺」又は「麺を茹で上げている人」という観念をもって、構成全体から生ずる観念と認めるべきものといわなくてはならない。
3 以上の各外観称呼観念をそれぞれ持つ本件商標と引用商標を全体として比較検討すれば、両商標は、外観称呼において著しく相違しており、観念においても相違するというべきであるから、これを類似するものと認めることはできないというべきである。
原告主張の「壁の穴」と「HOLE IN THE WALL」との連合商標についての事実関係は当事者間に争いがないが、本件商標の構成は、単に「HOLE IN THE WALL」の文字のみからなるものではなく、前示のとおり、図形部分が商標全体において大きな割合を占めているものであり、上記連合商標に係る商標とはその構成を異にするものであるから、その類否判断につき同一に論ずることはできない。
したがって、本件商標は、商標法4条1項11号の規定に違反してなされたものでないから、同法46条1項1号の規定により無効とすることはできないとした審決の認定判断は正当であって、他に審決を取り消すべき瑕疵は認められない。
4 よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 牧野利秋
裁判官 芝田俊文
裁判官 清水節