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関連審決 審判1986-23859
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成13行ケ347審決取消請求事件 判例 商標
関連ワード 包装 /  識別機能 /  指定商品 /  普通名称(3条1項1号) /  記述的商標(3条1項3号) /  類似性(類否判断) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  取引の実情 /  出所の混同 /  存続期間 /  更新登録 /  類似商標 /  継続 /  非類似 /  同業者 / 
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事件 平成 7年 (行ケ) 17号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1996/07/18
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告(1) 特許庁が昭和61年審判第23859号事件について平成6年11月7日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文同旨
請求の原因
1 特許庁における手続の経緯 原告は、指定商品を平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令別表第30類「キャンデー、その他の菓子パン」として、「トラピスチヌの丘」の文字を横書きしてなる登録第1272868号商標(別紙第1。昭和49年7月4日登録出願、昭和52年5月30日設定登録、昭和62年10月19日商標権存続期間更新登録。以下「本件商標」という。)の商標権者であるが、被告は、昭和61年12月3日、商標法51条に基づき、原告を被請求人として、本件商標の登録取消しの審判を請求したところ、特許庁は、この請求を昭和61年審判第23859号事件として審理した結果、平成6年11月7日、「登録第1272868号商標の登録は、取り消す。」との審決をし、その謄本は、同年12月19日、原告に送達された。
2 審決の理由の要点(1) 本件商標は、前記のとおり「トラピスチヌの丘」の文字を、同書、同大、
同間隔により横書きしてなり、前記商品を指定商品として、昭和49年7月4日に登録出願され、昭和52年5月30日に設定登録、昭和62年10月19日に商標権存続期間更新登録がなされたものである。
(2) これに対し、請求人(被告)が所有し又は所有していた登録商標は次のとおりである。
ア 登録第677056号商標 同商標は、別紙第3記載の@のとおりの構成からなり、前記第30類「菓子、パン」を指定商品として、昭和38年11月11日に登録出願、昭和40年5月28日に商標登録され、昭和50年7月4日及び昭和60年12月23日の2回に渡り、商標権存続期の更新登録がなされている。
イ 登録第841980号商標(以下「引用商標(1)」という。) 同商標は、別紙第3記載のAのとおり、「トラピスチヌバター飴」の文字を横書きしてなり、前記第30類「バター飴」を指定商品として、昭和42年8月15日に登録出願、昭和44年12月24日に商標登録され、昭和55年9月26日及び平成元年11月21日の2回に渡り、商標権存続期間更新登録がなされている。
ウ 登録第1155483号商標(以下「引用商標(2)」といい、なお、引用商標(1)と引用商標(2)とを合わせて「引用商標」という。) 同商標は、別紙第3記載のBのとおり、「トラピスチヌ」の仮名文字と「TRAPPISTINES」の欧文字を上下二段に横書きしてなり、前記第30類「菓子、パン」を指定商品として、昭和47年9月22日に登録出願、昭和50年9月22日に商標登録され、昭和61年1月20日に商標権存続期間更新登録がなされている。
エ 登録第1392002号商標 同商標は、別紙第3記載のCのとおりの構成からなり、前記第30類「菓子、パン」を指定商品として、昭和50年8月22日に登録出願、昭和54年9月28日に商標登録され、平成元年9月28日に商標権存続期間の満了により、平成3年1月10日に抹消登録がなされた。
(3) 被請求人(原告)は、商品「クッキー」について、次のとおりの商標を使用している。
ア 別紙第2記載の@のとおり、クッキーの外装箱表面に、聖女像を強調したトラピスチヌ修道院の図形を背景として、「トラピスチヌの丘」の文字と「クッキー」の文字を、二段に横書きして表示されているもの(「トラピスチヌの丘」の文字部分については、「の丘」の文字部分が、「トラピスチヌ」の文字に比し約2分の1の大きさで表されている。以下「使用商標(1)」という。)イ 別紙第2記載のAのとおり、同外装箱の下側面に、「トラピスチヌの丘クッキー」の文字を、横一列に籠文字風に表示されているもの(そのうち、「の丘」の文字部分は、「トラピスチヌ」及び「クッキー」の文字部分に比し、約3分の1の大きさで表されている。以下「使用商標(2)」という。)ウ 同外装箱の内容物である「クッキー」は一つ一つ包装されているが、その包装袋の表面に、別紙第2記載のBのとおり、「THE HILL OF」の文字、
「TRAPPISTINES」の文字及び「COOKIES」の文字を三段に横書きにて表示したもの(「TRAPPISTINES」の文字部分が中央に表示され、それに接するように、「THE HILL OF」の文字部分がその左上部分に、「COOKIES」の文字部分がその右下部分に表示されるとともに、「TRAPPISTINES」の文字部分は、他の文字部分に比し倍の大きさで表示されている。以下「使用商標(3)」といい、なお、使用商標(1)ないし(3)を合わせて「使用商標」という。) 更に、同外装箱の上側面には、「Trappistine No Oka Cookey」の文字が横書されてあり、同外装箱の右側面には「総発売元」、「昭和製菓株式会社」、「北海道函館市<以下略>」の文字が表示され、同外装箱の左側面には「登録商標」「No1272868」の表示がある。
(4) 他方、請求人(被告)は、自己の所有する前記の登録商標を、指定商品に対し、次のとおり使用している。
ア 商品「クッキー」について 外装箱の上表面に、「トラピスチヌクッキー」の文字と「TRAPPISTINES COOKIES」の文字を二段に表示するとともに、外装箱の上側面に、
「トラピスチヌクッキー」の文字を表示し、更に、内容物である「クッキー」の包装袋に、「トラピスチヌ」の文字と「クッキー」の文字とを二段に表示して使用している。
イ 商品「バター飴」について 外装袋に「トラピスチヌ」の文字と「バター飴」の文字を二段に表示し、外装箱に「トラピスチヌバター飴」の文字を横書きにより表示して使用している。
(5) 被請求人(原告)の本件商標と使用商標とを比較するならば、次のとおりである。
ア 本件商標と使用商標(1)、同(2)について 本件商標と使用商標(1)、同(2)の各構成態様は前記のとおりであり、両者は、外観上、「の丘」の文字の大小の差により区別し得るものであるから、同一の商標とはいえない。
しかしながら、両者は、その構成文字に相応して、ともに、「トラピスチヌノオカ」の称呼及び「トラピスチヌの丘」(トラピスチヌ修道院のある丘)の観念を生じるものであるから、称呼上及び観念上、類似の商標といわざるを得ない(なお、
使用商標(1)、同(2)の構成中における「クッキー」の文字部分は、商品の普通名称を表したものと認められる。)。
イ 本件商標と使用商標(3)について 両者の各構成態様は前記のとおりであり、外観称呼の点においては区別し得る差異を有するものであるが、両者は、ともに、「トラピスチヌの丘」(トラピスチヌ修道院のある丘)の観念を生ずることにおいて類似の商標といわざるをえない(なお、構成中の「COOKIES」の文字部分は、商品の普通名称を表したものと認められる。)。
ウ してみれば、被請求人(原告)の本件商標と、同人が指定商品中の商品「クッキー」について使用する使用商標とは類似の商標であり、上記の使用商標の使用は、本件商標の使用とは認められず、本件商標に類似する商標の使用といわざるをえない。
(6) そして、被請求人(原告)の使用商標と、請求人(被告)所有の引用商標とを比較検討するに、
ア 前記認定のとおり、使用商標(1)及び同(2)は、ともに「トラピスチヌノオカ」の称呼と、「トラピスチヌの丘」(トラピスチヌ修道院のある丘)の観念を生じ、使用商標(3)は、「ザヒルオブトラピスチヌ」の称呼と、「トラピスチヌの丘」(トラピスチヌ修道院のある丘)の観念を生ずるものであるが、それらにおいては、ともに、「トラピスチヌ」及び「TRAPPISTINES」の文字部分がそれぞれ強調されているように大きく表示されていることから、これに接する者は、クッキーの外装箱に描かれている「トラピスチヌ修道院の図形」と相俟って、
「トラピスチヌ」及び「TRAPPISTINES」の文字部分に着目しやすく、
それに相応して、そこから共に生ずる「トラピスチヌ」(トラピスチヌ修道院の略称)の称呼観念をもって、取引に資する場合が決して少なくないものと認めるのが相当である。したがって、使用商標は、それぞれ共に、「トラピスチヌ」(トラピスチヌ修道院の略称)の称呼観念を生ずるものというべきである。
イ 他方、引用商標(1)は、「トラピスチヌバター飴」の文字を横書きしてなるものであり、該構成文字に相応して、「トラピスチヌバターアメ」(トラピスチヌバター飴)の称呼観念を生ずるものであるが、その構成中、「バター飴」の文字部分は商品を表示するものであり、自他商品の識別機能を果たす部分は「トラピスチヌ」の文字部分にあるものと認め得るから、該文字部分に相応して、「トラピスチヌ」(トラピスチヌ修道院の略称)の称呼観念をも生ずるものと認められる。
更に、引用商標(2)は、「トラピスチヌ」及び「TRAPPISTINES」の文字を二段に書してなるものであり、該構成文字に相応して、「トラピスチヌ」(トラピスチヌ修道院の略称)の称呼観念を生ずるものと認められる。
ウ してみれば、引用商標と使用商標は、外観の異同について言及するまでもなく、「トラピスチヌ」(トラピスチヌ修道院の略称)の称呼観念を共通にする類似の商標といわざるをえず、また、両者を使用する商品は、同一もしくは類似の商品であることが明らかである。
そして、被請求人(原告)の使用商標と、請求人(被告)が商品「クッキー」に使用する、「トラピスチヌクッキー」の文字と「TRAPPISTINES COOKIES」の文字とを二段に表示してなる商標、及び、商品「バター飴」に使用する、「トラピスチヌバター飴」の文字を表示してなる商標とは、いずれも同様の理由からそれぞれ類似する商標と認められる。
(7) しかして、請求人(被告)が、「トラピスチヌバター飴」の文字からなる商標、「トラピスチヌ」の文字と「TRAPPISTINES」の文字を二段に書してなる商標、「トラピスチヌ修道院」の文字を要部とする登録商標を、本件商標の指定商品と同一又は類似の商品について所有していることを、被請求人(原告)が認識していたことについては争いがない。更に、前記認定のとおり、請求人(被告)が、商品「クッキー」について、「トラピスチヌクッキー」の文字と「TRAPPISTINES COOKIES」の文字を二段に書してなる商標を使用し、
「バター飴」について、「トラピスチヌバター飴」の文字からなる商標を使用していることは、「旅行者の為にはこだてがよくわかる本」(昭和52年4月20日発行)、その他の北海道に関する観光案内書等の記載から容易に認め得るところである。そうすると、被請求人(原告)は、請求人(被告)と同一地域に所在するいわゆる同業者であるから、かかる事情について当然に認識していたものというべきである(なお、被請求人(原告)は、請求人(被告)が登録商標の一部を使用して修道院内でバター飴、クッキー等を販売していることは認めている。)。
そして、被請求人(原告)の使用商標が本件商標に類似する商標であり、かつ、
被請求人(原告)の使用商標と、請求人(被告)の引用商標及び請求人(被告)の使用する商標とは類似する商標であることから、被請求人(原告)は、当該使用商標を「クッキー」に使用した場合には、請求人(被告)が取り扱う同一又は類似の商品との関係において、その出所が同一のものであるかの如き混同を生ずるということをも認識していたものというべきである。
以上によれば、被請求人(原告)は、故意に、本件商標に類似する商標を使用し、請求人(被告)の商品と混同を生ずるものをしたものと認められる。
(8)したがって、本件商標は、被請求人(原告)が、その指定商品中の「クッキー」について、故意に本件商標に類似する商標を使用したものであって、他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたものであるから、本件商標は、商標法51条の規定によりその登録を取り消されるべきである。
3 審決を取り消すべき事由 審決の認定判断のうち、審決の理由の要点(1)は認める。同(2)のうち、被告が、登録第677056号商標、引用商標(1)、引用商標(2)、登録第1392002号商標を所有し、又は所有していたことは認め、その余は争う。同(3)ないし(8)のうち、原告が、使用商標(1)ないし(3)を、原告が販売する商品「クッキー」に使用していることは認め、その余は争う。
審決は、原告の商品である「クッキー」について使用されている使用商標が、本件商標に類似する商標であること、上記使用商標の使用が被告の業務に係る商品との混同を生じさせるものであること、上記混同が原告の故意によるものであることについて、いずれも判断を誤ったものであるから、違法であり、取り消されるべきである。
(1) 使用商標は、本件商標に類似するものではない。
ア 本件商標と使用商標(1)、同(2)は、商品名である「クッキー」を除いた商標そのものの部分において、構成文字、文字配列を同じくする。ただ、使用商標(1)、同(2)においては、「の丘」の文字部分が若干小さく表現されているが、このような文字部分の大小の差は、取引の実際においては、需要者が当該文字部分の存在を看過し、商品の選択を誤るという結果をもたらすものではなく、使用商標(1)、(2)の全体からみるならば、それらは、一見して、本件商標と同一のものと認識できるものである。特に、本件の場合のように、「トラピスチヌ」と「丘」という二つの語を助詞の「の」で結び、全体として、個々の語のもつ語義とは別異の観念(「トラピスチヌの丘」、あるいは、例えば「修道女の集う丘」の如き観念)を想像させる、一連に構文された記述的商標にあっては、構成上の些細な大小の差が注目されることはなく、常に全体が一つの商標として把握され、認識されるものとみるのが自然である。したがって、本件商標と、使用商標(1)、同(2)との間における上記のような文字部分の大小の差は、それらの間の同一性を否定する理由となるものではない。
そもそも、登録商標を使用する権利は、物理的に全く同一の商標を使用すること等に限定されるべきではなく、権利の範囲については、商取引の実情等をふまえた上での社会通念上許される弾力的な解釈運用により定むべきである。
そうすると、本件商標と使用商標(1)、同(2)とは、実質上同一の商標といって差支えなく、上記使用商標は、本件商標の使用によるものにほかならないというべきである。
イ 一方、本件商標と使用商標(3)については、その「称呼」及び「外観」において顕著に異なることは論ずるまでもない。
また、商標の「観念」からその類否を判断することは、社会生活上あるいは日常の取引上、違和感なく十分な互換性をもって相互に用いられる程度に普及した語からなる商標に至って、初めて論ずることができるものであり、まして、使用商標(3)のような構文による商標については、逐一翻訳の上、ここから抽象的な観念上の共通性を看取し、それを、本件商標から生ずると認められる「トラピスチヌの丘」、あるいは、例えば「修道女の集う丘」の如き観念との類否判断に資すべきものとは到底考え難い。すなわち、使用商標(3)は、商取引の場において、これより殊更固有の観念を生ずるような構成のものではない。したがって、両者は、観念上も類似するものとはいえない。
更に、商標の類否判断における基本原則が、一つの要素に止まらず、称呼外観観念を総合的にみるべきものとされていることからすれば、使用商標(3)は、称呼外観上の顕著な差とあいまって、本件商標とは明らかに非類似のものといわなければならない。ウ 以上のとおり、使用商標(1)、同(2)は、事実上本件商標そのものといえるものであり、他方、使用商標(3)は、本件商標に類似するものではなく別個のものであるから、原告による使用商標の使用が、本件商標に類似する商標の使用に当たるとした審決の認定、判断は、既にその点において失当といわざるをえない。
(2) 原告による使用商標の使用は、商品の出所について混同を生じるものではない。
ア 商標法51条の適用にあたって重要なことは、自己の登録商標に類似する商標を使用した結果、商品の出所につき他人との間に混合を生ぜしめることをしたとすべき特段の事情が存するか否かであって、引用商標の有無、そしてそれとの単なる類否をもって足りるとするものではない。
しかしながら、あえて、使用商標と引用商標との類否について検討するならば、
引用商標は、いずれも前記のような外観構成からなり、「トラピスチヌ」の称呼と、「トラピスチヌ」「(特定会派に属する)修道女」の如き観念を生ずるものである。
これに対し、使用商標は、前記(1)のとおり観察されるべきものであって、使用商標(1)及び同(2)からは「トラピスチヌノオカ」の称呼と、「トラピスチヌの丘」あるいは「修道女の集う丘」の如き観念のみを生じ、使用商標(3)については、単に「ザヒルオブトラピスチヌ」の称呼のみを生じ、観念上においては、
「トラピスチヌ」「(特定会派に属する)修道女」の如き観念を生ずることはなく、全体として、特定、固有の意味合いを看取せしめない構成のものといえるのである。
前記(1)で述べたとおり、幾つかの語を結び合わせ、全体として、個々の語の持つ本来の語義ではない別異の観念(「トラピスチヌの丘」、あるいは、例えば「(特定会派に属する)修道女」の如き観念)を想像させる一連に構文された記述的商標にあっては、構成上の些細な大小の差に注目し、殊更特定箇所を抽出して観察することなく、常に全体として一つの商標として把握し、認識されるとみるのが自然というべきである。
したがって、原告の使用商標と被告の引用商標の称呼観念外観を総合的に観察すれば、両者は明らかに非類似の商標であるといわざるをえない。
なお、原告商品である「クッキー」の外装箱にデザインされた風景画は、上記の商標の類否判断に影響を及ぼすものではない。なぜならば、簡易迅速を貴ぶ取引場裡にあっては、一般需要者が、この図形から直ちにトラピスチヌ修道院を想起し、
それを理由の一つとして、使用商標から「トラピスチヌ」「TRAPPISTINES」の文字のみを抽出し、観察するというようなことは到底認め難いからである。
イ 商品の出所の混同の有無については、原告の使用商標を付した原告商品が、被告の取扱いに係る商品であるかの如く需要者間に誤認せしめるような特段の事情、
例えば、引用商標、使用商標の周知著名性、取引形態等を明らかにする必要があり、それらを総合して判断すべきである。
原告は、昭和52年5月30日に本件商標の登録を受けた後、昭和53年4月から、新商品の「クッキー」につき「トラピスチヌの丘」の商標の使用を開始し、以後、全国的規模をもって盛大に事業を営み、品質も優れ、好評を博しているものである。一方、被告は、修道院内の売店において、限定的に菓子等を販売するといった形を中心に事業を営んでいる。
したがって、原告が上記のとおり大規模に事業を開始するにあたり、その際、既に被告の「クッキー」等が、需要者間において周知著名なものであったとは認め難いところであり、その事業形態の顕著な差と、一見して異なる商標の表示等とがあいまって、原告の使用商標の使用により、被告の商品との出所の混同が生じた事実はないものというべきである。
(3) 原告には、被告の業務に係る商品との出所の混同について、故意はない。
原告が、被告の事業内容や登録商標の存在をたまたま知り、又は知り得る立場にあったり、その登録商標の使用を知っていたとしても、そのことが、直ちに、出所の混同についての故意の認定につながるものではない。
上記故意の認定のためには、少なくとも更に、原告において、商標を使用することにより商品の出所について混同を生ずる可能性があり得ると認識するに至る蓋然性の高さ、例えば、その商標の周知著名性等を明らかにする必要がある。
しかしながら、審決は、この点に関する事情について具体的に述べるところがなく、原告が同業者であるということのほか、実質的には、原告の使用商標と被告の引用商標との類否判断と、被告による商品販売の事実をもって、直ちに、原告が、
商品の出所の混同について故意を有するとした点において、判断を誤ったものである。
請求の原因に対する認否及び被告の主張
請求の原因1及び2の事実は認めるが、同3は争う。
審決の認定判断は正当である。
1 本件商標と使用商標の類否について(1) 本件商標と使用商標(1)及び同(2)とは、外観上同一の商標とはいい難く、称呼を同じくする類似の商標である。
我が国においては、同一の指定商品について同一の商標を登録することは認められていない。そして、同一の商標か否かの基準は厳密に解されており、商標間の観念の同一に関係なく、字体の相違、縦書きか横書きかの相違、図形の付加の有無による相違があっても、それらは、同一商標ではなく、類似商標として取り扱われている。
したがって、使用商標(1)及び同(2)は、本件商標と同一の商標ではなく、
本件商標に類似した商標であることは明らかである。
(2) 本件商標と使用商標(3)とは、観念において類似の商標である。
我が国における英語の普及状況からすれば、使用商標(3)が「トラピスチヌの丘」を英語に直訳したものであることが一般に理解され、原告商品の売買に際しても、使用商標(3)に基づいて、「トラピスチヌクッキー」又は「トラピスチヌの丘クッキー」と指示されるのが取引の実情と認められる。
したがって、使用商標(3)が、本件商標と観念を同一にするものであり、その類似商標であることには疑問はない。
なお、原告は、本件において、使用商標(1)を付した箱内に、使用商標(3)を付した包装袋入りクッキーを収め、販売していたものであるから、原告自身においても、使用商標(1)と同(3)が、取引者、需要者から同一の観念のものとして取り扱われることを期待していたものというべきであり、いずれも本件商標の使用に係るものであることを自認していたものと考えられる。
2 使用商標の使用による商品の出所の混同について(1)被告は、商品「クッキー」、「バター飴」について、引用商標を、前記第2、2(4)のとおり使用しているが、その表示中、「クッキー」及び「バター飴」の文字部分は使用商品を表すものであるから、自他商品の識別標識としての機能を有する部分は、「トラピスチヌ」及び「TRAPPISTINES」の文字部分にあるものと認められる。したがって、そこからは「トラピスチヌ」の称呼観念が生ずる。
他方、原告の使用商標についても、その表示中、「クッキー」及び「COOKIES」の文字部分は使用商品を表すものであるから、自他商品の識別標識としての機能を有する部分は、「クッキー」及び「COOKIES」の文字部分を除外した残りの部分にあるものと認められる。そして、上記残りの部分のうち、使用商標(1)及び同(2)における「の丘」の文字部分は特に小さく目立たないように表示されており、使用商標(3)における「THE HILL OF」の文字部分も小さくかつ上段に記載されている。したがって、使用商標(1)及び同(2)からは、「トラピスチヌノオカ」又は「トラピスチヌ」の称呼観念が生じ、使用商標(3)からは「ザヒルオブトラピスチヌ」又は「トラピスチヌ」の称呼観念が生ずるものと認められる。
そうすると、被告の商品に使用された引用商標と原告の使用商標とは、「トラピスチヌ」の称呼を共通にする類似の商標であり、審決の認定判断に誤りはない。
(2) 被告は、昭和17年当時、既にビスケット、パンデピス等を製造していたが、昭和27年9月6日に菓子製造の許可を受け、パンケーキ、バター、チーズ等の製造とともに、その直後からクッキー類を製造し、これに「トラピスチヌデセール」の商標を付して販売していた。また、被告は、昭和33年10月ころからバター飴の製造も開始し、当初は「トラピスチヌバターアメ」「TRAPPISTINES BUTTER AME」の商標を付して販売を行っていた。被告は、その後も、「クッキー」、「バター飴」の包装箱等に、前記(1)の引用商標を付して、
それらを現在まで継続して販売しているものである。上記販売は、被告修道院内の売店において行われてきたが、「トラピスチヌ修道院」の周知著名性と相俟って、
各種菓子類に付した「トラピスチヌ」の商標は、既に周知著名となっているものであり、修道院を訪れたほとんどの観光客は、この売店において、上記「クッキー」「バター飴」を土産品として買い求めている。
一方、原告は、その製造に係る「クッキー」に使用商標を付して、函館市内その他で多数販売している。
このような状況からみるならば、原告による上記の使用商標の使用は、商品に出所の混同を生じるものであることは当然である。仮に、使用商標の使用者が原告であると気付いた需要者がいたとしても、気付かない需要者もまた存在することを否定することはできない。
また、原告の使用商標が付された包装箱の表面には被告の建物と聖女像の風景が写実的に表され、被告の販売に係る商品と紛らわしいことは一見して明らかである。
なお、原告は、使用商標を付したクッキー等を大規模に販売していると主張するが、出所の混同を生じるか否かは販売規模の大小により決まることではない。
(3) 商品の出所の混同に関する原告の故意について 原告は、被告が長年「トラピスチヌ」の商標を使用してパンケーキ、クッキー、
バター飴、チーズ等を製造販売していることを十分知りながら、「トラピスチヌの丘」の商標を出願登録して使用したのみならず、「の丘」の文字を殊更小さく表示し(使用商標(1)及び同(2))、「TRAPPISTINES」の文字を殊更大きく表示している(使用商標(3))のであるから、使用商標による商品の出所の混同についての故意は歴然としている。原告としては、本件商標を上記のように表示するならば、当然のことながら「トラピスチヌ」と類似することになることを知り、むしろこれを期待したものというべきである。また、原告は、前記(2)のとおり、使用商標(1)を使用するにあたり、被告の著名な建物と聖女像の図柄を配して、取引者、需要者の錯覚、混同を期待したものと考えられる。
したがって、原告が、使用商標を使用するにあたり、商品の出所を混同させることについて故意を有していたことは明らかである。
証拠(省略)
理 由
請求の原因1及び2の各事実(特許庁における手続の経緯、審決の理由の要
点)については当事者間に争いがない。
また、審決の認定判断のうち、本件商標の構成とその指定商品、登録出願、登録、更新登録の各年月日並びに被告が、引用商標、登録第677056号商標を所有していること及び登録第1392002号商標を所有していたことについても当事者間に争いがなく、更に、成立に争いのない甲第3、第4、第6、第7号証の各2、原告主張の写真であることについて争いのない甲第8号証の1ないし3、5、
第9、第10号証の各1ないし3、弁論の全趣旨により成立が認められる乙第1、
第2号証、第3号証の1、2、弁論の全趣旨により被告の主張の写真であることが認められる乙第13号証の1、2、第14号証によると、上記引用商標、登録第677056号商標、登録第1392002号商標の各構成とその指定商品、登録出願、登録、更新登録、抹消登録の各年月日、原告の使用商標の構成及びその使用状況、被告が商品「クッキー」及び「バター飴」について使用している商標の構成及びその使用状況がいずれも審決記載のとおりであることが認められる。
そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。
1 本件商標と使用商標の類否について(1) まず、原告は、使用商標(1)及び(2)について、それらは本件商標と同一のものというべきであるから、その使用は、本件商標に類似する商標の使用にはあたらないと主張する。
ところで、使用商標(1)及び(2)のうち、「クッキー」の文字部分は、単に商品の普通名称を示したものというべきであり、商標の要部をなすものとは認められないから、上記使用商標と本件商標との同一性ないし類否を判断するにあたっては、その部分を除いて検討すべきものと解される。
その上で、本件商標と使用商標(1)及び(2)とを比較検討するならば、両者は、いずれも、「トラピスチヌノオカ」という同一の称呼及び「トラピスチヌの丘」としての同一の観念を生じるものと認められる。
しかしながら、外観において、本件商標は、同一の大きさの「トラピスチヌの丘」の8文字を横書きしてなるものであるのに対し、使用商標(1)は、聖女像を右側約3分の1に配したトラピスチヌ修道院の図形を背景として「トラピスチヌの丘」の8文字を横書きしてなり、使用商標(2)は、「トラピスチヌの丘」の8文字を横書きしてなるものであるが、いずれも、そのうちの「の丘」の部分が「トラピスチヌ」の文字部分に比べて小さく表示され(使用商標(1)においては約2分の1、使用商標(2)においては約3分の1)、「トラピスチヌ」の文字部分が、
取引者、需要者の注意を引く構成とされているものというべきである。
そうすると、使用商標(1)及び(2)と本件商標は、その称呼観念を共通にするものの、外観において異なるものといわざるをえないから、使用商標(1)及び(2)は、本件商標と同一の商標と認めることはできず、本件商標に類似する商標というべきである。
(2) 次に、原告は、使用商標(3)について、本件商標とは非類似かつ別個の商標であると主張する。
そこで、検討するに、使用商標(3)は、審決の理由の要点(3)ウ認定の構成からなり、そのうち、「COOKIES」の文字部分については、商品の普通名称を示すものと解されるから、その部分を除いて本件商標と比較すべきことは前記(1)と同様である。
そして、同商標は、すべて欧文字により構成され、また、上記のとおり「COOKIES」部分を除いた文字部分からは、英語読みによる「ザヒルオブトラピスチヌ」の称呼が生じるものと認められるから、その外観及び称呼の点において本件商標と異なるものというべきである。
しかしながら、使用商標(3)は、本件商標を構成する語句をそのまま英語に訳したものであることがその記載からみて明らかであり、また、我が国における英語教育の普及状況を考慮するならば、使用商標(3)に接する一般の取引者、需要者においては、それが「トラピスチヌの丘」を意味するものであることを容易に理解し得るものというべきである。
そうすると、使用商標(3)と本件商標は、その観念において同一のものであることが明らかであり、そのため、使用商標(3)も、本件商標の使用に係るものというべきであるとともに、本件商標に類似するものと認めるのが相当である。
(3) 以上によれば、使用商標はいずれも本件商標に類似する商標というべきであるから、原告の前記主張は失当である。
2 使用商標の使用による商品の出所の混同について(1) 原告は、原告により使用商標が使用されることによって、原告の商品と被告の商品との間に出所の混同が生じるものではないと主張する。
(2) そこで検討するに、前記第1の事実に、成立に争いのない甲第11号証の2ないし4、第19号証、原本の存在とその成立に争いのない乙第7号証、弁論の全趣旨により成立が認められる乙第5号証、第12号証の1、原本の存在及び官署作成部分について争いがなく、弁論の全趣旨によりその余の部分の成立が認められる乙第6号証、弁論の全趣旨により被告主張の写真であることが認められる乙第8及び第10号証の各2、原本の存在について争いがなく、弁論の全趣旨によりその成立が認められる乙第10号証の1によると、被告の前身である「トラピスチヌ修道院」は、キリスト教シトー会の女子修道院として、明治31年、函館市内の現在地において設立されたものであるが、同修道院では、昭和17年ころから、菓子(ビスケット、パンデピス)、バター、チーズ等を、昭和27年ころからは、「トラピスチヌデセール」の商標を用いてクッキー類を製造、販売し、宗教法人としての被告が設立された後の昭和34年ころからは、「トラピスチヌバターアメ」「TRAPPISTINES BUTTER AME」の商標を用いてバター飴を製造、販売し、その後も、前記第一のとおり、「トラピスチヌ クッキー」「TRAPPISTINES COOKIES」「トラピスチヌバター飴」の商標によりクッキー、バター飴等を製造、販売して今日に至っており、その間、引用商標について、前記第1のとおり商標登録、更新登録を行っていること、更に、被告の修道院施設(「トラピスチヌ修道院」)は、既に昭和52年ないし昭和53年当時、市販の旅行案内書中において、函館市内における観光名所として紹介されており、また、そこでは、被告修道院の売店において、被告製造の菓子類が販売されている旨も記載されていることが認められ、なお、現在、被告修道院が、函館市内における宗教施設として、観光上、著名なものであることは公知の事実である。
これらの事実に、引用商標及び被告商品に用いられてきた上記商標の要部が、その構成からみて、普通名称である「バター飴」、「デセール」(仏語でデザートの意)、「クッキー」を除いた「トラピスチヌ」、「TRAPPISTINES」部分にあるものというべきであることをも合わせ考慮するならば、被告は、クッキー、バター飴等を製造、販売するにあたり、原告が使用商標についての使用の開始を自認(請求の原因3(2)イ)する昭和53年の約20年以上前から、「トラピスチヌ」「TRAPPISTINES」を要部とする商標を継続して使用してきたものというべきであり、また、被告修道院の名称(「トラピスチヌ修道院」ないし「トラピスチヌ」)及び被告が上記のとおりクッキー等を製造、販売していること自体も、昭和53年当時において、既に一般に広く知られていたものと認められるところである。
(3) 他方、原告の使用商標(1)及び同(2)については、そのうちの「クッキー」の文字部分が、前記1のとおり普通名称を示したものと解されるから、その要部は「トラピスチヌの丘」にあるものというべきであるところ、前記1のとおり、その外観において、「の丘」を小さく表示し、「トラピスチヌ」を殊更目立つ構成としているほか、別紙第2の記載及び前出甲第10号証の1、2、成立に争いのない甲第21号証、弁論の全趣旨により成立が認められる乙第12号証の2によると、使用商標(1)及び同(2)が表示されている原告商品(「クッキー」)の外装箱の蓋の表面には、被告修道院の建物と聖女像を描いた図柄が表示されており、また、その図柄が「トラピスチヌ修道院」を示すものであることは一般の取引者、需要者においても容易に推測し得るものであることが認められる。
(4) また、原告の使用商標(3)についても、その構成(別紙第2)からみるならば、「COOKIES」の文字部分を除いた部分をもってその要部とすべきこと、残りの文字部分のうち、「THE HILL OF」の部分は小さく表示され、そのため「TRAPPISTINES」の部分が注目を引く構成とされていることは前記(3)と同様である。
(5) 以上の(2)ないし(4)の事実を合わせ考慮するならば、原告の使用商標を付した商品(クッキー)は、昭和53年におけるその発売の当初から、特に「トラピスチヌ」「TRAPPISTINES」の文字部分の強調により、一般の取引者、需要者に対し、一見、被告により製造、販売されているものの一つであるかのような誤解を与えかねないものといわざるをえず、そうすると、原告による使用商標の使用は、一般の取引者、需要者に対し、被告の販売に係る商品との出所の混同を生じさせるおそれが十分にあるものというべきである。
(6) これに対し、原告は、被告との間における、商品「クッキー」の販売規模、取引方法の違いを挙げ、その点からも、原告商品と被告商品との間に混同のおそれが生じるものではないとも主張するが、上記の各事実からみて、上記主張に係る販売規模、販売方法の違いを考慮しても、そのことが本件における出所の混同のおそれを左右するものとは認め難いところである。
(7) 以上によれば、原告による使用商標の使用が、被告の業務に係る商品との出所の混同を生ずるものではないとする原告の前記主張は失当といわざるをえない。
3 商品の出所の混同に関する原告の故意について(1) 原告は、使用商標を使用するにあたって、被告の業務に係る商品との間に、出所の混同を生じさせることについて故意を有していたものではないと主張する。
(2) ところで、商標法51条1項における商標権者の「故意」とは、商標権者が、指定商品について登録商標に類似する商標等を使用するにあたり、その使用の結果他人の業務に係る商品と混同を生じさせること等を認識していたことをもって足りるものと解される(最高裁判所第三小法廷昭和56年2月24日判決・最高裁判所裁判集民事132号175頁参照)。
そして、弁論の全趣旨によると、原告は、昭和42年、被告と同じ函館市内において、菓子の製造、卸、小売等を目的として設立された会社であり、以来、同市内に本店を置き、上記営業を継続していることが認められる。そのことに、前記2のとおり、被告が、その所在地において、長年に渡り「トラピスチヌ」及び「TRAPPISTINES」を要部とする商標を付して「クッキー」等を製造、販売してきたこと、また、被告における上記製造、販売の事実が一般に知られたものであること等を合わせ考慮するならば、原告は、使用商標を使用して「クッキー」の販売を開始した当時において、被告による上記「トラピスチヌ」及び「TRAPPISTINES」の商標を付した商品の販売の事実を当然に知っていたものというべきであり、更に、原告の使用商標の構成が、前記のとおり、殊更「トラピスチヌ」又は「TRAPPISTINES」を強調したものとされていること等を考慮するならば、原告は、本件商標の指定商品(菓子)の一種である「クッキー」について、
使用商標を使用するにあたり、被告の業務に係る商品と混同を生じさせることを当然に認識していたものと認めるのが相当である。
(3) したがって、原告においては、使用商標を使用するにあたり、被告の業務に係る商品と出所の混同を生じさせることについて故意を有していたものと認められるから、原告の前記主張もまた理由がないものというべきである。
以上によれば、審決には原告主張の違法はなく、その取消しを求める原告の
本訴請求は理由がないものというべきであるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して主文のとおり判決する。
裁判官 竹田稔
裁判官 春日民雄
裁判官 持本健司