関連審決 |
審判1989-7265 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成13行ケ478審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
不服201028834 | 審決 | 商標 |
平成12ネ5798 | 判例 | 商標 |
平成12行ケ461審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成8行ケ50 | 判例 | 商標 |
関連ワード | 識別力 / 識別機能 / 指定商品 / 普通名称(3条1項1号) / 混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) / 4条1項11号 / 類似性(類否判断) / 結合商標 / 不使用 / 外観(外観類似) / 称呼(称呼類似) / 観念(観念類似) / 取引の実情 / 出所の混同 / 国内 / 存続期間 / 更新登録 / 類似商標 / 外国 / |
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事件 |
平成
7年
(行ケ)
52号
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 1996/04/17 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
特許庁が、平成1年審判第7265号事件について、平成6年9月26日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた判決
1 原告主文と同旨2 被告原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、1986年1月17日ベルギー国出願に基づく優先権を主張して、昭和61年7月17日、別紙1表示のとおりの図形の下に横書きされた「SPA」の欧文字部分を組み合わせた構成の商標(以下「本願商標」という。)につき、指定商品を第29類「鉱泉水、炭酸水、シロップ、その他の非アルコール飲料を含む清涼飲料、果実飲料、その他本類に属する商品」として、商標登録出願をした(商願昭61―74692号)が、昭和63年12月23日に拒絶査定を受けたので、平成元年4月27日、これに対する不服の審判の請求をした。 特許庁は、同請求を平成1年審判第7265号事件として審理したうえ、平成6年9月26日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年11月7日、原告に送達された。 2 審決の理由の要点(1) 本願商標は、別紙1に表示したとおり、図形と文字との組み合わせよりなるものであるところ、その構成からして図形部分と文字部分は視覚上分離して認識されるばかりでなく、これを常に一体のものとしてみなければならない格別の事情を認め得ないことから、簡易迅速を旨とする取引界においては、読み易い文字部分を捉えて、これより生ずる称呼をもって取引に当たることも少なくないとみるのが相当である。そして、該文字部分は、「SPA」の欧文字よりなるものであるから、これより「エスピーエー」の称呼を生ずるほか、英語読みに「スパ」の称呼をも生ずるものといわなければならない。 (2) 他方、別紙2表示のとおりの登録第1540234号商標(指定商品を第29類「茶、コーヒー、ココア、清涼飲料、果実飲料、氷」として、昭和48年9月28日登録出願、同57年9月30日設定登録、平成5年4月27日存続期間の更新登録。以下「引用商標」という。)は、横書きされた「SPAR」の欧文字及び「スパー」の片仮名文字を上下二段に並べて記載したものであるから、これより「スパー」の称呼を生ずるものである。 (3) 本願商標より生ずる「スパ」と引用商標より生ずる「スパー」との称呼を比較すると、両者は、第1音及び第2音の「スパ」を共通にし、第2音の「パ」が長音を伴うか否かに差異を有するものであるが、その差異音の長音は、前音の母音(a)の余韻として残る程度の弱い音であり、かつ、明瞭に聴取され難い末尾に位置するものであることから、この差異が両称呼全体に及ぼす影響は大きいものとはいえず、両者をそれぞれ一連に称呼するときは、全体としての音調・音感が極めて近似し、互いに聴き誤るおそれがあるものといわざるを得ない。 そうすると、本願商標と引用商標とは、称呼上類似の商標であり、かつ、指定商品が同一又は類似のものと認められるから、結局、本願商標は、商標法4条1項11号に該当し、登録することができない。 |
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原告主張の審決取消事由の要点
審決は、本願商標についての認識を誤り、その結果、引用商標との類否判断を誤っているので、違法として取り消されるべきである。 1 商標の類否は、同一又は類似の商品に使用された商標がその外観、称呼及び観念等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきである。 また、今日のように情報媒体が多様化し、情報量が飛躍的に増大した社会においては、図形の持つ情報伝達力が文字の持つ情報伝達力と比肩するに足りる大きさを有するに至っている分野が多くなっているということができるから、図形と文字の結合商標にあっては、文字部分のみをいたずらに重視して図形部分の持つ情報伝達力を軽んずることは、特段の理由のない限り許されない。 そこで、本願商標をみると、本願商標の構成は、別紙1表示のように、図形部分と文字部分とからなり、その図形は、中国人曲芸師の如き人物が両足を開いて跳躍していると認められる極めて特徴のあるものであり、また、文字部分は、図形の下方に横書きされた「SPA」の欧文字からなるもので、その指定商品に使用される場合、図形部分と文字部分が特に分離して用いられる必然性はなく、図形部分と文字部分は上下のバランスも極めてよく構成されているものであるから、両者はその構成どおり一体として用いられているものである。したがって、本願商標と引用商標の外観が異なることは明らかである。 また、本願商標中の「SPA」の文字は、被告の立証するとおり、「鉱泉」、 「温泉」等の意味を有する語を表すものである(乙第1、第2号証)から、この文字に相応する「スパ」の称呼を生ずるとした認定は誤りである。 すなわち、鉱泉や温泉は、本願指定商品の品質、原材料に相当する普通名称であり、また、「スパ」は、ベルギー国アルデンヌ地方の地名であるとともに、その地に源泉を有する「鉱泉」、「温泉」を表している(乙第3号証)ものであるから、 商品の品質、原材料を表すとともに商品の産地をも表示するものである。したがって、本願商標中の「SPA」は、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものであるから、識別機能を果たす称呼、観念を生ずるとすべきではないからである。 本願商標は、仮に「スパ」の称呼を生ずる場合があるとしても、それは常にその特徴ある(開脚して)跳んでいる人の図形とともに想起されるというべきであり、 その意味で、本願商標からは、「(開脚して)跳んでいる人」との観念が生ずるものといって差し支えないものである。 以上を前提に両商標を対比すると、両商標は全体として、その外観が明らかに相違し、観念においても差異のあることは明らかである。 審決は、前記のとおり、本願商標は、商標中の「SPA」の文字部分に相応する「スパ」の称呼を生ずるものであり、この称呼は引用商標から生ずる「スパー」の称呼と紛らわしいことを理由に、本願商標が引用商標に類似するものと判断しているが、これは、前述の図形部分の持つ情報伝達力に十分留意せず、図形部分と文字部分とを切り離し、単に本願商標の文字部分の称呼が引用商標の称呼と類似することのみを理由に、本願商標が引用商標に類似するものと判断したものであり、誤りであることは明らかである。 2 仮に、本願商標と引用商標との類否判断において、両者の称呼の類否が重要な要素であるとされるとしても、審決の称呼についての類否判断も、以下に述べるとおり誤りである。 本願商標は、曲芸師の跳躍図形より連想されるように、「スパッ」と極く短く強く発音されるものである。また、仮に、本願商標から「スパ」の称呼が生ずるとしても、前記のとおり、それは常にその特徴ある(開脚して)跳んでいる人の図形とともに想起されるものである。 これに対し、引用商標は、その構成よりして「スパー」又は「スパール」の称呼を生ずるものとするのが妥当である。 したがって、本願商標から生ずるとされる「スパ」の称呼と引用商標から生ずる「スパー」の称呼とは、極めて短い「スパ」のそれぞれの末尾の「パ」の音の母音が長音となる「ア」を有するか否かの差異があることは明らかである。 今日の情報社会において、多量の情報を識別認識することに慣れ、個々の情報間の差異に敏感に反応する世人の習性と、一般に、外国語あるいは外国語と思わせる称呼の場合、発音の違いに比較的強い注意を向け、その差異を聴き分けようとする傾向があるとの経験則上認められる事実によれば、両者の称呼が近似しているとしても、その称呼の近似性は、総合的、全体的に考察して、前記外観、観念の相違にかかわらず両商標を類似するものとしなければならない程度にまで達しているとはいえない。 したがって、審決の称呼の類否についての判断も誤りである。 |
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被告の反論の要点
審決の認定判断は正当であるから、原告の主張はいずれも理由がない。 1 文字と図形との結合よりなる商標における類否判断は、文字部分と図形部分との間の相互関係において、両部分間に概念上の関連性が認められず、かつ、その文字部分が外観上注意を引きやすい場合には、その文字部分をその商標の要部と認めて類否判断の対象と判断すべきものである。 図形部分が何を表現したか、にわかに理解し得ないものである場合には、これにより特定の称呼、観念は生ずるものではなく、文字部分が日常親しまれている文字を書したものと容易に理解される場合には、文字部分に相応する称呼を生ずるものというのが相当である。 また、商標が文字と図形との結合よりなる商標にあって、文字部分と図形部分が観念上の共通性を有せず、相互に意味合い上の関連を何ら認め難い場合、又は、外観上、両者に共通するデザイン化が施されたり、文字部分と図形部分とが構成上一体をなすものとすべき理由を見出しえない場合にあっては、両者を常に不可分一体のものと看取すべき必然性を認め難く、文字部分若しくは図形部分のいずれかより生ずる称呼又は観念によって取引に資せられるものというべきである。 これを本願商標についてみると、本願商標中の図形部分を構成する人物が、必ずしも原告主張のような「中国人曲芸師の如き人物」とは特定しえないものであって、これより特定の称呼又は観念は生じ難いものといわなければならない。 加えて、本願商標を構成する図形部分は、日常一般に目にする図形ではなく、世人に広く親しまれている図形ということもできないので、その図形がいかなる図形であるかを端的には把握しがたいものである。 また、文字部分についてみれば、「SPA」の欧文字をややデザイン化してはいるものの、立体感をもって看取される程に格別のデザインが施されているとは認め難い。 そうすると、本願商標は、「SPA」の欧文字と、必ずしも特定の称呼又は観念を生じ難い人物の図形との結合からなるものである。 しかして、本願商標は、第29類「鉱泉水」を指定商品に含むところ、本願商標構成中の「SPA」の文字部分は、上記鉱泉水と密接な関係を持つ「鉱泉、温泉」等の意味を有する英語の「spa」に通ずるものとして、広く知られているものである(乙第1、第2号証)。 また、原告の使用するリーフレット(乙第3号証)及び日本経済新聞(1995年8月12日付け朝刊)に掲載した原告商品に関する広告 (乙第4号証)において、原告は、本願商標構成中の「SPA」の文字部分のみを使用していることは明らかであるから、本件事案にあっては、その指定商品につき、図形部分と文字部分とが分離して使用されているとみるべきである。 よって、本願商標を構成する文字部分と図形部分とは、密接かつ不可分一体の関係にあるものではないとするのが相当である。 そうとすれば、本願商標をその指定商品について使用した場合、需要者は、構成中、特定の称呼又は観念を認識しえない図形部分より、むしろ、構成が簡易で読み易い「SPA」の文字部分より生ずる称呼をもって取引にあたる場合が少なくないものというべきである。 原告は、「SPA」の文字部分については、識別機能がない旨主張する。 しかし、被告が乙第1、2号証を提出して、「SPA」及び「スパ」の文字について言及した理由は、これが造語ではなく、「鉱泉、温泉」等の特定の観念を有するものであることを述べたものであり、これを商品の品質や原材料を示すものというのは相当ではない。また、乙第3号証中においては、中央部に大きく表示された「SPA」の文字の上部に「歴史あるベルギーの“偉大な水”」と表示していること及び右下に「BELGIAN」及び「ベルギー」の各文字が表示されていること、乙第4号証中においては、新聞の右下に当該ミネラルウォーターの広告の上部に「ベルギーから、SPA上陸。」の文字を表していること等に照らせば、当該商品がベルギー産の商品であることを理解させるものであるとしても、「SPA」及び「スパ」の文字については、直ちに商品の品質、原材料又は産地を表示するものとはいえない。 さらに、「SPA」の文字がベルギーのアルデンヌ地方にある「スパ市」の地名に由来するものであるとしても、わが国において、その地名が周知のものといえないものであるばかりでなく、わが国のミネラルウォーターを取り扱う業界において、前記地名が商品の産地を表すものとして知られているという事実はない。 しかして、前記「SPA」及び「スパ」の文字と、これ以外の構成文字及び図形部分とはその構成上独立して配置されていることは明らかであるから、「SPA」及び「スパ」の文字は、他の構成文字及び図形部分とは常に一体不可分のものとはみられないものであり、その文字部分は独立して、自他商品を識別するための標識として使用されているものとみるべきである。 以上の点を総合してみれば、本願商標中「SPA」の文字は、商品の品質、原材料又は産地を表示するものではなく、自他商品の識別標識としての機能を果たしているものとみるのが相当である。 2 本願商標構成中の「SPA」の文字からは「スパ」の称呼が生ずるものであるところ、これを原告主張のように、「スパッ」とごく短く強く発音しなければならない理由は認められない。 次に、引用商標からは、容易に読み易く自然に称呼しうる部分である「スパー」の文字に相応し、「スパー」の称呼が生ずるのであって、原告主張のように「スパー」のほかに「スパール」の称呼も生ずるとすることは理由がない。 そこで、本願商標より生ずる「スパ」の称呼と、引用商標から生ずる「スパー」の称呼を比較すると、両者は、比較的強い響きを聴者に与える破裂音の「パ(pa)」を含む「スパ」の音を共通にするものであって、その異なるところは「パ(pa)」の音に伴う長音の有無にあるにすぎないものである。しかして、該差異音としての語尾における長音は、前音「パ(pa)」の母音(a)に吸収されるごとく聴取され余韻として感じられる程度に微弱であって、明確に聴取され難いから、両者を一連に称呼するときは、その語調、語感が近似し、彼比聞き誤るおそれがあるものといわなければならない。 よって、審決の認定判断に誤りはない。 |
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証拠(省略)
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当裁判所の判断
1 商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、 商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、しかもその取引の実情を明らかにしうる限り、その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである(最高裁昭和39年(行ツ)第110号昭和43年2月27日第3小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。 (1) 外観について 本願商標が別紙1表示のとおりの構成からなることは当事者間に争いがなく、これによると、本願商標は、図形部分の下に横書きした「SPA」の欧文字部分を組み合わせた構成であって、全体の約3分の2を占めるその図形は、中国人曲芸師の如き人物が両足を開いて、その下方の約3分の1を占める文字部分の上で跳躍していることを表した特徴のある図形であると認められる。 被告は、本願商標においては、文字部分と図形部分が相互に観念上の関連性がなく、また、文字部分のみが独立して原告商品の広告等に使用されているから、文字部分と図形部分を常に一体不可分のものとみる必然性がない旨主張する。 しかし、本願商標の識別機能について検討すると、以下のとおり、上記図形部分と「SPA」の文字部分との結合から生ずる本願商標の商品識別力を無視することはできないというべきである。 まず、旺文社「英和中辞典」(乙第1号証)、「現代用語の基礎知識」(乙第2号証)によれば、本願商標中の「SPA」は、本来はベルギーの有名な鉱泉保養地としての地名を表し、普通名詞として鉱泉、温泉ないしは温泉保養を意味するに至ったものと認められ、最近における外国語の普及状態からすれば、一般需要者においても、「SPA」から、それが鉱泉や温泉に関係がある意味を有すると理解されているものと認められる。 そして、本願商標の現実の使用状況をみると、本願商標の指定商品に属すると認められるミネラルウォーターの宣伝のために原告が使用しているリーフレット(乙第3号証)には、中央部に大きく表示された「SPA」の文字の上部に「歴史あるベルギーの“偉大な水”」と表示され、右下にベルギー国の国旗とともに、「BELGIAN」及び「ベルギー」の各文字が記載され、説明文において、「ベルギー国内でもひときわ自然に恵まれたアルデンヌ地方、スパ市。そこに湧き出す清らかな泉がスパの故郷です。」、「数々の歴史の場面において評価され、世界中の人々に愛されたミネラルウォーター、スパ。」との記載があり、また、その新聞広告(乙第4号証)には、「ベルギーから、SPA上陸。」の文字を表していること等に照らせば、当該商品がベルギー産の商品であることは容易に理解できるものであり、本願商標の「SPA」の文字部分が、原告主張のように、ベルギーのアルデンヌ地方のスパ市に源泉を有している自然水によるミネラルウォーターであることを示すものとして用いられていることが認められる。 これらのリーフレット及び広告によれば、原告商品において実際にボトルに添付されたラベルに表示されている標章は、上記本願商標の本来の構成とは異なり、 「SPA」の文字部分が大きく表示され、その上の図形部分が、これに比べかなり小さく表示されていることが認められるが、このような使用の態様においても、上記図形部分は、ラベルの中央上部に表示されているから、この図形部分は、前示のような特徴のある図形であることとあいまって、「SPA」の文字部分とともに、 原告の商品を表示する重要な識別機能を担っているものというべきである。 したがって、本願商標は、図形部分と文字部分を不可分一体のものとして観察すべき合理的理由があり、文字部分以外の図形部分の有する識別機能を無視して、引用商標との類否判断をするのは相当でないというべきである。 これに対し、引用商標は、「SPAR」の欧文字と「スパー」の片仮名文字を上下二段に横書きしたものであり、その構成文字に応じた外観を生ずるものである。 そして、本願商標の「SPA」と引用商標の「SPAR」の各欧文字部分を対比すると、主要な「SPA」の部分が共通しているといえるが、上記のとおり、本願商標においては図形部分の持つ識別機能を無視することはできないから、本願商標の外観については、「SPA」の欧文字部分だけを特に注意を引く商標の要部と解することはできず、結局、「図形部分と文字部分・・・を常に一体のものとしてみなければならない格別の事情を認めえない」とした審決の認定は首肯できないところといわなければならない。 (2) 観念について 本願商標から、原告主張のように、その図形部分に即した「開脚して跳んでいる人」という特定の観念が全体として直ちに生ずるとまではいえないとしても、文字部分の「SPA」からは、上記のとおり、少なくとも鉱泉、温泉ないしは温泉保養に関係するという観念が生ずるものということができる。 これに対し、引用商標の「SPAR」は、「拳闘する」などの意味を有する英語であるが、現在のわが国における英語の普及状態からしても、この意味が直ちに想起できるものとはいえず、それ以上に明確な特定の観念が生ずるものとはいえない。 そうすると、本願商標から生ずる観念と引用商標から生ずる観念が異なることは明らかである。 (3) 称呼について 原告は、本願商標から生ずる称呼についても、中国人曲芸師の如き人物が両足を開いて跳躍している図形部分と切り離して論ずることはできないと主張する。 しかし、本願商標からは、構成文字「SPA」に応じて「スパ」の称呼が生じ、 引用商標からは、文字どおり「スパー」の称呼が生ずることは明らかである。 なお、これを原告主張のように、本願商標の構成文字「SPA」を「スパッ」とごく短く強く発音しなければならない理由はないし、引用商標について、「スパー」のほかに「スパール」の称呼も生ずるとする理由もない。 そして、両者の「スパ」と「スパー」の差異音の長音「ー」は、前音の余韻として残る程度の弱い音であり、両称呼を全体として一連に称呼するときは、彼比の称呼は相紛らわしく、互いに聞き誤るおそれがあるものといわざるをえないから、この点に限っていえば、審決の判断に誤りはないというべきである。 (4)類否判断 以上の本願商標と引用商標との外観、観念、称呼についての比較検討を踏まえて、全体的に考察すると、両商標は、称呼においては類似するものの、外観、観念において明らかに相違するものといえるところ、「商標の外観、観念または称呼の類似は、その商標を使用した商品につき出所の混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず、従って、右三点のうちその一において類似するものでも、他の二点において著しく相違することその他取引の実情によって、なんら商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては、これを類似商標と解すべきでない」(前掲最高裁判決)というべく、本願商標の前示現実の使用状況からすると、 取引の場において、本願商標を使用した商品が引用商標を使用した商品とその出所につき誤認混同を生ずるおそれはほとんどないというのを相当とするから、結局、 審決が、図形部分と文字部分とを分離し、単に本願商標の文字部分の称呼が引用商標の称呼と類似することのみを理由に本願商標と引用商標との類否を判断したことは、誤りであるというべきである。 けだし、このように解さないで、出願商標が登録商標と単にその外観、観念又は称呼のうちの一においてのみ類似することを理由に、直ちにこれを類似商標として登録を認めないとすることは、実際の取引の場において既存の登録商標と商品の出所の誤認混同をきたすおそれがない出願商標の登録までを認めない結果となり、多数の登録商標が不使用のものを含めて累積している現況において、既存の登録商標の保護をいたずらに重くするばかりでなく、商標制度全体の運営が実際の取引社会の需要に応じきれない事態を招くとの非難をまぬがれないことになると危惧されるからである。 2 よって、原告の請求は理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判官 | 牧野利秋 |
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裁判官 | 押切瞳 |
裁判官 | 芝田俊文 |