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関連審決 審判1991-20263
関連ワード 識別力 /  包装 /  指定商品 /  記述的商標(3条1項3号) /  普通に用いられる方法 /  3条2項 /  商標の同一性 /  周知性 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  著名商標 /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  出所の混同 /  出願変更 /  連合商標 /  防護標章 /  存続期間 /  更新登録 /  社団法人 /  類似商標 /  非類似 /  多角経営 /  ハウスマーク /  商号 / 
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事件 平成 7年 (行ケ) 88号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1996/01/30
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が平成3年審判第20263号事件について平成6年10月12日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告主文同旨2 被告(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
請求の原因
1 特許庁における手続の経緯 原告は、指定商品を平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令別表第19類「台所用品(電気機械器具、手動利器及び手動工具に属するものを除く。)、日用品(他の類に属するものを除く。)」として、「SCOTCH」の欧文字を横書きしてなる標章(以下「本願防護標章」という。)について、昭和63年5月12日、登録第625046号商標及び同第683925号商標の連合商標登録願として登録出願したが、平成元年10月20日、登録第428056号商標(以下「本件登録商標」という。)の防護標章として出願変更(平成1年防護標章登録願第119801号)をしたところ、平成3年6月28日、拒絶査定を受けたため、同年10月17日、これに対する審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成3年審判第20263号事件として審理したが、平成6年10月12日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年11月30日、原告に送達された。なお、原告のための出訴期間として90日が附加された。
2 審決の理由の要点(1) 本願防護標章の構成、指定商品及び出願日、出願変更日は前項記載のとおりである。
本願防護標章防護標章登録出願に係る本件登録商標は、原告の所有するものであって、本願防護標章と同一の構成よりなり、旧第69類「電磁音響再生機用音響記録用テープ、その他本類に属する商品」を指定商品として、昭和27年6月25日に登録出願、昭和28年7月8日に設定登録され、その後、3回に渡り商標権存続期間更新登録がなされ、現に有効に存続しているものである。
(2) よって判断するに、請求人(原告)の取扱いに係る商品「ビデオテープ、
粘着テープ」に使用される商標の「Scotch」(以下「使用商標」という。)は、一定の取引実績を持つものであることを認めることができる。
しかしながら、本件登録商標は、上記「Scotch」とその態様を異にする「SCOTCH」の欧文字を書してなるものであるから、本件登録商標を周知著名なものということはできないところであり、かつ、その使用商品と本願防護標章指定商品とは、生産者、販売店舗、用途等を著しく異にするものである。
また、「Scotch」の文字は、「スコットランドの」意を表す英語としてよく知られたものであるばかりでなく、「Scotch whisky」(スコッチ・ウィスキー)、「Scotch tweed」(スコッチ・ツィード)等のように、商品の産地を表示するものとして使用されているものである。
してみれば、本願防護標章指定商品との関係からみて、本件登録商標が、直ちに請求人(原告)を想起させるほど一般に広く認識されているものとみることはできないから、本願防護標章について、たとえ他人がこれをその指定商品に使用したとしても、その商品が請求人(原告)の業務に係る商品であるかのように混同を生ずるおそれがあるものとは認められない。
(3) したがって、本願防護標章は、商標法64条(平成3年法律65号による改正前の規定、以下同じ。)の要件を具備しないものであるから、登録することができない。
3 審決を取り消すべき事由 審決は、本願防護標章の登録要件についての認定判断を誤った結果、本願防護標章に対する商標法64条の適用を誤ったものであり、違法であるから取り消されるべきである。
(1) 本件登録商標(「SCOTCH」)の著名性についてア 原告の取引上、本件登録商標「SCOTCH」は、使用商標「Scotch」の使用により著名となっている。
(ア)使用商標「Scotch」は、ローマ字の大文字「S」と小文字「cotch」からなる外観的側面を有し、「スコッチ」の称呼からなる称呼的側面及び永年使用の結果、本件登録商標の指定商品の分野では、原告の「磁気テープ」に係る商標「スコッチ」という観念的側面を有するに至っている。
(イ) ところで、文字商標は、外観によって需要者に容易に記憶されうるものではなく、主として称呼観念によって記憶される。外観的側面において記憶されるのは、構成文字がローマ字からなる場合、大文字、小文字の別ではなく、ローマ字自体からなるという程度である。そのため、使用商標(「Scotch」)も、主として「スコッチ」という称呼あるいは観念をもって記憶されるといえる。
そうであれば、使用商標が、ローマ字からなるという外観及び「スコッチ」の称呼観念によって、需要者に記憶され著名なものとなれば、同じくローマ字からなり、「スコッチ」の称呼観念を有する本件登録商標(「SCOTCH」)も併せて著名なものになりうるといえる。
(ウ) また、標章をローマ字で記す場合、構成文字が大文字であるか小文字であるかによって実質的な差異が生じるとはいえない。ローマ字からなる語(商標を含む。)が、特段の理由なく、時にその構成文字が大文字で書かれ、時に小文字で書かれることは日常よく見受けられるところである。このことは、ローマ字からなる語が大文字で書かれても小文字で書かれても、外観上実質的に同一であることを意味する。
そして、取引上使用される著名となった登録商標の保護を強化する防護標章登録制度の趣旨からみるならば、商標法64条の要件である標章の同一性は、単に物理的な同一性に限らず、取引における同一性も含むものと解される。
これらの点からも、本件登録商標(「SCOTCH」)は、使用商標(「Scotch」)の使用によって周知著名なものになったものというべきである。
因みに、商標法3条2項による商標(使用により識別性を有するに至った商標)の登録要件として、特許庁の審査基準においては、出願商標と使用商標との間の外観上の同一を要求しているが、そこにおいては、かかる同一性のない商標の例として、書体の変更、平仮名・片仮名・漢字・ローマ字間の変更、縦書き・横書き間の変更等が示されているのみで、本件におけるような、同一書体中の構成文字の大文字と小文字の変更については言及していない(特許庁商標課編「商標審査基準」社団法人発明協会平成4年3月23日発行、27頁)。このように、商標の同一性が厳格に要求されるべき商標法3条2項の適用においてすら、構成文字の大文字と小文字の変更が商標の同一性を損なうものではないとしているにもかかわらず、防護標章の登録に関し、構成文字の大文字と小文字の変更使用が、使用商標と登録商標との同一性を損なうものとして登録を認めないとすることには、合理的な根拠を見出だすことはできない。
(エ) わが国においては、商標「SCOTCH」ないし「Scotch」は、昭和27年ころから、ビデオテープ、オーディオテープについて使用され、現在に至っている。その結果、テレビ等における活発な広告宣伝活動とあいまって、需要者間においては、「スコッチ」といえばビデオテープ、オーディオテープの代名詞であるかの如く認識されている。のみならず、上記商標は、現在、そのほかの多数の商品についても使用され、極めて著名である。
(オ) 以上のとおり、使用商標「Scotch」が永年に渡り大々的に使用されてきたことにより、本件登録商標「SCOTCH」も現に著名なものとなっていることは明らかである。
イ なお、本件は、あくまでも本件登録商標と全く同一の構成による標章「SCOTCH」について防護標章の登録を出願しているのであり、使用商標「Scotch」について防護標章の登録出願がなされているものではない。そして、「SCOTCH」の周知著名性が使用商標「Scotch」の使用により認められることは前記のとおりであり、「Scotch」についても、その長年にわたる大々的な使用により、取引上、実質的に第三者に公示されているといえる。
したがって、本願防護標章の登録が認められたとしても、第三者に不測の不利益を与えることはない。
(2) 本件登録商標(「SCOTCH」)の使用による商品の出所の混同についてア(ア) 出所の混同を生じる商品の範囲については、生産者、販売店舗、用途等を著しく異にするか否かという抽象的見地から定められるべきものではなく、防護標章登録の出願に係る標章の著名性の程度及び当該出願に係る出願人の多角経営の内容等、個々具体的な事情を考慮して定められるべきである。このことは、防護標章登録制度が生産者、販売店舗、用途等を同一にしない非類似商品についての出所の混同を防止する制度であることからも明らかである。
(イ) この点を本件についてみるに、前記(1)のとおり、本件登録商標「SCOTCH」は、使用商標「Scotch」の使用を通じ、ビデオテープ、オーディオテープについて、あたかもその代名詞であるかの如く需要者間に著名になっている上、原告の経営の多角化により、現在においては、その取扱いに係る商品が工業製品から日用品まで3万5000品目にも及び、その中には本願防護標章指定商品に含まれる商品も取り扱っているものであって、「Scotch」はハウスマーク的に原告の多種多様な商品に使用されている状況にある。
したがって、他人が「SCOTCH」を本願防護標章の登録出願に係る指定商品に使用した場合には、その出所について混同を生じるおそれのあることは明らかである。
イ(ア) 一方、本願防護標章指定商品は一般用、民生用がほとんどであるが、
コンビニエンスストア等においては、本件登録商標の指定商品であるビデオテープやオーディオテープも、日常的に使用される商品として、本願防護標章指定商品である日用品、台所用品と並べて販売されているのが通常である。
したがって、本願防護標章に係る指定商品と本件登録商標に係る指定商品とは、
そもそも、販売店舗を著しく異にするとはいえない。
(イ) 本件登録商標の指定商品であるビデオテープやオーディオテープは、合成樹脂製ベースフィルムに磁性体が付着している一種のフィルム製品であり、本願防護標章指定商品(台所用品)に属する食品包装用フィルム(ラップ)と共通するものがある。そのため、それらの生産者が同一になる可能性はあり、本願防護標章、本件登録商標の各指定商品がその生産者を著しく異にするともいえない。
(ウ) 前記ア(イ)のとおり、原告は、事業の多角化を進め、現在ではその取扱いに係る商品は工業製品から日用品、台所用品まで3万5000品目にも及んでいる そのため、使用標章「Scotch」は、磁気テープのみならず、粘着テープ、
接着剤、事務用品等の多様な商品に使用されるとともに、「Scotchgard」や「Scotch‐Brite」に例示されるように、商品の用途、機能を表示する語と結合して、様々な商品に使用されている。特に、「Scotch‐Brite」は、本願防護標章指定商品に属する食器洗い用タワシに使用されている。
(エ) 以上の点からみても、他人が、本件登録商標を本願防護標章指定商品について使用するならば、需要者をして、商品の出所に関し、混同を生ぜしめるおそれがあることは明らかである。
(オ) 仮に、本願防護標章の登録が認められないならば、第三者が本願防護標章指定商品について商標「SCOTCH」を出願すれば登録を受け、使用することができることとなるが、これは、近年企業の経営多角化による著名商標の保護の強化が叫ばれている中、出所混同の防止による商標使用者の業務上の信用の保護、競業秩序の維持及び需要者の保護を目的とする商標法の趣旨に著しく反する結果となり、明らかに不当である。
(3) 使用商標(「Scotch」)の識別力について審決は、「Scotch」の文字には識別力がないとの趣旨を述べるが、本願防護標章指定商品にはウィスキーや服地を含むものではなく、また、そもそも防護標章登録は、権利者自らの登録標章の使用を目的とするものではなく、他人によるその使用を排除することのみを目的とするものであるから、識別力を有することがその登録要件とはされていない。また、「SCOTCH」自体が登録されており、自他商品識別力を有するものと考えられる。
(4) 以上のとおりであるから、本件登録商標「SCOTCH」は使用商標「Scotch」により著名となっており、第三者が本願防護標章指定商品について「SCOTCH」の文字を使用すれば、需要者が出所の混同を生ずるおそれがある。
したがって、審決は、本願防護標章に対する商標法64条の適用を誤ったものである。
請求の原因に対する認否及び主張
請求の原因1及び2の事実は認めるが、同3は争う。
審決の認定判断は正当である。
1 本件登録商標(「SCOTCH」)の著名性について(1) 原告がビデオテープ、オーディオテープに使用して著名であるとする商標は「Scotch」であって、本件登録商標である「SCOTCH」ではない。したがって、「Scotch」が一定の取引実績を持つものであるとしても、本件登録商標の「SCOTCH」が、原告の業務に係る指定商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものとみなすことはできず、ビデオテープ、オーディオテープの代名詞であるかの如く認識されているものということにもならない。
すなわち、欧文字の商標において、その綴り字の形状に相違がある場合には、これを同一の商標ということはできないのである。
(2) なお、特許庁の商標審査基準における同一性についての記載は、「例えば、」と明示していることからも明らかなように、同一性が認められない場合を例示したものにすぎないから、そこに記載されていないことを理由に、構成文字の変更が商標の同一性を損なうものではないということはできない。
(3) そもそも、防護標章登録制度そのものが、商標の使用意思の存在を前提とする現行の商標登録制度の重大な例外をなすものであり、その運用には慎重を期すべきである。なぜならば、その立法趣旨は、周知著名な商標の禁止的効力の拡大にあると解されるが、商標の禁止的効力を画一的に拡大することは、第三者の商標選択の自由を奪うおそれがあるからである。
したがって、防護標章登録制度により保護が認められるべき標章の著名性は、指定商品と、具体的に防護標章登録が求められている商品との関連性等の事情を考慮した上で、需要者間に混同のおそれが生じうるだけの標識力が要求されているとみるべきである。
これを具体的にみれば、防護標章の登録出願に係る商標が特異な態様であること、又は一見してその特徴を顕著に印象づけるに足る創造的なものであること、あるいは造語商標であること等の要件を考慮に入れるべきである。
2 本件登録商標(「SCOTCH」)の使用による商品の出所の混同について(1) 商品の出所の混同の有無について、具体的に混同を生ずべき商品の関連性の点からみると、ビデオテープ、オーディオテープは、主としてビデオテープレコーダー等の電気機器の製造者により製造され、電気製品を取り扱う店舗において販売されており、電気機器とともに使用されるものであるのに対し、「台所用品、日用品」は、日用雑貨の製造者、販売者により製造、販売されており、台所や浴室等で日常一般に使用されるものであるから、一般的には、その生産者、販売店舗、用途等を著しく異にするものである。
そうであれば、本願防護標章は、他人がこれをその指定商品に使用したとしても、需要者に対し、直ちに、その商品が原告の業務に係る商品であるかのように直感せしめ、混同を生ぜしめるおそれがあるものということはできない。
(2) 原告は「Scotch」が原告の多種の商品に使用されるハウスマーク的商標であるとともに、それと他の語とを結合させた商標が本願防護標章指定商品に使用されているので、他人が本件登録商標を本願防護標章に係る指定商品に使用するならば、商品の出所の混同を生じさせるおそれがあるとも主張する。
しかしながら、「Scotch」自体は原告の商号とはいえず、かつ、これが原告のすべての商品に使用されているというものでもない。
また、原告所有の「SCOTCH‐MOUNT」「スコッチ‐マウント」よりなる登録第625046号商標と、「SCOTCH‐BRITE」「スコッチ‐ブライト」の文字よりなる登録第683925号商標はともに「SCOTCH」の文字を包含するところ、両商標は、連合商標としてではなく(類似商標とするところなく)、一連のもの(非類似商標)として判断され、独立の商標として登録されていることからみても、「SCOTCH」が本願防護標章指定商品に使用された場合に、
「SCOTCH」の欧文字部分が独立して格別に識別力の強いものとはいい難いところである。
(3) なお、「SCOTCH」の欧文字よりなる商標が防護標章として登録されなかったとしても、そのことから、直ちに、同商標が第三者のため登録されることが可能になるということにはならない。なぜならば、同商標は、一般に、商品の産地、販売地(取引地)を表示するものとして、商標法3条1項3号により、その登録出願が拒絶される蓋然性を有するものであるからである。
3 使用商標(「Scotch」)の識別力について 原告の主張するとおり、防護標章登録においては、標章に識別力を有することがその登録要件とはされていないとしても、標章の識別力の有無は、商品の出所に混同を生ずるか否かについての判断要素の一つである。
ところで、本願防護標章は、「SCOTCH」の文字を、普通に用いられる方法により書してなる、ありふれた活字体をもって構成されているところ、上記標章は、「スコットランドの」の意を表す英語としてよく知られたものであるばかりか、「Scotch Whisky」(スコットランド産のウィスキー)、「Scotch tweed」(スコットランド産のツィード)、「Scotch terrier」(スコットランド産のテリア)等の用例からも明らかなように、「スコットランド産の」の意において、商品の産地を表示するものとしても広く一般に使用されているものである。
なお、本願防護標章指定商品中には、上記スコッチウィスキーと密接な関係を有するコップ(グラス)、マドラー等の商品、スコッチツィードと密接な関係を有するテーブル掛け、バスマット等の商品を含むものである。
そうであれば、「SCOTCH」の文字に接する本願防護標章の需要者は、「SCOTCH」から、ウィスキー、ツィード等で著名な産地名としての意を容易に認識するものといわなければならない。
また、スコットランドの名はイギリスの地域名としても広く知られており、特定の者のみが「SCOTCH」の使用を独占すべきではない。
4 以上のとおりであるから、審決が、本願防護標章について商標64条の要件を具備しないものと認定判断したことは正当である。
理 由
請求の原因1及び2の各事実(特許庁における手続の経緯、審決の理由の要
点)については当事者間に争いがない。
また、審決の認定判断のうち、本願防護標章の構成、指定商品、出願日、出願変更日については当事者間に争いがなく、本件登録商標の構成とその指定商品、登録出願及び登録の各年月日、本件登録商標がその後更新登録され、現に有効に存続していることについては、原告が明らかに争わないから、自白したものとみなす。
そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。
1 まず、本件登録商標である「SCOTCH」の著名性についてみるに、
(1) 前記第1における当事者間に争いのない事実に、成立に争いのない甲第5号証の1ないし3、第9、第10号証及び弁論の全趣旨によると、原告は、1902年、米国ミネソタ州セントポール市に設立され、当初は研磨材料である金剛砂の採掘及び販売を目的としたが、耐水研磨材の開発に成功して研磨材のトップメーカーとなり、その後順次業務を拡大し、現在においては、粘着テープ、反射シート、
ビデオテープ、オーディオテープ、フッ素系繊維保護剤、粘着剤付き用紙等、多数(約6万種)の商品を製造、販売していること、ところで、わが国においては、昭和28年7月8日に、原告により本件登録商標「SCOTCH」が旧69類「電磁音響再生機用記録用テープ、その他本類に属する商品」を指定商品として設定登録され、以来、原告は、訴外日本電気株式会社、訴外住友電気工業株式会社と合弁で設立した訴外住友スリーエム株式会社(原告の資本比率50パーセント)に対し本件登録商標の使用を許諾し、同社を通じて、「Scotch」の商標を付したオーディオテープ、ビデオテープ等の販売を全国規模で行っているものであること、そして、そのことに伴い、「Scotch」及びそれを大文字で表記した本件登録商標「SCOTCH」は、本件登録商標の指定商品の分野においては、取引者、需要者に原告の業務に係る商品であると広く認識され、全国的に相当程度著名な商標になっていることが認められる。
(2) これに対し、審決は、「Scotch」と「SCOTCH」とはその態様を異にし、商標として同一のものではないから、本件登録商標を周知著名なものということはできないと判断している。
しかしながら、「SCOTCH」と「Scotch」とは、その欧文字による綴り字の最初がともに大文字の「S」であり、その余の綴り字も大文字と小文字の違いのみであること、そのため、そのいずれも「スコッチ」という同一の称呼を生ずるものであり、また、一般に欧文字による商標については、綴り字の最初の文字が大文字か小文字かは注目を引くものの、その余の綴り字については、通常、それが大文字か小文字かはさして注意を引くものではないというべきであること、なお、
その書体も、両者とも通常のゴシック体を用いたものであり(このことは、前出甲第5号証及び成立に争いのない甲第2号証から明らかである。)、その点においても大文字と小文字以外の違いがないこと等を考慮するならば、本件登録商標である「SCOTCH」と商標「Scotch」とは、これに接する取引者、需要者において必ずしも容易に区別しうるものではないというべきであり、したがって、商標法第64条の規定する防護標章の登録要件としての「登録商標が自己の業務に係る指定商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている」こと、すなわち登録商標の周知性を検討する場合、審決および被告の主張のように、両者を別異の商標であるとみなすことは誤りというべきである。
(3) そうすると、本件における登録商標の周知性の面からみるならば、「SCOTCH」と「Scotch」とは同一性を有するものとして取扱うべきであり、
本件登録商標に係る指定商品(オーディオテープ、ビデオテープ)に「Scotch」の商標が付され、それが周知、著名になることにより、合わせて、本件登録商標である「SCOHTH」も著名性を有するに至ったものと認めるのが相当である。
したがって、この点についての上記審決の判断および被告の主張は採用できない。
2 そこで、前記1における本件登録商標の著名性についての認定判断を前提として、他人が、本願防護標章指定商品(台所用品、日用品)について本件登録商標「SCOTCH」を使用した場合、本件登録商標に係る指定商品との間に出所の混同を生じるおそれがあるか否かについて検討するに、
(1) 原告は、前記1のとおり、米国において、多角経営により多数の商品を製造、販売しているものであるが、前出甲第5号証の1ないし3、第9、第10号証によると、原告は、わが国においても、訴外住友スリーエム株式会社を通じて、多数(約3万5000種)の工業用品、化学製品等を販売するとともに、「Scotch」の商標の下に、オーディオテープ、ビデオテープのほか、各種の粘着テープ、粘着テープ用ディスペンサー等を販売していること、更に、「Scotch-Brite」の商標により、「キッチン用品」「バス用品」であるナイロンたわし等も販売するとともに、「Scotchgarde」の商標により、繊維保護剤、
革靴用防水スプレー等も販売していることが認められるところである。
(2) そうすると、原告は、わが国において、「Scotch」ないしは「Scotch」を組み合せた商標により、現に台所用品、日用品等をも販売しているというべきであり、そうであれば、そのことは、台所用品、日用品の取引者、需要者に対しても、商標「Scotch」及び前記1のとおりそれと同一性を有する本件登録商標「SCOTCH」それ自体の周知性を更に高めるとともに、上記の取引者、需要者に対し、そこにおける商標「Scotch」ないしは「Scotch」を組み合せた商標の付された商品が、本件登録商標に係る指定商品と同一の出所によるものであるとの認識を広げることになるものと考えられる。このことに加え、
原本の存在とその成立に争いのない甲第12号証ないし第17号証、第22、第23号証、成立に争いのない甲第18号証ないし第21号証によると、審決時(平成6年10月12日)においては、原告の製品を含むオーディオテープ、
ビデオテープが、いわゆるコンビニエンスストア等において、台所用品、日用品とともに販売されることも珍しくないことが窺えること等をも考慮するならば、他人が、本願防護標章指定商品である上記台所用品、日用品について本件登録商標を付して販売した場合には、原告の業務に係る台所用品、日用品との出所の混同を通じるなどして、本件登録商標の指定商品との関係においても、出所の混同を生じるおそれがありえるものといわざるをえない。
(3) そして、このことは、本件登録商標が、「スコットランドの」ないしは「スコットランド産の」との意味を有する一般的な語句によるものであり、それ自体特異な態様ないし創造的な構成によるものではなく、いわゆる造語によるものでもないということによって、特に左右されるものではないというべきである。
(4) そうすると、前記のとおり本願防護標章指定商品について出所の混同を生じるおそれがないとした審決は、その判断を誤ったものというべきであり、取消しを免れないものといわざるをえない。
(5) なお、審決は、本願防護標章に係る「SCOTCH」が、「スコットランドの」の意を表す英語として知られたものであり、また、商品の産地を表示するものとして使用されているということから、そもそも商標登録することができないとするかのような判断を示しており、また、この点について、被告は、標章の識別力の有無は、商品の出所の混同を生じるか否かについての判断要素一つである旨主張する。
しかしながら、本件登録商標である「SCOTCH」は、商標法の定める登録要件を具備するものとして登録されており、商標法第64条は、防護標章の登録要件として著名な登録商標と同一の標章であることを要件とするものであって、出願に係る防護標章が商標法第3条1項各号の要件を具備することを要件とするものでないのみならず、本件登録商標が長年の使用により、取引者、需要者に、原告の業務に係る商品(本願防護標章指定商品を含む。)の出所を示す標章であると広く認識されていること前述のとおりであるから、上記審決の理由又は被告主張の点を根拠として本願防護標章がその登録要件を具備しないものとすることはできない。
3 以上のとおりであるから、本願防護標章を商標法64条の要件を具備しないものとした審決の認定判断は誤りであって、審決は違法として取消しを免れない。
よって、審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由があるから、これを認
容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して主文のとおり判決する。
裁判官 竹田稔
裁判官 関野杜滋子
裁判官 持本健司