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関連審決 審判1982-13104
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成13行ケ430審決取消請求事件 判例 商標
平成19行ケ10113審決取消請求事件 判例 商標
平成13行ケ516審決取消請求事件 判例 商標
関連ワード 識別力 /  指定商品 /  普通名称(3条1項1号) /  4条1項10号 /  4条1項11号 /  希釈化(ダイリュージョン) /  類似性(類否判断) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  取引の実情 /  出所の混同 /  国内 /  補正 /  連合商標 /  更新登録 /  非類似 / 
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事件 平成 6年 (行ケ) 77号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1995/09/27
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が、昭和57年審判第13104号事件について、平成6年2月16日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた判決
1 原告主文と同旨2 被告原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は、「関ノ孫六」の文字を縦書きした別紙1表示の構成からなり、平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令別表の商品区分第30類「菓子、パン」を指定商品として、昭和49年6月12日に登録出願、同52年10月3日に設定登録、その後更新登録され、現に有効に存続する登録第1302812号商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である。
原告【A】は、「孫六」の文字を左横書きした別紙2A表示の構成からなり、商品区分旧43類「カステーラ、飴、餅その他干菓子、蒸菓子」を指定商品として、
昭和8年5月27日に登録出願、同年11月17日に設定登録、その後更新登録され、現に有効に存続する登録第248636号商標(以下「引用商標A」という。)の商標権者である。
原告会社は、上記商標の専用実施権者であり、また、本件商標の登録出願日前より、「孫六煎餅」の文字を横書き又は縦書きした別紙2B表示の各構成からなる各標章(以下、両標章をあわせて「引用商標B」という。)を、商品「せんべい」に使用している。
原告らは、昭和57年6月22日、被告を被請求人として、本件商標は、@引用商標Aに類似しかつその指定商品も類似し、Aその出願前岐阜県関地方において商品「せんべい」につき広く知られた引用商標Bに類似し、かつ商品も類似しているから、商標法(平成3年法律第65号による改正前のもの、以下同じ。)4条1項10号及び11号に該当するとし、同法46条1項に基づき、本件商標につき登録無効の審判を請求した。
特許庁は、同請求を同年審判第13104号事件として審理したうえ、平成6年2月16日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、
同年3月17日、原告らに送達された。
2 審決の理由 審決は、別添審決書写し記載のとおり、本件商標は、室町後期の美濃の関の著名な刀鍛冶「孫六兼元」という人あるいは同人の作になる刀剣を想起させるものというべく、特定の商品又は商品の産地、販売地等を具体的に表示するものと直ちに理解しえず、構成全体をもって一体不可分のものと認識し把握されると見るのが自然であるから、その構成文字全体に相応して「セキノマゴロク」の称呼、「関の孫六」の観念のみを生ずると判断したうえ、本件商標より「マゴロク」の称呼、「孫六」の観念をも生ずることを前提として本件商標と両引用商標が類似するとする請求人の主張は妥当でなく、本件商標は、両引用商標の周知度にかかわらず、非類似であるとした。
原告ら主張の審決取消事由の要点
審決の理由中、本件商標及び引用各商標の認定、請求人及び被請求人の主張の要旨は認めるが、本件商標を無効とすべき理由の有無についての判断はすべて争う。
1 本件商標「関ノ孫六」は、刃物工業の町として著名な地理的名称「関」と、所有格を表す格助詞「ノ」と「孫六」の文字を縦書きに表したものである。
商標において、このように地名を冠するときは、その商標が使用される商品の生産地・販売地を示すばかりでなく、その商標を使用する者の営業所の所在地を示すものと認識するのが社会通念に照らして相当である。
すなわち、この地名以外の部分において、他の商標と類似する部分があれば、この地名の部分は、単に当該他の商標の付された商品の製造・販売地あるいは製造・販売業者の営業の所在地を単に付加したにすぎないと認識され、互いに誤認混同されるのが普通である。
特に、この地名が著名な行政区画名である場合には、上述のように認識される傾向が高いものとなることはいうまでもない。
したがって、本件商標は、その前段の「関ノ」の部分は行政区画名であって、指定商品に使用しても、取引の実情、経験則に照らせば、単に商品の生産地・販売地を表すにすぎないものであって、識別力を有しないものであり、商標としての要部は後段の「孫六」の部分にある。
そして、引用商標Aからは、「マゴロク」・「孫六」の称呼観念が生じ、また、引用商標Bも、煎餅という普通名称を除いた「孫六」の部分が要部というべきであり、同様に、「マゴロク」・「孫六」の称呼観念が生ずるものである。
そうすると、本件商標と引用各商標とは、「孫六」という外観観念称呼のいずれにおいても類似するものである。
2 仮に、本件商標が「関ノ」と「孫六」という構成に分離しえない一体のものであるとしても、本件商標「関ノ孫六」と引用各商標「孫六」・「孫六煎餅」とは、
共に著名な刀匠「孫六兼元」に由来するものであり、同じ「刀匠としての孫六兼元」の観念を生ずることは明らかであり、両者は観念において類似する。
特に、「刀匠孫六兼元」は、世人一般において、「関ノ孫六」のみならず「孫六」と通称され(むしろ「孫六」の略称のほうが一般的である。)、広く知られており、しかも、原告会社と被告の営業は、同じ関市内の同じ町内においてなされているものであり、このような取引の実情にかんがみれば、本件商標も引用各商標も共に「関在住の孫六という人」あるいは「関ノ」の有無にかかわらず「刀匠としての孫六兼元」の観念を生じ、出所の混同を招来することは否定できない。
3 なお、本件商標「関ノ孫六」と引用商標A「孫六」との類否判断に関連し、特許庁の登録例として、指定商品が酒類に関するものではあるが、漢字で「孫六」と縦書きした横に小さく平仮名で「まごろく」と併記した商標(登録第488659号)と漢字で「関の孫六」と表した商標(登録第1641237号)が連合商標として登録された例などがある。
被告の反論の要点
審決の認定判断は正当であるから、原告ら主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 本件商標の語頭の「関」の文字が地理的名称である「関市」を意味するものであるとしても、それが直ちに、本件商標の指定商品である「菓子、パン」の生産地、販売地等を表すというよりは、むしろ「孫六」の文字部分と結合することにより、全体で一体的なものとして認識され、「関(に在住)の孫六」ひいては「関の刀鍛冶である孫六兼元」の一体的な意味あいで観念され、決して「関ノ」と「孫六」の二つの部分に分離して認識・観念されるようなことはない。
すなわち、本件商標は、取引の実際においてその構成どおり「関ノ孫六」として一体不可分に認識されるものであって、その構成に対応して「セキノマゴロク」とのみ称呼され、また、「関(に在住)の孫六」ひいては「関の刀鍛冶である孫六兼元」との一体的意味合いで観念される。このため、本件商標は、単に「マゴロク」の称呼及び「孫六(人の名)」の観念が生ずるにすぎない引用商標Aとは明らかに非類似の商標である。
また、本件商標は、同様の理由で、「マゴロクセンべイ」の称呼及び「孫六(人の名)の煎餅」の観念もしくは「マゴロク」の略称及び「孫六(人の名)」の観念が生ずるにすぎない引用商標Bとも非類似の商標である。
2 引用商標「孫六」から生ずる観念についていえば、「孫六」の名が刀剣あるいは刀匠に関連して名を知られるようになったとしても、それは「孫六」の名の一面にすぎず、「孫六」という名から刀匠「兼元」のみが想起されるわけではない。
すなわち、著名な作家「井出孫六」もいれば書家の「竹田孫六」もおり、また、
小説上の登場人物や商人の屋号にも「孫六」という名が用いられていることにかんがみると、「孫六」という名からは種々の人物等が想起され、特定の人物のみが連想され観念されるわけではない。
特に、刀匠とは全く関係のない「菓子、パン」という商品の分野においては、刀匠との観念的関連性は希釈化され、「孫六」という名からは、種々の「孫六」を網羅した「孫六という人名」という程度の意味あいが想起されるにすぎない。
一方、本件商標「関ノ孫六」は、「孫六兼元」、「志津兼氏」、「和泉守兼元」等の著名な刀匠を輩出して刀鍛冶の町として広く知られている「関」の文字を語頭に冠している。したがって、たとえ、「菓子、パン」という商品分野においてさえも、観念的に刀匠との関連性が強まって構成全体が一体不離のものと看取され、種々の「孫六」の中から、特定の「孫六」、とりわけ、名匠として名高く「関の孫六」と通称される「関の刀鍛冶である孫六兼元」の意味あいが想起される。
よって、本件商標と引用各商標とから生ずる観念が同一であるということはできない。
3 なお、本件商標「関ノ孫六」と引用商標A「孫六」との類否判断に関連し、特許庁の登録例として、指定商品が産業機械器具等に関するものではあるが、「孫六」(登録第914437号)と「関孫六」(登録第1289324号)が非類似とされ、また、指定商品が食肉・卵等に関するものではあるが、「まごろく」(登録第1714895号)と「関の孫六」(登録第1779666号)が非類似とされ、いずれも登録された例などがある。
証拠(省略)
当裁判所の判断
1 審決は、本件商標から、「室町後期の美濃の関の著名な刀鍛冶『孫六兼元』という人あるいは同人の作になる刀剣を想起させるものというべく、たとえ構成中の『関ノ』の文字部分が刃物工業の町として知られた『岐阜県関市』の『関市』を意味する語であるとしても、かかる構成においては特定の商品または商品の産地、販売地等を具体的に表示するものとして直ちに理解し得るものともいい難いところであるから、むしろ構成全体をもって一体不可分のものと認識し把握されるとみるのが自然である。そうとすれば、本件商標は、その構成文字全体に相応して『セキノマゴロク』の称呼、『関の孫六』の観念のみを生ずるものと判断するのが相当である。」(審決書7頁12行〜8頁6行)とし、それに続けて、「してみれば、本件商標より『マゴロク』の称呼、『孫六』の観念をも生ずるとし、そのうえで本件商標と両引用商標が類似する旨の請求人の主張は妥当ではなく、本件商標は、両引用商標の周知度にもかかわらず、非類似の商標といわなければならない。」(同8頁7〜12行)と判断している。
しかし、審決のこの判断は、本件商標から生ずる称呼観念についての判断は是認できるとしても、原告(請求人)らの「『孫六』は、本来当地において広く知られ、かつ、親しまれている著名な刀鍛冶『孫六兼元』の略称であり、本件商標は著名な刀鍛冶の氏名に由来するから、称呼のみならず観念においても類似することは否定できない。」(同3頁15〜19行)から、本件商標「関ノ孫六」と引用各商標の「孫六」から生ずる観念が類似するとの主張に関しては、引用各商標の「孫六」から想起される観念についての検討、判断が欠落しており、この点において審理不尽といわざるをえない。
なお、審決は、前記のとおり、「本件商標より『マゴロク』の称呼、『孫六』の観念をも生ずるとし、そのうえで本件商標と両引用商標が類似する旨の請求人の主張は妥当ではなく」としており、原告の主張がそのような主張を主としていることは、審判請求書及び手続補正書(成立に争いのない甲第3号証の1、2)から認められるが、本件商標及び引用各商標から生ずる観念の異同を論ずる場合には、本件商標から生ずる観念についてのみならず、引用各商標から生ずる観念についても検討したうえ、その類否判断をすべきことは当然であるから、審決は、その判断を欠落したものというべきである。
2 被告は、引用各商標の「孫六」という名からは種々の人物等が想起され、特定の人物のみが連想され観念されるわけではなく、特に、刀匠とは全く関係のない「菓子、パン」という商品の分野においては、刀匠との観念的関連性は希釈化され、「孫六」という名からは、種々の「孫六」を網羅した「孫六という人名」という程度の意味あいが想起されるにすぎない旨主張する。
しかし、關信用利用購買組合発行の「美濃関町名勝案内」と題するパンフレット(成立に争いのない乙第80号証、その文中に「今より四百五十年餘年前文明十一年」とあること及び被告代表者尋問の結果により、遅くとも昭和15年以前に発行されたものと推認できる。)には、「刀都關町」と題する紹介記事の冒頭に、「関町は、古より『關は千軒鍛冶屋の名所』と唄はれた名刀の産地で、彼の『孫六』を始め關鍛冶の業物と惟然坊の風韻とは、歴史を飾る好箇の証左である。」と記載され、「關音頭」に「關の孫六三本杉は水もしたたる玉もちる、志津の三郎も関の鍛冶」と唄われていることが紹介されており、昭和60年10月岐阜県博物館編集発行の「美濃の刀剣」と題する小冊子(原本の存在及び成立に争いのない甲第136号証)に、「兼元」に関する項(同6頁)において、「世上『孫六』と呼ばれて名高い。兼元は通称が孫六で代々これを名乗っており」との記載があり、また、平成5年11月20日雄山閣出版株式会社発行、福永酔剣著「日本刀大百科事典」第5巻(原本の存在及び成立に争いのない甲第137号証)にも、「孫六」と題する項目(同73〜74頁)が設けられ、「濃州関鍛冶の通称。もっとも有名なのは兼元で、・・・榎本其角の句碑に、『さぞきぬた孫六屋敷志津やしき』、とある孫六も、兼元を指したものである。」と記載されていることが認められる。これによれば、「孫六」が関の刀鍛冶を代表する名前の一つであることは、本件商標の出願のはるか以前から世上一般に知られていたものと認められる。後二者の書籍の発行が本件商標の出願後であることは、その記載の内容に照らして、上記認定の妨げにならない。
この事実によれば、本件商標の出願前から、「孫六」が関地方に在住した刀匠「孫六兼元」の通称もしくは同人の作による刀剣を指す名称であること、あるいは、「孫六兼元」の通称とまでは知らなくとも、関地方に在住した著名な刀匠もしくはその作による刀剣を指す名前であることは、すでに広く知られていたことと認められ、したがって、一般には、「孫六」との名称から「関の孫六」の名称が想起されることが最も普通であると認められる。
そうすると、「関ノ孫六」の文字を縦書きした構成の本件商標から、審決認定のように、「室町後期の美濃の関の著名な刀鍛冶『孫六兼元』という人あるいは同人の作になる刀剣を想起させるもの」であれば、「孫六」からも、同じことが想起されることになり、本件商標と引用商標Aとは観念を同じくするものといわなければならず、また、そうである以上、両者における要部は「孫六」の部分にあるというべきであるから、両者は、その外観称呼においても類似するものというべきことになる。
被告は、「孫六」という名からは種々の人物等が想起され、特定の人物のみが連想され観念されるわけではないと主張するが、上記事実によれば、被告の主張を前提にしても、「孫六」という名から著名な「孫六兼元」が想起されることを否定することにはならないことは明らかである。
特許庁の登録例として、被告主張のとおり、指定商品が産業機械器具等に関するものにつき、「孫六」(登録第914437号)と「関孫六」(登録第1289324号)が、また、指定商品が食肉・卵等に関するものにつき、「まごろく」(登録第1714895号)と「関の孫六」(登録第1779666号)が、いずれも登録された事実があることは、挙示の乙号各証から認められるが、一方、原告主張のとおり、指定商品が酒類に関するものにつき、漢字で「孫六」と縦書きした横に小さく平仮名で「まごろく」と併記した商標(登録第488659号)と漢字で「関の孫六」と表した商標(登録第1641237号)が連合商標として登録された例があることが、挙示の甲号各証から認められ、これらによると、特許庁における登録例が一貫していないことが窺われるのみであって、その他の乙号各証から認められる登録例、審決例を含め、もとより上記判断を左右するものではない。
そして、本件商標の指定商品と引用商標Aの指定商品が類似の範囲にあることは明らかであるから、本件商標は、商標法4条1項11号の規定に違反してされたものといわなければならず、引用商標Aから生ずる観念についての検討を欠いたまま、両商標が類似するものとはいえないとした審決の判断は違法であり、引用商標Bとの関係で本件商標に登録無効事由があるかどうかについて判断するまでもなく、審決は取消しを免れない。
3 よって、原告らの請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
追加
別紙1<30109-001>別紙2<30109-002>(別添審決書の結論及び理由)審決結論本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由1.本件登録第1302812号商標(以下、本件商標という)は、「関の孫六」の文字を縦書きしてなり、第30類「菓子、パン」を指定商品として、昭和49年6月12日に登録出願、同52年10月3日登録、現に有効に存続しているものである。
2.請求人が本件商標の登録無効の理由に引用する登録第248636号商標(以下、「引用商標A」という。)は、「孫六」の文字を左横書きしてなり、第43類「カステーラ、飴、餅その他干菓子、蒸菓子」を指定商品として、昭和8年5月27日に登録出願、同8年11月17日登録、現に有効に存続しているものである。
3.請求人は、「登録第1302812号商標の登録を無効とする。」との審決を求め、その理由を以下のように述べ、甲第1号証乃至甲第86号証を提出している。
(1).請求人の所有する引用商標Aは、前記に表示したとおりの構成よりなり、
旧第43類に属する商品を指定商品とするものである。
これに対し、本件商標は「関の孫六」の文字を縦書きしてなるところ、構成中「関ノ」の文字部分は、日本国内はもとより世界的にも有名な刃物工業の町として知られた関市を表わすにすぎないから、「関ノ」の文字を含む商標をその指定商品に使用した場合には、この種商品の取引界においてはもとより、一般需要者間においても、該商品が単に「関市」で生産され、または販売されている商品を表わすものにすぎないものである。したがって、本件商標の要部は「孫六」の部分にあると認められるから、結局、本件商標は引用商標Aと類似し、かつ、互いにその指定商品が類似することは言うまでもない。
なお、「孫六」は、本来当地において広く知られ、かつ、親しまれている著名な刀鍛冶「孫六兼元」の略称であり、本件商標は著名な刀鍛冶の氏名に由来するから、称呼のみならず観念においても類似することは否定できない。
(2).次に、本件商標は、その商標登録出願の際、出願日前より商品「せんべい」について使用され、岐阜県関地方の名産品・土産品として需要者の間に広く認識された横書きの標章「孫六煎餅」と縦書きの標章「孫六煎餅」の両標章(以下、
両標章をまとめて、単に「引用商標B」という。)と類似する商標であって、かつ商品もまた類似するものである。
よって、本件商標は商標法第4条第1項第10号および同第11号の規定に該当し、同法第46条第1項の規定によってその登録は無効にされるべきである。
4.被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べている。
(1).本件商標と、引用商標A及び引用商標Bとは、何れも全く相違し各々別異で非類似の商標である。
因に、本件商標の構成文字中の「関」とは、岐阜県南部のほぼ中央に在る地区であり、昔は東山道の宿駅で関所が置かれていたことに由来する地方区域の「関」の謂である。
本件商標の「関ノ孫六」の文字は、その構成態様に徴し、(1)漢字に片仮名を交えた縦書きの「関ノ孫六」の態様に係るの外観を有し、(2)「セキノマゴロク」の7音による称呼を生ずるのを自然とし、(3)『地方区域としての「関」に所在(或いは住人)の孫六』の観念を有している。
ところが、請求人の提示に係る引用商標Bの「孫六煎餅」の文字は、その構成の態様に徴し、(1)4字の漢字を横書きまたは縦書きとした「孫六煎餅」の態様に係るの外観を有し、(2)「マゴロクセンベイ」の8音による称呼を生ずるのを自然とし、(3)『「孫六」という名の煎餅』の観念を有する。また、引用商標Aの「孫六」の文字は、その構成の態様に徴し、(1)2字の漢字を横書きとした「孫六」の態様に係るの外観を有し、(2)「マゴロク」の4音による称呼を生ずるのを自然とし、(3)「孫六」(人名)の観念を有する。
そこで、本件商標の「関ノ孫六」の文字と、引用商標Bの「孫六煎餅」の文字中の「孫六」の2文字並びに引用商標Aの「孫六」の文字とは、何れも全く相違し各々別異で非類似の商標であることは、例えば、「太郎」と「八幡太郎」、「太郎」と「阪東太郎」・・・・等の例示のように、何れも地名もしくは地域名の有無によって、前者と後者を明確判然と区別して認識し、称呼されているところの日常の慣習あるいは実験則である。
よって、以上の各実例のものとその事案の軌を一にすると目されるところの、本件商標の「関ノ孫六」の文字、即ち『「孫六」に地方区域としての「関ノ」を結合した「関ノ孫六」の文字』についての認識、観念およびその称呼の「セキノマゴロク」と、引用商標Bの「孫六煎餅」の文字についての認識、観念およびその称呼の「マゴロクセンベイ」並びに引用商標Aの「孫六」の文字についての認識、観念およびその称呼の「マゴロク」とは、何れも各々その観念称呼において明確に相違しているものであることは理の当然である。
そして、本件商標の「関ノ孫六」の文字と、引用各商標とは、いずれも各その外観においても明確に相違している。
上記のとおり、本件商標と請求人の提示に係る引用商標A及び引用商標Bとは、
各その外観称呼観念の何れの点においても全く相違し、それぞれ紛れるおそれのない別異の商標である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号および同第11号の規定に該当しないものである。
5.そこで、本件商標の登録を無効とすべき理由の有無について判断するに、本件商標は、前記の構成よりなるものであるところ、構成各文字は外観上まとまりよく一体的に表現されていて、しかも、全体をもって称呼してもよどみなく一連に称呼し得るものである。そして、これよりは室町後期の美濃の関の著名な刀鍛冶「孫六兼元」という人あるいは同人の作になる刀剣を想起させるものというべく、たとえ構成中の「関ノ」の文字部分が刃物工業の町として知られた「岐阜県関市」の「関市」を意味する語であるとしても、かかる構成においては特定の商品または商品の産地、販売地等を具体的に表示するものとして直ちに理解し得るものともいい難いところであるから、むしろ構成全体をもって一体不可分のものと認識し把握されるとみるのが自然である。
そうとすれば、本件商標は、その構成文字全体に相応して「セキノマゴロク」の称呼、「関の孫六」の観念のみを生ずるものと判断するのが相当である。
してみれば、本件商標より「マゴロク」の称呼、「孫六」の観念をも生ずるとし、そのうえで本件商標と両引用商標が類似する旨の請求人の主張は妥当ではなく、本件商標は、両引用商標の周知度にもかかわらず、非類似の商標といわなければならない。かつまた、本件商標をその指定商品について使用しても、これに接する取引者、需要者をして当該請求人の業務に係る商品であるかの如く商品の出所について混同を生じさせるおそれもないものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号及び同第11号の規定に違反して登録されたものでないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効にすべきでない。
よって、結論のとおり審決する。
裁判官 牧野利秋
裁判官 押切瞳
裁判官 芝田俊文