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関連審決 審判1991-757
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成14行ケ169審決取消請求事件 判例 商標
関連ワード 識別力 /  指定商品 /  ありふれた標章 /  3条1項5号 /  周知性 /  4条1項11号 /  類似性(類否判断) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  出所の混同 /  国内 /  継続 /  非類似 / 
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事件 平成 6年 (行ケ) 109号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1995/04/20
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が平成3年審判第757号事件について平成6年1月13日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告主文同旨2 被告(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
請求の原因
1 特許庁における手続の経緯 被告は、別紙1に示す構成からなり、指定商品を商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前、以下「旧施行令」という。)別表第11類「電気機械器具、電気通信機械器具、電子応用機械器具(医療機械器具に属するものを除く。)、電気材料」とする商標登録第220-833号(昭和60年12月11日商標登録出願、平成2年1月30日設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者であるが、原告は、平成3年1月11日被告を被請求人として商標登録無効の審判を請求し、平成3年審判第757号事件として審理された結果、平成6年1月13日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は、同年2月1日原告に送達された。なお、原告のための出訴期間として90日が附加された。
2 審決の理由の要点(1) 本件商標の構成、指定商品等は、前項記載のとおりである。
(2) 請求人(原告)は、次のとおり主張する。
請求人は、別紙2に示す構成からなり、指定商品を旧施行令別表第11類「無線電話機、その他本類に属する商品」とする商標登録第2002283号(昭和59年8月28日商標登録出願、昭和62年11月20日設定登録、以下「引用商標」という。)の商標権者である。
本件商標と引用商標は、ともに輪郭円内にローマ字「M」の一字を配した点において構成の軌を一にするものである。たとえ、細部においては若干の相違(円への内接の有無及び2つの山形部の下部輪郭)があるとしても、この相違点は、共通の全体的構成にわずかに変化を与えたものにすぎず、両商標を識別させるほどのものではない。
本件商標と引用商標は、ともに図形部分を構成している輪郭円と「M」文字部分とが全体として一体不可分のものとして認識され、しかも、「M」の文字は「エム」の称呼が採取できないほど図案化されているわけでもなく、図形化したローマ字一字の商標であっても称呼が生ずることがあるのは明らかであり、両商標は、共通に「マルエム」の称呼を生ずるものである。
したがって、本件商標と引用商標とは外観上類似し、かつ「マルエム」の称呼を共通にする互いに類似の商標であって、指定商品も同一であるので、本件商標は、
商標法4条1項11号に該当し、無効とすべきである。
(3) 被請求人(被告)は、次のとおり主張する。
本件商標と引用商標における輪郭円内の「M」文字は、それぞれ登録性を備えた識別力をもって表示されており、両図形が与える視覚的影響は大きく相違し、印象的に混同されることはない。両商標において、「M」文字の線の太さは圧倒的に相違するし、線の塗りつぶし部分も相違する。
また、両商標の図案化は相当に進んでおり、これら図形が「M」文字に由来することは想像できても、それは認識にとどまり、「エム」の称呼をあえて採用するに到らないものである。
(4) よって、本件商標と引用商標の類否について判断する。
本件商標は、別紙1に示す構成のとおり、細線の円輪郭の内に、肉太の線でローマ字の「M」字状の図形を内接し、下部を裾広がりに表してなるもので、全体として力強い印象を与えるものである。
これに対して、引用商標は、別紙2に示す構成のとおり、細線の円輪郭に、内接することなく、鋭角をもった2つの三角形状のもので、それらの頂点から下方の弧状部へ内側を8割方塗りつぶし、中央の接点が、左右の細線の両側よりやや高いところで接するようにして並列に結合してなるものであって、全体として繊細な印象を与えるものである。
したがって、両者は、外観上、前記した特徴により互いに明確に区別できる差異を有する。
次に、称呼観念上よりみるに、引用商標は、たとえローマ字「M」をモチーフにしたものであるとしても、このように図案化された構成にあっては、単なる幾何図形として認識され、これよりは、特定の称呼観念は生じないとみるのが相当である。そうすると、両者の称呼及び観念は、比較すべくもない。
してみると、本件商標と引用商標は、外観称呼観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似のものといわなければならない。
したがって、本件商標は、商標法4条1項11号に違反して登録されたものではなく、同法46条の規定により、その登録を無効とすべき限りでない。
3 審決を取り消すべき理由 審決の認定判断のうち、前項(1)ないし(3)は認めるが、(4)は争う。
審決は、本件商標と引用商標とは称呼上及び外観上類似し、商品の出所を混同するおそれのある商標であるのに、両商標は非類似であると誤って判断したものであって、違法として取り消されるべきである。
(1) 称呼について 審決は、引用商標について、たとえローマ字「M」をモチーフにしたものであるとしても、このような図案化された構成にあっては、単なる幾何図形として認識され、これよりは特定の称呼観念は生じないとし、そうすると、両商標の称呼観念は、比較すべくもないとする。
一般的に、図形の「丸」の中の文字を一字配した構成は、従来より(秘)を「マル秘」、(優)を「マル優」、(R)を「マルR」、(C)を「マルC」等のように称呼する慣習があり、図形の「丸」の中に文字が含まれている場合に、特定の称呼が生じないとすることは極めて不当である。
本件商標は、図形の「丸」の中にローマ字「M」を一字配した構成であり、一方、引用商標は、図形の「丸」の中に図案化したローマ字「M」を一字配した構成である。したがって、両商標からは、ともに「マルエム」という称呼が生じる。
原告は、当業者に対し、引用商標の称呼についてアンケート調査を行ったところ、47社中19社が引用商標を「マルエム」と呼んでおり、9社が「マルエム」と呼んではいないが、そのように称呼することが可能であるとの回答をしており、
両者を合わせれば28件(59・6%)に達する。
以上のように、本件商標と引用商標は、その称呼を同一とする類似する商標である。
(2)外観について 審決は、本件商標は、全体として力強い印象を与えるが、引用商標は、全体として繊細な印象を与え、両商標は、外観上、互いに明確に区別できる差異を有するとする。
しかしながら、本件商標が「全体として力強い印象を与える」ということも、あるいは引用商標が「全体として繊細な印象を与える」ということもない。しかも、
このような印象というのは、極めて抽象的な感性にすぎないのに、審決は、このことを主な理由として短絡的に両商標が非類似であると判断しており、不当である。
また、審決は、引用商標の構成を「2つの三角形状のもの」と認定しているが、
これは、ローマ字「M」の文字を図案化してある点をことさら無視した誤った認定である。原告の名称である「MOTOROLA」の頭文字「M」を図案化したところのローマ字「M」をことさら左右2つに分割し、しかもその各1つが三角形に似ているとの判断であるが、図案化したローマ字「M」を2分割する理由が存しない。
たとえ、本件商標が「全体として力強い印象を与える」ものであり、引用商標が「全体として繊細な印象を与える」ものであると仮定しても、直ちに両商標の外観非類似のものであるとする根拠とはならない。「力強い印象を与える」ものと「繊細な印象を与える」ものとの外観が類似することはあり得るからである。
両図形は、
イ.ともに図形の「丸」とローマ字「M」から構成される商標であって、
ロ.ともに図形の「丸」とローマ字「M」のみから構成される点、
ハ.ともにローマ字「M」が大文字である点、
ニ.ともにローマ字「M」の左右の縦線が裾広がりである点、
ホ.ともにローマ字「M」が二つの尖鋭頂部を有する点、
ヘ.ともにローマ字「M」の中央の「v」字状の頂点が左右の縦線の両端よりやや高いところにある点、
ト.ローマ字「M」の輪郭の傾斜がほぼ同一である点、
ヘ.ともに左右対称形である点、
ト.ともに図形の「丸」が一重の「丸」である点、
チ.ともに図形の「丸」に突起や切断が存在しない点、
において構成の軌を一にするものである。
たとえ、細部において若干の相違があるとしても、その相違点は、共通する全体的構成にわずかに変化を与えたものにすぎず、両商標を識別させるほどのものではない。したがって、取引上、相紛れるおそれのある外観を呈していることは明らかである。
原告がバッテリーチャージャー、プリント基板、半導体に使用している引用商標の使用態様と、被告が現にバッテリーチャージャー、プリント基板に使用している本件商標の使用態様をみれば、両商標の識別が困難であり、出所が混同されるおそれがあることが認められる。半導体では、商品が非常に小さいため、商標も非常に微小となり、両商標の識別は一層困難となる。
原告は、当業者に対し、本件商標と引用商標との外観類似性についてアンケート調査をしたところ、アンケート添付写真Aの商品については47社中30社が、
写真Bの商品については47社中37社が、写真Cの商品については47社中42社の回答者が、出所の混同を起こしている。この回答者の中には、オムロン、シャープ、ソニー、松下通信工業、東京電気、日本電気、富士通、東芝等の代表的当業者の他、中日新聞社のマスコミ関係者の回答も含まれる。なかには、「MOTOROLA社の海賊版であると思う」との回答もあった。
以上のように、本件商標と引用商標は、外観が類似することにより出所の混同を起こしている。
(3) 出所の混同についてイ.本件商標は、現実に携帯電話、通信機器、コンピュータ、AV機器等の電源及び半導体に使用されているのに対し、引用商標も、現実に携帯電話、通信機器、コンピュータ、ポケットベル、半導体等に使用されており、その使用される商品が極めて類似している。
ロ.本件商標の登録査定時は、平成元年9月14日である。
原告は、昭和37年に引用商標の使用を開始して以来、今日に至るまで日本国を含む世界100ケ国以上でこれを使用してきた。すなわち、引用商標は、上記登録査定時より27年も前から、日本国内において継続して使用されてきた。
ハ.本件商標の登録査定時以前における引用商標の広告宣伝の方法、内容等について述べる。
〈新聞〉 原告は、日本経済新聞、朝日新聞の全国版に、昭和62年から平成2年にかけて、本件商標の登録査定時以前に13回にわたり、全面企業広告「ありがとうシリーズ」を掲載し、その全広告において引用商標を表示した。この広告「ありがとうシリーズ」は、当時広くマスコミ、一般から注目を集め、89年度朝日広告賞部門賞を受賞した。
原告は、日経産業新聞、電波新聞等の専門紙上においても、頻繁に広告を掲載し、その全広告において引用商標を表示した。その内の幾つかにおいては、広告の中央に引用商標を大きく表示した。
また、原告の新製品が発表されるたびに、日本経済新聞、日経産業新聞、日刊工業新聞、電波新聞等によってその新制品が紹介され、掲載された新製品の写真から引用商標が認識できる。
さらに、平成元年当時、携帯電話の市場開放に関する「日米電気通信交渉」が連日報道され、引用商標が原告の携帯電話「マイクロタック」とともに頻繁にテレビ、新聞、雑誌で紹介された。
〈雑誌〉 原告は、日経エレクトロニクス誌上において、昭和46年以降見開き2頁ないし4頁にわたる製品広告を掲載し、特に昭和63年以降は毎号継続的に製品広告を掲載し、必ず引用商標を大きく表示した。同誌は、昭和63年1月から平成元年12月までの2年間に52号発行され、その発行部数は265万9917部(すなわち、1号当たり平均5万1153部発行)であり、当業者間において最も講読されている専門誌の一つである。
原告は、また、Computer Design、インターフェース、電子情報通信学会誌においても、同様の広告を掲載した。
原告のマイクロプロセッサは、本件商標の登録査定時以前からアップル社のパーソナルコンピュータ「マッキントッシュ」シリーズのCPUに利用され、原告のマイクロプロセッサには、必ず引用商標が表示されており、引用商標は、パソコンユーザーの間においても著名である。
原告は、郵政省通信政策局編集の電気通信時報にも引用商標を表示した全面企業広告を掲載した。
さらに、一般の雑誌に、原告の製品が記事や広告として取り上げられた例として、週刊ポストにおけるポケットベルの紹介記事、日経トレンディにおける無線機の紹介記事、日経アントロポスの89年流行製品としてのページャの紹介記事等があり、ここに引用商標が表示されている。
ニ.本件商標の登録査定時における原告及び原告の日本法人である「日本モトローラ株式会社」の営業規模について述べる。
同時点において、原告の資本金は12億4000万ドル(日本モトローラ株式会社のそれは140億7020万円、以下括弧内の数字が日本モトローラ株式会社についてのものである。)、年間売上高は82億5000万ドル、設立は1928年(昭和37年)、従業員数は約10万人(2382人)である。
原告は、本件商標の登録査定時において、既に米国大手企業100社の中で上位にあり、世界100ケ国でエレクトロニクス事業を営む企業として著名であった。
原告は、品質管理を通じて国際競争力の向上を目的としたマルコム・ボルドリッジ全米品質管理賞を1988年受賞し、その製品の品質は高く評価されており、このことは、新聞等を通じて日本国内でも広く報道され、当業者のみならず、一般需要者においても周知の事実である。
また、日本国内でも、原告の日本法人である「日本モトローラ株式会社」は、日本の18ケ所において事業を営んでおり、引用商標は、原告の製品である半導体、
通信機器、ポケットベル、携帯電話、データ通信機器に表示された。特に、半導体は、日本国内において、年間約6億個(平成元年度)が販売され、この全ての原告製の半導体の表面に引用商標が表示され、需要者の間において、引用商標によって原告製であることが識別されてきた。
ホ.このように、本件商標の登録査定時において、引用商標には、原告の業務上の信用が化体され、引用商標は、当業者のみならず、エレクトロニクス製品に敏感な人々の間においても周知、著名であった。
したがって、本件商標がその指定商品に使用されると、その出所が原告であると誤認され、出所の混同を生ずる。
請求の原因に対する認否及び被告の主張
1 請求の原因1、2は認めるが、同3は争う。
審決の認定判断は正当である。
2(1) 称呼について 原告は、一般に、「丸」の中に一字を配した構成は、「マル秘」、「マル優」、
「マルR」、「マルC」のように称呼する慣習があるとするが、これらの例は、社会全体が共通して便宜的に使用する略称にすぎず、排他性を持つ商標権の商標とは本質的に相違する。
引用商標における「丸」図形の部分は、商標法3条1項5号に規定する「きわめて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標」に該当し、この部分からは何の称呼も生じない。
また、ローマ字「M」を図案化したM字様図形は、一般社会が共通して使用する「M」の文字ではなく、M字様図形にすぎず、「エム」の称呼を生じさせない。敢えて称呼するならば、「M字様の単なる幾何図形商標」であるが、これが称呼として不便であるなら、何の称呼も生じないといわざるを得ない。仮に、原告が引用商標を「エム」ないし「マルエム」と呼んでいるとしても、それは、社会共用文字である「M」字の発音である「エム」、あるいは、これに円記号の通称「マル」を加えて「マルエム」と発音しているだけであり、商標の本質としての称呼とは異なるものである。
本件商標も、極めてありふれた図形である「丸」の中にローマ字「M」を配しているのではなく、「丸」の中に唯一識別力を有するM字様図形を配しているのであり、本件商標からも、「マルエム」なる称呼は生じない。
円内にM字様図形を使用した登録商標は、他にも多数存在し、これらの商標からいずれも「マルエム」なる称呼が生ずるとすれば、混乱が避けられず、正しいローマ字「M」の文字を丸で囲んだ記号で単にグレード表示として使用するにすぎない標章にまで排他権が及びかねないことになる。
原告の主張を貫くと、「正方形」の中にM字様図形を配してなる商標より「カクエム」の称呼が生じ、「菱形」の中にM字様図形を配してなる商標より「ヒシエム」の称呼が生じ、M字様図形のみからなる商標からは「エム」の称呼が生じることになり、該「カクエム」、「ヒシエム」、「エム」の登録は、既に同種の商標の登録が存する場合には認められないはずであるが、この種の商標は、多数登録されている。また、M字様図形を含み、原告の主張からすれば「エム」の称呼が生するはずの商標も、多数登録されている。
以上のことから、審決の、両商標は単なる幾何図形として認識され「特定の称呼は生じない」とする認定は相当であり、「両者の称呼および観念は比較すべくもない」との判断は、正しいのである。
(2) 外観について 審決が、本件商標を「全体として力強い印象を与える」ものとし、引用商標を「全体として繊細な印象を与える」ものとしたことは、正当な認定である。
審決が、引用商標を「2つの三角形状のもの」と認定したことは、正にそのとおりであって、仮にローマ字「M」を図案化したものであるとしても、少なくとも本件商標よりは余程「M」文字から離れている。原告は、「図案化したローマ字「M」を二分割する理由が存しない」と述べるが、そもそも「図案化したローマ字」なるものはなく、ローマ字を図案化すれば、それはローマ字ではなく単に図形であり、図形を評価するに際してある部分を2分割するのは便宜上しばしば採られる手法である。
原告は、仮に、「本件商標が全体として力強い印象を与えるもの」、「引用商標が全体として繊細な印象を与えるもの」であったとしても、外観が類似することはあり得ると述べるが、同調できない。両商標のように、称呼を伴わない図形商標の類否を判断する場合に、外観から受ける印象は最も重要な要素であり、印象を同じくしない商標の外観が類似することがあるとは思えない。
原告は、両商標の構成について、両商標は、ともに図形の「丸」とローマ字「M」からなる旨述べているが、図形の「丸」が構成部分となっていることは、そのとおりであるが、本件商標及び引用商標のどちらにもローマ字「M」は存在せず、「M」文字をモチーフとした「M字様幾何学的図形」が存するのみであり、両商標において識別力を有する図形部分は該「M字様幾何学的図形」である。
この「M」字様幾何学的図形」が、
・左右縦線が末広がりであり、
・2つの尖鋭頂部を有し、
・中央の「v」字状の頂部がともに左右の縦線の両端よりやや高いところにあり、
・縦線の傾斜がほぼ同一であり、
・さらに左右対称である、
ことについては、被告は、認めるにやぶさかではない。
しかし、これらの点が共通するからといって、両商標が構成を一にするとはいえない。以上に列記した点は、図形がM字様である限りほとんど必然的なものであり、両商標を対比したことにならならないし、審決があげている引用商標の特徴に全く触れていないからである。
また、原告は、「細部において若干の相違があるとしても」、全体的構成にわずかに変化を与えたものにすぎないと主張するが、その細部こそが両商標の対比に欠くべからざる点なのである。
審決は、引用商標の特徴として、
・細線の円輪郭に内接することなく、
・2つの三角形状のものを並列に結合し、
・それらの頂点から下方の弧状部へ内側を8割方塗りつぶし、
・左右の細線よりやや高いところで接するようにした点をあげている。このうち、「内接することなく」、「2つの三角形状のもの」、
「内側を8割方塗りつぶし」、「左右の細線」の点が重要であるが、一層重要なのは、「内側を8割方塗りつぶし」の点であり、これこそが引用商標に識別力を与える唯一の特徴であり、この点を抜きにして引用商標と本件商標とを対比することは無意味である。
なお、前記審決の認定を補足すると、本件商標と引用商標とでは、線の太さが明らかに異なることが認められる。この相違が、審決の認定の一要因となっていることは容易に認められるところである。
(3) 出所の混同について 原告の主張のうち、イ.のうちの本件商標が現実に使用されている商品については認め、ロ.のうちの本件商標の登録査定時が平成元年9月14日であることは認め、ハ.のうちの引用商標が広告の中央に大きく表示されたものがあることは認めるが、イ.ないしホ.のその余の事実は不知、その主張は争う。
原告は、引用商標が著名であり、この取引の具体的実情を考慮すれば、引用商標と本件商標とは類似する旨主張する。
確かに、原告の名称が取引者の間でよく知られていること、及び原告が引用商標を使用していることは、被告も認めるにやぶさかではない。
しかしながら、原告の提出した証拠からしても、引用商標は、「MOTOROLA」をデザインした文字とともに、使用されているものが殆どであり、引用商標が単独で使用されている例は極めて少ない。しかも、引用商標が広告の中央に大きく表示されたものがあるといっても、それは、いずれも昭和63年11月11日の日経産業新聞に掲載されたもので、わずか1日のことである。
引用商標が周知であるといい得るためには、引用商標がある程度の時間をかけて宣伝広告される必要がある。特に、引用商標は、M字様図形であり、何ら弥呼を生じない商標であることから、周知性を獲得するための宣伝広告の必要性は、称呼の生じる商標に比して高いというべきである。
そして、原告の名称は、取引者間でよく知られていることから、引用商標が「MOTOROLA」の文字とともに用いられる場合には、需要者の関心は「MOTOROLA」をデザインした文字に向かい、引用商標には、ほとんど関心が向かないというべきである。すなわち、引用商標は、単独では、未だ著名であることは勿論、周知であるとも認められないのである。
(4) 以上の如く、本件商標と引用商標とは、互いに取引者及び需要者をして混同を生じさせるおそれのない非類似の商標である。
証拠関係(省略)
理 由第11 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(審決の理由の要点)は、
当事者間に争いがない。
2 本件商標は、別紙1に示す構成のとおり、細線の円輪郭の内に、肉太の線で欧文字の「M」字状の図形を内接し、下部を裾広がりにしてなるものである。
引用商標は、別紙2に示す構成のとおり、細線の円輪郭の内に、内接することなく、欧文字の「M」字状の図形を配し、その図形は、下部を裾広がりにしてなるものであり、2つの頂点から下方の弧状部へ「M」字状の図形の内側を8割方塗りつぶしてなるものである。
3 原告は、本件商標と引用商標とは称呼において類似する商標である旨主張するので、まずこの点について検討する。
(1) 一般に、商標が円輪郭と、円輪郭内に配した欧文字、漢字、仮名文字の一字またはこの文字を図形化したもののみから構成されている場合、取引者、需要者は、その円輪郭と文字との組合せに着目して「マル」の次にその文字を付して称呼することが多いことは、当裁判所に顕著な事実である。
そして、本件商標は、前記のとおり円輪郭内に欧文字M状の図形を配した構成であるから、取引者、需要者には、「マルエム」と称呼されるというべきである。
被告は、本件商標は、「丸」の中に唯一識別力を有するM字様図形を配しており、「マルエム」なる称呼は生じない、円内にM字様図形を使用した登録商標は他に多数存在し、これらの商標からいずれも「マルエム」なる称呼が生ずるとすれば取引が混乱する旨主張する。
しかしながら、同一指定商品について円輪郭内にM字様図形を配した商標が他にも登録されているという一事をもって、前記判断が左右されるものではなく、また、被告が引用する乙第2号証の1ないし40を詳細に検討すると、これらの商標は、単なる円輪郭とはいえない図形にM字様図形を配したものか、M字様図形とは明確に判別できないもの、ないしはM字様図形に他の図形を組み合せたものであって、本件商標とはその構成を異にしているから、被告の主張は採用できない。
(2) 一方、引用商標も、前記認定のとおり、円輪郭内にM字様図形を配した商標であるが、そのM字様図形は2つの頂点から下方の弧状部へM字様図形の内側を8割方塗りつぶしてなるものであるから、その構成自体から直ちに、取引者、需要者が引用商標に接した場合「マルエム」と称呼するとは判断し難い。
しかしながら、当該商標からどのような称呼が生ずるかは、具体的取引状況に基づいて判断すべきところ、本件商標がその商標登録出願の日前の商標登録出願に係る引用商標に類似する商標であるかの判断は、本件商標の登録査定時を基準時をすべきであり、本件商標の登録査定時が平成元年9月14日であることは、当事者間に争いがないから、この時点における具体的取引状況に基づいて引用商標がどのように称呼されていたかについて検討すると、次の事実が認められる。
イ.原告は、昭和37年に「MOTOROLA」の頭文字の「M」に由来してMに〇を付した引用商標の使用を開始して以来、今日に至るまで日本国を含む世界100ヶ国以上でこれを使用してきた。すなわち、引用商標は、上記本件商標の登録査定時より27年も前から、日本国内において継続して使用されてきた。(成立に争いのない甲第8号証、同第88号証、弁論の全趣旨)ロ.本件商標の登録査定時以前における引用商標の広告宣伝の方法、内容等をみる。
〈新聞〉 原告は、日本経済新聞、朝日新聞の全国版に、昭和62年7月から平成2年4月にかけて18回にわたり、全面企業広告「ありがとうシリーズ」を掲載し、そのうち本件商標の登録査定時以前の掲載は13回であり、その全広告において引用商標を表示した。(成立に争いのない甲第9号証、弁論の全趣旨) 原告は、日経産業新聞、電波新聞、電波タイムズ、輸送経済等の専門紙上にも、
前記登録査定時までに頻繁に広告を掲載し、その全広告において引用商標を表示した。(成立に争いのない甲第10ないし第29号証、一部当事者間に争いのない事実) また、日本経済新聞、日経産業新聞、日刊工業新聞、電波新聞、電波タイムズ等には、引用商標を認識することができる写真付きで原告の新製品の紹介記事が掲載された。(成立に争いのない甲第30ないし第35号証)〈雑誌〉 原告は、日経エレクトロニクス、Computer Design、インターフェース、電子情報通信学会誌、電気通信時報等に、昭和46年以降引用商標を表示した製品広告を掲載した。(成立に争いのない甲第37ないし第74号証) また、週刊ポストにポケットベルの紹介記事(昭和58年10月)、日経トレンディに無線機の紹介記事(昭和63年12月)、日経アントロポスに89年流行製品としての移動通信機ページャの紹介記事(平成元年1月)等が掲載され、記事中に引用商標が表示されている。
(成立に争いのない甲第85ないし第87号証)ハ.本件商標の登録査定時における原告及び原告の日本法人である「日本モトローラ株式会社」の営業規模についてみる。
原告の資本金は12億4000万ドル(日本モトローラ株式会社のそれは140億7020万円、以下括弧内の数字が日本モトローラ株式会社についてのものである。)、年間売上高は1988年度82億5000万ドル、設立は1928年(昭和37年)、従業員数は約10万人(2382人)であって、米国大手企業100社の中で上位にあり、世界100ケ国でエレクトロニクス事業を含む企業として著名であった。
また、日本国内でも、原告の日本法人である「日本モトローラ株式会社」は、全国18ケ所に事業所を有し、半導体、通信機器、ポケットベル、携帯電話、データ通信機器等の原告製品を販売し、特に、半導体は、日本国内において、相当なシェアをもって販売され、この全ての原告製品に引用商標が表示され、取引者、需要者は、引用商標によって原告製品であることを識別し取引してきた。(成立に争いのない甲第88ないし第92号証、同第97、第98号証及び証人【A】の証言) 以上のイないしハの事実からすると、本件商標の登録査定時において、引用商標は、原告の製品に付される商標として、取引者、需要者の間において周知、著名であったということができる。
被告は、引用商標は、「MOTOROLA」の文字とともに用いられる場合が多く、原告の名称が取引者間でよく知られているために、需要者の関心は「MOTOROLA」をデザインした文字に向かい、引用商標には、ほとんど関心が向かない旨主張するが、取引者、需要者間において、引用商標が関心を持たれていることは、前示認定のとおりであって、これを覆すに足りる証拠はない。
そして、引用商標は、前示のとおり、細線の円輪郭の内に、欧文字の「M」字状の図形を配してなるものであり、かつ、原告の名称が「モトローラ インコーポレーテッド」で、その日本法人の名称が「日本モトローラ株式会社」であって、頭文字が「エム」と捉えられるものであり、そして、前判示のとおり、原告は、昭和37年に引用商標の使用を開始して以来、携帯電話、通信機器、コンピュータ、ポケットベル、半導体等に引用商標を付して、日本国内において販売し、広告をしてきたものであって、引用商標は周知、著名であり、このような結果、証人【B】、同【A】の証言及び同証言により成立の認められる甲第93号証の1ないし10、14ないし17、19ないし23によれば、引用商標は、本件商標の登録査定時において、日本国内において、多くの取引者、需要者の間で「マルエム」と称呼されるに至っていたことが認められる。
したがって、以上認定の具体的取引状況のもとにおいて、引用商標からは「マルエム」の称呼が生じるというべきである。
(3) このように、本件商標と引用商標は、いずれも「マルエム」の称呼が生ずるものであり、両商標が同一商品に使用されるとき(前記認定事実によれば、本件商標の指定商品に引用商標の指定商品が含まれることは明らかである。)は、商品の出所の混同を生じるから、両商標は称呼を共通にする類似の商標であるということができる。
4 そうすると、両商標は、外観称呼観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似のものとした審決の認定判断は誤りであり、その誤りは審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、その余の点について判断するまでもなく、審決は、違法として取消しを免れない。
よって、原告の本訴請求は、理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担
について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 竹田稔
裁判官 関野杜滋子
裁判官 田中信義